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      【冬物語・・リンダの試験⑯】 

贈るという行為に想いを乗せる、手作り以外では難しい。

それが愛情ならば、伝えるのは至極の技である。


リアンの心のプレゼントを、私は手にとって笑顔で見ていた。

蘭が満開で微笑んで、横から見ていた。


「初めてね・・リアンがお客さんに頼るのは」とユリカが微笑んだ。

「そうだよ・・私もそうしたいと思えるようになったよ」とリアンが笑顔で返した。

「リアン姉さん・・聞きますよ・・良いですね?」と蘭が座り直し真顔で言った。


「良いよ・・その問いかけは、蘭しか出来ないだろうから」とリアンも真顔で返した。

「ユリカ姉さんの、女帝指名・・リアン姉さんは、どう思い・・どう考えてるんですか?」と蘭は強く言葉にした。


「それを聞くと言う事は・・将来、1度はプロになるんだろうね・・蘭。

 東京PGの責任者を引き受ける、覚悟の表れと取って良いんだろうね?

 最高の副職の次段階に挑む、だから聞きたいんだね」


リアンは炎を上げながら、大切な妹の青い炎を見ていた。

「覚悟は出来てます・・東京PGが、私の最後の夜の舞台です」と蘭が真剣に返した。

リアンは笑顔になって、ユリカも嬉しそうだった、シオンが座り直した。


「ユリカの女帝指名・・私はそのユリカの心を、自分で解釈してる。

 その内容は当然言えない・・でも、私の想いは話そう。

 私はユリカに出会ってから、ずっと思っていた事があるんだ。

 ユリ姉さんとユリカ・・この2人は、もっと広い世界に出すべきなんだと。

 ユリ姉さんの覚悟は知っていたから、それは無い事だと感じていた。

 ユリ姉さんはこの世界の発展の為に、その力を全て使ってくれる。

 それがどんなに幸せな事かは、説明しないでも全員分かるよね。

 それを感じて・・私は思ったんだ、贅沢過ぎないかと思った。

 ユリカまで存在するのは、あまりにも贅沢じゃないのかと。

 

 それはどこかの世界に対して、申し訳ない事をしてるんじゃないかってね。

 そんな感じで過ごしてたんだよ、そしてユリカが巡り会った。

 エースに出会って、ユリカが急激に変化してきた・・それは原点に帰るように。

 自分の後悔をしている幼き日に、一度帰って行くような感じを私は受けた。

 そしてユリカは新たな面を見せて戻って来た、そして留まろうともしない。

 ユリカは留まらない・・次の世界を見続けるようになった。

 その変化が嬉しくて・・私はエースとユリカの関係を見ていた。

 

 そして感じていた、一度はユリカと離れる事になると、確信的に感じた。

 ユリカが次の世界を望む限り、来て欲しいと切望する場所が現れるだろう。

 それを感じてる・・絶対にエースも感じてる、なのに止めようとしない。

 エースのユリカに対する深い愛情は、夜街の全員が知っているほどに深い。

 エースにとって、ユリカがどれほど大切な存在なのか、私には想像も出来ない。

 なのにエースはユリカを煽り続ける、それが自分の愛情だと叫ぶように。

 結果的にその行為が、ユリカとの別れになるこ事など恐れない。

 命と向き合う男は、その命が求める場所を大切にするんだろう。

 その事により・・自分がどんな喪失感に襲われようが、淋しさを抱えようが。

 それを自分で背負う、その覚悟があるんだね。

 

 私はシオンの見送りの、添い寝の約束で感じたよ・・別れを恐れるな。

 そう強く言ってるんだとね・・死の別れじゃないのなら、失った訳じゃない。

 そしてエースの世界なら・・死でも失った事にならない。

 エースは段階を確実に踏んでいる、蘭との関係でも・・ユリカとの関係でも。

 蘭との関係は公言してるように、今は添い寝で止まっている。

 深い関係、世間でそう言われてる事を・・それは重要じゃないと笑い飛ばす。

 その関係に入るまでの深さが重要だと言っている・・蘭はいつでも許すだろう。

 その時を待っているだろう、エースに抱かれる時を楽しみにしてるだろう。

 その段階までの道程を、楽しんでいるんだろうね・・蘭も重要視しないから。

 

