【冬物語第三章・・深海の誓い⑫】
目を逸らしたら、超える事は出来ない。
使い果たすまで使うのだ、そうすれば余裕が無い。
悪意を持ったり、罠を仕掛けたりする・・余裕を奪える。
深海のバスの中で、恭子はオロオロと歩き回っていた。
「あ~どうしよう・・いったい誰なの?・・ダズニー関係でしょう・・そうよね?」と恭子が沙織にウルで言った。
映像はマキが歩いて、小窓に向かう後姿だった。
「恭子先輩・・落ち着いて・・ダズニー関係に、グリーン姫はいませんよ~」と沙織が二ヤで言った。
「いないよね~」とリリーが二ヤで言って。
「なんせ・・原作は【美女】ってつく位だから・・誰かな~」とカレンが恭子に二ヤで言った。
恭子はウルウルを出して、バスの中は二ヤの嵐だった。
「えっ!・・確かにグリーン姫だね~」とマキの声で全員がモニターに集中した。
映像は二ヤの口元のマキのアップだった、そして画面が進んで小窓から入った。
可愛いベッドに眠る姫が映された、その姫はプラチナブロンドだった。
その美しさは絶品で、小窓から入る月明かりに照らされて幻想的な美しさだった。
「マチルダ!」と恭子は姉さんを付ける余裕も無く叫んだ。
「まさにおとぎ話の姫です~・・可愛いです~」とシオンが言って。
「まぁ・・マチルダ姉さんに取られるなら仕方ないね・・納得としよう」とセリカが二ヤで言った。
「確かに・・グリーン姫だ」とカレンが笑顔で呟いた。
恭子がウルウルを出していると、部屋のドアが勢いよく開いた。
そして7人の小人が笑顔で入ってきて、その後ろを豊王子が笑顔で入ってきた。
「この人がグリーン姫なの?」と豊王子が笑顔で聞いた。
「そうです・・悪い魔女に、眠りの魔法をかけられて・・困ってました」とシズカ小人が言って。
「お願いします・・魔法を解いて下さい」とマキ小人が言って、7人で頭を下げた。
「マキ・・そこにいるんでしょ・・阻止して~」と恭子が叫んだ、女性達は二ヤで映像を見ていた。
「やっぱり・・小人のマキが1番可愛いいな~」とマキは暢気に笑顔で言った。
「それで・・どうやれば、魔法が解けるの?」と豊王子が小人達に笑顔で聞いた。
「言わないで・・言ったら駄目~」と恭子が叫んだ。
しかし言ってしまう。
「姫様に・・王子様が口づけされれば、目覚めます」と言ったのは、恭子小人だった。
その見事な配役に、女性達は大爆笑した。
「馬鹿・・馬鹿なんだから~、恭子は」と恭子はウルで怒った。
「それで目覚めるの?・・そうなの!」とマキが叫んで、慌てて頭を下げた。
「そうなんだね・・俺で良いのかな?」と豊王子は笑顔で言った。
「なんか嬉しそうだね~・・王子」と蘭が二ヤで言って。
「エースみたいな笑顔だね~・・意外だ~」とナギサが二ヤで言って。
「初めて見ました~・・あんな笑顔」と美由紀が二ヤで追い込んだ。
「沙紀のイメージよ・・沙紀が小僧とごちゃ混ぜにしたのよ」と恭子がウルで返した。
豊王子は7人の小人に促され、深く眠るマチルダの横に膝を着いた。
そしてマチルダの美しい寝顔を見て、ゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れそうになり、恭子が震えながら見ていると。
「まぁ・・沙紀なら良いや、可愛い沙紀だし」と小窓を後にするマキの画面に変わった。
「え~・・1番良いシーンを、なぜ見ないの~」と小夜子が二ヤで言って。
「マキらしいね・・遠慮したんだよ」とリアンが二ヤで言った。
だがマキは、とんでもない言葉を吐いてしまう。
マキはバイクに歩きながら、ニコニコの口元だった。
「そして王子と姫は、末永く幸せに暮らしましたとさ・・めでたし、めでたし」とマキは笑顔でそう言った。
