覚醒
真夏の夜会に現れたのは、苦しみを示す腕だった。
潜む者の影を見せない、闇の中の叫び。
薄暗い狭い空洞を疾走する轟音、反響して形を表す漆黒の響き。
誘われてしまった、そして受けてしまった愚かな心。
「どう感じたの、リョウは何色?」とユリカが私に真顔で聞いた。
『レンが黒なら、リョウは闇・・でもそれはリョウが作り出してる世界じゃないのかな。
本当の色は、直射日光により作り出された影・・かな。
そして、誤解している・・影を作れば闇と同じだと思ってるような。
確かに深い何かはあるんだろうけど、1つだけ分らない・・腕』
私は思ったままをユリカに伝えた。
「なるほど、凄いな~、リンダの力は、また覚醒してるね」とユリカが私に爽やかに微笑んだ。
「リンダちゃんの力?」とユリさんがユリカに聞いた。
「はい、リンダという超一流の女が見せた、瞳の色の会話、短い時間で訓練になってますね」とユリカが爽やかに微笑んだ。
『そっか~、それでか・・腕』と笑顔で言った。
「分ったの?」とユリカが言った。
『ユリカ、彼女の波動感じた?』と聞き返した。
「隠したから、分らなかったよ」とユリカが真顔で言った。
『囚われてるじゃないのかな?何かが彼女の本来の姿を、どこかに誘拐してる、腕だけは伸ばせるんだ』とユリカを真顔で見た。
「怖くなってきた、あなたが・・そこまで行っても、どこか楽しげで」と爽やかニヤをだした。
『あんなに素敵なリョウは、外見に負けない中身があるんだよ多分・・どこかに』と私が言った時に、背筋に触れた重い空気のような何かが。
ステージにリョウが上がるところだった、純白のドレスを着たリョウは圧倒的に美しかった。
外見だけしか見せていなかった、AAAの容姿しか、笑顔も作り物だと思っていた。
《リョウを監禁してる者、なぜ出てきたのこんな場所に、最も嫌なはずなのに》と心でリョウに囁いた。
リョウが私を見た、目が合って涼しさが増した、違和感のある涼しさだった。
リョウは目を逸らさない、私を見続けている、つまらない質問に答えながら。
私はリョウの瞳の涼しさが全く分からなかった、そして色も深みも変らない無感情の瞳に、恐怖を感じていた。
「よう、お姉ちゃん可愛い顔して、やるこたやってんだろ~脱げよ~」と若いヤンチャ系の集団の一人の男がリョウに叫んだ。
リョウはその集団を見て、笑った・・何かが強引に笑顔という、プログラムを発動した感じだった。
そして私はリョウの右腕を見て震えた、色が左腕と全く異なるのだ。
左腕は黄色人種特有の色なのに対し、右腕は蒼白な感じがした。
そして右腕だけワナワナと震えていた、その涼しい笑顔とは対照的に、右腕だけ別の感情のように。
そして左腕が上がって、白いドレスの胸元を掴んでニヤっと笑った。
「よ~待ってました~、脱いじゃえよ、どうせ誰とでもやるんだろ~」とバカな男がまた叫んだ。
五天女は沈黙して、その集団を見ていた、それに気付いた主催者側が緊張した。
リョウは左腕を少しづつ下ろして、胸の谷間がかなり見えてきた。
私はステージに走った、野次は人数が増して、ヒートUPしている。
私がステージのリョウの正面に立った時には、胸元がかなり開いていた。
『リョウ・・リョウ!』と叫んだ、その声にリョウが反応して、私を見た。
涼しい瞳の奥に何かが見えた、深海に棲む泥の中で獲物を狙うような生物的な感じだった。
『リョウ、駄目だよ~俺、経験無いから・・鼻血が出そう』と笑顔で言った。
野次はかなり熱を上げて、私もターゲットにされている。
私は司会をしてる男を睨み、手招きした。
『なんでリョウをとめんの!楽しんでるんか・・夜街の女に喧嘩売るんなら覚悟してけよ』と叫んだ。
野次に負けないように、司会者を見て。
『追い掛け回して、仕事も家庭も狙うぞ・・俺ガキやから止まらんぞ』と静かに言った。
司会者は両手を胸の前で合わせ、スマンって感じの仕草をした。
『リョウ、ブラ見えてるから・・ナイナイしようね』とリョウに優しく笑顔で言った。
リョウが屈んで私の方に顔を近づけた、その時右手が私の方に動いた、それだけ別の意志があるように。
私は必死に笑顔で、感じている恐怖と戦って、リョウの右手を掴んで私の首に巻かせ。
