表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/454

回想録 ⅩⅢ 【冬物語第二章・・未来の記憶①】

外見的な主張、女性にとっては永遠の課題のように存在する。

化粧も服も装飾品も、その時代を彩るアイテムが登場する。

選択肢が多い事は素敵な事である、しかしその中の一部しか使わない。

日本人にはその傾向が強い、私はなぜかその事に淋しさを感じてしまう。


モモカはずっとルンルン笑顔で、カスミに抱かれていた。

カスミもずっと輝きを撒き散らし、モモカを強く抱いていた。


ルンルン笑顔、そう言い始めたのはヨーコだった。

モモカの笑顔は強い癒しを放出する、それは自分も本当に楽しいからなのだろう。


モモカは可愛い洋服は着ていない、常にお下がりのヨレヨレの服を着ていた。

この時代の施設の子なのだから、滅多に新品の服など与えて貰えない。

まぁ当時は一般家庭の子供でも、決して綺麗な服は着ていなかった。


この時のモモカは、不鮮明な柄の赤いセーターに、少し大きすぎるジャンバーを着て。

膝の穴を可愛いアップリケで誤魔化した、色褪せたジーンズを穿いていた。

それを抱くカスミは対照的で、仕立ての良い真赤なコートを着て。

脚の線に張り付く黒皮のパンツを穿き、その裾をロングの編み込みブーツの中に入れていた。

時代を飛び越えたような、最先端ファッションを着こなしていた。


しかしモモカは圧倒的に可愛かった、それは幼さを引いても可愛かったと言えるだろう。

それを表現したのが、このカスミの言葉である。


「モモカの笑顔の可愛さは、リンダ姉さんやマチルダと同じなんだよ。

 服自体に意味なんて無い、綺麗な服を着ても・・どうしてもしっくりこない人がいる。

 中身が到達してないと、どんなに他人を真似ても・・着せられてる感じになるんだ。

 服なんて金を出せば誰でも手に入る、リンダ姉さんならどんな服でも買えるよな。

 中身こそファッションなんだ、それを表現するのがセンスなんだよね。

 どんなに着飾っても、中身を隠す事は出来ない・・必ずどっかに綻びが出る。

 例えばの話・・ユリさんがヨレヨレの服を着てても、絶対に美しい。

 ユリカ姉さんでも、リアン姉さんでも・・絶対に美しいよな。

 そんな事は絶対に有り得ないけど、そう確信できるよな。

 それは確立された精神世界が有るからなんだと思う、目で見えない世界が主張してる。

 マチルダはそれを20歳で手に入れた・・モモカはそれを、4歳で手に入れたんだ。

 モモカの笑顔には、重要な意味が隠されている・・内面を表現するというヒントが。

 私の今の心のモデルは、モモカなんだ・・店の全ての服を、モモカに一度着せてみる。

 エースが教えてくれた、リアルなイメージで立体的に着せてみる。

 その年代のモモカをイメージして・・そうすると震えてしまう、その姿に驚愕する。

 そのイメージは、完璧にリンダ姉さんに重なってしまう。

 美しいモモカがヨレヨレのTシャツを着て、ピンクのリュックを担いでる。

 私が求め続ける、マチルダの内面の輝きを凌駕して・・強烈に発光して微笑む。

 モモカは多分・・いつまでも風の中にいる、私達にいつまでも届けてくれる。

 ユリカ姉さんの強い想いを、大切な深海の心を・・モモカが伝えてくれる。

 経験を塗り込もう・・私達にはそれしか道は無い、内面の輝きに到達する道は。

 ユリカ姉さんがいつ帰って来ても、笑顔で抱き合えるように・・私は準備する。

 ユリカ姉さんに・・満足してないね、カスミ・・そう言われたいから。

 それが私の目指す、美しさだから・・それが私の伝えたい想いだから」


この言葉は、ユリカが街を出た直後に、カスミがミホに伝えた言葉である。

カスミは若手女性に囲まれて、ミホにファションって何なのかと問われた。


ユリカも私も、ユリカの街を出る理由を誰にも話していない。

しかしこの時の、共同体のメンバーと限界ファイブと中1トリオは分かっていただろう。

そしてミホも沙紀も由美子も理解していたと思う、言葉には出さないが感じていた。

そしてマリはユリカに提示を出し、モモカは春風の囁きで強烈に背中を押した。


ミホはそのユリカの想いを感じて、カスミに本質を問うたのだ。

ユリカに挑戦を続けて、その存在を失い喪失感を抱えたカスミに、強く問うたのだ。

その時に存在する、最新型の若い女性とミホとマリ、そして5人娘とハルカとマキに囲まれて。

フロアーに君臨する、25歳のNo1のカスミが強く言葉にしたのだ。