「なっ・・なっ・・なんだって~・・今何て言ったの、マキ~」と恭子が叫んだ。
当然その叫びが、爆笑を連れて来た。
しかし爆笑の波は、最強のビッグウェーブを連れて来る、マキの叫びで。
「あっ!・・てめ~何してる・・シートがベタベタじゃないか。
てめ~の名前は知ってる・・私があんなに大切にしてたのに。
愛情を込めて使ってたのに・・それに対する仕打ちがこれか。
なぜそんな所で、蜂蜜を食べるんだ・・プーー」
マキが大声で怒鳴ったのだ、バイクの上には黄色い熊が座っていた。
おとぼけ顔で体の側面に縫い目があり、中年オヤジのようなお腹がタプンと揺れた。
左手に大きな壷を持ち、そこに右手を突っ込んで蜂蜜らしき蜜を舐めていた。
胸だけを隠す赤いチョッキにもお腹にも、バイクのシートにもべったりと蜂蜜がこぼれていた。
それを見るマキの背中は、ワナワナと震えていた。
女性達は爆笑が止まらずに、ワナワナと震えていた。
その縫い目のある黄色い熊は、赤いチョッキを指差した。
そこには、【Fhoo】と書かれていた。
「ん?・・Fhoo・・フーなのか、そっかごめん」とマキは笑顔で返して、ハッと気付き怒りの表情を出した。
「名前なんてどうでもいいんだ~・・掃除しろ・・ベタベタが取れるまで、掃除しろ」とマキが叫んだ。
「初めて見ました~・・まき先輩の、乗り突っ込み~・・凄い技です~」と美由紀が笑いながら言って。
「小僧の言葉を借りよう・・覚醒したね、マキ・・おめでとう」とシズカが笑って。
またもや大爆笑のビッグウェーブが襲ってきた。
熊のフーはマキの震えを無視して、壷を覗き込んでいた。
マキの背中の震えはそれで大きくなった、熊のフーは壷を逆さにして振った。
何も落ちてこないのを見て、マキにウルを出したのだ。
「逃げて!・・それは駄目よ、フー」と沙織が叫んだ。
マキは背中の刀に右手をかけていた、口元は不気味な笑みが出ていた。
「どうせ中身は、綿と蜂蜜だろ・・私の筆箱の思い出と一緒に、叩き切ってやる」とマキは静かに言ってゆっくりと刀を引き抜いた。
熊のフーはマキの緊迫感を無視して、顔を上に向け口元に壷を置いて、ポンポンと壷の底を叩いていた。
「絶対にやばい・・灼熱に油を注いでる」とヨーコがウルで言って。
「私の知らない・・本当のマキがいる」と久美子がウルで言って、爆笑を煽った。
マキが刀をかまえてジリジリとフーに近寄ると、フーは壷を捨ててシートにこぼれた蜂蜜を舐め始めた。
マキはそれで笑顔になった、フーは夢中で蜂蜜を舐めていた。
「それで良いんだよ・・改心したんだね・・早くしなよ、忙しいんだ」とマキは笑顔で言って、刀を鞘に収めた。
フーは夢中で舐めていた、マキはそれを見て笑顔で地図を確認していた。
フーはシートから味がしなくなったのか、自分の腕を丹念に舐め始めた。
それを見て、マキがシートを触った。
「臭いはあるけど・・ベタベタ感は無いね、急いでるから合格にしてやる」とマキはシートの後ろの方に座って、自分の腕を舐めているフーに笑顔で言った。
マキがフーの顔を見て笑顔でバイクに跨ると、黄色い手がマキの腰を左右から握った。
「何馴れ馴れしく触ってるんだ・・まさか乗って行くのか?」とマキは振り向いて真後ろのフーに言った。
フーはチョコンと頷いて、マキの背中に横顔を付けた。
「胸を触ったら・・真っ二つに切るからな・・どうもお前はオヤジ体系だから、信用できん」とマキは二ヤで言ってエンジンを始動した。
そしてゆっくりと走り出した、マキが小窓を見ると7人の小人が手を振っていた。
マキは笑顔で手を振って、ログハウスを後にした。
「あら~・・勘違いして、手を振り返された」と沙織小人がウルで言って。
