最善を尽くす 〜 考えてみれば要りませんわねアナザーストーリー・シオン 〜
読んでいただきありがとうございます。
本文にシオンサイドも入れたかったのですが、いろいろな事情で入れられず、本編が100位台にはいったらアナザーで書こうと思っていたら、ぎりぎり滑り込んだので書いてみました。
こちらだけでも読めますが、本編がまだの方はぜひそちらもご覧ください。
うぉぉぉぉぉ〜。
スタジアムに歓声が響く。
「父上、今日は何のお祭りなんですか?」
「今日はジャック団長の退団式だよ、団長は騎士団をやめ、ウインター伯爵を継ぐんだ」
「前ウインター伯爵の急死で、突然のことだったわね」
俺は父に手を握られ、人込みを抜ける。
「お母さま、父上と兄上において行かれてしまいます」
「デミオン、置いていかないから大丈夫」
俺ははぐれない様に、弟の手を握る。
壁のような大人達の人だかりを抜けると、スタジアムのスタンド席に出た。
突然広がった視界に、騎士たちの対戦が飛び込んでくる。
「わー父上、トーナメントですか?」
「ああ。優勝者は、ジャック団長と対戦ができる、あそこにいるのがジャック団長だ」
少し高いステージの上に、国王ご一家と共に黒い騎士服の細身の男性が立っている。
「父上、あの人が本当に騎士団で一番強いの?」
「ああ。群を抜いて強いぞ」
ファンファーレが鳴り響く。
「皆さんお待たせしました、これよりトーナメントを勝ち抜いたカイル副団長と、本日勇退されますジャック団長の対戦を始めます、使用できる武器は剣のみ、勝敗はどちらかが対戦不能となった時です」
ジャック団長とカイル副団長が会場の中央に進み出る。
両者が握手を交わし、剣をかまえた。
静まり帰った会場に剣が交わる音が響く。
「…………すごい」
ガキン ガキン。
剣を交えては離れ、また剣を交える。
カイル副団長の荒い息の音が聞こえる。
対照的に、ジャック団長は呼吸すら乱れていない。
タイミングを速めて踏み込んだ、ジャック団長の重い剣が、カイル副団長の剣を弾き、銀色の剣が空高く跳ね上がった。
カラン カラン。
剣が床に落ちると同時に、大歓声が上がる。
「ジャック団長の勝利です」
勝敗の宣言と共に二人はがっしりと熱い握手を交わす。
「カッコイイ」
見事な試合を見せた二人が、国王陛下の元に呼ばれる。
陛下の挨拶と、ジャック団長の勇退が宣言され、会場から惜しむ声が漏れ式典は終了した。
ずっと、ガーゴイルみたいな顔だったジャック団長が、こちらを振り返り、柔らかな表情に変わる。
団長の元にピンク色のかわいいドレスを着た少女が駆け寄る。
「お父様~」
少女はジャック団長にジャンプして抱き着いた。
ジャック団長は少女をくるくるとまわしてから抱きしめる。
抱きしめられてニコニコ笑う少女。
「…………ぐっ。かわいい」
「父上!俺は騎士になります」
「おい、シオンは侯爵家を立派に継ぐんじゃなかったのか?」
「ロックウッド侯爵家はデミオンに譲ります、俺は騎士になります」
「まあまあ。今日の試合はとても素敵だったものね~」
「父上、ジャック団長とは知り合いではないのですか?」
「ああ。知り合いではあるが」
「では、ご挨拶に行きましょう」
あきれる父を引っ張り、ジャック団長の元に向かう。
団長の周りには人だかりができていて、俺たちが声を掛けるまでにはだいぶ時間がかかった。
「やあ、ジャック団長!久しいね」
「これはロックウッド侯爵様、お久しぶりです」
「やあ、先ほどの試合を見て息子が感銘を受けてね、騎士になりたいそうだ」
「おお、騎士に」
ジャック団長がしゃがみ込み俺の頭を撫でる。
団長の腕の中には、先ほどの少女がすやすやと寝ている。
「君は何歳?」
「はい。5歳です」
「おや、フレアと同じ年だね」
団長が、少女の髪を撫でる。
撫でられたフレアは、ふにゃりと笑った。
「はあ。かわいい」
「はは。フレアは俺より強いやつにしか、婚約させないからね、頑張りなさい」
「はい。俺!頑張ります」
5歳の時、俺は騎士になることを決めた。
✿ ✿ ✿
それから俺は、侯爵家の騎士たちに交じり訓練を受け、10歳の時には騎士団の訓練生の試験を突破した、最年少の快挙だ。
