『すずめの戸締まり』を観た
実は新海誠監督の作品は、そんなに好きな方ではない。ので、『すずめの戸締まり』も見ていなかったのだが、観る機会が新年からあったので見てみた。
『君の名は』で、実は違和感を感じたのが一番の原因だったのだが、それは「あった事は、なかった事にはできない」という感じだ。あの震災が、もしなかったら――仮にあったとしても、被害にあった人がいなかったら、どんなによかっただろう。…そう思う。けど、だからと言って、それをなかった事にはできないだろう。『君の名は』はヒットしたけど、僕はそれが引っかかった。
その意味では『すずめの戸締まり』という作品は、既に廃墟と化したその場所に、確かにそこにあった生活、そこにいた人々に想いを馳せる作品として、被災の現実と向き合った作品だと思う。その点では、『君の名は』より、僕的には全然、好印象だった。
何より、最初から淀みなく進む展開で、ぐっと惹きつけた。キャラも立っていて、展開も意外性があった。うん、正直、面白く見た。ただ、見終わった後に、初めて判ったのだ。『君の名は』の方がウケそうな作品だと。
ヒロインのすずめは責任感があって、行動力もあって、迷わない、しっかしりしたヒロインだ。『君の名は』に三葉に比べると、すごく強いヒロイン像だ。正直、三葉は脇の甘いところがあって、「大丈夫か? このヒロイン」というところがあった。けど今思うと、その脇の甘さがウケた要因でもあったと思う。
『キャラに弱点をつくるとウケる』と、誰かが言っていた。あんまり完璧な主役だと、肩入れしづらいのだ。脇が甘いくらいでちょうどいい。その意味で、『君の名は』の主役二人は、どこにでもいるごく普通の高校生たちなのがよかったのだと思う。その普通の子たちが、頑張る話だ。
けど、震災で母親を亡くした、というヒロインはそこまで軽くはできないだろう。そして物語は、「なかった事にする」というファンタジーから、「その光景に向き合う」という事に変わった。そう、この作品は災害を未然に防ぐことが主筋なのだが、主題は「その光景を見つめる」ことなのだ。これはヒット作を出した『後』だから作れる、大御所っぽい作品だ。ストーリーもテーマも抜かりがなく、美術も非常に丁寧なぬかりのない作品。そういう事である。