【冬物語第三章・・悪意の門⑨】
感謝を伝える時に、どんな言葉で表現しようか。
私はそこで迷ってしまう、感謝とは言葉で表現し難いのだろうか。
私は最高の感謝の表現に触れた事がある、その想いは相手の心に伝えていた。
愛に返すものは愛しかないと叫んでいた、そんな温もりの絵だった。
目の前に現れた、幼い自分の心を助け続けたくれた馬車。
マリはじっとその馬車の扉の、銀の取っ手を見ていた。
マリは意を決するように取っ手を握り、かぼちゃの馬車の扉を開けた。
そして嬉しそうな笑顔になって、馬車に乗り込んだ。
私も沙紀を馬車に乗せ、その後に乗り込んだ。
馬車の中は想像よりも広く、対面式の座席に大人6人がゆっくりと座れた。
後部にも大きなソファーがあり、大人が9人は乗れる設計だった。
アンティークなソファーと装飾に飾られた車内に、趣のあるランプに火が灯されていた。
室内はランプの幻想的な明かりで、床には厚みのある赤い絨毯が敷き詰められていた。
マリは嬉しそうな笑顔で沙紀を向かいに座らせて、私はマリの横に座った。
その時に馬車が少し揺れて、前面の覗き窓から猫の顔が見えた。
その猫はモーニングを着て正装をして、笑顔で車内の沙紀を見た。
「沙紀姫様・・どこに向かいましょう?」と猫が仰々しく言った。
「湖にお願いしますね」と沙紀が笑顔で返した。
「かしこまりました」と猫が返して、鞭を入れる音が響いた。
馬車はゆっくりと動き出した、エンジンでない生命の動きを感じていた。
馬の蹄の音が響き、徐々に速度が上がり始めた。
馬車の乗り心地は快適で、マリは車窓から見える風景を楽しんでいた。
『沙紀・・猫運転士の名前は?』と私は沙紀に笑顔で聞いた。
「あっ!・・無かった、長靴を履いた猫ちゃんだよ・・小僧ちゃんが命名してね、得意でしょ」と沙紀に笑顔で返された。
『了解です・・素敵なのを考えよう』と笑顔で返した。
「沙紀のこの世界は、天文台の平原までなの?」とマリが私に聞いた。
『うん・・天文台の平原の先が海だから、俺の海に繋げたんだよ』と笑顔で返した。
「でも・・湖のずっと奥の、ペプラの神殿まで持って行ったから・・湖の奥は広いでしょ?」と沙紀が私に笑顔で言った。
『ペプラの神殿?・・まだ見てないや、どんな場所なの?』と笑顔で返した。
「私も行った事は1回しかないの・・怖い砂漠を通って行くから、1人じゃ怖かったの」と沙紀が真顔で返してきた。
「沙紀の描いた場所じゃないの!」とマリが驚いて聞いた。
「神殿は私が描いたんだけど・・そこに行くまでの場所は、勝手に入ったの」と沙紀がマリに返した。
「勝手に入ったの・・神殿はどこで見たの?」とマリが真顔で聞いた。
「天文台を見た時にだよ・・由美子ちゃんの森の奥に有ったんだよ。
最初・・由美子ちゃんは、あの天文台にいたんだよ。
でもね・・沢山の女性が入ったから、あのお婆さんが慌てて動かしたの。
湖の下の部屋に由美子ちゃんを動かして、天文台を隠したんだよ。
天文台を隠したのが、ペプラの神殿の中なの・・門番さんがそう言ったの。
ペプラの神殿を守れって、話してたよ・・ナギサさんが浜に上がった時に。
ナギサさん・・神殿の側に上がったの、私は見てたの。
由美子ちゃんが神殿に動いたから・・だから由美子ちゃんを探したの。
そしたら・・湖の下に連れて行かれたから、湖の方に行ったんだよ。
でもね・・自分の世界に神殿が無かったから、ペプラの神殿を描いたの。
おとぎの国に神殿を作りたくて、ペプラの神殿を描いたんだよ。
素敵な神殿だったから、欲しくなったの・・凄く大きな神殿だったから。
そしてこの国に神殿を描いたら、周りに勝手に砂漠が出来たの。
怖い悪魔がいるんだよ・・砂嵐を起こす悪魔なの、だから私は行けないの。
