自傷の女神
夏の陽射しが照りつける、狭い路地を抜けると聳え立つ。
塔と呼ぶべき人工物、昼間はひっそりと立っている。
夜を待ちわびるように、女神達の来場を待ちわびるように。
私はユリカのビルの下にチャリを止めて、ユリカの店に上がった。
ユリカはいつもの奥のBOXで、爽やか笑顔で両手を広げて迎えてくれた。
私も笑顔でユリカを抱き上げた、ユリカは少し驚いて私を見ていた。
「何・・熱いんだけど」とユリカが言った。
『チャリ漕いで来たからだよ~・・多分ね』とニヤで返した。
「ん~~・・確かに凄いね~・・これがMAXレベル?」とユリカがニヤで返してきた。
『かなりのハイレベルだと思ってるよ』と笑顔で返した。
「今日は楽しかったよ・・母さんには驚かされたけど、院長との話も面白かったよ」と微笑んで瞳を閉じた。
私は何も考えずに、ユリカの重みと温度を感じていた。
ユリカの重みが増して、深い眠りに入ってから、BOXに座った。
ユリカの穏やかな寝顔を見ていた、静かな寝息が漏れていた。
30分程でユリカが目覚めた、爽やかに微笑んで言った。
「私にスケッチブックと色鉛筆、プレゼントさせて・・感動させてもらったお礼に」と微笑んだ。
『ありがとう、ユリカ・・沙紀も喜ぶよ』と笑顔で返した。
ユリカと手を繋いで、橘通りの画材店に行った。
大きめのスケッチブックと、小さなスケッチブックを選んだ。
そしてユリカが48色の色鉛筆を手に取って、爽やかに微笑んだ。
「本当に楽しみなんだけど・・近い内に見れるよね」と言った。
『もちろん・・ユリカなら、近い内に連れて行くよ』と笑顔で返した。
ユリカが支払い、綺麗に包装された、スケッチブックと色鉛筆を受け取った。
ユリカを駐車場まで送り、笑顔で手を振って別れた。
私はPGに向かい、TVルームの自分のロッカーに入れた。
TVルームは誰もいないので、フロアーに向かった。
「まだこんな所でウロウロして・・蘭姉さん、今夜はハンバーグだって、張り切ってたよ」とマキがニヤで言った。
『ラッキー・・じゃあ帰ろっと』と笑顔で言って振向いた。
「待って・・誰に会った?どんな個性かな?」とマキが言った。
『自閉症の、素敵な画伯』と振向かずに言って、右手を上げてPGを出た。
夏の陽射しを受けながら、アパートに帰った。
蘭がエプロンを付けて、張り切っていた。
「お帰り・・ぬぬ・・何か良い事あったね?」と満開で微笑んだ。
『うん、ミホが2人部屋で・・同室の自閉症の少女が、素敵なプレゼントをくれた』と笑顔で返して、キッチンの椅子に腰掛けた。
『素敵なんだよ~・・元々あの個性は、何かに優れるんだけど・・・』私は沙紀の話をした。
「素敵ね~・・私にも会わせてね」と振向いて蘭が微笑んだ。
『もちろん、蘭にはミホにも会って欲しいから』と笑顔で返した。
夕食の準備が出来たらしく、蘭がシャワーに入った。
私はケンメリから荷物を運んで、追加の宿題プリントを見ていた。
《ミセス祥子・・意地悪したな、これ2年のじゃん》とウルで見ていた。
「シャワー・・良いよ~」と蘭が言ったので、シャワーを浴びて着替えた。
蘭の部屋に行くと、夕食の準備が出来ていた。
2人で笑顔でハンバーグを食べた、蘭はご機嫌だった。
『ご機嫌だね・・蘭』と笑顔で言った。
「素敵な母と妹が出来たから~」と満開で微笑んだ。
『それは、シズカが1番思ってるよ』と笑顔で返した。
「シズカって・・天才なの?」とニヤで言った。
『違うよ・・変わり者、だから人と発想が違うんだよ』とニヤで返した。