その勢いでリョウの体を引いて、そのまま抱き上げた。
首に巻かれた右腕と、左腕の体温の差に驚いていたが、恐怖は不思議と消えていた。
抱かれたリョウは私を見て、少女のように微笑んだ。
私はその時初めてリョウのその美しい顔に感情が持てた。
『リョウ、綺麗だね~ビックリしたよ、世界は広いね~』と微笑んで、来賓席の方に歩いた。
野次は続いていた、その時シオンが駆けてきた、笑顔で必死に。
怒号と野次にさらされる、私の方に必死に走って来る、その怒号に負けないパワーで。
「先生、大丈夫?何にも悪いことしてないのに、ひどいね~」と私の前に立って大きな声で言って、可愛く微笑んだ。
私はシオンのこの優しさに撃たれていた、感動していたその純粋という意志に。
『シオン、ごめん、この子の胸元上げて』とシオンに微笑んだ。
シオンが笑顔で上げてくれた、リョウを見たら瞳が変化していた。
私は驚きながら見ていた、シオンを見て目が潤んでいた。
潤んだ水分の透明度に目を見張った、純水だった果てしない地中を通り抜けた、地下水のようだった。
怒号を背に受け、来賓席のテントの前に行くと、ホノカが黒いマントを着て立っていた。
『ホノカ、やめてもいいぞ・・無理して行くなよ』とホノカの目を見て微笑んだ。
「カスミなら、行くよね?」と私を真顔で見た、美しく華麗な光を放っていた。
「当然だ、酔っぱらい相手に引く事は、自分を否定する事だろ」とカスミが私の後ろから、最強不敵でホノカに微笑んだ。
黒いマントのカスミは発光していた、顔だけしか見えないのに強い光だった。
「可愛いバージョン、諦めたのね・・きゃしゅみ」とホノカがカスミに強力華麗ニヤを出した。
「私は女優よ~」と最強不敵で、高らかに笑った。
「なに、2人の戦いみたいに言ってるのかしら、未成熟の青い体が~」と私に抱かれた、リョウが強力涼しげニヤで2人に言った。
「出してやる・・胸元勝負なら、負けないよ」とカスミがリョウに不敵ニヤを出した。
「私、着痩せするのよ・・爆弾2発持ってるんだから~」とホノカが両手で胸を押さえて、最強華麗ニヤをリョウに出して笑った。
「抱っこされて、お店に帰るのは私よ・・今、予行練習してるの~」とリョウが笑った、カスミとホノカも笑っていた。
私はリョウを不思議な気持ちで見ていた、そして自分の好奇心が動き出してるのを確認した。
「行ってくるよ、見てなよ~」とカスミが私を見て、リョウを見た。
「高みの見物しとくよ、意地悪言われて・・泣くなよ」とリョウがカスミに微笑んだ。
「きゃしゅみは、危ないわ泣き虫だから」とホノカが先に歩き、カスミが後を続き、笑顔で話しながらステージ裏に消えた。
『なんで、胸元開けたのかな、いけない子だね・・リョウ』とリョウを見て微笑んだ。
「オスを呼んでみたのよ、どのオスが1番反応するのか試したの・・反応強すぎだよエ~ス」と涼しげニヤで返された。
五天女がやっと笑った、緊迫感を抑えるために、ステージでは司会者が必死になっていた。
「ハルカとマミは大変な時代に、生まれたのかも」とユリさんが薔薇で微笑んで。
「なんか、若い頃のリアンが3人いるみたいだね~」と大ママが笑って。
「これは、夜街崩壊の合図かしらね~」とミチルが楽しそうに笑った。
「ノストラダムスも、計算を間違ったみたいね~」とユリカが爽やかニヤで私を見た。
「褒められてないな・・多分」とリアンが獄炎で照れ笑いした、五人で笑っていた。
その笑顔が、圧倒的な余裕があって、私も少し落ち着いた。
『リョウ、着替えに帰らなくていいの?』と笑顔で抱かれている、リョウを見た。
「一時審査の結果で、順番が決まるのよ・・私は最後の組でしょ」と私に涼しげニヤを出して。
「怖いの~、離さないで~」と私に強くしがみついた。
「独り占めしてる・・後で私もしてね・・先生」と言って、シオンが笑顔で受付に戻った。
「覚醒してきたね、シオンちゃん・・誰かさんの作品だからね~」とユリカが私にニヤを出した。
「完成して、望むのなら、私が面接しますよ」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「ユリ姉さん!・・本気ですか?」とリアンが驚いて言った。
