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第79話 ブリュノと再会

「で、そこの坊ちゃんは」


「ああ、紹介するね。ラクール先生の甥御さんで、ラクール伯爵家のリュカ様だよ」


「リュカ・ラクールだ」


 なんかリュカ様がよそ行きのクールモードだ。まあいいけど。表向きは、生徒会の会計調査だしね。


「はぁ。お貴族様のお守りか。ラクール先生の案件と言えば悪い予感はしたけど、貧乏クジ引いたな」


「おいブリュノ、リュカ様はそんなんじゃないって!…周りはいろいろいるけどさ…」


「いろいろ、な」


 彼は皮肉っぽく肩をすくめた。リュカ様はちょっとむっとしている。仲良くしていただきたい。


 僕は生徒会の資料を持って、レストランを訪ねた。兄がお世話になっているレストラン、そして系列も含めると、ブリュノの実家、バラティエ商会のネットワークは、恐ろしい規模だ。資料にある飲食店は、ほぼ全てをカバーしていた。ブリュノが連れて来てくれた王都のマネージャーが、生徒会の資料にパラパラと目を通しながら唸っている。


「恐らく当商会には、半分のお支払いもありませんね。良くて三割。こちらも今後のお付き合いを考えて、価格は勉強させていただいているのですが」


 彼は片眼鏡を外しつつ、書類をまとめて戻して来た。やっぱりな。こういうのは、商人側が悪いことをすると簡単に捕まる。長年捕まらないのは、不正を働いているのが権力者だからだ。


「どうする。やるのか?」


 ブリュノが、歓楽街での顔を見せる。


「いや、いいよ。とりあえず、こちらでは証拠になる価格表なんかを記録させてもらって、後は偉い人に丸投げするよ」


 僕やリュカ様が不正を暴いたって、どうせ揉み消されたり不当に圧力を掛けられたりして、ロクなことにならない。この件は殿下にパスすれば、きっと良いように料理するはずだ。これでひとまず、僕らの仕事は終わり。




 そして今日のもう一つの案件だ。


「それよりアレクシ。クララックの件、ありがとな」


「あ、うん。こちらこそありがとうね」


 僕が上京の理由にしていた、クララック領の火酒。カバネル先生は無事開発に成功し、現在急ピッチで事業拡大が進行している。兄はいち早く、アペール商会から初期投資の融資、そして商談をまとめ上げ、順調に業績を伸ばしているらしい。当然、商機を嗅ぎつけたシャルロワ侯爵もスポンサーに名乗り出たが、全てに先んじてクララックの酒造事業に食い込んだ先行者ボーナスは大きい。協賛したバラティエ商会もだ。


 マネージャーも、学園の不正会計なんてチンケな案件に付き合うために同席したわけじゃない。ブリュノから、クララック酒の裏の立役者が僕だと聞いて、面会を求めて来たのだ。


「お陰様で事業も順調に伸びております。このお礼は必ず」


 闇属性社会の人は、殊更ことさら仁義をきっちりと通す。商売に限らず、どこの世界でも信用って大事だ。危険なスキルを持つと警戒される闇属性だからこそ、何にも増して信用を重んじるのだろう。


「ああ、いいんです。こちらも販路あっての商売ですし。お互い持ちつ持たれつってことで」


 それより今日、僕が持ち込みたかった案件はこちらだ。


「これは…」


「救荒作物を使ったレシピ集です。えっと…聞き齧ったものなんで、申し訳ないんですけども」


 危ない危ない。彼らに対して「ソースはハイモさん」は通用しない。彼らにも面識はあるからだ。僕は前回、カバネル子爵邸で散々試作したレシピをまとめておいた。これらは、兄を通してさりげなくカバネルさん家に教えても良かったんだけど、結局酒造業が忙しくて、彼らはこれを活かし切れなかった。そして大々的なプロモーションと共に、美味しいところはシャルロワ侯爵が全部()さらって行った。なら、もうブリュノんとこに教えてあげたっていいだろう。


「素晴らしい。早速料理長と試作してみます」


「なんだか借りが増えて行く一方だな」


 ブリュノがぽりぽりと頭を掻いている。


「お得意さんが儲かれば、うちも儲かる。お互い様だよ」


 ウィンウィンってやつだ。良い取引が出来た。




「ねえアレクシ。救荒作物を使ったレシピって、どんなの?」


 その日の帰り道、リュカ様から聞かれて思い出した。そういえば、せっかく王都にいて、いつでも米を入手出来たのに、すっかり頭から抜けていた。クララックでは、稲作は出来なかったからね。僕らは珍しい雑穀や救荒作物を扱う商会に立ち寄り、米や芋などを買い込み、寮で自炊してみた。


「ほわぁ、このおにぎり(バル・ド・リ)って美味しいね!」


 リュカ様が両手でおむすびを持って、はふはふしている。まるでリスが木の実をかじっているようで、とても可愛らしい。具はスモンくらいしか調達できなかったけど、それっぽい味になってると思う。他の救荒作物のレシピは公表したけど、米についてはまだだ。国内で稲作の目処が立っていないしね。


「これはまだ、僕とリュカ様だけの秘密ですよ」


 彼は目を丸くして、それからにへっと笑った。リュカ君がは秘密がお好きだ。




 数日後。ブリュノがマロールに帰る日、生徒会を少し抜け出して、僕一人で見送りに行って来た。


「あのレシピはヤバい。また借りが出来ちまったな」


「借りなんていいよ。うちも助かってるし」


「何か困ったことがあったら、声掛けろよ。絶対だぞ」


「困ったことかぁ…」


 目下もっか僕の困り事とは、ループ解消の糸口が掴めないこと。例えば、貴族学園には闇属性の子弟が見当たらないんだけど、ブリュノなら誰か心当たりはないだろうか。それから、光属性の生徒も。物語が起こるとすれば、こういう希少属性が絡みそうなもんなんだけど。


「ここしばらくは聞かないな。それがお前の知りたいことなのか?」


「うん、ちょっとね」


「そうか。じゃあ、何か分かったら連絡する」


「ありがとう」


 こうして彼は、マロールに戻って行った。僕は、きっと生徒会でヘソを曲げているリュカ様にお菓子を買って、学園へ戻った。

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