SAKI & YUMIKO
選ばれた人間がいるのだろうか、はっきりとした根拠は無い。
しかし確かにいると感じさせる者がいる、途方も無い低確率の中で選択された者が。
それが幸せな事なのだろうか・・その答えは、本人の生き方にかかっている。
私は関口医師と別れて、ミホの病室に行った。
沙紀のベッドには誰もおらず、奥に進むとミホが夕食のトマトを見ていた。
『あ~・・ミホ、トマトだけ残して・・美味しいのに』と笑顔で言った。
私は知っていたのだ、ミホは赤い物は口にしない事を。
ミホは私を見ると、食器の乗ったお盆を少し押した。
『良いの~・・ラッキー』と言って笑顔でトマトを食べた。
ミホが私を見ているので、最高に美味しそうな表情で食べて見せた。
私はお盆を廊下の配膳カートに戻し、ミホの前に座って手を握った。
ミホは夕暮れの街を見ていた、私は独り言のようにPGの話をしていた。
ミホは何も返して来ないが、拒絶もしていないと感じていた。
私は立ち上がり、ミホの額に手を当てた、ミホは瞳を閉じていた。
これが2人の別れの挨拶になっていた、ミホの体重が私の腕に乗ってきて。
私は優しくミホを寝かせて、カーテンを閉めた。
『おやすみ、ミホ』と笑顔で囁いて、部屋を出た。
由美子の病室に歩いていると、遊戯室で遊ぶ沙紀が見えた。
母親は離れた場所で本を読んでいた、沙紀は2歳と4歳位の男の子と積み木を積んでいた。
3人は意思の疎通が出来てるようで、沙紀も楽しそうだと感じた。
母親と目が合って、笑顔で頭を下げて病室に向かおうとすると。
沙紀が私に気づき立ち上がった、私は遊戯室に入り沙紀を抱き上げた。
《小僧ちゃん・・今日2回目、沙紀、嬉しい》と沙紀が伝えて来た。
『俺もだよ、沙紀・・沙紀、小僧ちゃんのお友達に会ってくれる?』と優しく聞いた。
《会いたい・・奥で寝てる子だね》と返してきた。
私はもう驚かなかった、沙紀と由美子は、私の想像など及ばない世界にいると確信していたから。
『うん・・由美子ちゃん、5歳だから・・沙紀がお姉ちゃんだから、友達になってね』と笑顔で言った。
《うん、早く、行こう》と沙紀が急かした。
私は母親に沙紀を借りると伝えて、笑顔の母親に見送られ遊戯室を出た。
婦長がナースステーションから見ていた、婦長は笑顔で頷いた。
私も笑顔で返して、病室を目指した。
由美子の部屋に入ると、祖母が夕食の弁当を食べていた。
私は笑顔で頭を下げて、由美子の横の椅子に沙紀を座らせた。
私が由美子の手を握った、その温度の揺れの強さに驚いた。
『由美子、お友達を紹介するね、沙紀ちゃん9歳・・お姉ちゃんだから仲良くしてね』と笑顔で言った。
《うん・・やっと会わせてくれたね、小僧ちゃんの意地悪》と返された。
『ごめんよ~・・怒らないでね』とウルで返して、沙紀に由美子の手を握らせた。
『2人とも少しだけだよ、疲れるから・・これから毎日でも会えるんだからね』と2人の手を握り伝えた。
《は~い》と2人の返事が帰ってきた。
私は沙紀の少し後ろの椅子に座って見ていた、暖かい空間が出来ていた。
私は美由紀が初めて、ヒトミに会った時を思い出していた。
あの時と同じ、暖かい空間だと感じていた。
「交信できているみたいね」と後ろから婦長が言った。
『うん、大丈夫だよ・・2人は友達になったよ』と振り返り笑顔で言った。
「狙いは互いの刺激かしら?」と婦長が私の横に来て笑顔で聞いた。
『それもあるけど・・見たいんだよ、沙紀が描く由美子を・・大切なヒントをくれそうで』と2人を見ながら返した。
