Matilda Dream
日付の変ることを、アンティークな置時計が示していた。
私はその秒針が動く度に、マチルダとの別れを感じていた。
混乱しそうな心に自分自身が驚いていた、マチルダに対する愛情の強さを感じて。
「シズカちゃん・・もう1つだけ聞きたい、見返りを求めるなと言うあなたの想いを」とユリカが爽やかに微笑んだ、蘭もマチルダも笑顔で促した。
「3人の姉さんには、嘘はつけませんから・・お話しますね。
もちろん、知っての通り、小僧にも嘘は通用しません。
見返りを求めるな・・私は小僧にそう言い続けて来ました。
それは・・自分に言い続けてたんです。
小僧が小児病棟に行くようになって、私達3人が最初に仲良くなった母親。
2歳のトモミという子の、母親でした。
知ってるかもしれませんが、小僧はそのトモミに、ゆっくりと時間をかけました。
そして最後にトモミの言葉まで引きずり出した、私達は母親の喜びを直接感じました。
母親と仲良くなっていましたから、そして私は母親から聞きました。
母親の言葉が・・凄く響いて、私は反省させられました。
その母親が小僧の事を、こう表現しました。
小僧は見返りを求めない、その費やした時間や愛情に対して。
だから入れるんだと、子供の心の奥深くに入れるんだと。
自分は完全に人間として、小僧より劣っていると感じたと。
全てに対して、見返りを求めていたと・・そう言っていました。
私はその言葉に撃たれました、自分もそういう傾向が強い人間だったから。
これをしてあげたから、私にはこうしてほしいとか。
これだけ勉強したから、成績が上がるだろうとか。
私がその事で反省していたら、母に聞かれました、何を悩んでるのかと。
私は正直にその事を言いました、母は真剣に聞いてくれました。
私の母は滅多に怒ったり、こうしなさいとか言わない人です。
でもその時に言われました、小僧はどうしてあれだけの友達が出来るのかと?
そう聞かれました・・私はそれでハッとして、気付きました。
小僧の交友関係、あの恐ろしい程の交友関係を維持するのは。
見返りを求めない、小僧のその心のありかたなんだと気付きました。
それを母に言うと、笑顔になって・・和尚の所に行って来いと言われて。
私は一人で和尚を尋ねました、そして和尚にその話をしました。
その忘れてはならない大切な事を、常に自分に問いかける方法を教える。
和尚はそう笑顔で言って、常に小僧に伝えろと言いました。
私はそれで楽になりました、私は幸せな事に小僧の姉だったから。
常に伝える事が出来るから、そして小僧は感じたら返してくれるから。
それはお前の事だろって、絶対に伝えてくれるから。
私は2度そう言われました・・その度に自分を戒めました。
私が小僧に言う、見返りを求めるなと言う言葉。
もちろん小僧にも忘れて欲しくない、その気持ちもありますが。
自分に問いかけてるんです、見返りを求めてないかと。
そして小僧が何も言わないと、自分の問いかけが間違ってないと感じます。
嘘のつけない相手・・その弟が側にいるという事実。
私はその件で、その事実と向き合えました。
マキや恭子より・・ずっと時間がかかりました。
見返りを求めるな・・あの母親の心の叫びでした。
そして私が小僧に言うその言葉・・それは自分に対してと。
小僧に対して私が唯一できる、2人の絆の確認なんです」
シズカは真剣な表情で、最後に照れ笑いを浮かべた。
「その時・・あなたは何歳だったの?」とユリカが爽やかに微笑んだ。
「小僧が小2でしたから・・私は小5の11歳です」とシズカも笑顔で言った。
「凄すぎるよ・・その言葉に撃たれただけでも」とマチルダが微笑んだ。
蘭は私に抱かれ俯いて泣いていた、悲しみの涙じゃない事を全員が感じていた。
「もう・・お気づきと思いますが、全ては和尚の教えなんです。
あの生臭は、年齢なんて考えませんから。
大人にも子供にも対応は同じです、リンダさんに近いですよね。
