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授業Ⅱ

深海に棲む魚は光を好まない。

周りの他の仲間が、明るく輝く上を目指しても、心は揺れない。

他者から光を受け輝く事に、価値を感じない、それが只の反射であることを知る。

深海に棲む魚は、光を好まないのではない。

自らが発する輝きを、信じているだけなのだから。


私は暗い部屋で、マリアの寝息だけを感じながら、マリアに話かけていた。

今までの事を正直に、事実と感じた事を、マリアの寝息だけを相槌に。

1時間程が過ぎた時、静かにドアの開く音がした、私は振向かなかった。

低い椅子に座っている私を、後ろから抱きしめた、香りで蘭だと分かっていた。


「ごめんね、泣き虫で甘えん坊で」と蘭が言った、私は考えていた話をした。

『蘭、俺実は・・蘭の涙拭き取り専用ロボットです、スイッチは背中に有るので抱きしめて、手を回して押してください』蘭は静かに聞いていた。

『その時はロボットだから、蘭の想いを叫んで下さい・・・何もできないけど』私は向き直り、蘭を見て。

『蘭から手を離すことはないから・・・一人にする事は、絶対にしないように出来ています』と真顔で言った、蘭は私を抱きしめてた。

背中に手を回して押して、「ありがとう」と囁いた。

《マリア頑張ってみるね》と心で話しかけた。

【がんば!】マリアの声が確かに聞こえた、私の内側から。

「ユリさんが待ってるから行こう」蘭に満開の笑顔が戻っていた。


リビングに戻ると、ユリさんが新しいグラスを用意していた。

「ごめんね、待たせて」と薔薇で微笑んだ。

『はい、すごく心配してました。・・仙台の牛タン燻製が、全部食べられてないかと』と笑顔で言った。

その言葉で二人の薔薇と満開が咲いた。


ユリさんが私と蘭に新しいビールを注いでくれ、蘭がユリさんに注いだ。

2度目の乾杯をした。

『第2話の乾杯ですね、ユリさんお願いします』とユリさんを見た、微笑んで話しはじめた。


「宮崎に来たその日に、家財道具と食材を揃えて、父を見送り夕方街に出たの」

蘭はユリさんを見ている、その瞳は輝きを取り戻していた。

「スナックの求人を探そうと思って・・・」

ユリさんが夜街を歩いていると、少し前を行く、自転車に乗る婆さんが転んだ。

ユリさんが駆け寄り、助けようとしたその時。

派手なスーツの男が、婆さんを後ろから抱いて立たせた。

「婆さん大丈夫か」と言いながら。

ユリさんは、かごから散らばった荷物を拾い集めて聞いていた。

その優しい言葉を、チンピラの徳野さんだった。

婆さんが二人に礼を言って去ると。

「すまんかったな」と言って、徳野さんが背中を向けて歩き出した。

ユリさんはその背中に声をかけた、どこかスナックで働きたいので、紹介してもらえないかと。


「確かに派手な感じで、見た目は怖かったわ、でも優しい人だと確信していたの」

蘭は頷いた、同意するように。

徳野さんはユリさんを、その足でマダムの小料理屋に連れて行き、マダムのあの話に繋がるのである。


「PGが開店工事をしていた時、私はマダムとスナック【百合】という、小さな店をしていたの・・・」

蘭はビールを飲むのも忘れたように、聞き入っている。

「私にとって最高の修行の場だったわ、蘭、マダムが夜街で何て呼ばれてる?」の問いに、蘭は言い難そうに。

「ごうつくばばあ」と言った、ユリさんは微笑んで頷いた。

「そうよ、マダムと○野酒店の女将をそう呼ぶわ・・・」

○野酒店とは、その当時夜街の酒を支配していた。

常時沢山の配達員を抱えていて、深夜でも突発的な注文に対応していた、大きな酒屋である。


「真実に背を向ける人は、勝手な事を言うわ、○野の女将は男世界である酒屋を守っている」

蘭を見ている、蘭はその大切な授業を、必死に心のノートに書いていた。

「マダムは女社会である、PGを守っているの、どちらも大変な事よ、だからお金に厳しいの」

蘭は頷いている、それが返答だと、ユリさんも私も分かっていた。

「私ね、スナックを始めた時凄く嫌だったの」蘭を見ている目に力が漲ってくる。

もうすぐだ大切な言葉が来る、私はそう思って聞いていた。

「夜働く女性に向けられる偏見がね。そんな時マダムから言われたの、降ろさせてやれ、それで客が何かを降ろして、家路に着けるならそれでいい、それが金を取る仕事というもんだとね」

蘭は集中している、瞳が深さを増している。


「私は自分の甘さを感じたの・・・蘭、マダムの事を、誰が何と言っても、反論なんかしないでいいのよ。」優しく。

「そんな反論マダムが拒絶するわ、そういう覚悟なのよ、私達を守る為に」

ユリさんが今言ったマダムの、【非難を受け入れる覚悟】と。

マダムが言ったユリさんの、【女帝と呼ばれる覚悟】は同じだと思っていた、未熟な心で。


「確かに女を売っている、昼より高い報酬の裏も色々あるわ・・でも俯いて歩くような事は何もないわ」力が入ってくる。

「私は世の中で、売買ができないできない物が、1つ有ると思っているの」熱を帯びてきた。

 

       「たとえ心と体が売れたとしても、愛は売れないと信じている」


「だから、俯いて歩くことはない、前を見ているのだから」と美しい真顔で言った。

見開いた蘭の瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れた。

その本質に触れ包まれていたのだろう。

幸せを感じていたのだろう、ユリさんと同じ時代に産まれた事に、そして巡り会えたその幸運に。


「マダムは私によく言うの・・PGの女性は、辞めた後も尋ねて来てくれる、子供が産まれると見せに来てくれる、沢山の子供と孫を持てるワシが、誰がなんと言をうと世界一幸せだって」

蘭は涙を惜しげもなく流しながら、瞳を閉じた。

感謝していたのだろうマダムに。


「蘭、ありがとう」とユリさんが言った、蘭が瞳を開いた。

「今夜のケイの船出式、マダムに直接伝えてくれて、マダムは本当に喜んでいたのよ」

蘭は何も言えない。

「蘭はワシに意見しよった、ケイの為に・・・蘭は本物や、その時に青く燃える。赤などではない、全てを溶かし包む青い炎やと言ったのよ」

ユリさんと蘭は見つめ合ったまま。

「そう言ったマダムは、本当に嬉しそうだったわ」暖かい静寂の中に見つめ合う二人は、まるで絵画のように美しかった。


私はマダムの言った【青い炎】という言葉で、気付いていた。

公園で【動くな、動いたら撃つ】とおどけた蘭を、なぜ一瞬で受け入れたのか。

そしてどうして、一瞬で魅せられたのかが。

私はあの時、青い炎に包まれていたのだと、そしてその青い炎が溶かしてくれたのだと。

私の寂しさも、未熟な不満も、無意味な闘争心まで・・一瞬にして。


絵画のように動かない、二つの美しい薔薇は、お互いの目で会話をしている。


それを鑑賞している私は、包まれていた。


百合と名のる薔薇の、遥かなる大きなの世界の中で、青い炎に包まれながら。


「がんば!」遠くから聞こえてきた、その絵画の上を、微笑みながら飛ぶ天使の声が・・・。

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