好敵
争うのではない、競うのだ、同じものを目指すなら競い合う。
結果は自らが下す、そこには勝敗というものは、無意味だと書いてある。
競い合った時間が、宝なのだと。
PGの入るビルを、ケイと2人で眺めていた、幼い兄弟のように手を繋いで。
雑居ビルの密林を、冒険者や狩人が徘徊している。
その中に紛れて、あの目が見ているような気がしていた。
PGに戻ると、やはりどこか違う緊張感に包まれていた。
しかしそれを振り払うように、ドレスの女優達は笑顔を振り撒いていた。
11時を過ぎた頃マダムが来た。
「予約は済んだか」とケイに聞いた。
「入店は終わってます」といつもの様に、即答した。
「じゃあ、今日はもう入れんかい、回転させろ」と指示を出した。
「分かりました」とケイが頷くと、マダムはTVルームに帰った。
「リン姉さん回転行きますね」とケイが言うと。
「了解、全組もう良いと思うよ」とリンさんが微笑んだ。
「チャッピー、そこからユリさんと、蘭姉さんかアイ姉さん見える?」と聞いた。
「全員見えるよ」と答えた。
「ユリさんに、こうやってサイン出して」と右手の手のひらを回す動作をした、私がユリさんにすると、微かに頷いた。
『ユリさん頷いたよ』とケイに言うと。
「ありがとう、そこにいてね」と微笑んだ。
『ケイ姉から離れないよ』と笑顔で言うと。
「じゃあ、お泊りに来るんだよね」とフロアーを見ながら笑った。
『優しく教えてね』と笑顔で返すと。
「私も知りません」・「あっ!」と言って俯いて照れた。
『聞こえなかったことでいいです』と笑顔で言うと。
「よかった~」と笑顔で言うので。
『聞こえなかった券は、あと2枚です』と笑うと。
「もう、話さない」と可愛く微笑んだ。
『そう言わないで、カイテンって何?』と聞いた。
「めったに無いけど、お店がお客様を出したいときに、気持ちよく出させる事よ」と笑った。
「これが、最高に難しいのよ」とフロアーを見ている。
「今夜は、蘭姉さんとアイ姉さんとサクラ姉さん、3人揃ってるからいいけど」と言いながら、目はフロアーに集中している。
「これは、プロじゃないと難しいの、四季でさえ回転やると、疲れるって言うぐらい」と言って私を見て。
「本当のレベルが試されるって、ユリさんが言ってた」と可愛く微笑んだ。
「ケイ」とカスミが来て呼んだ。
「なんですか?」とケイが言うと。
「教えて、今はどういう状態?」と真剣な眼差しで聞いた。
「回転と言って、お客を早めに返すための非常手段です」とケイも真剣に。
「ようするに、楽しませながら時間を意識させて、話しが盛り上がってところで、サイン出してチェンジします」と言った。
「わかった、やっぱり頼りになるね、早く来いよ」とカスミが微笑んだ。
「できるだけ、早く行きます、カスミ姉さんの一人舞台になる前に」とケイが微笑んだ。
私はその台詞に驚いていた、ケイの言葉とは思えなかったから。
「うん、その意気だよ」とカスミは本当に嬉しそうに笑って。
「中々のもんかもな」と私を見て戦線復帰した。
「なんで、何も言わないの?」とケイはフロアーを見ながら私に言った。
『ライバルって必要でしょ?』と聞くと。
「今のこの空気だけで、あんな目であれだけの反応を、カスミ姉さんにされたら、私だって燃えるよ」と微かに微笑み。
「だって競えるとしたら、最高の相手だもん」と言った、ケイの横顔は美しく、輝きを増していた。
「来るよ、蘭姉さん。こういう時は一番頼りになるの」とケイが言い、「えっ!」と言った。
『どうしたの?』私はケイに聞いた。
「チェンジのサイン、カスミ姉さんに直接出した」と驚いていた。
「私を見ながら、カスミ姉さんに直接出したの」と言ったケイは目は、静かに深く澄んで来た。
「蘭姉さんも早く来いって、今私にサイン出したんだ」と呟いた。
『蘭姉さんらしい、招待状だね』と私が言うと。
「うん、嬉しい。がんばるよ~」と言ってフロアーを見ていた、ケイの忘れられない横顔だった。
あの時多分ケイは踏み出したのだろう、巣から一歩を。
ケイの格闘を横目に、まずアルバイトの女性が銀の扉に消えた。
「あと、何組?」と後ろから声がした、私はあまりに意外で振向いた。
そこにユリさんが立って微笑んでいた。
「2組です」ケイは前を見たまま答えた。
「さあ、腕の見せどころがくるわ」と私の横に並んで、フロアーを見てた。
「ユリさん、私18にならないと駄目ですか?」とケイが聞いた。
「そんなこと、誰が言ったのかしら?」とユリさんが聞き返した。
「マダムも私も良いことばかりする人間じゃないわ」と言って私に微笑んだ、私は照れて笑った。
「がんばります」とケイがフロアーを見ながら、強く言った。
「カスミちゃんの魔法、私にもお願いしようかしら」とユリさんが私を見た。
『なにもしてませんよ』と返した。
「いいえ、あなたはエミちゃんにも魔法をかけたわ」と薔薇で微笑んだ。
『それは、私がかけられてた魔法を、そのままかけただけです』と笑顔で返した。
「蘭がくるわね?」とユリさんがケイに聞いた。
「はい、多分・・あそこを笑顔で締めます」とケイが前を見て言った。
『ユリさんはなぜ、ここに居るのでしょう?』と私は素朴な質問をした。
「やりにくいでしょ、私がいたら」と薔薇で微笑んだ。
「それに、こんな経験中々できないのよ」と微笑み「四季はよくやってるわ」と呟いた。
「本当ですね」とケイも呟いた。
「でも、カスミ姉さんがやっぱり凄い」とケイは微笑んだ。
その横顔を見ているユリさんは嬉そうだった。
「本当は蘭も下げるといいんだけど、まだ荷が重いでしょうね」とユリさんも真剣な眼差しで、フロアーを見ている。
『やっぱり、凄いんだ~』と私は呟いた。
「当然よ、私が産休の時、ずっとNo1で店を引っ張ったのよ」と私に微笑んだ。
『そうなんだ~』私は最後の客を相手する蘭を見ていた。
「今のように毎日、昼と夜働いてたわ」とユリさんも蘭を見ていた。
「蘭は私のヘルプって、皆誤解してるけど、PGのヘルプをしたと、マダムも私も思っているわ」と私を見て。
「辛いことを、乗り越えてる時期だったのに」と微笑んだ。
蘭は最後のお客と談笑している、カスミと2人で・・その瞳を見ていた。
どんなことにも揺るがない、自分を信じる強さを秘めて。
青く燃えていた、全てを溶かすように・・・そして包み込むように。