【冬物語第二章・・心遊び③】
解り易く説明する為に、画像として表現する。
その画像の根拠はイメージではない、形成された姿であろう。
生命に完成型は存在するのだろうか?未完成とは危険な物なのだろうか?
完璧などは存在しない、それが生命という物だと感じる。
今が完成でないのだから、可能性があるのだから・・繋いで行くのだろう。
理由も意味も求める必要は無い、今はまだ未完成なのだから。
沙織の話しは削除されていた、ヨーコの理由に関する部分が。
後輩である沙織では話せない、それはヨーコの根源的な部分であるのだから。
ヨーコは久美子にも秀美にも、自分から話していた。
そこがヨーコの強い部分であり、施設で育った意味だったのだろう。
ヨーコは確かに可愛い少女だった、遠目でも感じる強いオーラを発していた。
東京PGが開店して、最初に芸能事務所からスカウトされたのも、応援に来ていたヨーコだった。
大手TV局でバイトしていた、私の宣伝効果もあって。
東京PGには大くの芸能事務所関係者が来店していて、本意なのかどうなのかは定かでないが。
何人もの女性がスカウトされて、東京採用の若手女性3人が芸能界にデビューした。
成功と呼べる場所まで到達したのは1人だったが、その子もずっと夜の世界と関わった。
私はヨーコを欲しいと言って来た、大手芸能事務所の社長と話した。
ヨーコは誘いを断り続けていたが、社長の熱意は冷めなかった。
何度も宮崎まで自らが説得に来ていた、大ママはもちろんヨーコの自主性に任せた。
その社長は大切なお客でもあったので、困ったヨーコから私に相談が有ったのだ。
私も社長と懇意にしてもらっていたし、ローズの引き抜きでは世話にもなっていた。
『社長・・ヨーコの芸能人としての魅力って、百恵みたいな感じですか?』と笑顔で聞いてみた。
社長の妾が経営する銀座の最高級クラブのBOXで、社長と2人で飲みながら。
「そうじゃないよ・・私はヨーコの潜在的な魅力の大きさに惹かれてる。
小僧が百恵を出すのは、育った家庭環境の問題と言いたいんだろ。
確かに百恵は影のある少女だった、その影を纏うオーラが凄かったよ。
しかし百恵があそこまで受入れられるとは、関係者の誰も予想しなかった。
そこそこ売れれば良い・・最初はそんな感じだったよ、関係者全員がね。
だが世間は求めたよね・・百恵という存在を、求め続けた。
明るい天真爛漫な少女が、それまでのアイドルと呼ばれる存在だった。
永遠の処女性のような、男の幻想を背負い・・現実とのギャップの中で生きる。
成功すればするほど、過密な仕事をさせられる・・そして自由を奪われる。
選ばれし人間にしか成れないんじゃないよ、自らが選んだ人間にしか出来ない。
それほど過酷な世界なんだよ、自分自身を商品にするというのはね。
私がヨーコに惹かれ続けるのは、その根底に流れる魅力なんだよ。
ヨーコは今22歳だよね、当然アイドルとしては遅いんだが。
ヨーコはマルチで行けるだろう、最後は役者で大成すると思ってる。
私はヨーコの生立ちは隠してても良いんだ、そんな過去に頼る必要は無い。
百恵だって隠していたよね、真実の生立ちは隠した。
ヨーコの持つ魅力には、それは関係が無い・・そこがヨーコの凄い部分だよね。
小僧はそれを伸ばして来たんだろ、男にしか感じない魅力だよな。
その姿には幼少期の暗い部分も、淋しかった現実も映っていない。
私はヨーコが欲しい・・見たいんだよ、ヨーコがその時にどう輝くかが。
今までに無い、それこそがヨーコの魅力だよな・・裏付の有る魔力的母性だよ。
男は追い求めるだろうね・・ヨーコの持つ母性とは、男には永遠の魅力だから。
ヨーコは21歳にして、強い母性を持っている・・聖母マリアのイメージでない。
どこか魔女的な、触れるのが怖いような・・魔力染みた母性だよね。
だが触れずにはいられない、男がどこかで求め続ける世界が、ヨーコには有る。
ヨーコの魅力は、母性の魔力・・魂と交換しても良い、そう思わせる物だよな」
社長は酔いも回って、ご機嫌な笑顔でそう言った。
しかし笑顔とは裏腹の、真剣な瞳を私に向けていた。
『確かにそうですね・・ヨーコの魅力は、母性の魔力でしょう。
