詩音の歌
静寂のフロアーに響くカーテンコール、巣立ちを喜ぶ声が木霊する。
誰も産まれる場所は選べない、しかし誰しも未来は選べる。
選択した未来を楽しめと言う、辿り着きたいのならば。
泣顔のマミを抱いて、エレベーターまで運んで、優しく降ろした。
大ママとマミはもう一度頭を下げて、エレベーターに乗った。
全員の拍手で見送った、エレベータの扉がゆっくりと閉まった。
「ご苦労であった、今夜は疲れたね、すぐ着替えてくるから」と蘭が満開で微笑んだ。
『うん、早く帰ろう・・蘭も疲れただろ』と微笑んで返した。
私もさすがに疲労を感じていた、午前中のリンダから始まった一日がハードだった。
リンダの思い出が遠い過去に感じていた、それで良いと思っていた。
指定席で、TIME誌を取り、TVルームで待っていた。
蘭がすぐに来て、腕を組んでタクシーに乗った。
「働き過ぎだよ、まぁ趣味の部分も多いけどね~」と私の肩に乗りながら、蘭が満開で囁いた。
『うん、今日はさすがに疲れたよ』と正直に言って、蘭を見ていた。
「【永遠の憧れ】カスミが凄く喜んで、皆に自慢してたよ、ユリさん嬉しそうに頷いてたから、正式称号だね」と蘭が満開で微笑んだ。
『そっか~、良かった』と微笑んで返した。
「永遠の憧れか~、良いな~」と蘭がウルで私を見た。
『蘭を憧れとは呼べない、現実に追うんだから、未来でも必ず捕まえるんだから』と真顔で言った。
私はやっと蘭と2人の時間が来て、嬉しくて少し感情的になっていた。
「うん・・・何人分のキスマークつけて、そんな台詞吐くかね~」と笑顔で睨んだ。
『蘭、今夜だけお願い、罰をちょうだい・・背中合わせのの罰を』と囁いた。
「当然だよ・・罰を与える」と微笑んで瞳を閉じた。
タクシーを降りて、蘭を抱き上げて、蘭が化粧を落とす前に顔を洗って着替えた。
蘭がパジャマで現れて、電気を消した。
「心配だから、充電してやる」と言って抱きしめてくれた。
『蘭、なんか凄く離れてた気がする・・寂しかったよ』と静かに囁いた。
「私はあなたの3倍、そう思ってるよ」と言って強く抱いてくれた、蘭が胸に中にいることで落ち着いた。
「私は、3秒で寝るからね」と言って、「浅いキスを頂戴、月光が必要無い浅いキスを」と言って目を閉じた。
私は本当に嬉しかった、誰の時よりも緊張していた。
そして少し引き寄せて、唇を重ねた、やはり特別だった。
蘭の優しさが伝わってきて、私も愛してると伝えた、かなり永い時間重ねていた。
唇を離すと、蘭が満開の笑顔になって、ベッドに入って。
「ファーストキス頂き~・・1・2・3」と数えた。
私は蘭を優しく私に向かせて、腕枕をして蘭を見ていた、蘭も疲れていたのか眠りに落ちていた。
私は蘭の額にキスをして、知らない内に眠りに落ちた。
翌朝、陽の光で目覚めた、快晴の気分だった。
蘭は胸の上にいた、少し汗ばんで微笑んでいた、楽しい夢を見ているように。
静かに腕を抜いて、洗面所に行き歯を磨き、顔を洗おうと鏡を見て考えた。
《リンダが頬と唇、カスミが唇、ハルカが唇、ユリカが唇、ミコトが頬、そして蘭が唇》と数えて。
《俺は幸せ者だな~》と思ってニヤニヤして、まずいユリカに悟られると思った。
朝食はトーストとタコさんカニさんに目玉焼き、トマトにキュウリのスティックを乗せた。
「おっはよ~、今日も幸せ~」ご機嫌蘭が洗面所に消えた。
朝食を見て満開になって、食べはじめた。
「今日は誰とデートするのかな?」と満開で睨んだ。
『疲労が残ってるから、1番気を使わない相手』とニヤで返した。
「そっか~、シオンちゃん喜んだでしょう~」と満開で微笑んだ。
『うん、シオン変化が速すぎて・・それに昨日かなり撃たれたよ、心が穴だらけ』と笑顔で返した。
「リアン姉さんが、嬉しそうにあなたを借りるって言ってたよ、私も嬉しかった」と笑顔で言った。
『シオンは凄い子だよ、俺なんか教わる事ばかりで・・でも練習台にはなれるかな』と嬉しくて微笑んだ。
「頑張って、そして絶対に傷つけるなよ・・シオンだけは」と真顔で言った。
『分ってる、今は最新の注意を払ってるよ』と真顔で答えた。
「うん、心配してないけどね、沢山撃たれておいで」と満開に戻り微笑んだ。
