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第2話 ループと混乱

本日2話目の投稿です。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 僕は混乱した。だけど、この感覚すら「知っていた」。


 そうだ。10月1日の朝に、僕は一旦混乱するんだ。だけど、「ああ今回もこうなった」って納得する。これが初めてじゃない。


 身支度を整え、食堂で朝食を摂る。今日は入学式だ。中等部の新入生たちがそわそわと門をくぐり、進級した僕たちは決められた持ち場で、彼らを講堂へ誘導する。僕は受付を済ませた彼らの胸元にリボンを付ける係だった。


「入学おめでとう。B組は中程の…」


 僕は知っている。彼は転ぶ。僕は隣の係に断って持ち場を離れ、彼を背後から追いかける。


「ちょっと君、余所よそ見をしたら」


 ガッシャン。


 しかし僕の注意も虚しく、彼は人を避け損ない、椅子にぶつかって転び、そして僕はその下敷きになった。


「うわ、すみません!」


 彼の言葉が上から響く。僕は馬鹿だ。トラブルを未然に防ごうとして、事を大きくしてしまった。




 気がついたら、保健室のベッドの上だった。


「君、大丈夫だったかい」


 もうすぐ婚約を控えている保健医。甘いマスクで女子に人気なヤツだ。腐女子が見たら泣いて喜びそうな…


 ———腐女子?


 その瞬間、僕の脳に洪水のような記憶が、どっと流れ込んで来た。割れそうな痛みに、咄嗟に頭を抱えて呻くと、彼は心配そうに覗き込んで来る。大丈夫だと言いたいが、脂汗が浮かんでそれどころではない。結局僕は、そのまま夕方まで寝込み、その後は寮室で安静にするように言い渡されて帰された。




 夜、例の新入生が、友人に連れられて寮室に見舞いに来た。


「僕のせいで、ごめんなさい!」


 彼は泣き腫らした顔で、ぺこりと頭を下げた。僕が上手くやらなかったばかりに、心痛を掛けてしまった。


「僕の方こそ」


 僕は気にしないように告げ、彼は付き添いと一緒に去っていった。軽食を置いて行ってくれたのは有り難い。結局僕は、朝から食事を摂り損ねていたから。


 僕が寝込んでいたのは、講堂で彼に巻き込まれて転んだからじゃない。その後、保健室で「色々思い出した」からだ。脳がその情報量に対応出来ず、つい今まで頭がガンガンしていた。そして今は、別の意味で頭がガンガンしている。今の僕には、記憶がある。この世界を繰り返し生きた記憶だけでなく、別の世界を生きた記憶まで。


 ループものだ。これは異世界ループものに違いない。


 しかし問題は、これは僕のループでは無いということ。ここは王都から遠く離れた、領立の質素な学園。在籍するのは平民ばかりで、貴族は別に王都の貴族学園に進学するのだ。卒業パーティーで断罪も起こらなければ、聖女が入学してハーレムが出来たりしない。悪役令嬢もピンク頭もいないのだ。


 つまり僕は、モブオブモブ。箸にも棒にも引っかからず、ただ世界のどこかで誰かが起こしているループ劇に巻き込まれているだけに過ぎない。ということは、このループから出る術もなければ、いつ終わるのか予測を立てる訳にも行かない。ただ、高等部二年生から卒業後一年、16歳から19歳までの3年間を、延々ループするのみだ。


 何てこった。




 しかし、その事に気付いて頭を抱えていた僕は、一つの結論に達した。


 悩んでいても仕方ない。ポジティブに捉えよう。逆にこれはチャンスなんだ。たった3年分とはいえ、僕には未来のイベントに対する知識がある。これらを上手く活用してアドバンテージにすれば、成績優秀どころか一財産を築くとか、新しい選択肢や突破口を開くことも夢ではない。何しろ、僕はこれまで「卒業したら実家の商家に就職する」としか考えていなかったが、日本人の前世を思い出した今、この世界には剣も魔法もあり、事によっては冒険者で成り上がったり、生産職で成り上がったり、僕の人生には無限の可能性とロマンが詰まっていることを知っている。


 これは、ひょっとするとひょっとする。


 このループはいつ終わるか分からない。3年後、またループに入るかもしれないし、入らないかもしれない。だけど、知識を引き継げるなら、ループはむしろアドバンテージにしかならない。


 俺、すげくね?めっちゃすげくね?!


 自分で言うのも何だが、そこそこ育ちの良い僕の脳裏に、めちゃくちゃ頭の悪いセリフがほとばしる。


 僕の異世界ループ生活が、めっちゃ始まった。

ループ、始まりました。

アレクシ君の今後にご期待ください。

↑お前の作品、そればっかな。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

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温かい応援、心から感謝いたします。

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