透明の女神
イメージしていないと出来ない、ピークの時を肌で感じていないと。
そして常にその上があると、思っていなければ辿り着けない。
走り出したら止まる事は考えない、何かが切れるまで走りきる。
賭けた物が戻る事はない、燃焼してしまうだけ。
私は食事が終わり、マリアとレイカを抱いてフロアーに向かった。
レイカを私の指定席に座らせ、マリアを抱いて隣に座った。
久美子は静かなクラッシックを奏でていた、フロアーに独特の緊張感があった。
四季とユメ・ウミが出て、10番で静かに談笑していた。
「緊張感が出てるね~・・私も楽しくなってきた」と後からリアンが微笑んだ。
シオンが椅子を持って来て、リアンが私の横に座った。
マリアをリアンに渡して、私がレイカを膝に抱いた。
『良い感じだね・・皆期待してるけど、それを完全に凌駕するんだろうね』とリアンに笑顔で言った。
「間違いなく・・凌駕するよ」と獄炎ニカで返された。
「何なんだろうね~・・この雰囲気、ユリカは作り出すよね~」と大ママがレイカのいた席に座りながら言った。
『大ママでも2年振りか~・・楽しみだ~』と笑顔で返した。
その時ナギサ・カスミ・ホノカ・レン・ハルカと入場した。
全員の背中に緊張感があって、ユリカの存在感の強さを感じていた。
そして蘭とサクラさん・アイさんが入って、久美子がそれを確認して止まった。
そして弾いたのは、久美子が初めて弾いたあの曲だった。
久美子が弾きながら羊水の揺り篭に揺られた、ユリカとの思い出に満ちた叫びだった。
母に届けと叫ぶ、魂の叫びは・・寂しいと叫んで。
ありがとうと泣いて・・私は大丈夫、元気ですと笑った。
弾き終わり、久美子は銀の扉を睨んでいた、美しい16歳の輝きを発散していた。
久美子の視線を感じたように、銀の扉が開いた。
ユリカが純白のドレスで出てきた、圧倒的静寂が支配した。
コツ・コツ・コツと3歩進み、美しい立姿で深々と頭を下げた。
私は驚いていた、あの小さいユリカが大きく見えたのだ。
ハイヒール分以上に大きく見えた、頭を上げる時に横顔が見えた。
静かだった、ユリカの周りだけ深海の底にある、光輝く場所のようだった。
ユリカはこっちを見て、大ママとリアンに微笑んだ。
「ゆりか!」とマリアが大きな声で呼んだ、ユリカはマリアを見て爽やかに微笑んでフロアーに歩いた。
ユリカは久美子を見て、笑顔で頭を下げた、久美子も笑顔で返礼した。
その時に全員から拍手が沸き起こった、久美子は嬉しそうに笑顔でユリカを見ていた。
「凄すぎる・・オペラの開演みたいだ」と後からセリカの声がした。
振向くと、ドレスを着た千鶴とマユとセリカが笑顔で立っていた。
「あの先生にレイカはピアノを習ってるのね・・良かったね~」とマユがレイカに笑顔で言った。
「さすがユリカ姉さん、裏も満員状態ですね~」とミコトがリョウとやってきた。
「魅宴は大丈夫なの?2人いなくて」と千鶴がニヤをした、ミコトもニヤで返した。
女性達はユリカを囲み、笑顔で話していた、開演10分前だった。
『ユリカって・・存在に意味があるんだね、俺は想像力の無い人間だよ』と大ママに言った。
「あの頃よりも凄いよ・・間違えなく、今がピークだよ」と大ママがフロアーを見ながら言った。
『これに対抗出来るのは、リアンの炎だけだね』とリアンに笑顔で言った。
「比べるなよ・・怖いから」とニカで返された。
その時に扉が開いた、少し緩んだ空気が一気に緊張した。
ユリさんが真赤なドレスで出てきた、全く揺れない姿勢のまま歩いて、深々と頭を下げた。
背中が上下運動にに対して、伸びる時に背骨の各部位が、綺麗に直線でスライドした。
大きく開いた背中から見える突起が、まるで別の生き物ように動いた。
頭を上げる時に、何かを収納するかのようにスムーズに戻った。
そして立姿の圧倒的な美を見せ付けて、こちらを見て薔薇の微笑を投げた。
その美しさに、全員が動けずに固まっていた。
