【冬物語・・螺旋の系譜⑤】
その問題に正解は無い、各々が自分の答えを持つ。
【誕生】で始まり【絶滅】で終わるのだろうか?
それを回避する事は出来ないのか、生命のリレーにゴールは有るのだろうか?
静寂の天空にある透明の塔の入口、周りには幻想的な宇宙が広がっていた。
その対極であろう深海の入口にも、静寂の中に閉ざされた入口が有った。
秀美はムーン・アタッカーを、透明の塔の頂上に横付けした。
そしてハルカと秀美は、塔の外の踊り場に2人で降りた。
「ビンゴ・・沙織の仮説が当たりみたいだよ」と秀美が入口の前にハルカと立って言った。
「そうだよね・・こっちもそうだよ」と美由紀が二ヤで無線で返した。
「封印を解く鍵が分かったの?」とユリカが振り向いて美由紀に言った。
「はい・・鍵は私と秀美で揃えます、上る方法を先に考えて下さい」と美由紀が笑顔で返した。
美由紀の表情を見て、深海の入口の女性達も笑顔で頷いた。
「約5000mだよね、それを螺旋で上るなら・・4倍位の距離が有るよね」とミコトが呟いて。
「走ったら絶対に間に合わない、何か方法はあるかい?」と大ママが無線で言って、沙織を見た。
「1つしかないですね」とアンナの声が無線から響いた。
「アンナ・・作戦を」と大ママが返した。
「潜水艦を通路から抜きます・・そうすれば海水がその中に押し寄せます。
その海水の勢いに乗って、上昇できれば間に合うでしょう。
その代わりその世界も、女性全員も海水に沈みますが」
アンナの声が響いて、沈黙が訪れた。
「それしか無いですね・・それでいきましょう」とユリカが強く言った。
「了解・・そうしよう、誰が挑戦するんだい?」と大ママが言った。
「入口の説明には、1人しか入れないとされています。
ならば、ミサキしかいませんね・・その泳力に賭けましょう」
ユリカはミサキを見ながら、笑顔で言った。
「了解です・・辿り着いてみせます」とミサキも笑顔で強く返した。
「水が満たされれば、私が上から飛び込みます」とハルカの声が響いた。
「ハルカ!・・101000だよ、やるんだね?」と北斗が言った。
「大丈夫です・・リンダさんの問題の意味を、少し分かりました」とハルカが笑顔で返した。
「よし・・レーダーでの状況報告を、空母に任せます。
最終ステージの状況は、マキと恭子が報告して・・カウントも。
こっちは海水に満たされたら、浮上装置で上がろう。
パニックで戻されないように、その問題と解答を直に見よう。
美由紀が鍵を手に入れたら、潜水艦を抜く・・そして、ミサキが塔の真ん中に入る。
海水の勢いに乗って、ミサキが上昇し・・上昇始めたら、ハルカが飛び込む。
これしか方法はない・・2人の内、どちらかが辿り着くと信じてるよ。
マキ、残り時間は?・・シズカ、沙織・・何かある?」
「残り・・5分40秒」とマキの声がした。
「それで良いと思います」と沙織が返して。
「やりましょう」とシズカが笑顔で言って、深海の女性達が笑顔で頷いた。
「了解・・空母が状況確認する、ステージの500m手前まで移動」とミチルが言って。
「了解」とサクラさんが応えて、空母をステージの方向に向けた。
「リアンとネネ以外は、帰還せよ・・空母マリの3人とヨーコで、エミを頼むよ」と北斗が言った。
「了解」と空母の4人が返した。
「時間が無い・・美由紀、秀美・・よろしく」とユリカが美由紀に微笑んだ。
「了解」と2人の声がして、美由紀の二ヤが見えた。
「秀美、この透明な箱をどうするの?・・手を入れたら、抜けないんだよ」とハルカが言った。
ハルカと秀美の目の前には、透明の箱の中に鍵が置かれていた。
一度手を入れたら、永遠に抜けないと注意書きが記されていた。
