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理想と現実

静寂を作り出す空間に、秋を微かに思わせる風が流れ込んでいた。

高い天井が、その空間の対流を大きくしていた。

瞳を閉じて座る2人を見ていた、静寂の中に熱があった。


蘭が瞳を開けて、隣の美由紀を見て嬉しそうな満開笑顔になった。

「いつ来たの?・・全然気づかなかったよ」とユリカと美冬に挨拶して笑顔で言った。

『蘭が始めてから、すぐだったよ』と笑顔で返した。

その時に美由紀が目を開けて、私を手招きして甘えた。

私は二ヤで美由紀の側に行って、抱き上げた。


『最近、甘えん坊だな~・・美由紀』と笑顔で言った。

「ユリカさんが言ったでしょ、抱っこが短いって」と笑顔で返された。

『美由紀・・PGの美冬さん、○○大の教育学部だよ』と美由紀を蘭とユリカの間に座らせて、美冬を紹介した。

「初めまして、美由紀です」と微笑んだ。

「美冬です・・よろしくね、会いたかったのよ~」と美冬が微笑んだ。


「嬉しいですね・・教育学部の人に、会いたかったと言ってもらえるのは」と美由紀が嬉しそうに微笑んだ。

「美由紀ちゃん・・小学校は普通の公立じゃ無かったのね?」と美冬が真顔で言った。


「はい・・仕方ないことなんですけど、養護学校でした。

 小学生では自分で移動も、トイレも難しかったから。

 力が無くて、車椅子の移動も難しかったですね。

 でもとても良い経験になったと思ってます、色々な障害を持つ友達も出来たから。

 ただ養護学校は、授業も特別だったから。

 私は学びたかったんです・・普通に高校を出て、手に職を付けたかった。

 それに障害を持つ仲間に、頑張れば出来るって見せたかった。

 だから中学は普通の学校にこだわりました、沢山の人達の愛で公立中学に入学できました。

 今は感謝をしながら、中学生活を楽しんでいます」


美由紀は笑顔で答えた、美冬も笑顔で聞いていた。

「そっか~・・小学生では難しいのね」と美冬が微笑んだ。

『難しいけど、無理じゃないだろ・・美由紀』と私は真顔で美由紀に言った。

「無理じゃないよ・・フォローする人が付いていれば、そんな動きも今はあるよ・・でも中々決まらないけど」美由紀も真顔で答えた。

「美由紀がいるのといないのとの、生徒達に与える影響を感じないといけないよね」とユリカが微笑んだ。

「それが、その後に・・どれほどの良い影響であるかを」と蘭が満開で微笑んだ。

「そこなんですよね~・・その大切さを分かる人が、上にいないと」と美由紀も真顔で返した。


「美冬・・PGでは感じにくい事を1つ教えるね」とユリカが深い瞳で言った、美冬は少し緊張して頷いた。


「お酒を飲みに来るお客さんで・・その飲み方が、だらしないのは。

 警官と教師なの・・総合的な平均で考えるとね。

 警官はどうしようもない、結局怖い者が無いのよね。

 極論言うと一般人は、ヤクザなんて怖いでしょ・・関わりたくないよね。

 必要悪なんて甘い事は言いたくないけど、それでも存在する以上、意味はあるのよね。

 警官はそれが怖くないの・・それで勘違いして、高圧的になるのよ。

 そしてなぜか教師・・その飲み方は、だらしない人が多いの。

 それは理想と現実が違い過ぎて、心の葛藤があるんでしょうね。

 日教組の考え方も、教育委員会の指導方針も・・理想からは遠い。

 生徒のことを、一番に考えてると思えない。

 教師になりたての若者は、葛藤の中に入っていくの。