「私は作品を全て見てるけど、最初の色鉛筆の作品・・あれにも深い意味があったの?」と婦長も2人を見ながら言った。
『ありましたよ・・驚くべき深い意味が・・贈られた女性は、何より大切な宝になりました』と笑顔で答えた。
強く暖かい波動が何度も来て、沙紀と由美子を包んでいた。
「そうなんですね~・・私に出来る事が、何かあるかしら?」と婦長が聞いた。
『婦長から関口先生に、お願いしてもらえますか?・・沙紀が由美子に会う自由を』と真顔で言った。
「了解しました、どんな事をしても許可を取って見せます」と微笑んで、由美子の側に歩いて行った。
由美子の検温を婦長がしてる間も、2人は手を繋いでいた。
暫らくして沙紀が振り向いて私を見た、私は2人に笑顔で歩み寄った。
『仲良くなれたみたいだね、2人とも良かったね』と2人の手を握り優しく言った。
《うん》と2人が同時に元気よく返してきた、その力強さが嬉しかった。
『じゃあ由美子はおやすみ、また明日』と笑顔で言った。
《おやすみ、由美子ちゃん》と沙紀が伝えた。
《おやすみ、沙紀ちゃん・・小僧ちゃん》と由美子が伝えてきて、眠りに入った。
私は沙紀を抱き上げて、祖母に沙紀を紹介して部屋を出た。
沙紀を抱いて部屋に歩いていると、強い伝達で沙紀が言った。
《小僧ちゃんお願い、今から、もう一枚、描きたい》と沙紀が強く伝えてきた。
『今日は土曜日だからスペシャルサービス、でもおやすみの時間には寝るんだよ』と笑顔で言った。
《やった~・・約束、守る》と沙紀が喜びの温度で言った。
『沙紀の嬉しい見つけた』と笑顔で返して、部屋に入りベッドに座らせた。
スケッチブックを沙紀に手渡し、宝物のように仕舞ってある、色鉛筆を出して描き始めた。
下書きは当然のように無く、最初に輪郭を迷い無く描いた。
それだけで由美子だと分かった、次に瞳を描いた、私は慌てて視線を移した。
沙紀が書いた目蓋の稜線は、絶対に開いている瞳だと感じたのだ。
明日の楽しみにと思ったのもあるが、泣いてしまいそうで怖かったのだ。
私は母親にスペシャルサービスと笑顔で言って、沙紀にさよならして部屋を出た。
興奮していた、目蓋の上の稜線を見ただけで、感動していた。
私は爽快な気分で病院を出て、夜街に歩いていた、夕焼けを背に受けながら。
歩いていると一番街の西口に、制服の集団が睨み合うのが見えた、見慣れた中学の制服だった。
緊迫感があったので、私は避けて中央通に入った所で腕を掴まれた。
「目障り・・邪魔だから、散らしてくれよ」と呼び込みの佐々木の爺さんが言った。
『蘭のスパイのくせに』とウルで返した。
「次回1回見逃してやろう」とシワシワ二ヤで返された。
『仕方ないな~・・馬鹿な子供が』と笑顔で言って、一番街に戻った。
2つの集団の向かい側には、見慣れた顔が揃っていた。
ギブスを付けたノリ番長の横に、バルタンが立っていた。
『○中のシマは、若草通りだろうが・・番街に出張ってんじゃねえよ』と私が隣中の集団を掻き分けて前に出て言った。
「げっ!・・いつ転校した」とバルタンが笑顔になって言った。
「聞いてないぞ・・まぁラッキーな事だけど」とノリ番長も笑った。
「なんだ~・・お前」と後ろの奴に肩を掴まれた。
『なんだ~って・・正義の味方でしょ、この場面での登場は』と振り向いて笑顔で言った。
「なめとるんか~・・俺は」と強気に出てくる男を見ていた。
『名前言うの・・そしたら俺も名前言うよ、お前・・俺の肩掴んだんだから』と笑顔で返した。
「セイちゃんまずいよ」と横の男がセイと呼ばれる男に耳打ちした。
セイが私を見た、私は笑顔でセイを見ていた。
