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      【冬物語第二章・・未来の記憶⑦】 

現実の世界とは意識しない場所である、非現実はあるのだろうか?

その解答が出ることは無いだろう、しかし否定は出来ない。

私には否定する事だけは出来ないだろう、感じた事があるのだから。


3本の蝋燭だけが照らす世界に、仙人の顔が浮かんでいた。

仙人は茶をすすり、覚悟を決めたように始めた。


「本当に見事じゃよ、温度に気付いた・・素晴らしいぞ。

 ワシは瞳の伝達は、なんとなく気付いておった、シノとの長い関係での。

 仏門に入り、病の子供の面倒を看るのが、ワシの最初に与えられた仕事だった。

 仏門に入る前の面談でシノの話をしていたので、それになったんじゃろう。

 入門したのは大きな寺での、小僧と呼ばれる修行者が20人以上おった。

 ワシは15で入ったが、遅い方じゃったよ・・12歳の者もおったかい。

 仏門の修行は厳しい世界だが、質素でも飯は食わせてくれる。

 飯さえ食えれば何でもします、そんな時代だったからの~。

 

 ワシが寺に入った時に、2人の子供が小さな離れに隔離されていた。

 一人は寝たきりの1歳児で、母親が付っきりで看病しておった。

 もう一人は、先天的に足首から下の無い4歳の少年だったよ。

 偏見から守る為に、寺の離れに隔離して・・世間から遠ざけるんじゃよ。

 あの時代の庶民の考えは・・医学よりも風習や伝統に重きを置いていた。

 田舎の民は、まだ西洋医学など知らぬ者が多くての・・古い風習を重んじた。

 古い風習は、基本的考えが・・絶滅を防ぐなんじゃよ。

 だから奇病が出ると、祟りだと騒ぎ出す・・そしていとも簡単に生命を奪う。

 それは仕方の無い歴史なんじゃよ、流行病が襲ってくれば全滅も有り得る。

 対抗策が無い時代だから、流行る前に焼き払い・・消滅させるしかない。

 だから奇病の者は、祟られてると言われた・・そう言えば自分を納得出来る。

 人の子であり、人の親である・・大人達の難しい決断を促す為に。

 辛い決断をする為に・・辛さを和らげる為に、祟りと言う言葉を使った。

 誰も責められん、そんな時代が繋いでくれた・・今に繋いだ。

 絶滅をさせなかった、だからこそ今がある・・辛い決断の果てに、今が有るんじゃ。


 ちょうどその頃が、脈々と流れてきた歴史の、転換期だったのだろう。

 医学という物が強く出てきた、自分達のそれまでの誤解も気付いていた。

 しかし絶滅を恐れる風習は抜けてなかった、だから寺で隔離したんじゃ。

 ワシが知る話しだけでも、あの当時・・坊主が全滅した寺が10ヶ所以上ある。

 今の医学で言う、悪性のウィルスだったのだろうね。

 しかし寺だけで済んだ、そうも言えるよね・・絶滅を防いだと言えるじゃろう。

 