 日教組に入らないと、教師としての仕事がし辛くなる。

 入れば組織に従わなければならない、そして教育委員会も口を出す。

 それは矛盾だらけらしい、私の知り合いで嫌気がさして辞めた人が・・3人もいるの。

 夢を描き、努力して成った教師を・・1年以内に辞めた人が。

 美冬・・自分を持っていてね、それは難しい世界だけど。

 あなたと千秋には、私は期待してる。

 エースが言うように、勉強だけした人間じゃ駄目だと思う。

 教師って・・学問だけを教える人じゃないから。

 一度会わせて貰えば良いよ、エースと美由紀の担任、林 清次郎と言う人に。

 教師として1つの答えだと思ったよ、あの精神力・・そして強い優しさ。

 美冬・・私エース以外に頑張れって言わないけど、でもあなたには言うね。

 頑張って美冬・・全てを賭けても良い、その職業は・・教師という仕事なら」


ユリカは静寂を連れて、静かに強く言った、美冬も真顔で強く頷いた。

「ありがとうございます、ユリカ姉さん・・大切な話でした」と美冬が微笑んだ。

「うむ、さすがユリカじゃね・・美冬、第3土曜の3時に来れば、清次郎が来とるよ」と和尚が笑顔で言った。

「そうなんですか・・伺います」と美冬が笑顔で返した。

『美冬・・清次郎爺さん手伝ってみたら、良い経験になるかもよ』と笑顔で言った。

「何してるの?・・私で手伝えるの?」と美冬が真顔で聞いた。


『美冬や千秋なら・・出来るよ。

 清次郎、第三土曜日の老人たちの勉強会で、文字を教えてるんだよ。

 もちろんボランティアでね・・学校に行けなくて、字を知らない老人達に。

 文字を教えるなら、誰でも出来るって事じゃないんだよ。

 老人達は学校に行きたかったんだ、だから教師に教えて欲しいんだね。

 だから教育学部の美冬が来たら、喜ぶと思うよ。

 俺も来て・・清次郎には紹介するから、考えてみてね』


私は美冬の笑顔を見ながら、笑顔で伝えた。

「考える必要なんて無いよ・・できるなら、やってみたい」と美冬が笑顔で返してきた。

「サク爺さんとか、喜んで倒れるかもよ」と美由紀が笑った。

「作蔵は好きやからの~、若い娘が・・美冬なら豊満やから危ないの~」と和尚が二ヤで言った。

「それは和尚もでしょう・・最近艶々してるよ~、血圧高いでしょ~」と美由紀が二ヤで返した。

「美由紀・・最近厳しくなったの~」と和尚がウルを出していた、全員が笑っていた。


和尚に礼を言って、ユリカと美冬と一緒に寺を後にした。

私はケンメリに車椅子を折りたたんで乗せて、美由紀を抱き上げた。

「折りたためるの!凄いね~」とユリカが爽やかに微笑んだ。

「豊君の凄いところですよね、最初から折りたたみ式にこだわってました」と美由紀が笑顔で返した。

『ユリカ、次の土曜の午後付き合って・・美由紀を病院に連れて行くから』と笑顔で言った。

「もちろん良いわよ、蘭ほど運転上手くないけど」と爽やか二ヤで返してきた。


『蘭には日曜しか頼めないから、日曜は見舞い客が多いからね』と笑顔で言った。

「了解・・美由紀、楽しみにしてるね」と爽やかに微笑んだ。


『その日に演奏会をしよう、美由紀にも聴かせたいから。

 美由紀がペダルを踏めなくて、諦めた事に対する、1つの答えを見せるよ。

 ペダルなんて必要無いと主張する、魂のピアニストが本気で弾く時のやり方を。

 本気のその上の状況を作り出す、美由紀とミホと沙紀で。

 見逃せないよ・・久美子の次の覚醒は』


私は3人に笑顔で言った、3人も笑顔で頷いた。

