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Runner

どうしてだろう、その者は存在するだけで笑顔を作る。

自分自身の【その頃】を、人は絶対に覚えていない。

どこかで変わる、途方も無く永い時間で進化した過程を、一年で進むように。

言葉を得ると変化していく、現代世界で生きる人間がスタートして行く。


「小僧ちゃん・・蘭ちゃんはどおして、歩かないし話さなかったの?」と母親が笑顔で聞いた。

『俺の考えで良いですか?・・正解じゃないですよ』と笑顔で返した。

「小僧・・お前は面白いな~、正解じゃないと言ってからやるのか~」とご機嫌オヤジが言った。

「お願い・・聞かせて、間違いを教えて」と鈴が微笑んだ。


『俺・・小児病棟で遊んでた頃・・小3位からだったかな~。

 産婦人科のナースが、お菓子をチラつかせて誘いに来てたんだ。

 俺が生後3ヶ月位の乳児の伝達を理解して、お尻の中の出来物を言い当ててから。

 だから乳児とは、数限りなく触れ合ったんだ。

 そして1つの考えが出来てきた・・それを1つの話にして、母親達に伝えた。

 人間はその進化の歴史を、受精してから、約2年で進むんだと感じてね。

 子宮に産まれた瞬間は、まだ生命としての細胞状態だよね。

 海から陸に上がる前の祖先と同じ、だから羊水に包まれていると思う。

 人は水の中で産まれるんだよ・・出産が誕生じゃない、受精が誕生なんだよね。

 そして羊水の中で進化の過程を経験する、どんな人もその記憶を持てないけどね。

 猛スピードで進化の過程を進むんだよ、人が愛し合い繋がった歴史をね。

 羊水の中の成長期間を第一段階とすると、成長のスピードで言えば。

 一生の中で一番早いんだよね、だから大切なんだよ・・お腹に語りかける事は。

 絶対に聞こえてるし、喜んでいる・・母の言葉が優しく響くんだ。

 そして第二段階を迎える、出産だよね・・海から陸を目指すように。

 大きな進化のターニングポイントがくる、陸で生きる選択をした時が来る。

 絶対的な安心感の羊水から、陸を目指す・・未知の世界を選ぶんだ。

 壮大なロマンだと俺は思ってる、よくぞ陸を選択したと思うんだ。

 未知の世界に最初に踏み出した生命、なんて素敵な奴なんだろうって感じる。

 その強い意志で砂浜を這い上がった、そして強固な想いで繋いだ。

 生命を繋いでみせた、そしてその子孫も繋いだんだ・・過酷な状況の中で。

 その砂浜に這い上がった時が、出産なんだと思う。

 だから一生の内で、最も大きく環境が変化するんだ。

 それから約1年の、第二段階が大変なんだよ・・その進化の歴史を進むのが。

 でもね・・伝達方法は第一段階で存在するんだよ、羊水の中で存在する。

 海の中で生きてる時には持ち合わせていたんだ、俺はその事は確信している。

 今でも海でイルカに会うと、強く感じるよ・・イルカの発する、伝達をね。

 多分・・毎日会って触れ合えば・・イルカの言葉が、解読できると思うんだ。

 出産を経て移行したのが、第二段階だと思えば・・乳児の変化スピードも納得できる。

 表情が出はじめて・・意思を伝えられるようになり。

 ハイハイが始まる・・陸を移動するのに、より良き進化が加速する。

 両足で立ち・・2足で歩く、その方が早くて安全だからね。

 陸に接地してる部分が、少ないほど安全なんだよ・・その時を同じくして出現する。

 圧倒的な伝達方法・・言葉が出る・・人間が進化の過程で考え出した。

 より多くの感情を伝えるために、開発した・・言葉はそこで登場するんだ。

 言葉を得るまでが、第二段階だと思ってる・・言葉を得てからの進化。

 その進みは一気に緩やかになる・・ゆっくりと進む。

 だから考えすぎる・・人間は考える時間を、永く持ちすぎてると思う。

 子供時代から、青春と呼ばれる時代を超えて・・成獣になるんだけど。

 鈴・・人間は動物なんだよ、アフリカのサバンナで暮す動物達と同じ。

