Runner
どうしてだろう、その者は存在するだけで笑顔を作る。
自分自身の【その頃】を、人は絶対に覚えていない。
どこかで変わる、途方も無く永い時間で進化した過程を、一年で進むように。
言葉を得ると変化していく、現代世界で生きる人間がスタートして行く。
「小僧ちゃん・・蘭ちゃんはどおして、歩かないし話さなかったの?」と母親が笑顔で聞いた。
『俺の考えで良いですか?・・正解じゃないですよ』と笑顔で返した。
「小僧・・お前は面白いな~、正解じゃないと言ってからやるのか~」とご機嫌オヤジが言った。
「お願い・・聞かせて、間違いを教えて」と鈴が微笑んだ。
『俺・・小児病棟で遊んでた頃・・小3位からだったかな~。
産婦人科のナースが、お菓子をチラつかせて誘いに来てたんだ。
俺が生後3ヶ月位の乳児の伝達を理解して、お尻の中の出来物を言い当ててから。
だから乳児とは、数限りなく触れ合ったんだ。
そして1つの考えが出来てきた・・それを1つの話にして、母親達に伝えた。
人間はその進化の歴史を、受精してから、約2年で進むんだと感じてね。
子宮に産まれた瞬間は、まだ生命としての細胞状態だよね。
海から陸に上がる前の祖先と同じ、だから羊水に包まれていると思う。
人は水の中で産まれるんだよ・・出産が誕生じゃない、受精が誕生なんだよね。
そして羊水の中で進化の過程を経験する、どんな人もその記憶を持てないけどね。
猛スピードで進化の過程を進むんだよ、人が愛し合い繋がった歴史をね。
羊水の中の成長期間を第一段階とすると、成長のスピードで言えば。
一生の中で一番早いんだよね、だから大切なんだよ・・お腹に語りかける事は。
絶対に聞こえてるし、喜んでいる・・母の言葉が優しく響くんだ。
そして第二段階を迎える、出産だよね・・海から陸を目指すように。
大きな進化のターニングポイントがくる、陸で生きる選択をした時が来る。
絶対的な安心感の羊水から、陸を目指す・・未知の世界を選ぶんだ。
壮大なロマンだと俺は思ってる、よくぞ陸を選択したと思うんだ。
未知の世界に最初に踏み出した生命、なんて素敵な奴なんだろうって感じる。
その強い意志で砂浜を這い上がった、そして強固な想いで繋いだ。
生命を繋いでみせた、そしてその子孫も繋いだんだ・・過酷な状況の中で。
その砂浜に這い上がった時が、出産なんだと思う。
だから一生の内で、最も大きく環境が変化するんだ。
それから約1年の、第二段階が大変なんだよ・・その進化の歴史を進むのが。
でもね・・伝達方法は第一段階で存在するんだよ、羊水の中で存在する。
海の中で生きてる時には持ち合わせていたんだ、俺はその事は確信している。
今でも海でイルカに会うと、強く感じるよ・・イルカの発する、伝達をね。
多分・・毎日会って触れ合えば・・イルカの言葉が、解読できると思うんだ。
出産を経て移行したのが、第二段階だと思えば・・乳児の変化スピードも納得できる。
表情が出はじめて・・意思を伝えられるようになり。
ハイハイが始まる・・陸を移動するのに、より良き進化が加速する。
両足で立ち・・2足で歩く、その方が早くて安全だからね。
陸に接地してる部分が、少ないほど安全なんだよ・・その時を同じくして出現する。
圧倒的な伝達方法・・言葉が出る・・人間が進化の過程で考え出した。
より多くの感情を伝えるために、開発した・・言葉はそこで登場するんだ。
言葉を得るまでが、第二段階だと思ってる・・言葉を得てからの進化。
その進みは一気に緩やかになる・・ゆっくりと進む。
だから考えすぎる・・人間は考える時間を、永く持ちすぎてると思う。
子供時代から、青春と呼ばれる時代を超えて・・成獣になるんだけど。
鈴・・人間は動物なんだよ、アフリカのサバンナで暮す動物達と同じ。
親が子に伝えるべき事・・それは群れでの生活に必要な絶対事項。
