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先住者の伝言

秋の香りを微かに感じる風が流れ込み、空間を爽やかに包んでいた。

誰もがユメを抱き、進むべき道を見据えていたのだろう。

発散する熱が高く、変化の季節の到来を感じていた。


私はエミを抱いて、その輝く少女の笑顔に包まれていた。

強い意志を示す瞳は、遠い未来を見ているように輝いていた。

「そろそろ終宴にしたいと思うけど、最後はどうしよう」と美冬が私に聞いた。

『マチルダと美冬とシオンで、サマータイムでしょう』と笑顔で返した。

久美子が私に微笑んで立ち上がり、ピアノに向かった。

マチルダとシオンが笑顔で立って、美冬が続いた。

銀の扉のアプローチに3人が立った、全員が笑顔で見ていた。


久美子が静かに前奏を奏で、マチルダが左右の美冬とシオンを交互に見た。

見事なハーモニーで歌い始めて、その歌声に全員の笑顔が包まれた。

久美子は徐々に力強くして、3人の気持ちを引っ張っていた。

間奏でまた聞いた事のない、強いアレンジで叫びの世界に誘った。

3人の見事なシンクロの歌声を聞きながら、久美子の教えてくれた、もう1つの意味を感じていた。

人種差別など感じた事のない、島国の田舎の子供にも感じる事ができた。

もちろんリアルじゃなかった、アメリカに渡りリアルに感じた時は辛かった。


夏の到来を喜ぶ歌・・確かに当時の黒人達にとっては、思い入れの強い曲だった。

リンダが後に教えてくれた、差別と区別の違い。

区別が【事実】で差別が【真実】だと、生命が進化の過程で選択した色。

その事で区別も差別も有ってはならない、それは人間を否定する行為だから。

リンダはブルーの瞳を深めて、静かに伝えてくれた。

英会話の未熟な私にも、その瞳で強く伝わった。


今現在、確かに大統領のオバマも有色人種である、地位はあの頃よりも確実に向上した。

リンダとマチルダは、今のアメリカをどう感じているのだろうか?

