第5話 最強魔法剣士、稽古をつける
――今日はずいぶんと早起きした。
朝焼けのグラドールはいつもより冷たい風が吹いていて、城塞都市の高い城壁が淡い橙色に染まっている。俺はその壁際を軽くストレッチしながら歩き、冒険者ギルドの正面まで来た。肌に触れる空気はひんやりしているが、心は意外と落ち着いていた。
「……おはようございます、リュオさん」
小さな声が、扉横の柱から聞こえた。顔を上げると、そこには長い黒髪と狼耳を揺らした少女――リーシャが立っていた。まだ陽が昇りきらない薄紫の空の下、彼女の瞳はいつもよりしっかりとした光を宿している。
「おう、朝から元気そうじゃん」
軽く声をかけると、リーシャは控えめに微笑んで首を振った。表情の硬さは少し残っているが、前と比べれば遥かに落ち着きがあるように見える。
「はい……ちゃんとよく寝て、時間通りに起きました」
そう言いながらも、彼女の声は微妙に震えている。体よりも心のほうがまだ準備不足なのかもしれない。そりゃそうだ、彼女は昨日までただ追放されて途方に暮れてた少女だったんだからな。
俺はギルドの扉を開け、リーシャを促しながら中に入る。早朝の冒険者ギルドは人がまばらで、受付のカウンター前にいるのは猫背の中年冒険者がひとりと、駆け出し風の少年くらい。並んだ依頼掲示板には、昨夜のうちに更新された紙が何枚も貼られている。
「さて、どうするかな。俺は昨日、適当な魔物討伐の依頼をこなしただけだったが……リーシャ、お前はどんな依頼をやりたい?」
「えっ、わ、私が決めてもいいんですか……?」
彼女はきょとんとした顔をして、少しだけ尻尾の先を揺らしている。どうも自分に選択権があることに慣れていないらしい。
ふむ、これまでの彼女の扱いを想像すれば、その気持ちもわかる。かつてのパーティでは戦力外と決めつけられ、意見を言う余地すら与えられなかったのだろう。
俺はかがみながら彼女に顔を近づけ、笑って見せる。
「まぁ、好きに選べなんて言ってるわけじゃねえ。過激なクエストを受けるつもりはないからな。……おっ、これなんかどうだ?」
「え、えっと……」
彼女が目線をめぐらせるのを見計らい、俺は一枚の張り紙を指さしてやった。
【キラーラビット討伐】
依頼内容:草原地帯に出没するキラーラビットを四体以上討伐し、安全を確保する
報酬:1000ゴールド
備考:見た目はウサギだが、跳躍力・鋭い牙による攻撃が侮れない。初心者向けだが油断禁物。
「……うさぎ……ですか?」
リーシャは少しホッとしたような顔をしつつも、その説明文を読んで眉をひそめる。かわいらしい動物のイメージが強いんだろう。だけど実際は、なかなか凶暴な奴らだ。
「うん。それでもいいかな? こういうスピードがある奴らを相手にすると、お前の嗅覚とか動体視力が鍛えられると思ってな」
言葉を添えてから、受付の若い女性に声をかける。彼女は俺の顔を見て少し笑みを浮かべたあと、リーシャにも視線を向け、安心させるように言ってくれた。
「うさぎって侮る人が多いんですよ、でも奴らは、跳躍力が異常に高くて鋭い歯も持ってます。新人さんや、自信のない冒険者さんにはちょうどいい実戦特訓になるかもですね……ええと、リーシャさん、でしたっけ?」
「は、はい! あ、あの……よろしくお願いします」
「うん、頑張ってね。もし怪我したりしたら早めに引き返すんですよ?」
受付の彼女が和やかに話すのを聞きながら、リーシャはかすかに笑う。それを見ていると、どうにも俺もほほえましい気分になってくる。なんというか、追放どうこうで萎縮してた少女が、少しずつ明るい表情を取り戻すのは悪くない。