『夕方、靴屋に行くね』と笑顔で返した、蘭も満開で頷いた。
蘭を見送り、朝の仕事をして、日記に向き合った。
リンダとの事実を書いて、ブロンドの髪の毛を綺麗に貼り付けた。
そして感想をこう書いている。
【リンダ・・本当に出会えて良かった。
世界が一瞬で広がった、夢を持たせてくれた。
私は多分簡単に弱音の吐けない、人間になった気がする。
崇高なるリンダが、アルバムを見せた人間として。
それを本当に誇りに感じている、絶対にリンダを失望させたくない。
だから俺もシオンに学ぼう、どんな大人に成りたいのか、その1つの答えがシオンにある。
純粋はもう無理だろうが、固定観念を捨てる事は出来る。
大きな世界をイメージするなら、小さく必要の無いものは全て抹消しよう。
リンダと、今は旅を出来ないのなら、せめてイメージだけでもリンダといよう。
ありがとう・・リンダ・・I Love Rinda】
私はこれを書いて、リンダを心の豊兄さんと同じ場所に座らせた。
2人が嬉しそうに話してる映像が見えた、同種族・・そう思えて嬉しかった。
感傷的な私の心を、シオンがまた戻してくれた、その可愛いクラクションで。
窓から覗くと、可愛いワンピースで少しおしゃれした、シオンが手を振った。
私も笑顔で手を振って、TIMEを持って出かけた。
朝陽の中のシオンは輝きを増し、笑顔が溢れて、大きく手を振っていた。
私は走って近づいて、笑顔を返した。
『すごく可愛いね、シオン』と微笑んだ。
「デートだから、頑張った」と可愛く笑った、本当に可愛かった。
車に乗り込み、TIMEを後部座席に置いた、シオンにTIMEを見せてやりたかったのだ。
「シオンの行きたい所で良いの?」と可愛く聞いた。
『もちろん、シオンが行きたい所が、見てみたい』と笑顔で返した。
「シオン、お弁当作ってきたよ・・嬉しい?」と笑顔で聞いた。
『また泣きそうなほど・・嬉しい』とウルで答えた、シオンが可愛く笑った。
車は西に進路を示していた、私は楽しみに待とうと思って、行き先を聞かなかった。
シオンの楽しそうなニコニコ笑顔を見て、私も楽しい気分になっていた。
『シオン、意外に運転上手だよね~』と思った事を口にした。
「うん、好きだから・・シオン、運動できる子だよ~」と笑顔で威張った。
『凄いな~、何が得意なの?』と意外な答えを追求した。
「走るの・・インターハイにも出たのだ~」と大きく威張った。
『えっ、凄すぎるね~、長距離?短距離?』と興味津々で聞いた。
「長距離選手、5000mを走ったよ」と笑顔で答えた。
『本当に凄いな~、シオンには驚く事が多くて、楽しいよ』と前を見ている、ニコニコのシオンに言った。
「長距離は走ってる時、完全な一人になれるから・・楽しいの。
普段はいつも誰かが見てる気がしてて、トイレも寝るときも。
でも走ってる時だけは、一人を感じるの、追いかけて来るのは・・風。
どこか遠い素敵な場所から吹いてきた・・風。
私の顔に向かってくるのも・・風。
だから、ちっとも走ってて苦しくないよ、ニコニコして走るから。
ニコちゃんランナーって呼ばれてたよ」
可愛い笑顔で、歌うように言った、心地良い響きがしていた。
『素敵な称号だね~、ニコちゃんランナー』と笑顔で返した。
「うん、お気に入りです」と私をチラッと見て微笑んだ、可愛くてウルして見ていた。
『今は、やってないんだね?』と聞いてみた。
「競技としてはやってないよ、夏は少ししか走らないけど、冬は沢山走るよ」と答えた。
『そうだよね、シオンは走るのが、好きなんだもんね~』と笑顔で返した。
「うん・・・競技は疲れるの、何食べたら駄目とか。
何時に寝ろとか、恋愛するなとか、強制的に走らせたりとか。
シオン、人とペースが違うから、疲れちゃうの。
誰かより早く走りたいんじゃないの、風を感じたいだけなの。
遠い国から吹いてくる風を、それを感じたいの。
だから走り終わると、寂しいの・・どこまでも走りたいから」
《完璧な歌だな~、なんて素敵な響きなんだろう、会話じゃないな~》そう感じていた。
『風はいいよね、それに走るのはいいな~、何処でも何時でもできるから』と笑顔で言った。