「もちろん、素敵な魅力だわ」とユリさんが薔薇で返した。
「あの子が相手なら、私は最終選考辞退しましたよ・・絶対に勝てないと感じました」とリョウがリアンに微笑んだ。
五天女も嬉しそうに微笑んで頷いた、リアンが私を優しい炎で見ていた。
私に抱かれている美しいリョウを見ていた、その涼しげな瞳が潤んだときの純水を想っていた。
《多重人格》その言葉が頭をよぎった、昨年読んだ小説の主人公の少女が現れた。
私は視線にハッとした、ユリカが真顔で優しい瞳でリョウの目を見ていた。
リョウもユリカを見て、瞳が変化をしていた、深い底の何かが現れそうで怖かった。
ユリカがリョウに爽やかに微笑んで、リョウも微笑を返した。
私がほっと安心した時に、会場が静かになった。
ステージに上がるホノカが見えた、裾の広がった正にウエディングドレスを着て上がってきた。
その高貴な笑顔を振り撒いて、センターのマイクの前に立って深々と頭を下げた。
顔を上げていくのが、スローモーションのように輝きが流れた。
そして微笑んだ時に感じた、一緒に暮らしたらどんなに幸せだろうと。
楽しく暮らせるだろうと、そして悩みや疲れも全て吹き飛ぶだろうと感じた。
その腰の分岐点を強調したドレスのウェストが細く、やはり内臓をイメージできなかった。
そして確かに爆弾を胸に2発持っていた、それを支える肩のラインが美しく。
細い首筋に青い静脈が浮き出るほど、肌が白く内側の輝きを反映して発光していた。
客席の静まりを喜ぶように、ターンをしてみせた。
野次でなく、拍手がおこった。
それを嬉しそうに笑顔で受けて、私の方を見てリョウに微笑みかけた。
リョウも楽しそうに、笑顔で返した。
拍手を浴びながらステージを降りる、ホノカの後姿を見ながら。
《この雰囲気で次に出れるのは、カスミだけだな》とニヤニヤしていた。
そして会場を圧倒的な静寂が包んだ、白のタイトなドレスを着たカスミが上がってきた。
その体の真実の線に沿う、水着のような体にピッタリと張り付くドレスに、目を見張った。
首のラインから胸元にかけての大きな切れ込みに、銀のスパンコールが縁取りされて輝いた。
胸の谷間は、少し汗ばんだのか、妖しく光り。
その形を完全に浮き出させて、完璧を主張していた。
腰のくびれは絶対に内臓は入らないと思わせ、確かな分岐点でヒップに続いている。
体に対して少し大きめのヒップがセクシーで、その下に伸びる足がハイヒールをプラスして、恐ろしく長かった。
顔の美しさは申し分のないAAAで、小さい顔の中の瞳が恐ろしい輝きを放って微笑んだ。
《ホノカを見て、可愛いバージョン諦めたな、カスミ》と思って見ていた。
会場の静寂は続いていて、息を飲む音しか聞こえないようだった。
カスミは司会者の質問を緊張して答え、それが観衆の心には可愛いと映ったようだった。
《言葉使いを考えて、緊張してるのがプラスに出てる》と私はニヤニヤしていた。
その時カスミが私とリョウを見て、一瞬不敵を出しそうになって、慌てて抑えた。
その動揺の笑顔が、またも観衆の可愛いに結びついたようだった。
【永遠の憧れ】私にはその言葉しか出ない、カスミに対してはそれしかないと確認していた。
「うん、凄いね2人とも、こうじゃないとね~生きるのがつまらなくなるよね」とリョウが私に微笑み。
「ありがとう、とっても嬉しかったよ」と頬にキスをしてくれた、私は全開ニヤニヤで返して、リョウを優しく降ろした。
カスミは静寂を引き連れて、ステージを降りていた、その時やっと大きな拍手がおこった。
圧倒的な存在感と輝きを背に、カスミが見えなくなった。
一時審査の結果は。
リョウ228点、ホノカ232点、カスミ234点の大接戦で幕を下ろした。
会場を包む感想を話し合う、楽しいそうな声を聞きいていた。
カスミはマントを羽織る事無く私に持たせ、白いドレスのまま腕を組んできた。
私はカスミと腕を組んでるのが嬉しくて、得意満面でカスミと会場を後にした。
『ねぇカスミ、パンツ穿いてるの?』と私は疑問に思った事を、少年の笑顔を意識して聞いた。
「失神するなよ、穿いてない」と最強不敵ニヤで言った。