人間という枠組みしかもっていません、だから幼い私達にも同じ教えをしました。
そしてその生臭と4歳で向き合った男、それが寺の小僧なんです。
和尚が愛情を込めて読んだ名前、それが小僧です。
和尚はその次が見たいんでしょう、小僧が成長する度に次を提示しますから。
そして今の和尚の、楽しげな顔を見るだけで感じます。
小僧の成長が・・その常識外の生き方を受入れた姿が。
和尚の心の根幹・・私達が常に伝えられている事。
主張しろと・・そして主張する場所を作り出せと。
そうしないと・・また悲劇が起こると言っています。
その和尚の想いを背負って歩くのが・・2人の弟子です。
豊と小僧・・その常識外の存在こそが。
和尚にとっての・・1つの答えでしょうね」
マキが真剣に伝えてきた、私はマキを見てワクワクしていた。
「マキ・・私は今までで、これほど期待する挑戦者はいません、その心のままにやってね」とユリカが爽やかに微笑んだ、マキも笑顔で頷いた。
「和尚・・ごめん、意地悪するなんて言って」と蘭が小動物の表情で舌を出した。
5人が笑顔になって、笑っていた。
「私もそう感じてました、そして和尚様に言われてます・・リンダに会いたいと」とマチルダも笑顔で言った。
「私も一人どうしても会いたいんです・・マリアちゃんに」とシズカが笑顔で言った。
「それは楽しみですね・・小僧に最も影響を与えた、あなたとマリアの出会いは」とユリカが微笑んだ。
「豊君が教えてくれました・・今の小僧の最高指導者は、圧倒的存在だと」とシズカが嬉しそうに言った。
ユリカも蘭もマチルダも、そしてマキも笑顔で頷いた。
ユリカがタクシーを手配して、私達は立ち上がった。
シズカがマチルダと抱き合って、笑顔を見せていた。
そしてマキがマチルダと抱き合って、見詰め合った。
「次来た時に・・1番楽しみなのは、PGのマキの存在だよ」とマチルダが微笑んだ。
「はい・・自分らしく頑張ってみます、待ってますねマチルダ姉さん」とマキが笑顔で言った。
マチルダは嬉しそうに2人に笑顔を向けて、体を離した。
「明日は5時で良いかな?」とユリカがマキに聞いた。
「はい・・よろしくお願いします」とマキがユリカに笑顔で頭を下げた。
「私も昼の仕事済んだら、すぐに行くからね」と蘭も満開で微笑んだ、マキも笑顔で返した。
「小僧・・3丁目のバス停に、4時45分にお迎えよろしく」とマキがニヤで私を見た。
『了解・・マキ、リーゼントで来いよ』とニヤで返した。
「普段はリーゼントなの!素敵じゃない」とマチルダが笑顔で言った。
「素敵なんですよ~・・宝塚の男役みたいで」と蘭が満開で微笑んだ。
「楽しみ~・・私好きなの、宝塚」とユリカも楽しそうに笑った。
玄関でユリカとマチルダにお休みをして、手を振って分かれた。
3人の女性が、女らしいファションの話題で盛り上がっていた。
私はタクシーに歩きながら、蘭の楽しそうな笑顔を見て、喜びがこみ上げてきた。
そしてユリさんに感謝していた、あの美しい正座で頭を下げる姿が浮かんでいた。
深夜の爽やかな風が吹きぬけ、日付はマチルダとの別れの日になっていた。
寂しさを感じながら・・明日泣けばいいと思っていた。
タクシーのフロントガラスに映像が流れた、マチルダが体育座りで俯いていた。
私は嬉しくて声をかけた。
「マチルダ!」と喜びの声をかけた。
マチルダが顔を上げ、プラチナブロンドを輝かせて、笑顔になった。
「正解」と言ったマチルダを抱きしめた、嬉しくてそのまま映像を切った。
駄菓子屋に着いて、マキとシズカが蘭に礼を言って降りた。
私も降りて、ニヤニヤのシズカとマキにニヤを返して、蘭の隣に乗った。
蘭と2人で手を振って、手を振るシズカとマキを見ていた。
2人が見えなくなって、蘭が私に強く抱きついてきた。
「最高だよ・・本当に嬉しかったよ」と蘭が満開で微笑んだ。
『俺もだよ・・蘭が楽しそうだったから』と笑顔で返した。
「うん・・今夜本当の意味で、弟と和解できたよ」と深い蘭の瞳から、大粒の涙が出ていた。
