MAKI & YOUKO
8月の最終日、子供達は寂しげで、長い休みの終わりを感じていた。
宿題の最後の追い込みをする者、諦めて開き直る者。
全ての人に同じ時間が流れていた、止まることもなく。
「エースも久美子も、学校が始まるね~」とカスミが不敵ニヤで言った。
「学校出ると、夏休みって憧れますよね~」とレンが微笑んだ。
「私・・退屈だったイメージしかないな~」とハルカが言った。
「私、苦しかったイメージしかないよ・・水泳の地獄の練習」とミサキがウルで言った。
「そっか~・・ミサキは水泳部だったのか~、どおりで安定感あると思った」とカスミが微笑んだ。
「安定感・・褒められてますか?」とミサキがニヤで返した。
「もちろん・・褒めてるよ。
ミサキは歩く時に横揺れが無いよね、私は凄いと思ってたよ。
重心を支える腹筋と脚力が違うよ、意識して歩くと、もっと美しく歩けるよ。
もう少し大股で足を上げる時に、かかとで少し蹴り上げる感じ。
動きの力を8割位前に向ける、そして着地する時に爪先から静かに下りる。
最初はぎこちないけど、慣れればスムーズになるよ。
これは筋力がいるんだ、女性では難しいんだよ。
でも足は綺麗になるし、動きも美しくなるよ」
カスミは笑顔で言った、ミサキは嬉しそうに真剣に聞いていた。
「ありがとうございます・・やってみます」とミサキが笑顔で返した。
「筋力が無い、か弱い女性にもアドバイスを~」とハルカが微笑んだ。
「それはユリさんを見れば良いだろ、あの美しい姿勢・・見るだけで勉強になるよ」とカスミが笑顔で返した。
「背中が綺麗にスライドしますよね~私、家で練習したけど・・難しくて」とマキが微笑んだ。
「マキは骨格が違うから、ミサキと同じ感じが良いと思うよ」とカスミが返した。
「骨格で違うんですよね~・・自分の動きを覚えないといけないんですね」とレンが聞いた。
「そう思うよ、私はユリさんの動きの研究はするけど・・全てを自分に入れないよ」とカスミが微笑んだ。
「ユリさんの動きで、何が1番凄いと思いますか?」とミサキが聞いた。
「マキがこの前私に聞いた、体の中心点・・聞かれて嬉しかったよ。
ユリさんはそれが真ん中にあるんだよ、多分おへそ当りに。
全ての動きの基点がそこにある、だからどんな状況でも美しく動く。
私は谷間の真ん中でしか取れない、だから動きによって基点が変るんだ。
それを中心で取るのが、今のテーマなんだけど。
相当に難しい・・ユリさんの年齢までに、自然にやれる自信がないよ。
多分、身体だけの問題じゃないよ・・心も大きく起因するんだろう。
ようするに、心・技・体・・全て揃わないと無理なんだろうね。
でも挑戦する価値はあるよ、見れば分かるよね。
仕事どうこうでなく・・あの美しい動きを手に入れたい。
それを持てれば、人生のプラスになると思うよ」
カスミは輝きながら笑顔で言った、取囲む女性達は真剣に聞いていた。
「凄いな~・・何年・何十年の目標が確かにあるって」とハルカが微笑んだ。
「エースほどじゃないよ・・奴は目標に対して、何年もの計画を立てるからね」と私に不敵を出した。
「そうなんだよね~・・学校上がった時にはそうだったよ」とマキがニヤで言った。
「どんな子供だったのか、マキ、ヨーコ述べよ」とカスミが不敵ニヤを出した。
その時にユリさんと蘭と、マリアを抱いたシオンが入って来た。
全員で笑顔で挨拶をした、ユリさんも蘭も微笑んで返した。
「楽しそうな話に、間に合ったみたいですね」ユリさんが薔薇で微笑んだ。
「はい・・今から伝説の変態少年物語が始まります」とハルカが笑顔で返した。
「それは楽しそうだね~・・さぁ始めて」と蘭が楽しそうに満開で促した。
「ヨーコちゃんからお願い、ヨーコちゃんにとってエースは特別な存在だと聞いたから」とレンが微笑んだ。
「特別ですね~・・私は10歳の冬に、母を病気で亡くしました。
父は私が3歳の時に病死していて・・父は広島出身で被爆者でしたから。
父方の親戚は全て原爆で亡くなっています。
母は天涯孤独だったので、私は施設に預けられました。