カスミはこのモモカとの出会いで、次の世界に移行した。

それは身体的な成長でなく、精神的な成長を加速させていく。

その輝きは光の速度を追い越して、後姿ですら発光しはじめる。

男達は振り返りその姿を追いかける、そして女達も振り返り追いかけてしまう。


カスミの次の脱皮の時が来た、時間でも温度でもない・・経験が到達した。

全ての経験が満たしたのだろう、次のステージに上がる許可をカスミ自身が出した。


カスミが挑戦状を握り、リリーの正面に立ち不敵を出す。

そのカスミの輝きを受けて、リリーの本気が出る時が近づいた。


目映いばかりの発光する2つの輝きの中で、高速回転するリングが見えた。

破壊的な美が姿を現す、美意識を破壊する爆弾・・リリーのリングがギアチェンジをする。

この時のリリーは、まだローギアだった・・そしてリリーのギアは、5速まで有ったのだ。

カスミを25歳で圧倒的No1に導くのは、このリリーの加速力だった。


減速を許されない、伝説の勝負が幕を開ける。

その開演ブザーも、モモカが鳴らした・・カスミの心に問いかけた、春風の囁きで。

モモカ・・早く歩くと転ぶの、どうしてかな~?・・と言う、透明の弾丸で立たせた。


【輝きのチキンラン】と言われる、伝説の勝負のスタートラインにカスミを立たせた。

限界という断崖に向かい、アクセルを踏み込む・・リリーとカスミ。

先に恐怖に負けて減速した者が敗者、そして勝者には断崖が待つという勝負。

リリーとカスミは本気で勝負した、傍目には無意味に映る勝負に全てを賭けた。


リリーがアメリカに旅立つ前日に、チキンランの終了宣言をした。

「ありがとう、カスミ・・あんたとのチキンランで手に入れたよ、リンダと旅をする心のパスポートを」リリーは高速回転のリングで微笑んだ。

「リリー姉さんの想いは、絶対に繋ぎます・・誇らしい敗者として」とカスミは輝く笑顔で返した。


私はリリーを見送って、リリーの姿が見えなくなった時に、崩れながら号泣するカスミを抱きとめた。


『カスミ・・転ばなかったな、一度も・・どんなに早く歩いても』と私は笑顔で言った。

「これ以上泣かすなよ・・モモカの次の問いかけが、貰えなくなるだろ」と笑顔で返してくれた。


カスミは4年の時間を使って、モモカの問いかけに答えを出した。

輝きで伝達するという、その世界を心に作り上げたのだ。


話を戻そう、カスミとモモカの大切な出会いの場面まで。


カスミのストレートな優しさが、その笑顔に映し出されていた。

モモカはカスミに抱かれ、得意のブツブツ呟き攻撃を出していた。

波動が絶え間なく押し寄せて、ヒトミの熱が強く乗っていた。


《ユリカ、誰にも内緒だよ・・モモカは自分から出会うから、我慢してね》と心に二ヤで囁いた。

ユリカのウルの強い波動が来て、私はニヤニヤで記名していた。

カスミがモモカの手を綺麗に消毒して、モモカはのその匂いを嗅いでウルを出していた。


カスミがモモカに大きな割烹着のような、消毒着を着せていた。

その頃、悪性の風邪が流行していて、小児病棟は厳戒態勢だったのだ。


私はモモカを抱いたカスミを連れて、由美子の部屋に入った。

由美子の左手が強く上がり、喜びを示していた。

私はカスミにモモカを頼み、カスミが由美子の横の椅子にモモカを座らせた。

そして優しく由美子の手を握り、それをモモカに握らせた。

モモカは由美子の左手を、両手で握りルンルン笑顔を出していた。


私は祖母に挨拶して、その光景を見ていた。


「由美子ちゃん、こんにちは・・モモカだよ~」とモモカは由美子の顔を覗き込み笑顔で言った。

私はモモカを見ていた、その独特の優しい雰囲気を。


「ありゃ、そうですか・・由美子ちゃんはテツに意地悪言われたの。

 それはいけませんね~・・私がテツをコラってしかっておきますね。

 テツはすぐコジョの真似して・・駄目な子ですね~」


モモカは嬉しそうな笑顔で言った、私はその顔を見て笑っていた。

カスミは優しい笑顔で、モモカの真後ろに座っていた。


「由美子ちゃん、モモカ大きくなるよ・・どんどん大きくなるの。

 由美子ちゃんもなるでしょ・・モモカ、お嫁さんに行きたいの。

 モモカ・・お母さんに成りたいの、だから大きくなるの。

 モモカ・・絶対なるの・・お母さんになるの・・モモカのママが待ってるから。

 モモカのママね・・病気なのにモモカを産んでくれたの。

 モモカのママね、桜の木の下で泣いてるの・・そして待ってるの。

 モモカがお母さんになるの、待ってるの・・だからモモカお母さんになる。

