事実と真実
熱の高い巨大な空間に、集っている瞳は輝きを増していた。
世捨て人の老人を促していた、その瞳の意志で伝えていた。
「やはりその話になるよの~・・その伝説は豊が小僧に言って色付けをした。
小僧が面白く脚色した部分が多いからの~、作り話と感じて当然なんじゃよ。
豊も小僧も真実が伝わる事を拒絶したから、それを恐れたから。
豊も小僧もこの話しに出てくる女性を気遣った、心が深く傷ついていたから。
派手な事件じゃったから、噂になるのは明白で、気にしたんじゃよ。
それで小僧が面白い脚色をしたんじゃ、ワシしか真実を知らんのだよ。
豊も小僧もお互いの部分しか知らん、2人はこの話を互いに封印したからの。
よし・・今日は話をしよう、豊も小僧も本心では知りたいと思っておるから。
そしてその女性の傷は完全に癒えたから、ただ心を空にして聞いて欲しい。
ここにお集まりの人は大丈夫と思うが、良し悪しで判断してほしくないんじゃ。
良いの・・豊?良いの・・小僧?」
和尚が静かに言った、言葉に力が有り私も豊も真顔で頷いた。
全員が静かに和尚の言葉を待った、暖かい静寂が包んでいた。
「この話をするには、まずその当時の背景を話さんといかん。
あれは2年前の冬・・正月が終わり七草を過ぎた頃じゃった。
豊は中3で就職が決まっておった、小僧は小5の時じゃの。
豊は高校に行けと言う、祖父と教師の提案を断った。
好きな車の整備の仕事をするから、それには学問より現場で修行したいと言って。
豊は両親の記憶がないから、育ててくれた祖父に早く楽をさせたかったんじゃろう。
小僧はその前年の10月~12月に、立て続けに4人の仲間を失っておった。
それにミホの後悔をずっと引きずっておったから、精神的に限界やった。
その年末、新聞である記事を読んで、元旦に家出する。
北海道から東京までキセル乗車で行った、小6の少年の記事に触発される。
そして記録更新を目指し、小5で挑戦するんじゃよ・・小僧らしい考えじゃよな。
小僧は東京まで行って、帰ってきたのは4日の昼じゃった。
東京で何があったのか言わんが、かなり成長していてワシは驚いた。
まぁこんなところが、その時の2人の状況やった。
そして・・これは言いたくないが、小僧も隠してるようだから。
でも言わねばこの話は出来んから、教えよう・・ユリカに」
和尚はユリカを優しく見た、ユリカは少しの驚きを瞳に出して和尚を見た。
私は和尚が何を言うのか、検討はついていた。
「ユリカよ・・小僧はお前と同じなんじゃよ。
考えてもみろユリカ・・小僧の伝達方法を、それを得るという事を。
ここにいる全ての人に教えよう、小僧に対し嘘はつけん。
小僧は大切な話しの嘘は、全部見破るんじゃよ。
なぜならば・・人は隠せない、瞳の変化・鼓動・呼吸・温度に出るから。
それを隠すことは絶対に出来ん、小僧はそれを読めるんだからの。
小僧は常にそれに晒される、友達関係も恋愛も教師の教えも。
だから同世代の女子を好きにならない・・いやなれないんじゃよ。
思春期とはそういう時期だからの~、小僧はそれを分ったから。
好きな人を苦しめるのが嫌じゃったし、それで何度も辛い思いをしたから。
だから・・小僧は女子と深く絡んでたのは、ここに来る前までは3人だけじゃ。
姉と豊の婚約者の恭子、そしてその親友のマキだけじゃった。
その3人は小僧の事を当然理解しちょったから、向き合えたんじゃよ。
あの幼稚園の先生依頼、小僧が愛したのは・・蘭だけじゃよ。
多分今後も愛するのは、蘭だけじゃろう。
蘭の事は説明しなくていいが、蘭はその心に忠実に生きるから。