『シズカもマキも嬉しくて、感情が止まらないみたいだったから』と蘭を引き寄せて囁いた。
「あなたは最後まで、マチルダのリュックに詰め込んだんだね・・楽しい思い出を」と蘭が笑顔で言った。
『うん・・明日泣いてくるよ・・そして叫んでくるね』と笑顔で返した。
「うん・・今夜の四季の笑顔、本当に嬉しそうだった。
よっぽど愛情のある叫びだったんでね、リンダに叫んだ言葉は」
蘭が満開ニヤで言った、私もニヤで返した。
「罰を与える・・リンダとマチルダに、I Loveを付けて叫んだ罰を」と満開で微笑んだ。
『明日の分まで罰が下るんだね・・頑張ります』と笑顔で返した。
暖かい波動に包まれて、深夜の道をタクシーが走っていた。
帰る場所を目指して・・希望ある未来を目指すように。
タクシーがアパートに着いて、蘭を抱き上げた。
蘭は満開笑顔で、強くしがみついてきた。
私はドアを蘭に開けさせて、蘭は抱かれたままサンダルを脱いだ。
『甘えん坊』と蘭を見て、ニヤ言った。
「やきもち・・マキのあなたに対する、愛情を強く感じたから」と満開ですねた。
『それは仕方ないよ・・あのトリオだけは』と笑顔で返した。
「添い寝した事ある?」とニヤニヤで聞いた。
『添い寝も・・キスもしたことないよ』と笑顔で返した。
「よし・・先にシャワーしてくる~」と笑顔で言って、洗面所に消えた。
私は日記を出して、思い出しながら書いていた。
蘭がパジャマで戻ってきて、私もシャワーで汗と潮を流した。
部屋に戻ると、蘭がご機嫌でビールを飲んでいた。
私がウルで蘭を見ると、満開ニヤを出した。
「仕方ないね~・・1本だけよ」と満開で微笑んだ。
私は笑顔で冷蔵庫から、ビールを出して蘭の隣に座った。
「ユリカ姉さんの、あんな嬉しそうな顔初めて見たよ」と蘭が囁いた。
『蘭でもそうなんだ~・・俺も嬉しかったよ』と笑顔で返した、暖かい波動が来た。
「私もユリカ姉さんと同じ気持ちになった・・マキの言葉を聞いていて。
限界トリオ・・その一人でも夜の世界に挑戦してくれるのが、嬉しいよ。
私も感じたよ・・今までで、1番期待する挑戦者だよ。
豊の強い意志と、あなたの心の言葉。
その2つを持っているんだね、マキちゃんは。
シズカもマキも素敵だよ・・私は本当に嬉しかった。
あの私の弟の話を聞いた、その瞬間にあの言葉が出る・・シズカ。
そして、そのシズカの言葉を受けて、心を直接言葉にして伝える・・マキ。
凄いと感じてたよ・・喜びの中で。
マキがもたらす変化は・・きっと素敵なものだと確信した。
あなたは今夜が無くても、マキを迎えに行ってたね。
シオンに感じて欲しい最後の想い・・その答えがマキなんだね。
爆弾は次から次に用意してるんだね、素敵な爆弾を。
ユリさんの笑顔が見えるよ、マキを面接する時の。
ユリさんが認めた男、その男のために頭を下げたんだよ。
そしてマキに出会う・・最後の挑戦者と同じ言葉で話す女性に。
どうなるんだろう・・PGはどうなるんだろうね。
私は楽しくてしかたないよ・・水商売をして良かったよ」
蘭は私の肩に乗って、優しく囁いた。
『蘭・・1つだけ聞いていい?東京PG・・どう思ってるの?』と囁いて聞いた。
「本心を言うね・・最高に嬉しいよ、女として自分を試せる舞台なんでしょ」と静かに言った。
『そうだよ・・短い期間で良いから、挑戦してみようか』と優しく返した。
「うん・・最後の舞台としては、申し分ないね」と唇だけで微笑んだ。
『もう遅いから、寝ようね』そう囁いて、蘭を抱き上げてベッドに寝かせた。
電気を消して、窓を少し開けて、蘭の場所に戻った。
蘭の首から腕を通して、引き寄せると蘭は静かになっていた。
疲れたのだと思って、蘭の額にキスをして、蘭の寝顔を見ていた。
私は幸せを感じながら、眠りに落ちていた。
翌朝、車の音で目覚めた。
快晴を感じていた、その時には海に機首を持ち上げる機体が浮かんでいた。
