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継承の道標

TVの表現的には、深夜から早朝に移行しようとしていた。

まだ朝の気配すら存在しなかった、深夜の夜会も終宴を迎えようとしていた。

最高の夜の終わりを、誰もが少しの寂しさを感じていた。


「蘭も酔ったみたいだし、ユリカ帰る準備をしなさい」とユリさんが楽しそうに、薔薇で微笑んだ。

ユリカとカスミとマチルダで片付けをしていた、蘭は満開笑顔継続中だった。

「豊君・・梶谷さんと知り合いなんですよ」と蘭がユリさんに満開で言った。

「そうなんですね、不思議な繋がりがありますね」とユリさんが豊を見た。

「恩人です・・昨年俺が馬鹿をやった時に、和尚が梶谷さんに頼んでくれました」と豊も真顔で答えた。

「ちょっと待って~・・今終わりますから」とユリカがカウンターから叫んだ。

「楽しい話じゃないですよ」と豊も笑顔でユリカに言った。

「あなたの話で、楽しくない話しがあるの?」と蘭が満開で微笑んだ、豊は照れた笑顔で返した。


帰る準備が整って、3人が元の位置に座った。


「昨年の春・・危ない薬が繁華街で出回りました。

 俺は何も知らなかったけど、ある女子高生がそれを無理やり飲まされた。

 そしてその子が錯乱して、3階の家のベランダから飛び降りました。

 幸い死には至らなかったけど、両足骨折の大怪我でした。

 その子が恭子の先輩でした、それで恭子が見舞いに行きました。

 そして帰るなり怒涛のように話してくれました、薬を無理やり飲まされたと。

 私は知り合いの悪仲間に、情報を聞きました。

 その薬を流してたのは、やくざのチンピラの小遣い稼ぎだと知りました。

 俺は許せなくて、本職の人間が素人の未成年に手を出す事が。

 それでそのチンピラ4人組を・・立ち上がれないほど、やってしまったんです。

 そして北警に出頭しました、事実を伝えて取り締まって欲しかったから。

 その時和尚が梶谷弁護士に、私の弁護を依頼してくれました。

 私は梶谷弁護士のおかげで、少年院に行かずに済んだんです」


豊が真顔で言った、反省の気持ちを言葉に乗せて。

「あなたも、自分に対して照れやですね」とユリさんが美しい真顔で言った、豊は照れた笑顔を見せた。

「その後日談があるんですよね・・小僧の事で」とユリカが爽やかニヤを出した。

「聞かれましたね?」と豊も微笑んだ。

「梶谷さんが豊君の話を聞いて、小僧を見て驚いてニヤニヤしてました」とユリカがニヤ継続で言った。

「それは聞かないと、眠れませんね~」とユリさんが薔薇ニヤで言った。

「豊君、言って良いのよ・・小僧がヤクザと知り合いなのは、全員知ってるから」と蘭が真顔で言った、豊は笑顔で頷いた。


「俺が出頭した夜、小僧は和尚の所に行きました。

 そして和尚が言ったのです、ヤクザは見栄で生きてるから。

 俺が釈放されても、狙われるだろうと。

 それを聞いて、小僧は親分の家に乗り込んだんです。

 親分の家は私達の地区の近くに有って、有名だったから。

 小僧は玄関で親分に会わせろと、若いヤクザに言った。

 その時、門の前に車が止まったんです、そこから降りてきた。

 No2の実力者の若頭が、頭を下げる若いヤクザを見て、小僧はそいつだと思った。

 小僧は若頭に駆け寄って、喧嘩を売ったんです。

 勝負しろと・・ヤクザの若頭相手に、小6の小僧が。

 その若頭は男気の有る人で、なぜだ?と小僧に聞いた。

 小僧は俺の話をして、組が俺を狙うなら、小僧が若頭を執拗に狙うと言った。

 それなら仕方ないな~と言って、その若頭が小僧を連れて車に乗った。

 小僧は車の中でその若頭に色々聞かれて、いつもの調子で話したらしいです。

 そして豪華なステーキをご馳走になり、その若頭に貸しまで付けて。

 友達になって、俺を狙わない約束を取り付けて、帰ってきました。

 翌日、北警にその若頭が来て、被害は無かったと言ってくれました。

 そしてチンピラの薬を売っていた4人を、出頭させました。

 梶谷弁護士も来ていて、刑事を説得してくれていて、その若頭も助けてくれました。

 そしてそのまま釈放されて、若頭の車で送ってもらいました。