2人ともアメリカを愛していた、真の意味での愛国者だった。

リンダの歌うサマータイムと、マチルダの歌うサマータイムは響きが違う。

伝えようとする想いが違うのだろう、私にはどちらも強く心に響く叫びだった。


拍手の中に3人の笑顔が咲いていた、全員が立って一人ずつマチルダに握手を求めた。

マチルダは笑顔でそれに答えて、次回の約束を一人一人と交わしていた。

ゲストが帰路につき、9人衆とシオン、ボーイにミサキとセリカで片付けをしていた。

私は会場の片付けを、カズ君としていた。

蘭は満開の笑顔で、ユリさんとマチルダと3人で6番に座り談笑していた。


「火曜の夜に連れてって・・復活前夜に」と後からユリカの声がした。

『了解、ユリカ・・双子話楽しかった?』と振返り笑顔で聞いた。

「素敵な話が沢山聞けたよ、嬉しかった」と爽やかに微笑んだ。

私はユリカの変化に驚いていた、静けさを纏うオーラがあった。

普段でも深い深海の瞳が、静寂を連れて穏やかな輝きを放っていた。


『ユリカ・・俺は後悔するのかも、ユリカをその場所に誘った事を』と想いのままを言葉にした。

「大丈夫よ、あなたはそんな後悔はしない・・私が望んだ事よ」と真剣な深海の瞳で言った。

『そうだね・・俺はユリカの望みに対して、反対も後悔も絶対しないよ』と笑顔で返した。

「忘れないでね、今の言葉・・私には大切な言葉だから」と爽やか笑顔に戻った。

私はこの時の記憶が今でも鮮明に残っている、気温も匂いもはっきりとある。

ユリカの他者を寄せ付けない、圧倒的な存在感が強く伝えてきたから。

私はこの時に覚悟を決めた、ユリカに愛する人に巡り合えたと伝えられる事を。


「まだよ・・その報告はまだ出来ないよ、あなたが最終段階に導くまでは」と爽やかニヤを出した。

『ユリカ・・その時は俺にちょうだいね、ユリカの分身・・愛する妹を』と私は正直に言った。

ユリカの深海の瞳が見開き、大粒の涙が溢れた。

私はユリカを抱き上げて、引き寄せた時に感じた・・ユリカの妹の存在らしき温もりを。

「そこまで考えていたの・・最終段階はそれなの?」と泣きながらユリカが囁いた。


『俺が本心で欲しいんだよ・・ユリカと離れるなら、愛するユリカの分身が。

 俺に波動を伝えてくれるのは・・妹なんだろうから。

 俺は勝手に名前をつけたよ・・ユリアって呼んでる。

 ユリカ・・俺がユリアの了解とるから、一生側にいてもらう。

 全てを見せるよ・・これからの挫折も葛藤も。

 俺にはユリアが必要だから、教えてくれるから・・ユリカの伝言を。

 羊水の箱舟・・百合香の言葉を』


私は笑顔を意識して、美しいユリカの瞳に伝えた。

ユリカも笑顔になって、頷きながら泣いていた。

「このまま、蘭の所に連れて行って」と爽やかニヤで甘えた。

蘭を見ると満開笑顔で見ていた、その横に薔薇の笑顔と輝くプラチナブロンドが見えた。

私は6番席にユリカを抱いたまま歩き、3人の前でユリカを降ろした。

ユリカは3人の前に凛として立ち、深海の瞳の最深部を深みを蘭に見せた。

蘭もユリさんもマチルダも、ユリカの何かに押されているようだった。


「私がこの仕事を選んだのは・・自分が本当に普通と違うのかが知りたかった。

 私は学生の頃自分を偽っていたの、子供の頃に気持ち悪がられた経験がそうさせた。

 でも卒業する時に考えたの、このままじゃ駄目だって思った。

 だから本物の女性を探したの、そして巡り合えた・・大ママとユリ姉さんに。

 仕事を初めて、かなりの部分を出せる事が嬉しかった。

 否定されなかったから、大ママにもユリ姉さんにも。

 そして巡り合えた・・リアンに・・嬉しかった~。

 その規格外の自分を、理解して楽しむ女に出会って。

 その奔放な心と、熱い魂が教えてくれたの。

 隠していては駄目なんだと、私の心の壁を燃やし・・溶かしてくれた。

 それでも全ては出せなかった、恐怖心が抜けなかったの。

 でも今は・・今度は全開を見せるわ・・夜街で働く仲間に。

 私を受入れてくれた大切な人達に・・百合の名を頂いた誇りに賭けて。