『なぁセイちゃん・・こんな所での揉め事は迷惑なんだ、こいつらも引かすから、そっちも引けよ』と真顔で言った。
「分かった、そうする」とセイも真顔で返してきた。
私は笑顔で頷いて、振り向いた。
『じゃあノリ番長、そういう事で・・解散』と笑顔で言って、PGに向かった。
「了解・・帰ろうぜ」とノリ番長が言って、帰る集団に笑顔で手を振って別れた。
私が西橘に入った所で、またも腕を掴まれた。
「しかし相当にやばい男だね~」と腕を組んだホノカが微笑んだ。
『噂が一人歩きするの、ホノカなら分かるでしょ』と二ヤで返した。
「うん・・分かる~・・ホノカは可愛いって噂が、一人歩きしてる~」と華麗に微笑んだ。
『ホノカ・・ジンと付き合わないの?』と笑顔で聞いてみた。
「まだね・・私もジンを好きだよ。
でもジンがホストを辞めるまで、待ってと言ってるの。
けじめを付けて欲しいのよ、私が愛する男ならね」
ホノカは美しい真顔で言った、私は笑顔で頷いた。
『じゃあそれまでは、俺が腕を組んで、抱っこしてやろう』と笑顔で言った。
「お熱添い寝もよろしく」と華麗に微笑んだホノカに、手を振って別れた。
「1回分・・終了」と佐々木の爺さんが大声で言った、私はウルで頷いて、裏階段を登った。
指定席に行くと、久美子が最後の激しい曲を弾いていた。
女性達に緊張感があった、北斗の復活を感じているようだった。
シオンもマキも、フロアーの女性の中にいた。
私は違和感無く存在する、2人のドレス姿を想像したいた。
少しの寂しさを上回る喜びがあって、自分の変化を感じていた。
久美子が弾き終わり、全員で拍手をしている時に、銀の扉が開いた。
純白のドレスを着た北斗が、堂々と3歩進み、神聖な場所に深々と頭を下げた。
女性達の息を飲む音が聞こえるようだった、その深い経験が醸し出す存在感に押されていた。
北斗は顔を上げて、笑顔になって女性の方に歩いた。
サクラさんと蘭が北斗を囲んで、女性全員に笑顔が溢れた。
その時にスカイブルーのドレスを着た、ユリさんが出てきた。
私はユリさんの変化を感じていた、私がPGに来た当初は、白か赤のドレスしか着なかった。
この頃から、多彩な色を着用するようになっていた。
自分に対し飽くなき挑戦をしているようで、その常に前向きな姿勢に憧れていた。
土曜の夜で女性も多く、大きな円を描いた、そこにユリさんが歩いて行った。
「紹介します・・北斗です。
10代で全盛期の大ママに、真っ向勝負を挑み。
PGのオープニングメンバーで、歴史に残る最初のNo1です。
それから1年以上No1に君臨して、私やサクラに夜の女を教えてくれました。
私はこの場所以外では、北斗姉さんと呼びます。
2人にだけ姉さんを付けます・・北斗姉さんと、律子姉さんにだけです。
それは2人の生き方に憧れているから、生きる姿勢に共鳴するからです。
感じて・・そして挑みなさい・・その生きる姿勢を感じて下さい。
では・・北斗、よろしく」
ユリさんの強い言葉が響いていた、北斗は笑顔で返した。
「北斗です、6年のブランクがありますから、新人と思って接して下さい。
私の復活の動機は、おいおい聞かれるでしょう。
でもこの場所に立った以上、私は夜の女を見せます。
私は誇りに思っています、夜の仕事をしていた事を。
それをお見せします・・だから瞬きすらせずに見ていてね。
私は復活劇で・・伝説をもう1つ作りますから」
北斗の言葉が強く響いた、私は驚いていた。
その言葉の表現が、自分に自信と覚悟がないと言えない言葉だったから。