「あの人・・大変だよ~・・フーなんか連れて行って、大丈夫かな~」とマキ小人がウルで言って。
「大丈夫よ・・どことなく、あんたに似てるから」とシズカ小人がマキ小人に笑顔で言った。
「オールスターキャストだ・・それも黄色い大スターが登場した、イメージ通りの」と千春が二ヤで言って。
「あと登場してないスターを考えよう・・あれとあれね~」と美冬が二ヤで言って。
「あれが見たいな~・・奴がマキと絡むシーンが」と千夏が笑顔で言った。
マキのバイクで走る映像を見ながら、女性達はワイワイと話していた。
「それより・・背中を見せた、ラピヨン3世は・・どこに行ったのかな?」とネネが二ヤで言って。
女性達がハッと思い出した、そして映像に視線が戻った。
マキは快調に飛ばしていた、後ろにしがみ付く熊の温もりを感じながら。
気分は爽快だと、マキの口元が表現していた。
その時、マキの視界に入る、炎で灯された明かりが見えてきた。
マキは一気に減速して、その方向を見ていた。
「フー・・何だと思う?」とマキはフーに聞いた。
フーはもちろん返答しなかった、マキは後ろを振り向いた。
フーは熟睡してるように、マキの背中に横顔を付けて眠っていた。
「話し相手にもならん奴だな~・・アヒルでも話せたのに・・言葉を持たないのかな~」とマキは呟いて、灯りを見ていた。
暗闇に近い世界だった、月光を鬱蒼と茂る樹木が遮っていた。
マキは灯りからかなり離れた場所にバイクを止めた、そしてフーを抱き上げてシートに寝かせた。
「寝てろよフー・・行って来るよ、待っててね」とマキは優しく声をかけて、灯りに向かい歩き出した。
灯りが近付くに連れ、それは建物の灯りだと分かった。
深い森を抜けた所に1軒だけ存在する、天体観測所のような、屋根がドーム型の建物だった。
内部に有る巨大な望遠鏡を連想させる、2分割で割れて開きそうなドームの突起が印象的だった。
その建物の背景に、深夜の海が見えていた。
「天文台か?・・不気味さの演出も手が込んでるね~・・それより、もう絶望の世界は解決したんじゃないのか?」とマキはウルで独り言を呟いた。
マキはこの時、半日ほどの時間の経過を感じていた。
実際には沙紀の世界に入って、2時間弱の時間しか経っていなかった。
マキは天文台の方に、森を抜けて平原に入って行った。
「小僧!・・入れて、ここからの風景を出来るだけ・・鮮明に映像に入れて」とマリが叫んだ。
私は驚いてマリを見た、マリは俯いて必死に何かと戦っていた。
『了解・・任せろ・・哲夫、マリの側にいろ』と私は哲夫に言って、モニターに集中した。
大御所達の緊張感を感じた、マリの横に律子が来たのを感じて、私は少し冷静に戻れた。
「始まる・・戦闘態勢です!・・物語がもうすぐ終わる、そして一気に沙紀の世界が動き出す」とヨーコが叫んだ。
「全員配置に付いて・・動き出したらすぐに戦闘機を出す・・モニターを注視しながら、準備して」とアンナが叫んだ。
「了解」と女性達が緊張して返した。
バスの21人は、何も出来ずにイライラしていた。
マキは平原を歩いていた、そしてマキの前に現れる、真赤な幅が3mほどの線が目の前に現れた。
「この色・・あの赤い月の色だな~・・いよいよかな、天文台に何かあるね」とマキは二ヤで言って一歩目を赤線の上に踏み出した。
「えっ!・・地面に足が付かない・・なにこれ」とマキが下を見て叫んだ。
マキが見てる赤線の底に、沢山の人が苦しみながら手を伸ばしていた。
「いきなり・・何で?・・変だよ」とマキはその光景を見て、天文台を睨んだ。
「ここは沙紀の世界だよな・・でも何で沙紀がおとぎ話なんてイメージした?