「よし、それじゃあ受注だ……うさぎ狩りに行くぞ」
「はい……うさぎ、かぁ。かわいいのに、凶暴、って……うう、変な感じ」
「見た目に惑わされるなよ。急にとんでもないジャンプで頭めがけて飛んできたりする。俺の騎士団時代の同期も、アイツの牙で顔をぶっ刺されたヤツがいてな」
「ひっ……!」
冗談めかして脅かしてやると、リーシャは思いきり首をすくめた。尻尾がブルッと揺れるのがおかしくて、俺は思わず吹き出す。
「はは、冗談だ。いや、嘘でもないんだが……大丈夫、大怪我はしなかったさ。とにかく気をつけろってことだ」
こんなふうに軽口を叩きながら、俺たちはギルドの扉を押し開けて外へ出た。天井の高い室内よりも外は眩しい日差しが降り注ぎ、さっきまで感じていたひんやり感が和らいでいる。
「さて、北東の草原地帯だったな? 行くか」
「はい……! 今日は、頑張ります!」
リーシャが小さく拳を握りしめている。あの狼耳がぴんと立って、尻尾もわずかに揺らいでいるのがわかる。そうして並んで歩きだす俺たちを、通りがかった他の冒険者がちらっと横目で見ていた。獣人の少女と人間の青年――まぁ、そんな珍しくもないけれど、気にしても仕方ない。
※※※
グラドールを出てから小一時間ほど歩くと、緩やかな丘が連なる地帯に入った。ここはもともと農耕や放牧で使われていたらしいが、灰滅の刻以降は魔物の侵入が増えて、中途半端な荒れ野のようになっている。とはいえ大陸中央の荒地と比べればずっと安全だし、ひどい瘴気が漂うわけでもない。
「……見た感じ、ウサギのシルエットがちらほらあるな。あれがキラーラビットだ」
俺は遠目に、草原をピョンピョンと移動する小さな黒い点を見つけ、指さす。するとリーシャの目がきらりと光った。
「本当……あれが、キラーラビット……? 見た目、あんまり普通のウサギと変わらないような……」
「ほら、近づきすぎんなよ? 間合いを計れよ?」
「はいっ!」
ちょうどいい場所に岩がいくつか転がっているから、そこを物陰にして接近を試みる。リーシャは俺より先に行こうとするが、少しばかり腰が引けているのがわかる。
――ま、実戦特訓ってのはこういうことだ。怖いなら怖いでいい。その気持ちをどう行動に転じるか、そこが問題だ。
「ほら、リーシャ。嗅覚、どうだ? あいつらが動くときの匂い、何か感じるか?」
「え……獣の匂い……? うーん、草と土の匂いが強くて、はっきりしないかも……でも、呼吸音とかは……わかるかも」
「よし、それでもいい。あいつらは跳ぶ直前に身体を低く構える。その一瞬、微妙に鼻先をひくつかせるんだが……それがわかるなら、察知できるだろう」
言いながら、俺は剣を軽く抜いて魔力を込める。属性を付与するほどでもないが、いつでも対処できるようにしておきたい。リーシャは小さな短剣を手にして、必死の形相でうなずく。
「ふんふん……たしかに動きが……速い、でも……!」
その瞬間、草むらの中からピョーン、と一匹が跳び出した。灰色っぽい毛並みと赤い瞳がぎらぎら光っている。可愛らしいとは言い難い凶暴な面構えで、こちらを威嚇してきた。
「ひっ、ひぃ……っ!」
リーシャが思わず悲鳴をあげた。ウサギらしき生き物が、鋭い牙をのぞかせ「ギャッ」という獣じみた声で鳴く。噂通りこいつは見た目も怖いタイプだな。
「ほら、油断すんな。来るぞ!」
文字どおり跳びかかってきたキラーラビットを、俺は剣の柄でひょいと弾き飛ばす。ドガッという音を立てて奴は地面に転がったが、すぐに体勢を立て直す。ほんの一瞬リーシャが呆然としている間に、奴は再びこちらへ突進。
「う、うわあああっ!?」
