音の言葉
夏の日の午後、音楽により作られた場所。
沢山の夢と希望を吸収して、その雰囲気を作り出している。
夢半ばに趣味に移行した者達の、後悔と挫折を見てきたステージが有った。
音合わせが終わり、オヤジ5人が笑顔で久美子を囲んでいた。
久美子は円の真ん中で、16歳の輝きを発散していた。
久美子が挨拶してステージを降りてきて、私は面識が無い3人のオヤジに挨拶した。
一人は大きなクラブのマネージャーで、もう一人がジャズクラブのオナー。
そしてもう一人が、怪しいキャバレーのマネージャーだった。
私が久美子と帰ろうとすると、ミノルが声をかけてきた。
「たまには鶏食いに来いよ」と笑顔で言った。
『うん、今度行こうと蘭と話してた、PGの若手のエースを連れて』と笑顔で返した。
「楽しみやね~・・久美子ちゃんも来れたらおいで、久美子の分はサービスするかい」と楽しげな笑顔で久美子に言った。
「楽しみです~・・鶏大好きですから~」と久美子が笑顔で返した。
「ミノルは良いな~・・久美子を誘えて」とJ・塚本が笑顔で言った。
「俺も誘えるよ・・久美子ちゃん、エース同伴なら単独演奏頼んで良いかな?」とジャズクラブのマスター、谷田が微笑んだ。
「本当ですか~・・やってみたいです、9時~11時までなら」と久美子が笑顔で返した。
「補導には気を付けてな」と支配人末松が真顔で言った。
「大丈夫です、悪いことしてなければ・・お守りがありますから」と久美子が笑顔で返した。
「お守り?・・見せてよ」とミノルが笑顔で言って、久美子が定期入れを出して見せた。
「おいおい・・最強のお守りじゃないか~」とミノルが言って。
「さすがにPGの関係者は違うな~」と支配人末松が微笑んだ。
「おい・・頑張らんと、梶谷がライブ見に来るかもしれんぞ」とJ・塚本が二ヤで言った。
「駄目だしされるな~・・今のレベルじゃ」と谷田が言って、全員で笑っていた。
私と久美子は楽しそうなオヤジ達に挨拶をして、ライブハウスを後にした。
通りに出ると久美子が腕を組んできた、私は驚いて久美子を見た。
「サービスだよ・・大サービス、私は夜の女性達より勇気がいるんだからね」と二ヤで言った。
『噂になれば良いのに~・・学校で久美子が年下と付き合ってるって』と二ヤで返した。
「それだけなら良いけど・・それがチャッピーなら大事件だよ」と久美子が笑った。
「良い意味として取っとく・・絶対に褒め言葉だ」とニヤで返して、裏階段を登った。
TVルームには蘭とカスミがいて、レイカが来ていて4人娘になっていた。
久美子はエミを誘って、レッスンに行った。
『オヤジバンドに意外な人がいたよ』と蘭の隣に座りながら、笑顔で言った。
「誰かな~・・意外な男?」と満開二ヤで返された。
『ミノルちゃん・・サックス担当でかっこ良かったよ』と笑顔で返した。
「そうなの~・・確かに意外だね」と蘭が満開で微笑んだ。
「いつ行くのでしょう・・延び延びの約束」とカスミがウルで言った。
「今日でしょう・・カスミのおごりだから、3日分食べろよ」と蘭が私に満開二ヤで言った。
『お持ち帰りもするよ・・生肉で』と二ヤで返した。
「ど~んと任せなさい・・焼き鳥なら、カスミ様に」と不適で微笑んだ。
「フランス料理とは、格差がありすぎる」と蘭がウルでカスミに言った。
「それは仕方ない・・私は今はこいつしか、誘う男がいないんだから」と不敵全開で返した。
「オヤジがいるでしょ~・・選り取り見取り」と蘭が満開二ヤで突っ込んだ。
「それは無理~・・店以外で何を話せば良いの~」とカスミがウルで返した。
「確かに・・私、お客さんに靴屋で会うけど、なんか調子出ないよね~」と蘭もウルで言った。
『特別な場所なんだろ、あのフロアーは・・客はそう思ってないけど』と二ヤで言った。
「そうなんだよな~・・そう思ってない奴が多過ぎる」とカスミが返した。