「すっごく楽しみなんだけど~・・小僧、私が沙紀に会っても良いんだね?」と美由紀が私の耳元に囁いた。

『大丈夫だよ、沙紀なら・・美由紀、要求しろよ・・次のステップを』と笑顔で返した。

「それしか出来ないよ・・私はあの個性の子供に対し、優しい人間じゃないから」と美由紀が真顔で言った。

「いつか分かると思うよ・・美由紀は本当に優しい人だったって、沙紀なら分かるよ」と蘭が満開で微笑んだ、ユリカも爽やか笑顔で頷いた。

「私もそう思うよ・・エース、私にも会わせてね」と美冬が微笑んだ。


『もちろん、お願いするよ。

 美由紀が要求するステップアップは、文字だろうからね。

 美冬が探しておいてよ、俺が金を出すから・・1から文字を覚えるのに。

 最も良いテキストをね・・平仮名だけでも覚えてもらう。

 その教材を沙紀に手渡すのは、美冬か千秋にして欲しいんだ。

 俺は沙紀に対しての、今の目標は・・どこでも良いから、学校に通う事なんだよ。

 沙紀の最初の教師になってよ・・美冬と千秋で。

 俺は沙紀に対してだけは、ただの自立を考えてるんじゃない。

 本当の自立を目指させたい・・だからよろしく・・美冬』


私は真剣に美冬の強い瞳を見て言った、美冬は美しい真顔で強く頷いた。

「ありがとう・・あなたは私達には、別のステップアップも提案してくれるのね」と美冬が微笑んだ、私も笑顔で返した。

「その教材費は私と蘭で出すから、大切な宝物のお礼として・・明日、蘭も手に入れるようだからね」とユリカが微笑んだ。

「やっぱり!・・嬉しいな~、そうしましょう」と蘭が満開で微笑んだ。

笑顔のユリカと美冬に手を振って、美由紀の家を目指した。


美由紀の家の前にケンメリを止めると、美由紀の父親が出てきた。

蘭が降りて満開で頭を下げた、父親も驚いて挨拶していた。

私は美由紀を抱き上げて、車を降りた。


「お前な~・・贅沢すぎるぞ、交代しろ」と父親が二ヤで言った。

『節子がいるでしょ・・怒られるよ~』と二ヤで返した。

「こんな綺麗な人と・・一時の気の迷いなら、ポイって粗大ゴミの日に捨てていいから」と父親が蘭に笑顔で言った。

「もう嫌ですわ~・・お父様ったら~」と蘭が満開笑顔の営業トーンで返した。

私は玄関の家用の車椅子に美由紀を乗せて、笑顔でまた明日と言って別れた。

ケンメリからYUTAKAⅡを出して、蘭と楽しそうに話すオヤジに渡した。


「じゃあ今度、部下を誘って行くよ」と父親が笑顔で言った。

「お待ちしてますね、美由紀ちゃんのお父さんなら・・皆、大歓迎ですよ」と満開笑顔で返して、見送る父親に手を振って別れた。

蘭はご機嫌で運転していた、その横顔が充実感に溢れていた。


アパートに帰り、交代でシャワーを浴びて、私はTVの【さざえさん】を見ていた。

「珍しい・・TV見てるなんて」と蘭が満開で言った。

『唯一これだけは、暇だと見てたんだ・・カツオに負けたくなくて』と笑顔で返した。

「面白い見方だね~・・感覚は分かるけどね」と満開二ヤで返された。


素顔の蘭と腕を組んで、江平という町まで出て、小さな居酒屋に入った。

「地鶏が美味しいのよ・・炭火焼」と小さな個室に通されて、蘭が満開笑顔で言った。

『匂いだけでも美味そうだね』と笑顔で返して、ビールで乾杯した。

「ねぇ・・私、見た感じも変わった?」と蘭がご機嫌満開で聞いた。

『全てが揃ったって感じかな・・今からだね、ニュー蘭の出動は』と笑顔で返した。


「美由紀との出会いだよ・・それは確信してる。