リーシャは慌てて短剣を構えようとするが、まだ踏ん張りが足りない。俺は一歩前に出て、剣先をひらりと横に流し、うまくいなす。なるべく彼女自身にやらせたいんだが……今は仕方ないか。
「う、うぅ……す、すみません……!」
「謝るのは早いって。ほら、一匹だけじゃ済まねえんだからな。あちこちに仲間がいそうだろ?」
草むらを見ると、同じようなウサギの影が三、四匹跳ねている。あいつらは俺たちに気づくと、一瞬散らばったりしながら、警戒と攻撃を混ぜた動きでこちらを囲むように展開し始めた。
「……やっぱり群れてる感じだな。大丈夫、まずは一匹ずつ潰すぞ。俺がサポートする」
「は、はいっ……!」
リーシャは緊張のあまりに声が裏返っているが、それでも短剣を構え直す。狼耳がびくびく動き、尻尾は妙に膨らんでいる。俺は奥歯を噛み、なんとか笑顔をつくってみせる。
「よし。まずは逃げ腰にならずに、視界と音に集中しろ! あいつらが跳ぶ瞬間を捉えれば、こっちが先手を打てる。お前の獣人としての感覚なら――」
「わ、わかりました……っ!」
呟いた矢先、二匹が同時に跳んできた。俺は素早く剣を振って一匹を払う。残りの一匹はリーシャのほうへ。彼女は「きゃあ!」と叫びながらも、一歩だけ踏みとどまり、短剣を斜めに構えた。ウサギは凄まじいスピードで跳躍し――ひときわ大きく、彼女の胸元を狙うように突進する。
「やっ……やだっ……!」
一瞬、彼女は目を閉じかける。けれどそのとき、狼耳がぴくりと動き、ウサギが着地するより一瞬早く短剣を突き出した。その刃先がキラーラビットの前脚をかすめ、血が飛び散る。
「――ギャッ!」
奇妙な悲鳴を上げて後ずさるウサギ。リーシャは顔を青くしつつも、覚悟を決めるように息を呑む。
「た、倒す……倒さないと、また襲われる……!」
俺は彼女を横目で見守りながら、別の一匹に剣先を向けて牽制する。ウサギたちはこちらの気迫を感じているのか、今度は少し距離をとって動きを探っているようだ。
「リーシャ……自分の感覚を信じろ。さっき当てられたんだろ? お前ならできる。怖がってもいいから――踏み込め」
「うん……! うんっ……!」
彼女の瞳がきゅっとかたく結ばれ、鼻先がくんくんと動く。視線はまっすぐにウサギの動きを捉えようとしている。俺はわざと一歩踏み出して、残りのウサギ数匹を牽制してやる。
その瞬間、傷を負ったウサギが再び跳躍。リーシャは反射的に横へ身をかわし、勢い余って転びかけるが――短剣を斜めに振り下ろす。ザシュッという嫌な音がして、ウサギがゴロリと地面に転がる。血が舞い、リーシャは息を詰まらせたまま目を見開いている。
「た、倒せた……?」
「ああ、やるじゃねえか」
俺は笑いながら、素早く残りの一匹を魔力付与した剣で一閃。小さく火炎をまとった刃がウサギを焼き尽くし、あっけなく沈黙させる。
「ふぅ……まだもう何匹かいそうだけど、とりあえず二匹は片付いたな。リーシャ、お前のほうは大丈夫か?」
「だ、大丈夫……な、のかな……でも、やれた……!」
興奮と恐怖が混じった彼女の顔は涙を浮かべる寸前だ。それでも笑おうと必死なんだろう。
「血……血が……、私、こんなに……っ」
「初めはそんなもんだ。俺も昔は魔物の血を見るとゾッとしたもんだよ」
そう言いながら、背後からもう一匹がリーシャめがけて襲いかかろうとするのを感じる。鼻で匂いを嗅げないのか、彼女は気づかない。仕方なく、俺は素早く振り返り、剣先に風属性の魔力を乗せて――斬撃を飛ばすようにして一撃で仕留める。
「油断すんな。あいつら、死んだフリとかもするしな」
「はっ……はいっ……すみません!」
「謝らなくてもいいが、自分の身は自分で守るつもりでいろ。俺がカバーはするけど、万が一ってこともあるからな」