「やはり抜けない設定ですね」とユリさんが塔の至近距離に浮かびながら言った。
「そうなんでしょうね・・この設定を、沙織は仮説で立てていたんですね」と蘭が真顔で返した。
「簡単です・・こうやって腕を入れて、鍵を取って・・こっちから出します」
秀美は無造作に左腕を入れて鍵を取り、正面の穴から鍵を握った左腕を出した。
透明の箱の丸く開いた穴が塞がり、秀美の手は閉じ込められた。
秀美の鍵を握ってる手は金属で出来ていて、ハルカは秀美を見ながら鍵を受け取った。
そして秀美は右腕で左腕の肩の下を回し、左腕の義手を抜いて微笑んだ。
「イメージを切れば良いんです、現実を受け入れれば・・ハルカ姉さん早く行って」と秀美は微笑んだ。
「ありがとう、秀美・・その想いも持って行くね」とハルカは笑顔で返した、秀美も笑顔で頷いた。
ハルカは透明の塔の入口の前に立って、鍵を差し込んで回した。
そして透明の塔の中に入って秀美を見た、秀美は笑顔で頷いてムーンの操縦席に戻った。
「そうか・・現実を受け入れて、イメージを切る・・義手の自分に戻すのか」と北斗が静かに言った。
「ならば、美由紀もそうなの」とミチルが言ってモニターを見た。
「そうなんですよね~・・だから足枷なんですよ、リンダの意地悪」と美由紀が二ヤで言った。
美由紀は両足の付け根を、両手でカチカチとアタッチメントを外した。
そして美由紀ジャンプをして、正面に立つサイボーグ女の持つ鍵を取り上げた。
サイボーグ女達が美由紀を押えたが、美由紀はニヤで返しながら振り払った。
そして鍵を女性達の方に投げた、シズカがそれを拾いミサキに渡した。
ミサキは女性達に笑顔で一礼して、美由紀を見た。
美由紀はサイボーグ女に顔を地面に押さえつけられながらも、ミサキに笑顔で頷いた。
ミサキも笑顔で頷いて、塔の入口を開けて中に入った。
「潜水艦・・浮上、目的地・・透明のステージ」とアンナが言った。
「了解」と幻海の女性達が返して、潜水艦は透明の通路を離れた。
潜水艦の女性達は、猛烈な勢いで流れ込む海水を見ていた。
大ママと沙織の場所は大きく揺れて、不気味な轟音が響いていた。
大ママは沙織の顔を見た、沙織は笑顔で返した。
「沙織・・将来、夜の仕事をする時は、うちにおいでよ・・私はいつでも大歓迎だよ」と大ママが無線で言った。
「ありがとうございます・・嬉しい言葉です」と沙織が笑顔で返した時に、海水が押し寄せて2人は流された。
「さぁ来るよ・・絶対に浮上して見に行くよ、リンダの試験を」とユリカが強く言って。
「はい」と全員が笑顔で返した。
深海の都市を破壊しながら、大きな水流が迫っていた。
それをユリカとリリーだけが見ていた、全てを流しながら迫り来る海水を。
「蘭・・全速で降下します、衝撃に備えて」とユリさんが言って。
「了解」と蘭が返して、操縦席のガラス越しに秀美に微笑んだ。
秀美が笑顔で頷くのを見て、機首は地球を向いた。
そして急激な加速で降りて行った、秀美とハルカはその後姿を見ていた。
「制限時間・・残り4分」とマキの声が響いた。
「海水・・透明の塔に到達、ミサキ上昇開始しました」とミチルの声がした。
「秀美・・行って来るね」とハルカが秀美に微笑んだ。
「下で待ってますね」と秀美は笑顔で返して、機首を地球に向けた。
ハルカは透明の塔の内側を見下ろしていた、遠近感で奥に行くほど狭まって見えた。
「イメージは外したよ、リンダ姉さん・・何も怖くないよ」とハルカは二ヤで呟いた。
ハルカは両手を上げて、螺旋の通路の真中に頭から飛び込んだ。
秀美はハルカの飛込みを確認して、アクセルを踏み込み加速装置を押した。
秀美は右腕だけで操縦していた、操縦席からハルカの落下する姿が見えていた。