 奇病など無限に存在する、今の医学でも解明できん病も無限じゃろう。

 そして新たな病も発生する、ウィルスなどは進化を遂げてしまうから。

 永遠の問題として、人間の前に有るだろうね・・それも大切な事だろう。

 死という設定が無くなれば、人間はどう生きるのだろう。

 多分・・生きる事の充実感など感じなくなる、不幸な事じゃと思うよの~。


 ワシは15でその担当になり、必死にやったよ・・仏門の修行をしながら。

 じゃがワシは15じゃった・・小僧に今日出会って確信したよ。

 15だったから気付けなかった、純な心でなかったと認めるしかない。

 ワシが16になった時に、12歳の少女が入ってきた・・急に体が動かんなって。

 下半身が動かんのじゃよ、それで寺で隔離して・・医者がやってきた。

 原因は分からんと言われて、寺で様子を見る事になった。

 ワシはその時に自分の愚かさに気付かされた、突きつけられるんじゃよ。

 ワシは母親が体を拭いている、その子の体を直視出来んかった。

 体に少し斑点が出ていたので、見らねばならんと思いながら見れんかった。

 思春期の自分の欲求が恥ずかしくて、それを見る事が怖かったんじゃよ。

 修行が足りんのよ・・ワシはそれに気付いて愕然としたよ、自分の弱さを感じて。


 小僧・・本当に見事じゃ、よくぞ気付いた・・魂の温度に、心の温度に。

 それはお前が純だったからじゃよ、お前の探究心が純粋だったからだよ。

 ワシはそんなレベルにいなかった、自分の心に負けていたんじゃ。

 気付く訳が無い、そんな人間には気付けない・・心の温度など、気付けないんじゃ。


 ワシはそれから必死に修行に取り組んだ、修行するしか道はなかった。

 自分の欲求を超えるのには、厳しい修行が必要だと感じたんじゃ。

 荒行も数多くこなしたよ、他の修行者と想いが違うから・・誰よりもやった。

 極寒の霊峰の山篭りも、ツララの下がる滝にも打たれた・・そんな日々が続いた。

 そして現れる・・奇形の乳児・・阿修羅の使いと呼ばれた乳児が来るんじゃ。

 

 満月の夜じゃった・・真夜中に母親が阿修羅を抱いて、寺の門を潜る。

 火守りという当番の小僧が、母親を招き入れ・・ワシはその小僧に起こされる。

 ワシは20歳じゃった・・その小僧の蒼白の顔を見て、ただ事でないと飛び起きた。

 離れに歩きながら、小僧の話を聞いた・・小僧は俯いて静かに言った。

 私は修行が足りません・・脅えてしまった、人間の外見に・・それも乳児に。

 その言葉しか言えなかった、背中はワナワナと震えていた。


 ワシが離れに着いた時には、寺の最高責任者・・道を究めた和尚が座っていた。

 乳児の横に座り、強い眼差しで乳児を見ていた。

 その雰囲気だけで、ワシは緊張した・・そして側に歩きながら、震えていた。

 生後半年に満たない乳児は、和尚を睨んでいた・・その顔にワシは凍りついたよ。

 口が耳元まで裂けてるように大きく、目は漆黒の闇を表して・・白い部分が無かった。

 毛髪と眉は全く無く、頭に赤と青の血管が浮き出ていて・・それが脈打っていた。

 