そして絶対に大切な事に対しては、自分にも小僧にも嘘をつかないからの。
自分を誤魔化したりせんから、小僧は本当に愛しておる。
初めて出会えたその存在に触れて、全てを賭けて蘭を愛するじゃろう。
小僧は出会えたんじゃよ、愛すべき人間を探し出した。
そして出会う、常に戦い続けるカスミ、小僧はカスミのあの恐怖を分らなかった。
何かが有るのは分っていたが、それが何なのか分らなかった。
カスミが本当に強い意志を持ってたから、小僧ですら感じなかった。
だからカスミに対して特別の感情が芽生えた、強さに憧れたんじゃの。
その豊とは違う強さに触れて、そのカスミの内面を大切に愛しておるんじゃろう。
そしてユリカ・・お前は小僧にとっては、絶対的な存在じゃよ。
あの時羊水の揺り篭まで辿り着いたのは、ユリカの悲しみの本質に気付いたから。
それは小僧にしか理解できん、嘘のつけない相手と向き合う事の辛さは。
ここに来る時に、蘭が教えてくれた昨夜の話。
小僧のユリカに対する想い・・それは当然正直な気持ちよの。
小僧はユリカに対して嘘がつけない、隠し事が出来ない事に喜びを感じておる。
自分に嘘をついた人間の気持ちが分ったから、嬉しかったんじゃろう。
それをユリカに伝えたいんじゃよ、どんなに時間がかかってもの。
だから言ったんじゃよ、永遠に自分の愛を読んで欲しいとな。
小僧はどんな事があっても、全てユリカに語りかける。
それが同じ辛さを知る、小僧の永遠の愛情だからの」
和尚はユリカを優しく見ながら伝えた、ユリカが私を見ていた、静かな深海の瞳で。
「ごめんねエース・・私はあなたを読むのが楽しくて。
初めてその事に楽しみを感じて、そこまで考えなかった。
そして・・ありがとう、その強い愛で包んでくれて」
ユリカが最後に爽やかな笑顔を見せた、私も笑顔で返した。
「わたしも謝るよ、ごめんねエース。
あの時、腕を掴んだ時には、私の悲しみも辛さも全部分かってたんだね。
だから・・最後のチャンスに賭けろって言ってくれたんだね。
本当にありがとう・・今、話を聞いて嬉しかった」
ナギサが華やかに微笑んだ、私は感謝されて照れた笑顔を出していた。
「そんな話は後で個人的にしようね、全員がしたら、どれだけ時間がかかるか分らないから」と蘭が満開で微笑んで、和尚を見た。
「うむ・・その女性をA子としよう、A子はその時21歳じゃった。
ワシはこの全ての話しは、豊と小僧とそのA子から別々に聞いた。
A子は女子大生、そして付き合っていた男が警察官じゃった。
A子は相手の彼が、警察官やったから真面目な人間と勘違いしていた。
職業と内面は関係ない事じゃから、若さで勘違いしたんじゃな。
その男は性根の腐った人間やった、売春で検挙した女性を脅して関係を迫ったり。
暴力団に金をせびったり、この事件の後に判明した。
それは酷い話じゃった、悪徳などの言葉じゃ足らん人間やった。
そんな悪行をしていた奴だから、当然怨みも買うんじゃよ。
そしてある男がその警察官に対する怨みを、A子に向ける。
A子は集団に乱暴されるんじゃよ、そして心も体も深く傷つく。
その事に対して、相手の警察官は黙ってろと言ったんじゃ。
自分の悪事がばれるの怖かったんじゃろう、強引にA子を黙らせた。
それでA子も気付く、自分は相手ことを勘違いしていた事に。
そしてA子は覚悟する、その彼と乱暴をした男達に復讐しようと。
そして警察に被害を相談に行く、仲間の警察官の事で、すぐに刑事が動いた。
じゃが警察の組織の一部が腐っておった、揉み消そうとしたんじゃよ。
その相手の警察官の上司が、その上には報告せずに。
ここで誤解されぬように言っとくが、警察で腐っていたのはその男一人じゃよ。
