表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/454

巣立

夏を楽しむ若者達が、その自慢の体と自慢の車で集まっていた、新たなる出会いを求めて。

夏の熱が何かを溶かし、開放感を楽しむように、笑顔が溢れていた。


若者という表現にも、到達できてない私は悔しかった。

その視線に対抗するために、カスミを抱きあげた。

カスミの言った【負けず嫌い】はそう言う点では当たっていた。

カスミは自分が、からかった事に対するものだと思っていた。

私はやはり、蘭のPGでの仕事上の客を羨ましく思い、どこかで妬んでいた。

だから、蘭と同じ世代の彼らに対抗して余りある、カスミという絶対の存在を抱き上げて歩いた。

その彼らが絶対に持ち得ない、最終兵器のような女性を、抱きあげられる事を見せたのだ。

それは子供染みた考えだった。

しかしこれを境に、私とカスミの距離は近づいていく。


「今から堀切を上がるよ」車に乗るとカスミが言った。

『冗談でしょ?ね?』私は聞き返した。

「その頂上にあるんだから、目的地が」と美しく笑った。

『ヤングのドッグ』私が笑顔で言うと。

「100点」と言ってスピードを上げた。

【ヤングのドッグ】とは、その当時堀切峠の頂上駐車場にいた移動販売車で、ホットドックが名物だった。


『てんとう虫、大丈夫かな?』と心配顔で聞くと。

「見た目より根性あるんだよ」とカスミは微笑んだ。

『持ち主と逆だね』と笑顔で言うと。

「0点」と言って、カスミが笑った。

てんとう虫は命がけで堀切峠を登りきり、私はカスミとヤングのドッグを食べた。

「やっぱ、最高~」と眼下に広がる太平洋に向かい、カスミが大声で叫んだ。

「あ~すっきりした」と振向いて、輝きながら笑った。


帰りもトコトコと走っていた。

『カスミねぇ』言い直して、『カスミは、宮崎の人じゃないの?』と聞いた。

「どうして?」とカスミが返した。

『言葉が少し違うと思った』と素直に言った。

「私は博多タイ」と語尾を強調して微笑んだ。

『都会人やな~』と私が言うと。

「変わらんタイ」と笑った。


『何で宮崎に来たの?』そう言うと、わざと悲しそうなふりをして。

「それを、聞くの」と泣き真似で言った。

『駆落ちか、逃避行か、追いかけてきたか、どれか正解ある?』と聞くと。

「あるよ」とカスミが笑った。

『なんだ、意外に面白くない』私が笑顔で言うと。

「面白いってどんなのよ?」と真顔で聞いた。

『失踪』と私は言った。

「確かに、そっちの方が響きがいいわ~」と笑い、「今夜から使わせて頂きます」と微笑んだ。

『影ある女を演じないと駄目だよ』と笑顔で言うと。

「有るでしょう、暗いのが」と背中を見せた。

『0点』と返した。


『ありがとう』と江○病院に着いて、礼を言って車を降りた。

「今度また、一人で行きづらい第2弾付き合ってね」とカスミが美しい笑顔で言った。

『優しく教えて下さい』と笑顔で返した。

「教えるほど経験ない」と笑いながら帰って行った。


「今日はカスミ姉さんとデート?」ハッとして振向くと、マリアを抱いたケイが立っていた。

『奇遇ですね』と焦って言うと。

「マリアは騙せないよ、おんもって言うから今出た所」と可愛く微笑んだ。

『マリア、お仕事のお話してたんだよ』とマリアを抱きながら言うと。

「マリア騙されたら駄目よ、浮気者だから」とケイが笑った。

『ケイ姉さん、やきもち焼いてますね~』とマリアに笑顔で言うと。

「もち~」とマリアがケイを見て笑った。

「マリア、私が育てたのに」とケイが泣き真似をした。

「けい」とマリアが呼び、ケイが見ると「がんば」と言った。

ケイと私は2人で笑っていた。


「サクラさんの旦那さん順調で、今マダムとユリさんがお見舞いに」とケイが言った。

『よかったね』と2階の病室を見た。

エミとミサの笑顔が見えるようだった。


私はカズ君のチャリを漕いで、PGのビルに行き、元あった角に鍵をかけて止めた。

靴屋を覗くと蘭と目が合った。

「あと1時間」と蘭が口パクで言い。

『マルショク』と私は指差した、蘭は笑顔で頷いた。


1時間後、蘭が来て車に乗ると。

「今日は早いから、今夜はハンバーグよダ~リン」と満開で笑った。

『いいね~いつもありがとうな、マイハニ~』と私も笑顔で返した。

「一人じゃ作らないのよね」と蘭が言った。

『カスミみたいな事を言うんだね』とニヤで言ってみた。

「カスミちゃんに会ったの?」と蘭がとぼけて微笑んだ。

『会っておでこ押されたよ』と笑顔で返した、蘭はニヤで笑い。

「ばれてるっぽい?」と満開で微笑んだ。

『話、引き出すの上手って言ったのは、蘭だよ』と私も笑った。


「で、なんか良い事あった?」と私を覗き込むから。

