【冬物語第二章・・心遊び②】
時が経つほど難しくなる、年齢を重ねるほどに難しさが増すのだろうか。
同性同士の関係は、何故だか女性同士の方が難しい。
私はこの小説の時代から今に至るまで、常に女性に囲まれて仕事をしてきた。
私生活での友は、「幸せな事だよな~」とニヤニヤで言うが、実はそうでもない。
難しい気苦労が絶えないのだ、特に新しい女性の加入時が難しい。
女性は不思議に異性、【男】に対しては割りに受入れた振りをして共に仕事をこなす。
それが出来の悪い年下の男でも、自分がフォローしてやろうとさえする。
しかし同性【女】に対しては厳しい、受入れるのが難しいのだろうか?
中々深い部分で分かり合えない、不思議な壁のような物さえ感じる事がある。
【銀河の奇跡】・・あの3人に【奇跡】とまでの言葉を贈ったのは、それも大きかった。
20歳という時期で、3人全員が別々の強い個性を持っていた。
持っていただけでなく、外見的にも強く主張していたのだ。
3人とも負けず嫌いで、決してそれまでは女性との関係が上手くいってはいなかった。
あのホノカでさえカスミに出会うまでは、夜の女性とは距離を置いていた。
この事実がホノカの凄い部分でも有るのだが、それほどの難しさを感じたのだろう。
私はホノカと話す時は、常にヒントを得ようとしていた。
ホノカは確立した世界を20歳で持っていた、その世界を変化させて今に至る。
18歳で迷い無く夜の世界に踏出したホノカ、高校時代はカスミと同じ学園のアイドルだった。
だがやはり中学時代は難しかったと言った、弾かれて孤独だったと。
ホノカは小学3年で自ら志願して、小さな劇団に入っている。
「目立つ事が幼い時から好きでね・・全ての興味は、可愛くなるという事だった。
小学生の時はそれでも良かった、でも中学に上がると弾かれたよ。
私は校則を守らなかった、それは限界カルテットの様な強い意志じゃなかった。
ただ自分を可愛く演じたい・・目立ちたいだけの、生意気な人間だったよ。
そんな女が女の世界から弾かれても仕方ない、それが自然な流れなんだよね。
私の方から歩み寄る事もなかったから、自分は間違ってないと心を誤魔化した。
高校で学園のアイドルと呼んだのは、レベルの低い馬鹿な男達だったんだ。
それに気付いて怖くなったのよ、自分は間違ってると思ってね。
私が求めたのは違うと感じた・・それでも自分に変化を与えるのは難しかった。
高校を卒業する時に、私は夜の女になりたいと両親に告げたの。
父は当然反対したけど、母は女だから私の事を理解してたんだろうね。
良い事だと言って賛成してくれて、父を説得して祖父に店を紹介してと頼んだ。
私の祖父は自営業で、割と成功した人間で・・遊び人と呼ばれてたの。
私が初孫で、凄く可愛がってくれた・・祖父が、ミチルママを紹介してくれたの。
私がクラブは怖いと言ったから、ミチルママだった・・私がPG兼務になった時。
自分で探し出したか、挑戦の時にクラブと言えば・・当然、ユリの場所だったぞ。
祖父はそう言ってくれた・・私は何故なの?って聞いてみたの。
そうしたら祖父は・・こう教えてくれた、18歳の私の事を。
女が殻を破るには、圧倒的な差を感じないと難しい。
18のお前にはそれが必要だった、低レベルで競っていたからな。
低レベルの人間の言葉に過敏に反応して、それにより葛藤を抱える。
上を見ないで下に理解して貰いたいと思う、それは矛盾する心だろ。
お前は2年かかったよな、夜の世界に身を置いて・・殻を破るまでに。
ミチルに出会って変化はした、しかしそれは年齢差という理由があった。
お前はミチルを感じて自分の未熟さを知った、だがまだ殻は破れなかった。
変化は【静】の方向に流れたよな、静観して観察する。
だがそれでは殻を破れない、破るには同世代の大きな存在が必要なんだ。
カスミとリョウが現れなければ、お前は絶対にここには辿り着けなかった。
万人と分かり合える事など無いよな、しかし人は不必要な理解を求める。
結局・・不必要な理解だから、自分の中に葛藤さえ生まれる。