最初は施設にも学校にも、馴染めずにいました。
そんな時7歳のエースが施設に遊びに来てました。
エースが私を見ると言うんですよ・・ヨーコは可愛いって、何度も何度も。
私は不思議な気持ちで接していました、可愛いって堂々と言う少年に出会って。
そして・・馴染めずに孤独だった、私の手を引いて連れて行ったんです。
小児病棟に連れて行って、病気や障害と闘う子供達に会わせてくれました。
その姿を見て・・触れ合って、話して・・感じました。
自分の愚かさを感じてました、その闘う姿を見て・・自分は健康じゃないかと。
これ以上、何を贅沢言うのかと・・健康以上の望みなどないんだと。
そう感じました・・そして病院を出た所に待ってました。
限界トリオの3人が、それから私も仲良くなった・・学校も楽しくなって。
そんな時期を過ごしていたら、エースが次の提案をしてきました。
哲夫という少年を元気にさせようと、それは私にしか出来ないと言いました。
哲夫は6歳で両親を目の前で亡くしてます・・自動車事故で。
救急車が来るまでの間、母親は少し意識があったそうなんです。
そして最後の力を振り絞って伝えた、哲夫に最後メッセージを。
優しい人になってね、哲夫・・そう母親は伝えていました。
哲夫が天涯孤独になる事を感じて、それでも母親は優しい人になってと言った。
私はエースに言われて気付いた、私にも出来る事があるんじゃないかと。
その当時哲夫は心を閉ざしていました、両親を目の前で亡くしたショックで。
私は必死で哲夫と向き合いました、伝えたくて・・健康以上の望みは無いと伝えたくて。
エースがそれを見てくれていました、私を可愛い可愛いと言って応援しながら。
半年かかりました・・哲夫が私にしがみつき、本気で泣くまでに。
それからです、エースが哲夫を弟のように接し始めた。
豊君からエースが継承した子供の世界、その世界を円滑に回す方法を哲夫に伝えました。
そして今年の3月、エースが小学校卒業式の日に哲夫に言いました。
お前がやれ・・伝えられた事は次に伝えろ・・優しい人になれよ、哲夫って。
哲夫はその時に号泣しました、エースがずっと暖めてた想い。
豊君が作り出し、エースが改良を加え・・哲夫に託した。
その継承の言葉が・・優しい人になれよ、哲夫だった。
その号泣する哲夫を私は抱きしめて、エースの背中を見送った。
その時に分かりました・・エースはそのゴールを設定していたと。
私の施設を出る送別会で、エースに聞きました、なぜ哲夫を選んだのかと。
エースは笑顔で言いました、背負ってる物が自分と違いすぎると。
哲夫は絶対に今より良くする、母の最後の言葉を背負ってるからと。
その時に思い出しました、勝也父さんの言葉を。
壊れた時が大切だ、それをどうするのか・・新しく作るのか、それとも修理するのか。
どちらにしても、前より良くしようと思わないといけない。
今までで駄目だったんなら、それ以上を目指す気持ちが1番大切だと。
絶対に修復できる、形ある物ならば。
だから1番大切なのは・・形が無い物だと言っていました。
私はその言葉の真意が少し分かった気がしました、そしてエースの気持ちも。
エースは確かに変った子です、それは求める物が違うからでしょう。
エースは形が無い物にこだわり続けます、父の教えを直で受けてるから。
そして物作りの職人の父に対して、見せようとしています。
形の無い物を修復する姿を見せて・・自分を主張しているんでしょう。
エースがこの世で1番認められたい、父に見せ続けるのでしょう。
それがエースの不思議な生き方を作っていると、私は思っています」
ヨーコが最後は私に可愛く微笑んだ、私は嬉しくて照れた笑顔で返した。
「どうして・・ヨーコもマキもそうやって言葉にできる、嫉妬しそうだよ」とカスミが泣きながら言った。
「本当にあなな達は、素敵な世界で育ったんですね・・だから言葉に出来るのですね」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「私、今日・・哲夫君に会いました、本当に素敵な少年でした」とシオンも涙を見せて、ニコちゃんで言った。