「よろしくお願いします」と北斗が真顔で言って、深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」と女性達も全員で返礼した。
「それでは今夜も開演しましょう」の言葉に、「はい」のブザーを鳴らした。
私は指定席に座り、準備の確認をしていた。
「エース、ありがとう」と北斗が来て微笑んだ。
『お礼はいらないよ、北斗・・俺は再確認したよ、熟れた女が好みだって』と笑顔で返した。
「もっと強く想わせてあげるよ、1週間待ってね」と北斗が美しい笑顔で言った。
『了解・・1週間後、魅宴から始めよう』と笑顔で返して、笑顔で頷いた北斗を見送った。
その日も土曜日の恒例になった、開店時満席記録でスタートした。
北斗はユリさんとサクラさんと蘭に、交互に付いて回っていた。
その魅力は、若手には絶対に手に入らない物だった。
物腰の柔らかさが成熟した女の色気を放ち、微笑みに大きな経験量を湛えていた。
その存在が熱量を上げていた、若手に火が点いて、その若さの魅力で燃えていた。
私は一安心して、シオンの所に行った。
マキが必死でサインを繋いでいた、それをシオンがニコちゃんで見ていた。
『マキ、やるね~』と笑顔で言った。
「話かけないで・・黙ってなさい」とマキが前を見て強く言った。
『シオン・・マキが怖いから、セリカに慰めてもらってくる』とウルで言って、ニコちゃんシオンに見送られて出かけた。
夜街は土曜のスタートで活気に溢れていた、関係者も人の多さを笑顔で歓迎していた。
私はローズのビルを目指していた、ユリカの店の明かりが見えた。
《ユリカ、張り切り過ぎるなよ~、あとでチェックに行くね》と心に囁いて、波動の返事を聞いていた。
ゴールド・ラッシュの受付に歩いていると、フロアーの熱気が出ていた。
私は受付に挨拶をして、裏からフロアーを見ていた。
一瞬でセリカを発見した、それほどに輝いていた、流星群が尾を引いて流れていた。
「完全に覚醒したよ・・元々その才能に溢れていたから」と私の横にマユが来て微笑んだ。
『うん、そうだね・・レイカも覚醒してるよ、エミに触れて』と笑顔で返した。
「レイカは幸せだよ、あの3人の側にいれてね」とマユが美しい笑顔で言って、フロアーに戻った。
私はセリカを見ていた、流星の輝きと目が合って、セリカが美しく微笑んだ。
私も笑顔で返して、小さく手を振って店を出た。
そのまま最上階に登り、ローズを覗いた。
BOXに2組が入っていた、カウンターの奥に座り、リアンを見ていた。
遠くからでも、炎が強まったのがはっきりと分かった。
強気の顔が隠している、可愛いリアンの事を想っていた。
愛には愛で応える、愛に対して正直に生きる。
その素敵な心が、近い将来・・最強の女帝に導くのだった。
私はリアンに笑顔で手を振って、店を出てユリカの店に向かった。
ユリカの店のBOXは満席で、さすがユリカと思ってカウンターに座った。
「巡回ご苦労・・さっきは泣きそうで逃げたね」とユリカが爽やか二ヤで歩み寄った。
『うん、沙紀が由美子の目蓋の上の線を描いたから、嬉しくて目を逸らした』と笑顔で返した。
「開いてる感じだったの・・楽しみだね~」と隣に座り爽やかに微笑んだ。
『こんな楽しみが有って、なんか幸せを感じたよ』と正直な気持ちを返した。
「私も同感だよ・・今日、額に入れてリビングに飾ったよ・・あの絵があるだけで、暖かいよ」と嬉しそうに言った。
『美由紀の言葉の凄さに驚いたよ、内面を描いて、外面を描ききる。
沙紀はそうなんだよね・・そしてユリさんは、内面が全て表に出てるんだ。
あの描写は、そう言っている・・笑顔じゃなくて、微笑を描いたし。
