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      【冬物語第二章・・未来の記憶⑭】 

生物の進化とは、ゆっくりとした歩みである。

しかし着実に歩を進めている、止まる事は無いのであろう。

止まる事は絶滅を意味する、命の繋がりが途切れる事である。


人間はどれだけの命ある種族を、この星から消滅させたのだろうか。

その罪をいつの日か裁かれるであろう、その時に何で償えば良いのだろうか。


年末の冬空に向かい、リアンとシオンが笑顔でユリカに挨拶をした。

私と沙紀が2人を玄関まで見送り、沙紀を抱き上げてリビングに戻った。

沙紀をカレンに預けて、着替えをして美由紀の自慢話を聞いていた。


ユリカの準備が整い、カレンが沙紀と手を繋ぎ、私が美由紀を押して出かけた。

冬特有のグレーの空が主張して、寒さを感じていた。


沙紀は可愛いコートを着て、その下に重ね着させられたのだろう、着膨れしていた。

美由紀は元来薄着なので、それを見てカレンに二ヤを出していた。


「着せすぎだよね、沙紀が丸くなってる」とユリカが美由紀の二ヤ顔に言った。

「今であれなら、夜の海は身動き出来ませんね~・・車で一枚脱がせましょう」と美由紀が笑顔で返した。

「そっか~・・そうだよね」とカレンがウルで返して。

沙紀がカレンを見上げて、強く頷いた。


「ごめんね、沙紀・・過保護だよね~」とカレンが笑顔で言って、ユリカと美由紀が笑っていた。


美由紀を後部座席に乗せて、車椅子をトランクに積み込んだ。

沙紀が後部座席の真中に座り、カレンがその隣に乗り込んだ。

私は助手席に乗り、笑顔のユリカが運転席に乗った。


「あのポルシェ簡単操作だから、私でも乗れたのかな~?」とユリカが私に二ヤで言った。

後部座席から沙紀を脱がせる、カレンと美由紀の楽しそうな声が聞こえていた。


『乗れるよ、ユリカなら・・買おうよ』と二ヤで返した。

「買わないよ、高すぎます・・でも、欲しいと思う気持ちは分かったよ」とユリカが笑顔で返してきて、後部座席を見ていた。

『マリもそうだったみたいだね~・・マリは好きなんだよね、動く機械が』と私もセーターを脱いだ沙紀を笑顔で見ながら呟いた。


「良い感じになったね、沙紀・・今から駄菓子屋さんに行くからね。

 これが沙紀のお小遣いです、私とリアン・蘭・シオン・カレンから100づつね。

 500円で選んでね、全部使わなくて良いのよ・・欲しいを選んでね。

 哲夫君が来るから、哲夫君に案内してもらって・・お金の計算も一緒にしてね」


ユリカは優しく言って、100硬貨を5枚、沙紀に手渡した。

沙紀は慎重に受け取り、可愛いポシェットからミッキーの財布を取り出した。

そして財布を開けて慎重に500円を入れた、その行動を全員笑顔で見守った。


『ほい・・美由紀にも、俺からお小遣い・・欲しい物だけ買えよ』と二ヤで100円硬貨を5枚渡した。

「は~い・・5人娘にお土産を買うよ・・駄菓子屋にしかない、素敵なあれを」と美由紀が笑顔で受け取った。

「よし・・出発しま~す」とユリカが笑顔で言って。

「は~い」とカレンと美由紀が笑顔で返して、沙紀が右手を上げた。

ユリカはそれを見て嬉しそうに、冬の町並みに走り出した。


橘橋を渡る時に、強い海風を受けて車が少し揺れた。

私は河口に目を凝らした、白波は立っていないようだった。


「荒れてないよね?・・小僧」と美由紀が後ろから言った。


『大丈夫だと思うよ、今の潮なら・・低気圧も近くに無いし。

 昨日、サーフィン仲間に電話して状況を聞いた・・夜は穏やかだと思うよ。