小僧ちゃんなら行けるよね、素敵な神殿だから・・今度見てね」
沙紀は嬉しそうに、少し自慢げな笑顔で言った。
『うん、楽しみだな~・・マリと見に行くよ』と私は必死に平静を装って笑顔で返した。
マリも沙紀を心配させないように、必死に笑顔を出していた。
『ねぇ、沙紀・・ペプラの神殿は、どっちの方向なの?』と笑顔で聞いた。
「んっとね~・・そうだ、猫ちゃんなら知ってるよ・・猫ちゃんに聞いてね」と沙紀が笑顔で言った。
『そっか・・さすがだね、長靴を履いた猫ちゃん』と笑顔で返した。
馬車が湖の畔で止まり、私は先に降りて沙紀を抱いて降ろして、マリの手を引いた。
マリが沙紀と湖に行くのを見送って、私は運転席の猫の横に座った。
猫は私を見て、微妙な笑顔を出した。
猫は上下燕尾服を着ていたが、靴だけは黒い長靴を履いていた。
体系は人間に近い感じで、手も足も長く真直ぐに伸びていた。
『何だよ~・・警戒するなよ~』と私は猫に二ヤで言った。
「いえ・・警戒なんてしてません・・噂の男性に会ったので、緊張してました」と猫がウルで言った。
『噂の男?・・・あぁ、サタン小僧だね』と二ヤで返した、猫はウル継続で頷いた。
『噂を信じないの・・良い名前付けてやろうと思ってたのに~』と二ヤ継続で言った。
「おいらに名前ですか!」と猫は驚いて言った。
『やっぱり若いんだよね・・俺にはその言葉使いで良いよ、知ってるだろうけど・・ここは俺の世界だからね』と笑顔で返した。
「良いの?・・沙紀姫様の前では、頑張って綺麗な言葉を使ってたんだよ」と猫が嬉しそうな笑顔で言った。
『沙紀姫様がいる時だけは、言葉に気を付けてね。
沙紀姫様の夢を壊さないように・・それ以外は普通で良いよ。
俺もその方が話し易いし、手伝って欲しい事もあるしね』
私は笑顔で言った、猫も笑顔で頷いた。
『それで・・猫は自分で名前を考えてないの?』と私は二ヤで聞いた。
「それはないけど・・憧れの名前なら有るよ」と猫も笑顔で返してきた。
私は楽しくなっていた、猫との会話が哲夫との会話のようだったのだ。
『教えろよ・・猫が憧れる名前を』と笑顔で聞いた。
「笑わない・・笑わないいって約束する?」と猫がウルで言った。
『約束するよ・・絶対に笑わないよ』と必死に真顔で返した。
「俺が憧れるのは・・沙紀姫様のお母様が読んでくれた物語に出てくる。
素敵な奴の名前なんだ・・そいつは凄く優しい奴で、好きになったんだよ。
沙紀姫様は、その物語に興味が無くて作らなかったんだ。
だから俺は自分を、その名前で呼んでるんだ・・素敵な名前なんだよ」
猫は楽しそうに回想しながら、私に笑顔で言った。
『良いじゃないか~・・それで、その名前は?』と私は笑顔で促した。
「ハチ公・・素敵な名前だろう、優しい奴なんだぜ」と猫は強く言葉にした。
私は笑いをこらえるのに必死だった、猫が憧れる名前が、犬の代表であるハチ公だったから。
『素敵だな~・・俺もハチ公物語なら知ってるよ・・よし、お前は今からハチ公だね・・決定』と私は必死に笑いをこらえて、笑顔で言った。
「良いの?・・少し変えなくて」と猫が驚いて聞き返した。
『良いんだよ・・ハチ公は実在したんだから。
誰かが作った物語じゃないんだ・・本当にいたんだから良いんだよ。
ハチ公みたいに成りたいって思って、その名前を貰うのなら良いんだ。
だからお前も、ハチ公の名に恥じないように頑張れよ。
今から・・お前はハチ公、勇気と強い意志を持つ・・素敵な猫だよ』
私は強い瞳に変わった猫を好きになって、笑顔で強く言葉にした。
「ありがとう・・絶対に頑張るよ、ハチ公みたいな猫になるよ」とハチ公が笑顔で返してきた、私も笑顔で頷いた。
その時に数百羽の子鳥達が、湖の方から飛び立った。
