【冬物語第三章・・深海の誓い④】
歴史の舞台には脚色は無いのだろうか、私は素直に信じられない。
時という歴史が作り上げた物語に、人間が脚色を加えたと感じるから。
自分も事実に脚色を加えていたから、その稚拙な脚色に気付いてしまう。
暗黒の深海に浮遊する影、忘れられぬ歴史を背負う遺物。
それを出した背景にあるのは、人間に対する不信感なのだろうか。
4人は笑顔で階下の格納庫に入って、ピンクのハリセンボンのデザインの小型潜水艦を見つけた。
「これか~・・可愛く作ったね」とナギサが小型潜水艦の前に立ち二ヤで言った。
「【竜宮の使者】ですか~・・こりますね~」とウミが二ヤで言って。
「こっちで~す、入口発見しました~」とミサキが反対側から呼んだ。
「まぁ・・これは可愛いお部屋だこと」と言いながら美由紀が入り、3人が続いた。
前面ピンクの室内に、2席並んだ白い革張りのシートが縦に2列に並んでいた。
美由紀とミサキが後ろに座った、美由紀の前にはレーダーが有った。
ナギサとウミが操縦席に座り、ミサキが密封ハッチを閉めた。
「OK・・シズカ出してくれ」とナギサが無線で言った。
「了解です・・ナギサ姉さん、【小判シャーク】の装着をお願いします」とシズカが返した。
「了解・・行って来るよ」とナギサが華やか笑顔で返した。
シズカは浸水装置のボタンを押した、小さな振動が潜水艦全体に出ていた。
小型潜水艦の周りに海水が入り、満たされた時に下部ハッチが開いた。
小型潜水艦はゆっくりと母艦を離れて、潜水を始めた。
母艦の女性達は正面の大型モニターと、目の前の小型モニターを見ていた。
大型モニターには小型潜水艦が映す映像が出ていた、深海の暗闇を照らしながら進んでいた。
「かなり暗いですね~、リアルな深海は」とウミが言った。
「そうだね~・・これがリアルだろうね~、太陽光は届かないからね」とナギサが笑顔で返した。
「でも圧力がリアルじゃないから、奴も優しいです~」と美由紀が笑顔で言って。
「圧力がリアルだったら、今頃はペチャンコだよ~」とミサキがウルで言って、全員で笑っていた。
その時、美由紀の見ているレーダーが探知した。
「目標物出ました~・・あと500mです」と美由紀が報告した。
「了解・・鬼が出るか、蛇が出るか・・楽しみだね~」とナギサが二ヤで言って。
「鬼さん!・・しまった~、ヨーコ先輩から下ネタ銃を借りてくれば良かった~」と美由紀がウルで言って。
「美由紀・・ヨーコが気配消してたの、集中だからと思う?」とミサキが二ヤで聞いた。
「違います~・・青猫にみんなが慣れて、誰もいじってくれないから・・すねてました~」と美由紀が二ヤで返した。
その言葉で、小型潜水艦の3人も母艦の女性達も大爆笑した。
ヨーコはウルウルで返していた、その顔がモニターに映されて爆笑を煽った。
小型潜水艦の4人が笑っていると、警告音が鳴り響いた。
それで全員が真顔に戻った、ナギサは肉眼でフロントガラスを見て探していた。
次の瞬間、フロントガラスに濃緑のヒトデのような生物が張り付いた。
それは野球のグローブ程の大きさで、張付いている裏面の中央に小さな口が有った。
その口が常時パクパクと動き、口の中には鋭い歯が無数に並んでいた。
その表皮は軟らかいスライムのようで、目も確認出来なかった。
そのヒトデがベタベタと張付いて、小型潜水艦を覆いつくした。
4人も母艦の女性達も、呆気に取られて固まっていた。
「口が気持ち悪いね」とミサキが呟いて。