 マス爺も、寒さ以外は問題ないって言ったから。

 ただ・・漁師の噂になってる事がある、マス爺が教えてくれた。

 近海に迷い鯨がいるらしい・・その側に、イルカの群れもいるらしいよ。

 何かを待ってるように・・近海から離れない・・今夜、カレンも行くだろ?』


私は二ヤで言った、カレンの美少女笑顔が爆発した。

ユリカと美由紀の驚きの表情と、沙紀の瞳が私に焦点を合わせた。


「良いの!・・嬉しいな~」とカレンが最強美少女笑顔で言った。

『カレン・・夜の海に連れて行く時の話し、覚えてるよね』と私は前を見て、ルームミラーを見ながら言った。


「もちろん・・でも今は、リリー姉さんもいるんだよ」とカレンもミラー越しに真顔で返してきた。


『カレン・・来年になれば、北斗は由美子に集中する・・せざる得ないんだ。

 アンナには安奈いるから・・当然、今以上の負担をかけたくない。

 派遣の事務所も出来るから、そこはリリーとカレンに任す。

 そしてカレン・・カレンには、北斗の精神的フォローをして欲しい。

 由美子のフォローをして欲しいんだ、俺は北斗に派遣の仕事は継続させる。

 北斗の全てを由美子に向けさせない、それは北斗が精神的に疲れるから。

 だから・・由美子の昼間の時間を少しでも、カレンにフォローを頼みたい。

 北斗と北斗の母親に、カレンが由美子の側にいる事での、安心感を持たせたい。

 リリーには話したから、リリーが出来るだけ派遣の段取りをしてくれる。

 由美子には、午前中にヨーコが毎日行くと思う。

 だからカレンは午後から顔を出して、由美子の部屋にいるだけで良いから。

 午前中に自動車学校に行って・・少しハードスケジュールになるけど。

 北斗の安定にはカレンが必要なんだ、俺も美由紀も学校があるし。

 シオンも学校、蘭は靴屋がある・・カレン、頼んで良いかな・・由美子の心を。

 もちろん、ユリさんもユリカもリアンも協力してくれる。

 でも、この3人には・・北斗の精神的な状況を感じていて欲しいんだ。

 カレン・・カレンしかいないんだよ、俺が由美子を頼めるのは』


私は真剣にルームミラーに映る、カレンの瞳を見ながら言った。

カレンも真顔でミラーを見ていた、私が振り向いた時、沙紀がカレンの手を握った。


「うん、沙紀ちゃん・・ありがとう、エース・・ベストを尽くすね」とカレンが美しく微笑んだ。


『よろしく、カレン・・肩肘張るなよ。

 俺はリリーがいる今でも、派遣の中核はカレンだと思ってるよ。

 リリーは見送る事になる、漠然とそう感じてるんだ。

 俺の中では、シオンと同じ感じなんだよ・・リリーはいずれ世界に出る。

 俺はそのリリーの望みを叶えてやりたい、だから挑戦を促し続ける。

 そして・・カレンにだけ教えとくね・・来春4月、小夜子が派遣になる。

 その時までに派遣のシステムを、リリーとカレンで確立させたい。

 確立の最大のポイントは、マリーレインの改革だと思ってる。

 もちろんマリーに対する派遣の中心は、リリー・・幻海が北斗とカレン。

 アンナは、来年早々から・・ゴールドの次の段階の為に、ゴールド中心で出す。

 俺はセリカの次のエースを見つけたい、セリカを東京PGに貰う為にね。

 小夜子が入るまで・・そこまでは少し厳しいかもしれないけど。

 派遣に関しては・・リリーとカレンに頼みたい・・よろしくね、カレン。

 俺は由美子の次の段階は、カレンがいるから挑戦出来るんだよ』


私は笑顔でカレンに言った、カレンは真剣な瞳で聞いていた。


「ありがとう、大丈夫・・私、意外と体力あるのよ」とカレンが美少女笑顔で返してくれた。

