回想録 ⅩⅢ 【冬物語第二章・・未来の記憶①】
外見的な主張、女性にとっては永遠の課題のように存在する。
化粧も服も装飾品も、その時代を彩るアイテムが登場する。
選択肢が多い事は素敵な事である、しかしその中の一部しか使わない。
日本人にはその傾向が強い、私はなぜかその事に淋しさを感じてしまう。
モモカはずっとルンルン笑顔で、カスミに抱かれていた。
カスミもずっと輝きを撒き散らし、モモカを強く抱いていた。
ルンルン笑顔、そう言い始めたのはヨーコだった。
モモカの笑顔は強い癒しを放出する、それは自分も本当に楽しいからなのだろう。
モモカは可愛い洋服は着ていない、常にお下がりのヨレヨレの服を着ていた。
この時代の施設の子なのだから、滅多に新品の服など与えて貰えない。
まぁ当時は一般家庭の子供でも、決して綺麗な服は着ていなかった。
この時のモモカは、不鮮明な柄の赤いセーターに、少し大きすぎるジャンバーを着て。
膝の穴を可愛いアップリケで誤魔化した、色褪せたジーンズを穿いていた。
それを抱くカスミは対照的で、仕立ての良い真赤なコートを着て。
脚の線に張り付く黒皮のパンツを穿き、その裾をロングの編み込みブーツの中に入れていた。
時代を飛び越えたような、最先端ファッションを着こなしていた。
しかしモモカは圧倒的に可愛かった、それは幼さを引いても可愛かったと言えるだろう。
それを表現したのが、このカスミの言葉である。
「モモカの笑顔の可愛さは、リンダ姉さんやマチルダと同じなんだよ。
服自体に意味なんて無い、綺麗な服を着ても・・どうしてもしっくりこない人がいる。
中身が到達してないと、どんなに他人を真似ても・・着せられてる感じになるんだ。
服なんて金を出せば誰でも手に入る、リンダ姉さんならどんな服でも買えるよな。
中身こそファッションなんだ、それを表現するのがセンスなんだよね。
どんなに着飾っても、中身を隠す事は出来ない・・必ずどっかに綻びが出る。
例えばの話・・ユリさんがヨレヨレの服を着てても、絶対に美しい。
ユリカ姉さんでも、リアン姉さんでも・・絶対に美しいよな。
そんな事は絶対に有り得ないけど、そう確信できるよな。
それは確立された精神世界が有るからなんだと思う、目で見えない世界が主張してる。
マチルダはそれを20歳で手に入れた・・モモカはそれを、4歳で手に入れたんだ。
モモカの笑顔には、重要な意味が隠されている・・内面を表現するというヒントが。
私の今の心のモデルは、モモカなんだ・・店の全ての服を、モモカに一度着せてみる。
エースが教えてくれた、リアルなイメージで立体的に着せてみる。
その年代のモモカをイメージして・・そうすると震えてしまう、その姿に驚愕する。
そのイメージは、完璧にリンダ姉さんに重なってしまう。
美しいモモカがヨレヨレのTシャツを着て、ピンクのリュックを担いでる。
私が求め続ける、マチルダの内面の輝きを凌駕して・・強烈に発光して微笑む。
モモカは多分・・いつまでも風の中にいる、私達にいつまでも届けてくれる。
ユリカ姉さんの強い想いを、大切な深海の心を・・モモカが伝えてくれる。
経験を塗り込もう・・私達にはそれしか道は無い、内面の輝きに到達する道は。
ユリカ姉さんがいつ帰って来ても、笑顔で抱き合えるように・・私は準備する。
ユリカ姉さんに・・満足してないね、カスミ・・そう言われたいから。
それが私の目指す、美しさだから・・それが私の伝えたい想いだから」
この言葉は、ユリカが街を出た直後に、カスミがミホに伝えた言葉である。
カスミは若手女性に囲まれて、ミホにファションって何なのかと問われた。
ユリカも私も、ユリカの街を出る理由を誰にも話していない。
しかしこの時の、共同体のメンバーと限界ファイブと中1トリオは分かっていただろう。
そしてミホも沙紀も由美子も理解していたと思う、言葉には出さないが感じていた。
そしてマリはユリカに提示を出し、モモカは春風の囁きで強烈に背中を押した。
ミホはそのユリカの想いを感じて、カスミに本質を問うたのだ。
