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自立への想い

深夜の静寂が存在しない場所、ネオンに彩られた街。

探そうと思えばそれは存在する、しかし多くの誘惑に遮られている。

覚悟を決めて突破するしかない、流されだすと止まらない。

金を稼ぐだけの行為は、何かを磨り減らす・・大切な何かを。


「しかし巡り合わせとしても、確かに3人が同じ担任を経験するのは・・低確率だね」とユリカが爽やかに微笑んだ。

「エースだけは、決定事項ですけどね」とマキが笑顔で言った、大人の色気が少し出てきていた。

「決定事項なの?・・担任が」と蘭が満開で聞いた。


「はい・・清次郎先生が、美由紀の担任を3年間引き受けると宣言して。

 それであの卒業制作の許可を、校長から取りました。

 清次郎先生は・・あと2年半で、定年退職です。

 だから人事移動はもう無いそうなんですよ、だから宣言できたのでしょう。

 その時の校長も話が分かる人で、条件を出しました。

 美由紀だけでは駄目だと、小僧も3年間引き受ければ了承すると言ったそうです。

 小僧はなんせ有名人でしたから、中学に入る前から、中学の教師達の話題の的でしたね。

 清次郎先生は、豊君が中学に入る時に、移動で今の学校に来ました。

 そして豊君の担任を3年間して、昨年私達トリオとヨーコの担任でした。

 私達3人が同じクラスになれたのは、産まれて初めてだったんです。

 私達の中学は1学年、8クラスも有るんですよ。

 それなのに、3人が同じクラスになれた・・奇跡ですよね。

 でも奇跡じゃなかったんです、清次郎先生が提案していたらしいんです。

 最後のチャンスだから、3人を同じクラスにしてやろうと。

 自分が担任を引き受けて、進学も就職も責任を持って面倒見ると言ったそうです。

 私達は卒業式の日の朝に、律子母さんから聞きました・・本当に感謝しました。

 恭子は号泣してました・・清次郎先生が、豊君との結婚を後押ししてましたから。

 清次郎先生の唯一の心残りは、私だったと思います。

 中途半端なままで卒業したから、だから今夜嬉しかったんです。

 リアン姉さんと清次郎先生の話を聞いて、清次郎先生が私に頑張れと言ってくれたから。

 あの人がいたから、私達も豊君も道を間違えなかった。

 清次郎という偉大な教師の、教職の集大成が・・最後にして最大の問題児。

 小僧です・・そして最高の生徒、美由紀でしょうね。

 今回の小僧と蘭姉さんの同棲は、清次郎先生が担任でないと不可能でしたね。

 先週私達は3人で、清次郎先生を訪ねました。

 そしてシズカが強く言いました・・両親が認めたら、清次郎先生も認めて欲しいと。

 真剣に頼みました・・絶対に教師としては、認められない事と知りながら。

 清次郎先生は笑顔で言いました・・それ位で驚かんよと、笑っていました。

 律子母さんの言葉と同じでした、その優しい笑顔で、シズカに言いました。

 ワシは教職最後の3年間が、教師の卒業試験だと思ってるよ。

 今まで触れ合った全ての生徒の想いを感じて、取り組んでいるよ。

 勝也と律子が了承すれば問題無い、小僧はそんな場所に元々存在しないよ。

 私はどこまで許せるかと問われておる、小僧という存在で。

 今までの、全ての生徒達の問いかけを感じておる、生徒を本当に信じているのかとな。

 だからワシは真っ向勝負するんじゃ、今までの教師としての後悔を払拭するためにも。

 最後にして最高の楽しみを与えれれた、教師冥利に尽きるよ・・小僧という存在は。

 そう強く言ってくれました・・今夜PGに清次郎先生が来店した意味。

 それは蘭姉さんに許可を与えたのだと思います、小僧に対し保護者以上である許可を。

 リアン姉さんと、豊君と私達と・・清次郎先生が関わった、全ての生徒の想いを背負って。

 今夜来たんだと思います・・そして蘭姉さんに会って、喜びを感じていたと思います。

 弟さんを亡くされた、その悲しみにも・・先生は触れたと思いますよ。

