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問心

暗闇は恐ろしくないよ、暗く何も見えなくても、何も無くなっていないから。

いつか暗闇に目が慣れたら、少しづつ見えてくるから。

その時最初に君が見る者に、私はなりたい。


私がソファーで夜景を見ていると、笑いながらユリさんと蘭がキッチンに歩いて行った。

蘭が、色々な地方名産品を盛り付けた、大きな皿を持ってきてテーブルに置いた。

『何か手伝おうか?』と笑顔で言うと。

「一応男なんだから座っときな」と満開で微笑んだ。

「一応よ、一応」と笑いながらキッチンに戻って行った。


ユリさんと蘭、二人で準備をし、ユリさんがビールを持って。

「今夜だけ特別よ」と薔薇の笑顔でウィンクをした。

『はい』と私も笑顔で言って、グラスを持った。

「高いよ~」と蘭が満開で言った。

「あら、お店でも、誰が注いでも同じ値段よ」とユリさんが言った。

「価値がちがいます」蘭はグラスを見ながら言った、ユリさんは微笑んでいた。


3人で乾杯した、私は見たことも無い名産品を、1つ1つ食べていた。

「どんどん食べてね、私一人じゃとても食べきれないほどあるから、捨てるわけにはいけないから、たまに必死になるの」と私を笑顔で見ていた。

『いつでも助けに来ますよ、成長期ですから』と笑顔で返すと。

「頼もしいわ」と薔薇で微笑んだ。

「食べる事と喋る事は得意だもんね」と蘭が満開で笑った。


「私は、チャッピーに1つ、謝らないといけない事があるの」私は驚いてユリさんを見た。

ユリさんが私に謝る事など、有るはずが無いからだ。

「私の事から話していいかしら?」と薔薇で微笑むと。

「是非、お願いします」と蘭が即答して、目を輝かせた。

私は口の中に笹かまぼこが、これでもかっていうほど入っていたので、2度頷いた。


「私はね、鹿児島の薩摩半島南部にある造り酒屋に産まれたの・・・」

ユリさんは、歴史ある大きな造り酒屋の、一人娘として生まれた。

母親は病気がちの人で、一人でも子供を産んだのが、奇跡だと医者に言われたらしい。

母親は、ユリさんが3歳の時に亡くなった。


「母の記憶は殆どないの、色が雪のように白い、綺麗な人だということぐらいしか・・・」

ユリさんは父方の祖父と祖母に育てられた、父親は忙しく働いて、幼い時は朝しか会えなかった。

ユリさんが中学に上がる時に、父親が再婚した。

「とっても素敵な人で、小百合さんって言うの、今でも凄く仲良しよ」ユリさんは蘭を見て。

「だから私の源氏名は百合なの、その名前にしたら、絶対に汚せないと思ったから・・・」蘭は瞳を輝かせ頷いている。


ユリさんの高校受験の発表の日、小百合さんが男の子を産んだ。

「私は無理して挑戦した、高校に合格した事よりも、弟が産まれた事が数倍嬉しかった・・・」ユリさんは夜景を見ている。

ユリさんは、鹿児島では有名な進学校に合格して、その高校でも成績優秀だった。

「でもね、高3の時限界が来ていたの、私はずっと良い子を演じていたから」静寂のリビング、ユリさんの優しい言葉だけが響いている。

「父が再婚し弟が出来て、より演じるようになっていたの」ゆっくりと噛み締めるように。

「心に違和感を抱えながら、大学受験をしたの・・・」

「第一志望に落ちて、早稲田に行けと言う父に」一呼吸おいて。

「早稲田に行くお金を貸して下さい、自立してホステスがしてみたいと頼んだの」と美しい真顔で言った。


「ユリさん第2志望が早稲田って、国立はどこですか?」蘭の当然の質問に。

「東大よ、無茶したのよ」と照れて微笑んだ。

蘭と私は顔を見合わせた、言葉が出なかった。

『彼氏とかいなかったんですか?』私の馬鹿な質問に。

「良い子ぶってたから、告白された事も無かったわ」とユリさんが言うと。

「うそ!」と蘭が驚いた。

『無理ですよ、ハードルが高すぎて見えないから』私の呟きに、ユリさんと蘭はクスクスと笑った。


当然父親は大反対で、がんとして譲らなかった。

「小百合さんが一緒に説得してくれたの、今でも感謝してるわ」蘭を見ていた、その瞳はいつもより深いと感じていた。


ユリさんは高校卒業と同時に、父親と宮崎に来て、アパートを借りて一人暮らしを始めた。

「親元を離れないと、駄目だと思っていたから、でもあまり遠いと、父に心配かけすぎると思った時」蘭をずっと見ている、蘭も視線を逸らさない。