一拍おいて、残りのウサギが散り散りに逃げていくのが見えた。群れの大半は倒せてはいないが、指定数までは十分っぽい。依頼分のノルマはとりあえずこれで達成だろう。
「……ふぅ。よし、あらかた片付いたな。とりあえず今回の目標分は十分だ」
「よかった……はぁ、はぁ……」
リーシャは膝に手をついて大きく息をつき、短剣を震える手でなんとか握りしめている。
「へへ、私、初めてかもしれません。こんなに短剣を振れたの……」
「そうか。じゃあおめでとう、初討伐達成だな」
笑って言ってやると、リーシャは恥ずかしそうに笑ったあと、死骸に目を向けて表情を曇らせる。どうやら血の量が少しトラウマっぽい。俺は軽く肩を叩き、袋を取り出してウサギの耳や牙など素材になりそうな部位を回収しはじめる。
「最初は誰だって慣れないもんだ。嫌なら少しずつでいいぞ。無理に全部をやる必要はない」
「えっと……でも、やります。や、やってみます。もう逃げたくないんです……!」
彼女は恐る恐る短剣で切り取りを手伝い始める。たどたどしい手つきだが、その決意は本物らしい。後で手を洗わないと血や毛皮がついて大変だろうけど、いいステップだ。
「……ありがとう、リュオさん。私、本当に何にもできないって思ってたけど、少しは戦えるんだって、わかりました」
「まぁ、ウサギ程度って言われりゃそれまでだけどな。けど、こうやって一歩進んだのは事実だろ。お前には獣人としての感覚があるんだから、次はもっと慣れれば上手くやれる」
「はい……もっと強くなって、いつか……見返したい人たちが、いるんです」
その言葉を聞いて、俺は胸の奥がチクリと痛む。俺だって同じだ。騎士団を追放された身として、いつか必ずあの連中を見返してやりたい。
「そんなら、焦らず一歩ずつやっていこう。俺も……同じだからな」
そう呟くと、リーシャはハッとした顔で俺を見る。きっと俺の言葉の意味を察したのだろう。俺がなんの理由で追放されたのか、詳しくは話していないが、彼女なりに感じるものがあるのかもしれない。
そこから少しだけ沈黙が流れた後、俺たちは素材を袋に詰め、キラーラビットの死骸を確認してからこの場を離れた。
※※※
ギルドへ戻るころには、もう昼過ぎの太陽が空に輝いていた。グラドールの城門を抜けると、そこかしこの店から漂う肉やスープの匂いが腹を刺激する。
「ふわぁ……まだ緊張しているのかな、疲れが一気にきました……」
「腹減っただろ? そこの屋台でなんか買ってくか。ウサギシチューとか売ってるかもしれないぞ」
「い、今はちょっと遠慮したいです……!」
彼女の悲鳴混じりの声に吹き出しながら、俺はギルドの入口に足を踏み入れる。さっそくカウンターで今日の成果を報告すると、受付の彼女が「あら、早かったのね」と微笑んだ。
「お疲れさま。キラーラビットのノルマ分、ちゃんと狩れましたか?」
「はい、素材を持ってきました。耳とか牙とか……」
リーシャが袋を差し出すと、受付嬢は「よく頑張ったね」と感心したように目を丸くする。リーシャの耳と尻尾がパタパタ揺れ、照れくさそうにしていた。
「ホントにお疲れ。ちょっとした傷とかは大丈夫? いや、リュオさんがいるから平気かな?」
「ま、まあ、一応カバーしたけど、リーシャもちゃんと自力で一匹仕留めましたよ。大したもんだ」
俺が言うと、リーシャは「え、そんな……」と更に赤面しながらも嬉しそうに笑う。その様子を横で見ている他の冒険者が、チラリとこちらを見てヒソヒソ話をしているが……まぁ気にしなくていい。
「報酬は……はい、これだけですね。よく頑張りました。次回も同じ依頼が出たとき、受けてくれると助かりますよ」