 私は百合香・・水の百合香・・羊水の揺り篭、そこに響く母の子守唄。

 エースから今称号を貰ったから・・私は羊水の箱舟・・百合香」


静かなユリカの熱い想いが溢れていた、3人はユリカを見て固まっていた。

蘭が満開の笑顔になって立ち上がり、ユリカの深海の瞳を深い瞳で見た。

「ユリカ姉さん、ありがとうございます・・見せてもらいます、大切な最高の副職という称号にかけて」と言って頭を下げた。

「ユリカ・・ありがとう、百合を大切にしてくれて」とユリさんも薔薇で微笑んだ。

「完全にまた1段上がりましたね・・羊水の箱舟、素敵です」とマチルダも輝く笑顔で言った。

「水曜が待ち遠しいですね、蘭」とユリさんが蘭に微笑んだ。

「はい・・早く来て欲しいような、もったいないような」と蘭も満開で返した。

『蘭・・もったいなくないよ、ユリカのPGが1度限りと決まってないよ』と私は蘭にニヤをした。

「もちろん、私もそうは思ってないよ」とユリカが私に爽やかニヤで言った。


「本当ですか!」と蘭が驚いて言った。

「エース・・その時の考えを述べよ」とユリカが最強ニヤで私を見た。

片付けの終わった女性達が、集まって来た。


『ユリカとリアン・・最低月1のPGと魅宴のイベントにしたい。

 その時のユリカとリアンの店にも、大きなイベントを出す。

 最強若手決定戦・・銀河の3人とユメ・ウミ・レンにハルカとミサキ。

 その各々の個性を交代で楽しんでもらう、スナックでの会話勝負。

 もちろん、蘭やナギサも1度は出てもらうよ。

 ゴールドも参加歓迎だし、ゴールドにも送り込む。

 そして俺の最終目標は、スナック百合を感じてみたい。

 そして・・常に想像していた・・魅宴のユリが見たい。

 本物の女王を見せてあげたい・・沢山の次世代の女性に』


私はユリさんの薔薇の笑顔を見ながら、全員に響くように強く言った。

「やっと言ってくれました、あなただけは私を特別扱いしないと思ってました」とユリさんが楽しそうに悪戯っ子を出した。

「ユリ姉さん・・本気なんですね」とユリカが驚いて言った。

「もちろん、全てのお店を経験させてね」と薔薇の微笑で返した。

「ちょっと待って・・ユリ、うちの店もかい?」と通路から大ママの驚きの声がした。

「大ママが了解してくだされば」とユリさんが薔薇継続で返した。

「駄目だなんて口が裂けても言うわけないよ、ありがとう・・ユリ」と大ママが微笑んだ。


『さてミチル、困ったね~・・クラブのミチルを見せないとな~』と私は大ママの横に立つミチルにニヤを出した。

「誘うよね~・・嬉しいね~・・了解OKだよ」と妖艶に微笑んだ。

「群雄割拠の中に次の最高の時が来る・・エースの考えが少し怖いよ」とマチルダが笑顔で言った。

「群雄割拠になった時に、誰が1番強く光ると考えてるのかな?」と蘭が満開ニヤを出した。

『圧倒的熱量・・迷いの無い生き方・・そして愛に対して素直な女・・炎のリアン』とニヤで返した。

「そうなんですよ、リアン・・あの子の熱は周りが熱いほど、燃え上がる」とユリさんが言った。

「炎を纏い歩く姿が又見れるんですね、今日でも相当強かったけど」と蘭が満開で微笑んだ。


「エースはリアンの事を、外見は1番タイプだと今でも堂々と言ってるから。

 エースのリアンに対する愛情は、他とは全く別の物ですね。

 海竜の件はもちろん、リアンには強く響いてるけど。

 なんと言っても、シオンの変化でしょう。

 そしてリアンの最も不安に感じていた、シオンの将来。

 その不安と寂しさを、エースが一撃で全て破壊しましたから。

 添い寝の約束で、リアンに確信させましたから。

 シオンの選ぶ道を、リアンに認めさせた・・愛情に満ちた言葉で。 

 あの時のリアンの喜びは、私も初めて感じたものでした。

 リアンは愛に対して本当に素直な女です。

 今のリアンはシオンの為でも蘭の為でもなく、エースの望むことだかから。

 自分の全てを曝け出すでしょう、愛に対しては愛で答える女だから。

 圧倒的熱量で来ます、全てを溶かすでしょう、今のリアンの熱は。

 ユリ姉さんも蘭も私も、見た事が無い熱でしょうね」

 