評価は必要な事だろうね、社会人になればどんな世界にもそれは有る。
だが夜の女には選択肢が有るんだ、誰に認められたいのか。
それを選択できる・・普通の仕事には、中々無いよな。
認められたいと思う心は、誤解しがちだが・・高みにいる人間にじゃない。
同じ経験値に存在する、競うべき相手なんだ・・それに巡り会う。
それを幸運と呼ぶんだろう、その存在にしか出来ないんだよ。
望むべき場所の入口を探し出す事には・・その存在が不可欠なんだよ。
私がミチルママから店を引き継いだ時に、祖父がそう言ってくれた。
本当に嬉しかった、そして感じたよ・・13歳の男の言葉と同じだと。
私は自覚してる・・私の最後の殻を破ったのは、あの世界だった。
沙紀の女としての絶望の世界・・あの世界が木っ端微塵に吹き飛ばした。
私に残る最後の殻を破壊した・・気持ち良いほどに何も残らなかった。
女性同士の関係・・それで良いんだよ、あんたの方向は間違ってない。
元々成否なんて考えてないだろ・・限界ファイブを生み出し。
あの4人組を作った男が・・今更何を躊躇するんだよ」
私が東京PGの女性の関係で悩んで、ホノカに会いに行った時に、ホノカが華麗な笑顔でそう言った。
26歳のホノカ、本当に美しかった・・【霧の幻影 ホノカ】と呼ばれていた。
ユリカが消えて、同じスナック経営者としてリアンの右腕だった。
そしてレンを引っ張っていた、その歩く姿は・・ユリカの静けさを纏う、幻影だった。
話を戻そう、あの大切な時を過ごす女性達の場所に。
沙織の言葉に、女性達が笑顔で頷いた。
「大切な授業の実習の前に、タブーを無くすまでの道程・・その話しが聞きたいんだけど」と千鶴が真顔で言った。
若い女性達の店を纏める、千鶴の真剣な言葉だった。
「聞きたいです、タブー無しの世界を作り出すヒントを」とセリカが流星で微笑んだ。
「タブー無し・・確かに難しい世界だよね」とミチルも妖艶に微笑んだ。
「限界ファイブには有るよね、タブー無しという世界が」と蘭が満開で微笑んで。
「有るよ・・マキは蘭に対しても、弟の事を正面から言葉に出来る」とリアンが極炎ニカで言った。
「そうですね・・私達は蘭が乗り越えた事を分かっても、中々言葉には出来なかった」とユリさんが薔薇で微笑んで。
「確認させるんですね・・乗り越えたんだろって、何度も何度も直接的に確認する」とミコトが言って。
「それは勇気が要りますよね、それも大切な姉である存在に言うんですから」とリリーが微笑んで。
「壁を作らせないんだね・・自分の心を表現して、作る時間すら与えない」と大ママが笑顔で言って。
「やはり聞かねばなりませんね・・エース、話すべきだよ?」とユリカが真顔で言った。
ユリカの言葉が強く響いて、私はユリカは感じてると思っていた。
「話すしかないね・・ユリカ姉さんの言葉なら、そして時の部屋に挑むのなら」とヨーコが私をニヤで見た。
「完全復活が望みなんでしょ?・・ヨーコの完全復活が」とマキが強く言葉にした。
『OK・・話すよ、それを感じたきっかけを。
限界カルテットも、同じだったんだ・・ヨーコを受入れた頃は。
どこかでタブーを感じていた、ヨーコの生立ちの部分で。
その部分を意識的に避けた、両親の話をしなくなった。
誤解される前に言うけど・・出会ったばかりの頃に、聞くのとは違うよ。
それはどっか興味本位だろうし、傷付ける行為になるだろうから。
信頼関係を感じた次の段階の話しだよ、相手が自分から話した後だよね。
知らなかった事が、傷付ける事に繋がる・・それはお互いにだよね。
知らなければ、タブーの話をしてしまう・・その事実が別の誤解を生む。
相手は話す事により、自分を知って欲しいと願うんだろうね。
それを踏まえて信頼関係は次段階に移行する、そこからが難しいよね。
女性は特に難しいんだよね、知っていても口に出さない。
聞いた話をタブーな物にしてしまう、それが優しさだと自分を誤魔化す。
俺はヒトミに教えられた、それはタブーじゃないって。
タブーな話しだと考えるレベルは、本当に友達なのかな~?