 由美子ちゃんも待ってるね・・お母さんが、由美子ちゃんがお母さんになるの。

 一緒だね・・お友達だね・・一緒に学校行こうね」


モモカはルンルン笑顔で、由美子の顔を見ながら言った。

強過ぎる波動が2人を包んで、カスミは潤む笑顔で2人を見ていた。

私はモモカの言葉だけは、凍結しなかった・・想像を超えてくると知っていたから。


「私もだよ・・女の子なら・・ヒトミって名前つけるの」とモモカが笑顔で言った。

その時の波動は今までで最強だった、熱いヒトミの熱をユリアが強烈に伝えた。


「そうだよね・・ヒトミちゃん、少し怖いよね~」とモモカが小さな声で、由美子に言った。

波動は楽しそうに吹いていた、ユリカの喜びも乗せていた。


「え~・・そうじゃないよ、あのね・・こうだよ~」とモモカが笑顔で強く言った。

その時の波動は忘れる事が出来ない、完璧な言葉を伝えてきた。

【そうだよ!】とユリアが叫んでいた、そしてユリカの号泣も乗っていた。


「ねっ・・うん、うん・・練習したらすぐに出来るよ、空気の波も・・由美子ちゃんなら」と言ってモモカが私を見た。

私はモモカを迎えに行き、ルンルン笑顔のモモカを抱き上げた。

そしてカスミに笑顔でサインを送り、カスミが由美子の手を握った。


「由美子・・良かったね、お友達が増えたね・・少しお休み」とカスミが笑顔で言って、左手を胸の上に戻した。

私は泣いている祖母に、カスミと笑顔で挨拶して、病室を出た。

モモカをカスミに渡して、ミホの病室に歩いていた。


「コジョ・・由美子ちゃん、病気なの?・・元気なのに・・モモカ、遊びたいな~。

 桜の木の下で、おままごとして遊びたいな~・・コジョ、早くしてね。

 モモカ、早く遊びたいよ~・・病気だと思う事を、早く壊してね」


モモカは笑顔で私に強く言った、私はモモカの瞳を見ていた。

本当に嬉しかった、モモカの瞳が澄み切っていて、透明の弾丸を表していた。

疲れを知らない、強烈な波動が吹き荒れていた。


『了解、モモカ・・俺はモモカとの約束は、破った事ないだろ』と笑顔で返した、モモカはルンルン笑顔で頷いた。

ナースステーションに、施設の寿子が待っている姿が見えた。


カスミがモモカを降ろして、モモカの消毒着を脱がせた。

モモカはカスミに何か耳打ちををして、寿子に駆け寄り手を繋いだ。

私はカスミと、ルンルンモモカの笑顔を手を振って見送った。


《ミホと理沙はまだなんだね・・モモカはまだ出会わない、それにも意味があると思ってしまうよ》と心に囁いた。

強烈な同意の波動が来た、私は輝きが増したカスミとミホの病室に入った。


私はカスミを理沙の横に座らせ、ミホのベッドに歩いた。

ミホの手を握ると、温度が微かに揺れていて、その集中を感じていた。


『ミホ・・行くんだね、沙紀の絶望の世界に・・ミホには辛い事だよ』と私は静かに伝えた。

どうしようもない強烈な波動が、ミホを包んでいた。

『分かったよ、ミホ・・俺はミホの想いは感じてると、そう信じて連れて行くよ』と私は強く言葉にした、ミホの温度は集中の中で揺れていた。


その時夕食が運ばれた、私はミホにまた明日と笑顔で言って、カスミを迎えに行った。


「了解、理沙・・今度持ってきてあげるよ、自分で練習するんだよ」とカスミが輝く笑顔で言った。

「ありがとう、カスミちゃん・・また来て、色々教えてね」と理沙が嬉しそうに笑顔で返した。

「もちろん、理沙が嫌になるくらい会いに来るよ・・いっぱい食べろよ、胸がこんなになりたいなら」とカスミが両手で胸を持って笑った。

「絶対に頑張ります・・全部食べるね」と理沙が笑顔で返して、カスミも笑顔で頷いた。


私はカスミと、理沙の母親に挨拶をして病室を出た。

カスミはご機嫌だった、誰もいない病院の受付で腕を強く組んできた。


「なぁエース・・モモカだけに、何かをプレゼントしたら駄目なんだろ」とカスミは通りを歩きながら言った。


『もちろん、それは駄目だよ・・ヨーコですら、それは出来ない。

 カスミ・・今持ってる服を綺麗に着てよ、そして保存してて。

 着なくなっても、保存しててよ・・ヨーコはそうしてる。

 ヨーコの部屋に行った時に、俺は驚いたんだ・・その完璧な保存状態の服を見て。

 カスミの服なら、モモカは絶対に喜ぶよ・・カスミの熱と香りが残ってるから。

 流行なんて関係ないだろ、問題は着こなしなんだろ。

 モモカが自立する時に、カスミの服を着れば・・それだけで勇気が出るよ。

 カスミ・・贅沢に生きろ、着飾って見せろ・・絶対に衣装に負けるなよ。

 俺は大事に取っておく、リンダのダウンジャケットを・・いつか誰かに繋ぎたい。

