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至極

真夏を忘れる爽やかな夜風が部屋に流れ込み、私の大切な瞑想の時を快適にしてくれた。

瞑想の中の美しい女性は、満開の笑顔で問いかけている。

「今、楽しいことはあるの?今、好きな人はいるの?」かと。

私は即答できた。

「今が楽しいよ、目の前にいるよ」と、眠りに落ちるまで繰り返していた。


子供たちのラジオ体操に行く、楽しそうな声で目が覚めた。

蘭が朝の準備する音が聞こえた、蘭は朝食を作っていた。

『おはよ』とその背中に声をかけた。

「お、今日は早いね~」と微笑んだ、私は歯を磨き顔を洗って、蘭の部屋に入った。

『朝ごはん作るの大変じゃない?』と朝食を食べながら聞いてみた。

深夜まで仕事して、早朝から起きているからだ、一人なら簡単に済むのではと思ったのだ。


「全然、嬉しいの」と微笑んだ、そして少し真剣みを帯びた目で私を見て。

「誤解しないでね」と言ったので。

『してないよ、誰かの変わりだなんて、思ったことないよ』と笑顔で返した。

「忘れないでね」と満開で微笑んだ。

「昨日の寝物語、第何話まであるの?」と笑顔で聞いた。

『300はあるね』と笑顔で返すと。

「そっかー」と少し寂しげな顔をした、この不思議な同棲の、残り時間を考えたのかと思った。


『蘭、俺はPGの正式メンバーだよ、たとえ何処にいても、蘭が求めるなら必ず飛んで行くよ』と笑顔で言った。

蘭は優しい目で私を見てる。

『俺はそうしようと勝手に決めたんだ』と微笑んだ、蘭も笑顔だった。

『しんみりする話はやめよう、靴屋で調子狂うと大変だから』と蘭を見て言った。

「うん」と蘭は満開で微笑んだ。


「カスミ、綺麗でしょう?」と蘭が探るような目で見ている。

『驚いたよ、芸能人かと思った』と笑顔で返した。

「まぁ、いきなりが下着姿で、それを見て倒れなかったんだから、立派なもんだよ」と笑った。

『1番が自分じゃなくて、やきもち焼かないのかな~』と上目使いで聞くと。

「あ、そっか、脱ごうか?」とニッと笑った。

『勘弁してください、失神するから』と頭を下げた。

「な~んだつまんない」と私の大好きな小動物の笑顔を作った。

『案外、意気地無しなんです』と笑顔を返した。

「遠慮しないでカスミと絡んでみなよ、私はそれが見たい」と真剣に、「最近のケイを見て思ったの、あんたは案外素敵な奴かなって」と私を見た。


『惚れたな?』と聞いた、冗談ぽく本気で。

「絶対に嫌いじゃないよ」と舌を出してかわした。

「カスミはどこか本心を出せない、少し辛そうで」蘭は深く澄んだ目で。

「引き出し上手でしょ、チャッピーなら警戒心取れるから」と笑顔を戻し。

「でも帰る場所は間違えないでね」と満開で言った、蘭の優しさにまた触れていた。

『迷子になるかも』と言うと、「堤防でしょ、迎えにいくよ」と笑った。


蘭が出掛ける前に。

「今日は掃除日でしょ?何するのかな?」と笑顔で聞いた。

PGは昼間は週に一度の、清掃業者が入る日だった。

3人娘も来ないので、夜からの出勤でいいと言われていた。

『カズ君のチャリ、取りに行ってくるよ』と笑顔で言った、蘭は微笑んで。

「帰り靴屋に寄って、顔を見せてね」と言って手を振って出掛けた。


私は食器を洗い、《洗濯はまずいよな》と思い、掃除機を自分なりにかけてみた。

そしてバスで橘通り3丁目まで出て、乗り換えの江○病院行きを探していた。


【ファン・ファン】という間の抜けたクラクションが鳴った。

私が何気に見ると、純正じゃない空色で、ボンネットとトランクカバーだけがピンクの、可愛いスバル360が止まっていた。

屈んで覗くと、何かを発散しながら、カスミがおいでおいでしていた。

《蘭はやっぱり超能力者だな》と思いながら、車の窓から顔を入れ。

『カスミ姉さん、おはようございます』と笑顔で言った。

「とりあえず、乗って、ここ駐車うるさいから」と笑顔を見せた。


私が慌てて乗ると、その狭い室内のせいで、カスミの左腕と私の右腕が触れた。

カスミは気にすること無く、トコトコと発車した。

「どこ行くのかな?」と聞くので。

『江○病院、カズ君のチャリ置いてきたから』と返した、カスミは前を見ている。

その横顔があまりにも近くて、その輝く美しさに見惚れていた。

「何か顔についてる?」とカスミが私を笑顔で見た。

『目と鼻と口が、いい感じで』と私は無理して笑った。

「30点」カスミはそう言って微笑んだ。

『厳しいな~、緊張してるからその分まけて』と笑顔で言うと。