「パクパクしてますね~・・目が無いくせに~」と美由紀が二ヤで返した。
「シズカ・・こいつらは、何に反応してると思う?」とナギサが無線で聞いた。
「光だと思います、光か熱ですね」とシズカが返した。
「了解・・しょがね~な~、ウミ照明を切れ・・ミサキ、室内灯を消して」とナギサが指示した。
「了解」と2人は答えて、照明と室内灯を消した。
それでヒトデのような軟体生物は、ポロポロと剥がれていった。
しかし小型潜水艦の室内も、真暗で外の景色も暗黒の世界だった。
ただ美由紀の目の前のレーダーだけ、薄く発光していた。
「あった!・・美由紀、攻撃用のスコープ・・それに赤外線装置が付いてる・・暗闇でも見えるよ」とずっと装備の説明を見ていた沙織が言った。
「サンキュ~沙織・・さすがに冷静ですね~、ヒトデちゃんを無視してましたね~」と美由紀が二ヤで返した。
「聞き飽きたよ、あんな子供騙し・・星型じゃなかったもん、6本突起は怖くないでしょ」と沙織が二ヤで返した。
「そっか~・・何か変だと思ったら、6本突起だった~」とカスミが二ヤで言った。
「手裏剣ドロリ!・・ヨーコ先輩の敵だった~」と美由紀が二ヤで言った。
「ヨーコ・・手裏剣ドロリって何だい?」とリアンが二ヤで言って、女性達が二ヤでヨーコを見た。
「マリちゃんの解放最終決戦で、私の敵がさっきの軟体生物でした~。
あれの親玉みたいなでかい奴で、ヒトデよりも多い6本の突起だったから。
私が命名しました・・【手裏剣ドロリ】って、可愛いでしょ。
奴の弱点は・・熱なんです、私は抱きしめて勝利しました~」
ヨーコは笑顔で答えた、女性達はウルを出していた。
「抱きしめるの・・あ奴等を、嫌だ~」と蘭が満開ウルで言って。
「シオンも嫌です~・・ドロリは好きの中の、拒絶です~」とシオンもウルで言った。
「好きの中の拒絶・・シオンが言うと、哲学みたいだ~」とホノカが二ヤで言った。
「でも・・覚悟がいりますね、ドロリを抱きしめる」とハルカがウルで言って。
「お酒飲んでくれば良かった~、少し酔うと出来るんだけど・・カスミは酔わなくても出来るから、良いな~」とリリーが二ヤで言って。
「必殺技だもんね、対オヤジ用迎撃抱きつき」とネネが二ヤで追って。
「谷間の押し付けでしょ、あれは反則ギリギリの攻撃よね~」と美冬も二ヤで言った。
「サービスです・・幸せな気持ちで帰って頂く、小さなプレゼント」とカスミがウルで返した。
「モンモンちゃんで帰ったらどうするんだ、それで奥さんに拒絶されたら・・不幸だぞ」とリョウが二ヤで言って。
「異議あり!」とマキが二ヤで手を上げた。
「マキ・・述べよ」とユリカが二ヤでマキを指名した、リョウはウルを出していた。
「今のリョウ姉さんの言葉は、越えてました・・下ネタの裁決をお願いします」とマキが二ヤで言った。
「分かりました・・では裁決します・・下ネタと思う人~」とユリカが二ヤで手を上げた。
「は~い」とリョウ以外の全員が手を上げて、リョウはウルウルを出していた。
女性達から笑い声が起こり、小型潜水艦の4人も笑っていた。
「モンモンちゃんが分からない・・帰ったら、エースに聞こう」とエミが笑顔で言った。
その言葉で女性達が爆笑して、エミが照れた笑顔を出し、私はウルウルを出していた。
「エミ・・それは良い事だね~、奴はリアルに感じてるから」とミコトが笑顔で言って。
「そうだよ~・・絶対に心の言葉で教えてくれる、春雨の叫びかもよ~」と千鶴が笑顔で煽った。