 物質的に繋ぐ想いもあるよね・・PGの紋章のバッジのように。

 俺はこの革ジャンだけで良い・・この女性達の許可書が、刺繍された革ジャンだけで。

 この背中の刺繍を背負える、それだけで良いと思ってる』


私は前を見て強く伝えた、カスミは強烈に発光しながら強く頷いた。

北西の風が強く吹いていたが、私もカスミも寒さを感じる事は無かった。


私はカスミに続いて、TVルームに入った。

ユリさんも、裏方4人組も戻っていて、食事前の談笑中だった。


「何をした?・・ユリカ姉さんに・・そしてどんな魔法をかけた、カスミに」と蘭が満開二ヤで言った。

『俺じゃないよ~・・ユリカもカスミも、モモカが魔法をかけた・・話は2人に聞いてね』とウルで返した。

女性達がハッとしてカスミを見た、カスミは最強不敵で返していた。


「あ~・・どうしてカスミに遠慮したんだろ~・・エースがデートなんて言うから~」とナギサがウルで言って。

「私でも遠慮した、カスミが嬉しそうだったし・・最近、2人の時間が少ないと思って・・失敗だった~」と蘭が満開ウルで言った。

「ウルは良いですから・・早く聞きましょう、ユリカ姉さんが号泣したモモカ話を」とリリーが言って。

「それは楽しみですね~・・カスミちゃんを次のステージに上げた、春風の囁きは」とユリさんが薔薇で微笑んだ。

その言葉でカスミが嬉しそうな笑顔で座り、マリが立って私の腕を組んだ。


『マリ!・・少し影響受けてるね、腕を組むとは挑戦的だね』と私は驚きを隠して二ヤで言った。

「驚いてるくせに・・ありがとう、マリちゃん・・俺は最高に嬉しいよって言いなさい」とマリに二ヤで言葉で返された。

『マリ・・マリアと勝負して、言葉がスムーズになったね・・もう少しで14歳だね』と果敢に二ヤで返した。

「1999年7の月」とマリが強烈な二ヤで返してきた。


『マリ!・・ごめんなさ~い、本当は嬉しくて泣きそうなんだよ~』と私はウルウルで返した。

「まぁ・・モモカに免じて許そう、コジョ」とマリが二ヤで言った。


「今の脅し文句じゃなかったね、マリ・・背中に冷たい汗が流れたよ」とマキがウルで言って。

「怖かった~・・本気で怖かった」とハルカがウルで言って。

「聞きたかったな~・・マリちゃん、今度私にだけ教えてね」とエミが笑顔で言った、マリも二ヤで頷いた。

私はエミを見て凍結する女性達に背を向けて、TVルームをマリと腕を組んで出た。


「私の分のチケット、いらないの?」とマリが同調で聞いてきた。

『1人くらい大丈夫だよ、隅で1曲しか聞かないんだから』と笑顔で返した。


「小僧・・良いよ、正直に依頼して・・私とユリカ姉さんに聞こえるように」とマリが強い言葉で言った。

強烈な喜びの波動がきた、私はその喜びで気付いた。


『マリ・・ユリカを、姉さんって言葉で呼んだね・・ユリカ喜んでるね』と笑顔で返した。

「最初は照れるから・・小僧を通したの・・早く依頼を言え」とマリが少し照れて返してきた。


『マリ・・マリはもうモモカの言葉は、俺で読み取ったよね。

 俺は調べてみたいんだ、モモカの出生の秘密を調べてみたい。

 もちろん、モモカに伝えるかは・・その内容で判断するよ。

 俺は自分の記憶の映像を見てて、自分の未熟さを強く感じた。

 モモカの母親は絶望してたね、今の俺なら分かるよ・・あの時の俺には無理だった。

 俺が絶望の意味を少し感じたのは、自傷の女神からだから。

 俺は心で言ったように、なぜ育てられないかが分からなかった。

 多分・・自分勝手な母親だと腹を立ててたと思う、だからあんな強引な事をした。

 モモカが言ったよね、ママは病気なのに私を産んでくれたって。

 そして今でも桜の木の下で泣いてるって・・俺は辛かったよ、母親の言葉みたいで。

 俺が産ませたのかもしれない、その事で・・母親の時間は減ったのかも。

 俺は真実を受け入れていたい、逃げたくないんだ・・リンダに対して。

 逃げたらリンダに会えない、俺は生命から目を逸らせない。

 俺はリンダがアルバムを見せた、それを背負う人間なんだ・・だから真実が知りたい。

 マリ・・俺の記憶から、モモカの母親を引っ張り出して・・沙紀と同調しながら。

 俺は沙紀に描いてもらう、モモカの母親の顔を・・写真より、その人間を表す絵を。

 それを持ってあの病院で聞いてみる、教えてもらえないかも知れない。

 結局、解明できないかもしれない・・でも、何もしない訳にはいかない。

 俺は心からモモカを愛してるから・・春風には、嘘は絶対につけないから』

 