上司の対応は、その組織の体質としての問題じゃったろう。
不祥事を極度に恐れる、その体質が産み出したんじゃな。
A子は警察署で罵詈雑言を浴びせられる、被害者のA子がじゃよ。
その頃時を同じくして、豊の中学の女子がその警察官にからまれる。
ある事をねたに脅されるんじゃよ、目的は体やったんじゃろう。
その女子はどうしようもなくて、豊に相談する。
豊は話を聞いて、その警察官の家を調べて会いに行くんじゃよ。
そして家を訪ねて発見する、ドアに鍵がかかってなくて声をかけて覗く。
そこに倒れておった、A子が最後の復讐で遺書を残し手首を切って。
絶対に揉み消せない状況を作り、命をかけた復讐を決行していた。
豊は救急車を呼び、遺書を持って同行する。
病院をあの小僧が通う病院に指定して、幸いその女性は傷も浅く助かる。
豊はあの病院では有名だから、訳を言って入院手続きをする。
身元を示す物が無くて、仕方無しに豊立会いのもと遺書を確認する。
豊はそれを読んで決意する、その男を許せないと。
そして小僧に言うんじゃよ、解決するまでA子の側にいて守れと。
小僧は豊に言われた事で、A子の側にずっといた。
小僧は泊まる事も許されちょったから、ずっと側に居たんじゃよ。
豊はその男の家に行き、その男に会って話をする。
男も部屋の血溜まりを見ていて、大変な事が起こった事に気付いていた。
しかし男の頭の中は、揉み消す事でいっぱいじゃった。
そしてその警察官の上司が2人来て、豊を脅すんじゃよ。
何も言うなと、言ったら家族に大変な迷惑がかかるぞと。
警官も馬鹿よの~、火に油を注いだ。
その言葉で、豊は自分らしく解決する道を選ぶ。
薬物事件と同じ方法、自分が出頭して事実を明るみにする方法を。
警察という国家権力を相手に、瞬時に判断し覚悟する。
たとえ自分が少年院や刑務所に、服役する事など恐れんかい。
そんな事より、自分に嘘をつく事の方が怖いんじゃよ。
豊はその場で、3人の警官をやってしまう、立てなくなるまで。
そして彼氏だった警官を肩に担いで、警察署に出頭するんじゃよ。
そこからが伝説の話しじゃよ、制服を着たボロボロの警官を担いで歩く豊の姿が。
豊は警察署の受付にその警官を寝かせて言った。
こいつが酷過ぎるから、やっちゃいましたと頭を下げた。
それとこの男の部屋に、あと2人転がってると言ったんじゃ。
警察署は静まり返った、そして豊は逮捕されたんじゃ。
そして豊を知る少年課が、豊を事情聴取する。
他の課から捜査を変われと言われたらしいが、譲らなかった。
豊の行為に無意味な事は無いと知っていたから、少年課の担当だと譲らなかった。
それで焦ったその上司の警官2人は、被害女性の病院に行くんじゃ。
なんとか口止めしようと、必死になっていたんじゃろう。
しかしその病院には、小僧がいた・・目を覚ましたA子を必死に笑わせてる小僧が。
A子は手首の傷も浅くて、肉体的には元気になっていた。
小僧が必死に回復して、その会話が面白くて少し笑顔も出始めていた。
その時廊下で、警官と看護婦の押し問答が聞こえた。
それで小僧はA子をベランダ伝いに連れ出して、小児病棟に行く。
そして空いてる病室を聞くと、個室は一部屋だけ空いていた。
ヒトミがいた、あの病室が・・小僧はそこにA子を寝かせてかくまった。
そしてA子の左手を握るんじゃよ・・その瞬間、小僧は号泣する。
A子がワシに言ったぞ、あんな涙は見たことが無かったと。
深い悲しみが深々と伝わって、自分の辛さや悲しみを一瞬で忘れたと。
それは確かに左手から伝わったと、A子が教えてくれた。