ユリカに挑戦を続けて、その存在を失い喪失感を抱えたカスミに、強く問うたのだ。
その時に存在する、最新型の若い女性とミホとマリ、そして5人娘とハルカとマキに囲まれて。
フロアーに君臨する、25歳のNo1のカスミが強く言葉にしたのだ。
カスミはこのモモカとの出会いで、次の世界に移行した。
それは身体的な成長でなく、精神的な成長を加速させていく。
その輝きは光の速度を追い越して、後姿ですら発光しはじめる。
男達は振り返りその姿を追いかける、そして女達も振り返り追いかけてしまう。
カスミの次の脱皮の時が来た、時間でも温度でもない・・経験が到達した。
全ての経験が満たしたのだろう、次のステージに上がる許可をカスミ自身が出した。
カスミが挑戦状を握り、リリーの正面に立ち不敵を出す。
そのカスミの輝きを受けて、リリーの本気が出る時が近づいた。
目映いばかりの発光する2つの輝きの中で、高速回転するリングが見えた。
破壊的な美が姿を現す、美意識を破壊する爆弾・・リリーのリングがギアチェンジをする。
この時のリリーは、まだローギアだった・・そしてリリーのギアは、5速まで有ったのだ。
カスミを25歳で圧倒的No1に導くのは、このリリーの加速力だった。
減速を許されない、伝説の勝負が幕を開ける。
その開演ブザーも、モモカが鳴らした・・カスミの心に問いかけた、春風の囁きで。
モモカ・・早く歩くと転ぶの、どうしてかな~?・・と言う、透明の弾丸で立たせた。
【輝きのチキンラン】と言われる、伝説の勝負のスタートラインにカスミを立たせた。
限界という断崖に向かい、アクセルを踏み込む・・リリーとカスミ。
先に恐怖に負けて減速した者が敗者、そして勝者には断崖が待つという勝負。
リリーとカスミは本気で勝負した、傍目には無意味に映る勝負に全てを賭けた。
リリーがアメリカに旅立つ前日に、チキンランの終了宣言をした。
「ありがとう、カスミ・・あんたとのチキンランで手に入れたよ、リンダと旅をする心のパスポートを」リリーは高速回転のリングで微笑んだ。
「リリー姉さんの想いは、絶対に繋ぎます・・誇らしい敗者として」とカスミは輝く笑顔で返した。
私はリリーを見送って、リリーの姿が見えなくなった時に、崩れながら号泣するカスミを抱きとめた。
『カスミ・・転ばなかったな、一度も・・どんなに早く歩いても』と私は笑顔で言った。
「これ以上泣かすなよ・・モモカの次の問いかけが、貰えなくなるだろ」と笑顔で返してくれた。
カスミは4年の時間を使って、モモカの問いかけに答えを出した。
輝きで伝達するという、その世界を心に作り上げたのだ。
話を戻そう、カスミとモモカの大切な出会いの場面まで。
カスミのストレートな優しさが、その笑顔に映し出されていた。
モモカはカスミに抱かれ、得意のブツブツ呟き攻撃を出していた。
波動が絶え間なく押し寄せて、ヒトミの熱が強く乗っていた。
《ユリカ、誰にも内緒だよ・・モモカは自分から出会うから、我慢してね》と心に二ヤで囁いた。
ユリカのウルの強い波動が来て、私はニヤニヤで記名していた。
カスミがモモカの手を綺麗に消毒して、モモカはのその匂いを嗅いでウルを出していた。
カスミがモモカに大きな割烹着のような、消毒着を着せていた。
その頃、悪性の風邪が流行していて、小児病棟は厳戒態勢だったのだ。
私はモモカを抱いたカスミを連れて、由美子の部屋に入った。
由美子の左手が強く上がり、喜びを示していた。
私はカスミにモモカを頼み、カスミが由美子の横の椅子にモモカを座らせた。
そして優しく由美子の手を握り、それをモモカに握らせた。
モモカは由美子の左手を、両手で握りルンルン笑顔を出していた。
私は祖母に挨拶して、その光景を見ていた。
「由美子ちゃん、こんにちは・・モモカだよ~」とモモカは由美子の顔を覗き込み笑顔で言った。
私はモモカを見ていた、その独特の優しい雰囲気を。
「ありゃ、そうですか・・由美子ちゃんはテツに意地悪言われたの。
それはいけませんね~・・私がテツをコラってしかっておきますね。
