再会Ⅱ
人生に原作者が存在するのなら、その男を常に波乱の中に導く。
その男自身は、常に平穏を愛する。
しかし何かがそれを許さない、彼の行く場所にそれをしかける。
常に挑戦を要求する、そして必ず答えを出してきたのだ。
幻想の宴は、開演前の静寂に包まれ、女優達も円を描いて、開演のベルを待っていた。
「開店前だったんですね、すいません」その男がユリさんに言った。
「お気になさらないで、マネージャーがOKしたんですから」と微笑み。
「少しだけ失礼します」と言って、フロアーの円の所に歩いていく時。
蘭が銀の扉から出てきた。
その男は蘭を見ていた、まるで全てを理解したようだったと、ケイに聞いた。
蘭も戦場へのお辞儀をして、その男を見ていた。
目が合って、その時心が震えたと後に聞いた。
「今夜も開演しましょう」とユリさんが言い、「はい」と全員の返事で開演を迎えた。
「ユリさん」蘭が駆け寄ると。
「行きましょう」とユリさんは微笑んだ。
「蘭と申します」と笑顔で挨拶したら。
「あなたですね、ありがとう」とその男は立って礼を言った。
「分かるんですか?」と驚いて聞くと。
「入ってきた時に、なんとなく分かりました」と微笑んだ。
「まぁ座りましょう、夜は始まったばかりですから」とユリさんに促され、3人で席についた。
「豊さんですね?」と蘭が聞いた。
「そうです、悪い話でも聞かれましたか」と苦笑いした。
「素敵な話ばかりですよ」と蘭も微笑んだ。
「奴は話するのが上手いから」と笑顔で2人を見た。
「ええ、それで助かってます」とユリさんが微笑んだ。
「私も随分助けられました、奴の一瞬にして、場の雰囲気を変える力に」と笑顔で言った。
「今夜は、お時間あるのですか?」とユリさんが聞いた。
「勿論、未成年ですから、後の予定はありません」と2人を見た。
「よかった~、少しお話ししても大丈夫ですね」と蘭が言った。
「いいですけど、奴みたいに面白くないですよ」と笑った。
「いえ、本当に会いたいと思ってました」と蘭が微笑んだ。
幻想のフロアーは何かに支配されていた、薔薇と青い炎ともう1つの何かに。
「ケイ、彼は何者?」とカスミがケイに聞いていた。
「多分、チャッピー関係と思います」とケイが言うと。
「次は私に振って、頼む」とカスミが言った。
「分かりました、チャンスがあれば必ず」とケイも返した。
「ありがとう」とカスミが微笑んだ。
「分かるんですねカスミ姉さん、私もついてみたいと初めて思いました」とケイが言うと。
「そう、匂いが違うよね、圧倒的に」とカスミが微笑んだ。
私は何も知らずに、『ワン』だけの言葉の世界にいた。
「どういうご関係ですか?」ユリさんの問いに。
「弟です、血は繋がりませんが、それ以上の」と静かに言った。
「彼もそう言っていました」と蘭は満開で微笑んだ。
「私は彼の両親にも、姉にも、そして彼自身にも、沢山の借りがあります」そう言って。
「今があるのは、周りの全てがあったからです」と微笑んだ。
「今日は誰かの頼みで、こられたんですか?」と蘭が聞いた。
「彼の母親に、頼まれたと言うか・・俺に任せると手紙をもらいました」と言って蘭を見た。
「素敵ですね」と蘭は微笑んだ。
「彼は今成長の時期です、今感じないといけないと思っています」と豊は微笑んで。
「貴女方2人に会ったので、安心しました」と言った。
「成長は感じないといけませんね」とユリさんが言った。
「そう思います、経験上からも」と少し考えて。
「彼は自分を信じられないで来た、それは私を追ったからです」2人を見て。
「人はそれぞれなのに、それを私は伝えてやれなかった」と静かに語った。
「伝わっていましたよ、あなたの想いは」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「私もそう確信しています」と蘭が満開で微笑んだ。
「ありがとうございます、貴女方に言われると、本当に嬉しいです」と笑顔を見せた。