食料の調達方法や、群れでの役割・・その数限りない事を教えるんだ。
そしてその生き方を見せるんだ・・子供に伝えるべき最も重要な事。
愛するとは何かと言う事だよ、その無償の愛で教える。
子供にも人を愛する人間になって欲しいから・・命を繋いで欲しいから。
鈴・・鈴は素敵なママだよ・・だから過剰な心配はしないでね。
蘭は少し混乱してたんだよ・・進化して良いのか迷ってたんだ。
鈴が手を出しすぎるから・・まだなのかと・・もう少しなのかと。
歩くことも、少しの言葉も・・蘭は持ってたんだよ。
でもあまりにも鈴が進化のフォローをするから、出して良いのか迷ってた。
さっき蘭が俺に返してきた言葉は・・【もう】・・だった。
その【もう】の後ろに来る言葉は・・もう良いの?・・だと思うよ。
鈴・・蘭は素敵な子供だよ、鈴を愛しているんだ。
だから鈴の嬉しいがずっと感じたかったんだ、それで時期を逃した。
繋がりの強い親子には、ありがちな事なんだよ・・何も珍しい事じゃないんだ。
鈴・・進化を教えて・・蘭を愛しているのなら・・表情に出して伝えて。
喜びも・悔しさも・悲しみも・・それが伝えられる権利者なんだよ。
母親という圧倒的存在は・・その権利者なんだ・・自分の生きる姿で伝える。
それが許される・・唯一の存在・・母親。
蘭にその行動で教えてあげてね・・人を愛するとは素晴らしい事だと。
生きる事を恐れる事はないと、生きるとは素晴らしい事なのだと。
俺の師である・・生臭和尚が常に言う言葉がある。
人の生きる意味・・それは・・【生きる】なんだと。
それ以上の意味は存在しないと・・だから死にも意味があるんだと。
次の段階に移行したのだと、死が全てを別つのではのではないと。
愛した記憶も、愛された記憶も・・次世代に繋ぐんだ。
完成しない人間という生命の進化の、一人のランナーとして存在し続ける。
だから・・死を悲しまなくていいんだ・・常に心に存在させて。
語りかければ・・死にも大きな意味を持たせる。
悲しむべき事ではないんだ・・寂しさを背負って、内側に入れよう。
そして共に歩こう、そして繋ごう・・永遠の道を、一人のランナーとして。
蘭はランナーになったばかりだよ、今から自分の走り方を探すんだよ。
見守っていてね・・その愛で・・蘭が走るその世界を』
私は素直に想いを伝えた、この時も強い波動が来ていた。
鈴は美しく微笑み、私を見て強く頷いた。
オヤジは席を立ち、母親はまた・・蘭に抱かれて泣いていた。
「ありがとう・・伝えてみせるよ、私も権利者だから」と鈴が笑顔で言った。
『大丈夫、鈴なら・・素敵なママだし・・あの千鶴と同じDNAを持ってるんだから』と笑顔で返した。
「あなたが外してくれたのね、この子の弟に対する後悔を。
私は今日会って・・嬉しかった、少し前に宮崎で会った時に感じたけど。
それが確信できる姿を見て、その晴れやかな笑顔を見て。
後悔は外れたと思ったわ・・そしてあなたが、主人に話したさっきの話を聞いて。
そして今の話で・・私も主人も外れたわ・・間違いに気づいた。
どこかで息子の話を避けていた、家族全員が・・それが思いやりだと思ってた。
馬鹿な話よね・・家族なのに・・そんな事をするなんて。
あの子が心配してるよね、こんな状態の家族を見ると。
自分の事でそうなってるって、感じてしまうよね・・話さないといけないね。
夫婦で・・家族で・・忘れてないよと、語りかけてあげないと。
心の中だけでなく・・きちんと言葉に出して・・伝えないと。
私はあの子に対し、唯一の権利者・・母親である事は・・永遠に続くのだから」
私は母親の強い言葉を聞きながら、嬉しくて笑顔で頷いた。
蘭の最高の満開が咲いて、母親に抱きついた、母親も嬉しそうに蘭を抱いていた。
鈴が笑顔で挨拶をして、帰って行った。
落ち着いたのか、オヤジが笑顔で帰ってきた。