ユリさんがフロアーに視線を戻すと、我に返ったように女性が円を描きだした。
「やりやがったね、エース・・ユリをそのステージに戻したね」と大ママが言った。
『多分、ユリカが最後のスイッチを押した』と私はユリさんの背中を見ながら返した。
「圧倒的だ・・ユリさんとユリカさん、棲んでる場所が違う」とセリカが呟いた。
「あのユリさんが、ゴールドに立ってくれるの・・幸せだよ」と千鶴もフロアーに呟いた。
ユリさんがユリカの隣に立った、女性達は全員2人を見ていた。
大ママはこの時点で泣いていた、夢にまで見た瞬間だったのだろう。
百合の横に百合香が咲く、その光景をずっと想像していたのだろうと思っていた。
「あなた達は幸せを感じるべきです・・この時代に産まれた幸せを。
そして出会った幸運を・・私は今それを感じています。
紹介します・・これがユリカです、クラブで接客するユリカです。
貴女方はユリカに見せねばなりません、自分達も同じ舞台に立つのなら。
今までやってきた、その誇りを胸に、全力の姿で感謝を表現して下さい。
PGの人間として・・出来ますね?」
ユリさんの強い言葉が響いた、女性が全員で気持ちを合わせた。
「はい」と言う強い返事で答えた。
「ではユリカ・・お願いします」とユリさんが薔薇で微笑んだ、ユリカも笑顔で返した。
「夜の街には沢山の物があるでしょう・・私もそれを見てきました。
喜びも・夢も・希望も・・そして挫折も後悔も絶望も。
でもね・・恐れる事は何一つありません、いつか必ず和解できます。
その頃の自分や、あの頃の自分と・・それまでは走りましょう。
私はこのチャンスをくれた、全ての人達に感謝して、私の世界をお見せします。
10年間夜街で生きた・・その証として。
楽しませてもらいます・・よろしくお願いします」
強かった、ユリカの言葉が強く響いて、静寂を連れて来た。
「よろしくお願いします」と女性全員が頭を下げた。
言い知れぬ気配を漂わせ、ユリカが爽やかに微笑んだ。
「それでは開演しましょう」の言葉に、「はい」のブザーを鳴らした。
女性が準備を初めて、ユリさんとユリカが受付に挨拶をした。
キングと和尚が笑顔でカズ君に案内されて、3番に向かって行った。
キング側からユリさん、和尚側からユリカが歩み寄り笑顔で挨拶をした。
その2人の動きは美しくシンクロして、その雰囲気だけで圧倒していた。
「さぁ・・私達もがんばろう」と千鶴が笑顔で言って、マユとセリカと3人で帰って行った。
私は見送りにレイカとマリアを抱いて、裏口で3人と別れた。
TVルームの松さんに、2人を預けて、フロアーに戻っているとミチルが帰る所だった。
「まったく・・責任とりなよ、ユリカをあそこまで上げて」と妖艶ニヤで言った。
『ミチルのクラブでの仕事・・楽しみだよ』と笑顔で孵した。
「あんまり期待しないの」と笑顔で睨んだ。
『ミチル・・明日でも研修受けてよ、ホノカ明日もPGでしょ』と笑顔で聞いた。
「もちろん良いけど、誰かな?」と笑顔で返された。
『ハルカをお願い・・リアンやユリカの店じゃ、甘えが出るから』とニヤで言った。
「了解・・ユリの秘蔵子なら、厳しくやるよ」と妖艶に微笑んで帰って行った。
指定席に行くと、全員帰っていて、シオンとマキが忙しそうに動いていた。
客席は7割が埋まっていた、熱が高くて、そのペースの速さに驚いていた。
私は指定席に座ってユリカを見ていた、笑顔が溢れて楽しげだった。
ナギサとカスミの指名が、隣の2番席に入っていて、沸点に近付いていた。
その時蘭から【受付】とサインが来た、受付を覗くと、親父が若者2人を連れて来ていた。
親父達3人は5番席に通され、蘭とレンとハルカが5番に付いた。
蘭は親父の席でいきなり沸点を目指した、若者達にも笑顔が溢れていた。
運送屋の12名の団体が10番に入って、満席記録を更新した。
10番にサクラさんと四季の3人が入り、6番にユメ・ウミの指名が入った。
3番はユリカとアイさんがチェンジして、ユリさんとレンがチェンジした。