「ジンがいつか知る事になるね、妹の自傷を止めた男」と蘭が微笑んだ。
『たいした事じゃないよ・・俺もあの時は楽しんでたし』とニヤで返した。
「ホノカに似てる子がいると言うだけで、凄いよ」と蘭にニヤで変えされた。
『確かに外見は似てるよ・・ジンも案外、普通の男だね』と笑顔で言った。
「ほんとだね・・妹の幻影を追ってるなんてね」と満開で言った。
蘭が化粧をしてる間に、私が食器を洗った。
6時少し過ぎにタクシーで出掛けた、蘭はご機嫌満開が咲いていた。
私は蘭を誘って、J・塚本のバーを覗いてみた。
カウンターで女性と話していた、私を見つけて笑顔になった。
「嬉しいね~エース・・それも有名人連れで」と笑顔で言った。
「マスター嫌ですわ・・有名人だなんて」と蘭が満開笑顔で返した。
『マスター・・ピアニスト、まだ探してるの?』と笑顔で聞いた。
「もちろん・・いるのか?」と嬉しそうに微笑んだ。
『高校生だけど、損はさせないよ・・見たいなら7時からPGで弾くから、見に来てよ』と笑顔で言った。
「嬉しいね~・・絶対見に行くよ、サンキュー」と笑顔で言ったJ塚本に、蘭と笑顔で手を振って別れた。
「顔広いよね~・・3年後か~、確かに怖いよ」と腕を組み通りを歩きながら、満開ニヤできた。
『夜街の関係者は、個性が強くて面白いよ』とニヤで返して、裏階段を登った。
TVルームにはマダム・松さん・ユリさん・カスミと、裏方4人組にホノカと久美子がいた。
4人娘が揃っていて、私はレイカの側に座った。
「確かに・・マキの言うとおり、かなり上がった感じですね」とユリさんが私に薔薇で微笑んだ。
「腕を組んで驚きました・・戻ったんでしょうね~」と蘭が満開で微笑んだ。
その時ユリカが入ってきた、爽やか笑顔で挨拶をして、蘭の隣に座った。
「ユリカ姉さんでも、直に聞きたいんですね」と蘭が微笑んだ。
「うん・・今日、沙紀ちゃんで感動したよ」と爽やか笑顔で返した。
「それでは先に、ユリカに、沙紀ちゃん話を聞きましょう」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「エースがミホちゃんの病室を訪ねると・・・」ユリカが沙紀の話をした。
私は改めて驚いていた、その表現の豊かさで、見ていたかのように話した。
「あなたに賭けるわ・・そう婦長さんが言っていました」とユリカが笑顔で言った。
「どうりで、戻る訳だね~」と蘭が満開ニヤで言った。
「今からが楽しいですよ・・そして怖くなります」とマキがニヤで言った。
「確かに怖そうだね~・・でも隠せない相手って、居てくれるだけで安心するよ」とホノカが華麗に微笑んだ。
「ホノカ・・やっぱり凄いよな~」とカスミが不敵で言った。
「カスミ、間違ってるよ・・そこは不敵じゃなくて、キラキラでしょ」と華麗ニヤを出した。
全員が2人の漫才で笑っていた。
「それでは・・マキ、お願いしますね」とユリさんが薔薇で微笑んだ、マキは笑顔で頷いた。
「和尚問答で和尚が最後に問うた、なぜ溺れるのか。
エースは瞑想して考えていました、私達は不思議な少年を見ていました。
そしてエースが目を開けて、笑顔でシズカを呼びました。
そして姉弟問答が始まりました、私達も初めて見ました。
小僧・・・シズカに問う、なぜ人は海水に沈む。
シズカ・・人は海水には沈まない、なぜならば・・人は海水で出来ている。
小僧・・・ではなぜ溺れる?
シズカ・・逆らうから・・流れやうねりに逆らうからだ。
小僧・・・逆らうのは、恐怖からかな?
