表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

津平阿坂2

次に彼女に再会できたのは夏の頃、夏休み前だった。季節は変わっても彼女は石碑の上に座っていた。いやもしかしたら日陰で過ごしやすいのかもしれない。そう言えば彼女はどうやってこの石碑に登っているんだろう。

「こんにちは。クルミさん。ひさしぶりだね」

後ろ姿の彼女に声をかけた。正面から声をかけなかったのは驚かせようと思ったからだ。だって探しても、探しても君は見つからなかったんだから。少しくらいお返ししたっていいだろう。

「こんにちは。もう会えないのかと思ってたわ」

振り向きざまに言われたその言葉だけで僕のちっぽけなイタズラ心は消え去った。飛び上がりそうなくらい嬉しかった。また会いたいと思ってくれていたのか。

「タイミングが合わなかったんだね。きっと」

探したんだけどなかなか見つけられなくて。僕も会いたかったなんて恥ずかしくて言えなかった。彼女に僕の気持ちを気付かれたらどんな顔をして彼女の前に立っていいかわからない。僕にだってこの気持ちが何なのか名前を付けられずにいる。でも気付いて欲しい気もする。分かち合いたい気がする。僕はなんともない顔を取り繕って座っている彼女の側に寄った。

「チョコレート。美味しかった?」

自分の気持ちを誤魔化すように、口から脈絡のない、聞きたいこととは全く違う問いかけが出てしまった。

「チョコレート?あぁ。美味しかった」

前に彼女と会ったのは2ヶ月近くも前のことだ。2ヶ月前に食べたチョコレートなんて覚えてないはずなのに。そこら辺の市販のチョコなのに、それでも美味しいと行ってくれるなんてやさしいな。

「口にあったならよかった。久しぶりだけどどう?」

「どう?とは」

「学校生活に変わりなかったってこと?入学して落ち着いてきたころだろ。何か面白いこととかあった?って意味」

あまりにも会えないから休んでるのかと思った。会えなかった頃の君が知りたいと思った。

「何も変わりないわ。あなたはどうなの?」

何もないはずなんてないと思うけど。どうやら彼女は退屈らしい。では面白おかしい話をしよう。本当は彼女のことを知りたかったけど僕のことも知って欲しい。

「色々あったよ。でも話す前に君の隣に行ってもいいかな?ここじゃ少し遠いよ」

そう僕が告げると彼女はパチクリと目を瞬かせた。距離の詰めかたが急だったかな。なんせ会うのは2回目だ。

僕の不安なんか知らない彼女はいたずらっぽく笑ったかと思うと、おもむろに自分が乗っていた石碑から飛び降りた。びっくりした。なんせ石碑の高さは170センチある僕より上だ。その高さから躊躇なく飛び降りるとは思わなかった。

「運動神経が良いんだね。びっくりしたよ」

彼女はニコニコしてる。どうやら僕の驚きようが気に入ったらしい。

「そうだ。今日もお菓子を持っているんだ。よければ食べてよ。ちょっと買いすぎちゃったんだ」

嘘ではない。ロッカーにお菓子を常駐させているだけだ。彼女に会えたらあげようと思ってた。チョコレートをあげた時とても嬉しそうだったから。案の定彼女は嬉しそうにお菓子を受け取った。キラキラした瞳で品定めをしてる。

「好きなら全部食べても良いよ。まだあるから」

「うれしい!」

勢いよくこっちを向いた彼女の瞳がキラキラと眩しかった。弧を描いて舞う髪が美しかった。ドラマや映画のワンシーンのような彼女の煌めきに僕はそれだけで胸がいっぱいになる気持ちだった。

「男に二言はないよ」

「あら。それは今時期の発言として良いの?」

冗談を言う彼女の顔もみれた。今日はとても良い日かもしれない。

それから僕は、彼女と知り合ってから今まであった面白そうな出来事をピックアップして話をした。

そういえば化学の結城先生わかる?知ってる。よかった。先生だよ生徒じゃない。確かに結城先生はこの学校の卒業生だって聞いたことあるけど、何年前の話?

そもそも生徒の話だったら、誰か特定できなくないか?1年に7クラスあるんだぜ?

まあいいやその結城先生がかなり落ち込んでいて、授業中なのにあまりにも落ち込んでいたから話を聞くと間違ったPCパーツを買ってしまったらしい。気づくのが遅くて返品できないと落ち込んでいたみたい。

あまりの落ち込みようでかわいそうだと思ったから、その場で買った場所に電話をするように言ったんだ。渋る先生をクラス全員で無理やり説得して電話をかけさせたら、返品できることになったんだ。そしたら先生大喜びでうっきうきで授業を再開したんだけど、授業中に私用の電話をかけたことが校長先生にバレて怒られてた。

一応、先生に電話をかけさせたのは僕たちだって言ってみんなで謝りに行ったんだけど、結局僕らも怒られてちゃった。間違って買った理由?なんか間違ってメモをしてそのまま買っちゃったらしいよ。ずっとおかしいって言ってた。