だからこそ、それを選んでしまう・・離れられない。
大切な同じ境遇の弟と妹の側を、離れる事は出来ないでしょうね。
社長の話を聞いて、俺も見たいと思いましたよ・・スクリーンに映るヨーコを。
確かに追い求める存在かもしれない・・男は追い求めるでしょう。
ヨーコの魔力には逆らえない、そこには処女性なんて幻想は存在しない。
でもリアルじゃない、どっか非現実的な要素・・若さに求められない世界。
ヨーコはそれを持ってますね・・強引に惹き付ける、母性の魔力を』
私も笑顔でそう返した、自分の勘違いに気付きながら。
「残念だよ・・私はまた1人、大切な存在を諦めないといけないようだね」と社長は静かに言った。
『俺も同じ想いを感じた事があります、1人の女王を諦めないといけないと・・もちろん、ヨーコで』と笑顔で返した。
「提案し続けてくれよ・・新しい感性と魅力をね、何度でも引き抜きに行くよ。
価値観は変る・・時代が望む個性も変化するだろうね。
1つの世界に留まっては感じないだろう、私達は商品を探してるのではない。
理想を追い求めてるんだ・・今以上という、ゴールの無い理想をね」
社長はそう言って笑っていた、私も笑顔で頷いて返した。
私達の横のBOXには、理想を持たない大物政治家がニタニタ顔で座っていた。
腐臭を撒き散らし、無駄な行為を繰返す・・権力という魔力に侵された人間が。
私は集中の中にいた、虫唾の走る人間を観察しながら・・策略を作り上げた。
その後の私の後ろ盾になる、大きな貸しを付ける・・その夜が来ていた。
私は心の中で悪魔と取引をした、屍の沼に自分から入る覚悟を決めていた。
緻密な作戦を作り上げ、最も嫌う人間を見ていた。
世間知らずの理屈屋に、演説と言う空虚な言葉しか持たないゾンビに合わせた。
私の言葉の達人としてのプライドの、照準を合わせていた。
吐き気に襲われながら、悪臭に耐えながら・・息を止めて狙いを定めた。
心のテーブルに蘭を乗せて、ユリカの緊張した波動に包まれて。
話を戻そう、大切なあの空間に。
沙織のためらいがちな表現に触れ、女性達は自分の想定を入れたのだろう。
会話のプロである接客業の女性達であるのだから、かなりの想定は出来ていた。
「沙織じゃ話せない部分が多いよね、後輩である沙織だからね。
私が聞きたいのは、リンダとマチルダに対するエースの想いなんだよ。
あの2人は不公平と戦ってるよね、それは競争の部分を認めながらだよな。
今の世界にある競争原理は認めた上で、不公平と戦っている。
エースは絶対に読んでいる、マチルダの想いは強いはずだから。
自然に瞳を読んだろう・・抱っこもしたし、温度でも感じてるよな。
リンダは日本語を話せないから分からないが、それでも何かを感じてる。
もちろん、その感じた事を話せなんて言わない・・エースの想いが知りたい。
タブー無しの世界・・絶対にリンダもマチルダも、追い求めてる世界だよな。
ヨーコの美由紀に対する言葉にも有った、不平等だから満足しない。
施設で育ったヨーコが感じてる、不平等・・それも聞きたいけど。
私はそれにするよ・・エースのリンダとマチルダに対する想いに」
リアンが強くそう言った、私は笑顔でリアンの炎を見ていた。
『俺はあの路地でリンダを見た時、当然のように凍結したよ。
なんせブロンドのブルーの瞳だったから、初めての完全凍結だった。
リンダは少女ぽいよね・・俺も18位だと思ったんだ、それで手を出した。
NOと言って手を出したんだ、その時も瞳は読んでいない。
読めなかったというのが事実かな、その美しいブルーに目を奪われてた。
でも・・手を握った瞬間に衝撃を受けるんだ、その伝達してくる強さに。
俺が由美子に出会った時に、ヒトミがアドバイスしてくれた。
俺の台詞を真似て、ユリアの波動に温度を乗せて言った。
温度は世界共通言語だって、でも俺はリンダの温度の言葉は分からなかった。
西洋人は強いのかなって、漠然とそう思って水槽の喫茶店に歩いた。
その時は伝達の部分を外したとかじゃないよ・・楽しかったんだ。
もちろん、ブロンド美人に出会ったんだし、リンダは豊満だからね。
俺はワクワクで読みたくなかった、何とか自分の気持ちを表現したかった。