『伝説を1つ作ってきた』と笑顔で言うと。

「なに?なに?」と催促した。

『カスミをお姫様抱っこして、青島の若者達の中を歩いてやった』とニヤで言って、蘭を見た。

「やるね~」と満開で微笑んだ。

「さて、今から青島いくよ・・妬いたから」とわざと私を睨んだ。

『土曜の夜の一番街の方がいいよ』と私が言うと。

「それが、いいかも」と蘭が満開で笑った。


部屋に帰り、お互いシャワーをして、蘭がハンバーグ作るの見ていた。

「食器と掃除機ありがとう」と蘭が微笑んだ。

『洗濯はさすがにしなかったよ』と言うと。

「どうして?」とニヤで聞いた。

『嫌じゃないかと、下着とか』と照れると。

「嫌じゃないけど、恥ずかしいからしないでね」と満開で微笑んだ。

『すっごい、おばさんぽいの着てるとか』とニヤで返した。

「見せるよ」と笑顔で睨んだ。

『失神するから勘弁して下さい』とウルウルで言った。

蘭の手作りハンバーグを食べて、タクシーで出勤した。


本当に蘭とは楽しかった、その2人の時間は大切な物だった。

そして私は忘れていた、あの目の事を。

静かに忍びよってるとも知らずに、蘭と楽しんでいた。


PGに着いて、まだ早かったので蘭も一緒にTVルームに行った。

ケイがいて、3人娘はままごとを楽しそうにしていた。

『ケイ姉さん、今夜は余裕ですね』と笑顔で言うと。

「掃除の日はね、それに弟子もついたし」と可愛く微笑んだ。

「役にたってるの?」と蘭がニヤニヤしながら聞いた。

「はい、若手の人は客に嫌なことされたら、チャッピーで解消してるみたいだから」と笑った。

『やはり、そうだったか』と私は右手に拳を作り、震えて見せた。

「特に誰かな?」と蘭が笑いながら聞くから。

『四季が特に』と言うと、蘭もケイも楽しそうに笑った。


「ここが一番楽しそうだね」と突然カスミが入ってきた。

『おはようございます、カスミ姉さん』と言ったら

「2度目だろ」とカスミが笑った。

「はい、三松のういろう、お土産」とカスミがケイに渡した。

「ありがとうございます」とケイが笑顔で礼を言った。

「ケイ、早くフロアー出ろよ、楽しみに待ってるからね」と美しく微笑んだ。

「がんばります」とケイも微笑んだ。

「蘭姉さん、ありがとう」とカスミが笑顔で言った。

「中々の優れものでしょ」蘭が満開で笑った。

「すぐ調子に乗るとこを除けば」とカスミが言った言葉で、3人は笑った。

カスミと蘭は一緒に準備に行った。

松さんとマダムが来て、私とケイも定位置についた。


予約確認が終えると、7時45分、ライトが灯され静寂が支配する。

私はこの時間が好きだった、なんともいえない緊張感に包まれるから。

「なにかした、カスミ姉さんに?」とケイが隣に来て言った。

『なぜ?』と真顔で聞くと。

「私にあんなこと言う人じゃなかったから」と探るような目で聞いた。

『本心でしょ、ライバルって欲しいもんじゃないですか』と思ったことを口にした。

「私が、カスミ姉さんのライバルに」とケイらしく考えていた。

ケイが私のお腹のスイッチを突然押した、私はケイを見た。

「あなたの正直な、感想を聞かせなさい」ロボットに対する命令口調で、前のフロアーを見て言った。

私はケイの横顔を見て、その真剣さに押されて話した。


『俺はフロアーの仕事は分からない、大変だという事しか』私もロボットらしく前を見て。

『この前ユリさんと蘭が話してるのを聞いて思ったんだ』静寂のフロアーに向けて。

『伝えられて響いた事は、伝達しないといけないって、昨日エミを見つけた時に確信したよ』ケイを見ずに、前をみて。

『俺は今ケイ専用ロボットだから、本当の気持ちを言うよ、でも普段は絶対に言わない、そして正しいかとか間違ってるなんて事で、判断はしないでほしい』


『俺はユリさんの継承者は、ケイだと思ってる、絶対にユリさんも、それを望んでると感じている』そう言ってケイを見ようとした。

「まだ、見ないで」とケイが言った、「お願いだからもう少しロボットでいて」と優しい声で。


静寂の戦場を2人で見ていた、1人はもうすぐ戦地に行く、私はその時に決めた。

私が自分で稼いだ金でPGに来る時は、最初にケイを指名しようと。

その時に戦場から、ここを2人で見ようと。


元来の話好き・聞き好きの私は、完全に素直な自分を意識できるところまで来ていた。

それを言葉に乗せることも、かなりスムーズになってきていた。


私の巣立ちはまだ遠かった、隣にいる可愛い小鳥は、完全に巣立ちの準備が出来ていた。


踏み出せば必ず飛べる、美しい羽を隠して。


飛ぶ空をイメージしていた、前だけを見て・・・。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