「そうなんだ!・・楽しみ~」とエミが少女の笑顔で返して、大爆笑を煽っていた。
その時、小型潜水艦の警報が警告に変わって、静寂が訪れた。
小型潜水艦の4人がスコープをかけて、暗黒の世界に緑の線で描かれる潜水艦を見ていた。
母艦の女性達も、スコープをかけて映像を見ていた。
「幽霊船ぽいよね~」とナギサが言って。
「そうですね~・・中身が無い感じですね~」とウミが呟いた。
「【小判シャーク】を撃つよ・・覚悟を決めな」とナギサが二ヤで言った。
「了解」と3人が二ヤで返した。
「それじゃあ・・近い奴からだね」とナギサが二ヤで言って、照準を合わせた。
「ほれ・・発射」とナギサが言って、発射ボタンを押した。
小型潜水艦の下部から小さな魚雷が発射されて、敵潜水艦の側面に貼り付けた。
赤い点滅が確認できて、ウミはゆっくりと奥に進んだ。
ナギサは5つの敵潜水艦に、【小判シャーク】を貼り付けた。
最後の一番奥の最も大きな潜水艦に近づいた、その巨大さに沈黙が流れた。
巨大潜水艦の後ろに光の壁が見えて、明るさがあった。
光の壁の入口が見えていた、女性達はその入口を見ていた。
「最後だね・・あのでかい奴」とナギサが二ヤで言って、発射ボタンを押した。
巨大潜水艦の側面に命中して、赤い点滅を確認した。
小型潜水艦の目前に、光の壁の入口が見えていた。
4人がそれを見てると、巨大な何かが飛び出してきた。
「何!」とナギサが叫んで。
「巨大ウツボちゃん!」と美由紀が叫んだ時には、小型潜水艦の前に巨大なウツボの開いた口があった。
小型潜水艦は、巨大ウツボに飲み込まれ光の壁の中に引き込まれた。
「やばい・・あの4人が人質になるの」とユリカが叫んで。
「小型潜水艦の内部映像が出てますから・・まだ大丈夫です」とシズカが返した。
小型潜水艦の4人は、一瞬の出来事に沈黙していた。
目の前に海水は無く、充血したひだひだに囲まれて、生命体の中のようだった。
「食べられたんだよね・・ウツボちゃんに」とナギサがウルで言って。
「ぱっくりと」とウミがウルで返した。
「【竜宮の使者】は金属だから、消化されないでしょう」とミサキがウルで言うと。
「暗黒の世界の・・バルタン」と美由紀がウルで返した。
その言葉で3人がウルウルになった、だがナギサは二ヤを出していた。
「仕方ない・・最終兵器を出そう・・ここにカバーで覆われてるボタンを」とナギサが二ヤで言った。
3人がそのボタンを見た、透明のプラスティックで覆われた赤いボタンだった。
そのボタンには、【最終兵器・・怒りの一撃】と書かれていた。
「何でしょ?・・怒りの一撃?」とミサキが言って。
「押してみるしかないね・・この状況を打開するには」とナギサが二ヤで返した。
3人も二ヤで頷いた、母艦の女性達は沈黙して見ていた。
「ほな・・見せてもらいましょう、怒りの一撃」とナギサが二ヤで言った。
そしてプラスティックのカバーを拳で叩き割り、躊躇無く赤ボタンを押した。
小型潜水艦が大きく揺れて、小型潜水艦の全体から鋭い突起が無数に突き出した。
そしてゴロゴロとウツボの体内を転げ回った。
「おりょ~・・そうでした~、こ奴はハリセンボンでした~」と美由紀が二ヤで言って。
「まさにハリセンボン・・しかし地味な攻撃だな~」とナギサが二ヤで言って。
「怒りの一撃・・想定出来なかった~」とウミがウルで言って。
「私はその前に、回転運動で・・酔いそうです~」とミサキがウルで言った。
母艦の女性達は、その可愛い攻撃を見て笑顔が溢れていた。