 そして許可を与えましたね・・蘭姉さんにも・・夜街にも。

 教師としてだけでなく・・人間・・林 清次郎として」


強かった、マキの感謝の言葉が響いていた、リアンはユリカに抱かれて泣いていた。

蘭は満開笑顔で、涙を流していた・・そしてシオンがマキを見ていた。

そのシオンの美しい瞳に、マキの真剣な瞳が映っていた。

「ありがとう、マキ・・私は本当に嬉しいよ、今の全てに感謝できるよ」と蘭が満開で微笑んだ。


「強かったよ・・さすがマキだね、やはり全員が感じてる事は間違いじゃない。

 マキこそが、リアンの再来・・熱い心を、無変換で言葉にできる。

 蘭に弟の事を、言葉にして言える・・それは愛に溢れているから。

 リアンは今・・喜びの中にいるよ、マキの本質に触れて。

 そしてそのマキが・・シオンを全面的に信頼して、全てを委ねている事に。

 エースも認めた・・シオンの変化を促してるのは、マキだね。

 これからも自分らしくやってね、私もリアンも蘭もシオンも付いている。

 マキらしくやってね・・そこんとこ、よろしくと言えるマキのままで」


ユリカの言葉が優しく響いた、マキも嬉しそうな笑顔で頷いた。

リアンはこれ以来、マキを妹のように接していく。

シオンが海外に行くようになった時に、リアンを心を支え続けたのもマキである。

この2人の会話は、聞いていて楽しかった・・無変換の会話が響いていたから。


5人で店を出て、シオンが車だったので、リアンとユリカとマキを乗せて帰った。

私と蘭は駐車場で、手を振って見送った。

蘭は強く腕を組んでいた、その喜びの中に咲く満開を見ていた。

タクシーに乗ると、蘭が肩に乗ってきた。


「明日はいよいよ会えるね、ミホと沙紀と由美子に」と満開で微笑んだ。

『うん・・蘭父さんと蘭母さんにも』と二ヤで返した。

「そうだった・・母さんご馳走作るって張り切ってたよ」と二ヤで返された。

『それは楽しみだ~』と笑顔で返した。

「私も楽しみ~・・病院が」と笑顔で言った。


『蘭・・あれから病院に行って、沙紀を由美子に会わせたんだ。

 2人は交信できたみたいで、沙紀がどうしても描きたいと言って。

 由美子の絵を描いていた・・俺は直視出来なかったよ。

 沙紀は多分・・瞳の開いた由美子を描く。

 沙紀はその相手の内面を描くんだ、それは問いかけなんだと思う。

 俺が沙紀に伝えたい事は、嬉しくて流す涙も有るという事なんだよ。

 沙紀が言ったんだ・・絵を描くのは、その相手の嬉しいを知りたいからだって。

 蘭、手伝ってね・・嬉しいの本当の意味を伝える事を。

 それが沙紀の自立に、大きく役立つと思ってるから。

 蘭の次にシオン・・そして美由紀に会わせる。

 美由紀に会う時には、もう少し前向きにさせていたい。

 美由紀はステップアップを要求するから、その権利を持っているから。

 障害を乗り越えた経験で、その権利を獲得してるからね』


蘭の耳元に優しく囁いた、蘭が私を見た。

「うん、嬉しいよ・・美由紀の話、どうして寝物語に出てこなかったのかな~」と笑顔で言った。

『美由紀には・・蘭に会って欲しかったから、だから先入観を持たせたくなかったんだよ』と笑顔で返した。

「やっぱりね・・清次郎先生と美由紀に会える、参観日が楽しみだよ・・私もユリカ姉さんも」と言って瞳を閉じた。

強く暖かい波動が喜びを表していた、静寂が支配する、深夜の国道10号線で。


アパートに着き、蘭を抱き上げた、久々のトロン蘭が笑った。

私は笑顔で2階に上がり、部屋に入って洗面所で蘭を支えた。

化粧を落とした蘭を、真っ暗な部屋で着替えさせて、ベッドに寝かせた。

私は蘭の服をかけて、カーテンを閉めたまま、窓を開けた。

爽やかな夜風が入ってきた、微かに秋の香りがしたような気がした。


『りゃん・・お待たせ~』とベッドに行くと、やはり蘭は爆睡していた。

私は蘭を腕枕して思っていた、親父の許可を私が取るまでは、不安だったんだろうと。

いつか居なくなるのではと、感じていたのだろうと。

可愛い寝顔を見ながら、そう思っていた。