「カレン、私も出来るだけ由美子に会いに行くからね・・頼むね」とユリカが前を見ながら言って。

「はい・・その言葉が、一番心強いです」とカレンが笑顔で返した。


「それで・・鯨は何かを待ってるの?・・イルカが寄り添いながら」と美由紀が嬉しそうに言った。

『そうらしいよ・・20年ぶりの出来事だって、漁師達の噂だよ』と私は二ヤで返した。

「震えるような話しだね・・見てみたいな~、大海原を泳ぐ鯨の姿を」とユリカが笑顔で言って。

カレンと美由紀が笑顔で頷いて、沙紀も強く頷いた。


駄菓子屋の中庭に入ると、ツネ婆さんが植木に水を撒いていた。

私が美由紀を車椅子に乗せてると、ツネ婆さんにユリカが挨拶して、カレンと沙紀を紹介していた。

私も美由紀を押して、ツネ婆さんの方に向かった。


「おや・・美由紀、色気が出てきたね~」とツネ婆さんがシワシワ二ヤを出した。

「分かります~・・出てきました~」と美由紀が笑顔で返した。

「うん、良い感じじゃよ・・小僧、水撒きをよろしく」とツネ婆さんに言われて、私は笑顔でホースを受け取った。


ツネ婆さんが、4人を連れて店の方に歩いていると。

哲夫が笑顔で沙紀に駆け寄った、沙紀も嬉しそうに歩み寄った。


「沙紀、おはよう・・俺が案内してやるよ」と哲夫が笑顔で沙紀の手を握り、沙紀が強く頷いた。

『哲夫・・何人で来てるんだ?』と私は哲夫に声をかけた。

「2人だよ」と哲夫が二ヤ二ヤで返してきた、私はその二ヤで誰か分かった。


『婆さん・・哲夫ともう一人の分は、俺が払うから』と私はニヤで婆さんに言った。

「了解・・哲夫、遠慮無く店ごと買えよ」とツネ婆さんは哲夫に笑顔で言った。

「そうするよ・・なんせスポンサーが、夜街のエースだからね」と哲夫は私に二ヤで言って、沙紀の手を繋いで店に入っていった。


私は植木に水をやり、ホースを巻き取っていると、離れのドアが開いた。

そしてルンルン笑顔が駆けて来た、私は嬉しくて笑顔で抱き上げた、マキが笑顔でモモカを見ていた。


『モモカ・・マキの部屋にいたの?』とモモカの笑顔に囁いた。

「うん・・百恵ちゃんのレコード聴いてたの」とモモカが嬉しそうに返してきた。

強烈な波動が早く来いと吹いてきた、モモカはその波動の方向を見ていた。


「ユリアちゃん、可愛いな~・・どこの制服ですか?・・モモカも赤い制服の学校が良いです~」とモモカが前を見て言った。

爆発的に強いユリアの波動が、喜びを乗せて吹き荒れて。

ユリカの喜びの波動が、その後に来た。


「モモカ~・・ユリカ姉さんを、朝から泣かすなよ」とマキが二ヤでモモカに言った。

『そうだよ、モモカ・・ユリカは今ね、すぐ泣くんだよ』と私も笑顔で囁いて、モモカを抱いてマキと駄菓子屋に行った。

ワクワクの波動に背中を押されて、私は駄菓子屋の前まで歩いた。


駄菓子屋の入口のガラス戸から、哲夫と沙紀と美由紀の笑顔が見えた。

私はルンルンモモカを降ろして、駄菓子屋の開き戸を開けた。

モモカが沙紀に駆け寄った、沙紀はモモカを屈んで抱きしめた。


「沙紀ちゃんですか・・私はモモカです、よろしくです」とモモカは沙紀に可愛い笑顔で言った。


沙紀は必死に視線を合わせ、モモカを見ながら頷いた。

モモカはルンルン笑顔で沙紀の胸に耳を当て、そしてゆっくりと瞳を閉じた。


《モモカ!・・本気モードか》と私は心に強く叫んでしまった。

それを感じて、奥の部屋に座るユリカが立ち上がり、カレンがユリカに驚いて立った。


「嬉しい~・・楽しみです・・ねぇ沙紀ちゃん・・コジョは探してるの?

 どこかに忘れて来たの?・・それとも誰かに隠されたの?

