第16話 農業研究会(3)
今回も、読んでくださってありがとうございます。
放課後。今ループでも、農業研究会に入会だ。
「お久しぶりです、先生」
つい前回の癖で馴れ馴れしく挨拶してしまって、先生の愛想笑いが一瞬固まった。いや、僕としては二年間お世話になって、卒業して冒険者で一年、からの再会のイメージだったから。ごめん先生。
この研究室で見つけた土属性の魔導書は「ロックウォール」「石礫」「ランドスケイプ」「ゴーレム作成」「鋭敏」。そのうち前回僕が取得したのが、前の3つだ。鋭敏は、武器に鋭敏さを付加するエンチャント。ぶっちゃけ興味ない。そしてゴーレム作成については、前回同様「今は取得できません」って弾かれた。何がダメなんだろう。
僕は今回、この研究室には土属性のスキルを取りに来たと、正直に先生に告白した。先生はいいよいいよって笑ってくれたが、それならそもそも研究会じゃなく、普通に土魔法の授業を取れば良かったかもしれない。まあ、こっちの方がほぼマンツーマンで質問が出来るし、前回の経験もあるから、彼の研究の手伝いも出来る。
さて、肝心のゴーレム作成の習得についてだが、これははっきり言って、どうやって習得するのかよく分かっていないそうだ。
「約百年前、「塔」の中に習得できた魔導士がいたらしいんだけど」
土や岩に擬似生命を吹き込み、思うがままに操ることの出来る土属性究極のスキル。だが、習得できる逸材は極めて稀で、歴代宮廷魔導士でも数名、最も最近でも百年前。不人気で肩身の狭い土魔導士には、いつか習得したい夢のスキルなのだそうだ。取得条件が明らかになるチャンスは来るだろうか。
ともあれ、先生とは前回、詠唱の省略や破棄、無詠唱について研究を重ねた仲だ。研究結果については「塔」の魔導士にまんまとパクられてしまったが、今ループでは上手く立ち回りたい。いや、別に僕は学者を目指したいわけでもなければ、先生が研究者として名を上げようが上げまいが知ったことではないんだけど。彼の放っておけない人の好さと、「塔」の魔導士のいけ好かなさ、そして不遇の土属性の汚名返上。ちょっとくらいは、手助けしてもいいだろう。
とはいえ、いきなり「魔法スキルって詠唱破棄が出来るんですよ」などと切り出すわけには行かない。怪しさ満点だ。自然とそういう話題に持っていくには、どうしたらいいだろうか。また、彼は土属性スキルを農業に活かす研究を進めているが、そのためにはランドスケイプのスキルレベルを上げる必要がある。研究室に籠もって、花壇にちまちま水やりしているだけではダメだ。いずれにせよ、彼もダンジョンに連れ出す必要がある。
槍術クラスのメンバーといい、カバネル先生といい、なぜかダンジョンへ引率する流れになっている気がする。僕が前回冒険者をやっていたから、そういう解決策しか思い浮かばないのかも知れない。だけど、この世界は剣と魔法の世界。レベルを上げて解決出来るんなら、素直に上げればいいじゃないか。
そういうわけで、ダンジョン実習の許可を得るために、僕は学生課と掛け合った。引率者にはカバネル先生を指名し、押しに弱い先生を強引に巻き込み、土属性の生徒に対する課外授業という位置付けで。しかし実際声を掛けるのは、槍術クラスの生徒である。特にカミーユ先輩の野外学習が迫っている。彼はこのままだと大怪我を負ってしまう。のんびりしていられない。
学生課からは、消極的な許可をもぎ取った。学園が率先して許可は出来ないが、常識の範囲において課外で教師や生徒が交流を深めても、何ら咎めるものではない、とのことだ。そもそも、ダンジョンで小遣い稼ぎをする生徒だって居なくはないし、皆一々許可なんて取らない。学園が禁止するものではないという言質を取っただけで、十分だ。
槍術クラスの全員を連れ出すのは難しい。槍術選択者は中等部と高等部、併せて30名ほど。とりあえず、喫緊で育成しないといけないのはカミーユ先輩だけ。ひとまずカバネル先生とカミーユ先輩の二人を、土属性スキルと槍術の実験という、なんとも無理やりな理由をこじつけて、ダンジョンに誘い出すことに成功した。
ネズミとトンボを狩った次の土曜日、学園の正門で待ち合わせ、冒険者ギルドに向かう。カバネル先生は、王都の貴族学園時代に使っていたローブと杖を引っ張り出して。カミーユ先輩は、自前の槍を持参。彼の父親は、この領を治める伯爵家の傍系で、平民ながら領軍の槍術の師範なのだそうだ。何だ、お父上はジョリオ先生の完全上位互換じゃないか。
ギルドでは、カミーユ先輩の冒険者証の作成と、カバネル先生の資格更新。そして3人で臨時パーティーの登録だ。パーティー名は暫定で「農業研究会」とした。
「何で僕が」って顔してるカバネル先生と、初めてのダンジョンでワクワクしているカミーユ先輩。危険な目に遭わせるつもりはない。さあ、楽しんで行こう。まずはピルバグからだ。
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