夢でも見てるのか・・そっか!・・沙紀は眠ってるんだ。
だからあんな世界が出てたんだ・・なら、この悪意の世界は防御だな」
映像のマキは止まっていた、1歩目の右足は赤線の上に置かれていた。
だがマキは浮いている感じを持っていた、私は集中してその光景を見ていた。
《マキ・・頼むよ、言葉で伝えてくれ・・その感覚を》と私は心でマキに叫んだ。
その時だった、マキが叫んだのだ。
「ユリアか!・・サンキュー、分かったよ・・小僧、言葉で伝えるよ。
重要なんだな・・ここからが重要なんだね、了解」
マキは笑顔で言って、サングラスを外し投げ捨てた。
『ユリア・・たった1発だったのか、波動を打てるのが・・ありがとう、ユリア』と私は言葉で言った。
「ユリアが波動で繋いだ・・あの天文台に何かある・・沙紀が大切にしてる何かが」とヨーコが言った。
マキは投げ捨てたサングラスが、足元に有るのを見ていた。
それは赤線の底の悲痛な叫びとは、世界が違うほどにリアルみ見えていた。
「私は今、浮いてると感じさせられてる、そして赤線の底に沢山の人。
戦争犠牲者と思われる人が、手を伸ばして助けを求めてるのが見えてる。
いや・・見せられてる・・小僧・・これが境界線だね。
でも変だよね・・絶対に変だ・・あの天文台は、沙紀の描いた物なんだ。
だって・・サインが有る、SAKIってサインがあるんだ。
沢山のサインが至る所にある、まるで封印の書のように。
策略でない・・本物の沙紀のサインだよ、それは間違いない。
て事は・・このラインだけが奴の世界、ここを超えれば天文台。
重要な何かがあるね・・奴がこんなに拒むのならば。
あの世界に行く・・行ってやるから見てろ、仙人和尚だろ」
マキは二ヤでそう言って瞳を閉じた。
私は集中してマキを見ていた、その境界線が広すぎると感じていた。
「今・・私は沢山の人間に足を掴まれてる、集中を乱されてる。
1度リセットするよ・・ちょっと待って」
マキはそう言って、瞳を開けた。
そして喜びの笑顔を爆発させた、マキの足元には熊のフーが座ってサングラスをかけていた。
「フー・・似合うよ、危ないオヤジみたいだよ」とマキは笑顔で言った。
フーはマキを見て、立ち上がり無造作に天文台の方に歩いた。
《なに~!》と思わず声が出たのだろう、姿無き女のような声だった。
「姿無き女!・・確かにいる」とユリカが叫んだ、女性達は集中の中にいた。
フーは簡単に赤線を超えて、いきなり走り出した。
そのスピードに驚いて、マキも女性達も固まって見ていた。
フーは大きな木を一気に駆け上がり、中央の木の穴に手を突っ込んだ。
そして引き抜いて、その手を見て確実に、絶対に、確かに・・二ヤを出した。
そして嬉しそうに蜂蜜を舐め始めた、沢山の蜂がフーを攻撃したが。
フーはそれを無視して、夢中で食べていた。
緊張感から最も遠いフーがマキにヒントを出した、マキは二ヤ全開だった。
「フー、サンキュ~・・分かったよ。
五感を切る方法を、五感は結局奴の管理下なんだな。
だから奴を避けたら駄目なんだよ、小僧・・そうだと思うよ。
何かに没頭すれば良いんだ、フルに奴を何かに使えば良い。
だって奴に命令できるんだろ、だから無茶なギリギリの命令をするんだ。
まぁ見てろよ・・超えてやるからな、私が境界線を越えてやる」
マキはニヤニヤで言って、瞳を閉じた。
「それだ!・・奴に命令できるんだ、何を命令するのかだ・・やれ、マキ」とシズカが叫んだ。
