第18話 農業研究会(4)
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その後。平日の放課後は農業研究会に顔を出し、水やりや先生の研究のお手伝い。前ループで記録をまとめて整理することはやっていたから、ひどく重宝がられた。もっと言うと、先生が色々条件を変えて育成実験をしていた、その結果も知ってるんだけどね。そこまで口は挟まない。しかし先生は、迷宮で自信が付き、スキルもちょっと進化して、俄然やる気だ。
「冒険者ってすごいね、アレクシ君!」
彼は貴族の師弟で、王都の貴族学園出身だ。貴族学園では、学内に専用の実習用初級ダンジョンを有しており、生徒は皆そこで最低限の実戦を学ぶという。
僕が冒険者レベル5に上がった時、「これでチュートリアルクリアです。インベントリ機能が開放されました」というメッセージが出た。ということは、王都の貴族学園では、およそレベル5に上がる程度の実習が行われると思われる。僕のこのループを起こしているのが、貴族学園の生徒だと仮定するなら、だけど。
カバネル先生によると、彼の習得スキルはランドスケイプと石礫。そのうち、ランドスケイプはレベル2の砂地までが使えるらしい。そして先日のダンジョンアタックで、途中から石礫Lv2、散弾銃が使えるようになった。冒険者レベルが6に上がったのだろう。
名前 クレマン・カバネル
レベル 5
スキル
+ランドスケイプLv2
+石礫Lv1
スキルポイント 残り 10
これが
名前 クレマン・カバネル
レベル 6
スキル
+ランドスケイプLv2
+石礫Lv2
スキルポイント 残り 0
こうなったわけだ。
ということは、あと冒険者レベルを3上げればランドスケイプがLv3に、いよいよ腐葉土が取得できる。土魔法を農業に活かすなら、最低腐葉土くらいは作れないと駄目だろう。先生もそれは分かっている。これまで、スキルが伸び悩んでいるのは、単に才能が不足しているからだと思っていたようだけど、ダンジョンの途中で石礫のレベル2、散弾銃が使えるようになって、これは行けると手応えを掴んだらしい。彼は早くも、次の土曜日のことで気もそぞろだ。
しかし彼には、まだやってもらわないといけないことがある。そう、詠唱破棄に無詠唱のあの研究だ。いや、別に研究なんてしなくていいし、広まらなくてもいいんだが、前回のループでの二人三脚での実験と研究、そしてそれをまんまと「塔」の魔導士に奪われた虚しさ。お人好しのカバネル先生を出世させてあげたいという気持ちもあるけど、どっちかっていうと、顔も見たことのないあいつに一泡吹かせてやりたい。今度こそ、上手くやらなければならない。
僕が考えているのは、この研究を、もっと多くの者を巻き込んで行うということだ。カバネル先生を中心に据えた上で、周りの教職員にもいっちょ噛ませてやる代わりに、研究の証人になってもらう。なんせこの詠唱破棄に無詠唱、前回のループでは「魔導の常識を揺るがす大発見」と言われ、件の魔導士は大々的に持て囃されたものだ。非常に気に喰わない。
しかし一方のカバネル先生、彼もちょっとお人好しが過ぎる。
学園の教師のみならず、この国の知識階級は、ほとんどが爵位を継げずに平民落ちした貴族の子弟だ。そして、彼らの気質は大きく二分する。半分は、政略結婚、もしくは何らかの功績で爵位を得て、貴族に返り咲こうという野心家。もう半分は、平民として堅実につましく生きていこうという草食系。カバネル先生は、典型的な後者である。独身用官舎に住み、髪はボサボサ、いつもヨレヨレの白衣を着て、まだ20代半ばの青年だというのに、既に枯れた感まで漂わせている。
これではいけない。舐められる。前回、B級冒険者のディオンに教えてもらった。冒険者は見た目が大事。それは教師もそうだ。僕だって単なる一学生だけど、見た目を整えただけで、周囲の態度が明らかに変わった。ギルドの受付嬢もそうだし、級友からの扱いもそうだ。前世の言葉を借りれば、スクールカーストの立ち位置が変わったとでも言うべきか。
以前は僕の背中を無遠慮にバンバン叩いていたブリュノがすっかり大人しくなり、かつての仲間たちはみんな、僕を遠巻きに見ている。一方で、前ループまでは冷たい視線を投げよこすだけの高飛車なお嬢様たちが、僕に馴れ馴れしく話しかけて来るようになった。前ループまでは「可愛いな」とか「お近付きになりたいな」なんて思うこともあったけど、こうも態度を翻えされると、ちょっと腰が引ける。結果、今ループの僕はぼっち気味だ。放課後はこうして研究会に入り浸りだから、特に問題ないけども。
僕は土曜日に続き、日曜日も先生との約束を取り付けた。先生は、実験作物の世話と記録が終わった後ならと了承してくれた。週末を過ごす彼女もいないのか、と思わなくもないが、それは僕だって同じだ。「塔」の魔導士が華々しく脚光を浴びる中、落胆しながら冷や飯を喰らい続けた先生には、今ループこそ是非活躍してもらわねば。そのためには、まず外見からだ。
まるでステージママのようだと思いながら、僕は俄然燃えた。
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