小型潜水艦はゴロゴロと動き、大きな力で外に吐き出された。
小型潜水艦が深海に戻ると、4人の目の前に巨大ウツボのウル顔があった。
「何でも食べるなよ~・・これからは注意しろよ~」と美由紀が二ヤで手を振って、3人もウツボに手を振った。
「艦長・・帰還しません、このまま降ります」とナギサが無線で言った。
「了解です・・最高の戦いを見せてもらいました」とユリカも笑顔で返した。
小型潜水艦は、光の壁の内側を潜行して行った。
「さぁ・・私達も行こうかね、あの潜水艦も攻撃してくると想定して」とユリカが笑顔で言った。
「了解」と全員が笑顔で答えた。
「潜行します」と蘭が満開で言って、アクセルを踏んだ。
母艦は肉眼で敵の潜水艦が見える位置まで潜った。
女性達は沈黙して敵の潜水艦を見ていた。
「どうする?・・このまま無視して近付くのは危険だよね」とリアンがユリカに言った。
「奴が作り出した物でしょ・・意味は無いわ・・破壊しましょう」とユリカが二ヤで返した。
「そうしよう・・何が出ても混乱しないように」とアンナが女性達に言った。
「了解」と女性達も緊張気味に返した。
「ネネ・・手前の敵から撃沈せよ」とユリカが強く言った。
「了解・・右手前から撃沈します」とネネが返して、照準を合わせた。
「攻撃魚雷・・発射」とネネが言って、発射ボタンを押した。
泡を放出しながら、魚雷が敵の潜水艦に向かって行くのが見えた。
そして命中して、大爆発を起こし敵潜水艦は消えた。
消えた場所に無数の軍服を着た骸骨が、浮かび上がった。
その骸骨は漂うように母艦の方に流れてきた、女性達は沈黙していた。
ヨーコはエミの表情を見た、エミは二ヤを出していた。
「懲りない男・・いえ、女ですね~・・偽りの現実しか見せられない・・真実は見ない」とエミが二ヤ継続で言った。
このエミの言葉で、女性達に二ヤが戻った。
「やはり、エミが鍵だね・・女性達の心を戻した」とマリが静かに言った。
その時、管制室にサクラさんが入って来た。
「グッドタイミングでしたね~・・ミサがうるさくて」とサクラさんが笑顔で言った。
「絶妙のタイミングだよ・・今、エミが女性達を戻したよ」と北斗が笑顔で返した。
サクラさんは嬉しそうな笑顔で、フネに挨拶して北斗の横に座った。
「さすがにサクラの娘だね~・・散らない花、サクラの娘だよ」とフネが笑顔で言って。
「嬉しいですね~・・麗しの五月と呼ばれた人の言葉ですから」とサクラさんも美しい笑顔で返した。
私は少し意外でサクラさんの笑顔を見ていた、サクラさんが私の視線に気付いた。
「何かしら・・エース、怖いよ」とサクラさんが二ヤで言った。
『少し意外で・・ユリさんでも、フネとは面識が無かったのに・・サクラさんが仲が良いから』と言って興味津々光線を発射した。
「私はね・・夜街デビューが幻海なのよ」とサクラさんが笑顔で言った、私は驚いてフネにウルを出した。
「もう・・さすがにエースと言われる男だね~。
誰にウルを出せば良いか分かってるんだね・・私が引退して2年後だった。
サクラは19歳で夜の世界に出る、それが幻海なんだよ。
サクラは今でもそうだけど、日本人離れした顔立ちで美しかった。
それに頭の回転が速くて、轟社長も一目で気に入ったんだ。
サクラはブティックを開店したかった、昼間はブティックに勤めていた。
今の蘭と同じで、昼夜働いていたよ・・昼だけじゃ、夢に終わるからね。
サクラは天性の資質が有ったと言えるだろうね、それ程に輝いた。