テツはすぐコジョの真似して・・駄目な子ですね~」
モモカは嬉しそうな笑顔で言った、私はその顔を見て笑っていた。
カスミは優しい笑顔で、モモカの真後ろに座っていた。
「由美子ちゃん、モモカ大きくなるよ・・どんどん大きくなるの。
由美子ちゃんもなるでしょ・・モモカ、お嫁さんに行きたいの。
モモカ・・お母さんに成りたいの、だから大きくなるの。
モモカ・・絶対なるの・・お母さんになるの・・モモカのママが待ってるから。
モモカのママね・・病気なのにモモカを産んでくれたの。
モモカのママね、桜の木の下で泣いてるの・・そして待ってるの。
モモカがお母さんになるの、待ってるの・・だからモモカお母さんになる。
由美子ちゃんも待ってるね・・お母さんが、由美子ちゃんがお母さんになるの。
一緒だね・・お友達だね・・一緒に学校行こうね」
モモカはルンルン笑顔で、由美子の顔を見ながら言った。
強過ぎる波動が2人を包んで、カスミは潤む笑顔で2人を見ていた。
私はモモカの言葉だけは、凍結しなかった・・想像を超えてくると知っていたから。
「私もだよ・・女の子なら・・ヒトミって名前つけるの」とモモカが笑顔で言った。
その時の波動は今までで最強だった、熱いヒトミの熱をユリアが強烈に伝えた。
「そうだよね・・ヒトミちゃん、少し怖いよね~」とモモカが小さな声で、由美子に言った。
波動は楽しそうに吹いていた、ユリカの喜びも乗せていた。
「え~・・そうじゃないよ、あのね・・こうだよ~」とモモカが笑顔で強く言った。
その時の波動は忘れる事が出来ない、完璧な言葉を伝えてきた。
【そうだよ!】とユリアが叫んでいた、そしてユリカの号泣も乗っていた。
「ねっ・・うん、うん・・練習したらすぐに出来るよ、空気の波も・・由美子ちゃんなら」と言ってモモカが私を見た。
私はモモカを迎えに行き、ルンルン笑顔のモモカを抱き上げた。
そしてカスミに笑顔でサインを送り、カスミが由美子の手を握った。
「由美子・・良かったね、お友達が増えたね・・少しお休み」とカスミが笑顔で言って、左手を胸の上に戻した。
私は泣いている祖母に、カスミと笑顔で挨拶して、病室を出た。
モモカをカスミに渡して、ミホの病室に歩いていた。
「コジョ・・由美子ちゃん、病気なの?・・元気なのに・・モモカ、遊びたいな~。
桜の木の下で、おままごとして遊びたいな~・・コジョ、早くしてね。
モモカ、早く遊びたいよ~・・病気だと思う事を、早く壊してね」
モモカは笑顔で私に強く言った、私はモモカの瞳を見ていた。
本当に嬉しかった、モモカの瞳が澄み切っていて、透明の弾丸を表していた。
疲れを知らない、強烈な波動が吹き荒れていた。
『了解、モモカ・・俺はモモカとの約束は、破った事ないだろ』と笑顔で返した、モモカはルンルン笑顔で頷いた。
ナースステーションに、施設の寿子が待っている姿が見えた。
カスミがモモカを降ろして、モモカの消毒着を脱がせた。
モモカはカスミに何か耳打ちををして、寿子に駆け寄り手を繋いだ。
私はカスミと、ルンルンモモカの笑顔を手を振って見送った。
《ミホと理沙はまだなんだね・・モモカはまだ出会わない、それにも意味があると思ってしまうよ》と心に囁いた。
強烈な同意の波動が来た、私は輝きが増したカスミとミホの病室に入った。
私はカスミを理沙の横に座らせ、ミホのベッドに歩いた。
ミホの手を握ると、温度が微かに揺れていて、その集中を感じていた。
『ミホ・・行くんだね、沙紀の絶望の世界に・・ミホには辛い事だよ』と私は静かに伝えた。
どうしようもない強烈な波動が、ミホを包んでいた。
『分かったよ、ミホ・・俺はミホの想いは感じてると、そう信じて連れて行くよ』と私は強く言葉にした、ミホの温度は集中の中で揺れていた。
その時夕食が運ばれた、私はミホにまた明日と笑顔で言って、カスミを迎えに行った。
「了解、理沙・・今度持ってきてあげるよ、自分で練習するんだよ」とカスミが輝く笑顔で言った。