シズカ・・厳密に言うと、イメージが悪い・・恐怖に結びついている。
小僧・・・呼吸が出来ない、最終的に死に至るイメージかな?
シズカ・・違う・・深さや広さを測れない、その事が恐怖に繋がる。
小僧・・・なぜ測れないと、恐怖に繋がる?
シズカ・・自分の世界しか認めないから、その狭さを恐怖で誤魔化す。
小僧・・・狭さを認識すれば、恐怖は消えるかな?
シズカ・・少なくとも、深さに対しての恐怖は消える。
小僧・・・広さに対しては、どうする?
シズカ・・狭さを認めた後に、深さを克服し・・そして感じねばならん。
小僧・・・無限の広がりを認めろと?
シズカ・・無限など無い・・存在する以上終わりはある。
小僧・・・終わりがあると、認めろと?
シズカ・・どんなに広くても、終わりはある・・だから焦る事はない。
小僧・・・焦りが、流れやうねりに逆らうのだな?
シズカ・・そう・・逆らっている時が、生きてる実感が湧くからだ。
小僧・・・結果、その行為が死に向かうとしてもか?
シズカ・・通常時・・繰返す日々、生きてる実感が無ければな。
小僧・・・シズカに問う・・それは何に溺れてる?
シズカ・・甘えに溺れる、そして溺れる自分に溺れるんだよ。
そうシズカが言って、小僧が笑顔になりました。
私も恭子も、この不思議な姉弟を見て、素敵だと思いました。
小僧はそれで吹っ切れたのでしょう、笑顔で帰って行きました。
帰った後、和尚がシズカに聞きました、なぜ回したのかと。
言葉を選び、表現を本質から少し離して、回したのかと。
シズカは笑顔で言いました、そうしないと負けそうだったからと。
次の日から、小僧はその人に向き合います。
毎日、夕方と夜に尋ねて・・面白話を繰出しました。
そんな日が続いて、10日ほどが経った土曜日でした。
小僧は昼過ぎに、その人の病室を訪ねた、すると居ませんでした。
看護婦さんに聞くと、怪我をしたと教えられました。
その直後、私とシズカが病院で小僧に会いました。
小僧が真剣に言いました、俺は許す事が出来ないと言って、屋上に向かいました。
私達も後ろを付いて行きました、小僧は海を見ていました。
その小さな背中が寂しげで、声をかけずに見ていました。
そして小僧が叫びました、『ヒトミーー』と叫んで振向きました。
その顔が覚悟を決めていて、怖かった・・何をする気なのかと思いました。
小僧はその人の病室に入った、そしてその人が居るのを確認して。
ナースステーションに入って行きました、そして戻ってきて病室に入った。
その人の横に座って、黙っていた・・長い沈黙が流れました。
ごめんね・・沈黙に耐え切れなかったんでしょう、その人が言った。
なんで謝るの?・・自分でしたくて、したんでしょと小僧が言った。
凄かった・・その全ての伝達力がMAXで、背中が怖かった。
ごめん・・ごめんね、とその人が号泣しました。
小僧はその人の、包帯が巻かれた腕を掴んで、包帯を外した。
ガーゼを優しく外して、傷跡を見て・・そこに触れた。
多分一瞬だったでしょう・・でも長い時間に感じました。
痛いよね・・どこが?・・痛みが分からないの?