 違うよね・・ここに有るよね、コジョもマリちゃんも知らないんだね。

 モモカも探さなかったよ・・探さなくて良いんだよね。

 溶けてくるんだよね、だからモモカ・・人より早くお話し出来たんだよ。

 沙紀ちゃんも有るよね・・ここに有るから、すぐに出来るよね。

 今は凍ってるんだね、氷は溶けるよね・・春が来れば、お話し出来るよね。

 モモカ・・待ってるね、沙紀ちゃんとお話し出来るの・・楽しみに待ってるね」


モモカはそう言って、沙紀に体重をかけたようだった。

その瞬間、沙紀は強くモモカを抱きしめた、そして沙紀が一筋の涙を流した。

モモカに対しては凍結しない私でも、この時はさすがに凍結した。

哲夫も美由紀も動けずに2人を見ていた、そして奥の部屋で凍結するユリカとカレンが見えた。


マキが沙紀に笑顔で近づき、沙紀もマキを見て頷いた。

マキがモモカを抱き上げて、店の奥のユリカ達の場所に歩いた。

美由紀がハンカチで沙紀の涙を拭いて、笑顔でお菓子の説明を始めた。


曇り空の影響で少し暗い奥の部屋に、ユリカとカレンは立ったまま固まっていた。

ツネ婆さんがユリカとカレンの側に、座布団を2枚敷いた。


マキはそこにモモカを寝かせた、ユリカとカレンはようやく動き、モモカの寝顔を笑顔で見ていた。。

マキが奥の部屋から、毛布を持ってきてモモカにかけた。


「久々に見たよ、全力のモモカを・・沙紀ちゃんは凄い子だね~」と婆さんが微笑んだ。

「はい・・ありがとう、モモカ・・沙紀は嬉しかったよ」とユリカがツネ婆さんに笑顔で返し、優しくモモカに囁いた。

「モモカも素敵だね・・本当に甘い香りがする、春の香りが」とカレンも潤む瞳で囁いた。


「マキ、モモカが全力なら・・やはりそうなんだね、悪意に挑むのか?」とツネさんがマキを見て静かに言った。

「うん・・来年早々そうなる、今回は必ずやりきる」とマキも真剣に返した。


「マキよ、もう一度取り戻せ・・お前にはそれが必要じゃよ、今なら制御出来るよ」と婆さんが笑顔で言った。

「やっぱり、必要なんだよね・・分かった、やってみる」とマキは真顔で強く返した。


「ユリカさん、その時は協力してやって下さい・・お願いします」と婆さんはユリカに頭を下げた。


私は美由紀を抱き上げて、ちゃぶ台に向かいながら婆さんの表情を見ていた。


「ツネさん!・・頭を上げて下さい、私はマキの為ならどんな協力でもします。

 そして、私に【さん】を付けないで下さい・・私はユリカと呼ばれたい。

 飛鳥姉さんに育てられた人間として・・ツネさんには、ユリカと呼ばれたい」


ユリカが静かに言った、深海の響きが木霊していた。

私は初めて聞いた、ユリカが【飛鳥姉さん】と呼んだのを。


「ありがとう、ユリカ・・あなたが夜の街に存在する事は、本当に貴重な事だね。

 飛鳥は幸せな人間だよ・・リンに出会い、ユリカに出会った。

 私も忘年会の招待を受けましょう・・見たくなったよ、ユリカを感じて。

 マキの目指す世界の今の女性達が・・夜街の進化が求めた女性達をね」


ツネ婆さんは嬉しそうな笑顔で言った、ユリカも嬉しそうな笑顔だった。

私は美由紀を婆さんの横に降ろした、美由紀は婆さんを真剣に見ていた。


「美由紀・・お前の武器は違うだろ、笑い飛ばさんか」と婆さんは笑顔で言った。

「はい・・たかだか悪意の砂時計、私が正体を教えてあげます」と美由紀も笑顔で返した。

「頼むぞ、美由紀・・小僧もマリも探してるようじゃ、頼りにならんよ」と婆さんが私に二ヤで言った。

『そうだよね、またモモカに教えてもらったよ・・でも春風じゃなかったよね、マキ』と私はマキに二ヤで言った。


「やっぱりそうだったの・・あの感覚・・戻ってきたのかな~」とマキが二ヤで返してきた。

『自分で封印したんだろ、和尚が言ったろ・・時が来れば解けるってね』と私は二ヤ継続で返して、美由紀の横に座った。


「エース、教えて?・・時が来ると解ける、マキの封印を?」とカレンが真顔で私に言った。


『マキは幼い頃、俗に言う・・霊感が強かったんだ。

 それで悩んでいて、和尚に相談したんだよ・・怖いからどうにかならないかと。

 マキがチサを見送った直後、マキが8歳の時だった。

 子供だから恐怖感が支配して、和尚も強過ぎると感じて、封印の方法を教えた。

 まぁ・・いつもの瞑想の一段階上なんだけど、マキはその場所に到達した。

 でも・・感覚は捨てることは出来ないんだ、封印して感じなくするだけ。

 俺は霊感と呼ばれる物を持ってないから、その部分は分からないけど。

 昨日のシズカが話した、正夢と変わらないと思ってる。

 和尚の見解も同じだと思うよ・・話した事はないけど。

 