何としてもジャック団長を追い抜いて、フレアの婚約者になりたかった。
貴族院の初等部では、クラスも違い、いつも静かに本を読んでいるフレアを眺めて過ごす。
彼女は優しい、困っている人を見かければ声を掛け助ける。
女性の友人も多く、なかなか声がかけられない。
時々ロペス伯爵令息が、隣にいて少しイライラする。
でもあんなへなちょこに、俺が負けるはずがない。
剣術も学問も頑張りに頑張って、かっこいい男になる。
最初は同意しなかった両親も、10歳で騎士団の練習生となった時、デミオンが侯爵家を継ぐことに同意した。
練習生の中では、もう俺にかなうものはいない。
15歳のデビュタントを終え、婚姻を申し込んで良い年になった俺は、直ぐにフレアに釣書を送ってもらった。
爵位も悪くない、剣術もできる、勉強もトップクラスのこの俺を、フレアは選んでくれるはず。
・・・・・・・
「シオン、ウインター伯爵令嬢のフレア嬢は、ロペス伯爵令息と婚約したそうだ。多くの釣書の中から、フレア嬢が選んだ、ずっとそばにいてくれて、優しいからだそうだ」
「……………………。」
うそだ、俺はずっとフレアの隣に並びたくて頑張った。
ジャック団長だって、俺より強いやつとフレアは婚約させると言っていた。
どうしても納得がいかない俺は、ウインター伯爵を訪ねた。
✿ ✿ ✿
ジャック 視点
「旦那様、ロックウッド侯爵家のシオン様が、どうしてもお会いしたいとお見えです」
「ロックウッド侯爵令息?」
「どうしてまた?確かフレアに嫡男である令息から、釣書が来ていたな…………。」
「少年の申しでだ、聞いてやろう。通してくれ」
彼に連れられてきた少年は、騎士練習生の制服に身を包み、剣を腰に下げている。
「ウインター伯爵!急な訪問なのにあっていただきありがとうございます」
「いや、ロックウッド侯爵令息が私になんの様だい?」
「俺と決闘してください」
「ほう、決闘」
「はい、俺は5歳の時、ジャック団長の試合を見て、騎士になることを決めました。そしてその時団長が抱いていた令嬢に一目ぼれしました、フレアと共に未来を歩きたいと、厳しい訓練も頑張ってきたんです」
「ほお。しかし君は、ロックウッド侯爵家を継ぐのではないのかい?」
「侯爵家は10歳で訓練生となった時、弟のデミオンが継ぐことに決まりました」
少年の真剣な顔に、思わず微笑んだ。
「そうか、すまなかった。フレアに届く沢山の釣書から、嫡男を外した状態でフレアには婚約者を選ばせた、君の釣書はフレアは目にしていない」
「では、どうか俺をフレアの婚約者に選んでください」
「シオン君すまない、フレアの婚約は、ロペス伯爵家とすでに結ばれている、今からロペス伯爵家に何も問題がない状況で白紙にはできない、これは家と家との契約だ」
「……………………。」
黙り込むシオン君の横に、家令が立つ。
「シオン坊ちゃん、侯爵家までお送りしましょう」
シオン君は、差し出された家令の手を押しのける。
「ジャック団長!どうかフレアの婚姻が整うその日まで、俺の釣書をそのままにしておいていただけないでしょうか」
「……………………。」
「これは騎士としての申し込みです、けしてフレアとロペス伯爵令息の邪魔をする様な真似をしません、フレアが選んだ相手と幸せになるならば、俺はこの思いを告げることもなく諦めます」
「本当にいいのかい?シオン君なら侯爵家を継いで、フレアよりもいい家柄の令嬢と共に生きていく道もあるだろう」
「俺はフレアが良いんです、フレアと共に歩けないなら、騎士として一人で生きていく覚悟です」
「……………………。」
真っすぐな少年だ。
もっと早く、フレアと出会っていてくれたなら。
「シオン君、条件が守れるならば、釣書は私が預かろう」
「本当ですか」
少年はキラキラと眼を輝かせる。
「条件は厳しいぞ、フレアは既にロペス伯爵令息と婚約している、フレアが不貞をしていると誤解されるような接触は禁じる、それでもいいか?無駄な時間を過ごすことになるかもしれないのだぞ」