そして容姿とのギャップになる、会話力を持っていたんだ。
人気は鰻上りでね、その当時のNo1のフロアーリーダーも押された。
そしてNo1がスポンサーに誘われて、独立して店を出た。
サクラは21歳で、幻海のNo1になるんだ・・最年少記録だった。
私が21歳と8ヶ月、サクラは21歳と3ヶ月だった。
しかしサクラはその事実で悩んでしまう、No1になった事で葛藤が生まれる。
サクラの目指す事は、お客にも自然に耳に入った。
だから誘われるんだよ・・幻海の客は金を持ってるから。
金に物を言わすんだ・・そして女性の一時期を奪おうとする。
サクラは丁寧に断り続けた・・店の男にも相談した。
ボーイ頭にも・・自分はそれは嫌だと、相談したんだよ。
だが・・最近轟社長が反省を込めて言ったように、男を育ててなかった。
ボーイ頭は、その程度の事は我慢しろって言ったんだ、馬鹿な奴だった。
もう居ないけど・・そいつは率先して、誘惑する奴にサクラを付けた。
サクラはそれで幻海が嫌になった、そんな気持ちを抱えてる時に出会うんだ。
北斗に出会う・・北斗はサクラ・ユリ・ミチル世代の憧れだったからね。
その生き方が伝説だったし、誰よりも慕われたんだ・・飛鳥よりもね。
飛鳥は強い女を全面に出していたから、近寄り難かったんだ。
女帝候補と呼ばれたし、自分もそれを目指すと公言してたからね。
サクラは北斗に聞かれるままに、その時の気持ちを話すんだ。
そして北斗がサクラをユリに紹介する、それが決め手だったね。
サクラはユリより、学年は1つ上なんだ・・誕生日は5ヶ月しか変わらない。
サクラは一目惚れをしたと言った、そして競ってみたいと心から願った。
それをマダムに言うんだよ、そしてマダムが轟社長に会い宣言するんだ。
サクラを受け入れると宣言する、これは夜街では難しいんだよね。
幻海はトップの高級クラブ、PGはその当時出始めの新しいクラブだった。
そのPGが幻海のNo1を引き抜く、どんなにサクラの選んだ事と言っても。
引き抜いたと取られるんだ、そこが夜の世界の難しさなんだよね。
マダムは宣言して、当然・・轟社長と揉めるんだ。
そして馬鹿なボーイ頭が強引な引きとめ工作をする、それを聞いて行くんだ。
北斗に話を聞いた、梶谷さんが幻海に話しに行く・・それで解決だった。
弁護士が来たんだ・・何も言える訳がない、その件以降だった。
梶谷さんが夜の帝王と呼ばれるようになったのも、その時期だったよ。
轟社長はその時に反省して、ボーイ頭を入れ替えるんだ。
そのボーイ頭とやったのが、リリーなんだよ・・轟社長は後悔しただろう。
エースと梶谷さんを前にして・・サクラの件を思い出した。
自分の成長の無さに、恥ずかしさに・・後悔を抱いたと言った。
梶谷さんの顔を、まともに見れなかっただろうね。
そして夜街のエースが言葉にする、轟社長の心をえぐる言葉を出す。
【奴隷契約】・・圧倒的な表現なんだ、轟さん世代には。
昔の夜の女を象徴する言葉、売られるなんて事実が存在した時代。
誰もが口には出さなかったが、女性達は絶対にそう思ってただろう。
エースは強く言葉にした、夜街の人間に対してはタブーな言葉を。
【奴隷契約】だって、轟社長に迫った・・怖かったらしいよ。
轟社長もボーイ頭もそう言った、沢山の女性達の声が木霊したってね。
この街でそんな事をしたら、生きる場所が無くなる。
轟社長はそう思ったらしい・・だからエースと和解したかったんだよ。
轟社長は本心ではエースが欲しいんだ・・それは分かるよ。