 親が子に伝えるべき事・・それは群れでの生活に必要な絶対事項。

 食料の調達方法や、群れでの役割・・その数限りない事を教えるんだ。

 そしてその生き方を見せるんだ・・子供に伝えるべき最も重要な事。

 愛するとは何かと言う事だよ、その無償の愛で教える。

 子供にも人を愛する人間になって欲しいから・・命を繋いで欲しいから。

 鈴・・鈴は素敵なママだよ・・だから過剰な心配はしないでね。

 蘭は少し混乱してたんだよ・・進化して良いのか迷ってたんだ。

 鈴が手を出しすぎるから・・まだなのかと・・もう少しなのかと。

 歩くことも、少しの言葉も・・蘭は持ってたんだよ。

 でもあまりにも鈴が進化のフォローをするから、出して良いのか迷ってた。 

 さっき蘭が俺に返してきた言葉は・・【もう】・・だった。

 その【もう】の後ろに来る言葉は・・もう良いの?・・だと思うよ。

 鈴・・蘭は素敵な子供だよ、鈴を愛しているんだ。

 だから鈴の嬉しいがずっと感じたかったんだ、それで時期を逃した。

 繋がりの強い親子には、ありがちな事なんだよ・・何も珍しい事じゃないんだ。

 鈴・・進化を教えて・・蘭を愛しているのなら・・表情に出して伝えて。

 喜びも・悔しさも・悲しみも・・それが伝えられる権利者なんだよ。

 母親という圧倒的存在は・・その権利者なんだ・・自分の生きる姿で伝える。

 それが許される・・唯一の存在・・母親。

 蘭にその行動で教えてあげてね・・人を愛するとは素晴らしい事だと。

 生きる事を恐れる事はないと、生きるとは素晴らしい事なのだと。

 俺の師である・・生臭和尚が常に言う言葉がある。

 人の生きる意味・・それは・・【生きる】なんだと。

 それ以上の意味は存在しないと・・だから死にも意味があるんだと。

 次の段階に移行したのだと、死が全てを別つのではのではないと。

 愛した記憶も、愛された記憶も・・次世代に繋ぐんだ。

 完成しない人間という生命の進化の、一人のランナーとして存在し続ける。

 だから・・死を悲しまなくていいんだ・・常に心に存在させて。

 語りかければ・・死にも大きな意味を持たせる。

 悲しむべき事ではないんだ・・寂しさを背負って、内側に入れよう。

 そして共に歩こう、そして繋ごう・・永遠の道を、一人のランナーとして。

 蘭はランナーになったばかりだよ、今から自分の走り方を探すんだよ。

 見守っていてね・・その愛で・・蘭が走るその世界を』


私は素直に想いを伝えた、この時も強い波動が来ていた。

鈴は美しく微笑み、私を見て強く頷いた。

オヤジは席を立ち、母親はまた・・蘭に抱かれて泣いていた。

「ありがとう・・伝えてみせるよ、私も権利者だから」と鈴が笑顔で言った。

『大丈夫、鈴なら・・素敵なママだし・・あの千鶴と同じDNAを持ってるんだから』と笑顔で返した。


「あなたが外してくれたのね、この子の弟に対する後悔を。

 私は今日会って・・嬉しかった、少し前に宮崎で会った時に感じたけど。

 それが確信できる姿を見て、その晴れやかな笑顔を見て。

 後悔は外れたと思ったわ・・そしてあなたが、主人に話したさっきの話を聞いて。

 そして今の話で・・私も主人も外れたわ・・間違いに気づいた。

 どこかで息子の話を避けていた、家族全員が・・それが思いやりだと思ってた。

 馬鹿な話よね・・家族なのに・・そんな事をするなんて。

 あの子が心配してるよね、こんな状態の家族を見ると。

 自分の事でそうなってるって、感じてしまうよね・・話さないといけないね。

 夫婦で・・家族で・・忘れてないよと、語りかけてあげないと。

 心の中だけでなく・・きちんと言葉に出して・・伝えないと。

 私はあの子に対し、唯一の権利者・・母親である事は・・永遠に続くのだから」


私は母親の強い言葉を聞きながら、嬉しくて笑顔で頷いた。

蘭の最高の満開が咲いて、母親に抱きついた、母親も嬉しそうに蘭を抱いていた。