「人生無駄な時間などありません、ありがとうございます、ウインター伯爵」
シオン君は俺の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。
いい子だ、フレアと共に歩く未来がなくとも、彼を支援しよう。
✿ ✿ ✿
シオン 視点
俺は貴族院高等部に入り、ついにフレアと同じクラスになった。
そして婚約者である、ロペス伯爵令息の酷い行いを知る。
伯爵家に婿入りが決まり、フレアへの態度が変化し、高等部に入りフレアがSクラスになると、さらにその態度は悪化した。
スミス伯爵令嬢を連れ歩き、婚約者であるフレアを図書館に残し先に帰宅する、帰宅後先に帰ると手紙を従者に持たせる。
馬車のないフレアは、歩けば40分以上かかる道のりを一人歩いて帰る。
まあ、伯爵家の護衛騎士が迎えに来るが…………。
そして俺は、高等部に進学以降、剣術部の訓練を終えると図書室に向かい、少し離れた場所で本を読みながら、フレアと同じ時間を過ごすことを繰り返していた。
「あーーー。今日の訓練はきつかったな~」
渡り廊下を進むと、雨がぽつぽつ降ってきた。
廊下から図書室の窓を見ると、フレアは一人………本を読む姿が見える。
雨では、歩いて帰るのに困るだろう…………。
いつも通り、俺も図書室で本を読む。
一人、また一人と学生が帰っていき、残りは俺たち二人だけ、フレアは本にのめり込んでいて、周囲が暗くなっていることに気が付いているのか…………。
馬車で送ってもいいだろうか…………。
クラスメイトだ、雨に困る令嬢を助けても、契約違反ではない………たぶん。
「フレア嬢?雨が降ってるけど、迎えは来るの?」
「……………………。」
「フレア嬢?」
「フレア嬢?」
「……………………。」
本の世界に入り込んでるのか…………。
俺は窓の外を見る。
雨のせいもあるが………外はかなり暗くなってきた。
「フレア嬢?」
何度も声を掛けるが耳に届かないフレアの肩を掴む。
「キャーーーーー。」
驚いて自分の口を塞ぎ、フレアが振り返る。
「やあ、もう外は暗いよ」
「はぁ~。ロックウッド侯爵令息様、大きな声を出してしまいすみません。ちょうど読んでいた推理小説のヒロインが、謎の男に肩を掴まれるのと、同時に声をかけられたもので…………。」
「いや俺こそ、そんなタイミングだったのか!すまなかった」
しまった、なんてタイミングで肩に触れたんだ俺は!
恥ずかしくなって頭をかく。
「何度か声をかけたのだが、本に集中していて、聞こえない様だったから……その肩を掴んだ。急に触れてしまい、驚かせてごめん」
「いえいえ。私こそ、お声掛けいただいたのにすみません」
フレアが恥ずかしそうに頬を染める。
かわいい。
入り口から、コツコツと足音を響かせ、男性が入ってくる。
「お話し中の所、お声がけしてすみません」
声に眼を向けると、ロペス伯爵家の従者が立っていた。
「フレア様、マテオ坊ちゃんからでございます」
従者が、白い封筒をフレアに渡す。
「いつもありがとう、この雨のなか来てくれたの?」
フレアは、他家の使用人にも優しいな。
「いえ。こちらこそ、坊ちゃんがいつもすみません」
ほんとだよ。あの屑マテオ。
従者は深々と、私に頭を下げてから図書室を出て行く。
フレアは封筒から、便箋を取り出して開く。
= ベルの体調が悪いため、先に帰る =
俺はそっと後ろから便箋を覗く。
「はあ」
フレアが軽くため息をついた。
「マテオの奴!先に帰るもなにも、邸宅についてから手紙をよこすなど!大体同じ学院に居るのだ、声をかけて一緒に帰ればいいだけではないか」
文面をみて怒りがわいて、図書室であることを忘れて大声が出てしまう。
フレアに見上げられて、バツが悪くなり、ガシガシと頭を描いた。
「や……盗み見るつもりは無かったが…………すまない」
「ふふ。かまいませんよ、皆さん知っていることですから」
俺が婚約者ならば…………フレアにこんな悲しい顔させないのに。
フレアの読んでいる本に手を伸ばすと、俺の好きな作家の本だった。
「これ俺も読んだが、ラストのシーンはな」
「わわわっわ!言わないでください」
ガン!