 「辛いのか?・・どごが辛いんじゃ?」・・和尚は優しく語りかけた。

 「辛い?・・辛いとは狭き人間の言葉、現世に辛き事など無いわ」

 その乳児が強く返したんじゃ、大きな口を薄く開いて。

 和尚はその子をじっと見ていた、そして振り向かずにワシに言った。

 「私では体力的に無理なんだよ、頼んで良いかな?」・・そう和尚が言った。

 「お任せ下さい」とワシは和尚の背中に言うと、和尚はフラフラと立ち上がった。

 和尚を連れて小僧が部屋を出て行った、ワシは母親も出ていてくれと頼んだ。


 「お任せ下さいと言うか!・・たかだか人間が」とその乳児が言った。

 ワシは母親の背中を見送って、必死の笑顔を乳児に向けたよ。

 「まぁ、そう言わんでくれよ・・少し話そうぞ」とワシは言ったんじゃよ。

 そして身動き出来なくなる、その言葉に縛られるんじゃ。


 「妹一人救えないで、何が修行ぞ・・切られてると救いを求めたのに」

 乳児はそう言って、大きな口を開いて笑ったんじゃ。


 小僧・・すまん、ワシも歳じゃ・・予想以上に体力が無いようだ。

 抑えきらん・・危ない時は迷わず逃げよ、寺の敷地外に逃げよ・・。

 本当にすまん・・こんなに強いとは、予想外じゃった」


仙人和尚がそう言って、前のめりに倒れこんだ。


『仙人!・・仙人和尚』と叫んで私は仙人の肩に手をかけて、左手を握った。


《ふ~~・・温度は正常だね、おどかすなよ~》と私の安堵の心の声が響いた。


『それで・・出ておいでよ、誰なの?・・もしかして阿修羅君?』と私は仙人を見ながら二ヤで言った。


『大バカだ!・・お前は大バカだよ』と現実の私はTVに叫んだ。


仙人のチェックをした私は、祭壇を見ていた。

その時、3本の蝋燭が消えて、外の月光の薄明かりだけの世界になった。

私は動かないで、感覚に集中していたのだろう。


ギシ、ギシと何人もの床を踏む音が、私に近付いて来た。


『多勢とは卑怯なり・・武士の風上にもおけぬ奴等よの~』と私は叫んでいた。

足音は四方から近付いて来る、私は覚悟が出来たのか立ち上がった。


《チッ・・怖いのか、俺が・・怖いのか?・・怖くない、楽しいや》と私の心の声がした。

そして私は二ヤ二ヤを出して、本堂の真中に歩いた。


《広い方が良いよな~・・とりあえず、怖くないけど、怖くないけど・・逃げる準備も》と私は心に強く言った。


『2度も言うなよ~・・怖いのバレバレだよ』と現実の私は二ヤで言った。

現実の私は、その後の展開を少し思い出して、自然に二ヤが出ていた。


『ねぇ・・見えないんだけど、足音だけで・・姿を見せてよ、驚かないから』と私は強めにそう言った。


床を踏む足音が止まり、私の周りを取り囲むように、床から青白い炎が湧き出てきた。

その炎は床の上1m程で止まり、炎が静かに消えて石碑が現れた。


『それなのか!・・てことは、ここか』と言って、私は慌てて少し動いた。


私のいた真中の部分から青白い大きな炎が立ち上り、1m四方程の火柱が上がった。

そして火柱が消えた後に、大きな一枚石が現れた。


『うん・・中々の演出だよ・・次は?』と私は二ヤで言った。


『よし・・気分が乗ってきたな、恐怖心を好奇心が超えた』と現実の私は二ヤ継続で呟いた。


私が石碑を見回していると、真中の大石の上が白い光に包まれた。

私はそれを見ながら、段々と笑顔になった。


『可愛いね~・・仙人の妹とは思えないよ』と私は笑顔で駆け寄った。

そこには着物を着た可愛い少女が、熟睡するかのように眠っていた。


『シノちゃん・・手を触るね、いやらしい感じじゃないよ』と私は笑顔で言ってシノの左手を触った。


《よし・・温度も感じる、良かった~》と心に囁いて、シノが眠る横に座った。

私は手だけを繋いで、シノの可愛い寝顔を見ていた。

《確か・・8歳だったな、俺より2こ下だな》と寝顔を見ながら心に呟いた。


「切られるとは・・何ぞ?」と私の後ろから声が聞こえた。

私は振り向いて一瞬驚き、次の瞬間に笑顔になった。


『阿修羅君・・凄いな~・・乳児で喋れるの』と私は二ヤで言った。


私の後ろの石碑の間に、青白い炎を纏った乳児が少し浮いたいた。

その顔は仙人が言った通りで、人間の乳児とは思えない恐ろしい顔だった。