 そしてエースのユリカとの関係は、全く違うよね。

 エースはユリカに出会って、自分を曝け出す事から始めたよね。

 ヒトミの事だって、マチルダが来るまで話さなかった・・エースは時を待っている。

 その時が来る、それが重要だと知っている・・そして繋いで見せている。

 ユリカにとって、今の状況・・ミホと沙紀と理沙と由美子の存在。

 それがどんなに大切なのかも感じる、ユリカの求め続けた生き方だと思う。

 ユリカはずっと模索してきた、自分の力の使い道・・それを模索してきた。

 そのユリカの想いに対して、エースは強い提示を出したんだよね。

 私はあの言葉で確信したよ、エースは絶対にユリカに対して言ったんだ。

 

 マリはその力を、唯一生命の為に使う・・悪質なシナリオと戦う為だけに使う。

 

 この言葉を聞いて、ユリカがどんなに嬉しかったのか・・私には分かるよ。

 ユリカはこの言葉で覚醒した、自分でも出来る事があると・・その力の意味を。

 それでもエースは押し続ける、まだまだ登れと煽り続ける。

 エースは見たいんだよね・・本心で見たいんだ、本当のユリカの姿が。

 ユリカの目指す世界が、そしてユリカの生き方が・・ユリカ・ドリームが。

 たとえ別れる事になっても、それがユリカの望みなら・・叶えたいんだ。

 私はそれは感じていた・・そのエースの経験、命を見送った経験を感じて。

 私にはずっと響いている、美由紀のあの言葉・・ヒトミの言葉が。

 

 明日が来ると思ってるのは、贅沢な事なんだ・・私は今日、今しか考えない。

 

 そしてシズカの強い言葉、自分の生き方を示した言葉。

 

 私は何も出来ない・・だからと言って、何もしない訳じゃない。

 

 全ての女性に響いたよね、ユリ姉さんにも大ママにも・・強く響いてるよね。

 ユリカには響き続けてるよ・・それがユリカの求めていた世界だから。

 私は親友として、ユリカの想いは全て受け取る・・私も何もしない訳じゃない。

 私には出来る事がある・・私にしか出来ない事もある、それが私の望み。

 ユリカのバトンは必ず繋ぐ、ユリカが何の心残りも無く、次の世界に踏み出せるように。

 私は別れなど恐れない・・由美子を愛する私は、そんな事を絶対に恐れない。

 

 ユリカは準備に入ったんだ・・今はまだ、どんな世界に飛び出すのか分からない。

 私は全力でその準備を応援する、エースと共に・・自分の出来る事を全力で。

 今、ここに来る時に聞いた・・モモカのユリカへの問いかけ。

 それこそが、ユリカの本質を問うた言葉だった、なぜ花は咲かないのか。

 それに対するユリカの答えは想像がつく、温度でも時間でもないって言ったと思う。

 そのモモカの問いかけの各自の答えこそが、繋げる手段なんだ。

 沙紀の絶望の世界を経由して、由美子の次の段階に備える。

 

 私はずっとそれを考え探していた、多分・・ユリ姉さんもユリカも蘭も。

 エースがずっと心に抱えてる、その困難さを感じたから・・エースが言葉にしないから。

 由美子の心を左手に誘う、その本当の意味を・・私は探してる。

 エースは段階を踏んで行く、沙紀が必要だと感じてる・・それが沙紀の望みでもある。

 沙紀は女性全員に伝えているよね、自分の心も表現してる。

 私は自分のあの絵を見た時、本当に嬉しかった・・沙紀が感じた、炎の意味に触れて。

 沙紀は由美子の段階の時の前にも、女性達にメッセージを送ってたよね。

 今でも送り続けてくれる・・私はあの絵・・名作であろう、父の卒業証書。

 あれで少し分かってきた事もある、沙紀の心のメッセージを。

 エースは今回の沙紀の絶望の世界に入る時、見せてくれると言った。

 私は待ち遠しくて、楽しみで・・その絵を見たくて・・伝説のメモの絵画を。

 