ユリカの強い言葉に、静寂が訪れていた。

「エースお願い・・私達もバラバラで良いから、スナックを経験させて」と千秋が言った。

『もちろんOKだよ・・個人勝負するんだね』とニヤで返した。

「それが望みだよ・・私達は夜の仕事をした経験を、誇りに感じていたいから」と魅冬が微笑んだ。

『OK・・シオンがデビューしたら、最初四季のヘルプをしてもらうよ』とニヤニヤで返した。

「私達のヘルプって!」と千春が驚いて言った。

『俺は四季のコンビネーションに、いつも驚かされている・・四季は個人としても、トップランナーだと確信してるよ』と笑顔で返した。

「よろしくお願いします」とシオンがニコちゃんで頭を下げた。

「シオンやめて・・緊張するから」と千夏が笑顔で言った。


「正直に述べよ・・群雄割拠の時代で、1番期待するのは何?」と蘭が満開ニヤで言った。

『もちろん・・詩音、詩の言葉・・歌の会話』と笑顔で返した。

「こりゃ~まずいね、ちっと銀河も作戦練ろうかね」とカスミが不敵を出した。

「カスミ、可愛いバージョン徹底的に教えるよ」とホノカが華麗ニヤを出した。

「気持ち悪いからやめて、カスミの可愛いわ」とリョウが涼しげニヤで追いかけた。

「うるさい・・魔性の女」とカスミが最強不敵で返した。

「カスミ姉さん、魔性は盗まないんですか?」とセリカが流星ニヤでカスミを見た。

「セリカ・・まさか魔性を会得しようと思ってる?」とカスミが不敵継続で返した。

「はい、可愛い魔性ぐらいないと、シオンのコンビになれませんから」と笑顔で返した。

「流星のセリカ・・確かに最新型だね~、楽しみだね~」と蘭が満開で微笑んだ。

「はい、なんと言ってもエースに全裸を見られましたから~」と最強流星ニヤで返した。

静寂が全てを支配した、蘭がゆっくりと振返り私をウルで見た。


『いや・・その・・映像で少し・・後姿を』と私は慌てて蘭に言った。

「良かったな~・・今夜、蘭姉さんの全裸が見れるね~」とカスミが最強不敵で言った。

「映像で見なさい・・胸はもっと大きいから、忘れるなよ」と蘭が満開ニヤで言った、私は笑顔で何度も頷いた。

全員の笑い声で、最後の終宴になった。


PGを出て、通りでマチルダとカスミが抱き合った。

その別れの姿を見ていた、カスミの涙が輝いていた。

そして蘭とマチルダが抱き合って、蘭の青い炎が包んでいた。

お互いに言葉は無かった、その見詰め合う瞳で会話していた。

出会った時に約束した【次回】を、2人で確認してるようだった。


私は蘭とカスミと、ユリカとマチルダの乗るタクシーを見送った。

タクシーが通りを曲がり、見えなくなった。

「うし・・明日も仕事だ、頑張るぞ~」とカスミが強く言葉にして、寂しさと闘っていた。

『カスミ・・マチルダはカスミに出会えた事が、1番の思い出になったよ』とカスミに言った。

「私もだよ・・今年の夏、マチルダとお前に出会えた事がね」と笑顔で言って、タクシーに乗った。

私は蘭と手を振って、カスミのタクシーを見送った。


「カスミ・・素直に言葉が出だしたね、素敵な言葉が」と蘭が満開で私を見て、強く腕を組んできた。

『さぁ行こうかね、イルカちゃんに会いに』と笑顔で返した。

「会えるかな~・・ねぇ確立はどの位なの?」と蘭が満開で聞きながら歩いた。

『最近はかなり低いよ・・でも蘭なら会えるよ』と笑顔で言いながら、靴屋の駐車場に着いた。


『蘭・・隠してるから、服の下に水着を着なよ』とニヤで言った。

「うそ!・・泳ぐの、夜の海で」と蘭が驚いて答えた。

『本当にイルカを感じたいんなら、海に入らないとね』とニヤで返した。

蘭は最高の満開笑顔になって、ケンメリのトランクからバックを出して助手席に入った。

私は助手席の横に背を向けて立ち、強い波動を楽しんでいた。

《ユリカの水着姿・・楽しみ~》と心で囁いて、強い波動を楽しんでいた。

蘭が着替えて出てきて、私は後部座席のバスタオルの入った袋を取った。


「全てにそつがないね~・・行こう、行こう」と言う満開蘭に手を引かれて通りに出た。

通りに出てタクシーに乗って、マス爺の店に行った。

『マス爺・・第二段』と奥でTVを見てるマス爺に声をかけた。

「おう・・今夜は最高じゃよ・・しかし綺麗な女ばかり連れてくれな~」とシワシワ笑顔で言った。

「嫌ですわ~・・もう、正直なんだから~」と蘭が嬉しそうに、営業トーンで返した。

「もしや・・最近和尚が通う店の方かな?」とマス爺がニヤで聞いた。

「はい、PGの蘭で~す」と蘭が笑顔で答えた。

「ワシも今度、和尚と同行しよう」とシワシワニヤで言った。

「お待ちしてます・・今夜イルカちゃんに会えますかね~?」と蘭が満開のまま聞いた。

「君なら会えるよ・・会いたいと思う気持ちが、本心ならの」と笑顔で返した、蘭は満開笑顔で頷いた。


私は蘭と手を繋いで、小船の前に蘭を乗せてモーターのチェックをしていた。

蘭は満開継続で、ワクワク感が見ていて分った。

『蘭・・怖くないね?出発するよ』と笑顔で声をかけた。

「何も怖くない・・何も欲しくない・・海に出よう」と美しい真顔で言った、私も真顔で頷いた。

大淀川の真ん中を、河口に向かいゆっくりと進んだ。

橋をくぐり人工的な照明が遠ざかって、海の波が月光に照らされて輝いた。

蘭は海を見ていた、風に靡く蘭の髪から、蘭の香りがしてきた。

海と川の境を、ゆっくりと波を交わしながら進んだ。