「マキ・・お願い、あなたの言葉でも教えて」と蘭が深い目に青い炎を湛えて促した。
「ヨーコが施設に入ったと、エースが私達に教えてくれました。
私達と同じ歳で、凄く可愛いって、楽しそうに言ってくれた。
ヨーコが転校してきた時、シズカが同じクラスでした。
シズカは初めヨーコに関わらなかった、シズカらしい判断でした。
ヨーコに壁があったから、シズカは壁を本人が壊すまで手を出しません。
私も恭子もそれを分かっていたから、ヨーコと絡まずにいました。
でもヨーコの壁があまりのも硬そうなので、大丈夫かな~とシズカに聞きました。
その時シズカが言いました、ヨーコの存在を教えてくれたのは誰かと。
その言葉で私達は気付きました、エースだったと・・それも可愛いと言ったと。
エースがヨーコを小児病棟に連れて行く日に、シズカに言った。
後は3人でよろしくって言ったそうです、シズカは嬉しかったと言ってました。
そして病院を出てくるヨーコが私達を見て笑った、その笑顔を見て私も嬉しかった。
その姿が光って見えました、可愛さが増していたから。
エースが可愛いと言ったのならば・・そうであれば絶対に関係を深めます。
私達はそれが分かっていました、滅多に可愛いと本人に言わないから。
ヨーコの送別会で私も聞きました、ヨーコのどこが1番可愛いと思うのかと。
エースは照れながら、陰らない事だと言いました・・どんな状況でも陰らない。
馴染んでない時も、影を背負ってなかった・・可愛いままでいたんだよ。
施設でも小児病棟でも珍しい存在だと、きっと素敵な心を持ってるんだと言いました。
私はその時に確信しました、エースが可愛いって言うのは見た目だけじゃないと。
その心が可愛いねって言っているのだと、そしてそれが決定的になるんです。
ヒトミに出会って、ヒトミを可愛い可愛いって言うエースを見て。
寝たきりで、表情すら無いヒトミを・・可愛いって心から言っていたから。
エースは常に強い心に憧れます、自分もそうありたいからでしょう。
自分の生き方には、それが必要だと感じてるからでしょう。
昨日の揺れに対する強度の話、あれこそがエースの求める物ですね。
人は目を逸らせば感じなくてすむ、関わらなければ傷つく事もない。
でもエースは私達に見せ続けた、無関心は駄目だと・・関心を持てと。
何も出来なくても・・結果それで自分が傷つく事になっても。
知ろうとしようと・・その行動で教えてくれました。
エースの人間関係、私が知ってるだけでも・・恐ろしいほど広い。
そしてその下の世代との関係、豊君が3年生になるエースに託した意味。
エースは失敗を見せます、自分が失敗して見せて・・笑顔で反省する。
その教えは・・恐れるなと伝えました、失敗を恐れるなと。
周りの目や、大人の目を気にするなと・・恥ずかしいという気持ちを捨てろと。
豊という圧倒的存在に触れて、エースが自分で導き出した答え。
エースにとって豊君は完璧な人間だったでしょう、だからこそ教えれなかった。
失敗を恐れるなという事を、豊君が完璧な人間だと思っていたから。
ヨーコの言った、勝也父さんの話・・そうです、あれこそがエースの基軸。
現状より良くしたい、壊れたら・・修復するなら、前よりも柔らかく。
揺れで折れないように、強度を上げるのでなく・・柔軟性を上げる。
常に大きな揺れに挑み続けて出した答え・・正面から受け止める柔軟性。
エースは何度も心が折れています、その度に夜の海に一人で出る。
修復するんです、自分の心と向き合って・・本当の強さを考える。
そして辿り着いた・・柔らかい心・・それを今は目指していますね。
哲夫は確かに母の言葉を背負っている・・そしてエースは。
先に逝った沢山の友の言葉を背負っています、だから哲夫を理解して託した。
今回、エースがヨーコを魅宴に誘う時に言った言葉。
自分の夢を追いかけて良いんだと・・その言葉を聞いて、私も嬉しかった。
そしてヨーコが私に言いました・・エースが第1段階の卒業証書をくれたと。
私はヨーコのその言葉を聞いて、嬉しかったけど・・焦りました。