だから派遣を受け入れて、エースの方針を感じたいんだろう。
【奴隷契約】だと叫べる男の考える、次の世界が見たいんだろうね。
加々見さんがエースに興味を持ったのも、この【奴隷契約】だった。
凄いのかもな、その言葉が無意識ででも出せるんなら。
加々見社長も出会う前からそう言ってたよ、嬉しそうだった。
そして出会ってからは、益々のお気に入りになった。
加々見社長も、轟社長も、小林さんにも響いたんだよ。
【奴隷契約】だって叫んだ、夜街に対する・・春雨の叫びがね。
私も本当に嬉しかった、その言葉を叫べる人間がいる事が。
私でさえ嬉しかったんだ・・マダムや松さんは、絶対に泣いたよ。
そして・・真希も泣いただろう、そこまで来た夜街を感じて。
奴隷契約に縛られた女性達の、血と汗と涙で繋いだ世界。
生きる為に売られるという、理不尽な現実・・それを抱えた夜街。
戦後もその影は付き纏った、今でも全てを脱却出来てるとは言えない。
暗い影が付き纏う・・危険な世界を内包してる事実もある。
欲望を商売にするのは、それだけのリスクが有るんだよね。
それでも脱却できる、春雨の叫びはそう言ったんだ。
私はエースが律子の息子だと聞いて、本当に嬉しかった。
あの時の少年だと聞いて・・感動すらした、命に向き合う少年だと聞いて。
あの時・・エースは言ったんだ、未熟児の娘の不安を抱える私の妹に。
この子は大丈夫だよ、健常者だよ。
たとえ健常者じゃなくても、乗り越えられる子供だよ。
小3の少年はそう言った、妹は号泣した・・自分の愚かさを感じながら。
健常者を願う気持ちに、どこか差別的な気持ちを抱いてた自分を感じて。
体の全てが動かない少女を愛する、少年の言葉に触れて。
自分の愚かさを感じたと言ったんだ・・私もそう感じたよ。
あの時のあの言葉には・・強い怒りが混ざっていた、そう感じたんだ。
過去からの言葉だった・・沢山の障害のある、子供たちの声が聞こえた。
その少年が夜街に叫んでくれた・・その本質を問うたんだろう。
【奴隷契約】をまだ続けるのかと、そんな世界なのかと問うた。
轟社長はこの言葉で敗北を認めたと言った、その言葉で恐怖に震えたと。
【今の日本で唯一人、奴隷契約を持ってる・・あんただから】
何も言えなかっただろうね、エースはそんなタブーは知らなかっただろう。
でも言葉に出した・・それはリリーを愛したから、出会った瞬間で愛した。
だから全てを賭けて挑んだ・・【奴隷契約】という過去の呪縛に。
サクラは・・絶対に号泣したよ、この話を聞いてね。
自分の娘に愛情を注いでくれる人間が、夜街に叫んだ言葉こそが。
サクラが拒絶を貫いた、それに対する賞賛の言葉だったから。
飛鳥もユリもミチルも・・そしてリアンもユリカも泣いたさ。
だからこそ・・自分で幻海の復活の手助けをしたんだ。
ユリとユリカという2枚看板、圧倒的な夜街の意志が強く動いたんだ。
次の世界を切望すると、その背中が強く伝えたんだろう。
タブー無く語りかける、春雨の叫びを背負ってね。
ありがとな、エース・・私は本当に嬉しかったよ」
フネの言葉が響いて、私は嬉しくて笑顔で返した。
モニターの画像には、5つの敵潜水艦を破壊して、軍服の骸骨に囲まれる真赤な潜水艦が映っていた。
潜水艦の中の女性達は前だけを見ていた、奴の策略には目もくれなかった。
「入口が閉まっていきます!」と秀美が叫んで、管制室の全員もモニターに集中した。
光の壁の入口は、ゆっくりと閉じていた。