ヒトミはそう言ったんだよ・・俺はヒトミより相当遅れてる子供だった。
だからその時には分からなかったけど、限界トリオで感じたんだよ。
ヨーコは生立ちを話した、3人に対して真剣に・・ヒトミが旅立った時だった。
3人はそれを聞いてタブーにした、ヨーコの前で親の事を話さなくなったんだ。
確かにヨーコの生立ちは、激烈な幼少期だった・・俺はヨーコ本人に聞いた。
でも・・ヨーコ自信にとっては、タブーな話しじゃないと思ったんだ。
なのにトリオはその話をタブーにした、マキだって両親はいないのに。
俺はその気持ちが理解できなかった・・避けてるんだと思ったんだ。
そして思い出した、ヒトミの言葉を・・それは友達なのかな~?
そう・・タブーな話は、友にも家族にも・・まして恋人にも無い。
俺はそう思ったんだ・・友ならば、タブーを取り去れって思った。
俺には無かったから・・限界トリオにも、美由紀にも沙織にも。
そして全員が知ってる、あの壮絶な経験をした哲夫にもタブーは無い。
美由紀の足にも、哲夫の両親の事故にもね・・だって俺は聞いてしまう。
その場面では感じてしまう・・瞳で感じるから、相手は伝えて来るから。
俺もその話をするんだ・・ヨーコは哲夫に、毎日のようにしたよ。
自分の世界に閉じ篭もってる哲夫に、事故に遭遇したばかりの哲夫にね。
哲夫は毎日同じ話をヨーコにした、毎日号泣しながら・・震えながら。
そして哲夫は毎日ヨーコに抱かれて眠るんだ、ヨーコは子守唄を歌っていた。
ヨーコの子守唄は違うんだよ、語りかけるんだ・・シオンのように。
歌うように語り掛ける、その歌声が外に響いてしまう。
ヨーコは桜の木の下で、哲夫の話を聞いて・・抱いてたから。
他の施設の子供に、哲夫の泣顔を見せたくなかったんだろう。
ヨーコの子守唄を聞いて、老人達が名付けたんだ・・みなしごの子守唄。
その話は今はしない・・俺は確かに待っている、ヨーコの封印解除を。
みなしごの子守唄には有る、境遇やシナリオに負けない熱が。
そしてタブー無き世界から木霊してくるんだ・・理由無く惹き付けれれる。
その子守唄に有るのは、魅力じゃない・・強い、魔力が存在するんだ。
タブーを外さないと届かない世界がある、その入口には書いてある。
偽る者は進入禁止と・・真の信頼関係とは、その先にしか無いと思うよ』
私は笑顔で言った、女性達は考えているようだった。
「まだ、2時少し過ぎだから・・時間は充分に有るね。
五天女から質問するよ、私はエースに・・ミチルの時とナギサの時に。
お前は伝達方法で何を感じた?・・ミチルには、過去を聞かなかったよな。
その話を意識的に避けた・・それは感じてたからなのか?」
大ママが真顔で私に言った、私はミチルの笑顔を確認した。
『ミチルの時は、強烈な実体験が何か有る・・それだけは感じた。
そこで感覚を切った、先入観になりそうで・・外したんだ。
子供の俺では分からない事だろうと感じたし、聞き出す事じゃないと思った。
俺は今のミチルが知りたかったから、どんな覚悟をしたのかが知りたかった。
それに付随して、捨てた物と・・持たされた物が知りたかったんだ。
今でもその事は知らない・・いつかミチル本人から聞きたいと思ってる。
それが俺の成長の証だと思えるから、実は楽しみにしてるんだ。
ナギサに関しては・・逃げたいと思ってるのは、会った瞬間に感じたよ。
だから逃げたい対象を探した・・男なのか生活なのか、何なのかね。
そして分かったのは・・拘束される事にだった、自由を奪われてる事。