波の影響を受けない場所から、速度を上げて目的地を目指した。


海の上には星屑が散らばり、入道雲の先端を照らしていた。

静寂の世界にモーター音だけが響いて、私と蘭の2人だけの世界に入った。

「これだけで充分だよ、この世界だけで最高だよ」と蘭が前を見たまま大きな声で言った。

その時に私は気付いた、併走してくる美しい輝きが右後に見えた。

その数に驚いていた、10頭はいる群れが遊ぶように付いて来た。

『蘭・・本当にこれだけでいいの?帰ってもらう彼等に』と大声で言った。

蘭は驚いて振向いた、私は視線で方向を教えた。


蘭がその方向を見た、腰を少し浮かし見つめていた。

月光を受けて光る、泳ぐために進化した表皮が何頭も水面に出ていた。

蘭は見つめたまま、その深い瞳から大粒の涙を流していた。

私は目的地に到着して、ゆっくりと碇を沈めて、照明を下に向けた。

イルカ達は船の周りを、大きく円を描くように泳いでいた。

蘭はただそれを見ていた、青い炎を最大にして何かを伝えてるようだった。


『どうかな蘭・・素敵でしょ』と蘭の横に座り笑顔で言った。

「素敵過ぎる・・本当に他の物は何もいらない」と満開になって私に抱きついた。

『周回がもう少し狭まったら、海に入ろう・・そうすれば彼らの方から来るから』と蘭の耳元に囁いた。

「本当の事なのね・・彼らと同じ場所に入れるの?」と蘭が潤む瞳で聞いた。

『大丈夫・・俺も子供の頃に経験したから、こっちに敵意がなければ来るよ』と囁いて返した。

蘭が最高の満開になって、腕の力を強めた。

私も蘭を抱きしめて、楽しそうに、遊ぶように泳ぐイルカ達を見ていた。


そして1頭のイルカが近付き、顔を出してこっちを見た。

私は驚いて見ていた、右目の上に大きな傷のあるイルカだった。

マチルダの時にジャンプを見せてくれた、あのイルカがこっちを見ていた。

蘭はそのイルカの瞳を見て、小刻みに震えていた・・蘭の感動が伝わってきた。


『OKみたいだね・・合格したね俺達、海に入ろう』と静かに蘭に言った、蘭は私を見て笑顔になり頷いた。

私はTシャツとジーンズを脱いで、先に静かに海に入った。

蘭が服を脱ぐのを待ちながら、感じていた・・至近距離にいる事を。

蘭が水着になって、私の所に来た、私は蘭が降りてくるのを優しく支えていた。

蘭が海に入って、私の首に腕を回した。

『蘭・・感じる・・すぐ側にいるよ』と耳元に囁いた。

「うん・・感じる、温かいんだね」と囁いて返してきた。

『蘭・・怖くないなら、ゆっくり泳ごうか・・月に向かって』と囁いた。

「うん、怖いものなんてないよ」と言って腕を外した。


私は蘭の横を、ゆっくりと平泳ぎで泳いだ・・近付いてくる温もりを感じながら。

「くる!」と蘭が私に言った時に、私と蘭の間に光る背ビレが浮き上がった。

その時の蘭の喜びの表情が忘れられない、確かに何かを感じているようだった。

そして蘭も何かを伝えてるようだった、私は蘭の表情でイルカの力を確信した。

その圧倒的な癒しに触れて、人は誰でも何かを感じるんだと思っていた。


蘭は意を決して、優しく背ビレを触った・・イルカは優しく並走を続けていた。

蘭の瞳は潤んでいた、その温もりで分かり合っているようだった。

そしてイルカ達が見せてくれる、神秘的なその存在を。


私達の間のイルカが深く潜り、速度を上げて大きなジャンプを見せてくれた。

そして私達の横を6頭のイルカが、全速力で駆け抜けて。

見事なジャンプを披露してくれた、私は呆然と浮いて見ている蘭を、優しく抱き寄せて支えた。

「人は海から産まれたんだね・・そう確信したよ、本当に温かい仲間なんだね・・イルカちゃん」と蘭が月を見ながら大きな声で言った。


蘭の背景にある、月光が海に照らす一筋の光る道。

その輝きを見ながら、私は誓いを思い出していた・・月光を追いかけようと。

暗黒の深海の色にも、恐怖を感じる事は無かった。

生命は確実に繋がり、連鎖してると感じていた。


「死を恐れる事はない・・だから生きる事を恐れる事もない・・和尚様の言葉、今理解したよ」と蘭が囁いて瞳を閉じた。

私は蘭の唇に唇を重ねて、伝えていた・・愛していると。


いつの頃からだろう、イルカの数が減ってしまった。


私の幼い頃は、船釣りに出ると確実に遭遇していた。


サーフィンで沖に出た所で、遭遇したりしていたのだ。


都会から来るサーファー達は、一瞬驚き、その姿を見て歓喜の声を上げていた。


私はその度に感じていた、私達は間借りしていると。


先住者の動物達の場所を、暫くの間、借りているのだと思っていた。


サーフィンもバイクも、私に大切な事を気付かせてくれた。


自分が間違えば、死に至る可能性がある事を感じさせてくれた。


私は先日、被災地を後にしながら、大切な事は何かと考えていた。


準備する事だと、それは物質的な事だけでなく、精神的な事まで。


その時に自分の判断に従えるように、自分を最後まで信じられるように。


あの美しい海岸線が、必ずいつの日か復活して、人々の笑顔で溢れると信じている。


あの夜の海で感じた・・イルカ達の声が、今も響いている。


生きる事を恐れなくてもいいと・・そう優しく伝えているから。









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