「ミサキ・・水流の最上部で上昇中・・海面到達まで・・30秒」と北斗が言って。
「ハルカ、下降中・・海面まで・・50秒」とアイさんが言って。
「制限時間・・2分30秒・・間に合います」とマキの声がした。
この3人の報告で、流された深海の女性達は我に返った。
そして浮上装置を押して、沢山の女性達が上昇を始めた。
ミサキは笑顔で上昇する波に乗っていた、上を見上げながら美由紀の笑顔を思い出していた。
ハルカは落下するスピードにも慣れて、透明の塔の外を見ていた。
美しい夜景を見ていた、星の瞬きと月の光を。
「ミサキ・・出ます」と北斗が叫んだ時に、大きな水柱が透明の塔の中で上がった。
ミサキは海面から50mほど持ち上げられて、海面に戻された。
「ミサキ・・螺旋の通路に上がって、ハルカが落ちてくる」と北斗が叫んだ。
ミサキは慌てて泳いで、螺旋の通路に上がった。
ミサキが螺旋の通路から見上げた瞬間に、大きな音と水しぶきが上がった。
ミサキが海面を見ていると、ハルカが笑顔で海面に姿を現した。
ミサキが通路から右手を伸ばし、ハルカがそれを握って通路に上がった。
「制限時間・・残り1分40秒」とマキの声がした。
「ハルカ・・行こう」とミサキが笑顔で言って、ハルカが笑顔で頷いた。
2人は透明の塔の海面の出口から、海面上に伸びる透明な通路に乗ろうとした。
1歩目を踏み出したときに通路が割れて、2人は慌てて出口に戻った。
「私達の重さでは無理です・・1人の重さでも、通路が割れます」とハルカが叫んだ。
「そうなのか!・・どうしよう?」とミチルが北斗を見た。
「艦長、サクラさん・・エミを行かせて」とヨーコの静かな声が響いた。
「ヨーコ・・出来るんだね?」とミチルが言って。
「ヨーコ・・エミの意志を確認して、私はそれだけで良いよ」とサクラさんが言った。
「行くよ・・ヨーコちゃん、私があの透明なステージに」とエミが強く言った。
「よし・・ヨーコ、任せる」とミチルが言った。
「了解・・リアン姉さん、空母マリと透明の塔の間に、戦闘機を入れて下さい」とヨーコが言った。
「了解・・待ってろ、すぐに入れる」とリアンが返して塔を目指した。
「制限時間・・残り1分20秒」とマキがヨーコを見て言った。
「行こうかね・・エミ」とヨーコはエミに微笑んで、エミの笑顔を見て手を引いた。
リアンが垂直で降下して、空母マリと透明の塔の間に入った。
ヨーコはエミの手を引いて、リアンの戦闘機の羽を歩いて、透明の塔の前に立った。
「ここにもドア~」と玩具のドアを出して、それを大きくした。
「時間が無いよ、行っておいで・・エミ、自分の解答を出してきな」とヨーコは強力な二ヤでエミの背中を押した。
「うん・・行って来るね、本物のヨーコちゃん」とエミは二ヤで返して、ヨーコは二ヤ継続で見送った。
エミは5000mの高さを、何の躊躇も無く足から飛び込んだ。
ヨーコは戦闘機の上を走り、空母マリの屋上の3人の側に戻った。
リアンも空母マリの屋上に着陸して、透明のステージを見ていた。
「エミ・・海面到達5秒前」と北斗が叫んだ。
ハルカとミサキは落ちて来るエミを確認した、エミが着水して水しぶきが上がった瞬間、ミサキが飛び込んだ。
ミサキは笑顔のエミを抱いて、海面に浮上してきた。
ハルカがエミを受け取って、出口にエミを立たせた。
「ケイちゃん、マミちゃん・・行って来ます」とエミは笑顔で言って、通路に1歩目を乗せた。
この時、エミはケイとマミと本名を言った、2人は嬉しそうな笑顔でエミの背中を見ていた。
「制限時間表示、消滅・・間に合ったと思われます」とマキが叫んだ。
「よし・・空母をステージの真横で停止後、全員甲板に集合」とミチルが言った。
