第91話 酒・兄・ブリュノ
さて、今ループの今後の方針は決まっている。リュカ様をアーカートに連れて行き、そこでピンク頭…光属性のヒロインをエンディングに導くこと。前回の敗因は、彼女がクエンティン様のプロポーズを断ったからじゃないかと推測している。何が何でもくっ付けなければ。いや、それともクエンティン様と違う、経営に強い男を紹介すれば良かったのか?分からない。しかし、鍵はその辺にあると踏んでいる。いずれにせよ、アーカートに行かなければ話は進まない。
というわけで、酒造業・兄の問題・ブリュノの実家のバラティエ商会はセットだ。まず、ローズちゃんを何とかする。その為に指輪は作った。彼を呼び出して、
「ローズちゃんはヤバいよ。彼女は度を越してる。隠蔽、って分かるかな」
前回と同じように切り出した。そして指輪とサニティのポーションを渡す。僕がローズちゃんに直接触れるのはやめておいた。魔道具もあるし、レベルを上げれば勝てなくもないけど、彼らは彼らなりに裏を調べたり、彼女から事情を聞き出したり、色々あるだろう。
次に、カバネル先生の研究室に出かけて酒造業のプレゼン。2周目には東部のナディアさんにしてやられたが、その後は連戦連勝だ。特に前ループは酒造業が一年前倒しになったので、クララック酒が大ブームを巻き起こし、遠くアーカートまで輸出されていた。3周目以降のナディアさんは与り知らない事とはいえ、僕の心の中ではかなりざまぁ…いや、彼女のビジネスアイデアと手腕に感謝している。
同時に、クララック酒については実家にもプレゼン。ローズちゃん失踪で気落ちしている兄に、クララック酒事業を頼みたい旨を話すと、彼は目力を取り戻して食いついて来た。既にバラティエも協賛に入っている。これで酒造業の件はオッケー。後は折を見て、ブリュノにレシピ集と土属性スキルの杖をプレゼントするのみだ。ここまでは、前ループと同じ。
今回初の試みは、最初からラクール先生を巻き込むことだ。彼はリュカ様と僕を繋ぐキーマン。ヴィヴィちゃんに新実装キャラと呼ばれたリュカ様をアーカートに連れて行かなければ、ループに食い込めない。そして彼は、アーカートでは未だ「ラクール大佐」として名が知られている。彼を間に挟めば、もっとスムーズにアーカートに滑り込めるのではないだろうか。
「ラクール先生。折り入ってご相談があるのですが」
これまで押しが強くて圧が強くて暑苦しい、苦手だと避けていたラクール先生だが、手応えや如何に。
「飛び級か。ならば、担任教諭に申し出て手続きを進めることだな」
しかし、彼は腐っても筆頭魔導教諭。単なる一生徒の面倒を見る立場ではない。そう来ると思って、僕は彼の食いつきそうな餌を用意しておいた。
「何っ…「土属性スキルを利用した国防と対策」だと…」
よしよし、掛かった。あとはキリキリとリールを回して、釣り上げるだけだ。
と、思っていたのだが。
「よし。ならば君、実践してみたまえ」
パラパラとレポートを眺めていたラクール先生は、やおら立ち上がったかと思うと、僕を魔法訓練場へ連行した。
———しくじったかもしれない。
「素晴らしい!素晴らしいぞアレクシ君!私の大炎を完璧に防ぐとは!」
訓練場には、ロックウォールと要塞。敵側の陣地は泥沼で足場を悪くし、行軍を妨げる。背後にはロックウォールを石畳にして自軍の行軍スピードをアップ。大体こういう感じだということを、レポートの通りに再現してみた。
ラクール先生は、敵側の陣地から大炎をバンバンと放ち、ロックウォールと要塞がびくともしないことに大興奮。今度は味方側の陣地に周り、砦に登って大炎を撃ちまくっている。
「なるほど、建造物の高さや厚さは自在に変えられるのか!」
「魔素は食いますが、イメージ次第である程度は」
こんなことをしている間に、どんどんギャラリーが集まって来た。そして大炎ブッパしてヒャッハーしてる先生を遠目でヒソヒソしている。ああ。やっぱりラクール先生は駄目だった。目立って仕方ない。
「こうしてはおれん!早速王都に書状を!」
「あの先生っ、僕飛び級して、貴族学園へ編入「そんなことはどうでもよろしい!」
えー…。どうでもいいんだ…。
こうして、酒造業・兄・ブリュノの問題は11月に片付いたが、僕の飛び級卒業の道が断たれてしまった。代わりに、12月を待たずにリュカ様とリシャール第三王子がマロール領立学園に編入して来た。何故?!