「よし・・対処方法を聞きに行こう、ミノル先生に」と蘭が満開で微笑んで、カスミも笑顔で頷いた。
私はフロアーに行って、久美子に来たければ後でおいでと言って、場所を教えて出かけた。
蘭とカスミが笑顔で話しながら歩く後ろを、呼び込みさん達に挨拶しながら歩いた。
「カスミ、祭り以来有名人だね~」と蘭が微笑んで言った。
「どっかのエースの、足元にも及びません」と輝き二ヤで返した。
ホストクラブの前で、ジンが若手2人で話していた。
「No1が呼び込みかい・・頑張るね~」と蘭が満開で微笑んだ。
「ども~・・おはようございます、綺麗な人が2人歩いて来ると思って・・罠張ってました」とジンが笑顔で返した。
「ジンったら~・・正直者~」と蘭が満開で微笑んだ。
「駄目ですよ~・・土曜の夕方から調子に乗せると、怖いですから~」とカスミが不敵で言った。
『ジン・・話す暇が無くて、勝手に決めたんだけど・・登録第一号の女性を決めたんだけど』と真顔で言った。
「凄いな~・・もう見つけてくれたのか」とジンが微笑んだ。
「第一号には、最強の女性ですよ」とカスミが微笑んだ。
「どんな人でしょう?」とジンが興味津々の笑顔で聞いた。
「全盛期の大ママに10代で真っ向勝負を挑み、PGのオープニングNo1を勝ち取り。
その後1年以上No1に君臨して、ユリさんに夜の女性を教えた人。
その伝説の源氏名・・北斗さんだよ」
蘭が驚いて聞くジンを見ながら、満開笑顔で言った。
「そりゃ~・・凄すぎますね、俺も挨拶に行かないと」とジンが嬉しそうに言った。
「今夜からPGに入るからね」と蘭が笑顔で返して、頷くジンと別れて焼き鳥屋に向かった。
陽はまだ高く、黄昏は遠かった・・西に向かい前を歩く2人は輝いていた。
沢山の男達が振り返り、品定めをするような視線を投げかていた。
焼き鳥屋は暖簾が出ていて、換気扇から煙が出ていた。
「ジャズマンの、ミノルちゃんいる~」と蘭が開き戸を開けて大声で言った。
「いるよ~・・いかすジャズマンなら~」と大声で返ってきた。
3人で店に入り、私を挟んで、蘭とカスミが笑顔でカウンターに座った。
『ミノルさん、噂のPG若手No1の』とまで私が言ったら。
「カスミちゃん・・嬉しいね~、いらっしゃい」とミノルが笑顔で言った。
「こんにちわ、カスミです」と輝く笑顔でカスミが返した。
「さすがにお祭りNo1なだけあるね~、良かったな蘭」とミノルが笑顔で言った、蘭も満開で頷いた。
「今夜のおすすめは?」と蘭が笑顔で聞いた。
「今夜は気分が最高に良いから、刺身の良いとこ出すよ」とミノルが笑顔で返した。
「ラッキー・・私、宮崎に来て初めて食べましたけど・・美味しいですよね」とカスミが微笑んだ。
「そうだね~・・宮崎と鹿児島が、鶏刺しは主流だからね」とミノルがビールを出しながら言った。
「そうなんだ~・・私の家、農家だからよく食卓に出てたよ」と蘭が満開で微笑んだ。
「食文化ってのは、大切なもんだからね」とミノルも笑顔で言った。
3人がビールで、私がコーラでウルで乾杯した。
「食文化って確かにありますね、私は宮崎で明太子買って食べようと思いませんから」とカスミが笑顔で言った。
「おっ!カスミちゃんは、博多美人なんだね~」と刺身を切りながら、ミノルが微笑んだ。
「実家は玄海灘寄りの方です、部屋の窓から海が見えるんですよ」とカスミが微笑んだ。
『良いな~・・憧れの生活や~』と私が笑顔で言った。
「宮崎みたいな海じゃないよ・・冬なんか、もろ演歌の世界」とカスミが笑顔で言った。
刺身が出てきて、私は久々の鶏刺しを感動しながら食べていた。
「美味しいです・・今までで一番ですよ」とカスミも嬉しそうに言った。
「今日は一番良い感じだからね」とミノルが焼き鳥を焼きながら言った。
「それは鶏の種類の話なの?」と蘭が聞いた。
「食べてる時に話しても、大丈夫かな?・・カスミちゃん」とミノルが微笑んだ。