「限界ファイブ完全想定版・・一句流し、詠み人小僧。
575下流し、57577下受け・・限定解除、MAX。
シズカ・恭子・ヨーコ・久美子の句・・マキの完全想定。
プラスゲスト1名を、流れにて侵入させるべし。
詠み人小僧もマキの想定にて・・制限時間二呼吸。
流し条件・・1人にて1歩進む事、これ絶対条件なり」
マキはそう自分に叫んだ、完全な静寂が全ての世界を包んだ。
私は震えていた、そのマキの解答を聞いて、嬉しくて震えていた。
「それでは行くよ~、フルに使いな・・そうしないと想定できないぞ」とマキは叫んで瞳を開けた。
「マキ・・深き森、繋がる道に、夢がある~・・深」と叫んでマキは大またで1歩踏み出した。
「ヨーコ・・我が心、深層にこそ、真がある~・・真」と叫んでもう1歩踏み出した。
「恭子・・真実の、重みに耐える、明日がある~・・耐」と叫んで3歩目を踏み出した。
その瞬間に赤線の内側に、光の壁が出現した。
マキはそれを見たが、全く反応しなかった。
「シズカ・・忍耐と、思う自分に、欲がある~・・欲」と叫んでマキは4歩目を踏み出した。
マキの体は確実に、次の1歩で光の壁に触れる距離だった。
しかしマキには何の迷いも躊躇もなかった、ただ自分の決めたルールを守らせていた。
「久美子・・欲望の、流れを映す、罠がある~・・罠」とマキは叫んで5歩目を踏み出した。
光にマキの体が触れた、白いダイバースーツがオレンジ色に変色していた。
マキは苦痛に耐える表情を出した、マキは伝えてくる苦痛と自分のルールの狭間で戦っていた。
二呼吸という制限を使用して、マキが限界を感じた時だった。
「ゲスト・・ヒトミ・・好物を、仕掛ける罠に、悪がある~・・悪・・何がある~」とマキの後ろから叫び声が聞こえた。
赤線の外側に白兎が立って叫んでいた。
マキはその叫びを受けて、もう1歩踏み出した。
光の壁にマキの顔が入っていった、そして反対側の内側の映像に切り替わった。
そこからマキの歯を食いしばった顔が、少しずつ出てきた。
だがマキには、言葉を発する事は出来なかった。
マキの視界が光の中から出てきた時に、鼻先に暖かい風を感じた。
そしてマキの視界が、光の壁の内側に出た時に見たのは。
目の前に立つ満開の姉桜だった、その木の下にモモカがルンルン笑顔で立っていた。
モモカの横では、自分の右腕を必死で舐めるフーの姿が見えた。
マキは苦痛を忘れて、自然に笑顔になった。
「コジョ・・欲望の、悪意の罠に、耐えたけど~、深海にこそ、真実がある~」とモモカが叫んだ。
その時に来た、強烈な春一番がマキに向かって吹き荒れた。
光の壁は吹き飛び、マキも爆風で尻餅をついた。
モモカが走り出し、呆然とするマキの横を駆け抜け、白兎に抱きついた。
「やっと会えましたね・・春風ちゃん、私がヒトミだよ」と白兎が笑顔で言った。
「はい・・モモカです、約束は守ってますよ~」とモモカがルンルン笑顔で言った。
モモカと白兎の身長は同じ位で、2人は笑顔でマキを見た。
「マキ姉さん・・早く、あの天文台を見てきて、あそこに有ります・・大切な鍵が」と白兎が言った。
マキは慌てて立ち上がり、2人を見て笑顔になった。
「楽しかったよ、ヒトミ・・本当に嬉しかった」と言って、マキは天文台に振り向いた。
「いつ分かったんですか?」と白兎がマキの背中に聞いた。