しかし私は聞いていたからだろう、自分のイメージに近い事を喜んでいた。


「阿修羅じゃない・・名前がある」と乳児が返してきた、少し声のトーンが柔らかくなった。

『ごめんよ~・・仙人が教えてくれなかったんだよ・・名前はな~に?』と私は笑顔で聞いた。

「5男だから・・五平」と少し恥ずかしそうに言った。

『かっけ~よ・・五平、素敵だよ』と私は笑顔で返した。


私の笑顔の返事を聞いて、五平はゆっくりと近付いて来た。

五平は私の1m手前で止まって私を見ていた、私は笑顔で五平を見ていた。


「敬語を知らんのか?・・俺の方が年上だぞ」と五平が言った、少し口元が動き表情が出た。

『そんな乳児体形して、年上と言われてもな~・・だいたい五平先輩は、おいくつですか?』と笑顔で聞いた。


「生きてれば、現世では・・63歳だよ」と少し照れた感じの笑顔で言った。

『そうなんだ、大先輩ですね・・そうな風に笑えば、少しは可愛いのに』と私は笑顔で返した。

「少しか・・可愛いの」と五平が二ヤっぽく返してきた。

『俺は嘘は言わないよ、まぁ通じないと思ってるし・・外見は怖いよね、それは仕方ないよ』と私は真顔で返した。


「そうだよな~・・実は、自分でも怖いんだよ」と五平も真顔で返してきた。

『仙人の話の時と、雰囲気が違うね・・何かが外れたのかな?』と私は笑顔で返した。

「あの時は、俺じゃないよ・・塔の上の見えない男だったんだ」と五平が返してきた。


『五平先輩・・その話し、聞きたいんだ・・どうしても聞きたい、お願いします』と私は立ち上がり、五平に深々と頭を下げた。

「抱いてくれるか?・・この俺を恐怖心無く抱けるなら、話そう・・難しいぞ、最後は母親でも出来んかったよ」と五平が真顔で返したきた。


『五平・・辛かったね、でも母親も愛してたんだよ・・だから寺まで抱いて行ったんだよ』と私は笑顔で言った。


そして五平の前まで歩き、笑顔で五平に手を伸ばし、触れる感触を確認して抱きしめた。

私は乳児を抱くのは得意だった、すぐにその子の好きなポジションを探り当てていた。

私は五平を抱いて、笑顔で五平を見ながらシノの横に座った。


「ありがとう、嬉しいぞ・・初めて抱かれた気分だよ」と五平は私を見ながら言った。

『近くで見ると、可愛いね・・乳児は可愛いよ』と私は正直に言ったのだろう、五平も嬉しそうだった。


「小僧が知りたいほどの話は、出来んかもしれんぞ。

 なんせ乳児の時の話だからな、曖昧なんだよ・・その後の展開が衝撃的だし。

 俺は・・当然のように恐れられて、祟りだと言われた。

 俺を抱いて、母親は家を飛び出した・・父親に俺を処分しろ言われて。

 色々な寺や神社を回り、最後にあの寺に辿り着いたんだ。

 母親にとっては、悲劇的な話しだよ・・俺の為に体まで売ったんだから。

 それで得た金で旅をした、俺の顔を隠しながら・・夜に移動するんだ。

 俺は自分が普通じゃないと分かっていた、母親のしてる事を理解してたから。

 もちろん言葉は持ってなかった、でも必死で笑顔を出してたよ。

 あの寺の話しを聞いて、母は最後の望みを託して、寺を目指した。


 あの寺に着く2日前の夜だった、山道で母が3人の男に襲われた。

 俺は3人のあまりの暴挙に、母が殺されると思った。

 俺の手で何とかしたい、母を助ける事が出来るなら何でもする。

 俺は強くそう思ったんだ、母の涙を見ながら・・自分の中に叫んだ。

 その時・・時が止まったんだよ、静止画のように周りの全てが止まった。

 そして俺の見てる景色が変わって、俺は白い塔の一番上に連れて行かれた。

 そこの祭壇の椅子に寝かされて、こう言われたんだよ。


 母を助けたいのなら、体を差し出せ・・お前の体は選ばれた体だってね。

 俺はその言葉の意味が分からなかった、俺の顔は失敗作だと思ってたから。

 でも母を助けたくて・・何も出来ない自分が悔しくて、それを受けたんだ。

 どうやれば良いの?・・そう心に言った、そうすると声が返ってきた。

 時の部屋に入る事になる、その部屋に入ると・・お前は自分の意思を出せない。

 目で見たり、聞いたりは出来る・・しかしお前以外の意思で体は動く。

 言葉もそう・・お前の言葉でない、だが母を助ける事は出来るぞ。

 人間は理解出来ない恐怖には勝てない、絶対に逃げ出すもんだよ。

 