「了解」と全員が笑顔で返した。
エミは真直ぐに前を見て、透明の通路を歩いていた。
半分ほど歩いた時に、潜水艦が空母の横に浮上した、そして女性達も浮上してきた。
「エミ・・正解は無い、心を示せば良いんだよ」と浮上したシズカが言った。
「うん・・ありがとう、シズカちゃん・・破棄してくる、ガラスのリンダちゃんに」とエミは笑顔で返した、シズカも笑顔で頷いた。
「ガラスのリンダ・・エミは分かってるね」とシズカの横でユリカが微笑んだ。
「リンダは失ったと言いましたよね、大切な仲間を」と水面に顔だけ出してミコトが微笑んで。
「最後は常識に負けた、多数に負けたと言ったよ」と千鶴も歩くエミの背中を見ながら微笑んだ。
「エミは契約書を握ってる・・それを破棄する為に」とリリーが笑顔で言って。
「エミこそが切り札・・マリもエースもそう思ってる」と大ママが浮かび上がり笑顔で言った。
浮上した女性達が潜水艦まで泳ぎ、潜水艦の甲板に立っていた。
アンナと幻海の女性達も甲板に出て、空母も停止して女性達が甲板に出て来た。
「誰も戻らなかったね」と律子が私に笑顔で言った。
『こんなもんで戻ったら、沙紀の世界なんて絶望的だよ』と笑顔で返した。
「エミ・・あの子なら、契約を破棄できる」とマリがモニターを見ながら強く言った。
ムーン・アタッカー2機が帰還して、全員が揃った。
「忘れてるよ~・・ヒーローを忘れてる~」とナギサが華やかウルを出しながら、潜水艦に上がってきた。
「ヒーローなんていたのか?」とミコトがナギサに二ヤで言って。
「今から出来るのよ、ミコト・・エミというヒーローが」とユリカが爽やか二ヤで言った。
ナギサはウルウルでユリカの横に立った、全員がナギサの表情で笑顔になった。
「さぁ、クライマックスですね」と空母の甲板でユリさんがサクラさんに微笑んだ。
「エミ・・つき返せ・・詐欺師に契約書を」と蘭が呟いた。
エミはステージにゆっくりと上がった、サイボーグ女がステージを囲んだ。
エミは透明のサイボーグを見ながら、ステージのセンターまで歩いた。
「持って来たよ・・お待たせしました、ガラスのリンダ」とエミは強い瞳で言った。
透明のサイボーグは、エミの正面まで歩いた。
「見せてもらおう、エミ・・その心の解答を」
透明のサイボーグからでない、天空から声が響いた、私はマチルダの声だと思っていた。
透明のサイボーグの右手に、透明の大きな剣が現れた。
そして次の瞬間に、透明のサイボーグの右手が上がり、剣がエミに振り降りた。
透明の剣がエミの胸の赤丸を突き刺して、エミの小さな体を貫いた。
剣の先端はエミの背中から突き出ていた、女性達はその光景に凍結していた。
しかしエミはステージに存在していた、そして真横にある透明の顔に二ヤを出していた。
「そんなんじゃないよ、私の感じるダメージは・・そんな事じゃないよ。
この赤丸は設定しろって言ったんだよね、ダメージを受けたら戻される。
各自が自分で考えて、ダメージの設定をしろって言ったんだよね。
漠然と感じてる物でなく、記憶にある物でなく・・自分で設定する。
なぜダメージと感じるのか、その恐怖の根源を探す。
探したけど無かったの・・私にはそれが分からなかったよ。
だけどダメージは設定したよ、それは自分が傷つく事じゃなかった。
それ以上は教えない・・次の試験に続く問題だから。
リンダちゃん、ありがとう・・大切な問題を出してくれて。
悪役になってくれて・・本当に嬉しかったよ。
ガラスのリンダちゃんが温かくて・・氷のリンダちゃんじゃなくて。
私達は大丈夫・・絶対に大切な仲間は失わない、最後まで信じるから。
私達のダメージは・・絆を失うことだから、そうならないよ。