 その時にこの話を聞きました、俺は嬉しかった。

 確かに無鉄砲で馬鹿な行為だけど、小僧の気持ちが嬉しかったんです。

 小僧1人でやった事だから、だから若頭に伝わった。

 喧嘩を売ったのも本気だったよと、若頭が嬉しそうに教えてくれました。

 そして若頭が伝説として発表するんです、多分俺に誰も手を出さないように。

 その若頭に最後に喧嘩を売ったのは、小学生だと。

 そして若頭が、その小学生に完敗したと。

 だから誰も手を出すなと、小僧と俺に手を出すのは若頭の恥になると。

 そう組内におふれを出しました、だから俺は狙われずに済みました。

 嬉しそうに話す若頭に、和尚の寺まで送ってもらいました。

 梶谷弁護士に礼を言って別れる時に、その小学生にいつか会わせろと言われました。

 小僧が自分で出会ったんですね、俺は先日それを聞いて嬉しかった。

 常識を重んじる人には、到底理解出来ない事でしょう。

 良し悪しで言ったら、そこまでの話しでしょう。

 でも俺は嬉しかった、自分の想いが伝わってると感じたから。

 男同士はそこまで踏み込まないと、絶対に相手を理解出来ないから。

 お互いに本気じゃないと、熱さがないと伝わらないから。

 小僧は絶対に冷めないと感じたから・・それが嬉しかったんです」


豊は笑顔で締めた、その想いが私には嬉しかった。

「望月というあの男性が、ヤクザじゃなかったら・・私は愛していたかも知れません」とユリさんが美しい真顔で言った。

女性全員がハッとして、ユリさんを見た。

私は納得していた、ユリさんとミスターのカップル・・史上最強だと感じていた。


「私も望月さんを接客した時に感じたよ、梶谷さんとは違う大きさと深さを・・どことなく豊君は似てるよね」と蘭が深い目で豊を見ていた。

「ありがとうございます・・俺には最高の褒め言葉です」と豊が微笑んだ。


「明日、ジンは来るのかしら」とユリさんが私に真顔で聞いた、強い瞳だった。

『多分・・来ると思います』と真顔で返した。

「ジンは多分泣きますね・・悲しみの貴公子が」とユリさんが意味深に言った。

「ユリ姉さん・・ジンの最後の道標は、その事だったのですか?」とユリカが驚いて言った、ユリさんが薔薇で頷いた。

「繋がるんだね、原作者の粋なシナリオは」と蘭が深い目で豊を見ていた。

「皆さんは・・明日の楽しみにして下さい、今夜は本当に最高の夜でした帰りましょう」とユリさんが薔薇で微笑んだ。

ユリさんが支払って、全員でお礼を言って通りに出た。


ユリさんと豊兄さんの乗るタクシーを見送って、私がユリカを乗せるタクシーを止めた。

「カスミちゃん、我家に泊まる?・・マチルダと一緒に寝るなら」とユリカがカスミに微笑んだ。

「良いんですか~!最高です」とカスミがユリカに駆け寄り、最高の笑顔でタクシーに乗った。

私は蘭と3人が乗るタクシーを見送った、蘭が満開笑顔で強く腕を組んで来た。


「ユリカ姉さんの、薄皮を剥がしすぎ~」と私を満開笑顔で睨んだ。

『うそ!・・りゃんじゃない』とウルウルで返した。

「そうだよ~・・でも罰を与える、左手の意志を話さなかった罰を」と満開で微笑んだ。

『はい、頑張ります』と一応ウルで返した、暖かい波動が返ってきた。

蘭とタクシーに乗ると、蘭が私の肩に乗ってきた。


『明日のお楽しみが・・知りたいな~』と蘭の耳元に囁いた。

「ん~~・・帰って元気が有ったらね」とニヤで言って、瞳を閉じた。

私は蘭の香りに包まれて、豊兄さんを想っていた。

井戸を掘りに行くと言った、その背中を思い出していた。

夜空に星が無数に瞬き、少し遅くなってきた夜明けの気配は無かった。


タクシーがアパートに着き、蘭を抱き上げて部屋に入った。

蘭が化粧を落として、パジャマで戻ってきた。

私に満開笑顔を向けて、電気を消して私の手を引いた。

私はベッドで蘭を腕枕して、引き寄せて蘭の好きな体制にした。


「今年から、冬寝る時寒くなくて助かる~」と満開で微笑んだ。

『俺もだよ・・俺なんか初めての経験』とニヤで言った。

「そんなに私の過去が知りたいんだ~」と満開ニヤで返された。

『知りたくないです』とウルウルで答えた。