夜の闇の中でも、その小鳥たちの美しい色彩は確認できた。
「それで・・どんな手伝いをすれば良いの?」とハチ公も小鳥を見ながら言った。
『ペプラの神殿に行ってみたいんだ・・道案内をよろしく』と私は二ヤで言った。
「ペプラか~・・あの鉄で出来てる乗り物に乗せてくれるなら・・良いよ」とハチ公が二ヤで返してきた。
『交渉成立だな・・俺は小僧だよ、鉄の乗り物の操縦方法も教えるよ』と笑顔で返した。
「約束だよ!・・絶対だよ」とハチ公が笑顔で言った。
『もちろん・・約束だよ』と笑顔で返して右手を出した、ハチ公も笑顔で強く握り返してきた。
私は又も沙紀の描写力に驚かされていた、ハチ公の手は厚みがあり温かかった。
人間のような5本指の手の平には、肌色の柔らかい肉球が存在していた。
私は笑顔でハチ公に別れを告げて、湖の方に歩いていた。
湖面の方から、小さな何かが近づいてきた。
私は目を凝らしてその姿を見て、自然に笑顔が出ていた。
小さな生物は人の形をしていて、全身が薄青く発光していた。
背中から透明の羽が生えていて、地上50cm位の場所を飛んでいた。
白鳥の湖を踊る、女性バレエダンサーのような青い衣装を着て、右手に小さなステッキを持っていた。
身長は15cm程で、ブロンドで可愛い少女の顔をしていた。
『素敵な君は誰でしょう?』と屈んでその小さな少女に声をかけた。
「私は妖精のスーちゃんです」と羽を動かさずに飛んで、私の顔の前で笑顔で言った。
『なるほど~・・妖精のスーちゃんは、フーの先生かな?』とスーを右腕に乗せて聞いた。
「はい・・教育係りなので~す・・あと2人の妖精がいますよ」と笑顔で返してくれた。
『それは楽しみですね~・・沙紀姫の場所まで行きましょう』と笑顔で返して、スーを肩に乗せて湖に歩いた。
湖に近づくと、マリの笑顔と沙紀の笑顔に挟まれた、2人の妖精が見えてきた。
「スー・・どこに行ってたの?」と1人の妖精がスーに言った。
「ごめんね、シー・・迷子になった」とスーがウルで返した。
「もう・・スーは方向音痴なんだから」ともう1人の妖精が二ヤで言った。
「ごめんね、サー」とスーがウルウルで謝った。
私はニヤニヤでその会話を聞きながら、沙紀の横に座った。
「紹介しますね・・小僧ちゃんです」と沙紀が笑顔で言うと、スーが慌てて沙紀の方に飛んだ。
「サタン!」とシーがウルで言って、サーがステッキを私に向けた。
私はウルウルで3人を見た、マリが1人で爆笑していた。
「サタンじゃないでしょ・・この世界の王子様だよ」と沙紀が笑顔で言って。
「王子って感じじゃないよね~・・サタンだよ~」とマリが笑いながら言った。
私はマリにウルウルで対抗して、沙紀は妖精達に優しく説明をしていた。
妖精達は沙紀の話で安心したのか、笑顔で私の方に飛んできた。
「私はサーです・・フーの健康管理担当です」とサーが私の前に飛んできて、笑顔で言って頭を下げた。
「私はシーです・・フーのしつけ担当です」とシーが私の顔の前で言って頭を下げた。
『よろしくね・・それで3人揃うと、何ていうチームなの?』と笑顔で聞いた。
3人の妖精は顔を見合わせて、私をウルで見た。
『了解・・チーム名を考えとくよ、可愛いのをね』と笑顔で言った、3人の妖精は笑顔で頷いた。
「それでは・・フーの元に行って来ます」とサーが笑顔で言った。
『よろしくね・・また明日』と笑顔で返すと、3人が笑顔で頷いて飛び立った。
「今日はこの位だね・・小僧ちゃんが覚えないといけないからね」と沙紀が私に笑顔で言った。
『OK・・ありがとう、沙紀・・猫の名前は決まったよ』と笑顔で返した。
「さすがに早いな~・・何かな~?」とマリが二ヤで聞いた、沙紀は私を期待の笑顔で見た。
『本人が憧れてる名前を付けたよ・・道案内の猫は、ハチ公だよ』と笑顔で言った。