北斗と再開できる、喜びに溢れるユリさんを。
ほんの一瞬で感じたんだね、それを撮影して描くんだよ。
沙紀が言ったんだ、自分に絵を残さないで良いのって聞いたら。
嬉しいを感じたくて描くんだから、自分はいらないと言った。
明日の由美子の絵・・今から楽しみだけど。
沙紀からじかに受け取る俺は、笑顔でいられるのかって思ってる。
もう少しなんだ・・もう少しで沙紀は分かると思う。
嬉しいの涙を・・嬉しいで流す、素敵な涙を。
俺はそれを沙紀に伝えたい、だからこだわってるんだ』
私は感情的な心を、ユリカの前だけは正直に出せた。
隠す必要が無いから、蘭との関係とは違う、ユリカという絶対的な存在だった。
エミの言ったあの言葉、【エースがユリカちゃんを愛するのと、同じだよ】と伝えてくれた言葉。
私には大切な宝物の言葉が、あれからずっと響いていた。
「その話を、あなたの周りの女性全員にしてね。
私は今、本当に嬉しいよ・・私にも出来る事があると分かって。
嬉しいの表現・・それが全員出来るでしょう、今のメンバーなら。
明日の蘭が絶対に伝える、あの青い炎で包む込む。
そしてシオンが見せる、裏表のない大人の女を。
そこからだね、私達は感謝してるから・・沙紀が描いてくれる事に。
私にとってあの絵は、妹との唯一の思い出になったよ。
本当に嬉しかった、見るたびに・・嬉しいで溢れるよ。
だから伝えたい・・沙紀に嬉しいという事を」
ユリカは深海の瞳を潤ませて、優しく囁いた。
『ありがとう、ユリカ。
俺はシオンの次は、美由紀を連れて行くよ。
沙紀にステップアップを要求する、そして由美子に感じてもらう。
俺は美由紀には言ってないけど、美由紀の想いは全てヒトミに伝わっていた。
その事を美由紀が聞かない限り、俺から話す事はない。
いつか聞いてくるだろうと思ってる、美由紀は絶対に諦めないから。
今までも、どんなに高い壁も乗り越えてきた。
その言葉が伝わる・・沙紀にも由美子にも、そしてミホにも。
3人に、ステップアップを要求出来るのは、美由紀だけなんだと思う。
障害を克服してきた・・美由紀だけが、その権利を持っている。
頑張れと言えるのは・・美由紀だけだと思ってるんだ』
間近にあるユリカの美しい笑顔に、笑顔で伝えた。
「うん、絶対にそうだよ・・私は美由紀に会えて、本当に嬉しかったよ」と爽やかに微笑んだ。
『美由紀の方がそう思ってるよ。
俺はあの話を、美由紀がしたのが嬉しかったよ。
マキの美由紀を見る表情で感じた、俺は側にいるから分からなかった。
美由紀はまた、何か途方もない、高い壁を越えている。
常人では絶対に超えられない壁を、今日の言葉が強く重かったから感じた。
沙紀にどう響くのかが、楽しみだよ』
私は寄り添うユリカに微笑んだ、ユリカも笑顔で頷いた。
「そして・・登場するのね、同世代の星が。
エミの強い意志を感じさせ、ミサの強く優しい感受性を感じさせ。
そして切り札が登場する、マリアがその力を見せるのね。
沙紀が描くマリア・・これ以上の楽しみなんて無いよ」
ユリカが嬉しそうに微笑んだ、私も笑顔で返して立ち上がった。
ユリカと店を出て、ユリカを抱き上げてエレベーターまで歩いた。
「私は一人では行けないから、また病院に連れて行ってね」と爽やか笑顔で言った。
『もちろん、ユリカと蘭には・・どうしても手伝って欲しいから』と笑顔で返した。
「ありがとう、嬉しいよ」と言って頬にキスしてくれた。
私はユリカを降ろし、ニコちゃんでユリカに手を振って別れた。
通りをニコちゃんのまま歩いて、魅宴に入った。
フロアーの裏から、熱の高いフロアーを見ていた。