同じ世界で競う相手の凄さを感じて、そして幸せも感じた。
私達は見せなければなりません、親のいない私達を育ててくれた社会に。
見守ってくれた優しい瞳の大人達に、そして追いかけてくる下の世代に。
絶対に途中棄権も挫折も・・そして目を逸らして生きる事も許されない。
不思議な少年の卒業証書が欲しいから、その証書は下の世代が持っているから。
偽らず、背伸びせず・・自分らしく伝えたい。
私達が伝えてもらった大切な想いを・・その行動と意志で伝えてみたい。
豊の強い意志と、エースの失敗を恐れぬ姿を見て育った。
幸運な人間として・・大切な何かを伝えたい。
あの不思議な生き方をする、その変な男に見せつけたいんです。
私達の生き方を・・可愛いねって・・いつまでも言わせたいんです」
マキの言葉が流れるように響いて、静寂を連れて来た。
私はマキの変化が嬉しかった、その速さで想いの強さが伝わってきた。
《ユリカの言った、同調を聞いた喜びが少し分かったよ》と心に囁いた。
暖かく強い波動が包んでくれた、静寂が包む世界を。
「素晴らしい・・マキもヨーコも、私は心から期待します・・その生き方を」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「私もミサキも、幸せを感じてるよ・・素晴らしい後輩に巡り会えて」とハルカが微笑んだ。
「そして、焦ってるよ・・競い合う相手の凄さを感じて」とレンが微笑んだ。
「うし・・悪いけど君達が追いつけない世界に、全力で逃げます」とカスミが最強不敵で言った。
「カスミ・・間違った世界に踏み込むなよ」と蘭が満開ニヤで言った。
「それは危険ですね~・・エース敏感度上げといて下さいね」とユリさんが薔薇ニヤで言った。
『了解です』とニヤで返した、カスミがウルウルで見ていた。
全員の笑顔が戻って、楽しい話に華が咲いていた。
ミサキとヨーコが笑顔で挨拶をして帰って、女性達が食事の準備をしていた。
「しかしヨーコにも驚いたが、あの子を連れてこれる、お前の事が怖いよ」とカスミが不敵で言った。
「私もワクワクして、想像しながら11時を待ってたの。
ヨーコちゃんが立った時に怖くなった、あんたの事が少しね。
その雰囲気にも可愛さにも驚いたけど、カスミが言ったように。
あの子に挑戦の覚悟をさせて、魅宴でやらせる事ができる、あなたがね。
大ママの喜びを感じてたよ、あの子は絶対にあなたじゃないと連れて来れない。
そしてさっきの話で確信した、あなたはタイミングを計ってたね。
大ママからの依頼が無くても、いずれ魅宴にヨーコを引き入れた。
ヨーコの夢を見れる世界・・確かにこの街には有るかもね。
正直に言ってごらん・・図星でしょ」
蘭が満開ニヤで言った、私もニヤで返していた。
『ジンの人材派遣の話を聞いてる時に、ヨーコを思い出していたよ・・ヨーコが18になったら会いに行こうとね』と笑顔で返した。
「やっぱり・・運の良い奴だ、それで紹介料貰って」と満開で言って、ケーキを食べた。
「ユリカ姉さんに・・ランチ何をご馳走したのかな~?」とハルカが微笑んだ。
『○幸のヒレカツ定食と○○のラーメン』と笑顔で返した。
「開かずの店!・・やってたの」とハルカが驚いて言った。
『月・水・金の昼間だけやってるみたいだよ、ユリカ常連みたいだった』と笑顔で言った。
「想像できない、ユリカ姉さんと○○ラーメン」とハルカが笑顔で言った。
「それは私もできない」とカスミが微笑んだ。
女性達が早目の食事を始めた、ユリカ光臨の緊張感があった。
『そうだ・・久美子、次の段階に挑戦してみない?』とニヤで久美子に言った。
「いよいよ接客を教えてくれるの?」と可愛くニヤで返された。
『それも良いけど・・夜街のオヤジマスター5人でジャズバンドやってて。
そのバンドが、ピアノ担当を探してるんだよ。
活動はリッチハートで、月1のペースでライブしてるらしい。
下手くそだろうけど、セッションの経験になるかもよ。
興味あるなら紹介するよ、マスターJ・塚本』
私は嬉しそうな笑顔の久美子にニヤで言った。