俺がリンダの温度で感じたのは、リンダの淋しさだったから。
俺は置き換えは出来ていた・・あの上野駅で泣いた時に戻ってたよ。
知らない土地に来て、不安と淋しさを抱えた時に・・気持ちはリアルに戻った。
そしてあのハンカチを差し出した、美しい女性の手を思い出していた。
そして蘇ったんだ・・あの老夫婦の手紙が、俺の心に文字で現れた。
【いつか同じ冒険をする少年に出会った時に返して下さい】そう書かれた手紙が。
俺は返そうと思ったんだよ、リンダに東京の蘭に対する感謝を返そうと。
だからリンダと向き合えたと思う、あの老夫婦と東京の蘭のおかげで。
俺はリンダの涙に触れて抱きしめた、その時も強い温度は感じてた。
でも読まなかった・・その時点で俺は外してた、伝達の部分を外した。
俺は2度目のリンダとの出会いでも、一切伝達は使っていない。
そうしたいんだよ、リンダに対しては直接感じたい・・そう思ってる。
リンダを笑わせたい・・それだけを強く思って、あの【ど~ん】と繰出す。
リンダの笑顔を見るのが楽しくて、必死さは無かったと思う。
自然な時が流れて、リンダのサマータイムに触れて、ダンスも踊った。
ただ楽しくて・・当然のように、リンダを好きになっていたよ。
それは憧れだった・・放浪癖の有る俺の、憧れに値する存在だった。
蕎麦屋でアルバムを見せられた時に、話しの内容は分からなかったけど。
心は躍ったよ・・世界の広さをリアルに感じて、自分の欲求が怖かった。
もしリンダに手を引かれて誘われたら、全てを捨てて付いて行くだろう。
そう思ってしまう自分が怖かった、そうしてしまう自分を知っていたから。
もちろんパスポートなんて手続きが必要だし、現実的な事じゃないけど。
自分の心が怖かったんだ・・だからその夜、俺は混乱したんだろう。
シオンに白い弾丸を撃たれるまで、俺は誤解したままだった。
蘭は俺に付いて行く、そうシオンに言われるまで・・俺は選択に迫られていた。
自分で作り出した選択、蘭と夢を天秤にかけていた・・未熟だったよ。
俺はどれだけの事を、リンダにしてやれたのか・・自信は無いんだよ。
でも俺は受け取った・・リンダから、大切な沢山の想いを。
言葉では表現出来ない、強く温かい愛情を受け取ったと思ってる。
リンダと別れて、あの美冬が翻訳してくれた記事を読んだ。
俺はその時に感じたよ、ヒトミが俺にくれた最も大切な物の意味を。
温度の伝達を得た意味を、リンダの理想に重ね合わせた。
今でもそれを追い求めてる・・哲夫のあの気持ちで、リンダを想ってる。
戦友になりたい・・俺はリンダが求める、戦友のレベルに到達したい。
だから生命にもう1度向き合えたと思う、リンダを感じなければ無理だった。
リンダとマチルダを感じて、止まらなくなった・・心が動いたんだ。
ミホに心が動いたし、沙紀と交信もできた・・そして由美子に向き合えた。
こんな場所で止まっていられない、そう強く感じた・・その理由は。
蘭はもう到達してると感じたから、蘭はリンダと旅を出来るレベルにいる。
もちろんユリカは・・リンダを助ける事すら出来る、高いレベルにいる。
それを感じて・・俺も踏出した、止まっていた世界に時を戻したんだよ。
そしてマチルダ・・俺にとっては、憧れ続ける存在なんだ。
理想的な美貌だから、当然のように出会った時は凍結した。
ユリカが側にいたから、何とか冷静でいられたけど・・舞い上がってたよ。
俺はマチルダは読んだんだ・・長い時間を過ごしたし、日本語も出来たから。
マチルダの瞳は読んだよ・・あの緑の瞳は、強い感情を表現したから。
俺は知りたいと思う好奇心に逆らえなかった、だからかなりの感情を読んだ。
自分の事も自然に話せた・・ヒトミの事も、蘭より先にマチルダに話したんだ。
それは緑の瞳に強引に引き出された、逃げる事も誤魔化す事も出来なかった。
マチルダの緑の瞳はそれを許さなかった、だからミホの話まで出来たんだ。
話す事で心の舵は自然に切られた、ミホに会いたい衝動に襲われた。
自分でも制御できない、強い想いを抱えさせられたよ・・緑の瞳を読む事で。
マチルダは読めって言っていた・・全てを映し出すから、読めと誘ってきた。