私は洗面所に行き、力を込めて必死で顔を洗った。
寂しさに負けないように、マチルダに寂しい顔を見せないように。
キッチンに行って、冷蔵庫から鮭の切り身を出して焼いた。
お粥を2人分作って、卵焼きを焼いた。
「おはよ~、今朝も幸せ」と蘭が満開笑顔で私を見た。
「よし・・それならマチルダに会えるね」と満開ニヤで言って、洗面所に消えた。
私は朝食の用意をして、日記を書いていた。
「うん、今朝はやっぱり、お粥ちゃんだよね」と満開で座った蘭と朝食を食べた。
『蘭・・俺の頑固親父、変だからね』とニヤで言った。
「どこが、どんな風に変なの?」と蘭が興味津々光線を出した。
『お喋り』とニヤニヤで返した。
「頑固なお喋りさんなの・・楽しそう」と満開になって微笑んだ。
『和尚と同席・・不安だ~』とウルで言った。
「ユリさんが和尚に誰を付けるのかが、楽しみだね~」と満開ニヤで言った。
『それは怖い・・想像したくない』とウルウルで返した。
「ユリさんから、カスミでハルカでナギサで・・最後が多分サクラさんだよ」とニヤで言った。
『サクラさんか~・・鋭いからな~』と笑顔で返した。
「サクラさん、絶対に気付くね・・そしてお礼を言うよ」と満開で微笑んだ。
『お礼なんて・・こっちから言わないと』と真顔で返した。
「サクラさん泣いてたよ、アイさんに抱かれて、あなたがエミに伝えた時」と蘭が優しい瞳で言った。
『そうなの・・知らなかったよ』と真顔で返した。
「エミは全てを吸収する・・本当にそうだね。
開宴のあの言葉・・あれはあなたから吸収してたよ。
あなたの言葉だったよ、私は確かにそう思った。
そして、悪いことばかりする中学生じゃないねって言った言葉。
心が鷲掴みにされたよ、伝わってると感じたよ。
ミサとレイカとマリアは、エミがその強い意志で守る。
そしてエミはあなたが守り続ける、その強い伝達方法で。
サクラさんは母親として、感動してたんだよ。
エミの成長を実感して、あなたの溢れる愛情を感じて」
蘭は笑顔で静かに言った、私は嬉しくて笑顔で返した。
蘭が用意してる間に、食器を洗い準備をした。
2人で手を繋いで、バスで出かけた。
靴屋の前で蘭が立ち止まり、深い瞳で私を見た。
「泣いておいで・・そして伝えておいで・・大切なマチルダに」と満開で微笑んだ。
『うん・・泣いてくるよ、夕方までには復活するよ』と笑顔で返して、手を振って別れた。
ユリカのビルに歩いていると、その姿が見えた。
《最後の最後で厳しい試験だね・・ユリカ》と心に囁いた。
強い波動が帰って来た、私は拳を握り深呼吸した。
リンダの座っていた場所に、マチルダが同じ体制で座っていたのだ。
私は走って近寄り、笑顔で言った。
『ユー・OK?』と笑顔で声をかけた。
マチルダが顔を上げた、その時にリンダの映像が流れて、マチルダと重なった。
「イングリッシュ・OK?」とマチルダが真顔で言った。
『NOだけど、目指す場所まで連れて行くよ』と笑顔で手を出した。
マチルダの瞳から涙が溢れて、私も切なくてその場で泣いていた。
そして意を決してマチルダを抱き上げた、マチルダが強くしがみついてきた。
『OK・・Okだからマチルダ、絶対に目指す場所まで一緒に行くからね』とマチルダを抱きしめた。
「・・・・・」マチルダが必死で英語で何かを言った、私はマチルダの緑の瞳を見ていた。
『マチルダ・・俺も待ってるよ・・そして寂しいよ』と囁いた。
マチルダの強く揺れる体温と、早い鼓動と、緑の瞳で伝わったきていた。
マチルダは泣きながら、輝く笑顔を見せてくれた。
私はその笑顔に伝えた、全てを使って強く伝えた。
『Matilda Dream。
少し銀の強いプラチナブロンド、そして深緑の輝く瞳。
それがマチルダである、西洋人にしては華奢な体で美しく立つ。
その真直ぐに伸びた背骨は、強い意志を反映している。
いつどんな時でも、美しく笑う・・その辛い経験を隠しながら。
マチルダは伝達者である、その伝達は心に訴える。