そしてA子は小僧に問いかける、その悲しみの原因は何かと。
小僧はヒトミの話をする、そしてヒトミがA子のそのベッドに寝ていた事も。
小僧の俯いて震える姿を見て、自分の愚かさを責めたとA子は言った。
小僧がずっと左手を握って話してくれて、その全ての想いが押し寄せて来たと。
その深い愛情を感じて幸せだったと、そして愛する者の死を送る悲しみを知ったと。
A子は両親の顔を思い出して、涙が止まらなくなったと。
A子は泣きながら、ワシに話してくれたよ。
そしてここからが、真の伝説の始まりになるんじゃよ」
和尚はそこまで言って、焼酎を一口飲んだ。
「和尚様・・トイレに行って来ますから、絶対に待ってて下さいね」と千夏が言って。
何人かがトイレに行った、和尚は笑顔で見送っていた。
「こんな話をしてて良いのかの~、マチルダに悪くないかの~」と和尚がマチルダを見た。
「和尚様・・ありがとうございます、最高の話しになりそうです」とマチルダが輝く笑顔で返した。
「しかし警官を担いで歩いたのが本当の話だと分って、それだけでも驚きだよ」とジンが微笑んだ。
豊は照れた笑顔で返していた、暖かい視線に包まれていた。
私の横にセリカが来て静かに座った、私に左手をそっと出した。
私は優しくセリカの左手を握った、不釣合いなリストバンドが巻かれた左手を。
「ごめんね・・何も知らなくて・・今度ヒトミちゃんの話も教えてね」とセリカが静かに言った。
『うん、セリカ・・何も謝らないでいいよ、セリカは守ってるだろう』と静かに囁いて返した。
「うん、もう大丈夫だよ・・今の話を聞いたから」と可愛く笑った、私も笑顔で頷いた。
蘭の優しい笑顔がセリカを見ていた、セリカも蘭を流星の瞳で見ていた。
蘭の青い炎が包んでいた、深い瞳がセリカを見て、満開の微笑みで頷いた。
セリカの心の鉄の防御服に、強力な酸素を送り込んだ青い炎が迫った。
そしてその鉄を溶かしながら、一直線に切断した。
赤い炎では絶対に出来ないな事を、蘭が青い炎で一瞬で切った。
私はセリカの左手の温度の揺れで、セリカの心の変化を感じていた。
セリカのリストバンドを見ながら、体の傷はいつか癒えると思っていた。
全員が揃い、和尚を見た、和尚も笑顔を見せた。
「少年課は徹底的に捜査に入る、その当時の少年課は本物の組織じゃった。
それが豊の救いじゃった、そして豊に相談した女子中学生が証言する。
恭子とマキと小僧の姉が同行して、その少女を守り続ける。
A子の所にも少年課の刑事が行き、A子は堂々と証言する。
そして小僧が手を繋いで、A子と少年課の刑事と共に警察署に行く。
その時初めてA子は豊を知る、本当に救われたとA子は言った。
人間不信になりかけていたA子の心を、堂々と座っている少年の豊が救った。
そして警察のトップクラスが、少年課の報告を聞いて出てくる。
素晴らしい人間じゃった、そして提案した豊を救う提案をした。
立場上難しい判断じゃったろう、しかしその男はそれを決断できた。
その提案は、A子が了承するのを前提にという事で。
その警察官に懲戒免職の処分と、上司2人にもそれ相応の処分を下す約束をした。
そしてA子の為にも、豊の為にもそれでこの事件を心に封印して欲しいと。
組織のために言ったのでない、豊とA子のために言った言葉だった。
豊は自分で判断出来ずに、少年課の刑事に相談する。
そして聞くんじゃ、裁判になったらA子は再び傷つく事になると。
そこで豊はA子と2人で話させてくれと言って、A子と小僧を交えて話す。
A子の気持ちを聞いて、豊は警察の提案を受入れる。
そして豊は条件を出す、その警官が2度とA子に近寄らないようにする事を。