「ありがとう、カスミちゃん・・また来て、色々教えてね」と理沙が嬉しそうに笑顔で返した。
「もちろん、理沙が嫌になるくらい会いに来るよ・・いっぱい食べろよ、胸がこんなになりたいなら」とカスミが両手で胸を持って笑った。
「絶対に頑張ります・・全部食べるね」と理沙が笑顔で返して、カスミも笑顔で頷いた。
私はカスミと、理沙の母親に挨拶をして病室を出た。
カスミはご機嫌だった、誰もいない病院の受付で腕を強く組んできた。
「なぁエース・・モモカだけに、何かをプレゼントしたら駄目なんだろ」とカスミは通りを歩きながら言った。
『もちろん、それは駄目だよ・・ヨーコですら、それは出来ない。
カスミ・・今持ってる服を綺麗に着てよ、そして保存してて。
着なくなっても、保存しててよ・・ヨーコはそうしてる。
ヨーコの部屋に行った時に、俺は驚いたんだ・・その完璧な保存状態の服を見て。
カスミの服なら、モモカは絶対に喜ぶよ・・カスミの熱と香りが残ってるから。
流行なんて関係ないだろ、問題は着こなしなんだろ。
モモカが自立する時に、カスミの服を着れば・・それだけで勇気が出るよ。
カスミ・・贅沢に生きろ、着飾って見せろ・・絶対に衣装に負けるなよ。
俺は大事に取っておく、リンダのダウンジャケットを・・いつか誰かに繋ぎたい。
物質的に繋ぐ想いもあるよね・・PGの紋章のバッジのように。
俺はこの革ジャンだけで良い・・この女性達の許可書が、刺繍された革ジャンだけで。
この背中の刺繍を背負える、それだけで良いと思ってる』
私は前を見て強く伝えた、カスミは強烈に発光しながら強く頷いた。
北西の風が強く吹いていたが、私もカスミも寒さを感じる事は無かった。
私はカスミに続いて、TVルームに入った。
ユリさんも、裏方4人組も戻っていて、食事前の談笑中だった。
「何をした?・・ユリカ姉さんに・・そしてどんな魔法をかけた、カスミに」と蘭が満開二ヤで言った。
『俺じゃないよ~・・ユリカもカスミも、モモカが魔法をかけた・・話は2人に聞いてね』とウルで返した。
女性達がハッとしてカスミを見た、カスミは最強不敵で返していた。
「あ~・・どうしてカスミに遠慮したんだろ~・・エースがデートなんて言うから~」とナギサがウルで言って。
「私でも遠慮した、カスミが嬉しそうだったし・・最近、2人の時間が少ないと思って・・失敗だった~」と蘭が満開ウルで言った。
「ウルは良いですから・・早く聞きましょう、ユリカ姉さんが号泣したモモカ話を」とリリーが言って。
「それは楽しみですね~・・カスミちゃんを次のステージに上げた、春風の囁きは」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
その言葉でカスミが嬉しそうな笑顔で座り、マリが立って私の腕を組んだ。
『マリ!・・少し影響受けてるね、腕を組むとは挑戦的だね』と私は驚きを隠して二ヤで言った。
「驚いてるくせに・・ありがとう、マリちゃん・・俺は最高に嬉しいよって言いなさい」とマリに二ヤで言葉で返された。
『マリ・・マリアと勝負して、言葉がスムーズになったね・・もう少しで14歳だね』と果敢に二ヤで返した。
「1999年7の月」とマリが強烈な二ヤで返してきた。
『マリ!・・ごめんなさ~い、本当は嬉しくて泣きそうなんだよ~』と私はウルウルで返した。
「まぁ・・モモカに免じて許そう、コジョ」とマリが二ヤで言った。
「今の脅し文句じゃなかったね、マリ・・背中に冷たい汗が流れたよ」とマキがウルで言って。
「怖かった~・・本気で怖かった」とハルカがウルで言って。
「聞きたかったな~・・マリちゃん、今度私にだけ教えてね」とエミが笑顔で言った、マリも二ヤで頷いた。
私はエミを見て凍結する女性達に背を向けて、TVルームをマリと腕を組んで出た。
「私の分のチケット、いらないの?」とマリが同調で聞いてきた。
『1人くらい大丈夫だよ、隅で1曲しか聞かないんだから』と笑顔で返した。
「小僧・・良いよ、正直に依頼して・・私とユリカ姉さんに聞こえるように」とマリが強い言葉で言った。