「なぁ小僧・・たまには遊びに来てくれよ、一人ででも」とオヤジが微笑んだ。
『オヤジさん、もちろん来ますよ・・今から稲刈りも、まだあるんですよね?』と笑顔で返した。
「あぁ有るぞ、早期米は売るだけだから、自分が食うのは普通期米なんだよ」と笑顔で言った。
『了解です・・日程を教えて下さい、俺は何でも経験したいんです・・稲刈り経験をよろしくです』と笑顔で返した。
「本当か!・・約束だぞ・・なんなら婿養子修行でもするか」と二ヤで言った。
『はい・・それもやっときます、だから他の作業も来ますよ・・なんせ不安定な仕事の、交渉人ですから』と二ヤで返した。
「なぁ小僧、ありがとな・・俺も嬉しかったよ・・娘の本当の笑顔が見れて」とオヤジが笑った。
『13歳の、俺の望みはそれだけですから・・源氏名蘭の・・笑顔が見たいだけです』と微笑んだ。
「お前・・泣かそう泣かそうって、持って行くだろう・・怖い奴だ」とオヤジが笑った。
『泣くのは、今夜にして下さい・・お母さんと2人で。
酒でも飲みながら・・思い出話を存分に・・お互いに知らない話も出ますよ。
俺が次の長期の休みには、泊りがけできて・・人脈を作ってみせます。
息子さんの、友達や仲間と親しくなって・・聞き出して見せます。
その時に号泣してください・・絶対にありますよ、家族が知らない世界が。
好きな女子も・・変え難い仲間も・・夢も・・その足跡をお見せしますから』
私は親子3人を見ながら、笑顔で言った。
「まいった・・俺の負けや・・ありがとう、いつまでも楽しみに待ってる・・足跡を見る事を」とオヤジは俯いて泣いていた。
母親がオヤジの肩をさすり、蘭が青い炎を最大限にして包んでいた。
『仕方ないな~・・泣き虫は遺伝ですね・・しょうがない、台風話をしてあげよう』と笑顔で言った。
「待ってました・・聞かせてあげて、あなたの本質を」と蘭が満開で微笑んだ。
オヤジと母親の楽しそうな笑顔を見ながら、物語調で台風桟橋事件を話した。
オヤジの爆笑と、母親の楽しそうな笑顔が、楽しい午後を締めてくれた。
オヤジが持って帰れと、米と沢山の野菜をケンメリに詰め込み。
母親が味噌と地元の調味料を積んでくれた、私は笑顔で挨拶をした。
「稲刈り・・約束ですよ・・楽しみにしてるよ、あんな顔の主人・・久しぶりに見たわ」と2人の時に母親が微笑んだ。
『もちろん来ますよ・・お母さんの、手料理目当てに』とニヤで返した。
「必ず・・いつの日か・・本当の息子になってね」と笑顔で返してきた。
『約束します・・それだけは、絶対に諦めないと』と真顔で返した、母親は笑顔で頷いた。
蘭が来て車に乗って、手を振って別れた。
蘭は黙って運転していた、私も何も話さなかった。
人気の無い山道で車を止めて私を見た、私も蘭に微笑んだ。
「少しだけ~・・待てないから~」と私に抱きついた。
『人気の無い山道で・・これは危険な設定だ』と囁いて強く抱きしめた。
蘭は泣いているようだった、私は確信していた・・蘭が完全に次のステージに上がったと。
その温もりの強さと、青い炎に包まれながら。
「よし!・・どっか行きたい所ある?」と蘭が満開で微笑んだ。
『蘭の行きたい所~』と笑顔で返した。
「じゃあね~・・瞑想したい」と満開で微笑んだ。
『了解・・誰か来てるよ・・若手が必死で』と笑顔で返した。
「必死でする事でもないでしょうに」と蘭が満開で笑って、ハンドルを北に切った。
緑のトンネルを抜けると、海が広がった、私は開放感に包まれていた。
「足跡・・いつになっても良いから、見せてね・・父も母も本当に楽しみにしてるよ」と蘭が前を見て微笑んだ。
『そこは任せて・・人脈作りのプロだよ』と笑顔で返した。
「生きてれば・・来月で20歳か~・・彼女の一人もいたのかな~」と蘭が微笑んだ。
『いたでしょう、絶対に・・蘭の弟で、あの母親の息子なら』と笑顔で返した。