ありがとう、リンダちゃん・・素敵な試験だった」
エミは笑顔で、透明のサーボーグの耳元に言った。
透明のサイボーグはエミに顔を向けた、そして剣を引き抜いた。
「エミ・・シンカイ・エミ・マッテル」と天空から声がした、リンダの声だった。
「了解・・必ず辿り着きます」とエミは笑顔で返した。
「タノシミ二シテル」と声がして、サイボーグの女達は消えた。
透明のサイボーグは、ゆりっくりと海に入った。
エミは透明のサイボーグを見ていた、透明のサイボーグもエミを見てるようだった。
エミは海中に見えなくなるまで、その姿を見送っていた。
海面に星屑が映っていた、エミの顔は笑顔に戻った。
女性達が拍手でエミを称えた、エミは笑顔で頭を下げて空母を見上げた。
サクラさんも笑顔で拍手をしていた、エミはサクラさんに二ヤで手を振った。
「長女が喜んでるね、新しい姉妹の誕生を」と北斗が二ヤで言って。
「あのエミの影響を受けるんだ、どんな子供になるんだろう?」と蘭が満開二ヤで言って。
「それにエースが、乳児の頃から愛情を注ぎ込む・・怖い気もする」とミチルが笑顔で言って。
「見たいですね~・・その成長した姿が」とユリさんが薔薇二ヤで締めた。
サクラさんの照れた笑顔を、エミの笑顔が見ていた。
『成功、おめでとうございます・・エミ、頑張ったね・・それでは映像を切ります』と私は無線で言った。
「了解」と女性全員が笑顔で返してくれた。
私は4人娘に笑顔を送り、映像を切った。
私が目を開けると、女性達も瞳を開けて笑顔が溢れた。
時間は12時を少し過ぎていた、カズ君が笑顔で私の側に来て、私はカズ君と長テーブルを出した。
そして裏方4人組を手伝って、女性達に弁当を配って、飲み物を準備していた。
エミが私の側に笑顔で来た、私は笑顔でエミを抱き上げて席に着いた。
「それじゃあ、沙織の仮説の話からしてもらおうか?」とリアンが食べながら笑顔で言った。
「そうしてもらいましょう、どこまで想定できてたのか?」とユリカが二ヤで言った。
女性達が二ヤで沙織を見た、沙織はウルで返して始めた。
「今回のリンダさんの試験・・その前のマリちゃんと小僧が決めた特訓。
この特訓の決断が、難しさを表現してました・・次の沙紀の世界の難易度を。
マリちゃんは今まで、私が知る限りですが・・自分で動いた事は無いです。
今までの登場の全ては、小僧が難しい状況になる・・命に向き合う時だけです。
もちろんマリちゃん自体が変化をしてますが、それでも違和感を受けました。
特訓という判断に違和感があった、そして特訓の世界にリンダさんが試験を侵入した。
マリちゃんは当然、沙紀の深海の世界をかなりの部分読めてるでしょう。
読めない部分も多いのでしょうが、それでも想定はある程度出来てる。
2人の特訓の意味は、まず水に対する恐怖の克服でした。
でもそれに侵入したリンダさんの問題は、深海が繋ぐ場所にありました。
あの塔の事を中1トリオで話しました、そして私の考えを話した。
リンダさんの試験は、沙紀の次を見てる・・それは絶対に由美子でしょう。
私と美由紀と、限界カルテットの4人は経験しています・・その時に感じてます。
ヒトミを左手に誘う難しさを、その難しさを克服する為にプレゼントした。
ヒトミが小僧に映像をプレゼントしました、何度でもイメージに進入できるように。
そのイメージの世界を共有できるように、映像化という力を贈ったでしょう。
左手に誘う件は、沙紀の世界が終われば小僧が話します。
小僧とマリちゃんは、沙紀の世界だけを考えていた・・でもそれをリンダさんが上げた。
リンダさんは由美子に会っていません、なのに左手のヒントを出した。