その時蘭がケイにサインを送った、TVルームを示して、ケイはOKのサインで返した。
私はマダムとマリアの相手をしていた。
「チャッピー」とのケイの言葉に。
『ワン』と答えた、マリアにワンしか言ったら駄目だと、命令されていた。
「ご指名よ、3番」とケイに言われ。
『ワン?』と答えた、マリアの命令は私には絶対だった。
私は、マジックミラーのカーテンをそっと開けて見た。
久しぶりに豊兄さんを見て、嬉しかった。
「指名だろ、行ってきな」とのマダムの言葉で、フロアーに向かった。
「いい男やな~」と受付で徳野さんが言った。
『はい』と答えて足が止まった。
『徳野さん、奴がなにかやるのは、今夜かもしれない』と言った。
「なぜだ?」と徳野さんが聞き返した。
『あの人はそういう星の下にいる、常に波乱の中にいるような、上手く言えないけど』と言った。
「ようくわかるよ、いい説明だ」と言い、「再度チェックしとく」と言った。
私が行こうと豊兄さんを見ると、目が合った、豊兄さんは右手で拳を作り私に向けた。
私は小走りに近づき、右手に拳を握り、豊兄さんの拳に当てた。
「ひさしーの、悪ガキ・・元気そうやな」と微笑んだ。
『うん、なんとかやってる』と照れ笑いした。
「座って話せるか?」と豊兄さんが聞くと。
「どうぞ、ごゆっくり、気にしないでいい子を後でつけますから」とユリさんと蘭は席を立った。
蘭が行く時に、優しく私の背中を叩いた。
「話は聞いてる、お袋さんから、お前の今の気持ちを聞きたい?」と鋭い目線で聞いた。
『俺は、今・・・』私は正直な今の気持ちを、蘭に対する想いも含めて、正直に話した。
「お前の気持ちは分かった、やってみろ出来るとこまで」そう言って微笑んだ、私は嬉しかった。
「俺と約束を1つしろ」私を見て「どこからでもいいから、学校には行くと」と優しく言った。
『約束するよ、必ず行く』と私は誓った。
「よし、この話はこれで終わりや」と笑顔になった時に、カスミが私のコーラを持って来た。
「カスミと申します、よろしくお願いします」と輝く笑顔で言うと。
「豊です、よろしく」と立って挨拶をした。
「お迎えですか?」とカスミが微笑むと、その目を豊兄さんは見ながら。
「どうして、そう思われますか?」と聞き返した。
「それが普通かと」お互いに目を逸らさない。
「そうでしょうね、でも先ほどのお2人や、貴女には説明の必要はないと、思っていますが」と目を見たまま言った。
それは見つめ合うと言うより、語り合う沈黙だった。
先にカスミが微笑んだ、そして豊兄さんも微笑を返した。
「こりゃ~帰りたくないわな~」と私を見て豊兄さんが微笑み。
「あんたの幸運に、嫉妬したよ」とカスミが私に言った。
「迷惑になるまえに帰ります」と豊兄さんがカスミに言って。
「ありがとうございます、必ずまたいらして下さい」と美しく微笑んだ。
「ありがとうございました」と徳野さんに深々と頭を下げた。
徳野さんは照れくさそうに、右手を上げた。
「1000円になります」とリンさんが言って。
「安すぎませんか?」と豊兄さんが言うと。
「未成年割引です、成人したらまたおいで下さい」と笑顔で言った。
「必ず来ます」そう言って支払い、2人でエレベーター前まで来た。
「金はあるか?」と聞かれ。
『大丈夫、バイトだから』と言うと。
「あんまり無茶すんなよ」とエレベーターに乗って、右手を上げた。
『ありがとうございました』と閉まるまで頭を下げた。
しかし演出家はそのシナリオを書いていた、演者には秘密にして書き上げていた。
豊兄さんは、愛妻のお土産に【天津甘栗】を買っていた、夜空を見上げ。
「あと3つ、追加してもらえませんか」と言った。
「いいですけど、少し時間がかかりますよ」と言われた。
「かまいません」と笑顔で返事をしていた。
その時にPGの電話が鳴った、それが開演の合図だった。
行き場も、生きる希望も、無くした男が鳴らす・・・開演の響きだった。