「父親は~」と蘭が私に二ヤで言った。
『息子の恋愛の部分に、父親の影響って・・ほとんど無いと思うよ』と二ヤで返した。
「なるほどね~・・どうしてか、述べよ」と蘭が満開で促した。
『簡単だよ・・見せてるから、自分の好きな女はこれだとね』と笑顔で返した。
「そっか~・・そうだよね~」と蘭が満開で納得した。
太平洋の波の乱反射で、蘭の横顔が輝いていた、全てを受け入れているようだった。
自分との和解の日も近いのだと感じていた、私は幸せを感じながら蘭を見ていた。
『将来・・蘭父さんと蘭母さんの存在を、誰が一番喜ぶのか・・それは確信したよ』と笑顔で言った。
「えっ!・・誰かな~」と蘭が二ヤで探りを入れてきた。
『間違いなく・・シズカだよ。
シズカが2人に出会えば、泊まりに行くよ・・オヤジさんの考えと合うから。
シズカは自然児なんだよ、環境に凄くこだわるんだ。
律子の妹・・ようするに叔母に当たる人が、綾の山手の方に住んでて。
シズカは集中したい時は、そこに泊まりに行くんだ。
教室のスロープの時も、美由紀の車椅子の時もね。
でも叔母の家には、物作りに興味のある人間がいない。
だから前までは、俺を無理やり連れて行ってた。
煮詰まると・・誰かに話したいんだよ・・愚痴を聞いて欲しいんだ。
でもその相手は、絶対条件として・・物作りが好きな相手じゃないと駄目なんだよ。
蘭父さんに会った時の、シズカの笑顔が浮かぶよ、その申し分ない環境もね。
次回はシズカを誘うかな・・今はシズカに煮詰まって欲しくないから。
どう思う?・・蘭』
笑顔で前を見てる蘭に聞いた、蘭は満開で微笑んだ。
「泣くよ・・オヤジが・・シズカが家に来て、これどう思うって聞いたら。
もう嬉しくて嬉しくて・・多分、号泣するよ。
私の兄も弟も・・その分野に興味が無かったから。
今日、あんたがすぐに、コンバインのシャフトを押さえた時。
あの時のオヤジの顔・・本当に嬉しそうだったよ。
やっぱり欲しかったんだね・・物作りを語り合う相手が。
その相手が・・シズカだったら、もう養子にくれって言うよ。
私は思ってたの・・オヤジが勝也父さんに会ったら、どれほど喜ぶのかって。
そして母が・・律子母さんに会ったら、なんて言うのかってね。
楽しみでしょうがないよ・・その前にシズカに会ってもらおう。
絶対にオヤジはシズカの部屋を用意するよ、いつでも遠慮なく来れるように。
そして母が嬉しそうにシズカと話す姿が見える、私も今、幸せを感じてるよ」
蘭が嬉しそうに満開で微笑んだ、私も笑顔で頷いた。
『そうなると・・分かる?・・誰が訪ねるのか~・・多分シズカは最初に、車椅子を考えるから』と蘭に二ヤで言った。
「えっ!・・まさか・・豊が実家に来る!」と蘭が驚いて言った。
『絶対来るよ・・豊兄さんは、中型バイクも持ってるし・・1時間の道のりなんて、楽しんで来るよ』と笑顔で返した。
「それこそ号泣する・・オヤジが豊を感じれば」と蘭が満開二ヤで返してきた。
『俺もそれは確信してる・・あの存在に触れれば、オヤジさんは感じるよ』と笑顔で言って海を見ていた。
「私ね・・ハルカの実家に、あなたが同行した話を聞いてて。
想像してたんだけど、でも私の両親が相手じゃ、さすがのあなたも緊張すると思ってた。
またしても裏切られた、感動したよ・・嬉しかった。
欲しいものはないかと聞かれて、即答したあの言葉・・忘れられないよ。
どんな素敵なプロポーズの言葉より、強く響いたよ。
オヤジの後悔を外してから、言った言葉だったから。
私はもう大丈夫だよ・・でも私の父と母も頼むね、感じていてあげてね。
もう一度だけ言うね・・私にはもちろん、父にも母にとっても。
あなたは誰かの代わりじゃないよ・・それだけは覚えていてね」
蘭が優しく囁いた、私は笑顔で頷いた、満開を見ながら。