強烈な喜びの波動がきた、私はその喜びで気付いた。
『マリ・・ユリカを、姉さんって言葉で呼んだね・・ユリカ喜んでるね』と笑顔で返した。
「最初は照れるから・・小僧を通したの・・早く依頼を言え」とマリが少し照れて返してきた。
『マリ・・マリはもうモモカの言葉は、俺で読み取ったよね。
俺は調べてみたいんだ、モモカの出生の秘密を調べてみたい。
もちろん、モモカに伝えるかは・・その内容で判断するよ。
俺は自分の記憶の映像を見てて、自分の未熟さを強く感じた。
モモカの母親は絶望してたね、今の俺なら分かるよ・・あの時の俺には無理だった。
俺が絶望の意味を少し感じたのは、自傷の女神からだから。
俺は心で言ったように、なぜ育てられないかが分からなかった。
多分・・自分勝手な母親だと腹を立ててたと思う、だからあんな強引な事をした。
モモカが言ったよね、ママは病気なのに私を産んでくれたって。
そして今でも桜の木の下で泣いてるって・・俺は辛かったよ、母親の言葉みたいで。
俺が産ませたのかもしれない、その事で・・母親の時間は減ったのかも。
俺は真実を受け入れていたい、逃げたくないんだ・・リンダに対して。
逃げたらリンダに会えない、俺は生命から目を逸らせない。
俺はリンダがアルバムを見せた、それを背負う人間なんだ・・だから真実が知りたい。
マリ・・俺の記憶から、モモカの母親を引っ張り出して・・沙紀と同調しながら。
俺は沙紀に描いてもらう、モモカの母親の顔を・・写真より、その人間を表す絵を。
それを持ってあの病院で聞いてみる、教えてもらえないかも知れない。
結局、解明できないかもしれない・・でも、何もしない訳にはいかない。
俺は心からモモカを愛してるから・・春風には、嘘は絶対につけないから』
私は言葉で強く伝えた、優しい波動が賛成してくれた。
「OK・・良いよ、やろう・・小僧、そんな遠慮はするな・・生命に対する事なんだから」とマリが真顔で強く返してきた。
『ごめんね、マリ・・そしてマリ、俺は信じるよ・・モモカの言葉を』とマリを見て笑顔で言った。
「私もだよ・・透明の弾丸・・その言葉は信じる」とマリも笑顔で返してくれた。
当然私もと言うような、強い波動に押されながら、リッチに入った。
受付のキヌちゃんに、マリと2人で挨拶すると。
ステージ横から見て良いよと言われ、私はマリの手を引いてステージの横に入った。
客席はすでに満席で、人気のプロバンドの登場を待ってるようだった。
前座は地元3バンドの予定が組んであり、オヤジバンドは前座の最後だった。
私とマリはバンドメンバーの入退場の口の、反対側のステージ横に座って待っていた。
特等席に座り、マリはワクワク笑顔で久美子の登場を待っていた。
最初のバンドも、2番目のバンドも中々で、私とマリは笑顔で拍手していた。
そしてオヤジバンドが準備に入った、その時会場から声がかかった。
「久美子~・・頼むぞ~」と客の男が叫び。
「待ってました~・・久美子~」と何人かの男が叫んだ。
ザワザワと客席が騒ぎ出し、塚本はその雰囲気を変えたかったのだろう。
準備をしながら、久美子に二ヤでサインを送った。
久美子も二ヤで返して、鍵盤見た・・そして顔を上げ、視線でマリを捉えた。
その時のマリは少し俯いて、強烈なニヤを久美子に出していた。
久美子は一気に燃え上がった、強烈な響きが会場を一瞬で静寂に包んだ。
久美子はマリのニヤに挑戦するように、叫びを上げ続けた。
それは曲だったのだろうか、私には分からなかった、私には叫びにしか聞こえなかった。
反対側のステージ横に、プロのバンドのメンバーが走り寄った。
8人のプロバンドのメンバーが、久美子の演奏を真剣に聴いていた。
久美子は熱を上げ続け、そして最後に腰を上げて天を仰いで。
首を振り体全体の力を両手に集めて、その両手で鍵盤を強く叩いた。
魂の響きが全てを包んだ、その残響をミノルがサックスで追いかけた。
そしてバンドのオヤジ達が、全員で追いかけ始めた。
久美子は立ったまま、鍵盤を睨んでいた、唇の端だけが少し上がっていた。