「うん、サーフィンは海が必要だもんね~」と前を見て笑顔で言った。
車は小林を過ぎて、左に折れ、えびの高原を目指した。
深い夏の緑に覆われた山脈が間近に迫り、その緑で心が解放されていた。
ハンドルを握るシオンは、照り返しを受けて輝いていた、ニコちゃんのままで。
えびの高原をひたすら登り、本道を離れて細い道に入った。
深緑のトンネルのような狭い道を、シオンが慎重に走った。
途中から未舗装になり、ガタガタと揺れた、そして開けた場所に車を止めた。
「少し歩きま~す」と笑顔でシオンが言った。
『なんか素敵な予感がするね』と思ったままをシオンに言った。
私が弁当と、レジャーシートの袋を持って、シオンの大きなバッグにTIMEを入れてもらった。
腕を組んで、木々の生い茂る獣道を歩いた、シオンは虫が怖いのか密着していた。
風が夜街と全く違って、その爽やかさで私は完全に解放されていた。
気分爽快に深緑が煌く光道を、ニコちゃんシオンと歩いていた。
緩い右カーブを曲がると、それが拡がった。
大きな湖が眼下に現れた、その不思議なブルーに目を奪われた。
ブルーなのだ、圧倒的なブルー・・初めて見る湖のブルーだった。
「素敵でしょ、ここの湖だけ、この季節だけの色よ・・特別な場所」とシオンが私に微笑んだ。
『シオン、ありがとう・・最高のブルーだ』と笑顔で返した。
シオンと手を繋いで、草原を歩いた、初めて感じる完璧な開放感に包まれていた。
大きな木の下に大きなレジャーシートを広げた、シオンがお弁当を食べる用意をしていた。
私はシートを押さえる石を拾って、四方に置いてシオンからお手拭を受け取った。
可愛いお弁当を見て、笑顔が自然にこぼれた、私もニコニコなっていた。
2人のニコちゃんが、向き合って座り、お弁当を食べた。
どんな高級料理よりも、美味しかった、最後の味付けにシオンのニコちゃんがあったから。
お弁当をほとんど食べて片付けて、シオンが私の横でうつ伏せに寝転んだ。
風が靡かせるスカートの裾を、気にする事も無く、開放を楽しんでるようだった。
私はTIMEのページを開いて、シオンに笑顔で渡した。
シオンは、そのリンダの写真を見て、目を輝かせて笑顔になった。
シオンは、美冬の翻訳を見ることもなく、真剣に読んでいた。
私は湖を見ていた、海でなく空でない、不思議な神秘のブルーを。
深さにより、変化していく不思議な色を、飽く事無く見ていた。
「先生、お願い聞いて?」とシオンが言った。
『どうしたの、シオン』とシオンを見ると、泣いていた。
「少しでいいから・・ちょっとでいいから・・・腕枕して」と可愛く泣きながら微笑んだ。
私はキュンキュンで撃たれて、大切なシオンの首に腕を通して、腕枕で引き寄せた。
『シオン、ちょっととか少しとか言わないで、シオンがして欲しい時は、ずっとしてあげるから』と可愛いシオンの耳元に、優しく囁いた。
「うん、すご~く気持ち良い・・安心できるね、先生となら」と私の胸に囁いた。
『シオンこうしてるから、帰りも運転するんだから、少し眠りなさい』と優しく囁いた。
「お休み、先生」と言って、静かになった。
静寂が訪れた、自然の音しか聞こえない静寂が来た。
風の草木を揺らす音と、遠くで鳴く蝉の声だけの世界だった。
まるで、この世に私とシオンしか存在しないのではと、感じるほどだった。
私はシオンの爽やかな香りに包まれて、湖を見ていた、そして感じた。
《もし・・もし、蘭と万が一別れる事になって。
その痛みを俺が乗り越えたら、それが出来たら。
俺はシオンを追い求めるだろう、ユリカやカスミは届かないと感じる。
そして最も側にいて欲しいのは、シオンなんだ。
シオンの行動も言葉も、その一つ一つが俺にパワーをくれる。
そして絶対的安心感をくれる、その白い心で包んでくれる。
シオン・・詩音も俺の特別な存在だよ》
シオンが愛おしくて、額にキスをした、シオンの寝息を聞きながら。
私も解放された気分と、爽やかさで眠りに落ちていた。
ゴソゴソと歩く何かの足音で、目が覚めた。
首を上げて見て固まった、まだ成獣でない一匹の可愛い鹿が私を見ていた。