その年の11月に、シズカを誘って蘭の実家を訪ねた。
私はその前に、稲刈りの手伝いにも来ていて、もう両親とは仲良くなっていた。
シズカを紹介して、オヤジと母親の笑顔を見ていた。
シズカがいきなりオヤジに、コンバインを運転させてと笑顔で言った。
庭でコンバインの操作を教える、楽しそうなオヤジを母親と縁側で見ていた。
シズカは案の定、蘭の実家を気に入り、冬休みに泊まりに行っていた。
そしてオヤジと2人で、必死になってYUTAKAⅢに取り組んだ。
母親が宮崎に出てきて、律子に会わせると・・すぐに意気投合した。
その時に、母親が教えてくれた。
「主人はやっと生きがいを見つけました、シズカちゃんのおかげで。
物作りの好きな人間にとって、最も重い取り組むべきテーマを、提示してくれました。
2人で交互に車椅子に乗って、話し合う姿を見て・・私は本当に嬉しかった。
そして豊という、素晴らしい青年が訪ねて来てくれた。
主人も私も感動してました、その強い想いを感じて。
そして娘が連れてきてくれました、美由紀ちゃんを・・主人の心は完全に魅せられました。
美由紀という強い生き方に触れて、そして美由紀にありがとうと微笑まれて。
自分の部屋で号泣してました・・俺は幸せだと言いながら。
形有る物を残したい・・そのずっと抱えていた夢に、最高の形で取り組める事が。
その想いを豊やシズカが感じてくれる事が、そしてなにより。
美由紀が喜んでくれる事が、その笑顔を見れる事が・・生きがいになったようです」
母親は嬉しそうに笑顔で言った、律子も嬉しそうな笑顔で返した。
私は思い出していた、オヤジが話してくれた沢山の事を。
植物を命として育てる男の言葉を、オヤジが大切な経験をさせてくれた。
人として生きる事は、命を摂取する事だと、ミノルと同じ言葉で話してくれた。
未熟な私に伝えてくれた、大切なバトンを繋いでくれと言うように。
ケンメリで玉砂利を進むと、見覚えのある軽自動車とフォルクスワーゲンが止まっていた。
蘭と笑顔で降りて、本堂に向かった。
ユリカと美冬が瞑想していた、静かなる空間が出来ていた。
ユリカの正座する姿に、見取れていた、その静寂さえ連れている姿に。
蘭は和尚に笑顔で挨拶をして、本堂のユリカの横の座布団に正座して目を閉じた。
その姿に迷いが無く綺麗に背筋が伸びていた、美しい横顔を見ていた。
「何をやったのかの・・蘭は段階が上がったの」と和尚が笑顔で言った。
『うん・・今日実家に行って来たよ、久しぶりに父親と会ったからかな』と笑顔で返した。
「そうじゃったか~・・さすが蘭よの~・・あのユリカの横には、中々座れんぞ」と和尚が微笑んだ。
『確かに・・ユリカは静寂の中にいるね、瞑想してたのか~・・どおりで波動が来なくなったわけだ』とユリカを見て言った。
「小僧~」裏口から美由紀の声がした、私が開けると美由紀が微笑んでいた。
『美由紀・・瞑想か』と笑顔で言った。
「うん・・黒いケンメリが見えたから」と笑顔で言った。
私は後ろから歩いてきた、母親の節子に俺が送っていくと伝えて、美由紀を抱き上げた。
美由紀は荘厳な光景を見て、笑顔で私に頷いた。
私は蘭の横に美由紀を座らせた、そして美由紀が瞳を閉じた。
美由紀はもちろん正座は出来ないが、その座る姿勢は、和尚も認める美しさだった。
「素晴らしい光景じゃね~・・これにユリがおれば、完璧じゃよ」と和尚が嬉しそうに言った。
『しかし、美冬も熱心だね・・形になってきたね、雰囲気が出てきたよ』と和尚に言った。
「あの子が教師を選んだ・・それだけで、希望になるぞ」と和尚が言った。
『そうだね、伝えるよ・・美冬は大切な事を』と笑顔で返した。
最初に美冬がが終わった、蘭と美由紀の存在を見て驚いていた。
「ちょっと~・・あれが噂の美由紀ちゃん?」と美冬がが来て笑顔で言った。
『そうだよ・・凄いだろ~』と二ヤで返した。