初めての経験だったよ・・あんなに強引に誘われたのは・・嬉しかったけどね。
俺は由美子の段階の時の作戦は、マチルダの存在で作ったんだよ。
あの時に俺の映像に入れるのは、マチルダだけだったからね。
蘭は当然入ってくると思ってたけど、美由紀に対しては違うんだよ。
マチルダも美由紀も、不思議に思ってるだろうけど。
マチルダが美由紀を連れて入った訳じゃないよ、あれはマリの間接同調だった。
マチルダの凄さはそこなんだ、距離を超える力・・それを求めてきた。
壁に隔たれた祖国に対する、両親の悲しみに触れて目指した。
その壁を越える方法を作り出した、それが今のマチルダなんだろうね。
あのユリカとマチルダが初めてマリに出会った日、マリが俺に言ったんだよ。
同調でマチルダなら出来るかもってね、だから俺は美由紀を託した。
美由紀ならマリの同調は経験者だったからね、出来ると思ったんだ。
それでマリは感じて、次の段階を作り出したんだ・・相互効果だったね。
マチルダもマリで何かのヒントを得た、それが何かは分からないけど。
多分・・リンダもマリから何かを受け取った、嬉しそうだったからね。
俺は必要な出会いは全て繋げたのかも知れない、そう思えて嬉しかったよ。
俺のリンダとマチルダに対する想いは、いつの日か共に旅をしたい。
リンダとマチルダに必要とされる人間になりたい、それはシオンも同じだろう。
そして蘭もそれを望んでるし・・ユリカもそうだろうと思ってる。
俺は必ず由美子で探したい、俺の出来る事を探し当てたい。
リンダにもマチルダにも見せたい、由美子の可能性は無限にあるんだと。
カリーに示したいんだ・・あの病を乗り越えて、17歳で言葉を取戻し。
19歳で旅立つまで戦った、ブロンドの少女に伝えたい。
次の挑戦者は辿り着くと・・ヒトミとカリーが見せた意志を引き継いで。
由美子が必ず辿り着く・・希望と言う道標の場所に、その入口に。
沙紀が地図を描いてくれるから、俺はその場所まで手を繋いで行くよ。
それを見せたいんだ・・リンダという、崇高な存在に。
マチルダという笑顔の伝達者に・・出会えなかった、最強のカリーに。
そして・・永遠のヒトミとの約束を果たしたい、由美子の未来で』
私はリアンの極炎の瞳を見ながら、感情的なままに強く言葉にした。
女性達の集中した笑顔があった、私は見回して北斗を見ていた。
「ヒトミは何て言ったんだ?・・カリーの生き方を」とヨーコが真顔で強く聞いた。
「ヨーコ!・・やっぱり塔でヒトミと何か話したね、時の欠片って言ったよね・・ヒトミの言葉だよね」とシズカがヨーコに真顔で言った。
「言ったよね・・あの後、追及しなかったけど・・確かに、時の欠片を探すって言ったよ」と恭子がニヤで突っ込んで。
「散らばった欠片を拾い集めて、組み直すと螺旋が復活する・・そうヨーコは言ったんだよね」とマキもニヤで追いかけた。
「時の欠片を拾い集める・・カリーの言葉の、時が砕け散ってる・・それの意味をヒトミは感じたの?」と北斗がヨーコに強く言った。
「その話しの前に、カリーの話しだよ・・エース指名して」と大ママが私に言った。
『それはもちろん・・レポートの提出者、シズカだね』と私はシズカに笑顔で言った、シズカも笑顔で頷いた。
「カリーはアメリカで産まれた、ヒトミと由美子と同じ病の少女です。
父親が証券マンで裕福な家庭でしたから、娘に最新医療を受けさせた。
ニューヨークの有名な病院で、19年間過ごしました。
私はヒトミの段階の時に、日本中の同じ病を経験した家族を必死に探した。
何も出来ない自分を認めたくなくて、初めての集中した世界に入りました。
3組の家族の存在を知り、カルテットで手紙を書きました。
ヒトミの病状と段階の時を書いて、経験で感じた事を教えて欲しい。
そう書いて・・3家族と5人の医師に手紙を出しました。
3家族とも、貴重な体験談を書いた返事をくれました。
その言葉の一つ一つに愛情が溢れていて、私達は4人で泣きました。
そして・・ある医師の手紙に、アメリカで19歳まで生きた少女がいる。
そう書いてあって、私はどうしても連絡が取りたくて、必死で探しました。