「はい・・私、食べ物に対しては、敬意をはらってますから」とカスミが笑顔で返した。
「良い言葉だね~・・食べ物に対して、敬意をはらう。
大切な事なんだよ・・俺が言った一番良い感じとは。
もちろん鶏が育った場所や、品種も大切だけど・・鮮度なんだよ。
人は命を食べているけど、それは加工した物が多いよね。
煮たり、焼いたり、蒸したり・・それが母の愛情なんだけど。
その愛情が美味しさを引き出すんだね、だから一生忘れないんだよ。
しかし、生は別の意味で美味いんだ、それは鮮度が命なんだ。
魚でも獲りたてを食べると、市販の物と全く違うよね。
それは誰でも感じるんだ、だから当然他の物でも同じなんだよ。
鮮度の良い生には、生命が残っている・・だから力をくれる。
だからこそ、子供には遠慮させる・・強すぎるからね。
子供は生命力に溢れてるから、生を食べ過ぎると・・効果が強すぎるんだよ。
この刺身の鶏は今日の昼まで生きていた、その事実に感謝するしかないんだ。
人間とは生命を摂取して生きるんだから、野菜しか食べない人でも同じ。
野菜しか食べない人が、肉を食べる人を非難する事が、西洋ではあるそうだが。
それこそが分かってない、植物だって命があるんだから。
人間が食べる物で、命の無いものは無いだろう。
だから感謝しようと思うよね、全ての生命は連鎖してるんだからね」
ミノルは焼き鳥の火加減を見ながら、笑顔で言った。
「良く分かります・・私、自分の体を作るのに・・食べ物には人一倍、興味を持ってますから」とカスミが笑顔で返した。
「植物も生きてますよね~・・私の父なんか、苗を我が子のように大切に育てますから」と蘭が満開で微笑んだ。
「我が子だろうね、それは絶対に生命としての関わりだからな~」とミノルも笑顔で言った。
ミノルのグラスにカスミがビールを注いで、ミノルが嬉しそうな笑顔で飲んでいた。
「ミノルちゃん、今日の最高の気分が良い原因は?・・もしかして」と蘭が満開二ヤで言った。
「もちろん・・久美子ちゃん、嬉しかったよ・・あんな16歳に出会えただけでも」とミノルが笑顔で言った。
「音楽をやってる人でも、レベルが高いと感じるんですね」とカスミが言った。
「感じるね~・・俺もクラッシックは全然分からんけど。
演奏テクニックとかはね、でも熱は感じるよ・・温度はね。
久美子の音を聞いた時に、感動したよ・・どうしてその音が出せるのかと。
16歳の可愛い女子高生が、その世界に踏み込んでいる。
それに感動したよ、もちろん確かな基本に裏打ちされているのだろう。
でも技術はある線から関係ないんだよ、音楽は五線譜の上で成り立ってない。
あれは単なる設計図なんだよ、それをどう解釈するのか。
そこからが音楽なんだ、その人の解釈を聴きたいんだよ。
ジャズなんて、同じ曲でも全然違うよ・・それが良いんだよ。
その人の考え方、経験や歴史まで想像できるから。
久美子ちゃんが最初に弾いたサマータイム、俺はあの曲だけで久美子を好きになった。
多分他のメンバーも・・それは久美子が感じようとしてるから。
ニューヨークのスラム街を感じようと、そこに暮す人々に気持ちを感じようと。
その音で感じたいとしている、それこそが音楽なんだよ。
感じたいし感じさせたい・・それが出来れば言葉の壁は無くなるだろ。
音の言葉は、全世界で通用するから。
今日エースが言った、久美子はいずれ世界に出るからと。
俺達は感動したよ、エースの言葉に・・その愛情にね。
久美子を信じてないと言えない、愛情が無い人間が言っても冗談にしか聞こえない。
でも本気だと感じた・・あの言葉は俺たちの青春時代に、投げかけた言葉だった。
踏み出せずに、命懸けの努力もせずに・・言い訳をして諦めた、若い俺たちに。
嬉しかったよ・・エース・・あの言葉。
お前が、久美子の背中を見守り続けてるのを感じて。
最後まで語りかけるんだと思った・・絶対に諦めない、最後の挑戦者としてね」
