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【完結】ループモブ〜ループに巻き込まれたモブの異世界漫遊記  作者: 明和里苳
4周目

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第74話 火属性ダンジョン

 それから僕は、一切の忖度そんたくを辞めて本格的なパワーレベリングに乗り出した。翌26日は、王都から少し離れた、火属性の超級ダンジョン。ここは険しい山中なのと、マグマによる地形ダメージで攻略が難しいので、あまり訪れる冒険者はいない。僕らは昨日と同じ乗合馬車に乗り込み、一旦森の中に入ってから、山へと飛んだ。多分誰にも見られてないはず。


 ここも全体を見渡せるタイプのダンジョンだ。僕は上空から氷嵐ブリザードをブッパしながら、どんどん階層を降りる。マロールでファイアラットの尻尾を沢山取っておいてよかった。火鼠Max装備が、モンスターの吐くブレスやマグマの熱など、ことごとく無効にしてしまう。


 ボスはブレイズドラゴン。前ループで、ウルリカの誕生日に特殊な魔石を贈ろうと、何回か倒したモンスターだ。


「さあ、リュカ様。この杖に持ち替えて」


「う、うん!」


 僕が渡したのは、水属性付加の付与エンチャントを施した短杖。彼は杖をドラゴンに向けて振った。


 キュドドドドドド。


 彼が放ったのは、石礫ストーンバレットLv6のマシンガン。Lv5のロックバレットを、継続的なMP消費で自動発射し続けるスキルだ。普通、土属性スキルは火属性に対して劣性なので、威力は半減してしまうんだけど、短杖でスキルに水属性を付加、攻撃力2倍。更にINT(ちりょく)増加で、威力が上乗せされている。


 ガアアアアア!


 ブレイズドラゴンは発狂状態で、羽虫のように飛び交う僕らにブレスを撒き散らす。だけど僕らは火炎無効で、痛くも痒くもない。なんだか気の毒になってきた。可哀想なので、僕も氷嵐ブリザードで加勢して一気にカタを付けてあげる。


 紅い巨体が断末魔の叫びとともに消え失せ、後に残ったのは、妖しく輝くブレイズドラゴンルビー。リュカ様は、手にとって眺めながら「ほわああ」とか言ってる。せっかくだから、記念にあげよう。後でこっそり付与エンチャントしておいてあげる。昨日といい今日といい、結構な額の稼ぎになっちゃった。僕はインベントリがあるからいいけど、リュカ様の分は商業ギルドに口座でも作った方がいいかな。


 なお、その後は周回祭りになった。リュカ様、もしかしたらヒャッハー系かも知らん。




 そんなこんなで、毎日はあっという間に過ぎて行く。学園の人間には鑑定を掛け続けているが、相変わらず目ぼしい人物は見つからないまま。しかし、多少の進展はあった。


「本日もご一緒しても?」


 最初は二人で食堂に来ていた僕らだけど、しばらくして一緒に食事を取る仲間が出来た。食堂の隅の方に、土属性の学生が固まっていたのだ。


 彼らは、中等部から高等部までの下位貴族の子弟。つまり、B組の土属性ばかりが集まっている。なお、伯爵以上のA組は、上位貴族向けサロンで食事を摂る。C組の庶民クラスには、土属性はいない。どこに行っても不人気な土属性だ。豪商は、大金を積んでまで土属性の子を貴族学園にじ込んだりしないし、また特待生も、他属性が優遇されるのだろう。土属性は、滅多と合格しないらしい。僕がC組で浮いているのは、中途編入という立場もあるけど、土属性だからという理由もある。


 土属性は皆、おしなべて努力家だ。中には長子として家督を継ぐ予定の生徒もいるけど、みんな卒業後の進路を見据えて、こつこつと勉学に励んでいる者ばかり。属性とスキルが社会に評価されないなら、それ以外のところで頑張るしかない。彼らはみんなで勉強を教え合い、就職先の情報などをやりとりし合いながら、お互い助け合って来たようだ。そして庶民の僕や、Aクラスのリュカ様のことも、快く仲間に入れてくれた。これから6年近くの学園生活、それから貴族の世界を渡り歩くリュカ様にとって、こういった人脈はきっと役立つに違いない。




 そして彼らがリュカ様を受け入れてくれた理由は、もう一つあった。


「ふん。お前がロイクの言っていた、アレクシという者か」


 ある日僕は、高等部の廊下で3年生に絡まれた。彼が誰だか、鑑定せずともすぐに分かった。ラクール伯爵やリュカ様とよく似た赤毛の青年、ルイゾン・ラクール。リュカ様の兄で、次期ラクール伯爵だ。火属性特有の暑苦しさ、そして貴族特有の鼻持ちならない高慢さ。そういえばコイツ、「塔」にいたな。この国の魔法省こと「塔」は、魔法陣を研究する魔法課、軍属魔導士を育成する魔導課、魔道具を作成する魔道具課、そしてかつて錬金術課だった付与術課に分かれているが、魔導課にこんな奴がいた気がする。いや、魔導課は大体こんなやからばっかりだから、量産型と言えなくもないけど。


「お初にお目に掛かります。閣下のご高名はかねてより」


 僕は廊下の端に避け、ひたすらこうべを垂れて恭順の姿勢を取った。こういうのと対立したって良いことない。リーマン時代と「塔」時代の処世術がものを言う。


「田舎の商人のせがれ風情が、叔父に取り入って愚弟の付き人に成り上がったらしいが。薄汚い土属性などけがらわしい。その名の通り、我が家門に泥を塗らぬことだな」


 言いたいことだけ言って去って行った。何だアイツ。伯爵に輪を掛けて感じ悪いぞ。なるほど、伯爵邸での待遇が最悪だったのも、今なら分かる。あのロイクって奴は、ルイゾンの手下だったみたいだ。まあ、次期当主が彼ならば、今後長く勤めようと思ったら、彼の意向に従い、傘下に入るしかあるまい。仕方ないといえば、仕方ないのかも知れない。


「ルイゾン様はなぁ…」


 土属性グループのメンバーは、そこから口を濁す。リュカ様もだ。そして大なり小なり、みんな同じような経験をしているっぽい。貴族社会は、庶民よりも土属性に厳しい。「塔」で思い知ったつもりだったけど、あそこは実力勝負の世界。まだマシだったと言える。


 だけどこれで、僕の闘志も燃え上がった。3月には、前期期末試験と全校模擬戦がある。見てろルイゾン。土属性の底力に、奥歯をガタガタ言わせてやる。

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[良い点]  いやっふー! 奥歯ガタガタ言わせてやるぅー!!(楽しい)
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