未来
その輝きの光源に何があるのか、光を追っても無駄なのだろう。
その光は拒絶を示している、外側でなく内側を見ろと。
そうしないと手に入らないと、主張し続ける・・意思を持ち妖しく光る、その内側を。
戦闘前の静寂のフロアーを、ケイと並んで見ていた。
銀の扉を開き女性達が入場し、フロアーの中心に円を作り出した。
私は横を通る赤い影を感じて、背筋に何かが走った。
その背中が腰まで開いた真っ赤なドレスに。
そのモンローウォーク気味の歩き方で、カスミと分かった。
それが体の真実の線だと分かるほどの、タイトな真っ赤なドレス纏い。
前を向いた時に、その胸の開きに暫し見惚れた。
谷間を主張するように、編みタイツの艶かしい足で綺麗に立ち。
アップにした髪が気品さえ演出し、その小さな顔の中心で、目だけが妖しく光ってた。
「カスミ姉さん凄い、それに似合ってる」とケイが呟いた。
『まさに、最終兵器だ』私も感じたままを口にした。
「今夜も、開演しましょう」ユリさんの言葉に「はい!」と全員が声を合わせた。
これが宴の始まりの合図である。
準備が終わると、美冬さんがきて。
「どんな魔法を使ったのかな?」と美冬さんが言った。
『何のことでしょう?』私は想定はしていたが、とぼけた。
「カスミに決まってるでしょ」千秋さんも来ていた。
『怖いですよね、今日のカスミ姉さん』と私は感想を言った。
「だから、どんな魔法で吹っ切らせたの?」と美冬さんが微笑んだ。
『サリーちゃんのパパじゃないんですから、魔法なんて』と笑顔で答えた。
「カスミが言ったんだよ、ドレス着ながら、魔法をかけて貰ったって」と千秋さんも笑ってる。
『ああ、びしっと言ってやりました、お前の力はそんなもんかって』2人を見て。
『負けず嫌いですから、カスミ姉さん』と笑顔で言うと。
「誰がびしっと言ったって」とカスミが来て言った。
『駄目だろう、そんな言葉遣いは』と動揺を隠し、カスミを睨み『影だよ影』と笑顔で言うと。
「がんばります、先生」とウィンクして戻った。
「先生か~、もしかして伝説を残す男なのかもね」美冬が言い、笑いながら2人も戦場に戻った。
「魔法をかけたんだ~」ケイがニヤニヤしながら見ている。
『何もしてませんよ』と笑顔で返した。
幻想の宴はその夜も静かに始まった。
その日も、客の出足は好調で、9時には満席になっていた。
「4番、泥酔気味、チェックよろしく」とサクラさんが来た。
『了解です、旦那さんよかったですね』と言うと。
「ありがとう、責任とってね」微笑んだ。
『なんでしょう?』と驚いて聞くと。
「エミは、あなたが初恋の人になるみたいよ」と笑った。
『それは光栄です、大切にします』と笑顔で返した。
「よろしく」と笑顔のまま戻って行った。
「もてる男は大変ね」とケイが来て笑った。
『ケイ姉さん盗聴器とか、この辺につけてます?』と言うと。
「耳は良いのよ、昔から」と微笑んだ。
『耳、も、でしょ』と笑顔で返すと。
「あら、間違えた。も、だった」と可愛く微笑んだ。
「6番の若者、胸ばかり見る」その声に、私は振向かずに。
『それは仕方ないですね、正直なんだその人』と背中を向けて言った。
「正直なの?」と言ったので振向くと、私は固まった。
カスミがわざと、胸の谷間が見えるように屈んでいたからだ。
『中坊には目の毒なんですけど』と必死で照れる振りをした。
「今日のお礼」と微笑んだ、美しかった。
『次はいつ行きます、待ち遠しいな~お礼が』と笑顔で返した。
「あんたが1番正直者だよ」と笑顔で戻った。
数分後。
「9番のおじさん、胸ばかり見る」どこで聞いてたのか、こいつも地獄耳だな~と思い。
『それはいい人なんだよ、可愛そうにって、思ってくれてるんだから』とやはり背中を見せて言った。
「良い人なの?」私が振向くと蘭が屈んでいた、私はわざと固まった振りを大袈裟にした。
「よし!」そう言って戦場に戻った。
この後、この会話の応用編(美脚編・お尻編・太股編・唇編)と、4回四季にやらされたのである。
しかし楽しい時間はそこまでだった、カズ君が駆け込んで来る時までだった。
カズ君は血相変えて飛びこんで来た。
「徳野さんは?」とケイに聞いた時。
「どうした?」と徳野さんが出てきていた。
「来ました、雨合羽の男が」そう息を整えながら言った、私は楽しい気分は消えていた。
あの目を思いだしていた。
カズ君は、裏階段の立ち番だった、その男は堂々と入ろうとしたらしい。
カズ君は男を制して、揉み合いになった。
もちろん、カズ君は手が出せないので、押し返すだけだった。