2面性が強くなったと感じて、ミコトを見ていた、笑顔で盛り上げていた。
「あっ!・・ちょうど良かった、頼みがあるの」とヨーコが笑顔でやってきた。
私は驚いていた、ヨーコの可愛さに華やかさが見え隠れして。
清楚さが増していて、お嬢様の雰囲気は、ホノカを凌ぐ物だった。
『なんでしょう・・ヨーコお嬢様』と笑顔で返した。
「ミコト姉さんと、リョウ姉さんが大ママに提案して。
PGのようなサインが欲しいって、ミサキ姉さんも少ししか分からなくて。
大ママがユリさんに話したら、即OKしてもらったらしくて。
私が覚えて、皆に教える事になったの。
シオン姉さんは、何時位が良いかな~?」
ヨーコは可愛い笑顔で言った、私も笑顔で聞いていた。
『シオンは学校始まるから、でもハルカはいつでもいるから。
ヨーコの時間で良いと思うよ、マキに連絡して調整すれば。
昼間の方が互いにゆっくりあるでしょ、俺からも3人に言っとくよ。
実は千鶴からも前言われてて、ゴールドのケイコって17歳も来るかも。
俺は3店が同じサインだった方が良いし、それで話通しておくよ』
ヨーコの嬉しそうな笑顔に、笑顔で言った。
「ありがとう・・頼りにしてます、エース」と清楚な笑顔で返してきた。
『なんか可愛さが増したな、ヨーコ・・男には気を付けろよ』と二ヤで言った。
「了解・・私も抱っこしてね」と清楚二ヤで返された。
『長年の夢が叶う日が、やっと来るんだ~』と二ヤで返した。
ヨーコも二ヤで返してきて、仕事に戻った。
私は魅宴を出て、ミチルの店に歩いていた。
夏の夜は熱を抱えていたが、風向きが少し変化していた。
爽やかな秋風を、少しだけ纏って吹いてきた。
私は忙しい生活を楽しんでいた、明日は蘭父さんと蘭母さんに会えると思っていた。
そして瞳を開いた、由美子とも会えると感じていた。
優しい風が吹き抜けた、狭い通りを吹き抜けて行った。
私は振り向くことも無く、前だけを見て歩いていた・・熱気に包まれる夜街を。
沙紀の描いたユリさんの絵、その本質を見事に言い当てた美由紀。
沙紀は内面を描く・・その行為は、知りたかったのだ。
沙紀は美味く言葉が出なかったから、人に言葉で問いかける事が出来なかった。
でもそれは身体の機能的な事で、沙紀は言葉自体は美しい物を持っていた。
私はそう確信している、だからこそ沙紀の絵には、強いメッセージが有った。
その相手の内面の描写で、問いかけているのだ。
それは嬉しい事なの?・・そう純粋に問いかけてくる。
沙紀は唯一、私の絵だけは描いてくれなかった。
私は沙紀の退院が決まった時に、沙紀を抱っこして聞いた。
どうして俺を描いてくれないのかと、ウル顔で聞いてみた。
それはまだ描きたくないの、小僧ちゃんは私とお話できるんだから。
沙紀はそう答えてくれた、私はその言葉で確信した。
沙紀の絵は、伝達方法なのだと・・だからこそ強く伝わるのだと。
私が所有する沙紀の絵は、4枚ある・・全て大切な宝物である。
しかし特別な一枚がある、淡い色で描かれたその絵には・・。
由美子とヒトミが描かれている、二人が笑顔で駆けてくる。
高原の草原を、こちらに向かい駆けてくる姿が描かれている。
躍動感と生命力に溢れた2人、まさに私に飛びつこうとするような一瞬を描いている。
沙紀はもちろん、ヒトミの写真すら見たことが無い。
しかしその絵のヒトミは鮮明に描かれている。
まるで幼い時からの、友達を描くように、緻密な描写で描かれているのだ。
私には何にも変えられない宝物だよ・・ありがとう・・沙紀。
私の心を描いてくれて・・内面を気づかせてくれて・・優しく応援してくれて・・。