表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/454

約束

無理だから諦める、無理という基準は自らが作る。

もう一度考えてみないか、本当に無理なのかと。

それは自分が可愛いから、傷つきたくないから、じゃないのかと。


橘橋に並ぶ信号待ちの車列を追い越して、南風が包んでいた、幼い戦士と未熟な私を。

私はチャリを放置して、市役所の反対側に信号を渡った。

電話BOXが有るのを、知っていたからだ。

コンクリートの堤防の横にそれはあった、私はドアを閉まらないように足で押さえて。

エミを見ながら、笑顔を意識して作っていた。

受話器を取り10円玉を入れて気付いた、電話番号が分からない事に。

「2○ー○○○○」エミが笑顔で教えてくれた。

『さすが、エミちゃん』と言ってダイヤルした。


電話が繋がると、幻想の宴の音が響いてきた、出たのはリンさんだった。

「見つかったの?」と聞いた。

『はい、市役所の近くで、今一緒にいます』私がそう言うと。

「良かった~」と安堵の声が聞こえてきた。

『マダムはいますか?』と言うと「ちょっと待ってね」と言った。

「見つかったんやな?」マダムは近くにいたんだろう、すぐにそう言った。

『うん、市役所の所で、今一緒にいるから』マダムの「ふー」と言う溜息が聞こえてきた。

『マダム病院行ってから、帰るよ』マダムは少し考えて。

「必ず連れて帰るな」と言った、『約束するよ』と言うと。

「金は持ってるか?」と聞くから、『大丈夫』と言ってエミに代わった。

エミはマダムに心から謝った。


電話が終わり、エミの手を繋いでチャリの場所まで行った。

チャリを立てて、どこかに止めてタクシーに乗ろうと思っていると。

エミがチャリの後ろに乗った。

『チャリでいいの?』と言うと、「チャリがいいの」とエミが笑った。

私はエミを後ろに乗せて、橘橋の坂を押して、坂の上の頂上まで来てからチャリに乗った。

エミが背中をトントンと叩いた、私が振り返るとエミが市役所の前の河川敷を指差して。

「あれ何してるの?」と聞いた、私が見ると河川敷で沢山の人が作業していた。

『花火大会の準備だね』チャリに跨り、エミを見て言った。

「ミサは花火大会見たことないの、私はあるのに。私よりミサが可愛そう」と河川敷を見ながら呟いた。

この状況でもミサを想うのかと、そしてこの子にもPGの血が脈々と流れているな~と思っていた。

『じゃぁ、行くか』と笑顔で言うと、可愛い花が咲くように笑顔を向けて。

「連れてってくれるの?」と嬉しそうに言った。

『もう、脱走しないと約束するなら』とエミを見て言った。

「約束します」とエミは真顔で誓った。


私はエミの手を取って、私のベルトに持っていき。

『離すなよ』と言った「うん」とエミが微笑んだ。

私は病院に向けペダルを漕いだ。

「私、ユリちゃんが言ったこと、分からなかった事が1つ分かった」と向かい風に負けない大声で言った。

『どんな言葉?』私も負けないように大声で。


        「世の中の悪いって言われる事の、全てが駄目とはかぎらない」


「って、さっきのチャッピーの言葉で分かったよ」と叫んだ、私は嬉しかった。

そしてユリさんの凄さを、再確認していた、届くのだと。

相手がどんなに幼くても、強い想いはいつか届くのだと気付かされていた。

向かい風を押し返すエミの言葉で、私は快調にペダルを漕いだ。


病院に着くと1階の受付は誰もいなかった、暗いロビーを歩きながら。

『病室しってる?』とエミに聞いた。

「前のは、でも今日手術だから」私はエミの手を引いて、階段で2階に上がった。

「エミちゃん」と2階の廊下で、若い看護婦に声をかけられた。

「アズちゃん」とエミが言った。

「お父さんに会いに来たの」と屈んでエミに聞いた、視線を合わせて。

「うん」と言うエミを見て。

「静かについてきて」とエミの手を引いて歩き出した、私はその後ろを歩いた。