「緊張してるんだ~、なんで?」とニヤでまた私を見た。

『てんとう虫が橘橋の坂登るのかと』と笑顔でかわした。

てんとう虫とはスバル360の愛称で、その頃もう旧車だった、カスミは笑顔で前を見てた。


「見てなさい、きっと登るから」と信号が変わると同時に、カスミが言って、アクセルを踏んだ。

車はトコトコと登った。

「ね、可愛い奴でしょ」と笑顔で言った、その美しさに少し押された。

『うん、可愛いね。意外に』と笑顔で言うと。

「意外って、引っかかるんだけど」と私を見た。

『カスミ姉さんのイメージから遠いから』と私は答えた。

「どんなイメージ?」と興味深げに聞いた。

『男が運転するオープンカーの助手席で、颯爽と街を流す感じ』と笑顔で言うと。

「それは、褒めてる?」と私を見た、『もちろん』と私も笑顔で答えた。


「時間あるんでしょ?」とカスミが前を見ながら聞いた。

『夕方までなら』と私が答えると。

「一人じゃ行きにくいとこ付き合って」と言ったとき、ラブホテルの大きな看板が見えたので。

『いいですけど、俺経験ないから、優しく教えて下さい』と茶化すと。

「80点」と微笑んだ。

車はひたすら南下していた、《蘭と走ったな~緊張してたな行きは》と思っていた。


「ケイに何て言ったの、私の感想?」と美しい、不敵な笑顔で言った。

『なぜでしょう?』と私は、焦って聞いた。

「すごくよかったですよって、ケイが言うから」と私を見ながら、「はけ!」と取調べ口調で言った。

『見た時、心が戦闘状態になった、そうしないと生き残れないと感じた、それくらい迫力ある姿だったって』と言った。

カスミは前を見ながら不敵に微笑んだ。

「下着姿だったから?」とカスミが聞いた。

『分からないけど、違うと思う』と私は正直に答えた。

『確かに俺には、下着姿は衝撃的だけど、発散してる物がそう思わせたんだと思う、上手く言えないけど』と言うと。

「発散してるんだ、まだまだやね・・私も」と言って微笑んだ。


『ただのガキの感想です、それ以外は胸を見てました』と頭をかいて見せた。

「近寄りがたいって、感じなんだよね?」とカスミは笑顔で聞いた。

『どうなんだろう?・・でも俺は今好きな人いるから、考えなかったけど』と言うと。

「蘭姉さん?」と間髪入れず、カスミが突っ込んだ。

『はい・・自分勝手に、ただ大好きなんです』と照れると。

「いいね~それ、98点」そう言って微笑み、「つづき」と言った。

てんとう虫は必死に、灼熱の道を駆けていた。

トコトコと可愛く、前だけを見て。


『大人の男は分かりませんよ、俺は今考えると・・俺には行けなかったんじゃないかと思う』と正直に言った。

カスミは青島の路肩に車を止めた。

「いけないって?」とカスミが聞いた。。

『恋愛対象として追うことを、最初から諦める感じ』と真顔で言った。

カスミは私を見てる、それはやはり、圧倒的な美しさがあった。


「やっぱり近寄り難いんだよ、だってあんたは、蘭姉さんにその歳で、チャレンジする気持ちを持ってるんだから」とカスミが真顔で言った。

カスミの顔の近さが気にならないほど、私は集中してきていた、自分の気持ちを表現する事に。

「だって私は蘭姉さんより、3歳もあんたに近いんだよ」と言ったカスミは真剣だった。


『近寄り難いって感じじゃなくて』私が少し躊躇すると。

「言って、今まで誰も言ってくれないの、男はただ綺麗だって言うけど」真剣に私の目を見てる。

『絶対に間違ってると、思って聞いてくれるなら』私はそれほど自信がなかった、だから失礼な事だと思ってた。


「不正解を教えて?」とカスミは言って、頷いた。

『近寄り難いんじゃないよ、カスミ姉さんは圧倒的に綺麗だよ』私は一呼吸おいて。

『でも人工的な感じがする、整形とか化粧とかそんなのじゃなくて、上手く言えないけど』私は必死に言葉を捜して。

『本当に良い銃は、凄く綺麗なんだって聞いたことがあるんだ、それはもう鉄じゃないように、妖しく光るらしい』

カスミは頷いた。

『それは作り手が、精度を極限まで求めるからなんだって、でも銃の精度って、殺傷能力とかだから』

カスミは私から目を逸らさない。

『ようするに、闘うために極限まできて、その妖しさが出るんだと思う、そういう妖しさをカスミ姉さんに感じた』

カスミは頷いた。

『だから、戦闘態勢って言葉を使ったんだって、今話しながら分かったよ』と答えた、カスミは頷き。


「だから誰も、私の内面には、チャレンジしないと思うんだ?」と真顔で聞いた。

『そうじゃないと思う、その妖しさは別に悪い事じゃないと思うけど』と言うと、カスミは真顔で見て。

