第19話 パワーレベリング(2)
今回も、読んでくださってありがとうございます。
土曜日、前回と同じく正門で待ち合わせ。カミーユ先輩は、家からお古の胸鎧を、カバネル先生は丈夫な革のブーツを履いて来た。やる気満々だ。
今回は、地下二階からスタートした。カバネル先生が散弾銃を使えるようになったので、二階では早々に物足りなくなり、三階へ降りる。そこでも危なげなく連携が取れることが分かったので、満を持して四階へ。
四階は、厄介なトンボが出る不人気の階層だ。だけど、散弾銃が使える土属性には、絶好の狩り場。先生が散弾銃を放ち、討ち漏らしは僕とカミーユ先輩が難なく撃破。ソロでも美味しい狩り場だけど、やはり三人だと安定感が違う。稼ぎは按分されるけど、パーティーっていいな。次もし巻き戻ることがあったら、早々にこの二人を誘って、最初からパーティーを組もう。
僕は早速目標のレベル11に上がり、石礫のスキルをレベル4に、念願のストーンブラストを習得した。このスキルを覚えたら、是非やってみたいことがあったんだけど、二人を巻き込んでいいものかどうか。攻略知識をシェアすることに幾分躊躇はあったが、この二人なら信用出来ると踏んで、計画を実行に移すことにした。
ギルドで購入したダンジョンマップ。そこに、大きくバツ印が付けられた一角。
「この部屋に入ったら、僕がまず初手を放ちます。お二人は、討ち漏らしをお願いします」
僕の背後で先生は詠唱を済ませ、カミーユ先輩は槍を構える。ドアを開けると、そこは講堂ほどの大きさのホール。ドアが自動的に締まり、暗闇の奥から夥しい羽音が聞こえて来る。「全部倒すまで出られない部屋」、モンスターハウスだ。
「ストーンブラスト!」
高速で飛来する無数のトンボに、これまた無数の石礫が炸裂して襲いかかる。ほとんどのトンボは一瞬でコインと羽に変わるが、礫を躱した4体が飛来。それらは先生と先輩が、危なげなく撃ち落とした。
足元に散らばるコインと羽。呆然とする彼らを尻目に、僕はいそいそと集め始めた。
「アレクシ君、今のは…」
「石礫のスキル、ストーンブラストです」
「いや、君、詠唱が」
「そう、詠唱について、先生にちょっとご相談があって」
よし。先生に詠唱破棄の研究を持ちかける流れ、掴みはオッケーだ。
「土属性のスキル、凄まじいね…」
「先輩もそろそろ、槍術の縮地が使えるようになっていると思いますよ」
「本当?!」
よし。先輩が新スキルを試し出した。モンスターハウス美味しい。僕はこれで、隣領の風ダンジョンで荒稼ぎしていたのだ。ウィングキラーの二つ名は、伊達じゃない。
その後僕らは、モンスターハウスの出入りを繰り返し、驚くほどの経験値を稼いだ。なお、いきなりこんな非常識な経験値稼ぎをすると目立ってしまうため、ひとまず羽は僕が預かり、少しずつギルドに提出することを提案した。二人はその案に同意し、このことは口外しないと約束してくれた。
モンスターハウスでのトンボのスポーンは、1回あたり36匹。9匹が4グループって感じだ。休憩と昼食を挟みつつ、合計18回。まだまだ回れるけど、コインとドロップの回収が地味に面倒臭い。ちょうど僕がレベル12に上がったところで、お開きにさせてもらった。
コインだけで、約20万ゴールド。ドロップ品も700個近く、全部売り捌くと7万ゴールドに達する。帰りにギルドでドロップ品の一部を納品し、冒険者実績を加えてもらって、一人6万ゴールドを山分けして解散。ドロップ品のほとんどとコインの端数は、僕が預かる。二人は、ほぼ僕が倒したからって報酬を遠慮していたけど、これから二人には色々巻き込まれてもらうので、先行投資だ。
パーティーメンバー、ゲットだぜ。
翌日、改めてカバネル先生と外出だ。その前に、
「君、昨日の詠唱の件だけど」
早速先生に、問題の詠唱破棄について繰り出された。しかしそれよりも。
「先生、そろそろ腐葉土が使えるようになっていませんか?」
ここは花壇。先生は、恐る恐るランドスケイプ腐葉土を繰り出した。すると、付近の土が見事、柔らかくフカフカの黒い土に変化した。よく見ると、ちゃんと落ち葉の残骸みたいなのも混じってる。ゲームの世界のふんわりとした「仕様」なんだろうけど、一体このスキル、どういう仕組みなんだろう。
先生はしばらく、腐葉土を手に取って感動していた。チョロい先生だ。しかし、ここでじっとしていても仕方ない。今日は先生改造計画だ。さあ、街へ繰り出そう。
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