マリは凍結して、沙紀は嬉しそうな笑顔になった。
「ハチ公ちゃんが憧れなんだね、素敵な猫ちゃんだよね」と沙紀が笑顔で言った。
『そうだよね・・沙紀のお母さんが読んだ物語で、好きになったんだって』と笑顔で沙紀を抱き上げて、必死に笑いをこらえるマリを二ヤで見た。
「素敵な猫だ~・・どうせなら、ポチに憧れれば良かったのに~」とマリが呟いて笑っていた。
「マリちゃん・・今日少し変だよね、嬉しいのかな~?」と沙紀が私の耳元に囁いた。
『マリは嬉しいんだよ・・だからあんな笑顔が出るんだよ』と私も沙紀の耳元に囁いた。
「うん・・そうだよね」と沙紀もマリを見て笑顔で言った。
『マリ・・帰ろう、沙紀を寝かせないと』と笑顔で言った、マリも笑顔で頷いた。
私が沙紀を抱いて、マリが楽しそうに私の横を歩いた。
かぼちゃの馬車の側で、ハチ公が白馬に湖の水を飲ませていた。
「ハチ公・・私はマリ、以後よろしく」とマリはハチ公に笑顔で言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします・・マリお嬢様」とハチ公は笑顔で頭を下げた。
「良い名前を貰ったね、頼りにしてるよ」とマリは笑顔で返した。
「頑張って、ご期待に応えます」とハチ公も笑顔で返した。
私は沙紀を馬車に乗せ、マリを乗せて乗り込んだ。
ハチ公はゆっくりと入口を目指した、マリは嬉しそうに車窓からの景色を見ていた。
沙紀は私に抱かれて眠りに落ちていた、私は沙紀の深い眠りを感じて一安心していた。
「小僧・・神殿は隠しておこうな、2人で調べるまで」とマリが外を見ながら言った。
『そうだね・・マリ、俺も何か楽しいよ・・沙紀の世界は素敵だね』とマリに笑顔で言った。
「お前の1000倍以上、私は楽しいよ・・本当に嬉しいんだよ」とマリは夜空に囁いた。
沙紀の描いた夜空には、無数の星が輝いていた。
それを見つめるマリの横顔は、月光に照らされて幻想的な美しさだった。
沙紀の世界で見せる女性達の喜びは、男の私には理解できない感情だった。
少女がおとぎ話に憧れる、その感情を理解しきれないでいた。
常に沈着冷静なマリが、心から楽しんでいた。
私はマリの少女らしい本質を垣間見ながら、楽しい気分で過ごしていた。
馬車が管制室の入口に着いて、私とマリは笑顔でハチ公に別れを告げた。
管制室でマリを見送って、私はフーの部屋に向かった。
沙紀をフーのベッドに寝かせて、妖精達の可愛いベッドだけを作った。
『明日、素敵な部屋を作るよ・・今夜はこれで我慢してね』と言葉で言って映像を切った。
私が目を開けると、沙紀は私の腕の中で熟睡していた。
私は笑顔で沙紀の手を握り、温度のチェックをしていた。
リビングからは、女性達の楽しそうな声が微かに聞こえていた。
リンダの楽しそうな声を確認して、私は自然に眠りに落ちていた。
翌朝、朝陽で目覚めた。
私はユリカのベッドルームでは、朝陽の目覚ましがお気に入りだった。
沙紀の温度と鼓動をチェックして、カーテンを閉めて間接照明だけで床を照らした。
リビングに向かいストーブに火を入れて、洗面所に向かった。
歯を磨き顔を洗って、キッチンに入った。
リンダが喜ぶと思い、純日本風の朝食にした。
ご飯を炊いて、鯖の切り身が有ったので塩焼きにした。
卵を焼いて、豆腐と揚げと大根の味噌汁を作った。
彩で野菜サラダを用意して、納豆を混ぜていた。
沙紀が起きて来て、キッチンを覗いたので、私は笑顔で抱き上げてカーディガンを着せた。
そして洗面所で沙紀の歯を磨くのを見て、高級洗顔石鹸で沙紀の手に泡を作らせた。
沙紀は驚きながら泡を作って、楽しそうに顔を洗った。
私は感心して沙紀の行動を見ていた、全てに挑戦してきた沙紀の足跡を見ていた。