鈴が笑顔で挨拶をして、帰って行った。

落ち着いたのか、オヤジが笑顔で帰ってきた。


「なぁ小僧・・たまには遊びに来てくれよ、一人ででも」とオヤジが微笑んだ。

『オヤジさん、もちろん来ますよ・・今から稲刈りも、まだあるんですよね?』と笑顔で返した。

「あぁ有るぞ、早期米は売るだけだから、自分が食うのは普通期米なんだよ」と笑顔で言った。

『了解です・・日程を教えて下さい、俺は何でも経験したいんです・・稲刈り経験をよろしくです』と笑顔で返した。

「本当か!・・約束だぞ・・なんなら婿養子修行でもするか」と二ヤで言った。

『はい・・それもやっときます、だから他の作業も来ますよ・・なんせ不安定な仕事の、交渉人ですから』と二ヤで返した。


「なぁ小僧、ありがとな・・俺も嬉しかったよ・・娘の本当の笑顔が見れて」とオヤジが笑った。

『13歳の、俺の望みはそれだけですから・・源氏名蘭の・・笑顔が見たいだけです』と微笑んだ。

「お前・・泣かそう泣かそうって、持って行くだろう・・怖い奴だ」とオヤジが笑った。


『泣くのは、今夜にして下さい・・お母さんと2人で。

 酒でも飲みながら・・思い出話を存分に・・お互いに知らない話も出ますよ。

 俺が次の長期の休みには、泊りがけできて・・人脈を作ってみせます。

 息子さんの、友達や仲間と親しくなって・・聞き出して見せます。

 その時に号泣してください・・絶対にありますよ、家族が知らない世界が。

 好きな女子も・・変え難い仲間も・・夢も・・その足跡をお見せしますから』


私は親子3人を見ながら、笑顔で言った。

「まいった・・俺の負けや・・ありがとう、いつまでも楽しみに待ってる・・足跡を見る事を」とオヤジは俯いて泣いていた。

母親がオヤジの肩をさすり、蘭が青い炎を最大限にして包んでいた。


『仕方ないな~・・泣き虫は遺伝ですね・・しょうがない、台風話をしてあげよう』と笑顔で言った。

「待ってました・・聞かせてあげて、あなたの本質を」と蘭が満開で微笑んだ。

オヤジと母親の楽しそうな笑顔を見ながら、物語調で台風桟橋事件を話した。

オヤジの爆笑と、母親の楽しそうな笑顔が、楽しい午後を締めてくれた。


オヤジが持って帰れと、米と沢山の野菜をケンメリに詰め込み。

母親が味噌と地元の調味料を積んでくれた、私は笑顔で挨拶をした。

「稲刈り・・約束ですよ・・楽しみにしてるよ、あんな顔の主人・・久しぶりに見たわ」と2人の時に母親が微笑んだ。

『もちろん来ますよ・・お母さんの、手料理目当てに』とニヤで返した。

「必ず・・いつの日か・・本当の息子になってね」と笑顔で返してきた。

『約束します・・それだけは、絶対に諦めないと』と真顔で返した、母親は笑顔で頷いた。

蘭が来て車に乗って、手を振って別れた。


蘭は黙って運転していた、私も何も話さなかった。

人気の無い山道で車を止めて私を見た、私も蘭に微笑んだ。

「少しだけ~・・待てないから~」と私に抱きついた。

『人気の無い山道で・・これは危険な設定だ』と囁いて強く抱きしめた。

蘭は泣いているようだった、私は確信していた・・蘭が完全に次のステージに上がったと。

その温もりの強さと、青い炎に包まれながら。


「よし!・・どっか行きたい所ある?」と蘭が満開で微笑んだ。

『蘭の行きたい所~』と笑顔で返した。

「じゃあね~・・瞑想したい」と満開で微笑んだ。

『了解・・誰か来てるよ・・若手が必死で』と笑顔で返した。

「必死でする事でもないでしょうに」と蘭が満開で笑って、ハンドルを北に切った。

緑のトンネルを抜けると、海が広がった、私は開放感に包まれていた。


「足跡・・いつになっても良いから、見せてね・・父も母も本当に楽しみにしてるよ」と蘭が前を見て微笑んだ。

『そこは任せて・・人脈作りのプロだよ』と笑顔で返した。

「生きてれば・・来月で20歳か~・・彼女の一人もいたのかな~」と蘭が微笑んだ。

『いたでしょう、絶対に・・蘭の弟で、あの母親の息子なら』と笑顔で返した。