小僧が静かに言った、その人はただ泣いていました。
私達の後ろには、医師や看護婦が大勢いました。
院長も来ていて、誰にも手出しをさせなかった。
俺・・お姉さんが好きだから、今日・・凄く怖かった。
自分の無力さを感じて、忘れないようにしようと思ったんだ。
小僧はそう言って、ポケットから医療用の剃刀を出した。
だから・・忘れないように、印をつける・・絶対に後悔しないように。
そう言って、左手に拳を握り、その手の甲に剃刀を這わせた。
その人の目の前で、ゆっくりと引きました・・鮮血がしたたって。
静寂が支配していました、その人は凍り付いていて、ハッとして。
やめて!・・と我に返って叫びました。
出来ない・・俺はずっとそう言ってきた、なのにやめなかっただろ。
小僧は静かに言って、刃を引いていました。
約束するから・・誓うから・・絶対にしないから。
体の奥からの叫びでした、そこで小僧は止めた。
小僧の血をその人が見て、痛いでしょ・・そう言いました。
痛いよね・・俺より、お姉さんの方が痛いんだよ。
俺は今日・・この何倍も痛かった。
小僧は笑顔で言いました、その人は泣きながら何度も頷いた。
その時婦長さんが、小僧の手を押さえて、応急処置をしました。
小僧が処置室に消えて、泣いてるその人にシズカが近付いて。
あなたが今度やったら、小僧は今度は手首を切るよ。
私は姉だから分かる・・あの子はそういう子だから。
シズカが真剣に言った、その人は泣きながら、シズカに謝りました。
そしたら小僧が包帯巻いて帰ってきて、笑顔で言いました。
同じ~・・やっぱり運命の2人だねって笑った。
自分でやって、運命の2人な訳ないだろと、シズカも笑顔で返しました。
痛かったよ・・本当にごめんね、誓うから・・忘れないから。
私とあなたの絆だけは・・絶対に忘れないから。
あなたは常に見える所に傷を付けた、私を一生忘れないと思ったよ。
私も忘れない・・今のこの愚かな反省と、あなただけは。
そう言って、小僧を抱きしめた、小僧はニヤ顔で固まってました。
それから、5日でその人は退院になりました。
小僧は見送りに来なかった、その人は私達に言いました。
傷跡に触れられた時に、悲しみが押し寄せて来たと。
どうしようもない悲しみが、後から後から押し寄せて来たと。
小僧がそれまで話してくれた、沢山の話しが走馬灯のように蘇って。
最後に声が聞こえたと、これ以上悲しませないでと、少女の声が聞こえたと。
確信的に思えたと・・あれは絶対ヒトミちゃんの声だったと言いました。
見送りには来ないよね・・私達はそんな関係じゃないから。
離れてても、別れてる訳じゃないから・・私も頑張ってみるね。
次にあった時に、あの傷を直視できる人間になりたい。
絶対に私を忘れない人が・・この世に一人はいるから。
それだけで、私は幸せよ・・ありがとうと伝えてね。
そう言った笑顔は、美しくて・・私は嬉しかった。
小僧が自らの自傷行為で止めた、あの人の衝動。
その事を・・手の甲を切った、その日の帰りに聞きました。
小僧を寺まで引っ張って、和尚に立ち会ってもらって、恭子も呼んで。
どうしてそこまでしたのかと、強くシズカが聞いた。
俺は調子に乗ってたよ・・伝達方法が凄いとか言われて。
なのにあの人の衝動の、正体すら分からなかった。
あんなに長い時間を過ごしたのに。
今日あの人が衝動に負けたと聞いて、初めて分かったんだよ。
その正体を探しても無駄だと、結局・・正体なんて無いんだよね。
それが分かったし・・対抗策は考え付いた・・でも怖くて怖くて。
今夜またやるんじゃないかって、そう思ったら・・耐えられなかった。
だからショック療法にしたんだ、早急の解決策はそれしか思いつかなかった。
親父には内緒にしてね・・馬鹿だって怒られるから。
小僧はそう言って、笑いました。