 俺はその言葉の本当の意味も考えずに、母を助けたい一心で承諾した。

 そして俺は落とされた、落とされた場所は真白い部屋だった。

 その部屋に入った瞬間、視野が戻ったんだ、静止画の状態の視野がね。

 そして動き出した、俺は悔しさを思い出していた、その時に大声が響く。

 俺は誰の言葉だって思ったよ、それが自分の体が発した言葉だと思わなかった。

 男3人は俺を見て凍結してたよ、そして俺が追い打ちをかける。

 「祟られて、死ね!」・・そう叫ぶんだよ、見えない男が。

 3人の男は叫びながら逃げて行った、母親は俺を抱きしめて俺を見た。

 その時に、俺の言葉が母に襲いかかる・・俺は泣いたよ、俺じゃないって言いながら。

 

 「お前が男好きの淫乱だから、あんな目に会うんだ」・・俺の体はそう言ったんだ。

 母は泣きながらも俺を抱いて、寺を目指す・・俺は母を罵り続ける。

 母はその時には、俺に恐怖を感じていたよ・・抱かれる温度で、俺はそう感じた。

 俺は寺に預けられ、母は姿を消した・・それ以来2度と会えなかった。

 俺は死にたいとずっと内側に叫んでいた、自分の発する言葉が耐えられなかった。

 俺の意思じゃない、恐ろしい言葉が・・俺には耐えられなかった。

 でも・・俺は自ら死ぬ事まで、死を選ぶ事さえ出来なかった。

 純白の時の部屋に囚われていて、自分の発する言葉を聞かされていた。

 俺がある和尚に殺されるまで・・俺の永い3年の一生が終わるまで。

 俺は囚われていた・・死して開放された、本当に嬉しかった。

 俺を殺した和尚に感謝したよ・・自由になれて、誰も傷つけなくなれて」


五平は真顔で悔しそうに話した、私は五平を強く抱いていた。


『そうだったのか~・・時の部屋・・そうなのか』と私は前を見て呟いた。


「なぁ、小僧・・お前は良い奴だから、大切な事を教えとく。

 お前は明日の朝には忘れる、この状況を忘れる事になる。

 仙人和尚が倒れ込み、お前もそのまま眠りに落ちた・・そう思わされる。

 仙人が話した妹の事も、曖昧な感じになって・・忘れていく。

 だが・・記憶には残るんだ、記憶を封印されるんだよ・・だから未来で出せ。

 お前なら出せる・・だからこそ、仙人は体力の限界まで出したんだ。

 お前が必ず出せるよう、出せる者と出会えるように・・俺からお前に鍵を渡すよ。

 小僧・・ありがとう・・本当に嬉しかった、恐怖感無く抱かれて。

 俺の渡す鍵は・・感謝の気持ちだよ・・泣いて良いぞ、小僧。

 また会える事を楽しみにしてる・・お前が本気でやる時は、俺も手を貸すよ。

 騙されただけで終わらせないよ、俺も負けず嫌いなんだ。

 また会おう・・小僧・・現世での勝負の場所で・・さらばじゃ」


五平はそう言って、最後に可愛い笑顔を出して消えた。

私は寂しさを感じながらシノを見ていた、そしてシノの左手を握った。


《えっ!・・まさか!》と私はシノの顔を覗き込んだ。


「駄目!・・キスしようとした、スケベ小僧」とシノが慌てて顔を上げた。

その顔は私が見間違う事の絶対にない、ヒトミの笑顔だった。


私は嬉しくてヒトミを抱きしめた、ヒトミは優しく私を抱いていた。

ヒトミに抱かれ泣いている、私とヒトミの映像が上から映った。

抱き合う2人を取り囲む、22本の石碑に小さな青い炎が灯った。


『まさか・・もう帰るの!』と私は体を少し離しヒトミを見た。


「それが今の時なのよ・・時間じゃないのよ、小僧・・頑張ってるね。

 さっきの話し、嬉しかったよ・・正直な小僧の言葉が聞けて。