 美由紀に会って、感じたよ・・その強さと優しさで。

 自分の望みは何だって、自分に問いかけが出来た、そして今の答えも出たよ。

 その答えは単純なものだった・・蘭でいようと思ったの。

 私の理想として作り上げようと思った、蘭という個性をね。

 どっかでもう一人の自分として見ていた、蘭という存在を。

 重ねて行きたい・・私自身の姿として、いつか綺麗に重なると思ってる。

 ユリ姉さんやユリカ姉さんみたいに、嘘偽りない本来の姿として」


蘭は深い瞳で静かに言った、私は少し驚いていた、その覚醒してきた姿に。


『OK、蘭・・じゃあ提案するよ、ミチルがクラブに出る時。

 PG以外の魅宴とゴールドの時は、蘭が店の責任者で入って。

 ミチルの店の女性と、銀河と若手を引っ張って。

 俺がミチルに話すから、まぁ絶対にOKするだろうけど。

 ミチルがPGの時は、ミコトにやってもらう。

 今回の共同体の意味で最も難しい事、女帝ミチルのフォロー。

 それを蘭とミコトで答えを出す、接客だけじゃない。

 若い女性を牽引する女性として、責任の重い仕事として。

 やってみるだろ・・これ以上ない、難しい挑戦だから』


私は満開蘭を見ながら、笑顔で言った。

「もちろん、やってやるよ・・最高の舞台なんだから」と蘭が笑顔で言った。

『よし、これで外枠は出来てきたな・・あとはナギサ覚醒を待つだけだよ』と二ヤで言った。

「ナギサ・・変化してきたよ、落ち着きが出てきたね」と蘭が満開で微笑んだ。

『北斗に一番影響受けてるのが、ナギサだよね・・どこか自由な所が似てるよ』と笑顔で返した。

「カスミもハルカも、お泊りで実家に帰ったし・・楽しみだね~」と蘭が微笑んだ。

『ハルカも帰ったのか~・・そりゃあ楽しみです』と二ヤで返した。


蘭が酔ってご機嫌になり店を出た、夜風が気持ち良かった。

昼間の熱が冷めるのが、少し早くなったと感じていた。

蘭は生ビールを4杯も飲んで、少し千鳥足気味に歩いていた。

アパートが見えた所で、蘭を抱き上げた、満開で笑ったいた。


「帰ったら、すぐに寝るから・・寝るまで添い寝しててね」と満開で微笑んだ。

『了解・・眠ったら、日記書いて・・時間割しないと』とウルで返した。

「頑張れ・・中学生」とニヤニヤで返された。

部屋まで抱いて入り、蘭が洗面所で歯磨きをしていた。

私は着替えて、蘭を待っていた、満開笑顔で帰ってきた。


「今日の日記・・プロポーズしたって書いといてね、返事は7年後に言うから」と二ヤで言って、私の腕を引いた。

『7年か~・・楽しいな~』と二ヤで返した。

「お孫見せるんでしょ・・頑張って」と言った満開蘭を腕枕した。

『やめろよ~・・添い寝する時に、子供作る話は』と二ヤで返した。

「修行よ・・修行・・ユリカ姉さんほど激しくないよ」と笑顔で言った。

『ユリカ・・怖い、本気でしそう』とウルで返した、強い波動が二ヤしていた。


「ねぇ・・明日、沙紀ちゃんの所に行って、PGに来るの?」と満開で微笑んだ。

『うん、蘭が遅番だから・・病院に行ってから来るよ・・お楽しみに』と笑顔で返した。

「やばい・・ワクワクして寝られなくなる」と言って、瞳を閉じた、

言葉とは裏腹に、蘭は得意技の、即熟睡を見せてくれた。

私は暫く蘭の寝顔を見ていて、額にキスして腕を抜いた。


自分の部屋に戻り、荷物を出していた。

翌日の時間割を見て、《あ!・・明日からテストだった、まずいかな》と少し動揺した。

ユリカの波動が強く来て、今から頑張れと感じた。

私は日記を書いて、少しテスト対策をしていた。