「いてぇ~」
慌てて立ちあがったフレアの頭をよけきれず、フレアの頭突きが俺のあごに直撃した。
痛いけど、サラサラのフレアの髪からいい匂い。
「す すみません!ロックウッド侯爵令息様!舌をかんだりしていませんか?」
「はははは、大丈夫だ、いい頭突きだったよ。それより同じクラスなんだ、ロックウッド侯爵令息ではなく、シオンと呼んでくれ、俺もフレアと呼んでいいか」
驚いた顔が、むちゃくちゃかわいい。
「もちろんです…………シオン様」
うー。シオン様♪
「フレアは、この作者が好きなのか?俺も好きでよく読むんだ、一番好きなのは彼の処女作、(その輝きの先に)が好きだ」
「あーあの作品!私も好きです、ドキドキしますよね~」
「主人公が、追い詰められるあの場面、ハラハラするよな~」
「わかります、私!寝る前に読んでいたのですが、もう心臓がバクバクしてしまって!その後、寝つけませんでした」
俺がそばにいてやりたい。
「ははは」
「私、図書館で借りて読んだんですが、自分でも所有したくて、いろいろ書店を探したんですが、手に入らなかったんですよね~」
「フレアは、ミステリーやホラーが好きなのか?」
「ミステリーは好きです♪でも、あの、少しですが………ホラーは苦手でして」
「じゃあ、(その輝きの先に)は怖かったんじゃないか?」
「ええその、少しだけ怖くて…………朝まで侍女のメイに、一緒にいてもらいました…………。」
「ははは、学年一の才女でも、怖いものは苦手なんだな」
頬を膨らませたのが可愛すぎて、ついついフレアをからかうと、図書館の奥から「おっほん」と大きな咳払いが聞こえた。
「あぁ~。ブラッド先生すみません。直ぐに帰ります」
「ああ、本についての談義は、私も好きだが、だいぶ時間も遅いからね、気を付けて帰りなさい」
「遅くまですみません」
俺達は、急いで読みかけの本を借りて、図書室を出る。
「ああ、酷い雨だな、うちの馬車で送ろう」
「いいのですか?」
上目使いが殺人的だ。
「もちろんだ、そしてこちらの方が、家の馬車に近い」
俺は、フレアの手首をがっしりと掴み、裏門に向けて駆けだした。
なんて細いんだ。
フレアが濡れないように急がなきゃ。
大降りの中を、二人で走る。
振り返ると、フレアの笑顔。
ぐーーー・
✿ ✿ ✿
馬車に乗った後はまさに、忍耐勝負。
フレアへの思いが走り出し、止めるのに必死だった。
あっという間にウインター伯爵家に到着し、これでサヨナラかと思ったら、屋敷に招待された。
屋敷に入ると、フレアは侍女殿に、俺はウインター伯爵夫人の案内で、冷え切った体を温めた。
ん~。頭が痛いな。
「あらシオン君、顔が真っ赤よ熱があるんじゃないの?」
熱を測ると、かなりの高熱。
はあ。
せっかくフレアと夕食を食べるチャンスなのに。
「こんな熱で返す訳にはいかないわ!今すぐロックウッド侯爵に連絡して」
!!!!
止まっていいのですか?
嬉しすぎる。
「はいはい、とにかくシオン君はベッドに入りなさい、私のおばあ様直伝の、風邪に効果抜群のスープを作ってくるからね」
ウインター伯爵夫人は、満面の笑みで部屋を出て行った。
俺はベッドに横になったが、同じ屋根の下にフレアもいると思うと目がさえて眠れない。
コンコン。
「スープ作ってきたわよ、飲めるかしら」
はあ~。これ何のにおいかな、おいしそうな匂い。
「さあ召し上がれ」
大きな器に入ったスープを、ウインター伯爵夫人が俺に差し出す。
重い体を起こして器を受け取った。
大きなスプーンでスープをすくい、口に運ぶ。
が!!!!