「お父さんの許可貰ったら、荷物どうするの?」と蘭が聞いた。


『自分で少しずつ運ぶよ。

 蘭・・今年いっぱい2人、お互いにキチンと生活しようね。

 そして俺が本当の自信を持って、来年の正月は俺の家に2人で行こう。

 そして俺の家族に会ってよ、俺は蘭を自慢したい。

 俺は一生愛する女性を、13歳で探し出したと言うから。

 蘭も心のままに、話をして欲しいんだ』と笑顔で言った。


「うん、最高に嬉しいよ・・晴着を着ないといけないわ、成人式以来の」と嬉しそうに笑って、強く抱きついて瞳を閉じた。

私は蘭の温度と鼓動を感じながら、幸せに眠りに落ちていた。


翌朝、陽の光で目覚めた・・7時15分だった。

私は静かに腕を抜き、カーテンを閉めて洗面所に向かった。

歯を磨きシャワーを浴びた、体を拭いて着替えてキッチンに向かった。

ご飯が有ったのでお粥を作り、卵焼きと鮭の小さな切り身を焼いた。

夜遅くまで起きていた蘭を想って、軽めの朝食にした。


朝食の準備が出来て、部屋で日記を書いていた。

8時になった時に蘭の部屋に戻り、眠ってる蘭の額に手を置いた。

蘭の温度の確認をして、美しい蘭の寝顔を見ていた。


『蘭・・8時だよ、おきなちゃい』と耳元に優しく言った。

「起きてた・・おでこの手が気持ちよくて、感じてたよ温度の言葉」と目を開けて、満開笑顔を見せた。

『俺はいつも感じてるよ、蘭の温度の言葉を』と笑顔で返した。

「ねぇ、もしかして寝言って?」と蘭が満開ニヤで聞いた。

『そう・・温度と鼓動の寝言だよ、可愛い寝言』とニヤで返した。

「私は全てが可愛いの、温度も鼓動も」と満開で言って立ち上がり、洗面所に消えた。


私はカーテンを開けて、窓を全開にした。

少し熱の上がりが遅くなった、朝の爽やかな風が進入してきた。

テーブルに朝食を並べて、蘭のシャワーの音が聞こえたのでガラス戸を閉めた。

日記の補足を書いていると、蘭が髪を拭きながら戻ってきた。


「さすが・・今朝はお粥で軽めだね」と満開で微笑んだ。

『うん・・蘭は昼から、食べ放題の飲み放題でしょ』とニヤで言った。

「うん、でも今夜は・・どうするの?」と蘭が私を真顔で見た。

『もちろん、連れて行くよ・・俺が責任を持って、蘭でもりゃんでも』と笑顔で返した。

「りゃんにはこの部屋に帰るまでならないよ・・私こんなに楽しみな事、初めてだよ」と満開で笑った。


2人で朝食を楽しく食べた、蘭が化粧をする間に私が食器を洗った。

『バスで行く?』と化粧の仕上げをしてる蘭に聞いた。

「車で行くよ・・有った方が準備の時に役立つからね」と満開で微笑んだ。

蘭の準備が整い、ケンメリで出かけた。

日曜の朝、車は信じられない程に少なかった。


「昨年の春・・繁華街で出回った薬」蘭が突然前を見て話し始めた、真剣な表情だった。


「その注意が徳野さんからあったの、だから知っていた。

 若い女性に最初は無料で配り、それから金を回収してたらしいの。

 若い女はいざとなれば、お金は稼げるからね。

 そしてその薬は粗悪品だったのよ、チンピラが組に内緒でやってたから。

 濃度もまちまちだったらしい、だから錯乱する子が出たのね。

 豊が言った飛び降りた女子高生、多分・・ジンの妹よ。

 ジンのクラブに何かを届けて、帰りに無理やり薬を飲まされた。

 そのまま妹は帰って、その夜の深夜に・・飛び降りたの。

 翌日、その話を徳野さんが聞いて、望月さんに話そうとしてたらしい。

 でもジンが止まらなかった、復習を決意してたの。

 そのチンピラの集まる、中央通の○○喫茶にナイフを持って乗り込もうとしてた。

 大雨の日だったよね・・春雨に煙る日だったわ。

 ジンは通りで1人で雨に打たれ、その店を睨んでいた。

 そして4人が揃うのを確認して、覚悟を決めたの。

 呼び込みのシュウさんがずっと見てたの、その話を聞いたのよ。

 ジンが一歩踏出した時に、肩を掴まれた。

 大きな若い男に、ジンが驚いてその男を見ると微笑んだらしいよ。

 そして言った、男が本気の時には、ナイフなど使わぬものだと。

 あんたは務所に行くことになるから、俺が少年院に行くよと言って笑った。

 ジンは・・俺の妹が無理やり薬を飲まされ、大怪我をしたんだと叫んだ。

