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      【冬物語第二章・・心遊び④】 

特別と表される基準には、通常とか普通という設定がある。

理解し難い事に対して、人は簡単に特別という表現を使う。


だからこそ特別視という言葉が、危険で陰険な意味と成っている。

その言葉で表現されている、特別という差別的な感覚が。


大きな空間に集まった女性達に、笑顔が戻っていた。

私は確実に進む準備を楽しみながらも、大きな不安要素を抱えていた。


「DNAか~・・そこなんだろうね」と北斗も笑顔に戻って言った。

『北斗・・もう良いんだよ、責任なんて誰にも無いよ』と私は真顔で返した。


私は分かっていた、北斗が宮崎に帰ってきた最大の理由を感じていた。

北斗は自分を責めていたのだ、多分旦那も心のどこかでそう思っていた。

北斗はそれを感じて耐えられなくなって、帰郷を決意したのだろう。


2人は由美子の難病の原因に、北斗の経験を繋ぎ合わせていたのだ。

北斗が仕事で酒を飲んで過ごした時間が、由美子の難病の一因だと感じていた。

確かに妊娠中の飲酒は、胎児に悪影響が出ると言われている。

しかし北斗はプライベートでは、滅多に酒を飲まない。

当然妊娠中は全く飲んでいなかったし、妊娠前もほとんど飲んでいなかったのだ。

ヒトミの母親は酒の飲めない体質だったのだから、それは関係無いと言えるだろう。


だが人は責める原因を探し出そうとする。

特に由美子の様な原因不明の難病では、それが如実に現れる。

北斗は自らを責め、旦那も行き場の無い感情をその方向に向けた。

極限の精神状態になると、それが表に出てしまうのである。


「エース・・私はまだ間違っているよね?」と北斗は静かに聞いた。


『俺は何度も言うけど、良し悪しで判断はしない。

 でも・・北斗の気持ちは感じてるし、北斗を大切に想ってる。

 だからタブー無しで話してる、北斗・・自分を責める必要は無いよ。

 その行為こそが、由美子を傷つけるんだよ・・由美子は感じるからね。

 北斗・・ヒトミの母親の言葉を伝えるよ。

 俺がヒトミの願い・・左手に誘う話をした翌日、母親がこう言ったんだ。


 私はヒトミが、ただ生きていて欲しいなんて思わないよ。

 ヒトミには意志があるんだから、自分の望む事をして欲しい。

 それにより時間が短くなろうとも、私はそれを望むよ。

 私は母親だから、娘に対しての最大の望みは・・娘の望みだよ。

 それを叶えようとする事なんだよ・・だからヒトミの望みを叶えて。

 私はそれで良い・・死ぬ事に大きな意味を持たない。

 漠然と生きて欲しくない・・私の娘ならば、最後まで挑戦して欲しい。

 勝利も敗北も無い戦いから、逃げずに最後まで戦って欲しい。

 私の唯一の望みは・・ヒトミの望みと同じなんだよ。


 母親は強く言ったよ、俺は嬉しかったよ・・理由無く嬉しかった。

 そこに至るまでの、母親の苦悩なんて絶対に分からない。

 だけど本心だと感じたんだ・・それが嬉しかったよ。

 北斗・・由美子が生きている事だけを望むな、それは北斗の望みじゃない。

 由美子の母親である北斗の望みは、由美子の望みと同じだと俺は確信してる。

 大丈夫・・絶対に由美子は何かの犠牲にはならない、それは絶対にさせない。

 カリーとヒトミがそれを許さない、この場所にいる全員も。

 5人娘も・・ミホも沙紀も・・律子も和尚も・・ユリアも五平も。

 そしてリンダとマチルダも・・それだけは絶対にさせないから』


私はヒトミの母親とのシーンが蘇り、感情的な言葉で伝えた。

北斗の涙を見ていると、北斗が笑顔に戻り強く頷いた。

私はそれだけで嬉しかった、北斗の完全復活の証のようで。


「由美子は大丈夫・・どんな難関も笑顔で乗り越える・・北斗さんの娘だから」とマリが強く言葉にした。

北斗の喜びの笑顔が爆発した、マリの言葉には表現出来ない説得力が有った。

女性達もマリの言葉で笑顔に戻った北斗を見て、笑顔が溢れ出していた。


「じゃあ・・最後に私からの質問だね。

 私もタブー無しで質問するよ、これは全員が興味のある事だから。

 でも・・興味本位で聞くんじゃないからね、そこは分かってね。

 私はマリちゃんに質問します、マリちゃんがエースに出す提示。

 予言とまで言われる、その感覚は・・どんな時に、どんなタイミングで。

 どんな感じでマリちゃんの中に現れるの?・・意識してるの?