オヤジたちが、久美子の響きを切望するように奏でていた。
そして曲の途中の、ミノルソロパートの部分で、ミノルがサマータイムに切り替えた。
久美子はそれで顔を上げて、椅子に座った。
オヤジ達が奏でる、ムーディなサマータイムに、久美子がリンダスペシャルで切り込んだ。
一気に熱が上がり、オヤジ達もスイングしながら弾いていた。
会場の客たちも、体を少し揺らし笑顔でスイングしていた。
久美子は笑顔でリンダスペシャルを伝えた、その音はやり直そうと叫んでいた。
人はどんな状況でも、何度でもやり直せると叫んでいた。
公園に寝て、大地の息吹に力をもらおうと、リンダの想いを伝えていた。
「久美子は同化した・・心が開放された」とマリが久美子を見ながら、笑顔で呟いた。
『そんな感じだね・・久美子は完全に次の段階に入ってるね』と私も久美子を見ながら返した。
久美子の魂の響きに、同意を示した強烈な波動が乗っていた。
久美子は演奏が終わった瞬間に、会場に右手の拳を突き出した。
それを知る沢山の男女が、右手の拳を突き出して応えた。
オヤジ達もそれを受け、笑顔で会場に拳を突き出した。
会場は大喝采に包まれた、バンドの全員がステージ前で手を繋いで何度も頭を下げた。
私はその光景に驚いていた、そしてお客の女性の多さにも驚いていた。
オヤジバンドが退場する時、プロのバンドが全員で右手を上げて迎えた。
楽譜を持った久美子が1番で、全員と笑顔でハイタッチをして楽屋に消えた。
オヤジ達も嬉しそうに、ハイタッチをして楽屋に向かって行った。
私は久美子はプロバンドを見ると聞いていたので、マリと手を繋いでリッチを出た。
外は夜空になっていた、マリは私の腕を組んで手を握った、私は嬉しくて笑顔で返した。
マリが久々に、温度で伝えてきたのだ。
《小僧・・私は嬉しいんだよ、ヒトミのあの言葉に挑めるからね》と温度で伝えてきた。
《俺もだよ、マリ・・今度は負けないよ》と温度で返した。
2人だけの会話を楽しんで、マリと2人でタクシーに乗った。
マリはタクシーの窓から流れる、街の明かりを笑顔で見ていた。
その横顔に迷いは無かった、私はその顔を見て、マリの開放の時も近いと思っていた。
デパートは全てのシャッターを閉じ、その中で多くの人間が動いていた。
クリスマスから年末・・そして新年、その地獄のチェンジが始まっていた。
人々の気分を煽る為に、消費の熱を上げる為に。
季節を先取りする、物欲の流れを演出する舞台を作っていた。
「小僧・・私も良い?・・ライブ後の夜の海」とマリが言葉で言った。
『もちろん、良いに決まってるだろ』と笑顔で返した。
「ユリカ姉さんも良いですか?・・私のお泊り」とマリがタクシーの窓に言った。
ユリカの波動が、少し怒りながら了解を示した。
『ほら、怒られた・・マリがユリカに遠慮したら、ユリカは淋しいだろ』と笑顔で言った。
「うん・・ごめんなさい、姉さん」とマリが私に笑顔で言った。
ユリカの強烈な喜びの波動が何度も来た、マリは本当に嬉しそうに窓の外を見ていた。
「小僧・・私の最後のヒント、全員に伝えて・・箱の中身は・・未来の記憶」とマリが静かに言った。
集中した重い言葉だった、【未来の記憶】・・矛盾した表現だった。
『了解・・未来の記憶か~・・解く鍵は、矛盾の中にある・・だったよね、ヒトミの言葉』と私は前を見ながら呟いた。
強烈な波動が詳細を述べよ叫んだ、マリは私を二ヤで見た。
『応用の利かない回路は、その場所にしか隠さない・・気付かないと思ってる。
矛盾の中に入れれば、人間は否定して探さない・・そう思ってる、馬鹿な回路は。
そう言ったよね、ヒトミ・・それを繋げた世界が・・未来の記憶なんだろうね』
私はマリに笑顔で言った、マリも笑顔で頷いた。
波動は来なかった、ユリカは感じようとしてると思っていた。
私は久美子の響きを思い出していた、あの両手で叩いた叫びを。
その魂の響きに、どこか懐かしさを感じていた。
クリスマスを見送る夜空に、月が浮かんでいた・・道を照らしながら・・。