 そしたらその若い男は、ジンを正面から見て。

 ジンのお腹に、渾身のパンチを入れた。

 膝をつき屈んだジンに、その若い男は言った。

 今やるべきは復讐じゃない、妹の側にいることだろ。

 そう笑顔で言って、店に1人で入って行った。

 そして昨夜の豊の話しに繋がる、その若い男・・豊。

 ジンは雨に打たれ俯いて泣いていた、そのジンに傘をさしかけた。

 ユリさんだったの、ジンを強い瞳で見ていた。

 ここからの話は、私はジン本人から聞いた。

 ユリさんはジンをTVルームに連れて行き、ジンをマリアで回復した。

 そしてジンに厳しい言葉で言った、その若者の言う通りだと。

 ジンは心から反省した、そしてユリさんに自分の事を話したの。

 その部分はユリさんに聞いてね、そこがジンの本質に迫る部分だから。

 ジンが妹の所に帰ると言った時に、ユリさんがジンに言ったの。

 あなたの心にブレーキを付けます、そう言って微笑んだ。

 【最後の道標】と言う称号を贈ります、私からあなたへ。

 ジンは感動して泣いたらしいよ、絶対に汚せない物を、最高の人に贈られて。

 その称号の深さ・・私はその話を聞いていて泣いたよ。

 ユリさんの高みを感じて、その大きさを再確認して。

 あなたがジンに会った翌日、ジンが靴屋に来たの。

 私はジンとランチをして、あなたの事を聞いた。

 本当に嬉しかった・・悲しみの貴公子が泣きながら伝えてくれたから。

 ジンは最後に笑顔で言ったよ、俺はあの大きな若者に恥じぬように。

 最後の挑戦者に最後まで道を示したい、あの若者が俺に道を示してくれたから。

 そう私に伝えてくれた、本当に嬉しかった。

 そして昨夜の豊の話しで確信した、その若者は豊だと。

 この街でそんな事ができる若者は・・私は2人しか知らない。

 自分に忠実に生きる本物の男・・豊。

 そして最高の称号を贈られた者・・最後の挑戦者だけよ。

 昨夜ユリさんもユリカ姉さんも、そして私も涙を必死に我慢していた。

 その原作者の粋なシナリオを感じて、素晴らしい時代に生まれた喜びを感じて。

 カスミもマチルダも、昨夜ユリカ姉さんに聞いたでしょう。

 豊の昨夜の言葉の重みに気付いたでしょう、男同士はそこまでいかないと駄目だと。

 本気じゃないと、熱い心じゃないと分かり合えないと。

 豊がジンにパンチで示した道標、春雨に濡れるジンの心に示した道。

 その道は・・あなたに続いていたんだよ」


蘭は前だけを見て、静かに優しく伝えてくれた。

私は何度目だろう、豊兄さんに完敗していた。

ケンメリは夜街を過ぎて、橘橋の北詰交差点で信号待ちで止まった。


私はエミが駆け出した場所を見ていた、その時映像が流れた。

エミが強い瞳で、両手に拳を強く握って立っていた。

私が叫ぶあの言葉、【俺は良い事ばかりする、中学生じゃない】その言葉。

全ては豊の教えから、導き出した言葉だったと。

車のヘッドライトが照らす光道を、全速力で賭けて来るエミを見ていた。

私はエミを抱き上げて、夜空に聞いていた。

【これで良いんだよね・・豊兄さん】そう問いかけていた。

映像の中のエミは最高の少女の輝きを発して、涙を流して笑っていた。

私はそれを見て笑顔になった、その瞬間強く感じた。

エミの走り出したその場所を見ると、マチルダが最高の笑顔で立っていた。

マチルダの輝く姿の背景に、信じられない程の大きな月が浮いていた。

マチルダが最高の笑顔で叫んだ、心の底からの叫びだった。

「月光を追いかけて・・絶対に諦めないで」とマチルダが叫び映像が切れた。


その時信号が青になり、青を纏う蘭が前を見て発進した。

夏の空は限りない青を示していた、海に続くその道は希望を提示するようだった。

空港の方向から、一機の旅客機が機種を天空に向けて飛んでいた。


「正月・・私があなたの家に行った後、2人でパスポートを作ろう」と蘭が微笑んだ。

『うん、そうしようね・・俺は最高の人に必要とされたから』と笑顔で返した。

「頼んだよ、ダウンジングとやらで・・金の鉱脈でも発見してね」と満開ニヤで言った。

『その時は、ニューヨークに家を買おうね・・2人の家を』と微笑んで返した。