出会った頃は何も出来なかった少女が、4ヶ月でこれほどまでに成長する姿を見て嬉しかった。
私は沙紀を連れて、リビングに入って。
温かい場所に沙紀を座らせた、そしてユリカの用意していた小さなスケッチブックと色鉛筆を渡した。
沙紀は嬉しそうに受け取って、スケッチブックを開いた。
私は沙紀が淋しくないように、TVをつけてキッチンに戻った。
朝食の準備をしてると、女性達が次々に起きてきた。
沙紀は夢中で何かを描いていた、私はテーブルに5人分の朝食を用意した。
そしてリビングのテーブルに、私と沙紀の朝食を運んだ。
私は沙紀の絵を見て凍結していた、洋を描いていたのだ。
短時間で大きな笑顔の洋の顔を描いて、淡い色彩で色付けをしていた。
薄く色を塗りながら、生命力を吹き込んでいた。
私は慌てて蘭の姿を確認した、蘭は洗面所のようだった。
女性達は絵を夢中で描いている、沙紀の集中を乱したくないのか、絵を覗く事はなかった。
私は朝食を並べながら、沙紀の仕上げの色塗りを見ていた。
沙紀は最後に光に翳し絵をチェックして、納得したようにサインを入れた。
私が笑顔で見てると沙紀が私を見て手を出した、私は笑顔で優しく握った。
「蘭ちゃんに・・明日、渡してって・・きっと仲直り出来るから、沙紀はそう思ってるよ」と沙紀が伝えてきた。
私は感動の中にいた、沙紀の感性は全てを超えて成長していた。
沙紀は蘭の兄に贈ったのだ、弟の笑顔にメッセージを込めて贈った。
兄妹と言う関係に憧れる沙紀が、仲直りをして欲しいとの願いを込めて描いたのだ。
そして沙紀は私にスケッチブックを渡して、和室に向かい紙のケースを持ってきた。
私は朝食を笑顔で自慢する蘭を呼んだ、蘭は満開笑顔で近づいてきた。
私はスケッチブックから、洋の絵を抜き取り裏を向けて蘭に差し出した。
『沙紀からの贈り物だよ・・蘭に明日、お兄さんに渡して欲しいって・・きっと仲直り出来るからって』と蘭に笑顔で言った。
蘭は驚いて沙紀を見た、沙紀も蘭を見て強く頷いた。
リンダの強いブルーの瞳が、沙紀の横顔を見ていた。
ユリカもナギサもアイコも、沙紀の頷いた表情を見ていた。
蘭は私から絵を受け取って見た、そして震える手で振り向いてユリカに絵を渡した。
そして沙紀を見て、泣きながら満開笑顔で沙紀を抱きしめた。
沙紀は蘭の背中に手を回して、蘭の喜びを感じながら抱かれていた。
「沙紀・・ありがとう、兄貴と必ず仲直りするよ」と蘭は沙紀の顔を見て、強く言った。
沙紀も蘭の顔を見て強く頷いて、紙のケースを蘭に渡した。
「えっ!・・まだあるの?」と蘭は驚いて言った、沙紀は頷いて返した。
蘭が紙のケースから絵を出して、その場で号泣した。
私は涙で絵が滲まないように、蘭を優しく抱いて絵を取った。
そしてそれをナギサに渡した、沙紀は蘭の頭をヨチヨチしていた。
私は後ろの4人の女性達の涙を感じた、沙紀は2つの大作を完成させていた。
マキの母親の真希さんの絵と、蘭の弟の洋の絵だった。
洋はボートの後方に立って、上空に浮かぶピンクの機体を見ていた。
その表情は嬉しそうに微笑んでいて、その瞳には優しさが溢れていた。
洋は生命力に満ち溢れて、強く立っていた。
ボートが波の影響で揺れるのも、美しい海の波も沙紀は表現していた。
そしてボートの上に立つ洋は、その影響を受けても真直ぐに立っていた。
低めのアングルで描かれた沙紀の絵には、蘭に対する感謝が溢れていた。
蘭は沙紀を抱きしめて、《ありがとう・・ありがとう》と何度も繰り返した。
私は蘭の肩を抱いて、沙紀も蘭の顔を覗き込んだ。
覗き込んだ沙紀の顔を見て、蘭は満開笑顔に戻った、私もそれで笑顔になった。
『さっ・・ご飯にしよう、沙紀の世界が待ってるからね』と笑顔で言った。