「父親は~」と蘭が私に二ヤで言った。

『息子の恋愛の部分に、父親の影響って・・ほとんど無いと思うよ』と二ヤで返した。

「なるほどね~・・どうしてか、述べよ」と蘭が満開で促した。

『簡単だよ・・見せてるから、自分の好きな女はこれだとね』と笑顔で返した。

「そっか~・・そうだよね~」と蘭が満開で納得した。

太平洋の波の乱反射で、蘭の横顔が輝いていた、全てを受け入れているようだった。

自分との和解の日も近いのだと感じていた、私は幸せを感じながら蘭を見ていた。


『将来・・蘭父さんと蘭母さんの存在を、誰が一番喜ぶのか・・それは確信したよ』と笑顔で言った。

「えっ!・・誰かな~」と蘭が二ヤで探りを入れてきた。


『間違いなく・・シズカだよ。

 シズカが2人に出会えば、泊まりに行くよ・・オヤジさんの考えと合うから。

 シズカは自然児なんだよ、環境に凄くこだわるんだ。

 律子の妹・・ようするに叔母に当たる人が、綾の山手の方に住んでて。

 シズカは集中したい時は、そこに泊まりに行くんだ。

 教室のスロープの時も、美由紀の車椅子の時もね。

 でも叔母の家には、物作りに興味のある人間がいない。

 だから前までは、俺を無理やり連れて行ってた。

 煮詰まると・・誰かに話したいんだよ・・愚痴を聞いて欲しいんだ。

 でもその相手は、絶対条件として・・物作りが好きな相手じゃないと駄目なんだよ。

 蘭父さんに会った時の、シズカの笑顔が浮かぶよ、その申し分ない環境もね。

 次回はシズカを誘うかな・・今はシズカに煮詰まって欲しくないから。

 どう思う?・・蘭』


笑顔で前を見てる蘭に聞いた、蘭は満開で微笑んだ。


「泣くよ・・オヤジが・・シズカが家に来て、これどう思うって聞いたら。

 もう嬉しくて嬉しくて・・多分、号泣するよ。

 私の兄も弟も・・その分野に興味が無かったから。

 今日、あんたがすぐに、コンバインのシャフトを押さえた時。

 あの時のオヤジの顔・・本当に嬉しそうだったよ。

 やっぱり欲しかったんだね・・物作りを語り合う相手が。

 その相手が・・シズカだったら、もう養子にくれって言うよ。

 私は思ってたの・・オヤジが勝也父さんに会ったら、どれほど喜ぶのかって。

 そして母が・・律子母さんに会ったら、なんて言うのかってね。

 楽しみでしょうがないよ・・その前にシズカに会ってもらおう。

 絶対にオヤジはシズカの部屋を用意するよ、いつでも遠慮なく来れるように。

 そして母が嬉しそうにシズカと話す姿が見える、私も今、幸せを感じてるよ」


蘭が嬉しそうに満開で微笑んだ、私も笑顔で頷いた。

『そうなると・・分かる?・・誰が訪ねるのか~・・多分シズカは最初に、車椅子を考えるから』と蘭に二ヤで言った。

「えっ!・・まさか・・豊が実家に来る!」と蘭が驚いて言った。

『絶対来るよ・・豊兄さんは、中型バイクも持ってるし・・1時間の道のりなんて、楽しんで来るよ』と笑顔で返した。

「それこそ号泣する・・オヤジが豊を感じれば」と蘭が満開二ヤで返してきた。

『俺もそれは確信してる・・あの存在に触れれば、オヤジさんは感じるよ』と笑顔で言って海を見ていた。


「私ね・・ハルカの実家に、あなたが同行した話を聞いてて。

 想像してたんだけど、でも私の両親が相手じゃ、さすがのあなたも緊張すると思ってた。

 またしても裏切られた、感動したよ・・嬉しかった。

 欲しいものはないかと聞かれて、即答したあの言葉・・忘れられないよ。

 どんな素敵なプロポーズの言葉より、強く響いたよ。

 オヤジの後悔を外してから、言った言葉だったから。

 私はもう大丈夫だよ・・でも私の父と母も頼むね、感じていてあげてね。

 もう一度だけ言うね・・私にはもちろん、父にも母にとっても。

 あなたは誰かの代わりじゃないよ・・それだけは覚えていてね」


蘭が優しく囁いた、私は笑顔で頷いた、満開を見ながら。


その年の11月に、シズカを誘って蘭の実家を訪ねた。