 それとも無意識に現れるの?・・映像で出るの?・・言葉なの?

 マリちゃん・・気を悪くしないでね、私は知りたいのよ。

 あの沙紀ちゃんの暗黒の世界で、マリという女性を好きになったから。

 常に沈着冷静で、自分を信じ続ける・・その勇気に触れてね。

 言える部分だけで良いから、話してくれないかな」


ミチルは妖艶笑顔で言った、恐ろしい程の女性達の興味津々光線がマリに降り注いだ。

マリは笑顔で返して、美由紀を見た。


「美由紀・・同調で話すから、お前が言葉にして伝えて」とマリが同調で言った。

この同調の言葉は、美由紀とユリカと私の3人だけが感じたようだった。


「了解」と美由紀はマリに言葉で返して、ニヤで女性達を見た。


「マリちゃんが同調で話してくれるから、私が言葉にしますね」と美由紀が笑顔で言った。

「うっそ・・最高だよ、ありがとう・・マリ」とセリカが流星で微笑んで。

「どうしよう・・ワクワクが止まらない」とリリーが嬉しそうな笑顔で言った。

マリがリリーに笑顔を向けて、同調で話し出した。


「私の小僧に対する、提示と言われてる言葉ですが。

 提示などと言う、大袈裟な物じゃないと・・私自身は思っています。

 もちろん予言などと言うのは・・小僧の悪乗りです。

 私がこの感性に気付いたのは、小1の時です・・父親の危険を感じました。

 内容は言えませんが、それが当たって・・両親の驚きを感じた時です。

 その時に、私は普通じゃないと感じました・・私は怖かったんです。

 両親の驚きの中に、微かな恐怖心まで感じてしまって。

 その頃の私は自分が選択して、養護学校に行っていました。

 言葉を持たない私には、その方が精神的に楽だったからです。

 だから人間関係の殆どは、両親だけでした・・全ての感覚は両親に向いていた。

 私は両親の恐怖心を感じて、自分の感性が怖くなりました。

 だから遮断してたんです、無意識に両親を客観的に見るようになりました。

 そうする事で鋭く感じる何かが発動しないから、そうして過ごしてました。

 誰にも私の感性を向けずに、1人の障害のある子供として。


 そして小4で小僧に出会います、私は漠然と出会える事は知っていました。

 瞳を読み取れる少年に出会う、その映像は見ていましたから。

 私が自分に対して感じたのは、小僧と美由紀との2つの出会いだけです。

 その頃の私は、臆病な自分が嫌になっていて・・小僧に見せました。

 トランプで私の感性を見せたんです、その時に小僧が純粋に褒めてくれた。

 それが嬉しくて、私の感性を小僧に向ける決意をしたんです。

 そう決意した瞬間に、小僧が私の同調に無意識に入って来たんです。

 本当に驚きました・・会話が出来る相手を感じて、嬉しくて泣きました。

 その事で感性が上がったんでしょう、脳裏に沢山の言葉が浮かびました。


 私の小僧に伝えた言葉は、私の中に文字で浮かぶんです。

 でもそれは日本語や英語というような、現代の文字ではありません。

 私はなぜそれが読めて、日本語に翻訳出来るのかさえ分かりません。

 完璧な無意識ですね、どんなタイミングで出るのかも分かりません。

 もちろん意味も分からないんです・・小僧の未来に関係があるのか。

 それも自信は無かったですね・・自信が持てたのはヒトミの登場からです。

 小僧に対するこの言葉は、同調で1度伝えると私の中から消えます。

 小僧も和尚に伝えると、不思議に消えると言ってます。

 そういう物なんでしょうね・・自分の中だけに持っていろって事でしょう。

 小僧は持っていたくないから、和尚に話しますよね。

 そこが小僧の良いとこであり、私が小僧を信頼する部分です。

 