他?他かぁ。そういえば、音楽室の鍵がなくなった話を知ってる?1ヶ月くらい前に音楽室の鍵がなくなって探しても探しても見つからなかったんだって。でもある日掃除の時間に、綺麗好きな生徒が音楽室のロッカーの上をはたきで叩いていたら鍵が落ちてきたんだって。

でも誰が犯人かわからないらしい。生徒が鍵を借りる場合、ノートに名前と日時を書くんだけど、全員返した記録があったんだ。返却は先生と一緒に確認するからごまかしはできないようになっているからみんなで不思議がってさ。

でも生徒じゃないとしたら先生がロッカーの上に置いたことになるけど先生がそんなことするはずないし、幽霊の仕業かもって生徒の間では噂してるんだ。ん?何でそんなに笑っているんだい?まさか犯人知っているの?え?小人?君ってそんな冗談言うんだね。


僕の話をニコニコと、そして時には相槌を打ちながら彼女は聞いてくれた。そしてどうやら彼女は幽霊とかちょっと怖い話がお好きらしい。でも楽しい時間は光のように過ぎ去ってしまった。チャイムがなってしまった。帰らなくてはいけない。この時ほど家が遠方にあることを恨んだ。

「ごめん。もう帰る時間だ」

「そう…」

ちょっと目を伏せた彼女が寂しそうに見える。勘違いしてしまいそうだった。彼女も僕に、僕が彼女を思うように思ってくれているのではないかと。

でももう少し、もう少し彼女の気持ちを確かめたい。できることならもっと彼女と一緒にいたい。

「また会えるかな?夏休みは学校くるの?」

「そうね。だいたいここにいると思う」

希望が持てるような気がした。だって夏休みの学校に用事なんて部活か勉強か委員会活動だ。僕たちは一年生だから委員会活動は夏休みに学校に来るほどの役職にはついていない。部活動もここにいることが多いということならほとんどやってないか、文芸部とかの文化部だと思われる。もしかしたら僕に会いたいと思ってくれているのかもしれない。僕のために学校にわざわざ来てくれるのかもしれない。

「そうなんだ。僕も図書館に用があるからもし会えたらまた話がしたいな。そうだ。クルミさんはなんのお菓子が好き?今度持ってくるから一緒に食べよう」

「なんでも大丈夫」

はにかんだように彼女は笑った。僕も釣られて微笑んで、すとんと自分の気持に気付いた。納得した。あぁ彼女のことが好きだなぁってはっきりと自覚した。本当に今日はいい日だ。

それから僕は夏休みの間は毎日、学校に通った。彼女を見かけた日は彼女と話し、彼女を見かけない日は図書館で勉強をした。彼女との話題を切らせたくなかったからクラスメイトとも積極的に話をして話題を探した。夏休みだからあんまり機会はなかったけれど。

そんな夏休みをすごして気づいたのは、彼女は昼前から学校にいる場合でも弁当を持ってきていないようだった。どうやら腹が空いても我慢すれば良いと思っているらしかった。

彼女の親の話を聞くと彼女は困ったように首を振った。詳しく聞きたかったけど彼女を困らせたくはなかった。もしかしたら家庭に居場所がないのかもしれない。

だから僕はお弁当を作って学校に行くことにした。幸い料理はできたし、材料は自宅の庭で育ててる野菜を使えば、ほぼただだったので親にも許してもらえた。田舎だから土地だけは広いから、僕の家では一般家庭としては大規模に家庭菜園をしていた。ただし代わりに畑仕事を手伝うように言われてしまった。仕方のないことである。彼女の笑顔が見れるなら頑張らないと。

野菜ばかりになってしまって申し訳なかったが、彼女はとても喜んで食べてくれた。お弁当は彼女がいない日は例のPCパーツの結城先生にあげた。通常先生にお弁当を渡すのはなんとなく何かに引っ掛かりそうでよろしくないが、先生が担当する家庭科部に入ったことでごまかした。先生は部員を増やせて、僕はお弁当を無駄にせずに済むし感想を聞ける。これは正当なる部活動である。が。校長先生には絶対にばれてはいけない。これはお弁当がほぼ、そうほぼただだからぎりっぎり許されていることだろう。ほぼだたなだけでガス代とか米代とかはかかっている。おそらく。きっと。ばれたらたしなめられるか怒られる。

しかし以外にも先生は弁当の相手を気にしていた。お弁当の量から相手が女生徒であることは早々にばれていた。とりあえず曖昧に誤魔化しておいた。この気持ちを独り占めしたい気持ちは初めてであったあの時から変わらない。

でも一度僕が中庭で彼女と話しているところを見られたようで、校舎に入った時に声をかけられた。先生はニヤニヤしながらも応援してくれた。

でも、そんな楽しい夏休みもあっという間に終わってしまった。学校が再開するとまた彼女と会う機会が減ってしまった。やはりなにか事情があるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