親父の隣にユリカが入って、親父は驚いた顔で迎えていた。
ユリカと蘭に挟まれて、親父の楽しそうな笑顔があった。
「先生・・これカズさんが」とシオンがメモを持って来た。
私はメモを受取り、それを見た。
〔梶谷・和尚コンビ、この後ゴールドに案内よろしく〕と書いてあった。
私はシオンに笑顔で了解と伝えて、カズ君にサイン【了解】を送った。
フロアーの熱が9時前だというのに、上昇し続けていた。
ユリカと蘭の席は、独特の雰囲気を醸し出し熱が高かった。
《ユリカと蘭も両極だね、素敵な光景だよ》と心で囁いた。
ユリカが一瞬私を見て、爽やかに微笑んだ、。
その瞳は静寂を連れ、深海に誘う力が強く、内面からの発光で輝いていた。
「勝也お父さん、面白すぎだね・・次の店どっかないかって?」とハルカが笑顔で来た。
『ローズが良いんじゃないかな、リアンも気合が入ってたから』と笑顔で返した。
「了解・・その時は送ってね」とハルカが微笑んだ、大人の色気が少し出てきていた。
『ハルカ・・明日研修頼んだけど、行ってみるか?』とニヤで言った。
「もちろん・・どこかな~?」とニヤで返された。
『ミチルの店・・ホノカの穴埋めだよ』と笑顔で言った。
「か~、緊張する~・・やってみるよ、ありがとう」と微笑んで戦場に戻った。
その時キングと和尚が立った、私はシオンに言って受付に出た。
和尚が親父の横を通る時に、親父とキングが互いを見て笑顔になった。
キングが親父に頭を下げた、親父も立って右手を出した、2人は強く握手をしていた。
和尚が私を見て、シワシワニヤを出していた。
私は予想もしていなかった、親父とキングが知り合いなどと思ってもいなかった。
親父とキングは少し会話をして、キングが受付に来た。
「小僧・・ゴールドに案内しろよ」とキングが笑顔で言った。
『ご機嫌だね、キング』と笑顔で返した。
「おう・・久々に憧れの先輩に会ったからな」と嬉しそうに笑顔で言った。
『憧れね~・・あの親父が』と呟いてエレベターに乗った。
「小僧・・知ってるのか?勝也さん」とキングが聞いた、和尚はニヤ継続中だった。
『知ってると言うか・・親父だから』と照れて返した。
「待ってくれよ・・親父って・・実の親父か!」とキングが驚いて言った。
『残念ながら・・廃墟の伝道師が親父です』と笑顔で答えた。
「そうか!・・なるほどね~・・和尚、繋がるんだな~」と和尚に言った。
「そうじゃの~・・不思議なもんじゃよな~、しかし廃墟の伝道師まで辿り着いたか」と和尚が私に言った。
『意味は聞いてないけど・・本人に聞けって言われたから』とキングにウルをした。
「それは、本人に聞けよ・・俺も言えんよ、大切な思い出やからな」とキングが笑顔で返してきた。
『キング・・今度会ってよ、廃墟の伝道師の名づけ親の娘に』とニヤで返した。
「小僧・・まさか・・真希の娘か!」とキングが言った。
『和尚も人が悪いね・・知ってたくせに』と和尚にニヤで言った。
「和尚・・本当の事なんだね?」とキングが和尚に確認した。
「本当じゃよ・・真希が娘に譲った、娘の本名が真希じゃよ」と和尚が笑顔で言った。
「真希・・忘れられぬ女だな~、若い頃の思い出には常に出てくるよ」とキングが真顔で言った。
『今で言えば、タイプ的に誰なの?』と興味津々で聞いた。
「間違えなくユリ・・ユリにリアンを少し足した感じだよ」とキングが笑顔で言った。
『最強だ・・想像すら出来ないほどの、最強だね』と笑顔で返した。
「そう・・最強にして最良の者だったよ、ユリだけが今その世界にいるよ」とキングが懐かしげに言った。
『今度ゆっくり話すよ、今マキはPGで研修してる・・16歳の挑戦者として』とキングに言った。
「楽しみだよ・・会わせてくれよな」とキングが言った時にゴールドに着いた。
大きな金看板のゴールド・ラッシュが迎えてくれた、受付に私が歩くとボーイ頭が笑顔で来た。
「エース・・ありがとう」と笑顔で頭を下げた。