愛しい蘭の額にキスをして、幸せな気分で眠りに落ちた。


さすがに翌朝起きたのは、7時を過ぎていた。

学校が始まって、疲れていたのかと思っていた。

蘭は熟睡中で、私はシャワーを浴びて着替えた。

朝食にお粥と卵焼きを用意して、部屋で日記を書いて宿題をしていた。


9時近くになり、蘭を覗くとベッドに座っていた。

『蘭・・おはよう、まだ眠そうだよ』と笑顔で言った。

「大丈夫だよ・・気分は爽快」と満開で微笑んで、シャワーしてくると言って洗面所に消えた。

私は朝食の準備をして、新聞を読みながら蘭を待っていた。


スポーツ新聞のコラムに、銀座VS六本木という記事があり読んでいた。

その両地区の歴史と、今の時代背景が書いてあった。

シリーズ1とされていたから、連載物だと思っていた。


「そんなに興味のある記事があるの?」と蘭が覗き込んだ。


『昨日ね・・ある大物に招待されて、共同体の話をしたんだよ。

 その時に六本木の話を聞いて、少し興味を持ったんだ』


蘭を見上げて笑顔で言った、蘭も記事を見て満開笑顔になった。

「大物を述べよ」と蘭がテーブルに座りながら言った。

『ドン小林』と二ヤで返した。

「うそ!・・それは凄すぎるね~・・爺ちゃん元気だった?」と満開笑顔で返された。

『元気だよ、現役って感じで、圧倒されたよ・・さすがに蘭はお知り合いだね』と笑顔で返した。

「2年前まではPGにも来てたからね・・糖尿が悪化して、最近は飲まないみたいだけど」と蘭が言った。

『あの体系なら・・糖尿は頷けるよ』と笑顔で返して、朝食を食べた。


「小林の爺ちゃんは、夜の生き字引だからね・・話し面白いでしょ」と満開笑顔で言った。

『うん・・マキの母親の真希さんも、話に出たよ・・やっぱり凄かったんだね』と笑顔で返した。

「私でも知ってる伝説だからね・・マキを見てると、納得できるよ」と満開継続で言った。


『最近のマキの変化に追いつけない、覚醒速度が速すぎる、やっぱり遺伝なのかな・・深層の記憶に眠る物が、出てきた感じだよ』と返した。

「今からのリアン姉さんが楽しみだよ~・・昨日のマキを見る目の炎は、尋常じゃなかったから」と蘭が言った。

『シオンとマキの関係うんぬんより、その無変換の言葉に反応したんだよ・・リアンと同じだからね』と笑顔で返した。

「そうだと思う、リアン姉さんは初めて会ったんだよ・・自分と同じ匂いの女に」と蘭が満開で微笑んだ。

『確かに・・シオンは真逆だしね』と笑顔で返した。


蘭が準備をする間に、食器を洗い日記を書いていた。

蘭はご機嫌で満開を継続していた、実家に帰るのを全く意識していなかった。

「先に病院で良いの?」と蘭が聞いた。

『うん、もう時間的には、大丈夫だよ』と笑顔で返した。

「何もいらないよね・・次に何か考えるよ、足のサイズを見とくね」と満開で微笑んだ。

『うん、俺もミホに熊さんパジャマを、買っあげなくちゃ』と返して、満開蘭と出かけた。


夏の日差しが強く、しかし酷暑ではなかった・・爽やかさが意識できた。

ケンメリを病院の駐車場に止めて、4階に行き記名してミホの病室を訪ねた。

沙紀がベッドの横で自分で薬を飲んでいた、私は嬉しくて沙紀に声をかけようとしたら。

沙紀が私と蘭を見て、蘭に駆け寄った。

蘭は自然に沙紀を抱きしめて、満開笑顔で自己紹介をしていた。

私は沙紀をベッドに座らせて、満開の蘭を椅子に座らせた。


ミホのベッドに行くと、ミホは窓際に立って外を見ていた。

『ミホ・・何見てるの~?』と声をかけて隣に立ちミホの視線の先を見た。

吹奏楽部であろう、制服の女子高生達がバスに乗り込むのが見えた。

『吹奏楽部だね・・演奏に行くんだよ、俺の友達にピアノの上手な子がいるよ』とミホに笑顔で囁いた。

ミホは私を見て、右手を出した、私は右手を握って話していた。

その時に感じていた・・ミホは音楽が好きなのだと、TVも音楽番組をよく見てると思っていた。

『OKミホ・・俺が関口先生の許可もらって、今度ピアノを聞かせてあげるよ』と笑顔で言った。

