ピンチにならないヒーローを考える
なろう系はヒーローがピンチにすらならない、と書いたけど――考えてみると、魔王系の『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』や『魔王学院の不適合者』はもちろん、『異世界賢者の転生ライフ』も、『Aランクパーティーを離脱した俺は~』の主役も、ピンチらしいピンチにならない。ストレスフリーな主役だろう。
けど一方で、本宮ひろしは編集者に「先生、主人公をあんなに追い詰めて、どうするつもりですか?」と訊かれ、「そんなん俺が知るわけないだろう!」と答えたという話がある。あるいは松岡圭祐はその本で、「自分が考える『これは絶対脱出不可能な状況』に、主人公を追い込む――で、その後で、その打開策をひねりだす」という事を書いている。
あるいは大沢在昌も、「主役が窮地に陥れば陥るほど、人気が出る」と書いている。つまり、主役がピンチになるのは、通常ならば人気獲得のための重要要件なのだ。けど、ストレスフリーを求めるなろう読者は違う。…という事を受けいれた上で、じゃあ上記の作品が面白くないかというと、面白いから不思議なのだ。つまり、ピンチがなくても面白く作れるのである。
『不適合者』の2nd終わりまで見たけど、この作品の魔王は本当に全能だ。できない事がない。敵は必ず、魔王に倒される。それは容易に予想できる。じゃあ、その予想できる展開が面白いのか? 面白いのだ。何故、面白いのか?
魔王は何が起きても全然動じないが、見てるこっちは敵の仕掛けた罠が入念すぎて、ハラハラする。え? この状況、ほんとに大丈夫なの? と。けど、大体、魔王様は「その程度でオレが本当に倒せると思ったのか?」とか言い出して、思いあがった敵を倒してしまうのだ。これが面白いんだから仕方ない。
これを見てて、ちょっと想い出した。……そういえば、本郷猛――仮面ライダー1号って、あまりピンチにならなかったかも。敵が入念な罠を用意して、「フフ……仮面ライダー、あと5分で東京は大爆発だ」とか言う。そうすると、仮面ライダーが笑い出すのだ。「ハッハッハ、~怪人よ。私がお前たちの罠に気付かないとでも思ったのか?」「なに!」「爆弾は全て解除させてもらったぞ」
って、あれだ。そのセリフのやりとりだけで、凄い攻防があった事になる奴。あれは伊上マジックだけど、初期のヒーローは無敵だったんだな。と思う。