 和尚は美冬に相談された時に、その場所に残ってる強い想いを読める。

 そう表現したよね・・それは自分と向き合える状況にする為に言ったんだ。

 場所に人の想いが残るとは思えない、それならば・・広島や長崎を歩けない。

 壇ノ浦も関が原も・・霊感の強いと言われる人は、どこも歩けないと思うよ。

 歩く場所は無いと思うんだ、何所にでも辛い歴史は有るだろうから。

 でも・・浮遊する想いは有ると思う、俺はその存在なら感じるよ。

 美由紀が感覚を上げた方法も、ヒトミに語りかける事だった。

 そして感覚が上がり、正夢を感じさせられる・・その次段階も存在する。

 正夢の時に何も感じずに、気持ち悪いと思いながらも感覚を上げると。

 もっと恐ろしい何かを感じさせる・・俺はその事を、霊感と呼んでると思う。

 怖いと思って見れば、何でも幽霊に見えるよ・・それは何故か。

 人は目で見てる物は、直接見てると思ってる感覚になる・・でも違うよね。

 目で見た物を、一度脳が処理するんだ・・その処理に作為が入るなら。

 どんな恐怖の映像でも見せられるよ・・作為なのか真実なのか。

 それが分かれば邪魔にはならない、霊感と呼ばれる物も、何かの役に立つ。

 俺はそう思ってるんだ・・問題は、作為なのか真実なのか・・その見極め。

 見極めとは・・見て極めると書く・・重要な漢字表記だよ。

 極めるべきは・・真実と作為・・それが出来るなら、作為に対する武器になる。

 ユリカやマリの世界まで行けば、それは作為を看破する武器になる。

 俺は持ってないからそう思う・・霊感だと感じる、それが作為の意味だってね』


私は二ヤで言った、カレンは真剣に聞いていた。


「よしよし・・中々の集中でしょう」と後ろから律子の声がした。


振り向くと沙紀を抱いた律子が、二ヤで立っていた。

全員が笑顔で挨拶して、律子は沙紀を哲夫の前に降ろした。

沙紀が律子を見上げた、律子は沙紀の手を握り笑顔で頷いた。


沙紀は棒に射してあるドーナッツを手にとって、財布を出して哲夫に支払った。

哲夫は沙紀に値段とお釣りの説明をしながら、沙紀の財布にお釣りを入れた。

沙紀は大事そうに財布をポシェットに入れて、哲夫と2人で座って食べていた。

沙紀の背中が楽しそうで、律子もそれを見て、笑顔のまま近付いて来た。


律子はモモカの寝顔を見て、ユリカとカレンの間に座った。


「出来の悪い小僧のフォローじゃ、モモカもマリアも大変だね~・・全力出させて」と律子が私に二ヤで言った。

『面目ない・・反省したよ』とウルで返した。


「マキ・・春風じゃなかったの?」と律子が二ヤで言った。


「もう、母さんまで・・小僧が言った見極めを、やっと感覚的に理解しました。

 モモカがユリアに語りかけるのを見て、私の間違えに気付きました。

 モモカは視覚では、ユリアが見えてないですよね。

 でも感じてる・・真実だけを感じる・・モモカは見極めない。

 私も挑戦したいと思いました・・封印を解いて、その意味を探したい。

 そしてあの時の、ヨーコの進入方法も少し感じました。

 入口なんて無いんですね・・そんな物をいくら探しても無い。

 存在しないから、有るはずがないんですね・・やっとその段階に来ました。

 遅れ馳せながら、マキは発進します・・深海と、時の部屋を目指して」


マキは表現を回して、最後にカレンに微笑んだ。


「サンキュー、マキ・・私も間違えに気付いたよ」とカレンが嬉しそうな笑顔で返した。

「カレン・・あの名作、父の卒業証書に込めた強い想い・・それを感じてね」と律子が笑顔で言った。

「はい・・本当に嬉しいです、沙紀に出会えて・・ミホ・理沙・・そして由美子に出会えて」とカレンが笑顔で返した。


その時、駄菓子屋の前を黒い車が通り過ぎて、中庭に止まった音がした。