ミノルは笑顔で言った、私も嬉しくて笑顔で頷いた。
「サマータイムは、この子にとっても思い出の曲ですからね~」と蘭が満開で微笑んだ。
「聴きたかったな~・・リンダのサマータイムも」とカスミも笑顔で言った。
「やっぱり、久美子に大きな影響を与えた存在がいるんだな?」とミノルが笑顔で聞いた。
「いますよ~・・リンダと言って・・・」蘭がリンダの話をした、ミノルが笑顔で聞いていた。
「その後で、マチルダという20歳の子が来て・・・」カスミがマチルダの話をした。
「それは聴きたいな~・・そんな想いで生きてる子の歌う、サマータイムを」とミノルが笑顔で言った。
『久美子が教えてくれたよ、サマータイムのもう一つの意味。
リンダの歌は、その夏を喜ぶ歌だったって。
白人の美しい女性が、その響きで歌った事に驚いたってね。
それからだよ、久美子が強いアレンジを入れだしたのは』
私は嬉しそうなミノルを見ながら、笑顔で言った。
その時に開き戸が開いて、久美子が笑顔で入ってきた。
「こんにちわ~、ご招待に甘えました」とミノルに笑顔で言った。
「嬉しいね~・・久美子は鶏刺し食べれる?」とミノルが笑顔で聞いた。
「はい、大好きで~す」と笑顔で言ってカスミの隣に座った。
「今、良い噂してたよ・・久美子は凄いってね」とカスミが微笑んだ。
「緊張しましたよ~・・憧れのステージでしたから」と笑顔で返した。
「やっぱり憧れなんだね、リッチのステージは」と蘭が満開で微笑んだ。
「宮崎では、あそこだけですから・・夢を追う人間のステージは」と久美子が笑顔で返した。
「博多ライブ喫茶【照和】、みたいな感じなんだね」とカスミが微笑んだ。
「カスミちゃん、ちょっと比べる対象のレベルが凄すぎるよ~」とミノルが笑顔で言った。
「照和なら私でも知ってる、陽水も甲斐バンドも出てたんですよね~」と蘭が笑顔で言った。
「そうだよ、チューリップも海援隊も」とミノル返した。
「聞くだけで凄いですよね~」と久美子が笑顔で言った。
『いつか言われるよ、リッチのステージには久美子が立ってたって』と私が笑顔で返した、久美子は嬉しそうに笑顔で頷いた。
「久美子の憧れのステージは?」とカスミが聞いた。
「ニューヨークのアポロシアターですね・・最近はそう強く思います」と笑顔で返した。
「聖地だな~・・アポロは」とミノルも嬉しそうに笑顔で言った。
「かなりジャズよりになってきたって事なの?」と蘭が満開で聞いた。
「そうですね・・自分のイメージできる世界的には、ジャズの方が合ってますね。
クラッシックはどこか閉鎖的で、息が詰まる感じが前からありました。
私はPGに来るまで、学校しか練習場所が無くて・・こっそりジャズを弾いてました。
良い顔しないんですよ、クラッシックにどっぷりはまった人達は。
他を受け入れないっていうか、聞く耳を持たないみたいな。
私は歌謡曲も演歌も大好きです、もちろんクラッシックも。
でも・・ジャズが一番肌に合いますね、自由な感じがするんです。
私が腰を浮かして弾くのは、本当はやってはならない事なんです。
ペダルが踏めないし、音楽は音で表現するものだから。
でも・・リンダが教えてくれました、既存の行為を逸脱してもいいんだと。
表現したいなら、全身全霊でやるんだと。
そして夢まで提案してくれました、それに対してエースが確約をとった。
レンとエースが誓いを立てています、レンが嬉しそうに話してくれました。
私が将来どんな道を選択しても、レンが背中を押すと。
そしてレンの幸せを追うと、誓ったそうです・・嬉しかった~。
私の犠牲じゃないと、レンが言ってくれて・・自分の選んだ道だと言ったから。
私は将来どんな事になっても、忘れません・・PGの女性達の背中と。
リンダとマチルダのサマータイムと、私にチャンスを与え続けて。
挑戦しろと二ヤ顔で誘い続けて、常に次の提案をしてくれた。