「カプセル前で、最初に抱き上げた時に決まってるだろ・・私が忘れるとでも思ってたのか、お前の温度を・・ヒトミまた会おう、行って来る」とマキは振り向かずにそう強く言って走り出した。
白兎は俯いて泣いていた、その涙をモモカが《ふっ》と優しく吹いて乾かした。
「ユリカ艦長・・そのバスを一気に海上に上げる方法が、すぐ下にあります。
アンナ副艦長・・5分後に沙紀が起こされます、急激に島が攻めてきます。
赤い塔です・・そこに沙紀の鍵があります、それ以上は言えません。
沙紀の言葉は絶望の氷河の中にある、それを融かせるのは・・極炎と灼熱。
そしてその真中に位置する者でしょう、私は皆さんを信じています。
美由紀・・第四幕のヒロインになりなさい、あなたが美由紀であるのなら。
出来るはずです・・そして、エミ・・耳で聞かないで、目で見ないで。
あなたには女性達が付いています・・女性の誰が欠けても時間に負けます。
全員で感じて・・流れだけ感じて、空飛ぶ島はMAXレベルです。
想定を捨てて・・流れだけ感じて、あと10秒で動けます。
それで準備して下さい・・絶対にマキ姉さんの見る物を見て。
ありがとう・・本当に楽しい時間でした・・少しだけ、さようなら」
白兎がそう言うと、強い春風が吹いて桜吹雪が2人を包んだ。
その桜吹雪が去ると、2人の姿は無かった。
「今は感慨に耽らないで!・・全員集中、マキを見逃すな」とユリカが強く指示した。
「了解」と全員が強く返した。
マキは必死に走っていた、天文台のドアを開くと、螺旋階段があった。
マキは全速力で階段を上がっていた、その時に秀美のレーダーが反応する。
「空飛ぶ島、ゆっくりと動き出しました・・状況を見ます」と秀美が言って、アンナが頷いた。
天文台は大きく揺れていた、外壁がバラバラと落ち始めていた。
マキは最後の段を飛び越えて、ドアを開いた。
その部屋にはベッドがあるだけだった、円形の部屋の真中にベッドが置かれていた。
マキはベッドに駆け寄り、盛り上がってる布団を跳ね上げた。
「沙紀!」と言ったマキが見たのは、静かに眠る由美子だった。
「由美子・・由美子」とマキは優しく由美子の肩を揺すった。
由美子は全く反応が無かった、マキは由美子の胸に耳を当てた。
そして笑顔で立ち上がって、由美子を見ていた。
「ありがとう、沙紀・・大切なヒントだった・・由美子、待ってろよ・・私が必ず迎えに来るよ」とマキは笑顔で言った。
その言葉で天井が開き始めた、マキは朝陽に目を細めた。
由美子は眠ったまま、浮かびながら開いた天井から出て行った。
マキはそれを見送った、青空の中に薄い月が浮いていた。
「後はよろしくです・・私は強制送還みたいですから・・後は極炎にお任せします」と崩れゆく天文台の中でマキが笑顔で強く言った。
「シズカ・・戦闘機を出せ、先制攻撃あるのみ」とリアンがマキの映像を見て強く言った。
「了解・・出します」とシズカが強く返した。
「バスの下にあるって・・何が?」と蘭が叫んだ。
「海底都市と・・・」とシオンが言って。
「【モグモグ】!・・吸い込んだ物を、一気に海上に飛ばす」とリリーが叫んで。
「そうだ!・・大きさ、重さ、用途に制限無しって書いてありました」と沙織が叫んだ。
「それだね・・恭子、あのオヤジロボットが起きたら、脅迫して止めといて」とユリカが二ヤで恭子に言った。
「任せて下さい・・やっと得意なジャンルだ~」と恭子が二ヤで返して、運転席に歩いた。
その頃マキは開いた天井から青空を見ていた、もうドアを開くことは出来なかった。