「どかんか!」と男は激しく抵抗したらしい。
そこにキャバレーの呼び込みのジュン君が来て、2対1になって男は逃げた。
しかし最悪の捨て台詞を残していた。
「お前の所の女から狙うからな!」そうカズ君に向かって叫んだのだ、徳野さんは厳しい顔を上げて。
「とりあえず、持場に戻れ」とカズ君に指示し、マダムのいるTVルームに向かった。
ケイの背中が微かに震えていた。
それから30分位後にマダムと徳野さんが来た。
「リン、今夜終わってから緊急ミーティング、連絡してくり」とマダムが指示した。
「わかりました」リンさんが答えたが、緊張してるようだった。
「ケイちょっと」と徳野さんがケイを呼んで、私の所に来た。
「ケイは絶対に一人で行動するな」とケイに言って、私を見た。
「ケイを頼む、絶対に離れるな」そう真剣に言って。
「ケイだけはどうしても、外に出らんといかん時があるからな」迫力のある静かな言葉だった。
「どうしようもない時は、躊躇せずやってしまってかまわん、責任は俺が取る」そう言った。
『わかりました、必ずケイからはなれません』私も真剣にそう言った。
幻想の宴を演じる、沢山の女性を見た、守りきれるのだろうかと思っていた。
その日も順調に宴は進行していた、しかしボーイの緊張が伝わり。
女性達も普段と、どこか違った。
「お祭りの参加申込書、持って行こう」とケイが言って、二人で裏階段を下りた。
ケイは階段での話しが怖かったのか、ゆっくりと探るように下りていた。
私はケイに並び、ケイの右手をとって繋いだ。
『離れるなって言われたから、役得・役得』と笑って見せた、ケイも笑顔になった。
階段の下にカズ君がいて、手を繋いでるのを見て。
「ケイにまで手を出すのか!」と笑った。
多分緊張してるケイを、元気付けようと思ったのだろう。
『徳野さんには内緒ですよ、殺されるから』と私が言うと。
「知ってる」とカズ君が笑った。
「1年後は絶対に、そんなことケイにできんから、今だけ楽しんどけ」とカズ君が笑った。
『1年後は刺されますね』と私が返すと。
「数百人のファンに囲まれて、ボコボコやぞ」とカズ君が笑顔で言った。
『それは怖い』と私も笑顔で返した。
ケイは笑っていたが、緊張はとけていないようだった。
2人で、橘通り沿いの雑居ビルにある、自治会事務所に書類を提出した。
「怖くないの?」とケイが急に聞いた。
『俺は』そこまで言ったとき。
「良いことばかりする中学生じゃないんでしょ」と微笑んだ。
『エミの奴、2人の大切な思い出を』と笑顔で返した。
「昨夜、エミちゃん興奮してて。ずっと話してたよ」とニヤで笑った。
『ユリさんも聞いてた?』と聞いた。
「勿論、一番熱心に」と微笑んだ。
『あちゃー、真似したのばれた』と頭をかいた。
「一番熱心に、一番嬉そうだったよ」と言って笑顔で、私を見た。
『2番弟子ですから』と右手でVサインを出した。
「1番弟子は?」とケイが聞いた。
『来年の今頃は、数百人のファンに追い回されてる人』と笑顔で返した。
「私そんなに凄くないよ、普通だもん」とまたケイの、考えタイムに入ったなと思い。
『ケイ、内緒の話だけど』とケイを見た、ケイは頷いた。
『カスミは外見は凄いよね』ケイは頷いた。
『でもね、その外見で悩んでたみたいだよ』ケイは私を見てる。
『内面を見てくれないってね』と私もケイを見た。
『人って色々あるんだよ、よくわからないけど。マダムの言葉が本当の事さ』と前を見て。
握ったケイの手で自分のお腹を押して。ロボットに変わり。
『俺が客で、今PGに来るならば、蘭を除けば』前を見たまま。
『ユリさんでも、カスミでも、四季でもなく。ケイを指名するよ』手に少し力を入れて。
『ケイといる時が一番安心できるから、自分らしくいれると思うから、それを楽しいと言うんだと思ってる』と前を見て言って、ケイを見なかった。
「ありがとう、約束よ蘭姉さんがいなかったら、私を指名するって」とケイは明るい声で言った。
『7年位、待っててね』と笑顔で言った。
「24歳か~、なんか20歳位の子を、すぐ指名しそうだね」と微笑んだ。
『そんときは、赤玉駐車場の約束って言ってね、思い出すから』とケイを見た。
「了解」とケイは笑顔になった。
赤玉駐車場にに並ぶ車の列の前を、手を繋いで通り過ぎると。
【つぼやホルモン】が見えた。
あの日が鮮明に戻ってきた、蘭に感謝していた、そして愛していると実感していた。
夏の夜の繁華街で、唯一ケイと私だけ、夜空に未来を描いていた。
ケイの手の届く未来と、私の漠然とした未来の・・・。