エースと呼ばれる男を・・ありがとう、エース。
あの時の言葉・・本当に嬉しかった、フロアーの準備で音が無いから寂しいって言った。
あの言葉があるから、私は言い訳も挫折も出来ないよ。
そしてリンダに会わせてくれた、あの時が私の支えだよ。
だから今日も、サマータイムを最初に弾いた・・それが一番落ち着くから。
16歳の夏を忘れられないから・・灼熱のフロアーで弾いた季節を。
私はエースとの最初の約束、それをアポロの一番前の席で果たすね。
あの白いグランドピアノのお礼として、それが私の今の目標だよ」
久美子が最後に私に微笑んだ、私も笑顔で頷いた。
『久美子・・今度本気で弾いてもらうよ、俺の可愛い画伯を連れてくるから。
魂に訴えかけてくれよ、絶対に響くから・・久美子の音なら。
感性を広げてやりたいんだ、閉鎖してほしくないんだ。
病なんかに負けてほしくない、色々な世界を感じてほしい。
でもあの病気はどうしても、興味ある世界しか見ないんだよ。
だから直接、魂に訴えるしかない・・ダイレクトに強く。
それが出来るのは、俺の知っている中では、久美子だけなんだ。
沙紀を覚醒させる・・写実的才能に、何かがプラスされると信じてる。
俺は自立できると信じてる、沙紀もミホも・・・そして・・由美子も』
感情的な自分を感じながら、久美子に言った。
「了解・・でも一度じゃ嫌よ、何度も何度もやらせてね」と久美子が微笑んだ。
『よろしく久美子・・沙紀と、いずれミホも』と笑顔で返した。
蘭とカスミが微笑んでいた、ミノルの視線が優しかった。
鳥雑炊を食べながら、ミノルの沙紀の質問に蘭が満開で答えていた。
「明日・・実家に帰って来るよ、月曜日サクラさんの店、休みもらった」とカスミが微笑んだ。
『楽しんで来いよ・・お土産、期待してます』と笑顔で返した。
「楽しめる気がする・・今なら腹を割って話せそうだよ」と輝く笑顔で返してきた。
『カスミ・・カスミは俺やマキと同種族だよ、心を直接言葉にできる・・考えるなよ』と二ヤで言った。
「うし・・分かった、私も和解してくる・・あの頃の自分と」と言って笑った顔は、輝きに溢れていた。
3人分をカスミが支払い、久美子の分はミノルのサービスだった。
4人でミノルに礼を言って店を出て、私は病院に行くので3人と通りで別れた。
晩夏の太陽は西の空に存在していて、熱は路上からも湧き上がっていた。
週末の夜が迫っていた、カーニバルのような熱気が漂っていた。
私は病院を目指して歩いた、沈み行く太陽を追いかけるように。
病院に入り4階で記名してると声をかけられた、関口医師が笑顔で立っていた。
「由美子・・段階早くないかね」と笑顔で言いながら、ナースステーションの奥のテーブルに誘った。
『関口先生も分かってるでしょ、由美子は体が強いよ・・そして心も強い』と笑顔で返した。
関口医師は若いナースに何か指示を出して、麦茶を出してくれた。
「そっか・・心も強いんだな」と笑顔で返してきた。
『強いよ~・・よく意地悪される』とウルで返した。
「そういうタイプなんだね、ヒトミにもされてたろ」と関口医師が笑顔で言った。
『ヒトミは怖かった・・9歳で体の触り方怒るから』とウル継続で返した。
その時、乳児を抱いた母親が入ってきて、関口医師に挨拶をした。
私は驚いてその乳児を見ていた、やっと首が座った感じの子だった。
その強い瞳の意思に驚いていたのだ、それはエミに近い強さを持っていた。
「由香ちゃん、4ヶ月なんだけど・・率直な感想を言ってくれ」と関口医師が言った。
『俺は初めて、天才に会ったのかも知れない』と笑顔で返した。
「えっ!・・天才ですか」と母親が驚いて言った。
『お母さん・・お悩みは何ですか?・・心配性ですね~』と笑顔で近づいて、由香を抱かせてもらった。
「全然泣かないんです・・体は健康なんだけど、心配で」と母親が答えた、20代前半であろう、まだ可愛いという感じの人だった。
