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第7話 留守につき

「どうかしたの?」

「いや……忍、ここに前に来たって言っただろ? 何か変ったことはあったか?」

「え。怖い話するの?」

「違う。出来ればいい話でお願い」


 黙りこくっていたのが悪かったのか周りが妙な静けさと暗さに包まれてきたからか、ネガティブな方面の発想をしてしまった忍の眉が少し寄ったが、キミカズとしての雑談、と捉えると少し考えてからつらつらと話してくれた。


「いい話というか、写真を撮らせてもらったけどちょこちょこ不思議なものが映ってたよ」

「不思議なもの?」

「拝殿上の龍の彫り物は虹が……なんていうのかな、そういうのはレンズの加減ですべて証明できるっていうけど」

「忍のことだから証明できそうもないと思うものが映っていたんじゃ?」


 デバイスに入れてあったらしく、見せてくれた。

 確かに虹が映っている。それもはっきりとだ。

 大まかな色は橙、黄色、緑、青、紫、青、緑、黄色……


「スペクトルがおかしい」

「そうなんだよね。詳しいことは分からないんだけど虹ってそこから配色戻る? っていうのはあった」


 画面が小さいのでピンチで広げて画像を見なおす。

 ……何か映っている。


「あぁ、これいい写真」

「そうなんだ。なんとなくきれいだなって思ったのと、怪しい鑑定掲示板で見てもらったらそういうことを言われたけど」

「怪しい鑑定掲示板」

「自称霊能者っているでしょ? でも私には自称か他称かも分からないからいいものだったら信じておこうくらいのノリで」


 無料で「自称」鑑定できる人が観てくれる掲示板らしい。他にも何枚か該当する写真を見せてくれた。

 どれも白い光が映っていたりするがこういうものは「オーブ」と言って、大抵が先ほど忍の言ったようにレンズの加減で映し出される。

 例えば中空の埃が光を反射して……拝殿の御簾の向こうに、高貴な姿をした品のある女性が映っている。


「忍……」

「何?」

「うん、これもいい写真」


 なんでこういうものが映るのか、写真を撮らないキミカズには腑に落ちないが、それだけここが素晴らしい場所ということかあるいは忍は波長を合わせやすいのか、撮られてもいいから映っているのか……やはり考えても謎になる。


「じゃああの鑑定してくれる人は割と本物なのかな」

「それ、何て言ってた?」

「品のある女の人が映ってるって」


 偶然でなければ割と本物だ。それは伝えてやることにする。


「そっか。じゃあこの人は今、いる場所が改修中でどこにいるんだろうね?」


 素朴な疑問。しかし、的を射すぎている疑問。

 そう、大体この辺にいるのなら……神様や御眷属の居所が神殿であるのなら……今、それらは工事まっただ中であり。


 ふつう、人間だったら一時避難か一時的に引っ越しをしている状態である。


「どうしたのキミカズ。頭抱えて」

「いや、何か前来た時より静かだなーと思ってたんだけどさ」

「ひょっとしてカミサマどこかに避難中?」


 多分そうだろう。あれだけ大規模な拝殿と本社を同時にばらしたり組んだりしているなら、そこにはいないだろう。

 絶対的に、神格のありそうな存在が一時的に減っている。

 ここはそういう状態だ。


「それ、大丈夫なの……? 守ってるヒトがいないってことじゃ……?」


 怖くなってきたのか眉を顰めている忍。


「いや、留守を預かるのも仕事のはずだから……もぬけの殻になるってことはないんだ。あと、地形的にここ自体が増幅装置みたいになってるから神域である限りそうそう悪いことはない」

「限りって言うのが怖いんだよ。前提が崩れたらどうすんのみたいな」


 忍はリスク管理のできる人間だ。こうなるとだから安心させるのは難しい。そもそも「完璧」というもの自体がないのであって……


「ワン! ワンワン!」

「わん……?」


 犬の声に一段高くなった額殿から境内を覗いてみると、そこには小型の犬がいた。鳴き声を聞いた感じそのままだ。


「柴犬? 神職さんのかな」

「なんだ、わんこ。かわいいな」


 外に出てみるとまだ子犬に近いその犬はころころと太って尻尾をぶんぶん振っている。抱き上げてみるとずっしりと重い。


「太りすぎ!」

「階段を十往復して来なさい。それとも一緒に遊ぶ?」


 忍が明りの灯り始めた境内で、犬と遊び始めた。

 ころころ丸い子犬は子犬らしくころころ走り回って、楽しそうだ。主に忍が。


「良かったなーいいヒマつぶしの相手がいて」

「本当に暇ならキミカズに相手してもらう」

「俺、犬以下……?」


 本格的に陽がとっぷり暮れるまでに時間はさしてかからず、子犬は自発的に門の方へ駆けて姿を消した。そこを下れば社務所だ。番犬代わりだろうか。

 ともあれ人がいない頃に放される分には誰にも迷惑は掛からなそうだ。

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