波をおこすために、小さな波が大きな波になると信じている。
その心は距離を凌駕する、月が海に波を作り出すように。
マチルダの容姿は、理想を連想させる。
理想を描いた先に、その容姿が存在する。
しかしマチルダは常に、ヨレヨレのTシャツを着ている。
20歳の女性なりのお洒落をしない、しかし美しいと感じる。
そのヨレヨレのTシャツが、輝いて見える。
大切に着ていると感じられる、その美しい心が滲み出ている。
私は思っている、マチルダの美しさ・・それは飾らない自然なのだと。
マチルダの持っている物に、不必要な物は無い。
リンダとマチルダ・・全く違う個性。
しかし本質は酷似している、目指す方向が全く同じである。
そしてブレない・・曲がったりしない。
マチルダは曲がる事をし知らない、目を逸らさないから。
私の心配は1つだけである、マチルダが疲れてないかと常に思っている。
どんなに遠くても・・届けてみせる、その想いは。
最後の一歩を、マチルダに踏出させる事だけは、絶対に阻止する。
私の全てを使ってでも、絶対に伝えてみせる。
月に語りかける、無理だけはするなと。
そして私は強く言おう、壁を超えるな・・マチルダ。
壁は俺も一緒に越えるから、一人で越えるなと。
マチルダが存在する、月に叫ぼう・・俺が寂しいからと。
緑の大地を反映する瞳、強い意志で進む者。
世界中に配達する・・感染させる・・笑顔を。
笑顔の伝達者・・月下の雫・・月のマチルダ。
私がマチルダに伝えたい、唯一の言葉を贈ろう。
I Love Matildaと・・心を込めて』
強くしがみつくマチルダの瞳に、瞳で優しく伝えた。
私が見送るまでに発した、最後の言葉で強く伝えた。
強く熱い波動に包まれていた、ユリカの寂しさを感じていた。
泣きながら瞳を閉じたマチルダに、優しくキスをした。
寂しくて離したくなかった、唇からマチルダの寂しさを感じたから。
「エース・・本当にありがとう、幸せだった・・もう大丈夫、日本語を終わるね」と輝く笑顔でマチルダが言った。
私は無言で頷いて、優しくマチルダを降ろして、ピンクのリュックを担いだ。
マチルダが腕を組み、ユリカのビルを見上げた。
「・・・・・Yurika」と英語で叫んだ、これまでで最強の波動が包んだ。
ユリカの涙を感じていた、切なくて涙が出そうだった。
私とマチルダは、ユリカのビルに背を向けてバス停を目指した。
ユリカの波動が連続で何度も押し寄せて、私は必死に歩いていた。
隣を歩くマチルダも、必死に涙を我慢していた。
快晴の夏の朝、空には入道雲が浮かんでいた。
私は空を見上げて、世界に想いを馳せていた。
青空のブルーに、リンダの瞳が重なって見えた。
マチルダの温かく優しい温度に包まれて、空を目指して歩いていた。
マチルダとのこの別れは、やはり辛かった。
リンダの時はバタバタと時が流れて、あっと言う間に別れがきた。
リンダの時は、別れた後に寂しさが襲ってきた感じだった。
マチルダとは、永い時間を過ごしていた。
マチルダの心に触れる度に、マチルダを好きになっていった。
私にとってリンダは憧れだった、そしてマチルダに対してはファンだった。
芸能人を好きになるような感覚で、愛していた。
そうしないと、自分が制御できないと思うほど好きだったのだ。
マチルダのヨレヨレのTシャツ、今も鮮やかに蘇る。
どんなに美しいドレスよりも、美しく輝いて見えた。
天真爛漫な表情の中に、見え隠れする強い心。
優しさが隠せない深緑の瞳、流れるように話す言葉。
疲れてない?・・マチルダ・・それ以上は駄目だよ。
約束したよね、2度目の夜の海で・・最後の決断は自分を優先すると。
守ってるよね・・マチルダ・・感じているんだよ。
ユリカの波動に・・リンダとマチルダの微かな熱を。
距離を凌駕する心・・月に存在する緑の大地。
寂しい時、必ず思い出す笑顔・・強い意志を纏い進む。
月下の雫・・月のマチルダ・・I love Matilda・・。