『泣きませんよ・・この子は、自分が出来ない事に対して泣きませんよ』と母親に笑顔で言った。
「4ヶ月ですよ・・まだ」と母親が真顔で言った。
『だから天才・・天才と呼ばれる人は、変わり者だと言われますよね。
特に幼少期は・・その特異性で、偏見の目で見られたりします。
なぜならば、退屈なんですよ・・同年代より進みが速いから。
この子の今の欲求は、知りたいなんだと思います。
だからその部分を満たしてやれば、子供らしさも出てきますよ。
この子はオムツを交換してもらうのさえ、申し訳ないと思ってますね。
世界地図が良いかな・・写真の図解が沢山載ってる。
広い世界を感じさせて、自分の未熟さを理解させるんです。
体が大きくならないと、何も出来ないとね。
お母さん・・才能を伸ばしてあげて、同じ年代の子供と上手くやれないかも知れない。
だから影でサポートしてあげて、両親が理解者でいてあげてほしいです。
この子はその才能を伸ばせねばなりません、選べれた人間なのでしょうから』
心配げな母親に、笑顔で言って窓際に歩いた。
《由香~・・駄目でちゅよ、お母さん心配してますね~・・どうしましょう?》と由香の強い瞳を見て、心で囁いた。
波動が何度も来ていて、ユリカの興味津々光線を感じていた。
《由香・・退屈なんだよね、でもたっちして、あんよしないと・・何も出来ないよ》と囁いた。
由香の瞳は本当に強かった、4ヶ月の乳児の瞳が。
《仕方ないな~、由香は可愛いから女優さんが出来るかな・・無理か~4ヶ月だし》と二ヤで囁いた。
その時に瞳の色が変化した、私は内心ニヤニヤしていた、その負けず嫌いを驚きながら。
《女優さんって凄いんだよ、泣いたり笑ったりが・・どんな時でも出来るんだよ・・まぁ4ヶ月では無理だけどね》と笑顔でとどめを刺した。
由香の顔が笑顔になった。
《上手だね~・・それが笑顔・・嬉しいときだね・・でも泣き顔は無理だよな~》と追い込んだ。
由香はビッって感じで目を潤ませて、涙を流した。
《声は無理なんだね~・・4ヶ月じゃ無理だよね~》と追い詰めた。
「ビャ~」という感じの、少し下手くそな泣き声で由香が泣いた。
私は二ヤで由香を見ながら、母親に振り向き、慌てた顔を作って歩み寄った。
『意地悪言ったら・・泣いちゃった』と固まってる母親に笑顔で言った。
私は母親に由香を渡して、由香を見る母親に囁いた。
『お母さん・・今は泣かないで、由香が自信を無くすから』と耳元に囁いた。
母親が私を見て、笑顔になって頷いた。
私は由香の手を握り、瞳に語りかけた。
《由香・・女優さんはどんな時も女優なんだよ・・出来ないか4ヶ月では》と笑顔で囁いた。
由香の泣き声が大きくなり、私は二ヤを出さないように必死だった。
母親の可愛い女優を見る瞳が、愛に溢れていて、私は嬉しかった。
私はこの一度しか由香に会っていない、今はTVでその元気な姿をたまに見ている。
その笑顔でコメントする画像を見ながら、今でも呟いてしまう・・二ヤ顔で。
《女優だな~》と心で囁きながら見ている、笑顔の波動に包まれて。
久美子は私にとっても、夢だった。
音楽という成功率の低い世界、挑戦者の数は無限に存在している。
久美子は音楽家として成功したのだろうか、私には分からない。
久美子は選択の時に、全て自分らしくにこだわった。
アメリカでチャンスが何度も有ったと聞いた、しかしそれにより縛られる事を恐れた。
音楽とは自由でないといけないと言う、誰もが親しめ楽しめる物でありたいと。
だから金の為には滅多に弾かない、今でもメディアには出ない。
生音にこだわり続けた、リアルな響きに全てを賭けた。
今でも不遇な子供達の前で弾く時は腰を浮かす、そして最後に右手の拳を突き出す。
あの右手の拳の意味・・豊の強い意志を受け継いでいるのだろう。
既存を拒絶する女神・・魂のピアニスト・・久美子。