 メモの絵画から始まったんだよね、それは最強のミホが繋いでくれたんだよね。

 悪質なシナリオの存在を教えてくれた、由美子に対するシナリオを。

 その場所にいたんだよね、沙紀という才能が・・その世界を描ける者が。

 リンダの言うように、一人では何も出来ないだろう、・・だから集まってきた。

 同じ想いで生きる、戦友と呼べる女性達が集結してきた。

 全員が叫んでるよね・・傍観などしない、何もしない訳じゃないってね。

 私は本当に嬉しいんだ・・ユリカに女帝指名された事が。

 素晴らしい女性達が集結してる、最高の時代に・・指名された事が。

 自分がそれに挑める事が・・親友のユリカが、出来ると思ってくれる事がね」


リアンの無変換の言葉が響いて、ユリカの喜びの笑顔が咲いた。

蘭とシオンはその迫力に押されていた、私はリアンの極炎の瞳を見ていた。


「ありがとう、リアン・・私にもまだ分からないのよ、心の準備だけしていたいの」とユリカが笑顔で返した。


ユリカはこの段階でも、私の事を想ってくれていた。

親友のリアンに対しても、自分の覚悟を隠していた。


「分かってるよ、ユリカ・・私もそうだよ」とリアンが極炎ニカで返した。

「ありがとう、リアン姉さん・・私は幸せです、最高の2人の姉に出会えたから」と蘭が静かに言って、頭を下げた。

「私もそうです、ありがとうございます」とシオンが言って頭を下げた。


「もう・・湿っぽくなるだろ、まぁ飲もうよ」とリアンが笑顔で言った。

全員が笑顔になって、2度目の乾杯をした。


「なぁエース・・何でも良いから、モモカ話しをしてくれよ」とリアンが微笑んだ。

3人が笑顔で私を見た、私も笑顔で返して考えた。


「モモカは風の中にいる・・この言葉の真意を教えて」と蘭が満開で微笑んだ、私も笑顔で頷いた。


『俺がモモカを発見して、モモカは施設の子供になった。

 モモカは可愛い乳児だったから、養子の話が何度もあったらしい。

 乳児には割りと話しがあるんだよ、記憶が残らないからね。

 2~3才が養子のターニングポイントなんだ・・今は日本も豊になってきて。

 裕福な人間も増えたんだろうね、養子縁組の話も増えたって聞いた事がある。

 だから施設の管理側も、乳児は他の子供と距離を置かせるんだ。

 別れの辛さを出来るだけ経験させない為にね、辛い別れを経験した子供達だから。

 乳児と触れ合って、その存在を愛してしまうと・・辛い経験をさせるから。

 だからお世話係り以外の子供は、乳児とあまり触れ合えない。

 お世話係りに選ばれる子は、それだけの覚悟が出来る子なんだよ。

 

 あの施設で、ここ4年間は・・ずっとヨーコの担当だった、ヨーコの凄さだよね。

 もちろんヨーコより年上の女子もいたけど、全員がヨーコを指名したんだ。

 ヨーコは別れの覚悟をしながらも、愛情を注ぐ事が出来るからね。

 ヨーコはモモカに出会う少し前に、一人の乳児を見送っていた。

 養子縁組が結ばれて、優しそうな新しい両親が迎えに来た。

 ヨーコは必死に笑顔で見送って、一人で桜の木の下で泣くんだよ。

 それを全員が知っていたから、その時は誰も外に出なかった。

 ヨーコは大切に育てた乳児の、幸せを祈りながら泣くんだろう。

 ヨーコにとって、あの桜の木の下は・・俺の夜の海と同じ意味を持つ。

 

 施設の子供は絶対に知る事が出来ない、乳児の新しい生活の場所を。

 それは乳児がその家の子供になるため、記憶に無い事実を抹消する。

 施設の経験を知る事がないように、施設の子供にも絶対に行く先は教えない。

 永遠の別れなんだよ・・乳児は変化が早いから、顔を見ても分からない。

 3ヶ月もすれば、顔では判断できなくなるからね・・それがルールなんだよ。

 送り出す者は、その事実を抱えながら・・乳児を愛している。

 

 モモカは不思議な子供だった、普段は滅多に泣かないのに。

 養子縁組の話で誰かが訪ねて来ると、ずっと泣いていた、まるで拒絶するように。

 自分で自分のシナリオを書いてるようだったと、今の俺はそう思ってる。

 