私はそう思って思い出しました、シズカレポートを・・その中に登場するある少女を。
ヒトミや由美子と同じ病で、19歳まで生き・・17歳にして言葉を取り戻した女性。
その女性の心の支えだった女性、同じ歳で親友だった・・唯一伝達できた女性。
その名前こそが、リンダでした・・その女性はヒトミの亡くなる前年に亡くなっています。
今から4年前・・リンダさんが19歳の時です、私はそれで確信しました。
その女性こそがリンダさんだと、そうじゃないと左手の意味は分からないと。
その確信で設定しました、リンダさんの試験の意味を・・私達の重要な部分だけですが。
私は美由紀と秀美が重要な部分で必要だと、2人に言っただけです。
その時に現実を受け入れられるか、現実を受け入れてもマリちゃんと同調できるのか。
それが2人に対する試験だと思うと言いました、それだけです私の想定は。
残りの想定は今は言えません・・それは由美子の設定ですから」
沙織は笑顔でそう言った、女性達が興味津々で聞いていた。
「誰に聞くのが一番良いの?・・シズカレポートの事を・・シズカなの?」と北斗がシズカを見た。
「本人の前に、リアンが話します・・それが北斗姉さんが、一番落ち着いて聞けるから」とユリカが北斗に言った。
「リアン・・お願い」と北斗がリアンに言った、リアンは真顔で強く頷いた。
「私とユリカと蘭とシオンで、今朝エースに聞きました・・・・」リアンはシズカレポートの事を話した。
北斗はその話を聞いてシズカを見た、シズカは笑顔で立ち上がり北斗の前に座った。
「これがそのレポートです・・母親の真実が書いてあります」とシズカがバッグから大きな分厚い茶封筒を出した。
北斗は笑顔で受け取った、シズカも笑顔で返した。
「良いんだよね、これで?・・シズカ先輩も用意してたんだから」と沙織が私に真顔で言った。
『ありがとう、沙織・・俺は勇気が無かったよ、北斗は大丈夫だよ』と笑顔で返した。
「それで、小僧はどこまで想定してた?・・リンダ試験」と美由紀が二ヤで言った。
『実は俺はそれは気付いてなかった、シズカレポートのリンダと重ねてなかった。
俺はあの時、リンダを空港に送っていたから。
リンダの手紙の内容は、聞いてないんだよ。
リンダが俺を連れ出したんだから、俺には聞かせたくないんじゃないかと思った。
それで誰にも聞かなかった、もちろん話の端々で少しは聞いていたけど。
俺は今回のリンダの試験は、マチルダを通してリンダが由美子を感じたと思ってたよ。
俺はあの透明の塔はなんとなく分かった、それはモモカの問いかけで確信した。
海は満ちたり引いたりして、その深さが変わるのかとの問いかけで。
深さや高さは重要じゃない、重要なのは海面・・海面の変化だった。
海面に試験が現れる、ならば深海と天空の入口の意味は分かった。
それは【受精】と【終焉】だと想定した・・事実は【誕生】と【絶滅】だった。
海面が何なのか・・それは各自の考えを持って欲しいから、今は言わない。
リンダの試験は俺の想定の範囲内だった、でもエミの解答は想定外だったよ。
100点以上の解答だった・・攻撃を受けてみせるとは思わなかったよ』
私は二ヤで言った、美由紀も二ヤで返してきた。
『それにしても、美由紀は当然だけど・・秀美は間が無いのに、凄いね~』と私は秀美に二ヤで言った。
「そうだよね~、まだ記憶のほうが強いでしょ?」とシズカが笑顔で言った、秀美も笑顔で返した。
「秀美・・今の会話、説明せよ」とミコトが二ヤで言った。
「私・・この義手になる前のマネキン義手の時は、家では外してました。
外すと記憶に負けるんです、左手が無いことをつい忘れてしまう。