窓から爽やかな風が吹き込んで、時を忘れてやっていた。

12時少し過ぎに、蘭の隣に戻り、腕枕して眠りに落ちた。


翌朝、新聞のポストに入る音で目覚めて、洗面所に行った。

歯を磨き顔を洗った、キッチンでハムエッグを焼いていると。

蘭が起きて来た、満開笑顔だった。

「月曜の朝は気持ちが良いね~・・今朝も幸せ」と言って洗面所に消えた。

私は朝食を準備して、英語の教科書を見ていた。


「おっ!・・良い心がけだね、何か焦ってるの?」と蘭が戻ってきて、満開二ヤで聞いた。

『大した事無いよ、今日からテストだった』とウルで返した。

「頑張れ~・・あれ以上に上げなよ・・期末では」と微笑んだ。

『良かった~・・さすがに今回は、厳しいと思ってたよ』と二ヤで返した。


私は食事を済ませて、制服に着替えて、満開蘭に見送られて出かけた。

通学する高校生の間をすり抜けて、美由紀の家のガレージにチャリを止めた。

『みゆ~きちゃん、学校行きますよ~』と玄関を開けて声をかけた。

「は~い・・おはよ」と美由紀が車椅子でやってきた。

『美由紀~・・お洒落したら駄目ですね~、校則違反です』と二ヤで言った。

美由紀は当時の女子で流行中の、淡い色のリップクリームを付けていた。


「やばいかな~・・まぁ小僧は鋭いから、祥子先生は危険だけど」と二ヤで返された。

『不良娘め・・マキやバルタンに憧れるなよ』と笑顔で言って美由紀を抱き上げた。

「マキ先輩・・綺麗になったよね~、良いな~」と美由紀が耳元に囁いた。

『土曜の夜、清次郎が店に来てね・・マキが喜んでたよ』と笑顔で返して、YUTAKAⅡに乗せた。

「さすが清次郎先生、チェックに行ったんだね~」と二ヤで言った美由紀を押して出かけた。


「今日からテストだよ、知ってた?」と楽しそうに美由紀が言った。

『昨夜・・9時過ぎに知った』とウルで返した。

「今日3時間だね・・給食ないよ、良く来たね~」と茶化された。

『美由紀に逢いたいから、学校は来るよ』と笑顔で返した。

「よし・・連続小僧物語~」と美由紀が言って、私が夏物語を話しながら登校した。


教室に入ると勉強してる生徒が多かった、美由紀は沙織が来てリップの話題で盛り上がっていた。

『不良娘が増殖してる・・怖い』とウルで言った。

「小僧が言うな・・史上最悪の不良が」と沙織が二ヤで返してきた。

『俺・・不良じゃないもん』とウルで返した。

「小学生でヤクザに喧嘩売るのが、不良と言わないのか?」と美由紀が二ヤで来た。

「美由紀と駆け落ちしたのは、不良じゃないのか?」と沙織がニヤニヤで来た。

『あっ!・・沙織のせいで、事情聴取される~』とウルウルで返した、強い波動が何度も来ていた。

「張り込みの刑事でもいるのか、危ない奴だ」と沙織が笑顔で言った時に、清次郎が来た。


朝の挨拶をして、清次郎の朝の訓示を聞いて、テストが始まった。

3時間のテストをなんとかクリアーして、美由紀に連続小僧物語を話しながら家路についた。

美由紀の家に着いて、美由紀を家用の車椅子に乗せて中に入った。

リビングのテーブルに、2人用の昼食が用意してあった。

『節子は良い人だ』とウルして言った。

「小僧、麦茶出してね」と美由紀が微笑んで準備を始めた。

私は麦茶を冷蔵庫から出して、テーブルに座った。

美由紀がご飯を持ってきて、隣に入ってきた。


「由美子ちゃん、感覚的にはどうなの・・やっぱり成長が早い?」と生姜焼きを食べながら美由紀が聞いた。

『うん・・5歳とは思えないね、ヒトミと同じだよ』と笑顔で返した。