それがナギサが耐え切れない事だと感じて、俺はナギサを連れ出せたんだ。
さっきの1行流しの最後の部分、リアンもユリカも蘭も。
ホストの話しをナギサに出した、それこそが互いの信頼関係だよね。
それを言える3人も、笑顔で返せるナギサも・・互いを認めてる証だよ。
俺は健常者には、伝達を滅多に使わない・・不必要だからね。
緊迫した場面でしか、瞳も温度も読まないよ・・ただ抱っこは違うよ。
抱っこの時は自然に入って来る、もちろん添い寝の時もね。
それがユリカと蘭と俺の、信頼関係なんだよ・・ユリカも隠せない。
ユリカはそれを望んでるんだ・・自分も隠せない状況をね』
私は笑顔で言った、ユリカと蘭の笑顔を見ながら。
「私は限界ファイブと中1トリオに聞きますね・・今の時点でタブーと感じる事が、何か有りますか?」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
8人が互いを見て、ニヤを出し合った。
「私は無いですね、初体験をしたような感じは・・恭子以外には、誰にも無いですから~」とシズカがニヤで言って。
「私も無いですね・・久美子も色々話してくれたし、自分の話もしましたから」とヨーコがニヤで言って。
「私も無いですね~・・4人はまだまだ、彼氏は出来そうにないし」と恭子がニヤニヤで返して。
「もちろん、私も無いです・・私は久美子に最も近いし、ヨーコも近くにいますから」とマキが笑顔で言って。
「私は4人に対しては無いですね、もう少しで自分に対しても無くなると思います・・4人に話したいと、感じるようになってきたから」と久美子も笑顔で言った。
「私は有ります~・・沙織のぺチャなお胸と、秀美の太い右腕が~」と美由紀がニヤで言って。
「私も有りますね~・・美由紀の平らなお胸と、秀美の後頭部のバッテンハゲが~」と沙織がニヤで言って。
「当然、私も有ります~・・美由紀の太い太股と、沙織の剛毛わき毛が~」と秀美もニヤで返した。
「ちょっと待ってよ、私は平らちゃんじゃないし、太股も細いよ」と美由紀がウルで言って。
「私だって・・ぺチャじゃないし、剛毛ちゃんじゃないよ・・ちゃんと処理してるし」と沙織がウルで言って。
「私だって・・右腕太くないよ、バッテンハゲは有るけど・・胸も有るよ~」と秀美が笑った。
限界ファイブが笑って、私も嬉しくて笑っていた。
「素敵ですね・・全員タブーは無いんですね」とユリさんも楽しそうに笑っていた。
「それじゃあ、私は最後が良いから・・ユリカ、お願い」とミチルが微笑んで。
「私はずっと気になってた事を、ヨーコが美由紀を粉砕した話しが聞きたい。
美由紀がヒトミと出会って、両足の事を精神的に乗り越えた時に。
ヒトミが小僧に依頼した、美由紀をこんな段階で止めたくない。
だから美由紀の満足感を粉々に粉砕して、それをヨーコに頼んでくれと。
ヒトミがそう言ったらしい・・ヒトミの凄さだよね、完璧に置き換えてる。
ヒトミは美由紀の話を聞く時は、リアルに両足の短い自分で聞いていた。
だからこそ、美由紀の満足感を感じた・・自分ならそんな場所で満足しない。
そう思ったんでしょうね・・だから粉砕しようと思った。
それが出来るのは、ヨーコだけだと感じた・・そしてヨーコは粉々に粉砕した。
だから今でも、美由紀の天敵とヨーコは言われます・・その方法。
美由紀の満足感を破壊した方法を知りたい・・ハンデを背負ってる美由紀。
その現実を乗り越えるだけでも凄い事です、健常者にはそう思える。