豊は釈放される、そしてA子と話をする・・感謝するA子に条件を出す。
2度と自分を傷つけない約束と、乱暴した男が誰なのかを聞く。
A子は約束して、加害者の一人だけ知ってる男の名を伝える。
小僧はA子を連れて、病院に戻るために豊と別れる。
しかし小僧は分っていた、その伝達能力で豊の考えを。
寒い夜じゃった、豊がワシの所に来たその夜は。
豊が自分のした事を話してくれて、最後に言った・・自分と折り合ってくると。
豊のその伝説に隠されてた本質、それを決行しに行った。
小僧はA子と必死で向き合った、小5の小僧が21歳の女性と。
そしてA子が完全に心を開く、そして小僧が誓いを立てさせる。
自分が帰るまでその病室で待っていると、A子は退院許可が出ちょったらしい。
待っていればA子を実家まで、自分が必ず送って行くと小僧が言った。
A子は驚いたと言っていた、自分の心を理解してる小僧の事が。
小僧はその伝達能力で、A子の復活を分っていたし望みも感じていた。
そして小僧は出かける、顔馴染の豆腐屋でリヤカーを借りて。
いつものように豊の場所を目指す、それが自分の成すべき事だと知っていたから。
豊が自分との折り合いをつける事とは、殴られる事なんじゃよ。
豊は乱暴した相手を脅迫して、4人をある川原に呼び出す。
そしてA子に謝れと言うんじゃ、相手の4人は少年の豊を見下して。
4人で思う存分殴りつける、豊はどんなに殴られても立ち上がり続けて言う。
A子に謝れと叫び続ける、その4人は段々と恐怖を感じるんじゃ。
豊の強い意志に押されはじめる、そして小僧がリヤカーを引いて到着する。
小僧は追い討ちをかける、その4人の心を追い込む徹底的に。
最強のコンビと言われる本質はここじゃよ、豊伝説の本質は。
豊の最強は力の強さじゃない、その意志の強さなんじゃよ。
絶対に暴力や権力に負けない、その意志の強さなんじゃ。
そして豊が唯一相棒と呼ぶ小僧、その力は相手を追い込み続ける。
相手が自分自身と向き合うまで、その精神を徹底的に追い込んでいく。
その伝達方法を全て使って、相手が嘘を言っても通用しない。
小僧はその4人に静かに言う、豊を殺す覚悟があるのかと。
それが無いのなら、やめた方がいいと静かに諭す。
豊はお前達が謝らない限り、絶対にお前達を許さないと。
そして豊が殺された後は、自分が執拗に追い続けると。
4人はあまりの恐怖に耐え切れずに、その場を逃げ出す。
そして小僧はいつものように、リヤカーにボロボロの豊を寝かせて運ぶ。
唯一分っている、加害者の家までリヤカーを一人で引くんじゃ。
寒い冬の夜空を見ながら、小5の小僧がリヤカーを引く。
その憧れ続ける兄の想いのために、それを成就させるために。
その行為を小僧が何度したじゃろう、ワシの知る限りでも6回ある。
そしてその男の家まで行き、最後通告をする・・謝れと。
しかしその4人には響かなかった、小僧がそう判断した。
その部分の判断は、豊は小僧に任せていたから。
そして小僧は警察署まで豊を運び、豊を引きずって入る。
そして声の限りに叫ぶ、これが豊の生き方だと強く叫ぶ。
ボロボロの豊を長椅子に寝かせ、警察官達を睨み叫び続ける。
その伝達方法を全て使って、叫び続けるんじゃ。
お前達の警察官としての、生き方を示せと叫ぶんじゃよ。
沢山の警察官が立ち尽くし、その圧倒的な伝達で動けなくなる。
少年課の刑事が駆け寄り、豊を担ぎあげる。
そして小僧に言う、必ず傷害罪でそいつらを逮捕すると約束する。
小僧は川原で見つけた事と、相手の男を一人告げる。
そしてリヤカーを押して帰る・・病院を目指して真冬の凍る深夜の道を。