蘭が満開笑顔で先頭で入ってきて、その後ろにハルカとミサキの姿が見えた。

マキが迎えに行き3人が上がって、その後ろにマリとシズカの笑顔があった。


律子がハルカとミサキをツネ婆さんに紹介した、2人は緊張しながら挨拶した。


『緊張しすぎだよ、ミサキ・・いくら飛鳥の秘蔵子だからって』と私はミサキに二ヤで言った。

「緊張するでしょ、大ママからずっと聞いてた人に会えたんだから」とミサキが真顔で返してきた。


「飛鳥が大ママか~・・それは傑作だね~」と言って、婆さんが爆笑した。

「笑えますよね~・・女帝の大ママらしいですよ」と律子も笑いながら言った。


女性達は唖然として2人の笑顔を見ていた、ユリカだけ楽しそうに笑っていた。

蘭はモモカの横に座って、モモカの顔をじっと見ていた。


「蘭よ、起こしたら駄目じゃよ・・喜んでるよ、蘭に会えて」とツネ婆さんが笑顔で言った。

「ツネさん・・やっぱりそうなんですね」と蘭が満開笑顔になって返した。

「そう・・それがモモカだよ、やっと会えたね・・蘭は夕方3度も来たからね」とツネ婆さんが二ヤで言った。

それを聞いて、ハルカとミサキがモモカの寝顔を見た、2人とも優しい笑顔だった。


「さすがだね~、蘭・・行動力はNo1だよ」とユリカが笑顔で言った。

「えへ・・駄菓子屋さんまで来てみました、来たかいが有りましたよ・・ツネさんと色々お話出来て」と蘭が満開笑顔で返した。

「誘ってくれれば良いのに~・・私もこれからはお邪魔します」とユリカが笑顔でツネ婆さんに言った。

「誰でも大歓迎じゃよ・・暇な店番してるから、話し相手は嬉しいよ」とツネ婆さんが笑顔で言った。

女性達が嬉しそうな笑顔で頷いた、マキも嬉しそうだった。


『ねぇ、婆さん・・あの時、マキが挑戦したいと言った時。

 即答で承諾したらしいよね・・それは覚悟してたからなのかな?

 それとも何かを感じていたとか、マキの望む世界を母親と重ねてたとか。

 クラブ千花を作ろうと思ったのは、自分の挑戦の為だったのかな?

 それとも、娘の真希さんの才能を感じたからだったのかな~?』


私は久々に饒舌なツネ婆さんを見て、一番聞きたかった事を二ヤで問いかけた。

女性達が笑顔で興味津々光線を発射した、ツネ婆さんはそれを感じて二ヤを出した。


「小僧・・状況を読む力が増したね・・終戦時の日本にクラブは無かった。

 クラブの話しは、東京の方から流れて来たんじゃろう。

 ワシにその事を教えてくれたのは、タミなんじゃよ、今はマダムじゃね。

 日本も戦後の混乱期が落ち着いて、少し余裕が出てきた頃じゃったよ。

 日本のクラブは発祥は、もちろんGHQ・・アメリカの兵隊用に出来たんじゃよ。

 敗戦時の日本、その辛い時代に幕を開けた・・東京と横浜が中心じゃったね。

 発足時は相当の苦労があっただろう、軍人は飲むと危険だからね。

 精神的に追い詰められてるし、緊張感の連続だからの。

 それが緩むと危険なんじゃ、制御が利かなくなる。

 蓄積された欲求不満が爆発する、なんせ体が大きいから止められない。

 

 そんな時代を乗り越えて来た、女性達の血と汗と涙の歴史が繋いだ。

 日本がここまで復興したのは、少なくとも半分は女の力じゃよ。

 ワシとマダムはずっとそんな事を話しながら、闇市で生きていた。

 マダムがクラブの話しをした時、ワシも嬉しかった・・女でも挑戦できる。

 そう感じての・・女でも勝負できる世界が出来たと感じたよ。

 それまでは存在しなかった、もちろん夜の社交場は有ったがね。

 そこで働く女性は、訳有りの女で・・常に暗い影が付きまとった。

 女は男に使われるだけで、心も体もボロボロになっていた。

 マダムはそんな世界を嫌って、ワシに強くこう言ったんじゃ。

 