苦い酸っぱい!なのに最後に甘い。
ぐう。ここは男の見せ所!
俺は器に直接口をつけ、一気にスープを飲み干した。
そして撃沈。
夜遅くに、誰かが部屋に入ってきて、俺の髪を撫でた。
熱のせいで瞼が押し上げられないが…………馬車で貸してもらった、フレアのハンカチの匂いがした。
ウインター伯爵夫人が言う通り、朝目が覚めると熱はすっかり引いて元気になっていた。
ウインター伯爵夫妻と朝食をしながら、騎士団の話をしていると、フレアが起きてきた。
夫人が俺をじっと見つめる。
…………なんだ。
伯爵夫人の無言の圧にフレアを馬車に誘う。
あれよあれよと一緒に登校することになり、にこにこ朝から可愛いフレアと馬車に乗り込む。
馬車では弟扱いされたけど、俺は今まで生きてきた中で一番幸せだ。
このままフレアと一緒に居られたら…………。
✿ ✿ ✿
その日の放課後、フレアと一緒に図書室に行くと俺たちの運命を大きく変える事件が起きた。
お互いに気になる本を持ち寄って、テーブルに向かい合って座る。
「おー。俺、その本もう読んだぞ」
フレアの手にある本を見て、小声で話しかける。
「もう。シオン様、絶対に結末を先に言わないでくださいね」
今日は珍しく、図書館に生徒の姿が多い。
フレアと小声で話していると、図書室に大きな声が響く。
「おい!フレア!俺という婚約者がありながら、他の男と逢引きか!」
「まあ、マテオ様、今日はベル様の体調がいいのですか?それに図書館で大きな声はお控えください」
俺はマテオに向かい立つ、フレアを守るため後ろに立つ。
「フレア。もう迎えに来なくていいとは、どういうことだ」
「今朝がたウインター伯爵家から、今後一切フレアの送り迎えは、不要だとの手紙が届いた!俺はフレアを迎えに行くから、馬車を出して貰えているのだ、歩いて通うことになったら、ベルがかわいそうじゃないか」
はは、夫人やりましたね。
「手紙のことは聴いておりませんでしたが、私は両親の意向に従います」
「おい!フレア、お前は俺を愛してるのだろう、俺の言葉だけに従っていればいいんだ」
じりじりと距離を詰めるマテオから、フレアを背にかばい前に出る。
「ロックウッド侯爵令息、フレアは私の婚約者だ、近づかないでもらいたい」
あいつ。本当に屑だな。
「婚約者でもない令嬢を、腕にぶら下げているお前に、言われたくないな」
「爵位が上なら何をしてもいいのか!フレアの不貞として公表してもいいんだぞ」
にらみ合っていると、奥からブラッド先生が現れる。
「おっほん」
「ロペス伯爵令息、スミス伯爵令嬢。何か勘違いしているようだね、この図書館が開館している間は、司書も務めているこの私が、必ず滞在している」
ブラッド先生は、図書室のテーブルをバン!と、ぽっちゃりした手でたたく。
「この二人は、勤勉だ、本の話をしているところしか、私は見たことが無い、どの様なうわさを流そうが、この私が二人が誠実であることを証明しよう」
「叔父さんは黙っててよ」
「おや、このご令嬢は私のことを知らないようだね」
「司書の爺さんごときが、何の用だ」
…………あぁ。
本当に馬鹿だな。
「マテオ様、ブラッド先生はこの学院の理事長です。理事の仕事を務めながら、本好きが高じて司書の仕事もされているんです」
フレアが俺の隣に並ぶ。
「マテオ様。常識もなく、学院で他の令嬢を連れて歩く婚約者など、私は要りません。婚約破棄させていただきます。ウインター伯爵家に、役立たずな婿は不要です」
「フレア。何を言ってるんだ、ベルとは何の関係もない」
「何も関係がないって何よ!ウインター伯爵家に入ったら、私を後妻に迎えると、言っていたでしょ」
ベル様が叫ぶと、集まった見物人達がどよめく。
「おい、フレア。助けてくれ、俺はウインター伯爵家の人間だぞ」
馬鹿な二人の首根っこを、ブラッド先生ががしりと掴む。
「ロペス伯爵令息、スミス伯爵令嬢。学院でやっていることが、本当に親にも社交界にも、知られていないと思っているのかね、ここは小さな社交界だよ。はっはっは」
