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「神田さん、またすぐいらしてね」
「…次は将棋盤用意しとく」
玄関で私と神田さんを見送るお父さんとお母さん。相当神田さんのことを気に入ったみたいで本当は偽装だったなんて口が裂けても言えないな、とぼんやり思う。
いずれ家族には「神田さんとは別れた」って言わなきゃいけないのか。
「…お姉ちゃんをお願いします」
「ありがとう夏海ちゃん。お姉さんのこと絶対大事にする。…ではまた近いうちに伺いますね」
神田さんはうちの家族に頭を下げると私の手を取って玄関の外に出る。こんなところまで完璧にこなしてもらってなんだかくすぐったいのと申し訳ないのと。
偽物の言葉だと分かっていても「絶対大事にする」という言葉に思わず顔を赤くする。こんなセリフ人生の中で言われたことあったかな。
私は軽く俯きながら家族に手を振ってまたね、と玄関を閉めた。
「はーーー終わった…」
「ね。ありがとう、ご実家に連れて行ってくれて」
「いやいやこちらこそすみません、本当に色々巻き込んでしまって」
どっと疲れが出たのか助手席に座って少し走ったところで思わずため息と共に声が漏れる。
「いや、全然。良いご家族だった。本当に」
そう言う神田さんの顔を覗き見るととても柔らかい笑顔をしていた。本当にいい家族だと思ってくれたのかな。
「そ、そういえば夏海大丈夫でしたか?何話したんです?」
「大丈夫だよ」
神田さんはそれだけを言うと、あとは内緒ね、と人差し指を唇に当て少しいじわるするような顔で私を見た。
…もしかしたら夏海もこの顔にやられて絆されたとか…?いや可能性はゼロじゃないか…?
「偽装彼氏とは言ってない。本気でお付き合いしている男として話した」
「え、そうなんですか?!絶対「偽装彼氏だからもう来ないよ~だから大丈夫!」くらい言ってると思いました」
じゃなかったらあんなに怒っていた夏海が急におとなしくなることはないと思ったのだ。
「紗奈って結構僕のこと信用してないな?」
「そりゃまだ出会ったばかりですから」
「それはそうだ」
いい心がけだね、と笑う横顔は家にいた時のような硬い笑顔じゃなくて、なんだか少年みたいで少しドキッとしてしまう。
「…なんかうちの家族みんな侑士とも仲良くしてたので家族みたいに思ってるのか侑士のこと大好きで。何かにつけて侑士侑士って。困っちゃいますよね」
「でもなんだかんだ紗奈も好きでしょ?」
「まぁそりゃ…昔は弟みたいだったのに、今は面倒見のいいお兄ちゃんって感じです」
昔は公園で転ばせちゃったりおもちゃ取り上げて泣かせちゃったり…思い出せば結構かわいそうなこともしてきたかも、と思い申し訳ない気持ちになる。
「そのポジに入れるようにこれから頑張るところ」
「えっ?」
パッと神田さんの顔を見ると真剣な顔をしながらハンドルを握っていた。これ以上は多分聞いても答えてくれなさそうな雰囲気は私にもわかる。
「…紗奈、まだちょっとあるから疲れてたら寝ててもいいよ」
「あ、ありがとうございます…でも行けるところまで頑張ります…!」
とは言ったものの疲れが溜まっていたのは事実で、その言葉を最後に私は心地いい車の揺れに体を預けたのだった。