体の傷は癒える・・心の傷もいつか癒える・・小僧の手の甲。
それは傷じゃない・・誓いの証じゃ・・だから癒える必要はない。
和尚が笑顔でそう言って、小僧の前に正座した。
小僧に問う・・人はなぜ溺れる?・・和尚が聞きました。
手を差し伸べてくれるのを、待っているから。
誰かが自分を見てくれるのを、待ってるから。
だから手を差し伸べない・・隣を泳ごう・・岸を目指して。
小僧が笑顔で答えました、和尚も笑顔になりました。
私は初めて見ました、目を潤ませて笑う和尚を。
小僧の左手の甲には、今でも薄く傷跡があります。
小僧はそれを見る度に、自分を戒めるのでしょう。
命と向き合う意味を教えられたから、手を差し伸べるのでなく。
激流でも、どんなに広くて深くても・・隣を泳ぐのが。
それが本当の愛情だと気付いたから、その大切な教えが刻まれた。
左手の甲を・・小僧は大切にしています」
マキは流れるように言った、私はその同調に感動していた。
静寂が支配していた、私の左手をエミが掴んだ。
私の左手の甲の傷を、エミが強い瞳で見ていた。
「小僧に問う・・自分になんて誓ったの?」と手を強く握ってエミが真顔で強く言った。
『分かった振りをするな、人の心を簡単に理解など出来ない・・そう刻み込んだんだよ』と真顔で返した。
「うん・・さすが、私の愛するエースだわ」とエミが微笑んで、頬にキスしてくれた。
私は本当に嬉しかった、それからミサとレイカがキスしてくれて。
マリアが駆け寄って、私が頬を出したら、両手【ペチ】をしてくれた。
『マリア・・ごめんなしゃ~い』とウルウルで言った。
「えーしゅ・・きあい」とマリアがプイをした、私は大慌てで。
『マリア・・プイは駄目だよ、プイは』とマリアを抱き上げた。
「ゆりか~」と言って、天使全開不敵を出した。
『マリア・・いよいよ・・いよいよマリアに意地悪1点』と笑顔で言った、マリアが天使全開で返してくれた。
「大変・・頑張らないと、マリアに抜かれる」とエミが不敵を出した。
『エミ~・・不敵は駄目だよ・・不敵は』とウルで返していた。
女性達の笑い声を聞いて、エミの可愛い不敵を見ていた。
「ホノカ・・これからの話は、内緒にしてほしい・・本人が自然に知るまで」と蘭が真顔で言った。
「分かりました・・約束します」とホノカも真顔で答えた。
「この話に登場する、この少女・・今では自分で自傷の女神と名乗ってる。
完全に乗り越えているんだろうね、自分に背負わせているんだ。
その少女は昨年の薬物事件の時に、無理やり薬を飲まされて。
家のベランダから転落した、それでも衝動は蘇らなかった。
分かるよね・・その少女、自傷の女神。
それは・・ジンの妹だよ」
蘭は最後にホノカに満開で微笑んだ、ホノカは驚いて蘭を見ていた。
「蘭・・そうであるのなら、最後の道標は・・そうなんですか?」とユリさんが真顔で聞いた。
「そうです・・最後の道標は・・そこに有ったんですね」と蘭が満開で微笑んだ。
「私も今日聞いて、そして今の話で・・感動しました」とユリカが爽やかに微笑んだ。
瞳を潤ます3人を見て、女性達も私もその事は、深くは聞かなかった。
「エース・・本当にありがとう」とホノカが華麗に微笑んで、頬にキスしてくれた。
「あ~~・・ホノカ、キスも許してないよ・・あんたのは危険だから」と満開ニヤで言った。
「カスミ~・・私のは危険なんだって」とホノカが華麗ニヤで言った。
「危ない病原菌、持ってそうだからだろ」と全開不敵で返した。
「でも・・マキも凄いけど、聞けば聞くほどシズカも凄いな~」とハルカが微笑んだ。
「あの姉弟問答・・凄いですよね~」と久美子が微笑んだ。
「ユリ・・やめんか、その者欲しそうな顔は」とマダムが笑顔で言った。
「あら・・見つかりました、欲しくて欲しくて」とユリさんが薔薇ニヤで言った。