丸い体型のブラッド先生が、暴れる二人を引きずり歩き出す。
「今日起きたことも、あっという間に広がるだろうね、とりあえず騒ぎを起こした二人は、学院長室に行こうか」
思わずブラッド先生への尊敬のため息がでた。
「ブラッド先生、あの体のどこに、二人も引きずる力があるんだ」
「フレア様おめでとう」
「屑と、離れられてよかったな~」
「シオンも、かっこよかったぞ~」
「えー。一番かっこいいのは、ブラッド理事長だろ」
「フレア様も、素敵だったわよ~」
「これで、学院の風紀も少し良くなるな~」
人だかりから、様々な声が聞こえる。
「はあ。すっきりしましたね」
フレアがキラキラした笑顔で俺を見上げる。
「そうか、良かった」
「お父様に、話を進めて頂かなければなりませんので、私は帰ります」
こうなれば、絶対に俺がフレアの隣に並ぶ。
「俺が送ってもいいだろうか?」
「ふふ。お言葉に甘えさせていただきます」
俺はフレアを伯爵家に送り、直ぐに求婚の準備に戻ろうと決める。
「フレア、いろいろ準備して、直ぐに戻ってくる…………その時は、俺に時間をくれないか」
フレアは、見当違いの話をするし、ウインター伯爵夫人には笑われた。
なんだかぽかんとしているフレアに、俺の気持ちが伝わっていない気がして…………思いきり抱き締める。
「待っていてくれ」
侯爵家に戻り、両親に今までのことをまくしたて、俺は求婚の準備をする。
やっぱりこういう時は大きなバラの花束か………いや、フレアが本当に喜ぶものを!
いろいろ考えて、俺は求婚に送るプレゼントに本を送ることにした。
なかなか目当ての本が見つからず、国中の書店を回り、辺境の地でようやく見つけることができた。
✿ ✿ ✿
準備ができてから、両親にお願いしてウインター伯爵一家を領地の別荘に招待してもらう。
フレアには、海を見ながら告白したい。
「わあ~。気持ちいい」
白と青のシンプルなドレスを着たフレアの後ろにそっと近づき本を頭に乗せる。
「遅くなってごめん」
フレアの驚いた瞳が揺れる。
「シオン様」
振り向いたフレアの瞳に見つめられて、頬が染まる。
「思ったより、時間がかかってしまったが、これをフレアに」
フレアにようやく見つけた本を差し出す。
「これ…………。」
「フレア、前に欲しがってただろ、探すのに少してこずった」
「いただけるんですか?」
「もちろん」
フレアの瞳に、俺が映っている。
「シオン様も、一番のお気に入りなのですよね?」
「ああ。俺も欲しい」
「それでは、私より先に…………。」
あー。もうフレアはまだわかっていない。
俺は膝まづいてフレアに手を差し出す。
「フレア!」
「はい!」
「これからの人生、俺の隣にいて下さい」
「はい!喜んで!…………いえいえ。でも、シオン様は侯爵家を継がれるのでは?」
「いや俺は、騎士になりたくて、早い段階で家督は弟に譲るつもりでいた」
フレアの顔がパっと輝いた。
「それに俺は、15歳の時に、フレアに釣書を送っている」
フレアの瞳が大きく開かれる。
「諦めの悪い俺は、婚姻が結ばれるまでは釣書はそのままにと、ウインター伯爵に懇願していた」
…………。
フレアが俺の腕の中に飛び込んできた。
「シオン様、新しい本棚を買いましょう。二人のお気に入りの本を入れるための」
うわー。俺のフレア可愛すぎる。
シオン様が、私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「ああ。記念すべき一冊目は、これだな」
「あらー。上手くいったの~」
ウインター伯爵夫人の声にフレアが振り向く。
ロックウッド侯爵家、ウインター伯爵家の面々が、みんなでこちらを見てる。
みんなに見られていたことを知り、フレアの顔が真っ赤に染まる。
「はーい。母上(伯爵夫人)これからよろしくお願いしまーす」
俺がみんなに大きく手を振ると、みんなから笑い声と祝福の拍手が沸き起こった。
俺は全力で自分を磨き、フレアを捕まえた。
~ 終わり ~
(*^-^*)