 クラブに若い女を集めて、体以外の武器で勝負させよう。

 接客という文化を作る・・芸者じゃない、芸じゃなく会話で勝負する。

 そんな場所を作りたい・・その為には大きな柱がいるよね。

 絶対的な存在である、核になる女が・・それさえ探し出せば、勝負出来る。

 男社会の泡銭をかっさらって、最後に笑ってやりたいね~。

 私はそれがやりたいよ・・この世界の半分は女なんだって。

 馬鹿な男に分からせたい・・その勝負が出来るね、クラブなら。


 マダムはそう言っていた、ワシも同じ気持ちで目指したんじゃ。

 ワシには託せる女の目処が付いてた、娘の真希は不思議な少女だった。

 ワシの実家は椎葉なんじゃよ、そこに真希を預けていた。

 両親に預けて、ワシは出稼ぎに出たんじゃよ・・男手が父親しかいなくて。

 年に何度かしか帰れんかった、じゃが真希は一度も淋しいと言わんかった。

 ワシは必死に働いた、そして運も味方して少しの財を得た。

 それで椎葉に帰る・・そして真希と暮らしながら、真希に計画を話す。

 真希は笑顔でやりたいと言った、ワシも嬉しくてその覚悟が出来た。

 マキが中学を卒業した日に、2人で椎葉を後にした。

 後ろ髪引かれる思いじゃったよ、椎葉でのんびりと暮らすのも良いと思った。

 じゃがどうしても勝負したかった、戦争に奪われた大切な時間の為に。

 男社会が作り出した、戦争という馬鹿げた歴史に・・男社会に。

 勝負したかった・・真希を見てると、その想いが抑えられんかった。

 真希で勝負する・・ワシはそう誓って、青空市場に戻ったんだ。

 

 そして千花を作った、千花の成功は・・全て真希の力じゃったよ。

 真希の魅力、それは吸収力じゃった・・一瞬で魅せられると言われた。

 何かを強引に惹きつける、強力な吸収力・・それじゃったよ。

 小僧と真逆じゃね・・小僧は吸引力じゃろう、強引に出会ってしまう。

 その出会いを強力に繋ぐ、自分を相手に近付ける・・吸引力じゃね。

 その吸引力の進化系・・それがモモカじゃよ、モモカは開放されている。

 常時心が開放されている・・それは生後半年で得た、小僧に出会っての。

 

 ワシは引退した後・・たった一人だけ、本物の女帝候補を見た。

 その雰囲気は真希を凌駕していた・・圧倒的な温もりが有った。

 その少女を見た時の、孫のマキで確信した・・そこを目指すと。

 娘の忘れ形見は必ず夜の世界を望むんだと、それはその時に確信したよ。

 娘の真希は最も大切な物を、自分の娘に託した・・自分で選び背負った名前を。

 ワシとマダムの心を感じて名乗った名前・・真実の希望・・真希。

 

 マキよお前などまだまだじゃ・・必ず辿り着け、お前をこの世界に押し出した。

 圧倒的本物であり、最高の女帝候補だった・・ヒトミの世界まで到達しろ。

 ヒトミこそ真実の希望じゃったよな・・お前はあの時、一度封印を解いたよな。

 じゃが到達出来なかった・・母親の真希なら到達できたと思うぞ、12歳での。

 マキ・・全てを開放しろ、恐れるな・・そうしないと届かない。

 ユリカの世界には行けない・・お前が追い続ける、ヒトミの世界には入れない。

 ヒトミの世界を目指せ、あの全てを包み込む世界を・・それだけが望み。

 それが母親であり、宮崎最初の女帝と呼ばれた・・真希の望みじゃよ」


ツネ婆さんは最後にマキを見ながら、厳しい表情で締めた。

ユリカと蘭の真剣な瞳がマキを見ていた、ハルカもミサキもマキを見ていた。


「5年待って下さい・・5年で辿り着きます、ヒトミの世界に」とマキは真剣に婆さんに言った。


私は沙紀を見ていた、沙紀はマキの顔を見ていた。


この時に感じて、沙紀は次の名作を完成させる、この年の最後の作品として。


私は少しの驚きの中、沙紀自身の集中が上がっているのを感じていた。


そしてその集中を楽しんでいる自分を感じて、ユリアの言葉を思い出していた。


今は使いたくない、そう言ったユリアの言葉を・・。




 

 


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