受付嬢から小袋に入った金貨を受け取り、俺たちは一礼してカウンターを離れた。外に出ると、さっきより人通りが多くなっており、活気に満ちている。昼下がりから夕方にかけて、ギルド周辺は依頼を終えた冒険者でにぎわう時間帯だ。
「やった……ちゃんと報酬をもらえるんですね……」
「当たり前だろ、何のためにやってると思ってんだ」
「はい、そうですよね。すみません、なんだか変な実感がなくて……でも私、本当にちゃんと役に立てましたよね?」
リーシャはまぶしそうに金貨の感触を確かめ、そして自分の両手を見つめる。そこにはまだ血の痕がわずかに残っているかもしれない。でも、その汚れが「自分は無力じゃなかった」という証明にもなったんだろう。
「うん……嬉しい、嬉しいんです。でも……もっと強くならなきゃ、またすぐに足手まといになってしまうかもしれない……」
「ああ。ま、そのために今日の依頼をこなしたんだろ? 少しずつ慣れていければいいさ。最初から強いやつなんていないんだから」
俺が励ますと、彼女はしっぽをふわっと揺らして笑う。ちょっと笑いすぎなくらい、フフッと顔を綻ばせている。
「ありがとうございます、リュオさん。あの……いつか、かつての仲間――ダインさんたちに会ったら『私、ちゃんとできるよ』って言い返したいんです。いつか絶対に……」
その口調には、今までにないほどのはっきりとした意志がこもっていた。狼耳がぴんと立ち、瞳には誇りが微かに宿っている。
「それも悪くない。俺も……俺で見返したい連中がいるしな。お前と似たようなもんだよ。お互い頑張ろうぜ」
思わず肩をすくめながら言うと、リーシャは目を丸くする。
「リュオさんも……やっぱり追放されたから?」
「まぁな、気が向いたらそのうち詳しく話してやってもいい。……で、どうする? 腹減ったろ?」
話題を変えるように言うと、彼女は急にお腹が鳴ったみたいで、顔を真っ赤にする。それを見て俺は吹き出す。
「はは、やっぱりか。じゃあ飯でも食って、今日は早めに休むといい。いつでも特訓はできるし、無理して体壊したら意味ねえからな」
「うん……はい。そうですね……明日も一緒に、クエスト受けてくれますか?」
そ の問いに、俺は「当然だろ」と笑って答える。ほんの数日前まで一人だった俺が、いつの間にか“仲間”を得ている――それを実感すると、やる気が湧くのが自分でもわかる。
「いいか、明日からもビシバシ鍛えるぞ。うさぎじゃ物足りなくなってくるから、もう少し大物を狙えるようにしよう。お前には伸びしろがあるからな」
「はい! 私、もっと頑張ります。……あ、でも、ウサギシチューはまだ遠慮したいかも……」
彼女の冗談めいた口調に、俺は思わず吹き出した。心なしか、さっきまでの緊張が和らぎ、彼女の笑顔に少し余裕が感じられる。
夕陽に染まりかけた城塞都市の大通りを、俺たちは並んで歩き出す。道端には異種族の行商人や、クエスト帰りの冒険者たちが賑わいを見せている。獣人、エルフ、ドワーフ、そして人間――みんなそれぞれ何かを求めてこの街に集まっているのだ。
「……ありがとう、リュオさん。本当に、ありがとうございます」
ふと、リーシャが小さく呟く。俺はそれに対して、軽く肩をすくめるだけだ。
「礼なんていい。俺もお前も『追放者』なんだからさ。強くなるしかないだろ」
「はい……!」
彼女が握りしめた拳は小さく震えている。だけど、その震えは恐怖だけじゃなく、次へ進むための期待や決意のようにも見えた。
――明日から先、どんなクエストをこなし、何が起こるかはわからない。でも少なくとも、彼女と組めば面白い未来が待っていそうな、そんな気がした。