『やめてよ・・案内しただけ、VIP席に2人よろしく』と笑顔で返した。
緊張したボーイに連れられて、キングと和尚が奥の席に案内された。
私は緊張感の走る女性達を、フロアー裏に入りニヤで見ていた。
千鶴とマユが少し緊張して、キングと和尚の席に付いた。
「本当に連れて来るんだから~・・女性達全員、緊張してるよ」と後からセリカが言った。
『してもらうよ・・緊張ぐらい』と振向いて笑顔で言った。
「私も付かないと・・客としての帝王を、感じてみたい」と私の隣に立ってセリカが微笑んだ。
『セリカ・・頑張ってるね、今度の土曜の午後時間ある?』と真顔で聞いた。
「もちろんあるよ・・デートかな?」とニヤで返してきた。
『それもあるけど・・衝動を外そう、俺を信じてね・・セリカ』と笑顔で言った。
「あんたを信じないで、誰を信じる・・ありがとう、土曜絶対だよ」と微笑んだ、可愛いセリカの瞳に流星群が尾を引いて流れた。
私はセリカに見送られ、エレベーターに乗り手を振って別れた。
PGに戻ると、満席状態継続中で熱が高かった。
しかしその喧騒の中でも探す必要はなかった、ユリカとユリさんは圧倒的な存在感を示していた。
そしてそれに一歩も引かないほどの存在感を、蘭が出していた。
青い炎を背負い笑顔で動いていた、その蘭の姿が初めて見るものだった。
私は少し興奮していた、蘭の温もりが離れていても強く感じられて。
その時ハルカからサインが飛んで、親父達が立ち上がった。
私は受付に向かった、親父と若い大工が笑顔で来て、親父が支払いながら徳野さんと話していた。
ユリさんと蘭と徳野さんに見送られ、エレベーターに乗った。
「次はどんな店かな?」と親父が笑顔で聞いた。
『獄炎か妖艶・・どっちが良い?』とニヤで聞いた。
「今夜は気分が良いから・・獄炎にしよう」と親父が笑顔で言った。
『了解・・宮崎の夜景を楽しんでもらうよ』と笑顔で返して、ローズに案内した。
私の後を歩く3人は、楽しそうに今の建設現場の話をしていた。
『親父・・ユリカの店に、今夜ヨーコが手伝いに来てる、もちろん接客はしてないけど』とローズのエレベーターの中で小声で言った。
「了解・・帰りに覗いてみるよ」と親父が笑顔で返してきた。
ローズを覗くとリアンが笑顔で手を振った。
『リアン・・3人お願いできる・・酒癖悪いかも』とニヤで言った。
「あんたの紹介なら、誰でもOKだよ」と獄炎ニカを出した時に、親父が入って来た。
「最高じゃない」と私に言って、親父に歩み寄った。
3人を奥のBOXに案内して、女性を連れてリアンが笑顔で挨拶していた。
「また、特別なお客様みたいね~」と宴会にいた綺麗な女性がカウンター越しに笑顔で言った。
『まぁ・・特別と言えば特別かな』と笑顔で返した。
「私達・・経験できるの?クラブ」と真顔で言った。
『魅宴かPGかゴールドで良いなら』とニヤで返した。
「最高の3店出して、ニヤしないの」と笑顔で変えされた。
『いつでも良いよ・・調整するから』と笑顔で返して、笑顔で頷く女性に手を振って別れた。
私はローズのビルを出て、ユリカの店に行った。
店を覗いて固まった、カウンター席に3人のサラリーマンがいて、ヨーコが立っていた。
BOXは満席でミサキはBOXに入って、ユリカの店の女性全員が各BOXに付いていた。
「いらっしゃい・・どうぞ、すぐに来ますから~」とヨーコが私に微笑んだ。
私は笑顔でカウンターの1番奥に座った、ヨーコは3人組と笑顔で話しながらコーラを出してくれた。
その時トイレから大ママが出てきた、私にニヤをして3人組の1番上司であろう人の横に座った。
《大ママやるな~・・もうヨーコを鍛えてる》と心に呟いた。
暖かい波動が返って来た、ユリカも余裕が出たなと感じていた。
私はヨーコの清楚な横顔を見ていた、ヨーコは元々会話は上手かった。
その表現が優しく、私はヨーコの言葉が幼い頃から好きだったのだ。
ヨーコは異性はもちろん、同性からも好かれた、マキが同性に好かれるのとは別の意味で。