私は言葉で強く伝えた、優しい波動が賛成してくれた。


「OK・・良いよ、やろう・・小僧、そんな遠慮はするな・・生命に対する事なんだから」とマリが真顔で強く返してきた。

『ごめんね、マリ・・そしてマリ、俺は信じるよ・・モモカの言葉を』とマリを見て笑顔で言った。

「私もだよ・・透明の弾丸・・その言葉は信じる」とマリも笑顔で返してくれた。

当然私もと言うような、強い波動に押されながら、リッチに入った。


受付のキヌちゃんに、マリと2人で挨拶すると。

ステージ横から見て良いよと言われ、私はマリの手を引いてステージの横に入った。

客席はすでに満席で、人気のプロバンドの登場を待ってるようだった。


前座は地元3バンドの予定が組んであり、オヤジバンドは前座の最後だった。

私とマリはバンドメンバーの入退場の口の、反対側のステージ横に座って待っていた。

特等席に座り、マリはワクワク笑顔で久美子の登場を待っていた。


最初のバンドも、2番目のバンドも中々で、私とマリは笑顔で拍手していた。

そしてオヤジバンドが準備に入った、その時会場から声がかかった。


「久美子~・・頼むぞ~」と客の男が叫び。

「待ってました~・・久美子~」と何人かの男が叫んだ。


ザワザワと客席が騒ぎ出し、塚本はその雰囲気を変えたかったのだろう。

準備をしながら、久美子に二ヤでサインを送った。

久美子も二ヤで返して、鍵盤見た・・そして顔を上げ、視線でマリを捉えた。

その時のマリは少し俯いて、強烈なニヤを久美子に出していた。


久美子は一気に燃え上がった、強烈な響きが会場を一瞬で静寂に包んだ。

久美子はマリのニヤに挑戦するように、叫びを上げ続けた。

それは曲だったのだろうか、私には分からなかった、私には叫びにしか聞こえなかった。


反対側のステージ横に、プロのバンドのメンバーが走り寄った。

8人のプロバンドのメンバーが、久美子の演奏を真剣に聴いていた。


久美子は熱を上げ続け、そして最後に腰を上げて天を仰いで。

首を振り体全体の力を両手に集めて、その両手で鍵盤を強く叩いた。

魂の響きが全てを包んだ、その残響をミノルがサックスで追いかけた。

そしてバンドのオヤジ達が、全員で追いかけ始めた。

久美子は立ったまま、鍵盤を睨んでいた、唇の端だけが少し上がっていた。


オヤジたちが、久美子の響きを切望するように奏でていた。

そして曲の途中の、ミノルソロパートの部分で、ミノルがサマータイムに切り替えた。

久美子はそれで顔を上げて、椅子に座った。


オヤジ達が奏でる、ムーディなサマータイムに、久美子がリンダスペシャルで切り込んだ。

一気に熱が上がり、オヤジ達もスイングしながら弾いていた。

会場の客たちも、体を少し揺らし笑顔でスイングしていた。


久美子は笑顔でリンダスペシャルを伝えた、その音はやり直そうと叫んでいた。

人はどんな状況でも、何度でもやり直せると叫んでいた。

公園に寝て、大地の息吹に力をもらおうと、リンダの想いを伝えていた。


「久美子は同化した・・心が開放された」とマリが久美子を見ながら、笑顔で呟いた。

『そんな感じだね・・久美子は完全に次の段階に入ってるね』と私も久美子を見ながら返した。

久美子の魂の響きに、同意を示した強烈な波動が乗っていた。