「全速前進・・潜水艦は無視して、突っ込むよ」とユリカが叫んだ。
「了解」と操縦席の3人が返して、蘭がアクセルを踏み込んだ。
母艦は光の壁に向かって進んでいた、その時に敵の大型潜水艦から魚雷が撃たれた。
「魚雷確認・・2発、右25度・・到達まで40秒!」と秀美が叫んだ。
「迎撃魚雷・・発射せよ」とユリカが前を見て叫んだ。
「敵魚雷・・2発ロック・・迎撃魚雷、発射」とネネが言って発射した。
迎撃魚雷が2発とも命中して、大爆発が起こった。
潜水艦は大きく揺れて、光の壁の方に流された。
しかし方向がずれて、入口からは遠ざかった。
入口はかなり閉じていて、間に合わないと思えた。
「入口の開放の方法は後で探す・・残りの潜水艦を先に撃沈する」とユリカが指示を出した。
「了解・・体勢を立て直す」とリアンが操縦席の3人に指示を出した。
「敵大型潜水艦・・ロック・・攻撃魚雷2発発射」とネネが叫んで魚雷を発射した。
魚雷は敵の潜水艦に命中して、大爆発して消えた。
大量の軍服を着た骸骨が、潜水艦の周りに漂って来た。
「光の壁に・・何か有ります・・もう少し上です・・小さな金属板です」と秀美が言った。
「よし・・見に行こう」とユリカが言って、リアンが指示した。
女性達は集中して、間近に見える光の壁を見ていた。
その視線に小さな発光する金属板が見えた。
「有った・・ここにあります」と横の窓を見ていたシノブが叫んだ。
「カメラを振って・・モニターに出して」とユリカが言って、秀美がカメラを向けた。
その金属板には、数字キーが付いていて、上部の表示板に文字が出ていた。
【8桁の暗証番号を入力せよ・・3回のミスで永遠に閉じる】と書かれた文字が流れていた。
「8桁の暗証番号!・・難問だね~」とシズカが叫んだ。
「3回のミスで・・永遠に閉ざされる設定か~」とユリカが二ヤで言った。
「マリがいないんだ、私達で導き出すしかないね」とリアンが言って、センターの広い空間に全員が集まった。
「暗証番号を自分で設定する時に、1番多いのが・・生年月日ですよね」と千春が言って。
「そうなんだよね~・・西暦で入れれば8桁になるよね」と千夏が言って。
「なら沙紀ちゃんの生年月日だね」と千秋が笑顔で言った。
「誰か・・沙紀の生年月日を知ってる?」とユリカが聞いた。
「5月23日です・・9歳だから、196○年の」とカレンが笑顔で答えた。
「さすがカレン・・よく覚えてるね~」とリアンが極炎ニカで返した。
「はい・・父の誕生日と、1日違いですから」とカレンが笑顔で返すと、女性達の笑顔がカレンに集まった。
「それが1つの案だね・・後は何か無いかな?」とユリカが笑顔で言った。
「沙紀が描いた誰かの絵に、数字は無かったの?」とミコトが聞いた。
女性達は自分の絵を考えていた。
「あの~」と自信なさげに、シノブが小声で言った。
「何ですか、シノブ・・何でも良いから言ってね」とユリカが笑顔で聞いた。
「幻海が頂いた、あの海の絵なんですけど~。
サインの横に8桁の数字が有ったんです、00000054だったんです。
私はシリアルナンバーかと思ってたんですけど、皆さんに無いのなら。
違うのかな~と思って・・それで気になって」
シノブが最後に笑顔で言った、女性達にも笑顔が溢れた。
深海の入口の鍵を開く暗証番号、それを沙紀が提示したのか?
3回で正解しないといけないと言う、プレッシャーが惑わしていた。
女性達は真剣に考えていた、美由紀は深海の底の光を見ていた。