私はその前に、稲刈りの手伝いにも来ていて、もう両親とは仲良くなっていた。

シズカを紹介して、オヤジと母親の笑顔を見ていた。

シズカがいきなりオヤジに、コンバインを運転させてと笑顔で言った。

庭でコンバインの操作を教える、楽しそうなオヤジを母親と縁側で見ていた。


シズカは案の定、蘭の実家を気に入り、冬休みに泊まりに行っていた。

そしてオヤジと2人で、必死になってYUTAKAⅢに取り組んだ。

母親が宮崎に出てきて、律子に会わせると・・すぐに意気投合した。

その時に、母親が教えてくれた。


「主人はやっと生きがいを見つけました、シズカちゃんのおかげで。

 物作りの好きな人間にとって、最も重い取り組むべきテーマを、提示してくれました。

 2人で交互に車椅子に乗って、話し合う姿を見て・・私は本当に嬉しかった。

 そして豊という、素晴らしい青年が訪ねて来てくれた。

 主人も私も感動してました、その強い想いを感じて。

 そして娘が連れてきてくれました、美由紀ちゃんを・・主人の心は完全に魅せられました。

 美由紀という強い生き方に触れて、そして美由紀にありがとうと微笑まれて。

 自分の部屋で号泣してました・・俺は幸せだと言いながら。

 形有る物を残したい・・そのずっと抱えていた夢に、最高の形で取り組める事が。

 その想いを豊やシズカが感じてくれる事が、そしてなにより。

 美由紀が喜んでくれる事が、その笑顔を見れる事が・・生きがいになったようです」


母親は嬉しそうに笑顔で言った、律子も嬉しそうな笑顔で返した。

私は思い出していた、オヤジが話してくれた沢山の事を。

植物を命として育てる男の言葉を、オヤジが大切な経験をさせてくれた。

人として生きる事は、命を摂取する事だと、ミノルと同じ言葉で話してくれた。

未熟な私に伝えてくれた、大切なバトンを繋いでくれと言うように。


ケンメリで玉砂利を進むと、見覚えのある軽自動車とフォルクスワーゲンが止まっていた。

蘭と笑顔で降りて、本堂に向かった。

ユリカと美冬が瞑想していた、静かなる空間が出来ていた。

ユリカの正座する姿に、見取れていた、その静寂さえ連れている姿に。

蘭は和尚に笑顔で挨拶をして、本堂のユリカの横の座布団に正座して目を閉じた。

その姿に迷いが無く綺麗に背筋が伸びていた、美しい横顔を見ていた。


「何をやったのかの・・蘭は段階が上がったの」と和尚が笑顔で言った。

『うん・・今日実家に行って来たよ、久しぶりに父親と会ったからかな』と笑顔で返した。

「そうじゃったか~・・さすが蘭よの~・・あのユリカの横には、中々座れんぞ」と和尚が微笑んだ。

『確かに・・ユリカは静寂の中にいるね、瞑想してたのか~・・どおりで波動が来なくなったわけだ』とユリカを見て言った。

「小僧~」裏口から美由紀の声がした、私が開けると美由紀が微笑んでいた。


『美由紀・・瞑想か』と笑顔で言った。

「うん・・黒いケンメリが見えたから」と笑顔で言った。

私は後ろから歩いてきた、母親の節子に俺が送っていくと伝えて、美由紀を抱き上げた。

美由紀は荘厳な光景を見て、笑顔で私に頷いた。

私は蘭の横に美由紀を座らせた、そして美由紀が瞳を閉じた。

美由紀はもちろん正座は出来ないが、その座る姿勢は、和尚も認める美しさだった。


「素晴らしい光景じゃね~・・これにユリがおれば、完璧じゃよ」と和尚が嬉しそうに言った。

『しかし、美冬も熱心だね・・形になってきたね、雰囲気が出てきたよ』と和尚に言った。

「あの子が教師を選んだ・・それだけで、希望になるぞ」と和尚が言った。

『そうだね、伝えるよ・・美冬は大切な事を』と笑顔で返した。


最初に美冬がが終わった、蘭と美由紀の存在を見て驚いていた。

「ちょっと~・・あれが噂の美由紀ちゃん?」と美冬がが来て笑顔で言った。

『そうだよ・・凄いだろ~』と二ヤで返した。

「待ってるから・・紹介してね、どうしても知り合いたい」と微笑んだ。