マキはその容姿と竹を割った性格で、どこかボーイシュッなイメージが同性からも好かれた。
ヨーコは穏やかな性格と優しさが、同性からも受入れられていたのだ。
《マキの接客か~・・また違う者が見れそうだね、ユリカ》と囁いた、熱く強い波動が包んでくれた。
しかしこの時の私の想像は、又も却下される。
マキが見せた接客は全く違っていた、マキとお客の関係は友だった。
気を使わない男同士の関係に近かった、だからマキを指名する客はマキが相談相手だった。
恋愛であったり、子供との関係だったり・・マキはその相談を相手の心に問いかけ返した。
笑顔で問いかけられ、お客はマキに正直に気持ちを話した。
その行為がお客の心の荷物を降ろした、そして笑顔で家路につくのである。
私はこの時に想像すら出来なかった、マキに接客が出来るのだろうかと思ったほどだった。
「ヨーコ、最強だよ」と後からミサキが囁いた。
『そうだね・・ミサキの後輩としては、合格点だね』と振向いてニヤで返した。
「私も、次の段階に行くね・・よろしく」とミサキが微笑んだ、美しい淡い輝きを連れていた。
『了解・・スペシャルを用意してるよ』とニヤで言って立ち上がり。
大ママに目で挨拶をして、ヨーコに笑顔を向けて店を出た。
狭い通りを歩きながら、8月の終わりを感じていた。
大人達の人混みを避けて、裏通りを歩いていた・・《俺は裏通りを選ぶよ》と夜空に囁いた。
夜空の星を見ながら・・東京を考えていた、その場所が日本一なら挑戦しようと。
そう誓ってPGを目指した、13歳の夏休みが終わろうとしていた。
私は若草公園のベンチで座る、あの少年ではなかった・・愛する者と目標を持っていた。
《月光を追いかけよう・・それが私達の人生だから》そう言った蘭の言葉が響いてきた。
私は裏階段を登り、指定席に座った・・その場所には熱があった。
夏は終わらないと主張していた、夏物語は続く・・あの事件が来るまで。
その日も近付いていた・・季節の変りを告げる、あの叫びが木霊する日も迫っていた。
私は必要だと要求される・・その叫びに誘われる。
敏感度を上げろと女性達が背中を押す、最強で最後の挑戦者と自負するのならばと。
そして私は覚悟を決める、今でも後悔はしていない・・だが反省はある。
人の心の難解さに震え・・愛する事の難しさを知らされる。
その9月が来た・・忘れえぬ9月・・夏物語は終演に向かい進路をとった。
全員の笑顔を連れて・・その場所を示した、心の羅針盤を信じて・・。
マキは翌年の3月にフロアーデビューをする、PG最年少記録を塗り替えて。
私はマキを感じて、自分にはスナックの方が向いてると思ったよ。
レンがPGを去る時に笑顔で言った、22歳の美しい黒魔女が。
ハルカとマキ・・最高の後輩に囲まれて、絶対的なカスミ姉さんもいた。
本当に楽しいクラブでの仕事だった、レンはそう言って笑った。
その1年後、東京PGの準備で私と蘭が先に上京した、PGはナギサが責任者。
そしてカスミが圧倒的な、フロアーリーダーに成長していた。
サクラさんが引退して、アイさんが結婚退職した。
ユメ・ウミがツウィンズと呼ばれ、カスミと3本の大黒柱として存在した。
そしてハルカが22歳、マキが21歳で若手を引っ張った。
六本木PG開店時に、私は応援部隊として、銀河の奇跡3人を2週間揃えた。
25歳の銀河の奇跡・・その破壊力は史上最強だった、六本木で一晩で噂になった。
バブルで踊る人間達が押し寄せた、六本木PGは開店から2年以上満席記録を繋いだ。
その中心で発光した、24歳の流星のセリカ・・最初のフロアーリーダーだった。
赤の女、ローズが追い求めた・・東京PG責任者の蘭の生き方と、セリカの輝きを。
そして作り上げる・・ローズの世界・・薔薇の生き方に迫る存在。
大ママがローズに会った時に震えた・・瓜二つだと呟いた。
永遠の存在である・・真希が蘇ったようだと。
私は未来を知る事も無く、13歳の夏を楽しんでいた・・少年のままで。