 私は小僧の事だけは、小僧が強く感じた部分は読めます。

 もちろんユリカ姉さんのような、リアルタイムで読める訳じゃありません。

 再会した時に、その部分だけ読める・・読書をするような感覚ですね。

 今は小僧を常に近くに感じるから、かなりの部分は感じますね。

 それに小僧が関わってる、病の子供達の事は感じます。

 美由紀と秀美も含めて・・その強い意志と現状は感じますね。


 私が自分から読もうとするのは、生命に対する悪意に対してだけです。

 本当に自分が興味を持っている物にしか、想定を読む事は出来ません。

 それは命に関わる・・生命に対する悪意にだけなんです。

 私は自分を特別だと思った事は1度もありません、特殊だと思ってました。

 小僧に出会うまでは、自分の感性が嫌いでした・・邪魔だったから。

 それを好きになったのも、感性の意味を感じたのも、ヒトミの存在です。

 ヒトミの存在を小僧と美由紀から感じて、自分を少し好きになりました。

 それで感性が次の段階に入って、私はその制御が出来なかった。

 元来臆病な私は、それで混乱して・・結局、ヒトミに会いに行けなかった。

 その事だけは、今でも後悔しています・・臆病で愚かな行為だったと。


 あの沙紀の暗黒の世界で、私が勇気ある行動が出来たのは。

 ヒトミと同調してたからです、ずっとヒトミが私の中にいました。

 だから勇気が持てました、そして最終段階を感じていたから。

 ミホの沙紀に対する強い想いを感じてました、それが嬉しかったんです。

 真の意味での勇気を持つ、ミホの強い愛情が背中を押してくれました。

 あの炎に走る時に、炎の向こうにミホが見えていました。

 最終段階で現れるミホを正面から見たい、絶対に目を逸らしたくない。

 私がそう思っていると、ヒトミが伝えてくれました。

 少しでも逃げたら、ミホを正面から見れないよ・・沙紀が見てるよ。

 この言葉が私に勇気をくれました、だから迷いも消えました。


 私は沙紀に教えられたんです、あの暗黒の世界で教えてくれました。

 逃げたら駄目なんだと、沙紀が伝えてくれました。

 私の感性は特別な物じゃありません、ただ残ってるだけだと思います。

 人間が進化の過程で捨てた、古い感性を引き出せるだけだと思っています。

 私なんて普通だと痛感させられる存在が、今は2人いますから。

 今の学校に一人と、幼い少女が一人存在します・・だから私は特別じゃない。

 そう思えることが、嬉しいのです・・それが私の感じてる事です。

 言葉で上手く表現出来ないから・・質問を受け付けますね。

 当然のように・・最初はユリカ姉さんですね、怖いですよその光線」


美由紀が言葉にして、美由紀もマリもユリカをニヤで見ていた。

ユリカも最強爽やかニヤで応戦して、それを見て女性達もニヤを出した。


「それじゃあ質問するね・・マリを普通だと感じさせる2人。

 その2人の感性は、どういう物だと感じてるの?」


ユリカは笑顔で聞いた、楽しそうな笑顔だった。

マリはニヤで返して美由紀を見た、美由紀は笑顔で頷いた。


「まず・・同級生である少女、その感性は想像も出来ません。

 私は学校で同調できるのは、その子だけなんです。

 だから1番の仲良しですけど、その子の同調への進入方法も分かりません。

 全く違う入り方なんです、会話してる感覚が違いますね。

 その子は不思議な子で、自分の感性を出す事もありません。

 それでもクラスの障害のある子達を纏めて、各自に指示を出せます。

 全員がその子を信頼してますね、それは教師でも感じてるようです。

 私はその子のフォローをするだけです、精神的には私もその子を頼っています。

 最近私は言葉を使いますから、先生方は私に依頼してくれますから。

 私が物理的にフォローして、その子がクラスの精神的な支柱ですね。

 それにより、今の特別クラスは素敵な空間になっています。

 私との力の差を表現するのなら・・例えば、姿無き男の設定でも。

 私は設定してる部分しか、感じる事は出来ません・・それもかなりアバウトです。

 その子がもしそれを読めるのなら、設定してない結末まで読むでしょう。

 それ程の力の差があります、リトルリーグとプロ野球位の差がありますね。