その美由紀を健常者のヨーコが粉砕する・・本当の信頼関係が必要でしょう。
偽りが少しでも入れば、美由紀には響かない・・私はそう思います。
そこにヒントが有るでしょう・・タブーを無くすヒントが。
誰が良いんですかね、エース・・この話を、1番表現できる人を指名して」
ユリカが静かな言葉で言って、女性達が期待の笑顔で私を見た。
『当然・・当事者じゃ駄目だね、自分の部分で照れが入るから。
これもやっぱり・・沙織しかいないね、実は限界カルテットも知らない。
詳細は知らないと思うよ・・真実を知るのは、当事者と沙織だけだろう。
俺はヨーコと美由紀、2人から別々に聞いたよ。
男の俺が話すより、その現場にいた・・女の沙織が話すべきだろうね。
美由紀は良いよね?・・女性達のリクエストだから』
私は笑顔で沙織と美由紀に言った、美由紀は笑顔で頷いた。
「頼むね、沙織・・もう1つ、大切なヒントを」と大ママが笑顔で言った、沙織も笑顔で頷いた。
「あれはヒトミと触れ合ってる、12月の初め・・日曜日でした。
私と美由紀と小僧は・・前月の22日、ヒトミの誕生日に同調した。
マリちゃんの間接的な同調のおかげで、ヒトミの想いを3人同時に感じた。
それはもちろん映像でも、言葉でもなかった・・温かい何か。
表現出来ない、温かい丸い空間でした・・本当に嬉しかった。
その日は日曜日で休みだったので、ヒトミの両親と祖父母が揃っていて。
入院してる子供達も、面会者が多いのか・・誰も遊戯室には居なかった。
私は美由紀と屋上で綾取りをして遊んでました、秋の陽射しが気持ち良くて。
そこに小6のヨーコ先輩が来ました、一目見て何かが違うと感じました。
ヨーコ先輩は、私達後輩女子の憧れでした・・その可愛さと優しさが。
施設での乳児のお世話係を、小6・・その年の春に指名されていて。
その事の凄さを、小僧と哲夫から聞いていて・・憧れでした。
そのヨーコ先輩が笑顔で近づいて来た、その瞳が強かったんです。
そして私が座るベンチに座って、美由紀を見て始まったんです。
それがヨーコ先輩が提案した、タブー無しの会話です。。
私は必死でした・・ヨーコ先輩の言葉が強くて、聞き漏らすまいと。
小僧が今、待ち望んでいるヨーコ先輩の封印解除・・その力の片鱗でした。
私は震えながら聞いていました・・変化し続ける、美由紀の表情を見ながら。
ヨーコ先輩は、ベンチに座ってこう言いました・・美由紀に笑顔で。
美由紀・・タブー無し、遠慮無しで話をしようよ・・もちろん美由紀もね。
その言葉で美由紀が笑顔で頷いて、ヨーコ先輩は始めました。
ヨーコ・・美由紀は、足を切断された記憶って残ってるの?
美由紀・・それは無いんです、ただ音だけ残ってます・・医療機器の音が。
ヨーコ・・ヒトミの部屋のような音?
美由紀・・はい・・それとお医者さんとナースの、緊迫した声が。
ヨーコ・・その部分の恐怖は外せたの?
美由紀・・うん・・ヒトミと出会って、ヒトミの状況で間違いに気付いたよ。
ヨーコ・・そっか・・じゃあ、事故の事は・・何か覚えてるの?
美由紀・・それは不思議に何も覚えてないんです。
ヨーコ・・そうなんだ・・何が1番残ってるの?
美由紀・・麻酔が覚めた時の、足が無い感覚、軽くなったと思った事ですね。
ヨーコ・・それは残ってるって事だよね、切断された記憶が。
美由紀・・あっ!・・そうですね、確かに強く残ってる。
ヨーコ・・そして事故の記憶も残ってるんだよ、小僧の考え方でいくと。
美由紀・・そうなんでしょうね、マリちゃんの教えでしょ?