「やっぱり、精神の成長が早いんだね・・仕方ない事なんだろうけど」と美由紀が真顔で返してきた。

『美由紀の考えを・・述べよ』と笑顔で聞いた。


「やっぱり・・考える時間が多過ぎるんだよね。

 感性は鋭いから、相手の感情は分かるんだから。

 一人の世界でずっとそれを考えてる、だから掘り下げ過ぎるんだよね。

 伝える手段が無い時は、ヒトミもそうだった訳だし。

 ヒトミはその期間、9年だよ・・眠ってない時間が、どれほど有るのかと思うとね。

 瞑想してるとき感じるんだよね・・ヒトミや由美子の世界を。

 精神的に成長するのは仕方ないよ・・自分と向き合い続けてるんだから」


美由紀は真顔で言った、私も真顔で頷いた。

「じゃあ、小僧の自閉症に対する考え方を・・述べよ」と美由紀が微笑んだ。


『美由紀も知ってるけど・・俺はあの病気を障害とは思っていない。

 確かに備わってない物もあるだろうけど、感性は鋭いからね。

 見た目で引く人が多いよね、やっぱり目に出る事が多いからかな。

 それに言葉の発達に影響が出易いし、理解させるのは難しいよね。

 目を逸らしてる人や、可愛そうだって自己満足をする人には。

 和尚が言ってたけど、病名すら無い昔は・・相当に酷い扱いをされてたらしい。

 強い差別を受けて・・母親まで蔑まれていたらしいんだ。

 社会はどっかで弱者を探す、弱者を見つけて安心する・・あれよりましだとね。

 そんな社会だから・・あの子達は絶望する。

 だから俺は、沙紀にできる限りの事をしてやりたい。

 マリの時に感じた事を、沙紀で挑戦したい・・自立に向けて。

 今は俺の周りに、最高の人材が揃っているから・・挑戦し続けるよ。

 沙紀は大丈夫だと思う・・恐怖に対してパニックを起こさない。

 閉ざしていないから、俺はあの病名は大嫌いなんだよ。

 何も分からない学者が付けたんだ、あの病名で人は勘違いする。

 閉ざしていると思ってしまう、ただ伝えるのが苦手なだけなのに。

 だから俺は伝達方法を伝授したい、天才マリで感じていた将来図を、沙紀に応用したい。

 美由紀・・また手伝ってね・・美由紀じゃないと出来ないから。

 頑張れって言えるのも、俺の間違いを指摘してくれるのも・・美由紀だけだからね』


私は笑顔で美由紀に言った、美由紀も笑顔で返してくれた。

「了解・・マリちゃん元気かな~・・きっと今でも、周りを驚かせ続けてるよね」と美由紀が微笑んだ。

『間違いないだろうね・・あの能力は、信じられないからね』と笑顔で返した。

節子が買い物から帰ってきて、礼を言って美由紀と別れて、アパートに帰った。

シャワーを浴びて着替えて、バスで病院に向かった、夏の陽射しが強く主張していた。


病棟の4階に上がり、記名をしてミホの病室に入った。

沙紀もミホもいなかった、私は仕方ないので由美子の病室に向かった。

そこで衝撃を受ける、沙紀とミホが遊戯室にいるのだ。

沙紀は当然かも知れないが、ミホがそこにいる事が信じられなかった。

沙紀と向かい合わせに座ったミホは、無表情のままブロックを積む沙紀を見ていた。

そのミホの表情に、全く拒絶の色が無いことにも驚いていた。

沙紀の母親が私を見て、笑顔を見せてくれた、私も笑顔で返して遊戯室に入った。


『2人とも仲良しになったね~』と笑顔で声をかけた、沙紀が振り向いた。

沙紀が私に歩み寄って来たので、私は笑顔で抱き上げた。

『沙紀・・ミホちゃんと遊んでるの?』と笑顔で聞いてみた。

