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「神田さんすみません。あとでちょっと侑…大賀のことも説明させてください」

「えぇ、ぜひ。あとごめんなさい、今日は僕のパートナーとして参加いただいたので武藤さんの紹介には付き合っていただきたいのですが」

「えっ…」


本当に付き合っているわけでもあるまいし、正直女性と一緒にいるだけで牽制になるかと思っていたため紹介などはないと思っていた。何より私の会社なので紹介して回られるとめちゃくちゃ大変なことになる。今更だが私は大きな選択ミスをしてしまったのではないかと思い始めた。

しかし乗りかかった船だ。いや乗りかかってくれたのは神田さんの方だ。どうせ社内恋愛する気も余裕もないしまぁいいかと神田さんと一緒に挨拶回りに向かうのであった。


「ご挨拶遅れてすみません。将来を考えてお付き合いしている武藤さんです」

「いやぁまさか相手がうちの武藤だったとはな。だからあんなにうちの娘を紹介しても靡かないわけだ」

「申し訳ありません。紗奈さん以外は考えられなくて…」

目の前で展開されている光景が夢じゃないかと思うくらい現実味がなさすぎてぼけーっと見つめることしかできない。なぜ私は今弊社の重役に紹介されているのだろうか。


「…神田さんって何者ですか?」

「何者って。ただの会社員だよ」

「だとしたら顔が広すぎる会社員でギネス載れそうです」

思わず吹き出して笑うのを見て、こうしていればこの人も普通の人間なのになぁとかいう変な感想を抱いてしまう。普通の人間じゃないと思うほどたくさんの偉い人と挨拶を交わす神田さんを見てしまったのだから仕方ない。


「…やっぱり外堀から埋めていかないとね」

「ん?なんか言いましたか?」


神田さんがボソッと言ったのは分かったが私の耳には届かなかった。なんでもないよ、と笑う神田さんの顔にはどこか呆れたような表情が読み取れた。



「神田さん今日は本当にありがとうございました」

「武藤さんこそ。本当に助かったよ」

神田さんが助かったというのは本当のようで、今日はほぼ女性に言い寄られなかった、と上機嫌だった。私はというと恨めしそうに女子社員から睨まれていたため美味しいご飯もお酒も全く味がしなかったが。


「武藤さんさえ良ければ今度お礼をさせて欲しい」

「させていただくのは私の方に決まってます」

「いやまた今度別のパーティーでの僕のパートナーもお願いしたいところだし」

「えっ?!」

「半分冗談」


とりあえずまた連絡させて、ということで神田さんと連絡先を交換した。


「紗奈」

神田さんとそんなやりとりをしていると後ろから侑士の声がした。神田さんは私の腰に手を置き、ぐっと寄せると侑士に向き直る。

「侑士、お疲れ。じゃあ僕たちは今日はこれで」

侑士にひらひらと手を振ると神田さんは私の腰を抱いたまま引っ張っていく。そういえばまた侑士、金城さんとは一緒にいなかったな。

ん?え、待って神田さん今侑士のこと呼び捨てにしなかった?


「したよ」

「えっエスパーですか?」

「普通に声に出てたよ」

心の中でつぶやいたと思っていたがびっくりしすぎて思わず口にしていたらしい。そんな言葉遣いも新鮮でいいね、これからはそれでいてよなんて笑う神田さん。


「侑士のことも話したいし武藤さんのことも聞きたい。あと今回予想以上に上手くいったからもう少し武藤さんには彼女役をして欲しい。だからまた誘うね」

「わ、分かりました…」


思わず肯定してしまったが大丈夫だっただろうか。気がつけば「じゃあ気をつけて」なんて神田さんが呼んでくれたタクシーに乗せられ家に向かって走り出していた。

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