「ご機嫌とるなよ、ここまで100点なんだから」と言った。

『俺、言うの恥ずかしいけど・・最近蘭を好きになって思う』と照れて言うと。

「恥ずかしくないから」とカスミは促した。

『当然年齢とか、経験とか今の生活の状況とか考えると、普通絶対無理だと思うよね』

カスミは頷いた。

『でも、どうしても諦められないんだ、まぁ未熟だからかもしれないけど、無理なんだよ』

カスミの目が優しくなっている。

『どれだけ愛せるか考えた時、全てを投げ出せるって思った、その位の覚悟がないなら、挑戦したら駄目なんだって、ユリさんが教えてくれた』

私は楽になっていく自分を感じていた。

話しながら、自分自身が楽になっていくのが気持ちよかった。


『絶対に間違いだけど、カスミ姉さんの妖しく光る、その輝きは突きつけてるんだと思う』

『覚悟はあるのかと・・だから半端な男じゃ、挑戦すら出来ないんじゃないかと思うよ』と言った。


「正直な回答ありがとう、のど渇いたね行こう」とカスミが微笑んで、二人で移動販売所に向かった。

車から出ると、カスミは白のタンクトップに赤いアロハを羽織り、白のホットパンツにスニーカーだった。

その颯爽と歩く姿は、モデルがステージを歩くようだった。

真夏の青島といえば、サーファー天国である、沢山のサーファーの目がカスミに集中した。


『やっぱり目立つな~、仕方ないけど』とコーラを飲みながら、カスミに言った。

カスミがニッと笑って、自分が座ってるベンチに呼んだ。

私が横に座ると、突然私の太ももに寝転んで、私を見上げ。

「良い経験でしょ・・今、視線は全て君のものだよ」そう言って私の腰に腕を回した。


真夏の太陽を、パラソルが助けてくれ、私は色黒の男達の視線を集めていた。

カスミは眠ったのではないかと思うほど動かない。

投げ出した足が、その長さゆえ、ベンチから放り出されている。

『カスミ姉さん、起きてます?』私の問いに。

「ごめんね、蘭姉さんに昨日頼んだの、あなたを貸してって」カスミが私を見た、少しその発散するエネルギーが落ちたと感じた。

「蘭姉さんが、偶然あった感じの方が、いいはずだって言ってくれて」と真顔で言った。

カスミは触れようと思えば、どの部分でも触れられるほど近かった。

しかしその【至極の逸品】である容姿は、全てを拒むオーラに覆われていると感じていた。

「最近少し、しんどくてね、多分それを感じて、蘭姉さんが元気が出るロボットだから、いつでも使っていいよって、言ってくれてたの」カスミは輝きはそのままに、呟いた。


『スイッチはどこだって言ってた?』私が笑顔で聞くと。

「ここ~」と言って楽しそうに、私の額を押した。

「ヨ・ロ・シ・ク・カ・ス・ミ・ネ・エ・サ・ン」そう笑顔で言った。

私は嬉しかった、蘭の役に立てることが。

私を信じ託してくれる事が、カスミは笑っていた。


「姉さんはやっぱ、店だけがいいな~」と顔を向けたが、まだ起きようとはしなかった。

「蘭姉さんの事、普段なんて呼んでるの?」私はカスミを見ながら、笑顔で聞いた。

『蘭』と答えた、少しの沈黙があり。

「あんた、蘭姉さんが、どれだけ人気有るか知ってるの?」と不敵な笑顔を見せた。

『なんとなく、仕方ないよ魅力的だから、ガキの俺には関係ない事だから』私は強がり前を見て言った。

カスミは起きて、立ち上がり手を出した。


「もう、視線には慣れたろ」と不敵に笑った、私達は手を繋いで車に向かった。

「私の事もカスミって呼んで」とカスミが大声で言った。

私はいきなりカスミを、お姫様抱っこした、カスミは少し驚いて私を見た。

『視線に慣れたから、特別サービスだよ・・カスミ』そう笑顔で言って、信号を渡った。

「生意気で、負けず嫌いだね」と笑いながら首に手を回した。

夏を楽しむ、多くの海水浴の若者と、サーファー達の真ん中を、お姫様抱っこしたまま歩いた。

車を目指して、視線を浴びるのを楽しむように。


この変わった感性の、美しい女豹が、私の新しい教師として加わる。

このカスミとの始まりに、蘭の意図はどこにあったかを知るのは、まだ少し先である。

それを知った時、私はその心の奥深さに触れ、また心が震えるのだ。


カスミというその女性は、常に輝きの中にいた。


まるで鑑賞される為に産まれた、オブジェのように。


【至極の逸品】であるその姿は、忘れる事すら拒むように。


今も私の中に【凛】として立っている・・私の心に。








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