 小僧・・もう一度、ミホに会いに行ってね・・ミホは待ってる。

 そして巡り会ってね・・必ず巡り会ってね・・私は信じてるよ。

 もう眠るのよ・・今夜はゆっくりお休み・・私が膝枕してるから。

 必ず封印を解いてね・・その方法は誰にも分からない。

 でも小僧なら解けるよね・・小僧とマリちゃんなら。

 悔しさも・・淋しさも・・悲しさも・・全部忘れて、今は眠りなさい。

 お休み・・小僧・・本当に嬉しかったよ・・鍵は私だよ。

 私を忘れない限り・・封印を解く可能性は有るのよ。

 小僧・・目を閉じて、涙は乾くわ・・春風が乾かしてくれるから」


ヒトミは私の耳元にそう囁いた、私はヒトミを見ながらゆっくりと目を閉じた。

石碑が静かに床に沈みだし、大石も沈んで消えた。

私は本堂の床で眠りに落ちていた、私の横にはヒトミが膝枕をして私を見ていた。


段々と光が強くなり、朝の訪れを告げていた。

ヒトミは私の頬にキスをして、段々とヒトミの色が抜けていき、最後に透明になって消えた。


熟睡する私の横に、仙人が歩み寄った。


「小僧・・ありがとう、ワシも嬉しかったよ・・ワシも、もう一度行って来るぞ。

 原点に向けて旅をしよう・・鬼の首塚に向けての」


仙人はそう私に言って、私の右手に手紙を握らせた。

そして本堂の正面の開き戸を開けた、朝陽が全てを暖かく包んだ。

仙人は一度私の方に振り向いて、二ヤを出して表に出て行った。


暫らくして、私は目覚めた。

自分がどこにいるのか、分からずに考えていた。

そして右手の手紙を開いた、私はそれで笑顔になった。


【猪を捕りに山に入る、気を付けて帰れ・・また会おう・・生臭2号】


手紙にはそう書いてあった、私は慎重に手紙を折って、ポケットに入れて立ち上がった。


『夢じゃないんだな・・手紙を残すとは、やるね~・・仙人和尚』と私は寺の大木を見ながら二ヤで言った。

『帰るかな・・美由紀が待ってる、また連れて行かなかったって怒るな~』と私はウルで靴を履いた。


古寺の壊れかけの門を出て振り向いて、私は合掌して頭を下げた。


『元気出たよ、仙人和尚・・凄く良い事があった気がするよ、夢でも良いよ。

 約束するよ、仙人に・・もう一度・・何度でも・・ミホにチャレンジするよ。

 ありがとう・・仙人・・生臭2号・・また会いに来るよ、笑顔のミホと』


私は古寺に向かいそう強く言って、バス停に向かい歩きだした。

その背中を映す映像が、朝陽を受けて希望を提示してるようだった。


「素敵な話しだったよ、エース・・嬉しかったよ」とエミの弾む声が同調で響いた。

『うん、俺も嬉しかったよ・・マリ、ありがとう・・封印は解いたね』と同調で言った。

「出来たね・・これが未来の記憶だったね・・ヒトミのメッセージだね」とマリが返してきた。


『映像切るから・・感想は無しだよ、由美子の左手が終わるまで』と私は強く言った。

「了解」と言う沢山の女性達の返事を確認して、私は映像を切った。


「やるよ~・・必ず、やってやる・・待ってろよ、由美子」とリアンが極炎ニカで言って。

「最強の戦士が揃うんだね・・由美子の為に、同じ想いで」と北斗が美しく微笑んで。

「切り札が多すぎて、誰が最後の切り札か分かりませんね」とユリカが爽やかに微笑んで。

「1号に会いに行こう、沙紀の世界の前に」とカスミが微笑んで、女性達が頷いた。


私はエミの手を握り、少し興奮気味のエミを笑顔で見ていた。


「怖くなかったよ、エース・・5男の子の顔も、全然怖くなかったよ」とエミが笑顔で言った。