『そうなんだ!・・・緊張してきた』と焦りながら笑顔で返した。
「勝負なら、全力だよ・・価値があるだろホノカとリョウなら」と美しく微笑んだ。
『リョウも入って来たね』と笑顔で返した。
「当然」と微笑んで、裏階段前で止まった。
「疲れた・・充電を要求する、1回分」と不敵で微笑んだ。
私はカスミを抱き上げた。
『カスミ、回数数えるなよ・・カスミは無制限だよ』と笑顔で言って、登りはじめた。
「ありがとうな・・ノーパンに緊張して落とすなよ」と不敵で微笑んで、目を閉じた。
私はカスミに言われて、思い出して緊張した、カスミを直視できなくなった。
カスミが控え室に着替えに行き、私はフロアーに行ってみた。
マミが私の指定席で、なんとサインを繋いでいた。
『マミ、ひどい・・それじゃ俺の評価が落ちる』とウルウルで言った。
「落ちるほど高いの?」と可愛いニヤで返された、私はウルウルウル攻撃で対抗した。
『マミ、ありがとう・・嬉しかったよ、あの発言』と微笑んだ。
「うん、私も言ってよかったよ」と微笑んで、「ハルカとどっちが良かった・・キッス」とニヤニヤで来た。
『ユリカ』と言ってニヤ返しで逃げた。
「そっか~、ユリカさんも自分からするのはファーストだよね、多分」とマミが笑顔で言った。
その言葉で私は気付いて、ニヤニヤしていた。
「カスミ姉さんの調子は?」とマミが笑顔で聞いた。
『一時審査、僅差でトップ・・マミ凄いのがどんどん後から涌いてくるぞ』とニヤで言った。
「誰が、出現したのかな~」と興味津々光線を発射してきた。
『ピーチのリョウ・・カスミ・ホノカに一歩も引けをとらないよ』と笑顔で返した。
「聞いた事あるよ、【心酔の涼】って呼ばれてるんでしょ」と真顔で言った。
『どんな字?』と私は焦って聞いた。
「心が酔う涼しさよ」とマミが笑った。
『涼しいで・・・リョウなのか~』と私は考えながら、土曜の熱の高いフロアーを見ていた。
そして解った、ユリカの言った【覚醒】の意味が。
私の見るフロアーで、リンダと私がワルツを踊っているのが、薄い映像で見えた。
私の深層心理に深く刻まれたリンダが、確かな笑顔でステップを教えていた。
リンダを見ていた、嬉しかった、薄く映るリンダが楽しそうで涙が出そうになった。
私は初めての経験に慌てる事はなかった、ユリカがヒントを出してくれていたから。
目を閉じる必要も、強く想う必要もないんだ、そう思っていた。
《ユリカ、また少し分ってきたよ、人を想うという事が・・ありがとうユリカ揺り篭に乗せてくれて》と心で囁いた。
そしてリンダが消えて、リョウが現れた。
別人のリョウが涼しげな瞳の奥の、暗い泥沼から突然女の腕が飛び出した。
傷だらけで、血の滲む女の手が・・恐怖が支配していた、私の心を感じて何かが来た。
駆けてきた、純粋という無限のパワーで走ってきた。
笑顔の妖精、白の魔術師・・シオンが笑った、全てを凌駕するパワーを秘めて。
洗い流したその泥をと血を、無垢でない、絶対的な純粋で。
そして地下の奥深くには、地中の沢山の土や石で清められた、純水が流れてると教えた。
《今回のテーマは、【純粋】と【純水】だねユリカ、頑張るよ》と囁いて、思考を切った。
そして蘭を見ていた、その満開の笑顔が、私にくれる愛情というエネルギーを。
私に気付いた蘭が満開で笑った、私は満タンになるのを感じて笑顔を返した。
《大丈夫だよ蘭、俺には最愛の蘭と、最強のマリアがいつもついているから》と微笑んで背を向けた。
波乱の匂いの強い、祭り会場が誘っていた・・来るなら来いと。
私は肩の力が抜けて、想っていた。
《潜ってみるか、ジンが言ったんだ・・誇らしい最後の挑戦者と》
《そして、遥か上にいる同じ称号を持つ、RINDAが見ている》そう想っていた。
蒸し暑い夏の夜に・・・。
リョウの出現は、カスミとホノカの何かに火をつけた。
私はただ探究心に逆らえず、リョウの闇を目指す。
奥底で大切な物を探し当てる、愛されるとは何かを。
魔性の女と言われたリョウ、その魔性は隠すための手段。
柔らかく繊細な、触れることも禁じられた心。
純水でしか生きることの出来ない、古代の異物。
不純物は無い、心を酔わす冷たさ。
熱に負けない一陣の風・・・涼。