 もう一人は・・最近よく皆さんの話題になる少女です。

 そう、モモカですね・・私は出会った時に、衝撃さえ受けました。

 純粋無垢という圧倒的な力に触れて、心が鷲掴みされた感じでした。

 私は小僧がどんなに衝撃を受けても、モモカとの事は読めません。

 小僧とモモカの2人だけの世界で、モモカが伝えた事は読めない。

 隠されているのでも、消されてるのでもない・・結界のような感じです。

 美由紀がモモカを表現した、境界線の中にいる・・あれは結界ですね。

 小僧とモモカとマリアしか入れない、結界に仕切られた世界です。

 生命の源・・水源と表現されるモモカは、風に乗り想いを伝える。

 多分・・姿無き男は恐れ続けるでしょうね、モモカとマリアだけは。

 絶対に手が出せない、境界線の中に存在しますから。


 私も姿無き男に、契約を迫られた事があります。

 言葉と文字の復活と交換に、私の感性を差し出せと言われた。

 その時は作為だと感じて断りました、邪魔だと思ってた感性でしたが。

 それを持っている事に対するペナルティーが、言葉と文字であるのなら。

 大きな意味が有ると感じて、契約を断りました。

 言葉も文字も何かに封印されてるだけ、ならば取戻せると確信できました。

 確かに小僧の言うように、姿無き男は無意味な事はしません。

 そして当事者を守ろうとする行為だとも思います、私は最近そう思ってます。


 沙紀の暗黒の世界には、安全地帯が有りましたよね。

 赤い正方形が・・その場所に沙紀を連れ出し、そこで怖い映像を見せる。

 でもその事により、沙紀は喘息の発作の恐怖からは抜け出せる。

 小僧もそう思ってるようですが、あの暗黒の世界で奴は沙紀を守っていた。

 私もそう確信的に思っています、だけど小僧はその世界を壊しに行った。

 それは沙紀に対して、本気で自立を望んでいるからでしょう。

 小僧が沙紀に対して自立と表現する時は、奴からの自立を意味しています。

 奴はどこから来て、どこで産まれたのか・・小僧はそれを探しています。

 想定も想像も徹底的にやった・・ヒトミを見送ってからずっとです。

 原作者、小僧はそこまでの表現に辿り着いた・・でも私には違う事を言った。

 そこまでは話します・・小僧は私に同調でこう言いました。


 原作者って・・翻訳家って言うか、ノンフィクション作家じゃないのかな~。

 事実を書き残すのが役目で、記録するだけの係りなんだよ。

 絶対に伝える事が許されない、直接的なヒントは出せないんだね。

 でも知っている・・記録係なんだから、全てを知っている。

 悪意の意味を知っている・・だから守ろうとする、その方法は1つなんだ。

 唯一伝える事を許される方法が、自分が悪役になる事なんじゃないのかな。

 大切な心を守るために、自分が悪役になり恐怖を感じさせる。

 その中にヒントが隠されてるよね、奴は絶対に勝とうと思っていないから。

 気付いてくれと言ってる気がするよ・・誰かが気付いてくれってね。

 だから俺達に難問を出し続ける、その問題にこそヒントが有る。

 そんな感じがするよね・・だって奴の恐怖には、快感は付いてないから。


 小僧はそうニヤ顔でそう言いました、私は感心してました。

 小僧は特別な物を何も持たずに産まれてきた、律子母さんも同じです。

 和尚もそうだと言いました・・そして仙人和尚も、経験で得たと言った。

 得た事には絶対に大切な意味が含まれている、だから捨てたら駄目よ。

 私は律子母さんから、強くこう言われました・・嬉しかったです。

 ヒトミに会いに行けなかった自分を忘れないで、そして準備をしなさい。

 律子母さんは最後に厳しい口調で、私にこう伝えてくれました。

 その帰りです・・私が駄菓子屋の前を歩いてると、春風が吹いてきました。

 私は背中から聞こえた声で、完全に凍結しました・・動けなかった。


 モモカ・・分からないの・・特別って、いけない事なの?

 特別じゃないって、どんな事なの?・・誰が決めたのかな~。

 モモカは全員が特別だと思うのに・・人も動物も植物も、みんな特別なのに。

 生きてるものは・・全員が特別だよね・・人だけが特別じゃないよね。

 モモカ・・分からないの・・マ~リも特別なのに、どうして嫌いなの?