 もちろん、養子になった方が・・その子の将来の選択肢は増える。

 将来を考えたら、その方が良いと言うのも分かる・・ヨーコだってそうだった。 

 成績は優秀なのに、奨学金も出たのに・・自らの意志で、高校に行かなかった。

 その想いは・・自立したいという、強い想いだったと思う。

 早くその状態を築きたい、いつでも弟や妹を助けられる人間になりたい。

 その為にお金を稼ぎたい・・高校に行ってる暇は無い、そう思ったんだろう。

 律子がその想いを理解して、清次郎と勝也を説得した・・ヨーコの想いを尊重した。

 清次郎も勝也も、ヨーコに進学を強く勧めた・・マキにはすぐに就職を認めたのに。

 

 その想いは分かる・・マキならどんな状況でも、自分で切り開く。

 それに勝也と律子との関係も絶対的で絆が強い、でもヨーコは施設の子だったから。

 施設との繋がりが強くて、勝也は自信が無かったんだと思う。

 勝也にとっては、ジスカとマキとヨーコは同じだから・・三つ子みたいなもんだと思う。

 でも男・・父親だから自信が無かった、ヨーコの自立に対して不安を感じた。

 それにヨーコは成績優秀で、学問に対する能力にも魅力が有った。

 

 マキと恭子の選択は、自分に従ったと感じる・・しかしヨーコの選択はどうだ?

 

 清次郎が今年の1月に、駄菓子屋に俺に会いに来て、そう言ったんだ。

 小6の俺に向かって真剣だったよ、俺は清次郎の瞳を見ていた。

 その言葉に返した・・モモカが清次郎にルンルン笑顔で問いかけたんだ。

 

 「1の次は2なの?・・2の次は3なの?・・どうしてなの?」


 強かったよ、3歳のモモカの言葉が・・春を感じさせて、甘い香りを連れて来た。

 清次郎は凍結して、モモカの前に屈んで・・モモカの目を見ていた。

 

 「それは・・誰かが決めた事だから・・そうしないといけない事じゃないよ」

 

 清次郎はモモカに笑顔でそう言った、その言葉でモモカが清次郎に飛び込んだ。

 清次郎は嬉しそうにモモカを抱き上げて、俺を見たんだ・・本当に嬉しそうだった。

 モモカだよ清次郎・・その子がモモカだよ、ヨーコの想いを受け継いだ。

 俺はそう紹介した、清次郎はそれでハッとして気付いた・・ヨーコの本心を。

 前年の秋、ヨーコが卒業後を決める最後の3者面談で言った、ヨーコ言葉の真意を。

 律子がシズカに話すのを、俺も聞いていた・・ヨーコ強い生き方を感じた。

 ヨーコは施設の担当者と、律子と清次郎を前にこう言った。

 

 私は自分の心に従う道を選びたい、高校に行けば・・あと3年は施設で暮らせる。

 でも、それを拒絶してでも自立したい、その気持ちを抑えられない。

 モモカとの3年を捨ててでも、自分の道を歩みたい・・それをモモカは分かってくれた。

 私は自分に偽り無く言えます・・私の望みは自立の道だと、堂々と言えます。

 今までの全てに感謝して・・その選択で見せたい、私の選択で伝えたい。

 大切な弟と妹に伝えたい・・私は自立の道を選びます、その気持ちは変わりません。

 誰に反対されようとも、変わる事は無い・・私は賛成されたから。

 私の心で最も大切な、モモカが賛成してくれた・・春風の囁きで、伝えてくれた。

 モモカは風の中にいる・・私はその風に嘘はつけない、偽る事は出来ない。

 私は自分を信じています・・だから許可願いたい、我侭な私の選択の許可を。

 

 ヨーコは堂々とそう言ったらしい、律子はそれでヨーコを支持した。

 勝也と清次郎は、それでも進学を望んでいた・・それも愛情だった。

 清次郎はモモカの問いかけを感じて、勝也を説得した。

 勝也はヨーコに条件を出して、ヨーコのアパートを自分が保証人になり契約した。

 最初の1年分の家賃は、勝也が支払う・・この条件をヨーコに飲ませた。

 そうする事で、ヨーコの今を感じたかったんだろう。

 勝也は愛情表現が下手だから、そんな無骨な愛情表現になった。

 俺がヨーコを夜街に入れた時に、初めて勝也に本気で依頼された。

 男同士の約束として言われて、俺は本当に嬉しかった・・マキとヨーコを頼むと言われて。

 