ミホをベッドに座らせて、手を握って久美子の話をしていた。

ミホはずっと私を見ていた、その時に蘭が満開笑顔でやってきた。


『ミホ・・紹介するね、蘭さん・・ミホとお話したくて来たんだよ』と言って、蘭と代わった。

蘭は満開笑顔でミホの手を握って、自己紹介をしていた。

青い炎が意識できるほど強く出ていた、私は蘭に笑顔を向けて沙紀のベッドに行った。

沙紀の横に座り、手を握って驚いた・・温度の揺れの喜びに。

『沙紀の嬉しいを、また見つけた』と笑顔で言った。

《うん、嬉しい、蘭ちゃん素敵、温かいね》と沙紀が答えた。


『そうなんだよね・・沙紀・・沙紀を由美子ちゃんといつでも会えるようにするから。

 遊びに行ってあげてね、でも沙紀がお姉ちゃんなんだから。

 少しづつ何回か行ってね、長い時間お話すると。

 由美子はまだ疲れるからね・・お願いね、沙紀お姉ちゃん』


私は沙紀に優しく伝えた、沙紀は嬉しそうだった。

《うん、わかった、沙紀がお姉ちゃんだから、気をつける》と返してきた。

『さすが、沙紀お姉ちゃん』と私は沙紀が喜んだので、お姉ちゃんを強調して伝えた。

《小僧ちゃんから、見せて、由美子ちゃんの嬉しい出たら、あげてね》と沙紀がスケッチブックを出した。

私は笑顔を意識して受け取り、少し震えながら開いた。


私の想像を遥かに超えた、圧倒的な生命力が溢れていた。

深緑の深い緑を、その濃淡で表現して、光と影のコントラストまで緻密に彩られ。

その場所を吹きぬける風まで感じられた、その緑の高原に立つ由美子は。

立ち上がり右手で風に靡く髪を押さえて、微笑んでこっちを見ている。

緻密すぎると思うほどの描写で描かれた、その表情が少女の魅力を発散していた。

由美子の瞳は美しく開き、緑の風景の中で少しの緑を映していた。

可愛く大きな瞳と微笑を浮かべる唇、風に靡く髪まで繊細に描かれていた。

そして由美子の全体像から発せられる、その生命力の強さに驚いていた。

沙紀の描きたかった物・・それが全体から溢れ出ていた。

それは生命力なのだと確信できた、私は感動の中にいた。

沙紀は由美子の嬉しいだけでなく、由美子を見守る全ての人の嬉しいを描いた。

私は必死に笑顔を作り、沙紀を見ていた、俺も嬉しいよと何度も心で囁いて。

強く暖かい波動が、何度も何度も押し寄せて、沙紀は瞳を閉じてそれを感じているようだった。


『沙紀・・由美子は絶対嬉しいよ、由美子の周りの人達もね』と優しく伝えた。

《うん、ユリカちゃんも嬉しいんだね》と返してきた、私は感動していた。

『うん、ユリカの空気の波も、嬉しいって言ってるね』と笑顔で返した。

強烈な波動が何度も来て、沙紀は嬉しそうだった。

《じゃあ、小僧ちゃん、今日の分描くね、青の蘭ちゃん》と沙紀が嬉しそうに言った。

『うん、ありがとう沙紀、楽しみにしてるね』と言って、由美子の絵を慎重に外して、沙紀にスケッチブックを渡した。


沙紀は色鉛筆を出して、当然のように青を握り、一気に描き始めた。

私は絵を見ないようにして、蘭を見た、蘭が私の視線に気づき頷いた。

ミホに何かを告げて、こっちに歩いて来た、私はミホにまた明日と伝えて病室を出た。


廊下に出ると蘭が満開笑顔で私を見た。

「聞こうかな~・・どうしようかな~」と満開ニヤニヤで私に言った。

『蘭・・ミサの話術を使うのは、やめなしゃい』と二ヤで返した。

「沙紀ちゃん・・何を描いてたの?」と蘭が期待の眼差しで聞いた。

『蘭・・お楽しみに、青の女を描きたいって言ってたよ』と笑顔で返した。

「嬉しい~・・どうしよう、楽しみで楽しみで」と最強満開笑顔で言った。

私は蘭の喜びを感じて、嬉しくなって笑顔で頷いた。

その時に声をかけられる、面談室のドアが開いて、婦長が微笑んでいた。


「蘭ちゃん、ありがとう・・今、お2人少し時間あるかしら」と婦長が笑顔で言った。

「こんにちわ・・大丈夫ですよ」と蘭が満開で返した。

婦長に招かれて、面談室に入った。

院長と関口医師と北斗と母親に沙紀の母親が、笑顔で迎えてくれた。