小僧の強さ・・それは向き合う強さなんじゃよ。
友の死を受け入れ、その事実と向き合ってきた・・その強さ。
その心が叫ぶとき・・問いかけられる言葉・・なぜ生きているのかと問う。
そして小僧は病室に帰り、A子を見て笑顔を向けて泣くんじゃ。
A子はその涙で心が締め付けられたと、小僧を抱きしめて離したくなかったと。
その涙が自分の心を鷲掴みにして、守ってくれていたと言った。
そして小僧が笑顔で言う、家に帰ろうと言うんじゃよ。
小僧は宿直の看護婦に毛布を借りて、A子をリヤカーに乗せる。
A子の実家は○○だった、その距離約10kmあるよの~。
じゃが小僧は笑顔で、A子に座ってろと言ってリヤカーを引くんじゃよ。
豊に・・小僧が憧れ追い求める、豊に・・託された事だから。
小僧は深夜の道を、リヤカーを引きながら沢山の話をする。
見送った友の話を、A子はずっと泣いていた・・泣きながら幸せを感じたと。
そして早朝にA子の家に着き、小僧はA子に別れを告げる。
その時に言う、もう忘れようと・・豊も自分も忘れるからと伝える。
A子の存在以外は忘れると、笑顔で言って背を向けてリヤカーを引いて帰る。
A子はその後姿を見送りながら、豊の座っている姿が脳裏に浮かんでいた。
朝陽に浮かぶ小さな少年の背中が、愛おしくて駆け出して抱きしめたかったと。
その背中が最後の回復をしてくれたと、前に進もうと提示していたと。
そのリヤカーを引く姿が、希望の道を提示していたと泣いていた。
小僧はリヤカーを返し、ワシの寺に来て腹減って死にそうだと言い。
飯を3杯食って、眠る・・ワシはその寝顔を見て確信した。
豊は出会ったのだと、全てを託す相棒に・・運命を受入れない男に。
そして豊がその夜に戻ってくる、そして小僧と話す。
小僧に面白い脚色を付けようと、そして小僧が面白話しに仕上げる。
それを小僧とワシで発信する、噂になる前に発信する。
事実と真実は違う、その脚色には愛が溢れていた。
豊は絶対に自分を正当化しない、常に自分は間違っていると思っている。
豊の考えの基本は、正しいか間違っているかでは無い。
その心が動くのかという事である、だから小僧もそうなった。
向き合い続ける・・その男・・その贈られし称号。
最後の挑戦者は・・闘うことを諦めない。
なぜなら豊が闘い続けるから、2人とも自分を許せる時が来るまで闘う。
自分に敗北する事を、絶対に認めないのだから」
静寂の中和尚が語り終わって、全員を見回した。
「和尚様・・ありがとうございました、リンダに最高のお土産が出来ました」とマチルダが輝く笑顔で言った。
私にはセリカの想いが伝わっていた、セリカの完全復活を感じていた。
蘭の青い炎に包まれて、豊兄さんの優しい瞳を感じていた。
そしてミホを感じていた・・会いたいと心から願っていた。
冬の凍る澄んだ空気の中、リヤカーを引く私が映像で流れた。
そのA子の座る荷台に、亡くなった全ての友が寄り添っていた。
男友達はリヤカーを後ろから押し、女友達はA子に寄り添い涙を拭いていた。
そして私の横には、笑顔のヒトミが一緒に引いていた。
朝の気配が漂う、その夜空の月が大きく主張した。
遠い場所に立つ、プラチナブロンドが見えた。
笑顔で立つマチルダの後ろから、リンダが笑顔で現れた。
私は最高のプレゼントを感じて、笑顔で2人に叫んだ。
I Love Rinda・・I Love Matildaと叫んでいた。
13歳の少年のままで・・幼い自分の背中を見送りながら。
その背中に誓った・・絶対に忘れないと・・全ての友の事を。
ヒトミの可愛い瞳が笑って、13歳の私に手を振った。
私も笑顔で・・手を振っていた・・。