 モモカは風の中にいる、そう表現したのは・・ヨーコなんだ。

 モモカの事を誰よりも知る、ヨーコの表現で見送ったんだ・・ヨーコ挑戦の背中を。

 その時・・ヨーコの背中が見えなくなって、モモカは桜の花を見ながら言った。

 

 「どこに帰るの・・お花はどこに飛んで行くの・・それは帰るなの?」

 

 俺は何も言わずに、モモカの横顔を見ていた。

 モモカは問いかけた、ヨーコの心に・・風に乗せ伝えたんだろう。

 モモカは風の中にいる、そう表現した母であり姉である・・大切なヨーコに。

 問いかけたのだろう・・ヨーコはどこに行くのかと、そしてどこに帰るのかと。

 ヨーコは選択で伝えると言った、俺はその言葉を信じて、魅宴を紹介した。

 俺は本気で狙わせる・・マキとヨーコに、夜のトップを。

 その先が見たい・・どこに向かい、どこに帰るのかが。

 それが俺のモモカに対する、あの時の解答だから・・それを見せたい。

 

 モモカは今でも、風の中にいる・・だからいつでも会いに来てくれる。

 そして問いかけてくれる・・どうして桜の木の下で出会ったのかと。

 俺は由美子との関係で、どこに行き・・どこに帰るのかと。

 春風に乗せて、モモカが問いかけてくれる・・偽る事は許されない。

 俺は由美子に対して、何一つ偽れない・・モモカが見てるから。

 俺がモモカを発見した意味を・・俺は感じているから、再挑戦の招待状だと』


私は感情的になっていた、全員が私を見ていた。

「再挑戦の招待状・・それをモモカが持っていたの?」とユリカが深海の瞳で聞いた。


『俺がモモカに出会ったのは・・ヒトミと出会った、1年後の同じ日だった。

 モモカの誕生日はその年の3月3日だった、ひな祭り・・桃の節句。

 俺の命名理由には、その誕生日も起因してる・・そして俺には大切な日だった。

 ヒトミはその年の1月15日に旅立った、俺はヒトミを左手に誘う時に条件を出した。

 この事は美由紀しか知らない、ヨーコも知らないから・・黙ってて欲しい。

 俺は意思を示す半月と言ったヒトミに、ひなまつり・・3月3日までは頑張れ。

 そう言ったんだ・・ヒトミは全力で頑張ると約束してくれた。

 

 ヒトミは全力で頑張ったよ、そして全てを使い果たして、成人の日に旅立った。

 ごめんねと俺に残して・・3月3日の約束を守れなかったねという言葉を残して。

 俺を一人だけ残して・・ヒトミは旅立った・・俺は悔やんだんだ。

 3月3日なんて約束をするんじゃなかったって、ヒトミを苦しめるだけだった。

 そう感じて後悔してた・・ミホを遠ざけられて、挫折を味わってた時期だった。

 新聞を配る前に、新聞の日付を見て・・ヒトミと出会った日だと思っていた。

 そしてモモカに出会って、モモカの誕生日を知った・・嬉しくて嬉しくて。

 俺はモモカに執着してしまった・・モモカは俺の想いを全て受け止めてくれた。

 そして何度も何度も、俺の心に伝えてくれた。

 俺の全てを感じながら、問いかけで返してくれた・・春風の囁きで。

 

 でも俺にはこの言葉、この問いかけがモモカの全て・・俺とモモカの絆。

 どこに行くの?・・それは帰るなの?・・この言葉だけが、全てなんだ。

 俺は夜の海で、夜空に問いかけた・・ヒトミに通夜に問いかけた言葉と同じだった。

 俺はヒトミに問いかけた・・チサの思い出を背負って、問いかけたんだよ。

 

 死ぬって、どこかに行くことなの?・・それとも帰る事なの?

 

 その問いかけに、モモカが問いかけ返しをしてくれた。

 あの大切な桜に向かって、問いかけたんだ・・俺はそう感じたよ。

 そしてこの言葉の後に、モモカが俺を見て言ったんだ。

 

 「はなれてるとわすれるの?・・ヨコもそうなの?・・ヒトミもそうなの?