「よし・・最高の気分になった、私に任せなさい」と蘭が満開笑顔で言って、テーブルに座った。
私は沙紀と朝食を食べていた、沙紀は納豆も食べていた。
なんとリンダも納豆を食べて、女性達を驚かせていた。
リンダは美味しいと言って、笑顔で納豆を食べていた。
朝食が終わる前に呼び鈴がなり、私が玄関に出ると、リアンとシオンが笑顔で入って来た。
「早いね~、リアン」とユリカが爽やか二ヤで言った。
「家なんかにいられないよ・・大掃除も諦めたし」とリアンが極炎ニカで返した。
シオンが沙紀の横に座り、沙紀が納豆を食べるのを見て笑顔で拍手していた。
『シオン・・今日は、お暇かな?』と私は笑顔で聞いた。
「はい~・・お暇ですよ~、何かありますか?」と期待のニコちゃんで返してきた。
『じゃあ・・沙紀を頼めるかな、沙紀が新しい景色を入れてくれるから。
シオンが沙紀の側にいてよ、もちろん境界線は見れないよ。
俺も両方が見たいから、移動するから・・沙紀の側にも行くし。
フーが沙紀の邪魔をしないように・・シオンに沙紀を頼めるかな?』
私は笑顔で言った、シオンは最強ニコニコちゃんで返してくれた。
「もちろん引き受けます~・・フーに邪魔はさせません、シオンが抱っこしときます」とシオンがニコちゃんで返してくれた。
ナギサとアイコが食器を洗っていると、リリーとマチルダがやって来た。
その後ろをマリが笑顔で入って来た、マリはカスミにお迎えを頼んでいた。
私はマリに二ヤを出して、マリに二ヤで返された。
「マリちゃんとエースは見ても良いんですね・・想定との違いを感じるだけですね」とシオンがマリにニコちゃんで言った。
「そうです・・でもルミの試験は、絶対に難解ですよ」とマリが笑顔で返した。
「さぁ・・トイレに行く人は、行ってきてね・・エース、テーブルを動かして」とユリカが爽やか笑顔で言った。
私はリビングのテーブルとソファーを動かして、絨毯の上に広い空間を作った。
女性達が笑顔で円を描いて座った、私の横には沙紀とマリが座った。
『全ては個人の判断に任せるよ・・武器の話は覚えてるよね?』と私は笑顔で全員を見回して言った。
ユリカがリンダに通訳していた、女性達は緊張感を背負っていた。
「強力な武器は、強力な敵を呼び起こすんだろ・・私は今日は、武器無しで挑むよ」とリアンが二ヤで言った。
「そうなるよね・・やってみよう、それでどんな敵が現れるのか」とユリカが笑顔で言った、女性達も笑顔で頷いた。
『じゃあ管制室に集合・・待ってるよ』と二ヤで言って目を閉じた。
私が管制室に入ると、マリが沙紀の手を繋いで入って来た。
そして女性達も続々と入って来た、アイコもスムーズに入ったようだった。
女性達は動きやすいのか、ダイバースーツを着ていた、リンダもマチルダもそうだった。
『それじゃあ、行きますかね』と二ヤで言って、私はおとぎの国に続くドアを開いた。
「素敵です~・・素敵な世界です~」とシオンが叫んで走り出した。
「この世界ごと引き抜いたんだ・・なんてリアルで素敵な世界なの、さすがだよ・・沙紀」とナギサが華やか笑顔で言った。
女性達が嬉しそうな笑顔で見回していた、私は凍結する蘭の背中を二ヤで見ていた。
蘭は呆然とカードの道の横の森を見ていた、女性達がそれに気付いた。
「どうしたの?・・蘭」とユリカが蘭の見ている森を見て凍結した。
薄暗い森の木立の中に、薄く発光する3人の妖精の姿が見えていた。
「何でしょう・・あれは、何でしょう?」とリリーが笑顔で呟いて。
「フェアリー!」とリンダが笑顔で言って。
「そうだよね・・妖精でしょうね・・可愛いね~」とアイコが呆然としながら呟いた。
その時、バサバサと森の草陰から音がして、黄色い姿が飛び出してきた。