例えばコップとかに手を伸ばして、取れない事で腕が無い事を確認させられる。
その度に少し落ち込んだりして、その連続する確認作業が自分を嫌にさせるんです。
私は美由紀に聞きました、美由紀はどうやってそれを克服したのかと。
美由紀は言葉で表現できないと言いました、美由紀は5歳で失ったから。
自然に克服したと言って・・その分野は、小僧の専門分野だと教えてくれました。
私は放課後に小僧をたこ焼きで誘って、2人になってその話しをしました。
小僧は二ヤ顔で、秀美はまだそんな策略に負けているのかと言いました。
そしてこう言いました・・基準が悪い、感じる時の基準が贅沢だと。
秀美は片腕を失ったと確認させられた時に、健常者と自分を比べてるだろ。
それこそが罠だよ、その基準が奴の罠なんだ・・多数を基準にさせるのが。
秀美がその基準で考えれば、確かに秀美は不幸かもしれないよね。
でも基準を変えれば・・美由紀はそれで克服したんだよ、でもそれは言えない。
美由紀から聞いて、秀美が理解しても駄目なんだ・・美由紀はそれを分かってる。
美由紀は基準をヒトミにしたんだよ・・ヒトミの言葉に、贅沢だと言われた言葉にね。
それは分かるよね、でもその深い意味を感じるのは難しいんだ。
足が無いと嘆きながら、明日が来ると思ってる・・美由紀は贅沢だよ。
この言葉に隠された意味を、美由紀は探し出したよ。
だから記憶に勝ったんだ・・美由紀だって記憶に有ったよ、5歳だったからね。
両足で立って、走ってた頃の記憶は鮮明に残ってたよ。
基準を変えろ、秀美・・美由紀じゃ教えられない、そこにヒントが有るよ。
ヒトミの言葉を感じてね・・そうすれば出来る、自分を前に押し出せる。
小僧はそう言ってくれました・・私は家に帰って考えました。
そしてお風呂に入って、自分の体を見た時に分かったんです・・片腕の体を見て。
ヒトミちゃんの贅沢と言った表現・・それこそが、記憶に対する物なんだと。
ヒトミちゃんは動く事も、見る事も、話す事も、食べる事さえ出来なかった。
産まれた時からそうだった、一度も動く事さえ経験できなかった。
だから記憶には何も無かった、ヒトミちゃんの基準は常に死だったんだ。
それに気付いて、浴槽の中で泣きました・・ヒトミちゃんの凄さを感じて。
自分の愚かさを感じて・・そして美由紀の強い友情を感じて、泣きました。
私は確かに健常者を基準にしていました、だからこそ片腕の自分が惨めだった。
その基準がヒトミちゃんと同じなら、私は幸せを感じたのだと思いました。
そして美由紀がそれを教えてくれたのなら、私の基準は美由紀になったでしょう。
それでは辿り着けないんです、だからこそ最強の悪役に振ったんです。
最強の悪役である小僧は、自分は健常者だと二ヤで言ってきます。
これは本当に難しい事ですよね、私や美由紀のような子を相手に二ヤで言うのは。
なぜ小僧は出来るんだろう?・・私はふとそう思いました。
そして分かったんです・・小僧も基準が違うんだと、それは死でもないんだと。
小僧の基準が何か、まだ私には分かりません・・それを探したいと思ってます。
私は基準を変えました・・今の私の判断基準は、生と死です。
生命の基本である、生きるという行為・・そして最も自然な事・・死です。
それが本当の基準だと分かりました・・生きている途中の、私の基準なのだから」
秀美は笑顔で想いを言葉にした、女性達が真剣に聞いていた。
シズカと美由紀の嬉しそうな笑顔の横に、沙織の笑顔が有った。
私はエミの言葉を思い出していた・・自分にも限界トリオが出来たと言った言葉を。
クリスマスは過ぎようとしていた、その先に深海が待っていた。
記憶との勝負が幕を上げる、その時が近づいていた・・。