『そうだったね、俺も怖くなかったよ』と笑顔で返した。


暖かい冬の昼下がり、女性達の笑顔に囲まれる、希望を背負う少女を見ていた。

そして私は間違いに気付かされた、その解決策を考えていた。


準備に帰る女性達がTVルームを出て、ユリカと蘭が一緒に帰った。

5人は熟睡してるらしく、私は沙紀を何度も覗き込んで確認した。

裏方4人組が最後のチェックにフロアーに行き、マダムと松さんが出かけた。

TVルームはユリさんとリリーとカスミに、久美子とマリと私だけになった。


その時だった、TVルームのドアがゆっくりと開いた、哲夫が二ヤで顔だけ出した。


「何ですか、哲夫君・・ニヤでの挨拶ですか?」とユリさんが薔薇二ヤで言った。

「すいません、こんにちは・・一人どうしても来たいって言うんで・・入っても良いですか?」と哲夫がユリさんに頭を下げて笑顔で言った。

「何を遠慮してるの・・もちろん良いですよ、どうぞ」とユリさんが薔薇で微笑んだ。


哲夫が笑顔で頷いて、後ろを振り向きドアを大きく開いた。


「コジョ、マリ」とルンルン笑顔で言って、モモカが入ってきてユリさんを見た。

そしてユリさんの所に走りより、ルンルン笑顔で嬉しそうな薔薇の笑顔を見ていた。


「モモカです・・こんにちわ」とモモカが笑顔で頭を下げた。

「素敵な挨拶をありがとう、ユリです・・よろしくね」と薔薇で微笑んでモモカを抱き上げた。


モモカは嬉しそうに、美しい薔薇を見ていた。

ユリさんも本当に嬉しそうな笑顔で、モモカを抱いていた。

リリーも久美子も、嬉しそうな笑顔でモモカを見ていた。


私はマリアの状況を見た、熟睡を示すカエルの寝姿を出していた。

強烈な波動が吹き荒れて、私はニヤを出していた。


《まだみたいだよ、モモカとマリアの出会い》と私は心にそう言った。

強烈な波動がホッとしたようだった、直に見たいんだと思っていた。


「どうしてかな~・・モモカ分からないの・・どうして上と下があるの?

 人と人には上と下があるの?・・背の高さなの?・・歳の順番なの?

 誰が決めるの?・・自分で分かるの?・・モモカ、分からないの」


モモカは強くユリさんに問いかけた、ユリさんは最強の薔薇の笑顔になった。


「分かったわ、モモカちゃん・・私の考えを教えますね、でも正解と思わないでね」とユリさんが薔薇で微笑んで靴を履いた。

「はい・・モモカ、知りたいだけです・・花の言葉が」とモモカはルンルン笑顔で返した。

ユリさんの薔薇が咲き乱れて、モモカを抱いてTVルームを出て行った。


「お騒がせしました~・・明後日、映画楽しみに見に来ま~す」と哲夫が二ヤで言って、ユリさんの後を追って出て行った。


「あっ!・・哲夫、待って」とリリーがウルで言った。

「しまった~・・問いかけが強過ぎて、自己紹介のチャンスを逃した~」と久美子がウルで言った。


「それよりも、マリ・・モモカで衝撃を受けてるね」とカスミがマリに最強不敵を出した。

「やっと私に不敵を出しましたね~・・深海を照らせますかね~・・その程度の輝きで」とマリが俯きがちの二ヤで返した。

「照らしてあげるよ、暗くてウルをしないように」とカスミが不敵継続で返した。


私は4人のニヤを見ながら、マリアのカエルを見ていた。


いつの日か・・近い将来出会うのか・・モモカとマリア。


そう思いながら、モモカの問いかけを考えていた。


花の言葉が聞きたいと言った、モモカの言葉が響いていた・・。









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