するっと
掘り炬燵があった。
その中に入って、
よく叱られた。
子供の頃の隠れんぼ。
祖父ちゃんが、
その掘り炬燵で
キセルタバコを
吸っていた。
南京豆を新聞の上に
置いて食べていた。
時々お祖父ちゃんの
膝に乗った。
自分も南京豆の
皮を剥いて食べた。
あの赤い皮を剥くのが
好きだった。
スルッ、スルッと
剥けてくれた。
楽しくなっていた。
嬉しくなっていた。
写真がある。
お祖父ちゃんは
自分を膝に乗せて
笑っている。
大きな笑顔で、
口を開けている。
歯が見えている。
自分も笑っている。
お祖父ちゃんは、
正月明けの七日に
亡くなった。
風邪をこじらせて。
年末の夕方、六時。
母親が部屋に
飛び込んてきた、
あんたら早く逃げてと。
大声で叫んでは、
タンスの貴重品を
取り出しながら。
あんたら早く逃げてと。
隣家が火事だった。
妹と逃げだそうと、
玄関を出ると、
隣から炎が伸びてきた。
家は細い路地の奥で、
隣家の前を通らないと
通りには行けなかった。
妹と必死で走った。
母親はお祖父ちゃんと
後からなんとか、
逃げ出してきた。
皆、震えていた。
その夜は寒かった。
伯父ちゃんの家に
泊めてもらった。
皆で一緒に眠った。
そして、お祖父ちゃんは
風邪をひいた。
寝込むようになって、
酸素吸入を始めた。
家の壁は半分焼けて、
中の材木が見えていた。
そのままお正月になった。
六年生の冬だった。
掘り炬燵の部屋は、
自分の部屋になり、
掘り炬燵は埋められて、
畳が敷かれた。
それからはその部屋で、
ラジオを聴いたり、
宿題をしたり、
おやつを食べたりした。
掘り炬燵と南京豆と
キセルタバコの、
お祖父ちゃんを
感じていた。
こんな歳になっても、
毎朝お祖父ちゃんに
ゆっくり休んでと、
祈っている。