J・塚本とは有名な音楽オヤジで、地元FMのDJもしていた、バーのマスターである。
そしてリッチハートは、その当時1番熱いライブハウスだった。
「それは本当の話なんだね」と久美子が笑顔で聞いた。
『うん・・実力をみる面接はあるみたいだけど、久美子なら大丈夫だよね』とニヤで言った。
「実力も容姿もスター性も・・申し分ないよって、正直に言ってごらん」とニヤで返された。
『スター性ね~・・昨日までなら正直に言えたんだけど』と笑顔で返した。
「何があった?・・その言い方、おかしいぞ」とカスミが不敵で言った。
『知りたいの?・・カスミがそれを知りたいの?』と真顔で聞いた。
「知りたいに決まってるだろ・・早く述べよ」と不敵ニヤで言った。
『しょうがないな~・・スター性のある女子高生の写真を貰ったからだよ』とニヤで言って、写真を出そうとした。
「待て!・・分かったから、知りたくないから~」とカスミが慌てて、全開ウルウルで言った。
「私とエースに隠し事を持たせる気だね・・どうなの、かしゅみ」と蘭が満開ニヤで私に手を出した。
カスミは何も言えずに、全開ウルウルをしていた。
「エース・・業務命令です、見せなさい」とユリさんが薔薇ニヤで言った。
『ユリさんの業務命令なら、仕方ないですね』とニヤで言って、ユリさんに写真を渡した。
「まぁ・・素敵」とユリさんが薔薇で微笑んで、全員が見て驚いていた。
カスミは激しく照れていた、私はその可愛いカスミを笑顔で見ていた。
「擦れてない、可愛いきゃしゅみがいる~」と蘭が満開で微笑んだ。
「確かに・・凄いスター性だ、アイドルデビューも納得できる」と久美子が微笑んだ。
「3、4年で何があったんだろう、第4段階に入ったのかな~」とレンがニヤで言った。
「もう、いいでしょ・・エースにお守りでやったんだから」とカスミが不敵で言った。
「強力なお守りですね」と薔薇で微笑んで、ユリさんが写真を返してくれた。
『ユリさんのが見たいな~・・高校の制服姿』とユリさんにニヤで言った。
「それは・・恥ずかしいですね~」と薔薇で返された。
『もしかして・・白黒とか』とニヤ継続で言った。
「分かりました、見せてあげますね・・カラーだという証明を、本当に策略じゃ無敗なのね」と楽しそうに笑っていた。
その薔薇の笑顔を見ながら、体の中心に中心点がある、そう言ったカスミの言葉を思い出していた。
絶対に崩れない姿勢、それを保たせるのは、崩れない心だと感じていた。
どんなに揺れても曲がらない、そして絶対に折れないだろう。
その圧倒的な美に隠された、柔軟な心。
そしてその心に従う強さ、人を信じ続ける強い意志。
取り囲む女性達は、全て薔薇に呼び寄せられた。
同じ時間を生きたいと・・出会い、選んだのだ・・その頂を感じたくて・・。
私が自分が見たくて久美子にした提案、久美子は楽しんで参加する。
そして熱いステージで久美子が見せつける、その魂の叫びを。
ジャズファンの心を鷲掴みにする、その演奏は完璧な叫びだった。
アンコールは久美子のソロ演奏で、久美子はサマータイムを弾いた。
あのリンダが歌った響きで、強いアレンジを加えて弾いた。
弾き終り右手の拳を客席に突き出した、静寂の客席の熱が一気に上がった。
私はその久美子の表情を見て、PGでの1時間には意味が有ったんだと感じた。
久美子がアメリカで話題になり、ジャズの専門誌にインタビュー記事が掲載された。
【私は16歳の夏に、本当の意味での音楽を知りました。
暑い夏でした、熱が全てを溶かすような。
素敵な女性に囲まれて、全力で生きる素晴らしさを教えられました。
私が自分のリズムを取る時の音は、コツコツと響くハイヒールの音です。
集中力に満ちた、少しの緊張を纏った・・ヒールの音です。
あの音を表現したい、私は今もそう思っています。
女神達の足音を、今でも追いかけています。
その音が伝えてくれるから、全力で生きようと】
久美子・・この記事を、皆今でも大切に持っているよ。
あのライブハウスに通ってた人達の間では、今でも話題になるよ。
あのサマータイムの叫びの話しが・・魂のピアニスト・・久美子の話しが。