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【完結】ループモブ〜ループに巻き込まれたモブの異世界漫遊記  作者: 明和里苳
3周目

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第34話 カバネル先生再び

 魔道具の試作と冒険者活動、この二つはこれからもセットで続けて行こう。スライムのダンジョンで魔石はいくらでも取って来れるから、木の板さえ用意すれば、かまぼこ板方式の魔道具はいくらでも作れる。だけど最終的には、回路は全部ミスリル合金で作りたい。何でかって、魔石で回路を作ると、魔力切れの時に回路自体の魔素を使ってしまって、回路がダメになってしまうのだ。一応、回路を維持するために、あちこちに予備の魔石をあしらうのだが、それでもリスクはなくならない。前ループの僕みたいに鑑定スキルがあれば、魔素の残量を把握出来るんだけど、普通は魔石の魔力が切れて、初めて分かるもの。魔石回路の構想自体は特別新しいものではないのに、未だ実用化していないのはそのためだ。


 というわけで、聖銀ミスリル合金が欲しい。聖銀なら、魔石の魔素が枯渇したって回路はダメにならない。だけど聖銀合金は高価。だから、手っ取り早くダンジョンで稼ぐしかない。トンボでも十分稼げるけど、魔道具を使えば他属性のスキルが使えるようになった今、もっと効率の良い狩り場を検討してもいいかも知れない。




 さて、今後の方針が決まったところで、次の課題はカバネル先生だ。今回は、無詠唱は無し。メインは彼の研究対象でもある、救荒作物に絞る。彼の研究は、土属性スキルを農業に活かすことと、救荒作物の普及だったけど、土属性スキルは結局冒険者レベルを上げなければモノにならないので、後回し。今回は、彼を冒険者として育てるかどうかは保留。それより救荒作物だ。前回は、東部の豪商ナディアさんにいいとこを全部持って行かれたが、その代わりに収穫もあった。


 救荒作物を、「飢饉に備えて栽培しよう」とするからいけないんだ。「売れる商品だから作る」、これでナディアさんは一気に需要を伸ばした。そう、僕は商人の息子なのに、どうしてこの視点を忘れていたんだろう。


「君はアペール商会の。農業に興味があったのかい?」


「僕は土属性ですし、実家でも穀物の取り扱いはありますので、出来れば見学させて頂きたく」


 このやりとりも3回目。僕はまた彼の研究室に潜り込んだ。




 救荒作物の研究は、もう研究室であらかた済んでいた。僕の思いつく救荒作物といえば、レギューム・セックソバ(サラザン)サツマイモ(パタトゥ・ドゥース)ジャガイモ(ポム・ド・テール)。彼は栽培地での栽培条件なども調べた上で、一通り栽培に成功して論文にまとめていた。とはいえ、救荒作物の栽培なんて、古巣の「塔」に送っても評価されるようなものではなく、そして農業論文としては既存のものがある。彼の論文は、研究室の隅っこで埃を被っていた。


「土属性スキルの才能には、人それぞれ個性があります。ですから、まずは誰でも栽培出来る救荒作物の研究を、ご実家のクララック領に広めるところから始められては」


「君、僕の実家のことまで、よく知ってるね!」


「え、あ…これでも、商会の息子ですから」


 ははは。僕は愛想笑いをして誤魔化した。




 今回僕は、栽培よりも流通に力を入れるつもりだ。なので早速、先生に王都の懇意の商会からソバとサツマイモ、ジャガイモを入手してもらう。種としてではなく、作物として。


 そしてついでに米!米だ!僕にとっては、こっちがメインだと言っても過言ではない。


 前ループでも、先生を通じて米の入手には成功していたのだ。しかし、僕の伝え方が悪かったのか、彼は種籾、つまり「種子としてのコメ」を、一合分ほど手配してくれた。違う、そうじゃない。僕はモリモリ食べたかったのだ、夢の銀舎利を!


 その後、直接商会に連絡を取り、何度か米を送ってもらったが、生憎前世ロクに自炊して来なかった僕は、精米から土鍋でホカホカ炊飯までの技術は持ち合わせていなかった。おぼろげな知識に基づいて炊飯を繰り返し、家族に白い目で見られながら粥や焦げ飯を消費しつつ、やがて多忙に流されて、そのままになっていた。


 今ループこそ、モノにしたい。幸せな銀舎利生活!




 そしてカバネル研究室は、調理実習室となった。


「美味しいって分かってもらえたら、みんな喜んで作ってくれると思うんです」


 改めて、前世のうろ覚えの知識を駆使して、僕はまずスイートポテトを作る。これは前ループでも上手く行ったんだ。なんせ、サツマイモをふかして潰し、バターと砂糖を混ぜて整形して、卵黄を塗ってオーブンで焼くだけ。本当はもっとちゃんとしたレシピがあると思うんだけど、覚えてないんだから仕方ない。


「すごい。美味しいよ、アレクシ君!」


 お上品にナイフとフォークで口に運んだ先生の表情が、ぱっと明るくなる。前回もそう言っていた気がする。このレシピは砂糖とバターをふんだんに使うので、庶民には手の出しにくいものになるだろうが、まずは「サツマイモは美味しいもの」という印象付けが大事だ。これ、ナディアさんに丸パクリされたんだよな。


 次に焼き芋。ちょうど落ち葉の季節、辺りから掃いて掻き集め、焚き火にして芋を焼く。多分栽培地でも、これはやってると思うんだけど。


「どうしてだろう。オーブンで焼いたよりも、甘いんだね!」


 焼きたてをはふはふしながら、先生が感動している。なんか、遠赤外線とか弱火でじっくりとか、ネットで見た気がするけど、覚えていない。アウトドアクッキングという特別感もあるだろう。


「アレクシ君。僕は作物を作ることに一生懸命だったけど、その先に美味しく消費するということを忘れていたよ」


 先生は焚き火を見つめながら、しみじみと語る。


「現地での栽培方法はしっかり調べたつもりだったけど、食文化についてはおざなりだった。どう食べられているか、どう愛されているか。その先のこと、栽培した植物が人々にどんな幸せを運んで来るか。僕に欠けていたのは、その視点だったんだね」


 さすがは商人の視点だね、と言われて、僕は恐縮する。これは前ループのナディアさんの逆パクリだ。そもそもレシピだって全部前世からのパクリだし。しかし、そうやって自分に向けられる称賛をへどもどとかわしていると、彼にはそれが謙虚さに映ったようだ。




 王都から取り寄せた作物を、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら調理して、やがて冬休み。


「アレクシ君。君をクララック領に招待したいんだけど、どうかな」


 カバネル先生から、思わぬオファーを受けた。

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