そして・・未熟な私の想いの全てを英文にして、母親宛に手紙を出した。
ヒトミにヒントを・・最後にそう書きました。
そして返事が来たのが10日後でした、母親は多分徹夜で書いたのでしょう。
その返事がシズカレポートと言われています、母親の想いが詰まった43枚。
43枚の便箋に全てが凝縮されていた・・震える文字と、涙で滲む文字で。
そのアメリカの少女は、カリーと言います。
カリーは産まれてから15歳になるまで、全く動かなかったんです。
でも内臓は正常で、体も悪い箇所は無かった。
当然運動しませんから、筋肉は無く・・腕や足は痩せ細っていた。
しかし生命の危険を感じる事は、2年に1度しかなかった。
奇数年齢のある時期だけ、原因不明の生命の危機に襲われる。
不思議に奇数年齢なんです、あの病の統計データで浮かび上がるのは。
全員が少女、女である事実と・・全員が奇数年齢で亡くなっている。
この2つだけは、事実として捉える事が出来ます。
カリーは15歳のクリスマスに出会います、親友になるリンダという少女に。
リンダがボランティア団体に所属していて、小児病棟にプレゼントを届けた。
その時にカリーに出会う、それからのリンダはカリーの元に通うんです。
カリーの右手が自らの意志で動くのが、16歳・・翌年の夏です。
そして17歳で言葉が出るんです、それも流暢な言葉だったそうです。
確かに最初の内は、声帯や唇の筋肉的な問題だったのでしょう。
片言だったそうですが、言葉自体は流暢だったと母親は言っています。
今のマリと同じでしょうね、言葉自体はずっと持っていましたから。
だから部位的な問題を克服すれば、おのずと流暢な言葉になります。
そしてカリーが言葉で伝える・・リンダと自分の世界に入ったんだと。
17歳の段階の時に、リンダが探しに来てくれて・・2人でそれを見た。
自分の時の軸が粉々に砕けていて、それを修復しないと駄目なんだ。
カリーは担当医にそう話しています・・強い口調で訴えたそうです。
この言葉をリアルに感じれたのは、たった一人でしょう。
それがヒトミだと思います・・小僧がレポートを全て伝えましたから。
もちろん、担当医も両親も分からなかった、リンダは何も言わなかった。
言葉で表現できなかったんでしょう、私はそう思っています。
伝えたいけど言葉に出来ない、リンダは葛藤したでしょうね。
私もその表現が分からなかった、でも3人がリアルに感じた。
ヒトミの時の部屋の前まで辿り着いた3人、その時にヨーコが言ったのが。
時の欠片が散らばってるから、拾い集めて組み直す・・それしかない。
ヨーコは律子と小僧に強く言いました、2人もそう感じてるようでした。
それがカリーという少女の残したヒントです、リンダと2人で探し出した。
何度も何度も塔に入り、その修復を試みた・・でも届かなかった。
カリーは19歳で体力の限界で旅立ちます、旅立ちは笑顔だったそうです。
美しい笑顔で両親に感謝を告げて、リンダに笑顔で手を振って。
リンダはそれを見送って、自分も旅立ったのでしょう。
世界を目指して・・無力感を背負って、それを払拭する為に旅立った。
リンダはカリーにこう言っています、いつか必ず時の軸の問題を解く。
そう約束した言葉が・・リンダとカリーの最後の会話です。
沙織が正解です・・私は気付いていました、あのリンダさんがそうなんだと。
カリーの親友のリンダは、19歳で大学の修士課程を修了しています。
ブロンドで美しいブルーの瞳・・そして何よりも、平和を愛する少女。
この世界にたった一人しかいないでしょう・・最後の挑戦者と呼ばれる者。
リンダこそ・・カリーの親友で、時に挑んだ少女でしょうね。
確かに小僧の段階の時の対応に、リンダさんは感動したでしょうね
自分もその時に切望したでしょうから、共に戦ってくれる仲間を。
だからこそ・・マチルダに出会い、小僧にも出会った。
小僧・・そろそろ良いだろ、私も聞きたくなったよ。
お前が感じてる時の欠片の正体は何なんだ?・・絶対に時じゃないよな。
時が砕け散ったりしない・・もっと物質的な、固体的なイメージだろ。
何を表現してると感じる・・時の欠片を繋ぐと、どんな螺旋が出来るんだ」