 マ~リだけじゃないのに・・草も木も見えない虫も、全員が特別なのに。

 ど~して・・人だけを区別するのかな~・・同じなのにね。

 変だよね~・・全員が揃ってないと、全員が困るのにね~。


 私はこの春風の囁きで、自然に涙が溢れました。

 それまで強引に抑えられてた、感情表現を凍結させていた氷が融けた。

 そんな感じでしたね・・私の心も狙われました、透明な春風の弾丸に。

 春風の囁き・・その大切な意味に気付きました、春を呼込むという意味に。

 体の内側に強制的に抑えられてる、それは氷に覆われている。

 融かす方法は1つ・・自然の摂理に逆らわない、春になれば融ける。

 だから感じるべきは、自分の心の位置・・極に存在しないか。

 春の存在しない・・北極や南極に存在してないのか。

 春風の届かない・・深海や宇宙に存在してないのか。

 そう問いかけられて、私の氷は消滅しました・・春の到来で。

 自然の摂理で、生命を育んだ地球の力で・・私の感情表現も言葉も復活した。

 私も届けたい・・大切な妹の沙紀にだけでも、春を届けてみたい。

 影響力なら、沙紀は私を遥かに上回っている・・あの描写力で。

 沙紀なら沢山の同じ病と診断された子供達に、届けることが出来る。

 春を届ける事が出来る・・あの名画【父の卒業証書】で確信しました。

 沙紀は今現在でもこだわっています、春の到来を切望してる。

 そして伝える側に成りたいと思ってる・・春を伝えたいと思っていますね。

 あの桜吹雪・・そこに込めてますよね、沙紀も・・そして、モモカも」


マリは笑顔で一気に伝えた、美由紀の変換速度も速かった。

女性達は笑顔で聞いていた、そして感じようとしていた。


私はマリと心の同調を感じていた、それにより自信が持てていた。

マリは正直に自分の気持ちを表現した、信頼関係の次の段階に踏出した。

マリは自分に対してのタブーを取り払った、女性達との関係を深める為に。


マリの強烈な変化の幕開けだった、マリは悪意の意味に近付いていた。

マリは誰にも止められない、強固な意志という鎧を着ているのだから。

マリの進軍を止める事は出来ない、マリの基準は0に戻るなのだから。

敗北は0に戻るだけ、そしてマリの心は常にそれを望んでいる。

リセットでない、0に戻る事を恐れない・・正に無敵の心を作り出したのだろう。


「沙紀は憧れの女性に託していますね、春の到来を教えて欲しいと。

 沙紀が最初に桜吹雪を描いたのは、ユリカ姉さんの絵だったですよね。

 桜の波動に憧れて、ユリカ姉さんとユリアに強いメッセージを送った。

 そして大切な友である、カレン姉さんにもメッセージを送った。

 沙紀は切望しています、自分も卒業したいと・・そう願ってる。

 固く閉ざした氷の世界・・その極寒の冬からの卒業。

 沙紀の絵には表現されていますね・・沙紀の心が表現されています。

 沙紀にとって絵を描く行為は・・沙紀の大切な、心遊びなのでしょうから」


マリは笑顔で前を見て、美由紀も嬉しそうな笑顔で伝えた。


「ありがとう、マリ・・あなたに会えて、本当に良かった」とユリカは潤む瞳で静かに言った。

静寂の言葉に温もりが有り、それを強烈なユリアの波動が後押しした。


マリは嬉しそうな笑顔で返した、圧倒的な何かが、マリの背中から溢れていた。


「マリちゃん・・あなたは気付いてたんですね、自分の経験で。

 今日、モモカが沙紀に伝えた言葉を聞きました、エースは誤解してましたね。

 でもあなたは分かっていたんですね、エースが気付くまで待っていた。

 準備してるんですね・・徹底的に準備する、その教えはシズカからですね。

 問題は位置ですね・・楽しみになりました、沙紀の絶望の世界が。

 女性達が何を感じ、何を伝え・・そして何と解答するのか。

 エースは不安を解消しましたね、そして私達も解消しました。

 楽しんで見させて貰いましょう・・女性達の心の位置を」


ユリさんは薔薇の微笑みで言った、しかし言葉には厳しさが有った。


「そうだね~・・楽しみだよね、全員が特別なんだから」とミチルがニヤで言って。

「全員が特別ならば、全員が特別でない・・和尚様のあの言葉だね、期待してるよ」と大ママもニヤで言った。

女性達も集中の中で、美しい笑顔で返した。


「始めましょう、1行流し・・心を遊ばせる訓練を」とユリカが微笑んで、全員が笑顔で頷いた。