久美子は演奏が終わった瞬間に、会場に右手の拳を突き出した。

それを知る沢山の男女が、右手の拳を突き出して応えた。

オヤジ達もそれを受け、笑顔で会場に拳を突き出した。

会場は大喝采に包まれた、バンドの全員がステージ前で手を繋いで何度も頭を下げた。


私はその光景に驚いていた、そしてお客の女性の多さにも驚いていた。

オヤジバンドが退場する時、プロのバンドが全員で右手を上げて迎えた。

楽譜を持った久美子が1番で、全員と笑顔でハイタッチをして楽屋に消えた。

オヤジ達も嬉しそうに、ハイタッチをして楽屋に向かって行った。


私は久美子はプロバンドを見ると聞いていたので、マリと手を繋いでリッチを出た。

外は夜空になっていた、マリは私の腕を組んで手を握った、私は嬉しくて笑顔で返した。


マリが久々に、温度で伝えてきたのだ。

《小僧・・私は嬉しいんだよ、ヒトミのあの言葉に挑めるからね》と温度で伝えてきた。

《俺もだよ、マリ・・今度は負けないよ》と温度で返した。


2人だけの会話を楽しんで、マリと2人でタクシーに乗った。

マリはタクシーの窓から流れる、街の明かりを笑顔で見ていた。

その横顔に迷いは無かった、私はその顔を見て、マリの開放の時も近いと思っていた。


デパートは全てのシャッターを閉じ、その中で多くの人間が動いていた。

クリスマスから年末・・そして新年、その地獄のチェンジが始まっていた。

人々の気分を煽る為に、消費の熱を上げる為に。

季節を先取りする、物欲の流れを演出する舞台を作っていた。


「小僧・・私も良い?・・ライブ後の夜の海」とマリが言葉で言った。

『もちろん、良いに決まってるだろ』と笑顔で返した。

「ユリカ姉さんも良いですか?・・私のお泊り」とマリがタクシーの窓に言った。

ユリカの波動が、少し怒りながら了解を示した。


『ほら、怒られた・・マリがユリカに遠慮したら、ユリカは淋しいだろ』と笑顔で言った。

「うん・・ごめんなさい、姉さん」とマリが私に笑顔で言った。

ユリカの強烈な喜びの波動が何度も来た、マリは本当に嬉しそうに窓の外を見ていた。


「小僧・・私の最後のヒント、全員に伝えて・・箱の中身は・・未来の記憶」とマリが静かに言った。

集中した重い言葉だった、【未来の記憶】・・矛盾した表現だった。


『了解・・未来の記憶か~・・解く鍵は、矛盾の中にある・・だったよね、ヒトミの言葉』と私は前を見ながら呟いた。

強烈な波動が詳細を述べよ叫んだ、マリは私を二ヤで見た。


『応用の利かない回路は、その場所にしか隠さない・・気付かないと思ってる。

 矛盾の中に入れれば、人間は否定して探さない・・そう思ってる、馬鹿な回路は。

 そう言ったよね、ヒトミ・・それを繋げた世界が・・未来の記憶なんだろうね』


私はマリに笑顔で言った、マリも笑顔で頷いた。

波動は来なかった、ユリカは感じようとしてると思っていた。


私は久美子の響きを思い出していた、あの両手で叩いた叫びを。


その魂の響きに、どこか懐かしさを感じていた。


クリスマスを見送る夜空に、月が浮かんでいた・・道を照らしながら・・。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