「何かエミに勉強方法教えたいみたいで、母さんと来るって言ってましたよ」と満開で微笑んだ。
「えっ!・・嬉しい~」とエミが少女の笑顔で言った。
「それは楽しみだ・・マキと違う話しが聞けるな」とカスミが微笑んだ。
「面白いですよ~・・なんせエースに、DNAが最も近いですから」とマキがニヤで言った。
「それは怖い気がするね~」とレンが笑顔で言った。
『あっ!・・久美子、早めに練習しとけよ、面接官が来るから』とニヤで言った。
「了解・・頑張りま~す」と笑顔で言って出て行った。
「久美子ちゃんは、本当のステージに上げるのね」とユリカが爽やかニヤを出した。
『俺が見たいんだよ・・ステージで叫ぶ久美子を』と笑顔で返した。
「ユリさん、来週の火曜日なんですけど」とハルカが真顔で言った。
「良いですよ・・シオンは一人で大丈夫ですから、勉強してきなさい」と薔薇で微笑んだ。
「ありがとうございます・・やってみます」とハルカが笑顔で返した。
「ハルカちゃん、今夜はよろしくね」とホノカが微笑んだ。
「はい・・頑張ります」とハルカも微笑んで返した。
「ハルカ、分かってますね・・私はミチルに対してだけは、絶対に恥をかきたくありません」と薔薇ニヤで言った。
「重々承知しております」とハルカが笑顔で頭を下げた、全員が笑っていた。
『ユリさんの煽りは、強烈だね』と私がニヤで言った。
「絶対に見に来いよ・・スナックのハルカちゃんを」とニヤで返された。
『楽しみにしてま~す・・下ネタでウルするなよ』と笑顔で言った、ハルカが笑顔で睨んでいた。
女性達が準備に行って、私は指定席に入った。
久美子が軽快にジャズを奏でていた、フロアーは準備万端で、女優の登場を待っていた。
「ありがとう・・気持ちが凄く楽になったよ」と千春が笑顔で言った。
『うん・・千春、今度お礼して』と笑顔で返した。
「なんでもどうぞ」とニヤで返された。
『追加の宿題が山ほど出た・・習ってないのまで、教えてね』とウルで言った。
「了解・・胸でも良かったのに~」とニヤで言ってフロアーに歩いて行った。
私は自分で感じていた、忘れていた感覚が完全に戻った事を。
沙紀がメモ用紙に描いた、父親の顔を思い出していた。
灼熱のフロアーに、火種を抱えて女優達が入って来た。
9月1日の夜が幕を上げた・・私は集中の中にいた・・前だけを見て。
自傷の女神・・私は幼心に愛していた。
その明るい笑顔が、輝いていた。
マキが話したほどの、深い意味を・・私は感じていたのであろうか?
今でも自信が無い・・私はどこかで怒りに震えていた。
自傷行為そのものに、屋上で海を見ながら・・ヒトミを想っていた。
生きたかったであろう、沢山の友を想っていた。
だからその手に打って出た、何も怖くはなかった。
自分の手の甲から溢れ出る、鮮血を見ても怖くなかった。
痛みなど全く感じなかった、ただその美しい女神の顔を見ていた。
私が女神と再開するのは、この年の年末だった。
偶然に夜街で会って、腕を組まれて微笑んだ。
私は本当に嬉しかった、私の想像など遠く及ばないほど、女神が美しかったから。
私の左腕を掴み、自分に寄せて・・傷跡を指でなぞった。
「私は好きな男が出来るかな~・・これ以上の愛情を感じる事が」と微笑んだ。
『出来るよ・・俺にもできたから』と笑顔で返した。
女神は嬉しそうに笑って、抱きしめてくれた。
人混みの繁華街で、暖かい女神に包まれていた。
自傷行為・・精神的な病なんだろうか・・私には分からない。
現代では、広く知られるようになった。
リストカッターなどと、格好の良い呼び名まで付いた。
何かが違うと感じる・・私は左手を見ると・・そう思ってしまう。
だから岸を指差そう・・泳げるのだから。
社会という荒波も・・怖くはないのだから・・全てに終わりはあるのだから。