私がTVルームに歩こうとすると、沙紀の手を引いたミホが現れた。

ミホは沙紀の画材を持っていた、沙紀はミホに手を繋がれて嬉しそうだった。


私は2人を6番に座らせて、沙紀の絵を描くのをミホと見ていた。

ミホの瞳は真剣に沙紀の指先を見ていた、沙紀は白い世界に入っていた。


そして沙紀が描き出す、私は凍結状態でその指先を見ていた。

耳だけは女性達の方に向けて、視線は沙紀の指先を追った。


沙紀はいつものように、輪郭を迷い無く一気に描いた。

細面の大きな輪郭が、薄い下書き用の鉛筆で描かれた。


ミホは集中して沙紀の指先を見ていた、それは久美子の指を追っている時と同じ集中だった。

沙紀はミホと私の視線を気にする様子も無く、ただ白い画用紙だけを見つめていた。


沙紀は次に瞳を描いた、丹念に緻密に薄い線で描き出した。

その段階でその女性の美しさが引き出されて、私は誰だろうと思っていた。

私の知る女性でない事は分かっていた、その美しさは出会った事の無い者だった。


沙紀は下書きなので、陰影を付けずに描いていた。

鼻筋の線を薄く入れて、髪は流れだけを描いた。

それまでの沙紀の作品としては最大の大きさで、美しい女性の顔が浮かび上がった。


《綺麗な人だな~・・誰だろう》と私は心に呟いた。

ユリカのワクワク波動と、ユリアのニヤニヤ波動が別々に来た。


女性達は円を描いて、準備をしていた。

そこにマユが現れて、美冬の横に入り説明を受けていた。


沙紀は女性の顔の横に、幼い少女の横顔を描いた。

モモカ位の可愛い少女が、母親に抱かれてるようだった。

沙紀は少女の横顔を描いていた、沙紀が一筆ずつ足していく度に、少女の表情が変わっていった。

そして沙紀は仕上げに少女の口元を描き、少女の溢れ出す笑顔を完成させた。


《母親なんだ・・でも少女はモモカじゃないよな~》と私は心に呟いた。


「沙織・・ちょっと待って、私は集中できないの・・エースが意地悪するから」とユリカがウルで言った。

「沙紀ちゃんの絵ですね・・小僧は困った奴ですね~」と沙織がニヤで返した。


「大ママさんと、ミチルさんと北斗さん・・そしてマキ姉さんが確認して下さい、沙紀絵のモデルを」とマリがニヤで言った。

マリの言葉で4人が不思議そうに立ち上がった、女性達も4人の指名の意味が分からなかった。


私もこの4人の関連性はすぐに分からずに、4人が歩いて来るのを見ていた。

そしてマキの笑顔で理解した、マキは指名されたメンバーで感じていた。


私は絵のチェックをしてる、沙紀の右手を握った。


《沙紀・・この絵はマキのお母さんなの?》と温度だけで聞いてみた。

《うん・・そうだよ、マキ姉さんのお母さん・・綺麗だよね~》と沙紀は返してきた。

《いつ見たの?》と私は慌てて聞いた。


《駄菓子屋さんで・・ヒトミちゃんが連れて来たよ。

 ユリアちゃんが見せてくれたよ、マキ姉さんの横にいるお母さんを。

 ヒトミちゃんからのプレゼントだよ、マキ姉さんに感謝を込めてって。

 だから私に描いてねって言ったよ、プレゼントしたいからって。

 マキ姉さんね、お母さんと2人で写る写真が無いんだって。

 だから私に描いてって・・ヒトミちゃんが言ったんだよ》


私は感動しながら、沙紀の温度の伝達を聞いていた。

次の瞬間に、マキが泣きながら沙紀を抱きしめた。

沙紀もマキの背中に腕を回し、嬉しそうに抱かれていた。


私の横には凍結して泣いている、大ママの嬉しそうな笑顔があった。

そしてその横で抱き合う、北斗とミチルの美しい泣顔があった。


「沙紀・・お前は最高だよ、間違いなく・・真希姉さん、その人だよ」と大ママは涙の笑顔で沙紀に言った。

その言葉で女性達が全員慌てて立ち上がって、絵を見に来た。


「下書きで存在してる・・あの真希姉さんの、溢れ出す温もりと輝きが」と北斗が泣きながら呟いて、ミチルも笑顔で頷いた。


沙紀はマキを見ていた、マキは沙紀の手を握り絵を見ていた。


灼熱のマキは復活を主張した、その瞳の奥には確かに有った。


西洋人の血が確かに流れていた、彫りの深い横顔と少し赤い髪にも。


マキは沙紀の世界で封印を解くのだ、父を封印した偽りの心を・・。



 



 


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