  ミホもそうなの?・・それはあきらめたの?」

 

 俺はこの言葉で確信した、モモカは俺を訪ねて来てくれたんだと。

 再挑戦の招待状を持って来たんだと・・諦めそうな俺の心に。

 美由紀の表現には、この事が色濃く反映されている。

 だから命の源と表現した、境界線の内側に存在すると言ったんだろう。

 俺はモモカに問われた事を、マリアに答えないといけない。

 由美子に対する俺の生き方で・・それを伝えないといけない。

 俺は自分の恐怖を乗り越えてみせる、事実でなく真実を知る為に』


感情的な自分を隠す事無く、私は抱えていた想いを言葉にした。


「ありがとう、エース・・今はそこまでで良いよ、まずは沙紀の世界なんだから」とユリカが静かに言った。

「うん・・そうだね、段階を踏んで行こうね」と蘭が満開で微笑んだ。

「モモカが必ず来るんだろ・・お前が諦めそうになったら、必ず来るんだよな」とリアンが極炎ニカで言った。

「春風に乗って、必ず来ます・・モモカは風の中にいるんですから」とシオンがニコちゃんで私を見た。


私は4人の美しい笑顔を見ながら、笑顔に戻されていた。

シオンが私の横に来て、手を握って座った。


「私もお話します・・私とモモカちゃんの出会いを。

 私はエースの引越しで、エースと荷物を取りに行きました。

 エースが荷物を車に積む間、駄菓子屋で遊んで良いよと言ったので。

 私は嬉しくて駄菓子屋に行きました、駄菓子屋の中庭に子供達が沢山いました。

 私は以前に会った子もいたので、その輪の中に入りました。

 その中心に哲夫君がいて、その横に土に絵を描いてる小さな少女がいました。

 私はその少女が何を描いてるのか見たくて、上から覗きました。

 その子は飛行機を描いていました、4歳のモモカちゃんでした。

 

 お絵描き上手だねって私が言うと、私の側に来て手を伸ばした。

 私は嬉しくてニコちゃんで抱き上げて、シオンだと自己紹介しました。

 その時に言われました、本当に可愛い声で・・春風の囁きで。

 でも私はその時には何も感じなかった、シオン・・まだまだな時期だったから。

 モモカの甘い香りも、駄菓子屋だからお菓子の香りと思っていた。

 でも大切な言葉でした・・だからシオンも覚えています、無意識に大切にしてた。

 シオンの大切な言葉を入れる場所に、自然に入っていました。

 

 しおん・・しおんのお部屋は広いの?・・広いってどのくらいなの?

 どのくらいから、広いって言うの?・・モモカのお部屋は小さいの?

 

 私は何も分からずに、モモカは小さくないよって答えました。

 モモカは可愛い笑顔で抱かれていて、シオンはそれだけで嬉しかった。

 今なら分かります・・シオン、マキに出会って感じたから。

 沢山の人と仲良くなりたいと思ったから、シオンは新しい部屋を作りました。

 色んな人とお話出来るように、大きな部屋を作りました。

 それがシオンの考えた、人間関係の作り方です・・シオンが苦手だと逃げていた。

 そのシオンにヒントを出してくれていた、モモカちゃんが問いかけで。

 シオンは本当に良かった、PGに入って良かったと思いました。

 そうでなければ、モモカの問いかけに気づく事は無かったから。

 今なら気付けるから・・モモカの問いかけも、由美子と沙紀の想いも。

 シオンは伝えてみせます・・沙紀と由美子にシオンの想いを。

 そして・・いつの日か・・ミホに伝えてみせます・・ミホの笑顔に」


シオンはニコちゃんで言った、私の手からシオンの強い想いが入ってきた。


『OK・・シオン、沙紀の世界を任せるよ・・俺はシオンに賭けるよ』と笑顔で言って。


『イメージの最終チェックをするよ・・お先に』と4人に笑顔で言って、ベッドルームに向かった。

私は嬉しかった、シオンの言葉が嬉しくて一人になりたかったのだ。


4人の笑顔に見送られて、ベッドルームの扉を閉めた。


私はベッドに座り、大淀川の緩やかな流れを見ていた。


《サンキュー・リンダ・・俺は絶対に見に行くよ・・リンダの理想を》と心に囁いた。


盛り上がる女性達の声の方から、優しい波動が来た。


透明の螺旋が待っていた、その想いを知りたいと・・天空に伸びていた。


その幕開けは静寂を連れて狂気を演出する、恐怖の根源に迫ってくる。


5感が使えない場所では、信じるしかない・・自分を信じる事しか出来ない・・。





 

 

 

 

 


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