「あの人の作品に、空飛ぶ奴はいないよな~」とマキは空に呟いた。
その時にマキの耳に入ってくる、少し変なバサバサと響く羽の音が。
マキが空を睨んでいると、その姿が横切った。
それは恐ろしいほど耳の大きな小象だった、耳を羽のようにして飛んでいた。
「お~い・・お~い」とマキは声の限りに叫んで、両手を振った。
小象はマキを見ながら旋回した、小象の瞳はウルだった。
「チッ・・またウル男か~・・警戒してるな、弱虫小象。
おっ!・・奴も小象か・・どうりでウルな訳だな。
名前なんだっけ~・・奴の名前・・なんとか【ボ】だったよな~。
思い出せ・・弱虫の信頼を勝ち取るには、それしかない」
マキは優しい笑顔を意識して、小象に向けて考えていた。
「マキ・・頑張れ、思い出せ」と空に上がったリアンが叫んで、全員がモニターを見た。
マキは強烈な二ヤを出した、ずっと探してた物を見つけた二ヤだった。
そして声の限りに、笑顔を意識して叫んだ。
「マンボ~」と笑顔で自信たっぷりに叫んだのだ。
小象はそれを聞いて、ウルウルになって俯いた。
「違ったか!・・嘘だろ・・他には浮かばんよ・・ヒトミとモモカは帰ったのかな~」とマキはウルで言った。
その時、マキのお尻を何かが舐めた感触があった、マキは飛び上がり振り向いた。
熊のフーがマキの後ろで、舌を出して立っていた。
「てめ~・・やっぱりオヤジだな、いたいけな少女のお尻を舐めるとは・・良い度胸だ」とマキは震えながら刀に右手をかけた。
熊のフーはマキのお尻に向かって突進した、マキは慌てて逃げ出した。
「匂いだけだろ・・蜂蜜の匂いだけだろ」とウルで言いながらマキは走っていて、ピタッと止まった。
「なぁ、フー・・お前があいつの名前を教えてくれたら、お尻を舐めさせてやるよ~」とマキは二ヤで言った。
フーは空を見上げて、腰を折って手で何か植えるポーズをした。
「なんだそれ・・ヒントか?」と言ってマキは考えて、パッと笑顔になった。
そして声の限りに笑顔で呼んだ。
「タンボ~・・おいで~、良い子だから~」とマキが叫ぶと、小象が笑顔になった。
マキは必死で笑顔を出していた、マキのお尻をフーが夢中で舐めていたのだ。
タンボは天井の上まで笑顔で来て、止まってウルを出した。
マキの必死の笑顔が怖かったのか、それ以上近付かなかった。
「どうしたんだよ~・・タンボ、おいでよ~」とマキは必死の笑顔で言った。
マキは心で刀を抜いて、イメージでフーを真っ二つに切っていた。
「緊張感が持てません~・・マキ劇場が、早く終わってくれないと~・・私がヒロインになれません~」と美由紀が準備室のモニターを見てウルで言った。
「あんたが緊張感なんて、持った事あるの?」とヨーコが二ヤで言った。
「はい・・ファーストキスの時に」と美由紀が二ヤで返した。
「えっ!・・したの?」とヨーコがウルで言った。
「駄目ですね~・・ヨーコ先輩、ライバルのマキ先輩は・・お尻を舐めさせれるほどの、遥か先を走ってるのに~」と美由紀がニヤニヤで返して、又もや爆笑を取った。
マキは心と裏腹の、笑顔を必死で出していた。
だがマキの心は弾んでいた、由美子の可能性を確信して。
私の横にはマキを見つめる、強い瞳の北斗が立っていた。
マキは確かなバトンを握り締めていた、母親から繋がっているバトンを。
私は爆笑映像を入れながら、マキの瞳に確かにある・・希望の光を見ていた。