「素敵過ぎる事を言わないで・・泣くよ」と蘭が満開で睨んだ。

『駄目だよそんな話しで泣いたら・・今夜の海じゃ号泣するよ』と真顔で言った。

「それは決定事項です・・号泣するよ、あなたの大切な見送りの場所だから」と蘭は前を見て微笑んだ。


ケンメリがユリカの家に着き、私が蘭に言われカスミを迎えに行った。

呼び鈴を押すと、ユリカが素顔で出てきた。

『カスミ姫をお迎えに来ました』と笑顔で言った。

「さすがね~蘭は、本当に良く気の付く子ね~・・誰かが毎日添い寝するから」と爽やかニヤで返された。

カスミとマチルダが笑顔で出てきた。

『マチルダは、ゆっくりしてて良いんだよ』と笑顔で言うと。

「気持ちが高ぶってて、動きたいの」と輝きながら微笑んだ。

「もう、あれからマチルダ・・外が明るくなるまで話してたんだから」と靴を履いたカスミが、私の左腕を組んだ。

「カスミも、ノリノリだったじゃないの」と笑顔のマチルダが、私の右腕を組んで。

3人でユリカに礼を言って、笑顔のユリカと別れた。


マンションを出て、ケンメリの前に立つ蘭を見て。

カスミもマチルダもニヤを出して、強く腕を組んで来た。

蘭はそれを見て、最高の満開笑顔で睨んでいた。


その蘭の背景に、どこまでも続く青空が広がっていた。

その青空に道を示すように、飛行機雲が真直ぐに伸びていた。

70年代の夏、空気は澄み乾燥して爽やかだった。

私の両腕に絡む輝く女性は、その大切な時期を謳歌していた。

そして青の背景を背負う、青い炎の女に迷いを見つける事は出来なかった。


何かが大きく動こうとしていた、誰もがそのシナリオに挑もうとしていた。

自分らしく生きようと、運命などと言って逃げるのはやめようと。

不公平な世の中を楽しみながら、闘おうと誓っているようだった。

海からの風が、蘭の髪を揺らした。

蘭は身動きもせずに、満開を継続していた。

その揺れない心を示すように、逆風も楽しむように笑っていた。


ユリさんがジンに贈った、【最後の道標】に込めた想い。


私がそれを聞くのは、翌年の1月だった。


私はなぜかその事を聞かなかった、自分で感じたかったのだ。


私はジンの起業した、その当時では、まだ珍しかった人材派遣の会社を手伝う。


高校生の私は、ジンの派遣会社の、夜の女性部門を任されるのだ。


ジンは私の提案には、全て真剣に答えてくれた。


私にはユリさんが常に的確なアドバイスをくれて、蘭がその豊富な情報を教えてくれた。


そして私はあるシステムを作り出す、そのシステムをユリさんが後押しした。


そしてユリさんが六本木PGの開店を決意する、18歳の私は先乗りで上京するのだ。


私は上京して、とりあえず貸しを使って、大手TV局にバイトとして潜り込む。


そして探し出す、芸能人として芽が出ない、夜の匂いのする女性を。


そして見つけ出し・・引き抜く・・赤の女。


深夜のTV局の自販機の前で、ステージはその場所だけじゃないと強く誘う。


もしこの物語の続編を書く時は、その東京物語にしようと思っている。


六本木伝説の表舞台の話を、美しく産まれた事に苦悩する女性の物語を。


ジンの【最後の道標】・・その本質を表す赤の女。


真赤な閃光のが光るとき、舞い降りる魅惑の容姿。


北の大地が産み出した、赤い魂・・氷点下を燃やし尽くす熱。


その選ばれし源氏名・・ローズ。


最高の薔薇が贈った名前・・薔薇が贈った・・ローズ。


忘れることを許さない・・圧倒的な【赤】


一輪で全てを凌駕する・・今も強く心に残るその赤い心。


書きたくなったよ・・ローズ・・俺はそこまで行けそうだよ。


あの自動販売機の前で誓ったね・・いつか教えると誓ったから。


俺のローズに対する想い・・それをいつか書くね。


ジンが道を示した時・・溢れ出る涙。


悲しみの貴公子と呼ばれし者・・道に迷い疲れ果てた女性達の目の前に浮かぶ。


【最後の道標】・・その道は・・自分へと続く。


帰り道を示す・・自分に帰ろうと・・それが幸せに続く道だから・・。








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