私は沙紀の母親と、北斗の母親に蘭を紹介した、互いに笑顔で挨拶をして。

蘭が北斗の隣に座り、私がその横に座った。


「ありがとう蘭さん・・小僧ナイスタイミングだったよ」と関口医師が笑顔で言った。

『怖いですね~・・ナイスな事が』と笑顔で返した。


「うん・・実は、君のヒトミに対する、段階構想を聞いてね。

 それと君が婦長に依頼した、沙紀と由美子の話も考えたんだよ。

 私も両者の良い刺激になると思ってね、今日お互いの保護者も交えて話していたんだ。

 君の考えなら、同意すと言ってくれているんだけど。

 話してくれないかね・・本心を、沙紀と由美子に君が考えている事を。

 君がヒトミの時に言った、全員が治ると思わないと駄目なんだと言った言葉。

 小3の少年が、強く言った言葉が・・私には今でも響いている。

 教えてくれ・・蘭さんの前で君が話すのなら、絶対に偽りじゃないと思うから」


関口医師は真剣に、私を見て言った。


『俺は・・ミホは別問題として、沙紀と由美子が好きだから。

 だから触れ合っています・・俺の沙紀と由美子に対する考えは。

 自立です・・将来の自立、それを考えたい。

 由美子に対してでも、そうなんですよ・・自立を視野に入れている。

 そう強く思っています、治るなんて次元の話じゃない。

 俺は由美子本人に対して、自立を促してみせる。

 そうすれば、由美子は病を克服する事以上の希望を抱く。

 俺は・・ヒトミとの関係で、後悔してる事があります。

 俺もどこかでヒトミが治らない、もう時間が無いと思っていた。

 ヒトミ自身もそう言っていたから・・それが間違いだった。

 それを受け入れたらいけないんだと、今は感じています。

 あれから沢山の経験をして、教えられた。

 人の生命を支えてるのも、心なんだと。

 だから俺は本心で由美子に見せます、絶対に諦めないという姿を。

 由美子には見せ続ける、そして由美子に弱音は吐かせない・・最後まで隣を泳ぐ。

 原因不明で完治すると信じ続ける、だから今から自立を考える。

 そして沙紀・・圧倒的な才能は別の事として、自立を考えます。

 沙紀は充分自立出来ると感じます、俺はあの個性は絶対に自立出来ると思っています。

 だから前向きでいさせる・・心は常に前向きでいさせる、それが大切です。

 自閉症の最大の問題、傷つくことに過敏に反応してしまう。

 純粋すぎるから、それでパニックを引き起こす。

 冗談と本気の意味が理解しずらいから、勘違いでも深く傷つく。

 だから徐々に免疫を作っていく、その為に私のたった一つの武器。

 美しく輝く女性達を見せ続ける、沙紀は相手の内面を見る・・そして描く。

 その女性達の心の傷にも触れる、それで絶対に沙紀は感じる。

 恐れなくていいんだと、傷ついても・・美しく輝いて生きれるんだと。

 そこまで持って行きたい、その為に最善策を用意してます。

 俺は沙紀と由美子の関係に対しては、何の意図もありません。

 ただお友達を作ってやりたかった、あの2人なら友達になれると思ったから。

 2人はなりましたよ、仲良しの友達に・・その証拠をお見せします。

 これが沙紀が描いた、大切なお友達の・・由美子です』


私は笑顔でそう言って、テーブルの上に由美子の絵を置いた。

完全なる静寂が包んでいた、強烈な波動が来た、北斗の喜びをユリカが感じたのだと思った。

北斗と母親の号泣を見て、沙紀の母も貰い泣きしていた、蘭も絵に吸い寄せられていた。

院長が目を潤ませていた、関口医師も婦長も優しい瞳で見ていた。


「よし・・了解した、保護者の同士の同意もあるのだから。

 沙紀ちゃんと由美子ちゃんを自由に会わせよう、由美子の体調のチェックを万全にして。

 私達も信じよう・・私は今、確信している・・私も由美子の自立を考える。

 関口君や他の医師以外は、ナースも基本的な考えは・・自立を促す方向にする。

 小僧・・良い説明だった、関口君にだけ段階の説明をしながらやってくれ。

 どんな文献や医学書よりも、この一枚の絵に真実がある。