ヨーコ・・それだよね~・・美由紀、私の話をするね。
ここでヨーコ先輩は、海の方を見て静かに言いました。
ヨーコ・・私も残ってるの、母さんの温度が消えてゆく感覚を。
私は小4だったから、リアルに覚えてるのよね。
ヒトミの部屋に響く、あのピコーン・ピコーンがピーーに変って。
お医者さんと、児童福祉局の人の話し声と・・その後告げれた。
母さんが死んだって・・告げられた、医師の言葉も。
そして消えてゆく、母さんの温度も・・全部残ってる。
私は乗り越えられなかった、小4だったから・・自分を惨めに感じた。
施設に入っても、心を閉ざしていて・・学校でも閉ざしてた。
そして小僧に出会って、小児病棟を知ったのよ。
その時に感じたの・・私の悲しみなんて、甘えなんだって。
健康以上に望む物など無いって・・そうしたら自分が情けなかった。
施設には両親の記憶さえ無い子が沢山いる、豊君だってそうだよね。
私の悲しみは贅沢なんだって、そう思ったの・・それで乗り越えた。
でもね・・それで満足してしまってたの、自己満足で止めたのよ。
美由紀・・自己満足で止めた?・・それはどんな感じですか?
ヨーコ・・自分が凄く成長した感じ、同じ歳の子が幼く感じるような。
美由紀・・マキ先輩もですか?・・同じ両親の居ない、マキ先輩にも?
ヨーコ・・その時はそう思っていたよ、施設の先輩にまでね。
美由紀・・それは悪い事ですか?・・間違いなんですか?
ヨーコ・・良い悪いは分からない・・けどその後、私は挫折を感じたよ。
美由紀・・挫折?・・自分の間違いに気付いたんですか?
ヨーコ・・そうだよ・・哲夫と向き合って、私は間違いに気付いたんだよ。
美由紀・・哲夫ですか・・私は知らないんです、哲夫が閉ざしてた時を。
ヨーコ・・秀美・・怖かったよね、あの頃の哲夫?
秀美・・・怖かったです、何に対しても暴力的で・・自分に対しても。
ヨーコ・・そうなんだよ、私も突破口すら見出せなかった。
美由紀・・その突破口は、どう開いたんですか?
ヨーコ・・もちろん小僧だよ・・小僧が哲夫に強く問いかけた。
寺の本堂に正座して、和尚が遠くから見ていた。
私が哲夫の横に座って、小僧が私達の正面に座った。
小僧が小2、哲夫が小1だった・・その時の小僧は怖かったよ。
そして小僧が言った・・哲夫に話せって、事故の事を。
そうしないと忘れるって言ったんだ・・哲夫は震えてたよ。
それまで誰も哲夫に事故の話を聞かなかった、警察でさえ。
小僧は本気で聞いたんだよ、哲夫の言葉で話せって迫った。
哲夫は小僧だけには反発しなかった、それは出会いからだった。
小僧は哲夫に出会った日に、哲夫に自分を殴らせた。
哲夫をわざとからかって怒らせて、殴らせたんだよ。
豊君の教えだよね・・自分が標的になって抜くんだよね。
その行為で哲夫は少し落ち着いた、それから小僧にだけ変った。
でも閉ざしてたんだよね、心は固く閉ざしていた。
私が哲夫と向き合うと決めて、その方法を探してる時に呼ばれた。
本堂に招待された・・そして私は初めて、本当の小僧を知るのよ。
小僧の厳しさに押されて、哲夫は話すの・・母の最後の言葉まで。
小僧はそれが聞きたかったと思う、哲夫が背負った物を知りたかった。
私は隣で哲夫の手を握って、ただ一緒に泣いてたの。
小僧は母の言葉まで聞いて・・ありがとう、哲夫・・そう言った。
そして私に笑顔を向けて、寺を出て行った。
私は哲夫と手を繋いで帰った・・話さなかったけど、嬉しかったよ。
哲夫が元気になったって感じて、自分の間違いに気付いたの。
聞いたら駄目って思ってる内は、相手も開かないって。
相手を傷つけない為に聞かないのなら、そこまでの関係だよね。
小僧は美由紀にも聞いたよね・・多分、マリちゃんにも・・ヒトミにも。
小僧はタブーなんて持たない、直接聞くんだよ・・だから相手も開く。
心を開くんだよ・・聞かない優しさなんて、否定してるよね。
美由紀・・何をためらってるの?・・どうして隠すの?