《うん、ミホちゃんが見ててくれるから、沙紀、嬉しい》と返してきた。

『そっか~・・沙紀はミホが見てると、嬉しいんだね』と笑顔で返した。

私が沙紀を降ろすと、沙紀は遊戯室を出て行った。


私はミホの手を握り、笑顔で土曜の夜の出来事を話した。

ミホは私を見ながら、眠い顔をしていた、私はミホの額に手を当てた。

ミホの体重が腕にかかってきたので、私はミホを優しく抱き上げた。

沙紀の母親がドアを開けてくれて、私はミホを病室のベッドに寝かせた。

『ミホ・・また明日』とミホの寝顔に言って、沙紀の所に行った。


沙紀がスケッチブックを差し出した、私は期待しながら笑顔で受け取った。

沙紀のベッドの横の椅子に座って、スケッチブックを開いた。


幻想的だった・・浅い海の中のような、明るい青の世界が表現されていた。

その真ん中に蘭が満開笑顔で立っていた、真っ白なドレスを着て両手を出していた。

その全体像が、こっちにおいでと言ってるようで・・満開の表情が完璧に描写されていた。

その奥は段々と深い青になっていて、無限の奥行きを表現し。

蘭の髪は水の流れに漂うように揺れて、それが水流だと感じていた。

蘭の奥には岩が描いてあり、その岩の隙間から泡が出ていた。


私は感動しながら見ていて、ハッ!としてゆっくりと反転してみた。

私は沙紀に意識して笑顔を向けるのが精一杯だった、それほどに感動していた。

蘭の後ろの岩のような物は、3頭のイルカだった、3等が固まって泳いでいた。

まるで蘭と戯れるように、イルカたちも楽しげな表情で描かれていた。

私は沙紀のこの画法に、感心していた。

沙紀の母親に聞いたが、沙紀は絵を反転させて描いた事は無いと言っていた。

絵を反転させる必要が無いのだろう、そもそも上下という解釈すら無いのかも知れない。

私はそう思いながら、薬を飲んでいる沙紀を見ていた。


夏の陽射しに、蘭の満開を抱えながら・・その素敵な存在を見ていた。

上下も左右も無い・・嬉しいを探す、可愛い画家を・・。


蘭は当然、この絵に感動して、本当に大切にしている。


最初に自分を描いてくれた作品であり、青の背景が海の中だったのを喜んだ。


青い炎と言われていた、蘭の青のイメージを・・海中として表現した。


沙紀はこの少し後に、ユリカを描く。


そのユリカは満開の桜の中に立っていた、その背景に桜吹雪が舞い。


それが波動を表現して、熱を表現していた・・まるで炎のようだった。


沙紀は描いて見せた・・その内面を。


炎と言われる蘭と、水と言われるユリカを・・真逆の表現で示した。


これが本当のユリカだよ、その内面は熱いんだ・・リアンが絵を見ながら言った。


そして沙紀の描いたリアンは、雪山の上でニカをしていた。


トレードマークである真っ赤なシャツの襟を立てて、その背景に似合わない半袖で。


リアンの座る場所だけ、雪が溶けていて・・新芽の緑が頭を持ち上げていた。


これこそがリアン、その熱の正体・・ユリカが爽やか笑顔で言った。


リアンの涙を見ながら、私は感じていた・・沙紀には見えるのだと。


その者が持つ・・理想の姿まで・・そこまで辿り着くのだと。


海中で微笑む蘭は、穏やかな表情で手を広げる・・こっちにおいでと言いながら。


それこそが・・蘭の求める、理想の精神世界。


散ることの無い、儚さの影すら存在しない・・永遠の満開が咲いている。




 


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