 由美子の真実が描かれている、これを病室に飾って下さい。

 それを見て、自分の心を皆で確認しよう・・自立を目指しているのだと」


院長が強く言葉にした、全員が笑顔で頷いた。

「小僧・・早急の依頼は何かあるかね?」と院長が笑顔で言った。


『はい・・ミホと沙紀の外出許可を頂きたいんです。

 今日感じて・・ミホは音楽が好きなんだと思いました。

 沙紀には前から会わせようと思っていました。

 今PGの専属でピアノを弾いてる、久美子と言う女子高生がいて。

 その奏でる音が、響くんですよ・・内側に、魂の音色が響くんです。

 だから2人に聴かせてあげたい、言葉などでは伝えられない。

 その音楽という圧倒的な力で、心に直接伝えてみたい。

 それが出来る女子高生が、今存在します・・私は絶対の自信があります。

 久美子なら・・直接心に語りかけると、強く優しく囁きかけると。

 だから平日の夕方で良いですから、外出許可を2時間ほど頂きたいのですが』


私は院長を見ながら、真剣に言った。

「院長先生、私も保証しますよ・・久美子なら必ずやれます」と蘭も真顔で言った。

「同じく、私も保証しますよ・・絶対に心に響かせます」と北斗が言った。

「よし、許可しよう・・ただし条件として、医師とナースで聞きたい者の同行を認めてくれればね」と院長が笑顔で言った。

『もちろん良いですよ、院長も歓迎しますよ』と笑顔で返した。

「もちろん行くよ、ワシも音楽は大好きだからね」と嬉しそうに笑った。

「大人数になりますよ、夜勤の組がスネるかも」と婦長が微笑んだ。

『もちろん、一度だけだと言ってませんよ・・継続こそ意味がありますから』と笑顔で返した。


窓から侵入している陽射しが、優しく暖かかった。

私は蘭の満開を感じながら、ヒトミの存在を感じていた。

ユリカの喜びの波動に乗って、温度の揺れが伝えてくれた。

ヒトミの言葉を・・【がんばれ、最後の挑戦者】・・そうヒトミが優しく伝えてきた。

ヒトミとユリアが波動に乗って駆け抜けた、由美子の待つ病室に向かって・・。


蘭がこの出会いで感じたものは、大きかった。


蘭は心に従う・・だからこの後、ミホと沙紀と由美子に触れ合い続けた。


ミホが自我を取り戻した時に、全ての事を蘭とユリカで教えた。


女性として生きる為に・・ユリカが去った後は、PGの女性達が伝え続けた。


そして特例措置として、ミホは17歳で高校に入学したのだ。


それに大きく力を貸してくれたのは、亡き清次郎の教え子達だった。


清次郎の人生最後の生徒・・ミホの為に、人力を尽くした。


清次郎はミホに1対1で勉強を教えていた、その情熱は恐ろしいほどだった。


清次郎は自分の癌を告知されていた、だから最後の生徒としてミホを選んだ。


ミホは今でも清次郎を父ように想っている、その厳しく優しい愛に感謝している。


清次郎の通夜の会場に、私と蘭が着いた時に、叫び声が聞こえた。


「お父さん・・お父さん」と泣き叫ぶミホの声が。


ミホの横で美由紀がミホの手を握り、反対側でマキがミホを抱きしめていた。


会場は涙で溢れていた・・ミホの悲痛な叫びが、心に響いていた。


出棺の挨拶で、清次郎の妻が言った。


清次郎は幸せな人間でした・・教職最後の年に、美由紀を送り出し。


人生最後の生徒で・・ミホに出会えたのです。


これ以上の幸せがあるものかと、常日頃言っていました。


今ここに集まって下さった、多くの大切な教え子の皆さん・・本当にありがとう。


あなた達のおかげで、清次郎は幸せな人間でした・・妻は最後に笑顔を見せてくれた。


1000人以上の参列者が、清次郎の人格を証明していた。


長いクラクションを鳴らし、走り出した霊柩車に向かい・・全員で叫んだ。


「ありがとう、清次郎」と叫んでいた・・全ての教え子が、中学生の心のままで・・。


リアンとマキで、美由紀とミホを囲んでいた・・4人にはもう・・涙は無かった。








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