フーはなぜかウル顔で、シオンに駆け寄り抱きついたのだ。
シオンは最強ニコニコちゃんでフーを抱き上げた、フーはウルウルでシオンに何かを訴えた。
「フー・・駄目でしょう、妖精姉さんの言う事を聞かないと・・深海に戻すよ」と沙紀が厳しい口調で言った。
フーは沙紀を見て、何度も何度も頭を下げた。
「それでシオンに駆け寄ったのか・・案外人を見るね~・・フーちゃん」とリアンがフーに極炎ニカで言った。
フーはリアンを見て、ウルウル継続でシオンにしがみついた。
「リアン・・駄目です、フーちゃんが怖がってるでしょ」とシオンがリアンに強く言った。
「は~い・・フー、ごめんよ~」とリアンは二ヤでフーに言って笑っていた。
「それよりも・・妖精姉さんの説明をせよ」と蘭が振り向いて、私に満開二ヤを出した。
私は二ヤで沙紀を見た、沙紀は笑顔で頷いて。
「こっちにおいで~・・楽しい仲間だから」と沙紀が妖精達に笑顔で言った、それを聞いて妖精達も笑顔で飛んできた。
沙紀が女性達に妖精を紹介した、女性達は嬉しそうな笑顔で自己紹介をした。
リンダもマチルダも楽しそうで、女性達の笑顔が絶えなかった。
『それじゃあ・・境界線にチャレンジするメンバーは、あれに乗ってよ』と私はかぼちゃの馬車を指差した。
「マジで!・・嘘だろ~」とリリーが言って駆け寄った。
女性達が全員駆け寄って、かぼちゃの馬車を笑顔で見ていた。
『誰かが乗れば、運転士のイカス兄さんが現れるから・・タクシーだと思って、行き先を言ってね』と私は笑顔で言った。
「最高の馬車で、挑戦場所に行けるんだね・・ありがとう、沙紀」とマチルダが輝く笑顔で言って。
「アリガトウ・・サキ」とリンダも楽園笑顔で言った。
リンダが最初に乗り、その後を女性達が続いた。
ハチ公と白馬が現れて、女性達に冷やかされたのだろう、ハチ公はウルで頷いた。
ハチ公が鞭を叩いて、白馬が馬車を引いて走り出した。
マリはZⅠに跨って、エンジンを始動した。
『シオン・・カウンタックを使ってよ、簡単操作になってるから・・沙紀の行きたい場所に連れて行って・・俺は沙紀の場所なら分かるからね』とシオンに笑顔で言った。
「分かりました・・沙紀ちゃん、最初にどこに行きましょう?」とシオンがニコちゃんで沙紀に聞いた。
「お城にお願いします・・今日は風景と動物達を入れたいから」と沙紀が笑顔で返した。
シオンは最高のニコちゃんで頷いて、沙紀をカウンタックの助手席に乗せた。
沙紀にフーを抱かせると、妖精達も笑顔で乗り込んだ。
シオンはスキップしながら運転席に回り、私とマリに手を振って乗り込んだ。
私はそれを見て、CB750に跨ってエンジンを始動した。
「今日は・・ルミの試験の研究だね」とマリが私に二ヤで言った。
『そうしよう・・俺達は第3段階からで出来るって、ルミが言ったんだから・・1人でトライする為に、研究しようね』と笑顔で返した。
「私も・・毎日が本当に楽しいよ・・ありがとな、小僧」とマリは笑顔で言って、全速で走り出した。
『照れ屋のマリめ・・俺も楽しいよ』と呟いて、マリの背中を追いかけた。
私もマリもまだ気付いていなかった、沙紀の本当の力の凄さを。
沙紀は純粋という力と、美しいと思う心で奪っていた。
神殿という建物に隠した、悪質な契約まで奪い取っていた。
私はマリの後ろを追って走っていた、そのカード柄の道が由美子に続いていた。
沙紀のおとぎの世界は、沙紀だけが望んだ世界ではなかった。
招待する場所として沙紀が作り出していた、由美子を招待する日を感じながら。
由美子の驚異の覚醒が始まる、由美子が生態離脱を見せ付ける。
心と体は別物だと提示する、由美子の強い炎が暗闇を照らす。
揺らめく由美子の炎の中に、希望という文字が浮き出ていた・・。