あなたは健常者なの?・・美由紀、それは満足だよ。
両足を受入れただけ、そこで止めるならただの自己満足だよ。
今更、傷付きたくないの?・・それとも、まだ怖いの?
今日が終わる時に、胸を撫で下ろすような生活はやめようよ。
そんな生活してても、下から来る同じ車椅子の子供には響かないよ。
欲求を持とうよ・・こうしたい、こう生きたいという欲求を。
それが常に暴れているような、心で暴れてるような。
そんな欲望を持とうよ・・変らないなら、変えようよ。
美由紀・・あなたは権利者でしょ、タブー無く語れる権利者だよね。
美由紀の満足を、ヒトミはどう感じるの?・・嬉しく思うの?
生きる事に執着しない・・そうだったよね、美由紀。
だから死ぬ事にも執着しない・・そうだよね、美由紀。
強く発信して、美由紀・・そうしないと、ただの障害者だよ。
あんたは、ただの障害者・・不幸に両足を切断した、悲運の少女だよ。
凄かったです・・一気でした、美由紀の手を握って。
目を見ながら、淀みも迷いも無く・・一気に言葉にした。
あの当時は確かに、美由紀は隠していました・・その諦めた心を。
立てない、歩けない、走れない事により・・多くを諦めた事を。
美由紀・・ヨーコ先輩・・タブー無く話さないと、駄目なんですね。
ヨーコ・・遠慮は他人がする事だろ、友達なら・・遠慮なんて無しだよ。
その事により傷付けても仕方ないよ、でも分かり合える。
それが友達だろ・・家族だろ、恋人だろ・・そう思うよ。
私は小僧のあの言葉は本心だと思う、美由紀に言った。
困難な設定で生きれる事に嫉妬する、あれは本心だよね。
美由紀・・目指そうよ、何の資格もいらない。
伝えるべき言葉を持とうよ・・私達は伝えられたから。
感じたら伝えろだよね・・小僧もヒトミもそう言うよね。
美由紀・・自己は満足しない、私達は満足なんかしないよね。
不平等な世の中だから・・絶対に満足なんてしないよね。
強烈でした、ヨーコ先輩の言葉が・・美由紀は泣いてました。
ヨーコ先輩は美由紀の涙を見て、私に笑顔を向けて帰って行った。
私は悔しかった・・泣いている美由紀を見て、どこまで感じたのと思って。
そこまで感じる事が出来ない私が、悔しいと思いました。
小僧は秀美にも言ってます・・困難な設定で生きる事に嫉妬してるって。
自分はそんな強い言葉を持てないから・・そう表現します。
絶対に本心です・・私でもそう感じましたから。
この事がきっかけで、美由紀は大きな変化をします・・今の美由紀に向けて。
その方向に歩き出した・・ヨーコ先輩の、みなしごの子守唄に押されて。
満足という事実こそが、策略だと言う・・小僧の言葉に押されて」
秀美は最後に笑顔を出した、ヨーコの照れた笑顔があった。
沙織は説明をかなり削除した、それはヨーコの根源に触れる部分だから。
後輩の沙織には話せなかった、私はそう感じて沙織を見ていた。
しかしこのヨーコの台詞の、深い理由に向けて流れて行く。
ヨーコの強さの根源にある、激烈で悪質なシナリオに向けて話は進む。
タブー無き世界を目指して、美由紀はヨーコを見ていた・・。