「宮崎と決めたの、旅行で何度も来ていたし、宮崎の海が大好きだったから」そこまで言って立ち上がり、キッチンにビールを取りに行った。


「どうして・・・なぜ水商売なんですか?」とその背中に蘭が聞いた。

「子供の頃からの憧れよ、変でしょ」と薔薇で微笑んで、キッチンに消えた。

【憧れ】その言葉が響いていた。

ケイは自立する為に選んだ、いや選択肢がなかったからだろう。

蘭は車の為だと言ったが、他に何かありそうだった。

他の女性達も何かしら、理由がありそうな気がしていた。


高校までひたすら歩んだ道を、違和感を感じ、全てを捨てて憧れにかける。

私にできるだろうかと思っていた。

蘭は静かに夜景を見て考えている、多分自分の今までの道を。


ユリさんがビールを持ってきて、蘭に注いだ。

「ありがとうございます」蘭は真剣だった、聞き漏らすまいと。

「酔っていいのよ、今夜は」ユリさんの染み渡る声だった。

多分ユリさんは、今から伝える事を前に、蘭にその時間を与えたのだろうと、私は後に思った。


「それから10年過ぎた時ね、私はなんて自分勝手な人間だったのかと、思わされたの」蘭の手を取って床に二人で座った。

ユリさんは手を握ったまま、蘭は静かに従っている。

「私はその子の心の問いかけに、言葉が見つからなかった。・・・私も同じだったから」蘭の手を離さずに。

「私はねチャッピー、弟と過ごしたのは、弟がまだ可愛い3歳までなの」蘭が俯き震えている、手を強く握ったまま。

「誤解されたくないから、先に言っとくわね・・聞いてくれる?」ユリさんは私を見ながら。

『はい』と私は答えた、蘭の震える背中を感じながら。


「あなたは絶対に誰かの代わりじゃないから」と静かに言った。

【うっ、うっ】と蘭が嗚咽を漏らしている。

『はい』と私は返事をして、ユリさんから目を離せない。

「その子の魂の叫びの問いかけに、愕然とした私は帰省したの、弟と話したくて」

蘭は必死に何かと戦っている、ユリさんの手を味方にして、涙をこらえて。


「でも、中学生の弟は、それが普通なんでしょうけど、話してくれなかったその心は」

蘭は崩れそうな自分を、必死に支えているようだった。

「だから、あなたと初めてここで話した時・・・本当に嬉しかったの、その時期のその心に触れたのが」

蘭の体の震えが、限界じゃないかと思うほど震えた。


      「でも、絶対に誤解しないでね。あなたは誰かの代わりじゃないのよ」


ユリさんは美しい真顔で、私の目を見ながら、静かに言った。

『わかってるよ』と私は蘭を見ながら言った、間違えなく蘭に向けた言葉だった。


ユリさんは震える蘭を起こして、手を離して両手を広げた。

「蘭、おいでっ」と蘭に強く言った。

蘭は叫びのような泣き声をあげながら、ユリさんに抱きついた。

「もういいのよ、泣いても」とユリさんが優しく言った、蘭はユリさんに抱かれて泣いていた。


その時である、突然蘭の頭にに小さな手が乗った、【マリア!】私が思った時。

「りゃん、よちよち」と言ってマリアが蘭を見てた。

「マリア・・・ありがとう」と蘭がマリアに言って、泣いていた。


私はマリアを抱き上げて、「マリア」と言って抱きしめた。

「あい」と天使の笑顔で答えた、私はその本物の天使に。

「チャーと寝んねしようね」と笑顔で言った。

「ねんね」と急にマリアは眠い顔をした。

私はマリアをベッドに連れて行き、手を握っていた。

マリアはしばらく、私の顔を見ていた。

『だいじょうぶだから、マリアありがとう』と優しく言った。

マリアはそれを聞いて、ゆっくりと目を閉じた。


私は何も分からなかった。

【それは蘭が話す事だから、いつか話してくれる】ユリさんの言葉を思い出していた。

ただ1つだけ分かっていた、今は二人の時間だと、マリアがそれを作ったと。


私はマリアの寝顔を見ていた、その不思議な力を有する、その小さな体を。


ユリさんと違う、何かを持って産まれた、その本物の天使を。


私は寝ているマリアに、誓いの話をした、おとぎ話をするように。


『・・・・だから俺は月光を追いかけてみるよマリア、蘭の笑顔をずっと見ていたいからね』


そう言って、マリアを見ていた・・天使の寝顔を・・。




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