「待ってるから・・紹介してね、どうしても知り合いたい」と微笑んだ。
『もちろん、良いよ・・でも長いかもよ』と笑顔で返した。
「自信無くすよ・・かなり近づいたと思ってたのに。
ユリカさんと蘭姉さんだけでも無くすのに・・あの美由紀ちゃんの姿は、圧倒的だよ」
美冬が3人を見て言った、美由紀をじっと見ていた。
『美由紀の瞑想は、別世界だからね・・乗り越えた物が違いすぎる』と笑顔で言った。
「よく分かるよ・・そして感じたいと思うようになったよ」と美冬が微笑んだ。
その次にユリカが瞳を開けて、隣の蘭と美由紀を見て驚いていた。
爽やか笑顔で歩いて来た、私はユリカに微笑んだ。
「来たね~・・いよいよ、ニュー蘭の発進だね」とユリカが微笑んだ。
『うん・・俺も楽しみだよ』と笑顔で返した。
「しかし美由紀・・どんな世界に棲んでるんだろう・・あの若さで、気配すら無いよ」とユリカが美由紀を見て言った。
「和尚様の見解は、どんな感じですか?」と美冬が笑顔で聞いた。
「美由紀は囚われなくなった・・全ての事柄に。
人はどうしても欲があるよの~・・それは仕方ない事なんじゃよ。
生きる上で、何らかの目標を持ってないと、人は前に進めんのだから。
しかし美由紀はそれを捨て去った、全く欲が無いんじゃよ。
こうありたいとか、こうなりたいすら今は無い・・ただ美由紀でいたいんじゃ。
自分でいることだけが、美由紀の望みなんじゃよ。
両足の無い・・車椅子に乗る・・美由紀であり続けたい。
その強い想いが、あの姿を作る・・美由紀は瞑想で捨て去る。
立って歩きたいとか、健常者ならどうこうとか・・全ての願望を。
だからこそ・・周りに響く・・勇気を与える。
失敗も挫折もさせない・・それは全て、得られなかったというだけの事だから。
成功など幻想だと笑い飛ばす、たかだか何かが欲しくてした事だろうと。
金や物や名誉や権力や・・様々な何かが欲しかっただけの行為だろうとね。
その強い想いに、何かを返せる者は・・滅多に存在しない。
だからこそ、美由紀は小僧に執着するんじゃ。
小僧はそんな欲求で生きていない、貴重な人間だからな。
小僧が見せ続ける、命と向き合う行為・・それだけが美由紀の興味なんだよ。
何も欲しない、美由紀が・・唯一その先が見たいと願う事。
小僧が関わる・・あらゆる個性の子供達の、行く末だけなんじゃよ」
和尚は静かに言った、私は美由紀を見ていた。
静寂の本堂に、夕方の風が流れ込んできた、微かな秋の匂いを連れて。
女性達の想いを包みながら、本堂を吹き抜けて行った。
私が話した進化の話は、私が乳児と触れ合い感じた事だった。
生命の神秘を感じて、そう考えるようになったのだ。
その乳児達の想いを感じて、最初に陸に上がった生命の存在を感じた。
不思議な事だと思っていた、羊水の中で成長する事が。
確かに学術的に言えば、そうなんだろうと思う。
しかしなぜ・・水の中で育てるのか、そう思っていた。
そして導き出したのが、進化の歴史を体験させるという物語。
私は今でもそうであると、自分では思っている。
私は触れ合ったことがあるから、進化を出来ずに感情を持った人間に。
その純粋さに触れて感じたのだ、進化する過程で道を間違えたのだと。
文明の発達は便利を求めた、それに付随して欲が産まれた。
それは悪いことではない、しかしその欲は間違った方向に進みやすい。
人間だけであろう、欲などの為に、同じ種類で殺しあうのは。
武器は日々進歩していく、その速度の競争をする。
それにより傷ついた人を乗せる、車椅子は進歩が極めて遅かった。
私はその矛盾に嫌悪感を覚えた、下手な嘘を繰り返す社会にも。
私は映像で思い出す、庭で暗くなるまで語り合う。
ツナギを着た、オヤジとシズカの姿を・・その理想を出し合う光景を。
物を作り出し・・進歩させる・・その本質を。