「もう、遅い時間だから静かにね」と病室の前で微笑んで、エミに言って、2人で入っていった。

私は廊下の長椅子に座って待っていた。

アズと呼ばれる女性が先に出てきて。

「ありがとう、マダムは元気?」と私に言った。

『戦争を生きた人は元気です』と言うと笑顔になって。

「ユリさんも?」と聞いたので『マリアも元気ですよ』と言うと。

「気をつけて帰ってね」と微笑んで仕事に戻って行った。

元PGの女性だったかと、思いながら見送った。


数分後にサクラさんが出てきた、私を見つけ小走りで。

私は立ち上がり声をかけようとすると、抱きしめられた。

私はPGの女性は皆、直接伝えると思っていた、その想いを。

「ありがとう」体を離して言った。

『旦那さんは?』と聞くと、サクラさんは笑顔になり。

「大丈夫、成功したわ」と嬉しそうに言った。


「本当にありがとう」と言われたので。

『見つけて、連れてきただけですよ』と照れながら言った。

「カズ君の家は近いから、帰りはタクシーで帰ってね」と言うので。

『はい、ゆっくりでいいですよ』と言ったときに、エミが出てきた。

「帰ろう」と私の手を笑顔で握った。

『まだいいよ』と言うと「ミサが待ってるから、皆が待ってるから」とエミが笑った。

私は握る手に少し力を入れて。

『そうだね』と言った、笑顔のエミに。


サクラさんが手配したタクシーに乗って、エミとPGを目指した。

「花火大会、約束だよ」とエミが私を見た。

『必ず連れて行くよ』私は笑顔で返した。

「ミサもだよ」と言うので。

『勿論、マリアもな』と言うと、小1の少女らしく嬉しそうに微笑んだ。

『俺がマダムに話すから、エミちゃんはお母さんに話しといてね』と笑顔で言った。

「ラジャー」とガッチャマンを真似て微笑んだ。

エミが駆け出した、橘橋の北詰を過ぎると、夜街の明かりが見えた。

人工的な明かりに、初めて安心感を覚えた、帰る場所があると。

蘭が待つ場所があると。


裏階段から入ろうとすると、カズ君が駆け寄った。

「ごめんなさい」エミは謝った、カズ君は膝をつき。

「俺も悪かったよ、気付いてやれなくて・・ごめんな」そう言った、優しい目だった。

『マシーン、明日取ってくるよ』と私がカズ君言うと。

「気にすんなって、いつでもいいぞ」と肩を叩いて、「おつかれさん」笑った。

私はこのカズという男を、好きになっていた、その優しさが。


TVルームに行くと、マダムと松さんが代わる代わるエミを抱きしめた、エミは心から謝った。

私はミサとマリアの寝顔を確認して、指定席に戻った。

「お疲れさま、マダムのおごり」ケイがそう言って、寿司折を渡して。

「ケイって呼んだ時の顔、素敵だったよ」と可愛く微笑んだ。

『惚れるなよ』と笑顔で返すと。

「でも1回だけにしてね、あなただけだから姉さんって言ってくれる人」と笑顔で言った。

『はい、ケイ姉さん』と言って、2人で笑った。


「さすが、蘭様が拾った男だけわあるね」振向くと、蘭が笑顔で立っていた。

『蘭姉さん、拾ってくれて本当にありがとう』この時なぜか私は、蘭に礼を言った。

「仕事中にしんみりするなよ、調子狂うから」と満開笑顔で戦線復帰して行った。


「ありがとう」振向かなくても分かった、その優しい声は。

「あなたはやっぱり分かる子ね、そして分かってあげられる子だわ」とユリさんが薔薇で微笑んだ。

『ユリさんが教えてくれたから、ガキにしか出来ない事もあるって』と笑顔で返した。

「ありがとう、今日の事も、マリアの事も、蘭の事も」そう笑顔で言って、戦場に戻った。

それから、女性達が次々に来て、面白可笑しく褒めてくれた。

私もここに居ていい人間になれたと実感できて嬉しかった、幻想の宴を見ながら。


本当に良かったと思っていた、エミを見つけられた事、父親の手術が成功して、エミに笑顔が戻ったことが。


エミの、あの強い意志を示した、瞳を思い出していた。


俺も頑張らないと、そう呟いていた・・・。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