『もちろん、良いよ・・でも長いかもよ』と笑顔で返した。


「自信無くすよ・・かなり近づいたと思ってたのに。

 ユリカさんと蘭姉さんだけでも無くすのに・・あの美由紀ちゃんの姿は、圧倒的だよ」


美冬が3人を見て言った、美由紀をじっと見ていた。

『美由紀の瞑想は、別世界だからね・・乗り越えた物が違いすぎる』と笑顔で言った。

「よく分かるよ・・そして感じたいと思うようになったよ」と美冬が微笑んだ。


その次にユリカが瞳を開けて、隣の蘭と美由紀を見て驚いていた。

爽やか笑顔で歩いて来た、私はユリカに微笑んだ。

「来たね~・・いよいよ、ニュー蘭の発進だね」とユリカが微笑んだ。

『うん・・俺も楽しみだよ』と笑顔で返した。

「しかし美由紀・・どんな世界に棲んでるんだろう・・あの若さで、気配すら無いよ」とユリカが美由紀を見て言った。

「和尚様の見解は、どんな感じですか?」と美冬が笑顔で聞いた。


「美由紀は囚われなくなった・・全ての事柄に。

 人はどうしても欲があるよの~・・それは仕方ない事なんじゃよ。

 生きる上で、何らかの目標を持ってないと、人は前に進めんのだから。

 しかし美由紀はそれを捨て去った、全く欲が無いんじゃよ。

 こうありたいとか、こうなりたいすら今は無い・・ただ美由紀でいたいんじゃ。

 自分でいることだけが、美由紀の望みなんじゃよ。

 両足の無い・・車椅子に乗る・・美由紀であり続けたい。

 その強い想いが、あの姿を作る・・美由紀は瞑想で捨て去る。

 立って歩きたいとか、健常者ならどうこうとか・・全ての願望を。

 だからこそ・・周りに響く・・勇気を与える。

 失敗も挫折もさせない・・それは全て、得られなかったというだけの事だから。

 成功など幻想だと笑い飛ばす、たかだか何かが欲しくてした事だろうと。

 金や物や名誉や権力や・・様々な何かが欲しかっただけの行為だろうとね。

 その強い想いに、何かを返せる者は・・滅多に存在しない。

 だからこそ、美由紀は小僧に執着するんじゃ。

 小僧はそんな欲求で生きていない、貴重な人間だからな。

 小僧が見せ続ける、命と向き合う行為・・それだけが美由紀の興味なんだよ。

 何も欲しない、美由紀が・・唯一その先が見たいと願う事。

 小僧が関わる・・あらゆる個性の子供達の、行く末だけなんじゃよ」


和尚は静かに言った、私は美由紀を見ていた。

静寂の本堂に、夕方の風が流れ込んできた、微かな秋の匂いを連れて。

女性達の想いを包みながら、本堂を吹き抜けて行った。


私が話した進化の話は、私が乳児と触れ合い感じた事だった。


生命の神秘を感じて、そう考えるようになったのだ。


その乳児達の想いを感じて、最初に陸に上がった生命の存在を感じた。


不思議な事だと思っていた、羊水の中で成長する事が。


確かに学術的に言えば、そうなんだろうと思う。


しかしなぜ・・水の中で育てるのか、そう思っていた。


そして導き出したのが、進化の歴史を体験させるという物語。


私は今でもそうであると、自分では思っている。


私は触れ合ったことがあるから、進化を出来ずに感情を持った人間に。


その純粋さに触れて感じたのだ、進化する過程で道を間違えたのだと。


文明の発達は便利を求めた、それに付随して欲が産まれた。


それは悪いことではない、しかしその欲は間違った方向に進みやすい。


人間だけであろう、欲などの為に、同じ種類で殺しあうのは。


武器は日々進歩していく、その速度の競争をする。


それにより傷ついた人を乗せる、車椅子は進歩が極めて遅かった。


私はその矛盾に嫌悪感を覚えた、下手な嘘を繰り返す社会にも。


私は映像で思い出す、庭で暗くなるまで語り合う。


ツナギを着た、オヤジとシズカの姿を・・その理想を出し合う光景を。


物を作り出し・・進歩させる・・その本質を。

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