シオンも私の緊張を感じたのか、目が覚めた。
『シオン、怖くないから、ゆっくりと顔を上げてごらん』と優しく囁いた。
シオンはゆっくりと顔を上げて、鹿を見つけて、嬉しそうな笑顔になった。
「可愛いね、ごめんねもう少しここ使わせてね・・綺麗にして帰るから」とシオンが鹿に言った。
その可愛い心に、またキュンと撃たれて、少し引き寄せた。
「リンダちゃん、素敵だね・・素敵な人だね」と私を見て、瞳を潤ませた。
『うん、また来るよリンダ、その時はシオンも会えるよ、そしてリンダは絶対シオンを好きになるよ』と優しく囁いた。
「うん、会いたい・・そして聞きたい、鍵は1つでも見つかったのかを」と笑顔で言った。
『鍵?』と真顔で聞いた。
「先生の映画で、バスの中で、鍵が見つからないって言ってた・・大切な世界の鍵が」とシオンも寂しそうに言った。
『世界の鍵?』と私もその言葉で考えてしまった。
「先生に問いかけたんだよ、先生なら鍵を探せるかもしれないって。
リンダちゃんそう言ったよ、涙を我慢して。
言葉や、肌の色や、文化や、宗教がそれぞれ閉ざしてる、扉の鍵が見つからないって。
それを開ける鍵を探してるんだよ、リンダちゃん・・たった一人で。
私も手伝ってあげたい、もう少し頑張って自分の力で、リンダちゃんに会いに行きたい。
そして鍵を探すのを、少しでも手伝ってあげたい。
あの記事で1つだけ嫌いな言葉、【私達凡人はそれしか出来ないのだから】って。
逃げてるよね、逃げてる言い訳だよね・・凡人でも出来るよ、探す事なら。
あの記者の人は見せてもらえないよ、最初から心が言い訳してるから。
私も、多分ユリカちゃんも、先生に教えたくなかった言葉。
先生が背中を押した時、リンダちゃんが呟いた言葉。
昨日ずっと考えてた、ユリカちゃん、私から伝えてって言ってるんだって。
だから私が先生に伝えるね。
【いつか必ず2人を迎えに来ます、手伝って欲しい、2人に】って呟いたんだよ。
泣きながら・・・そう呟いた、強い言葉で」
そう言って、シオンが私にすがりつき泣いていた。
私はシオンが愛おしくて、抱きしめて囁いた。
『シオン泣かないで、ありがとう伝えてくれて。
シオン、ユリカはね、ユリカから伝えると、先生が混乱すると思ってたんだよ。
先生はシオンが伝えてくれると、キチンと聞けるからだよ。
シオンの白い心から出た言葉だからね。
シオン、泣かないで、いつか先生と蘭は、旅立つかもしれないけど。
それはずっと先の話だよ、リンダは先生が大人にならない限り、連れて行かないよ。
シオンなら分るだろ、先生の方が寂しいよ。
シオンの方が先にリンダと旅をするから、リンダは絶対シオンを必要とするから。
シオン、先生も頑張るから・・シオンも、もう少しだけ、積極的になってみようね』
私は優しくシオンに囁いて、抱きしめていた。
シオンはリンダの言葉を抱えたまま、ここに連れて来たことが分って。
その真っ白な心に撃たれていた、湖のブルーがあの楽園を思いださせた。
シオンの微かな震えを受け止めながら、想いを馳せた、天空に囁いた。
《ユリカありがとう、リンダ事で悩まないで良いと言ってくれて。
ユリカのその厳しい教えが、俺を成長させるんだね。
本当にありがとう、ユリカ・・愛してくれて》
私は昨夜、根源的なものに迫られていた、混乱の中に居た。
ユリカはタイミングを計っていた、撃つべきタイミングを。
そして魅宴を出た時と判断した、そしてリンダを記憶の奥にユリカが誘った。
それを考えるのはまだ早いと、今のままでは駄目だと。
成長しろと、ユリカが言ったんだと感じていた。
遥か大陸から吹いてくる、風を感じて、誓っていた。
目を逸らさずに進もうと、言い訳は許されない。
それに最も敏感な妖精が、これからは側にいる。
真っ白な妖精、シオンが・・・。
シオンは何度もリンダと旅に出る。
世界中を巡る、そして帰る度に私に話してくれた、高校生の私に。
その心は、白に白を塗り重ねていた。
どんなに経験を積んでも、何かに囚われる事は無かった。
【Pure Whith】詩音・・癒しの妖精。
箱舟を拒否する者、絶対に言い訳はしない。
自ら負けを認めない・・諦めない・・その白い心は・・。