シズカは真顔で強く言った、私も真剣なシズカの瞳を見ていた。
「答えてくれよ、エース・・お願いだから」と北斗も真顔で言った。
私は北斗を見ていた、北斗の瞳には不安など微塵も無かった。
「話せよ・・隠し続けてる事を、感じてる事を」とマリが強く言った。
私はマリに笑顔で頷いて、全員の視線を感じながら始めた。
『もちろん、正解だとは自分でも思ってないよ。
俺はヒトミと見たんだ、映像で見せられた・・奴の得意な映像でね。
時の部屋の内部が映されて、そこにバラバラの丸い欠片が落ちていた。
それが時の欠片だって、奴がいつもの調子で言ったんだ。
俺もヒトミも信じなかったけど、お互いに考えたよ・・その作為をね。
奴は絶対に無意味な事はしないから、何らかのヒントになるんだよ。
俺はヒトミを見送っても、ずっと考えてたんだよ・・そして感じたんだ。
それは関口先生との話しの中で教えてもらった、それこそが遺伝子。
DNAだよね・・DNAは設計図なんだよね、各自の設計図。
一人一人が違う設計図なんだよね、双子でも僅かに違うんだよ。
そのDNAの画像イメージは、2つのDNAを繋ぐ横軸が縦に繋がるんだ。
その縦軸はねじれてるんだよ・・まるで螺旋のように、ねじれて繋がる。
俺はその画像を見た時に衝撃を受けた、これなんだって思えたんだ。
確かに時は砕けないし、散らばらない・・流れは螺旋だと納得できるけど。
違和感があるよね・・時の欠片とか言われても、イメージ出来ない。
でも・・それがDNAなら・・DNAは繋いできた証だよね。
命を繋いだ歴史を表した設計図だから、時と同じ螺旋で繋がる。
それが砕け散っている・・DNAのある部分が壊れてる。
俺はそれが原因だと確信してるよ・・修復するのは、DNAなんだってね』
私は静寂を楽しみながら、最後にシズカにニヤを出した。
「それだったか~・・確かにDNAを表現する場合は、ねじれた縦軸だよね・・螺旋だね」とシズカが笑顔で言った。
「エース・・まさか、その修復方法を考え出したのか?」と北斗が驚いて言った。
『それは分からないけど・・絶対条件なら分かったよ。
DNAの修復は当人にしか出来ない、自分でやるしかない。
それはカリーもそう言ってるし、ヒトミもそう言ったんだ。
砕け散った時の欠片は、自分で修復するしかない。
だけど一人では探せない、誰かが手伝ってくれないと探せない。
それを提示してるのが、時の部屋の入口・・あの5人同時の設定。
最低でも5人が必要・・そう提示されてるんだろうね。
修復方法は分からない・・でも由美子なら絶対に見つけ出す。
俺はそう信じてるよ、だから探すのを手伝ってやるんだ。
姿無き男は・・その本当の姿は、何なんだろうね。
絶対に由美子の復活を望んでるよ・・奴は何とか辿り着かせたいんだと思う。
俺が今回の沙紀の絶望の世界の事で、シズカに言ったあの言葉。
あれは俺の言葉じゃないんだ・・あれは俺とリンダが言われたんだ。
由美子の段階の時の最後の模型、夜街のミニチュアに入る時に言われた。
姿無き男がこう言った、その声がいつもと違うから信じられたよ。
犠牲になるのかどうかは、由美子しだいだ。
俺は最近気付いたよ、沙織のあのリンダの話しでね。
奴は俺とリンダに言ったんだ、俺もリンダもその言葉を聞いただけだった。
互いに話さなかった・・俺は自分だけに言われたと思ってたから。
リンダはヒトミの話を聞いていたから、2人に言われたと思っただろう。
奴の言葉の意味はすぐに分かった、その表現に犠牲という言葉を使ったから。
ヒトミとカリーが犠牲になるのかは、今後の由美子しだいだ。
奴はそう言ったんだよ・・嘘の下手な男なんだよ、素直な奴さ』
私はニヤ顔に戻って、北斗を見ながら言葉にした。
静寂の中、女性達の笑顔が少しずつ咲いていった。
私は1つの目標はクリアーした、由美子の塔に向かう為の準備が。
しかし私は沙紀の絶望の世界に対する、最後の不安要素を抱えていた。
赤い塔に込めた奴の考えを読めないでいた、だからミホに不安が残ったのだ。
だがミホは血塗られた塔を目指す、その存在を知っていたかのように。
螺旋で形成される、進化の歴史に続く道を・・ミホが示す時が迫っていた。